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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第三十六話 新たな影

 夜になったが何とか無事にバークッド村に帰還できた。相当量の獲物を獲って帰れたので皆の表情は明るかった。数時間前まで死ぬ思いをしていたのにまったく現金なことだ。明るい雰囲気のおかげで俺も帰りの道中にすっかり気持ちに整理をつけられた。いろいろと考えさせられたが、それはまあ、今後の課題になるだけで、今の時点で心配することじゃないしな。

 帰る頃にはすっかり暗くなっていたので心配して捜索隊が組まれる寸前だったようだ。通常なら捜索隊を出すなど大掛かりなことは行われない。夜は危険だし、万が一魔物にやられていたのであれば二次災害で捜索隊にも被害が出かねないからだ。今回は俺とミルーという領主の子供たちが含まれていたので特別に捜索隊の組織となるとこだったようだ。

 連絡手段があるわけでもなく、ホーンドベアーを二匹も相手取り、大人二人が恐慌を来たしたにも関わらず全員が無傷であったこともあり、叱られることはなかった。襲われた場所も恒常的に狩りを行っている場所であったので、こちらから危険に飛び込んだわけでもないからこれで叱られたら気分も良くないだろう。そもそも俺達姉弟以外は立派な大人なのだし。ケリーはまだ成人の年齢ではないが、寸前の14だしな。大人にカウントしてもまぁいいんじゃないか?

 両親もミルーと俺の魔法の力は知っているので、実はあまり心配はしていなかったようだが、ホーンドベアーを二匹という大戦果には吃驚していたようだ。その夜、俺達は両親からホーンドベアーの恐ろしさを改めて聞かされた。やはりあの咆吼はかなり危険な代物であるのは有名らしいが、普通はそうそう吼えることもないそうで、両親も昔戦った時には聞いたことはないらしい。何だよそれ、俺達無茶苦茶運が悪かったのかよ。



・・・・・・・・・



 翌日のミュンの結婚の宴会は参加者も多く、派手に行われた。ダングルも蓄えをかなり放出したのだろう、料理や酒類が豪勢に振舞われた。ホーンドベアーの腹肉や横隔膜と肝臓もかなり好評だった。俺も食ってみたが、確かに美味かった。うん、ブランド牛とは違うけれど、別方向の旨さだな。美味いというより旨いのほうがしっくりくる。

 結婚式の宴会は滞りなく進行し、夕方にはお開きとなった。ミュンは最後に俺のところに来て、ひとしきり感謝の言葉を述べると幸せそうに微笑んだ。うん、幸せになってくれればいいんだ。ボッシュと一緒になって元気な子供でも沢山産んでくれ。



・・・・・・・・・



 そして2年が経過しようとしていた。俺は10歳になり、レベルももう一つ上がって7になっていた。MPは7000を超え、ついに成長が止まった。あれから何度も夜の狩りに行っているが、あの時のホーンドベアー程危険な魔物には出会っていない。一人だし、安全を優先して確実な狩場だけで狩りをしていたせいもあるだろう。死体は全て火魔法を使って焼いて処分をしている。

 農耕馬は八頭にまで増え、開墾だけでなく、通常の農耕にも充分に役立っている。また、ゴムノキについても新しい開墾地を中心に200本程増加しているうえ、更に増殖に力を注いでいる。これらの新しい木のうち最初に増やした100本程度はあと2~3年も経てば樹液が採取できるようになるだろう。ゴム製品の改良はゆっくりだが引き続いて行っている。最近は俺だけでなくテイラー、ミュン、エンベルト、ダイアンもいろいろ考えているようで、いろいろと新製品も増えている。

 サンダルやブーツ、クッションの改良は言うまでもなく、プロテクターもより使いやすく、デザイン性も上がっている。また、少量ながらゴムボートや浮き輪、バンド、輪ゴムなども開発され生産されている。傑作なのがコンドームを作るときと同じようにして作ったゴム風船だ。ちょっと余ったラテックスで作れるし、子供たちのおもちゃにでもなればいいくらいに思って気軽に作ったのだが、誰が最初に作ったのかは知らないが、その中に羊羹を入れた奴がいた。羊羹と言っても一般に日本で言われているものとは違っており、村で作られているのは農作物の豆を元にして作ったずんだ餡を水で伸ばして寒天で固めた羊羹のようなお菓子だ。俺に言わせると大して美味くは無いけれど、羊羹以外に呼びようはない。村ではヨーモと言われているが、俺は羊羹と言っている。それを小さな風船に詰めた物は爪楊枝などで風船に穴を開けるとつるんと出てきて面白い食べ物になる。と言うか玉羊羹そのものだけどな。これは王都まで輸出されて非常にいい金になっているようだ。

