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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百六十三話 片思い

7447年12月29日

 今回の迷宮行で全ての荷物を九層まで運ぶことが出来た。
 また、一部の鉱石は帰り道にトレント材の置いてある八層にまで運んでいる。
 これで来年からはいつもの活動に戻ることが可能になる。
 救済者セイバーズを中心に迷宮から戻るときに少しづつ地上に運べばいい。

 今は午後三時くらい。
 迷宮を出て往路で倒したモンスターの魔石をいつもの魔道具屋ダンヒルで換金した直後だ。

「皆、ご苦労だった。来年は一月六日から迷宮に入る。皆は俺がいない間、トリスの方針に従って欲しい。それまでゆっくり休んでくれ」

 屋台でバルドゥッキーを齧ろうとするラルファたちを制し、年末年始休暇を宣言する。
 今夜は高級レストラン、ドルレオンを借りきって殺戮者スローターズで忘年会だ。
 まだボイル亭に戻っていないのでバークッドからの隊商が到着しているかは不明だが、もし到着しているのであれば一緒に交ぜてしまえばいい。

 あ、俺とミヅチがいないってのは二人でライル王国に行くからだ。
 ミヅチのお兄さんの薬が出来たからね。
 それとは別にライル王国には一度行っておきたかったという事もある。
 以前クワガタ巨人を倒した際に入手した魔法の蹄鉄があるので、移動自体はかなりの速度が見込まれるのが救いだな。
 そのため、ライル王国への往復時間は一ヶ月程度を見込むだけで済んでいる。

 あと、俺たちがいない間の七層での活動を想定したチーム分けを行わねばならないが、これについてはトリスの判断に任せることにしていた。

 ボイル亭に戻ると実家からの隊商はまだ到着していなかった。
 だが、思わぬ伝言があった。

「なぁ、誰かログウッドって奴、知ってる?」

 よくある有象無象からの売り込みとは別に、迷宮から戻ったのが火曜から土曜であれば夕方にバーランクスという飯屋に、月曜であればシューニー(バルドゥックで一番大きな宿)のある部屋に来て欲しいとの伝言があったのだ。
 書かれていたのはそれだけで、要件などは何も記入されていない。
 今日は金曜だからバーランクスに居るということだろう。
 何故だか知らないが、なんとなく気になる。

 伝言を受けた番頭に尋ねると、今週の月曜(二十四日)の夜に二十代の若い男が来て伝言していったそうだ。

 因みに、ログウッドという奴については誰も知らなかった。

 殺戮者スローターズへの新手の売り込みかと思って無視しようかと思っていたのだが、隊商も来ていないし、今日は夜まで魔法の修行以外は特に予定は無い。
 何となく気になった事もあって、魔法の修行をサボって行ってみることにした。

「アルさん、一人で行くのは止した方がいいと思います」

 俺から話を聞いて不審そうな顔をしたトリスが言う。
 うん、俺もそう思ったから行くならズールーと他に二人くらい戦闘奴隷を伴って行くつもりだった。
 そう言うと「それなら大丈夫でしょう」と安心してくれた。

 誰かの恨みを買うような真似はしていないが万が一という事もあるし、俺が名前を覚えていないだけで例の国王の庶子のお付の人のうちの一人かも知れない。
 と言うより、その可能性が高いとは思うんだけどね。
 でも、そんな人が用件も伝えないで呼び出すかね?

 ここで、宿に入った時から俺に話し掛けようとタイミングを窺っていた人たちに初めて目を向けた。
 きちんと艶が出るまで磨かれたロビーではジーベクト男爵家の令嬢、ノイルーラお嬢様がお付の騎士とともに俺の帰りを待っていたのだ。
 ノイルーラお嬢様が席を立って近付いて来たので皆は遠慮したのか、それぞれの部屋へとそそくさと消えやがった。

「年末の見極めで騎士の叙任を受けましたわ」

 あっそ。

「それは……おめでとうございます」

 まぁ、三人の中では一番年上だし意地もあったんだろう。

「それでですね。グリード様を養父ちちに紹介したいのですが……」

 なんでよ?
 ほれ、ミヅチが階段の途中で剣呑な目付きをし始めたじゃんか。

「……どういう事でしょうか?」

 どうもこうもないわな。

「ふふ。グリード様ったら、嫌ですわ。まずは挨拶からと思うだけですよ」

 ノイルーラ嬢はふんわりとした表情で上品に微笑んだ。
 三人の中では一番おっとりしていそうな感じに見えるが、なかなかどうして最近では一番積極的に接触して来ている。
 例の救出劇で手下、もとい、部下の命を俺に救われた事を奇貨にしている様に思える。

