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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 幕間

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閑話 ネルの冒険 3

 一人きりに戻ってしまったネルだが、彼女は迷宮から持ち帰った武具などを処分して金に替えた。
 仲間の武具には高級品もあったため、かなり纏まった金になった。
 ラビウスのメンバーの魔石をそれぞれの故郷に埋めてやろうと思い、軍資金にしたのだ。
 中にはリーダーの戦闘奴隷など出身地を聞いていないメンバーも居たが、それらは纏めてリーダーの故郷の土に埋めてやるつもりでいた。



・・・・・・・・・



 昨晩、道に迷ったあげく、森の中で野営する羽目になったのはネルにとって痛恨事であった。
 火を絶やさないように焚き火の面倒を見ているうちに、ついウトウトと船を漕いでしまった。
 尤もその原因は一日歩きづめで体力を消耗していたからに他ならないのであるが、それにしても随分と抜けた話だ。

 三秒間だけ加速出来ることに気が付いたネルは慢心していたのだ。
 ベンケリシュの街からここまで旅をして来る間にも数度にわたって魔物の襲撃があったのだが、その全てを【時計タイムロード】の固有技能を使って切り抜けていた。
 純粋な白兵戦技は人並み程度でも三倍速で動けるのであれば、その戦闘力は武芸の達人をすら楽に凌駕する。

 相手が複数でも私は大丈夫だわ。
 何しろ一流冒険者だし。

 その自己評価自体はそう間違ったものでもない。
 実際に一対一や多少の劣勢なら造作もなく覆して来たのだ。
 それに、ベンケリシュの迷宮でも上位のパーティーで魔法使い(ブラスト・バック)をやっていたという経験に裏打ちされた自信もあった。

 確かに戦闘力だけ見れば一流冒険者と名乗ってもそう不足はない。

 しかし、それも全て体の自由が利いてこそだ。

 ウトウトしていたところに忍び寄られ、一気に複数で襲われたら幾ら三倍速で動けようがそれに大した意味は無い。
 押さえつけられると同時に指の骨を何本も折られ、魔法への精神集中すらままならないまま大の字にされてしまった。
 正面の男は声を立てないようにするためか、大きな手でネルの口を塞いだ。
 小柄な彼女だと鼻と口まで塞がれてしまい、呼吸も碌に出来ない。

「叫び声を上げたきゃ幾らでも上げろよ。どうせ傍には誰も居やしねえ」

 ネルにのしかかっていた男はニヤリと下卑た笑みを貼り付かせて言う。
 ネルは涙をためた瞳のまま震えるように何度も頷く。
 それをどう取ったのか、男は鼻と口を塞いでいた汚い手を外した。
 ネルの顔が空気を求めて苦しそうになっていたこともその一因であったが、その言葉の通り誰も通りそうにない時間帯であったことも確かである。
 ネルに覆い被さった男はネルと同様に矮人族ノームであるらしい。
 小柄な体躯もそうだが、その両手の指は四本ずつであることがノームであると物語っている。

 そして、一気にネルの下半身を包む衣類を切り裂いた。

 ネルの下半身が顕になり、裂かれた服の隙間からその肌を見た男達は歓声を上げる。

 もう余裕はない!
 折られた指が痛くて魔法も使えない!
 固有技能だけでこの場を凌ぐには……!

 連続で【時計】の技能を使いながら三倍速で考える。

「痛いから離して。どうせもう魔法も使えないわ……それに、どうせなら楽しみましょうよ」

 痛みを堪えつつも必死で妖艶そうな表情を作って言うネル。

「へへっ、そうこなくっちゃよ……」

 ノームの男は左右でネルの両腕を地に押さえつけている二人に向かって頷く。
 頬にまで生えている強い無精髭は金髪で色艶も良く、消えかけた焚き火の残り火を反射して煌めいた。

 下卑た笑みを貼り付かせながら自らのズボンのベルトを緩め始める男。

「ねぇ、みんなの名前を呼びながらしてあげる。ステータスオープン……ステータスオープン……」

 両手を押さえている精人族エルフ犬人族ドッグワーのステータスを確認するネル。

「へっへ。乙な事を言うじゃねぇか……この好き者が……離してやれ。おっと、武器はしっかり確認しろよ」

 ズボンを下ろし、引き起こしたネルの顎に手をかけて上を向かせるノームの男。
 腰の後ろのナイフはエルフによって引き抜かれてぽいっと放り投げられてしまう。

「ふふっ、ステータスオープン」

 全員のステータスを確認するネル。
 運良く魔法の特殊技能を持っている者はいない。
 そして、即座に固有技能を使用。
 固有技能のためにどうしても相手のステータスを確認し、本名を知る必要があったのだ。
 まず、目の前で汚いモノを見せつけている男。
 ジョンソン・ルーカスか。