 特に大きな発明は俺ではなくダイアンが作った。ゴムのシートを作る際に手違いか不注意か何かで飲みかけの炭酸水でラテックスを溶いてしまったことから作られたスポンジというか発泡ウレタンというか、気泡を沢山含んだゴムが出来た。勿論スポンジや発泡ウレタンとは比べ物にならないが、俺はこれを元に自然に湧き出ている薄い炭酸水ではなく、魔法で人工的な炭酸水を作り出し、気泡を増やすことに成功した。おかげで単なる生ゴムなどのシートよりも余程対衝撃性に優れたものが出来た。

 今ではプロテクターの内側やサンダルやブーツのソールにも利用されている。なお、ウレタンは合成物質なので存在しないと思うが、スポンジは海で海綿を取ってくればいくらでも作れるので別に珍しくはない。天然スポンジは体や食器を洗うのに一般的に使われているので流通もしている。クッション類は空気と一緒にこの天然スポンジを中に入れることでより良いものになっている。

 因みにこの人工的な炭酸水を作るのは発想の転換が必要であり、出来た時には俺は魔法への考え方が大きく変わることになった。もともと炭酸水は水に炭酸ガスである二酸化炭素を飽和させることによって簡単に作れる。前世にソーダサイフォンを買って炭酸水を作っていたのでよく知っていたはずなのだが、思い出さなかった。

 以前に魔法はイメージが重要だと語ったことがあるが、まさにその通りだった。元素魔法を単体で使うと、使った元素魔法のレベルに応じた量の元素が生み出される。俺は今までこれで土や水を出していた。その後無魔法なり火魔法や風魔法と組み合わせて使っていた。一般的にはこれで全く問題がない。しかし、あらかじめ水魔法と火魔法を同時に使う例があったではないか。そう、お湯を出したり氷を出したりしていた。これも充分一般的な使い方の範疇だ。だが、実はこれは同時に使っているのではない。お湯ならば最初に水を出し、わずかな時間差で出した火を使い水を火魔法で温めているのだ。勿論氷も同様だ。それからまたわずかな時間差で無魔法を使い整形したり持続させたり飛ばしたりしていた。

 今まで完全に同時に別の魔法を使うことなど考えもしなかったし取り組むこともなかった。それで充分だったからだし、別に困ることもなかった。勿論シャルもそう教えてくれたから、というのも大きい。シャルは「わずかな時間差で」などと言わず「一緒に使う」と言っていたのだが、結果は同じだったし問題も無かったのでそもそも「完全に同時に別の魔法が使える」などと考える必要もなかった。俺がこんなことを考えたのは炭酸水を上手く作れなかったからだ。勿論、今までのように水を出してそのあとに風魔法で空気を出し、無魔法で二酸化炭素だけ選別してそれを水に溶かしてやればいい、と考えて実行した結果、どう頑張っても出来なかったことがもう一度俺に魔法を根本から考えさせるきっかけになった。

 なぜ出来ないのか。それは水を密閉容器に入れてその中に炭酸ガスを入れることが出来ず飽和させられないからだ。密閉容器自体はガラス瓶とゴム栓を使えば作れるから問題ない。その中に水を作ることも問題ない。栓をした空の瓶の中に水を作り出し、いっぱいに近くしても気圧で栓が飛ぶようなことはない。瓶の中の空気は発生させた水の分の体積だけどこかに行っているらしい。原理も不明だがそこは魔法なのでしょうがない。空気を水に転換していると考えるしかない。多分土を出すときもその分の空間を占めている空気が土に転換されているのだろう。空気という、液体や個体とは比べ物にならない希薄な物体が液体や個体に転換されるなら体積は何千分の一とか何万分の一にならないとおかしいが、空気の分子を同じ分子量で転換しているわけではないのだろうからそこは考えるだけ無駄なんだろう。

 しかし風魔法で生み出した空気についてはいささか異なるようだ。風魔法によって生み出された空気は明らかに圧縮された状態で発生している。そうでなければ気圧差が発生せず、風魔法を使っても風が吹き荒れたりするはずはない。