「その件でしたら申し訳ありませんが、以前にお断りさせて頂いた筈ですが……それに、私には商売もあります。年末で忙しいものですから御用がそれだけでしたら失礼致しますね」

 強引に話を打ち切って部屋に戻ろうとした。

「そんな、つれない事を仰らないで下さいな。こうして参りましたのもグリード様のお顔を拝見したかったがためです」

 正騎士の叙任を受けたことで使える人材になったとアピールをしに来たんだろうが、顔なら見たんだし、もう帰ってくんねぇかな……。

「それに、長年に亘って面倒を見た信頼出来る戦闘奴隷を失ったとお聞きしましたの。グリード様が気落ちなされていないか心配で……」

 ぐ、む……。
 エンゲラの件については他の二人からはたった今、似たような事が書かれた伝言を読んだ。
 だが、このノイルーラ嬢はわざわざそれを心配して来たというのか。
 本心かどうかは判らないが、少なくともエンゲラに対して高い評価を与えてくれている事だけは認めるしかあるまい。

 仕方ないので暫く話に付き合った。

 そのついでにそれとなくログウッドとかいう輩の事を尋ねてみたが知らないようだった。
 じゃあ一体誰だろうね?

 シャワーを浴び、着替えてから一服して、少しゆっくりとしている間に実家からの隊商が到着した。
 今回は兄貴が率いてきたようだ。

「おう、アル! 久しぶりだな。ちょっと見ないうちにでっかいワイヴァーンを倒したんだって!? 頭を見れなかったのは残念だが俺も鼻が高いぞ! それともどっかに取っといてるのか? 王都に行けば今からでも見れるのか?」

 ボイル亭の小僧から兄貴達の到着を知らされた俺が迎えに出ると、早速声が掛かる。
 んふふ。ワイヴァーンなんか大した事なかったんだよ。本当だぜ?
 何しろそんなのとは比べ物にならないような……おっと。

「うん。久しぶり」

 ワイヴァーンを倒したことを興奮して褒めてくれる兄貴をなだめながら、今夜の食事については忘年会のために店を取っていることを伝え、今日はバルドゥックで休んで貰うことを了承させた。
 嬉しそうにワイヴァーンを倒したことを話題にする兄貴を俺の部屋へと連れて行く。

 そして、俺の部屋でお茶を用意してくれていたミヅチと一緒に豆茶を啜りながら兄貴に迷宮を踏破したことを伝えた。

「ドラゴンだって!? 凄いな、お前!」

 兄貴は信じられない、とでも言うように唖然として話を聞いている。
 ミヅチが俺を見ているので頷いてやる。
 剣と指輪を出しておいてくれよ。

「これがドラゴンの魔石だよ」

 シャドウドラゴンの魔石を出して見せた。

 【ロンガルザムリュゾルファレンの魔晶石(シャドウ・ドラゴン)】

 と見える筈。

「ステータスオープン……大したものだ……」

 俺の鼻の穴が膨らむ。
 うへへ。

「あと、これがドラゴンを倒して手に入れた剣と指輪です」

 ミヅチが屠竜ドラゴン・スレイヤー多用途の指輪ユーティリティ・リングを提示した。

「っ……ドラゴンスレイヤーだと? ……凄ぇ!!」

 ステータスを見た兄貴は絶句する。

「まぁ、迷宮を踏破して最深部にいたドラゴンを倒したことはまだ伏せてるんだ。申し訳ないけど皆にもまだ言わないで欲しいんだよね」

「何でだよ? お前、ドラゴンを倒したなんて英雄じゃないか!」

 兄貴は理解出来ないと言うように頭を振っている。

「うん、それなんだけどさ。ドラゴンの頭、まだ迷宮の奥で氷漬けなんだ。だから、それ持って帰るまで黙ってようと思ってる。皆にもそれまで言わないように口止めしてるんだ」