 【時計タイムロード】の固有技能を使用。
 アラームをジョンソン・ルーカスに対し五秒後に設定。
 継続時間は最大の五分間。
 アラーム音は……昔見た映画で聞いたゴジラの鳴き声、それと恐竜のような巨大な生き物が立てる大きな足音。
 当然最大音量!

 次は右のドッグワー、ハミル・エスター。
 三秒後にアラームを設定。
 そして左のエルフ、カークリッド・イミステロン。
 一秒後にアラームを設定。

 最後に三倍速!

「「うわぁっ!」」

 三人の男達はものすごく驚いたような大声を上げた。
 いきなり両耳の傍で聞いたことのないような怪物の叫び声が大音声で鳴り響いたのだ。
 同時にズンズンという何か巨大な生物が駆け寄って来るような地響きに似た音。

「なんだ!?」
「魔物かっ!?」

 慌てふためいて下ろし始めたズボンを引き上げ辺りをキョロキョロと見回す男達。
 当然ネルはその隙を見逃すことなく行動に移る。
 渾身の力でその場から転がり、焚き火の燃えさしを掴む。

 折れた指からズキン、と強烈な痛みが全身を駆け巡る。

 あまりの激痛に目の前が真っ赤になったような気さえした。
 だが、今は指の痛みについては気にしている余裕はない。
 そのまま転がり続け、急いで立ち上がる。

 再度三倍速を使用。

「いやぁぁぁぁっ!」

 指から伝わる痛みを振り切るかのように大声を上げながら男達に突進!
 その速度はまるで稲妻と見まごうかのように疾い!
 こちらに気がついて身構えようとするドッグワーをまず倒す!

 ずぶっ!

 ドッグワーの右目に思い切り燃えさしを突き入れる。
 ズキンッ!
 その衝撃でまたも痛みがネルの全身を駆け巡った。

「うぐっ!」
「ぐあああっ!!」

 思わず苦痛の声を漏らすネルと絶叫するドッグワー。
 ずぼっと燃えさしを引き抜く。
 燃えさしの先はじゅう~っという音を立てて白煙を上げている。

 腕を上げてガードしつつ、ネルの攻撃を避けようと動き出すエルフ。

 するすると蛇のような動きでエルフが上げた両腕の隙間から伸びる燃えさし。
 先端はドッグワーの血に塗れつつも未だ赤熱化したままだ。
 ネルの目標はエルフの特徴的なアーモンド形をした瞳。

「うごああぁぁっ!」

 絶叫を上げて転がるエルフ。
 またもや三倍速を延長。

「こいつっ!」

  恐ろしいほどの速度であっという間に二人の仲間を地に転がしたネルにジョンソンは本能的な恐れを抱きながらナイフを抜く。
 腰のナイフを抜く速度は熟練の冴えを見せたが、ネルにとってはナイフに不慣れな子供の抜く速さと大して違いはない。

 だが、ネルの突き出す燃えさしを二回も防げたのは純粋にジョンソンの技倆のなせる技だ。

 しかし、それにも限界はある。
 女が放った二回目の突きを防いだところ、恐ろしい速度で横に回られ膝の後ろに蹴りを貰う。
 ガクンと膝の力が抜け、よろめいた。

「ぃやあぁっ!」

 さっき話した声より数段高く、短い奇声を放ちながら燃えさしを突き込んで来るノームの女。
 体勢を崩したジョンソンは必死になって必殺の攻撃を躱そうと身を捩る。
 燃えさしはジョンソンの頬に当たった。

「ぎゃっ!」

 まだ充分に熱を蓄えた燃えさしがジョンソンの頬をそこに生えた無精髭ごと焦がす。
 ジョンソンは女が突きを放ち、防御が薄くなる隙を見逃さなかった。
 右手に掴んだナイフで女を抱きしめるように背中から突き刺してやる!