 まぁ風魔法の体積のことは今は置いておこう。つまり炭酸水を作るには水魔法で水を出すと『同時に』風魔法で空気を出し、無魔法で二酸化炭素だけ選別し、それを水に溶かす必要がある。尤も、きちんとした設備があれば別々に使っても良いのだろうが……。炭酸水を作るためだけに設備を作るのは時間をかければ出来るかも知れないが、それにかかるコストを考えるとアホらしくなるので魔法で何とかしたい、というわけだ。

 最終的に何らかの設備なり道具なりは必要だろうが、今はとにかく『完全に同時に』魔法が使えるかを確かめたい。これが出来ればいろいろなことが大きく効率化される。例えば鉄を作る場合など、今までは土を出して選別し、そのあと余計な土を消していた。これができるなら最初から鉄しか出さずに済む。勿論選別の魔法を工夫すれば魔法で作り出した土から欲しい成分だけを別々に選別しつつ対象の成分だけを直接手の中に出すことも可能になる。それに、戦闘の時などはいきなり氷漬けに出来る。こう考えたわけだ。

 一生懸命水魔法と風魔法、無魔法を同時に使おうと頑張ってみる。同時に複数の魔法へ集中しなければいけないだろうからそう簡単には行くまい。俺は同時に魔法が使えるようになるために考えつくことを全てやってみた。慣れの問題かとも思い、右手で絵を描き、左手で字を書くことや、しまいには右手で膝をさすり、左手で膝を叩く、瞬間的に右手と左手の動作を入れ替える、など、かなりアホくさい訓練までやってみた。しかし、どう頑張っても出来なかった。

 あるとき、村の道に放置されてベンチ代わりになっている丸太に腰掛けながらいつものようにアホなことをやっている俺にたまたま通りかかったシャルが声を掛けてきた。

「アル、あなた一体なにをやっているの?」

 馬鹿なことをしている俺を訝しんだような声音だ。無理もあるまい。

「あ、いえ、その……。同時に異なる魔法を使うための訓練です……」

 ほかに言いようがなかったので、恥ずかしかったが素直に答えた。

 俺の返事を聞いたシャルはいきなり吹き出すと理由を聞いてきた。仕方ないので炭酸水を作りたいと正直に答えると、やっと理解してくれたようだ。魔法の完全な同時使用は出来ないことはないがコツがいるそうだ。まず無魔法を使って魔力のフィールドを作りそのフィールド内に水魔法や風魔法を出すようにするらしいのだが、それって完全な同時使用とは違うだろう。それを指摘すると、話の腰を折るなと怒られた。

 それももっともなので、おとなしく聞いてみる。どうも未だに感情の制御ができない時がある。今回のは感情とは違うので正確には感情の制御ではなく、好奇心の制御に近いのだろう。そう言えば神様も感情の制御はすぐにできるようになるとは仰っておられたが、それ以外のことは仰っておられなかった。やはり体に引き摺られる部分は残るのだろう。これは仕方ない。上手く制御できるように訓練、というか成長をしていく他はないだろう。

 とにかく、無魔法で魔力のフィールドを作り、その中に対して水魔法と風魔法を同時に使うのだが、ここで思い出すのは予約の小魔法キャントリップだ。実際には予約の小魔法キャントリップを使うのではなく、同様の無魔法を使う。その予約の無魔法を、例えば自分の水魔法に対して使用し、その後風魔法を使う。この時、予約された水魔法に正確にタイミングを合わせることで同時に魔法を使うことが出来るそうだ。そうか予約か。完全に頭の外にあったわ。

 それなりに練習は必要だったが、すぐに予約を利用した魔法の同時使用に慣れることが出来た。一つの魔法を使おうと集中している時に予約で別に集中が取られることが心配だったが、強制的に集中させられる分、変な気を使わずに使えた。魔法を使っている意識だけ集中していれば後で使う方が失敗することはなかったし、予約で強制的に集中させられているので先に使った魔法も失敗しなかった。

 これで水魔法と風魔法、無魔法を同時に使うことで炭酸水を魔法的に作り出すことに成功した。村でも何人かは水魔法と風魔法を同時に使える人間はいるので今後も困ることもないだろう。