「ん……まぁ、分かり易い物があった方がいいのは確かだしな」



・・・・・・・・・



 夕方近くなった頃、兄貴の相手はミヅチに任せて宿を出る。
 念のため屠竜ドラゴン・スレイヤーだけ装備してシューニーへ向かった。

 シューニーではズールー以外の奴隷たちが全員揃っていた。
 ……ズールーは女のところかな?
 まぁいいや。

「ヘンリー、メック。すまんがちょっと付き合ってくれ」

 元騎士の二人を連れ出してバーランクスを目指す。
 バーランクスへと向かう間、妙な呼び出しがあってそれが気になった事を二人に話す。

「で、お前ら、ログウッドって奴知ってるか?」

「ログウッドですか……心当たりは……申し訳ございません」

 ヘンリーが答える。

「……ログウッド……聞いたことがあるような、無いような……でもバーランクスって店は知ってます。あまり趣味の良い店ではありません」

 メックが言う。
 そう言えば俺もバーランクスなんて店、自分じゃ行かないのに場所とか疑問に思わなかった。
 大体の位置も知ってる。
 どこで聞いたんだっけな……。

 程無くしてバーランクスに到着した。

「ご主人様、不審な奴が居ないかどうか先ずは私が先に入ります」

 ヘンリーはそう言うと俺が答えるより先に店の中に入った。

「そこまで気にしなくてもいいのに」

 苦笑いを浮かべてメックを見るが、彼は「いえ、相手の正体が判らないのですから当然のことだと思います」と言って俺の傍に控えて剣の柄に手を添え、周囲に鋭い視線を送っていた。

 ……あのさぁ。
 他の土地ならいざ知らず、バルドゥックで俺を知らない奴なんか居ねぇって。
 ついでにこの街で暴力によって俺をどうこうしようなんて思う奴なんかも居る訳がない。
 それこそ不意打ちでも喰らわない限りは大抵の事くらい切り抜けられる自信はある。

「あ、グリードさん。こんちゃーっす!」

 ほれ、暴力と理不尽の代表格、裏通りを根城にしているやくざも頭を下げる。

「おい、グリードさんだ! あの人、馬鹿でかいワイヴァーンを倒したんだぜ」
「おう、知ってるよ。王都まで頭を見に行ったからな」
「言われてる程でかかったのか?」
「こーんなにあった!」
「うお! でかいな! 頭でそんだけなら体全体は一体どれくらい……」

 顔も名前も知らない、五年前の俺たちの様な輩が道の反対側を歩きながら俺のことを話している。

 しかし、このバーランクスって店、安そうな上に品がなさそうでどう考えても俺の趣味じゃない。
 どこで聞いたんだっけな……。

 かつては毒々しい色で派手に装飾されていたのだろう店の看板はすでに古びている。
 それを見上げながらどこで聞いたのか思い出そうとしていると、横合いから声を掛けられた。

「グリード? 本当に来た……?」

 俺に声を掛けてきた男は二十代半ばの犬人族ドッグワーだ。
 体型はごく普通で健康そうな肉付きもしているが顔色が悪く頬も病的な痩けかたをしており、目の下には不健康そうな濃い隈も出来ていた。
 ただ、俺を見る目付きだけはギラギラとしている。

「おい、お前、ご主人様に何の用だ?」

 男と俺の間にメックが進み出て遮った。

「あんたに用はない」

 メックを睨む男の声は低く掠れているが、不健康そうな顔に似合わず聞き取りやすい。
 こんな奴知らないが、ひょっとしてこいつが?

「あんたがログ()()()さん? 確かに俺がアレイン・グリードだ」

 わざと名前を間違えて言うとメックの肩に手をやって脇に控えさせながら前に進み出た。

「……くふっ……」

 男は俺の顔を見て不気味に微笑んだ。
 思わず【鑑定】してしまったが、ベッシライズ・ログウッドという名で奴隷だった。
 奴隷なんか石を投げれば当たるくらい珍しくもなんともないので、そこは別にどうでもいいのだが、彼には本当に心当たりがない。

 そう思った瞬間!

「マルソーの仇がっ! 死ねぇっ!」

 素早く袖口からナイフを滑らせ、それを俺に向かって突き出して来た!
 予備動作無しの突きは見事なもんだが、俺だって訳も分からずに呼び出された時点で用心はしている。

 ひょいと体を斜めに傾けざま、手に持ったナイフを叩き落とした。
 ほぼ同時にメックが剣を抜きながら男の腹に蹴りを入れている。
 騎士団で習う正統派の動きではなく、モンスターを相手取る冒険者の動きだった。

 あ、念の為に言っておくとレベルがそう変わらないのであれば大抵の場合、正統派の剣術を使う騎士や従士の方が冒険者なんかより圧倒的に強いよ。
 軍隊で系統だった技術を訓練している奴とそこらの便利屋に毛が生えたような冒険者となんか同じ土俵に立てる訳がない。
 尤も、冒険者でも一流と呼ばれるような奴らであれば、そりゃあまた別さ。

 そうそう、そう言えば俺、襲われたところだったね。

 ナイフを取り落としたログウッドは体をくの字に折り曲げて吐瀉物を撒き散らしている。
 そこへ追い打ちを掛けようとするメックを止め、ログウッドからダメージが抜けるのを待った。