 だが、彼には到底理解出来ない超速度で燃えさしは引き戻され、その眼窩に突き込まれてしまう。
 折れた薬指と小指(ノームに中指は無い)が燃えさしを握る拳から飛び出していた。

 燃えさしを男の眼窩に突き立てたまま、ネルは再び三倍速を延長してズキズキと痛む手で自らの槍に飛びつく。

 ネルは血の噴き出す顔面を押さえて転げまわる男達を憎々しげに見ると、痛む指を庇いながらも順々に突き殺した。

 男達の死亡を確認後、その場にへたり込んだ。
 指を折られた手は心臓が鼓動を打つ度に激烈な痛みを訴えてくる。

「痛い……治さないと……」

 キュアーの魔術を使うべく必死に精神を集中し、魔力を練り始める。
 だが、指の痛みに加えて体中が軋むように痛む上、疲労した体が強く休息を訴えてくる。
 三倍速を連続で使うといつもこうだ。
 暫くは骨折の痛みを我慢したまま休むしかないだろう。

 だるい体に鞭打って先ほど放り捨てられたナイフをどうにか探して回収したとき、ネルは折られた指や手がグローブのように腫れ上がっているのを見て溜息をつく。

 痛みを逃れるため、そして疲労を抜くためにもいっその事眠ってしまいたい。

 だが、どう頑張っても眠れそうにはない。
 痛みもそうだが、今さっき暴漢に襲われてそれを殺したという興奮が彼女を寝かせてくれなかった。 

 夜が明けた頃、やっと治癒魔術の精神集中を始める。
 小一時間かけてようやく骨折を一つ治癒出来た。
 携帯食料を頬張り空腹を満たした後、精神集中を続ける。

 なお、ネル自身、未だに気付いていなかったが暴漢達に“名無し”が居なかったことは幸運であった。



・・・・・・・・・



 更に半年以上が経過した頃。
 ネルは二十歳になっていた。

 つい一週間ほど前、ラビウスのメンバー全ての出身地を周り終わった。
 今は一度故郷に戻ろうと帰途についているところである。

 金はまだたっぷりとある。
 全部で五百万Zに少し足りない程度だが、これだけあればどこかで治癒師をやるにも充分だ。
 大きな街の目抜き通り沿いなどは望むべくもないが、どこかの裏道になら中古の家くらいは購入出来るだろう。

 どこで開業しようか。

 今までに通ったり、滞在した経験のある街や村を思い浮かべながらてくてくと街道を歩いていた。

 この辺りはデーバス王国の西部、つまりダート平原の南部に広がる小領地の一つだ。
 カームラウシュ伯爵領というのが正式な名前である。
 街道が延びる先の村はナーミン村で、その領主はボフィットという士爵だと聞いている。
 ロンベルト王国との紛争地帯である便宜上の国境線、ラヘール川からはかなり南に離れているから、その戦禍がナーミン村まで及ぶことはない。
 それくらいはネルも聞いていたので帰り道に選んだのだ。

 夕方前にナーミン村に到着したネルはまず村の中心部であると思われる少し栄えた場所へ向かった。
 このナーミン村の人口は千人を超え、村としてはかなり大きな部類なので宿屋くらいあるだろうと思ってのことである。

 一晩の宿を求めて道行く人へその場所を訊いた。

「あの、すみません。宿はどちらでしょう?」

「ん?」

 ネルに道を訊かれた男はしげしげとネルの顔を見つめたが、特別なことは言わず宿の場所を教えてくれた。

 宿に投宿して二時間ほど。

 購入したお湯で体を拭き、さっぱりとしたところで持ち込んだ干し肉を齧っていた時。

 コンコン。

 扉をノックする音がする。
 返事をするとさっき話した宿の主人の声がした。
 来客らしい。

 この村に知り合いなど心当たりのないネルは、用心のために左手で腰の後ろに抜身のナイフを隠し持ちながら扉を開ける。
 過去、暴漢に襲われてからというもの、用心を怠る真似はしなくなった。
 と言うより、怖くて出来なくなったと言った方が正しい。