 この予約による同時使用はかなり魔法の裾野を広げてくれた。発想の転換だな。



・・・・・・・・・



 剣の修行も俺が10歳になると同時に素振りは終了し、型や模擬戦が稽古の中心になった。年齢の割には高い能力値のため、さほど苦労せずにミルーや従士達に対抗出来そうだと思っていたが、甘かったようだ。確かに剣の打ち込みの威力や回避の速度、戦闘行動の持続力など、能力値に直結する部分については褒められたが、剣を使った防御や防御から反撃に移る際の技術についてはまだまだというところで学ぶところが大きい。模擬戦をやっても一度も勝てたためしがない。

 これは完全に技量が伴っていないことの証左だろう。稽古を積んで早く技量を上げる必要がある。剣についてはこのように全くだったが、俺が槍を改造した銃剣格闘のスタイルになると誰にも負けなかった。あの親父にすら半々で一本取れ、残りの半分は引き分ける。やっぱり剣の稽古も大切だけど、俺にはこっちの方が合っているな。そもそも銃剣と銃を模して作っているので、こんな変な形の武器はいままで存在していなかっただろうし、槍はあってもここまで短い短槍はなかったから、銃床や弾倉などを利用した殴打も初めて見ただろう。それに初見で対応する親父がすごいのであって、他の従士達やミルーが劣っているわけではない。

 おそらく再来月にはファーンも帰還してくるはずだ。兄が帰ってきたら都会のいろいろな話を聞きたい。また、現役の騎士になっているはずのファーンと剣や銃剣格闘で手合わせして、今の実力がどんなものなのかを知りたい。少なくとも普通の騎士たちと比較してどうなのか、全くダメなのか、拮抗しているのか、要するにあと数年このまま稽古を続けて成人する頃に家を出てもそこそこの危険を回避できそうなのかが知りたいのだ。

 へガードは銃剣格闘については吃驚して、かなり褒めてくれたが、表情を見るに息子の成長を喜ぶ父親、という感じが強いような気がする。また、冒険者で鳴らしたと言うが、もうかなり昔の話だ。今の騎士たちの腕もよくは知らないだろうし、嫌な言い方だが所詮は田舎者だからな。

 こんなことを考えつつ日々稽古に打ち込み、魔法の修行も継続し、ゴム製品の生産や改良に励みつつ日々を過ごしていた。そんな春先のことだ、平和で呑気だったバークッド村を震撼させる事件が起きた。

 ゴムの採取に向かった従士一人を含む若者や農奴達合計六人が無残な死体となって発見されたのだ。



・・・・・・・・・



 死体を調査すると魔物やそれに準ずる大型の肉食獣にやられたらしい。らしい、と言うのは俺は直接死体を見ていないからだ。どうせ見ても知識がないので正確な判断も出来ないだろう。傷口を見れば刃物で斬られたのか、牙などで食いちぎられたのか位は判断できそうなものだが、あまりに無残だったらしく俺には見せてもらえなかったのだ。

 これを受けて村ではゴムの採集に行く際には従士は最低四人以上が同行し、尚且つ俺を含む領主の家族のうち誰か一人は同行、また採集する人間も武装することになった。武装と言っても武器を装備するのではなく、フリーサイズ用で簡易的に作ったゴムのプロテクターを着用する、という事だ。訓練をしていない素人は武器を振り回すだけで危険だし、同行している護衛に間違って当たってしまったりした日には目も当てられないしな。

 俺たち家族はヘガードを除けば魔法も使えるので子供二人も充分戦闘時に役に立つだろうと考えられている。俺はともかく、ミルーも既に14歳になっており、成人一歩手前だし、そう滅多なことではやられないだろうとの判断からだ。魔物に襲われた場合には従士のうち一人が援軍要請のために走り、残りの従士三人が相手になり、俺やシャル、ミルーは魔法でその援護をするということだ。また、かないそうになければさっさと撤退し、時間を稼ぎつつ援軍を待つ、という大まかな決まりになった。

 MPを消費し尽くす必要も無くなった俺は時間も余り始めたので剣や格闘の稽古のいい気分転換になるので反対する理由は全くなかった。多少の危険はあるだろうが、夜の狩りもちょこちょこと続けていたし、危険について気持ちが鈍化しつつあったことも確かだ。また、練習して編み出した新しい魔法の使い方も実践で試してみたいという気持ちもあった。

 ある日のゴムの樹液ラテックス採集に俺が何度目かの同行をするとき、俺は密かに魔物の出現をすら願っていた。

 
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