 扉を開けると宿の主人の他に武装した領主の従士らしき男が二人、面倒臭そうな顔で立っていた。

 二人の男はネルの顔を見ると互いに頷く。

「ああ、君。折角休んでいるところ申し訳ないが、ちと訪ねたいことがある。誕生日はいつだね?」

「え? なんで……?」

 いきなり訪ねて来て誕生日を訊かれるとは思いもよらなかったネルは意外そうな声を出す。

「うむ。不思議に思うのも無理はないが、是非答えて欲しい。ああ、別に無理難題をふっかけようとか、そういうつもりはないから……すまんな。これも御役目なんだ」

「……どうぞ」

 ネルは右手を差し出す。
 口で言うよりステータスを見て貰った方が早いと思ったのだ。

「じゃあ失礼して、ステータスオープン……む! おい、合ってる!」

 ネルのステータスを確認した従士は相方の従士に向かって頷いた。

「どら、念のため。ステータスオープン……へぇ、居るもんだな」

 互いに頷き合った従士はちんぷんかんぷんな顔をしているネルに話を始めた。
 なんでも国の王太子殿下からのお触れに関係があるそうだ。
 黒髪黒目、そして誕生日が7428年2月14日である者。
 且つ、ヒント無しで何らかの質問に答えられた者を王太子殿下の親衛隊員として徴集するとのことらしい。

 ネルには一体何の事なのかさっぱり解らなかった。
 しかし、それは従士達も同じで彼らも良く解ってはいないようだ。

「とにかく、誕生日が合致しているのであれば……ご領主のボフィット士爵閣下がお呼びなんだ。すまないが領主の館まで来て貰えないだろうか」

 別に害意がある訳でもないようだ。
 この村を治める貴族が会いたい、会って何やら質問したいと言う。
 質問に答えられれば王太子殿下の親衛隊員。

 何ともうさんくさい。

 が、貴族の呼び出しを無視する勇気もない。
 仕方ないので身支度のために少し待っていて貰う。
 念のために現金を収めた財布だけは肌身離さず持っておきたかった。

 従士達に連れられて領主の館とやらに到着するまでの間、ネルはどういう事なのだろうかと考えを巡らせたが何も思い浮かばなかった。

 しかし、領主の館でボフィット士爵に提示された図形を見た瞬間に悟る。

 何か変だ。
 妙だ。
 何故日本地図が……?

 驚きを顔に表さないよう苦労して表情を保つ。

「え? これ……こんな簡単な質問で良いんですか?」

 普人族ヒュームで背の高いボフィット士爵を見上げてネルが質問に質問で答えた。

「ほう? これが何だか解るのかね!?」

 士爵は少し興奮したように身を乗り出す。
 その勢いに気圧されたように、僅かに身を引きながらネルは答える。

「四角、三角、四角、四角です。……うーん、正方形と直角三角形に長方形が二つ、とも言えますね」

 ネルの答えを聞いた士爵はあからさまに落胆したような顔つきをする。

「流石に二人目、という訳には行かんか……いや……君、ノブフォム君。他の言い方は知らんかね?」

「二人目? 他の言い方?」

 また質問に質問で返したネルだったが、ボフィット士爵はネルの失礼な言葉を咎めるよう事はせずに答えてくれた。

「うむ。つい先日、王太子殿下の親衛隊員の資格ありとして我がナーミン村から一人の若者を送り出したばかりだったものでね。だが、答えられないのであれば仕方がない。わざわざ呼び立てて済まなかったな。もう下がって宜しい」

「え? これだけですか?」

「そうだ。これだけの事だが正解を答えられない君には関係がない。ああ、正解を教えることは出来ぬ。他の街や村で答えられてもまずいからな」

 そう言われてはネルとしてもどうしようもない。
 おとなしく引き下がる他は無かった。

 だが、一つ面白い情報を得ることが出来た。

 この世界(オース)に日本人が?
 どういう訳か未だに忘れることのない大昔の、生まれた直後の経験が思い浮かぶ。

 事故の犠牲者。
 生まれ変わり。

 薄々は信じていたが、あまりに突拍子もない話の為にとても頭から信じることなど出来なかった。
 だが……。

 このナーミン村から既に一人、条件が適って送り出している?

 そう言えばまだ王都であるランドグリーズには行ったことは無かった。

 故郷に戻るのは後回しだ。

 そうだ王都、行こう。

 
このところ忙しくて折角誤字などをご指摘頂いているにもかかわらず、未だに修正出来ておりません。
明日にはなんとか修正したいと思います。
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