「おい、お前。今何と言った?」

 先ほどの言葉には聞き流せない一言が含まれていた。

「黙ってちゃ分かんねぇだろうが! お前、今“マルソーの仇”と言ったな?」

 胃の内容物を全て吐き出したのか、黄色い胃液を口から滴らせながらログウッドは地面から俺を睨みつけている。

「ああ言ったさ。それがどうした、人非人が! 先週、マルソーが迷宮で死んだと聞いた! お前が彼女を盾にしたんだろ! そうじゃなきゃ彼女が死ぬもんか!」

 ……こいつ、エンゲラの知り合いか?
 だが、また聞き流せない事を言いやがった。

「お前、エンゲラの何だ? 俺はあいつの持ち主だがよ。お前は一体何者だ?」

 俺がエンゲラを盾にしただと?
 言うに事欠いたのかは知らんが、こいつばかりは本当に聞き流すことは出来ない。
 そもそも、仮にエンゲラを盾にしたところで誰からも非難される謂れはない。
 煮て食おうが焼いて食おうが持ち主である俺の勝手だ。

「俺は……俺は、マルソーと将来を誓い合った男だ! 仇を取ってやる!」

 は?
 思わず口が開く。
 あまりにも意外な言葉が飛び出したためにメックと二人、お互いに顔を見合わせてしまう。

 お前、知ってた?
 いえ、知りませんでした。

 おっと。
 すぐに正気に戻った。

「ふざけんな、タコ。何が将来を誓い合っただぁ!? 仮にそうだとしてもお前に仇呼ばわりされる筋合いはねぇ!」

 思わず言い返してしまう。
 表で言い合いをして騒ぎになったのか、ヘンリーが店の戸口から顔を出した。
 俺達の様子を見てすっ飛んで来る。

「ご主人様! どうしました!?」

「ああ、ヘンリー。どうやらこいつが俺を呼び出した奴らしいが……言っている事がよく解らん」
「マルソーの男だと主張しているようですが……」

 俺とメックの言葉を聞いたヘンリーもよく解らない、という顔をしたが既に剣を抜いてログウッドに突き付けている。
 ヘンリーの後に一人おっさんが付いて来ていたのだが、「ベシュー、お前……一体何を……」と呟いて絶句している。
 この店の主人だろうか?

 人通りの多くなってきた夕方の出来事だったので目撃者はわんさかといる。
 ログウッドも剣を突き付けられている上に、こちらも毛の一筋ほどの油断も見せないでいることから俺に襲い掛かることも出来ない様子だった。

 店の前で騒ぎになった為か、ヘンリーと一緒に出て来た男が我に返り、俺達を店の中に誘導する。
 しかし、たった今この店に呼び出した奴に襲い掛かられた身としては素直に従うのに抵抗を感じた。
 それを理由に店に入ることを拒む。

 おっさんはこの店の主人であり、自分はバーグだと名乗ってログウッドの持ち主であると言った。
 そして、ログウッドとは別の奴隷に言い付けて未だ這いつくばって苦しんでいるログウッドを簀巻のように縛り上げさせる。
 これでログウッドは身動き出来ないので安心して欲しいと言われたが、この店全体でグルになっている可能性も否定出来ない以上、店の外で話を聞くことにした。

 勿論、危害を加えられそうになったので本来であれば話など聞く必要もない。
 それどころか最下級の准爵とはいえども歴とした貴族の俺に襲い掛かったのであるから、紛うことなき重犯罪である。
 ログウッドを騎士団に突き出してもいいし、正当防衛でもあるので俺が斬り捨て御免で返り討ちにしても咎められることはない。

 だが、エンゲラの名を出され、あまつさえエンゲラの男だと、敵討ちだと公言された以上、詳しい話を聞きたいと思うのは人情だろう。

 そこで聞いた話を簡単に説明しようか。

 エンゲラはこのログウッドという男とそれなりの関係を持っていたことは確かなようだ。
 休みの時、エンゲラは度々この店を訪れてログウッドと遊んでいたらしい。
 それは店の主人であるバーグと当人であるログウッド以外の奴らも証言していた。

 将来を誓い合ったかどうかまでは誰も知らなかったが。

 で、エンゲラが先週死んだことについては別に隠していなかったし、殺戮者スローターズで一線を張って来た戦闘奴隷が死んだことはすぐに噂になる。
 それは当然ログウッドの知るところとなった。
 ログウッドはエンゲラの死について一般の戦闘奴隷同様に盾にされて死んだと思い込んだ。

 大抵の戦闘奴隷の死因はそうなので、そう思われるのも無理からぬ話だがね……。

 とにかくログウッドがそう思い込んだ、思い込んでいる事が重要なので真偽は関係ない。
 まぁそれで将来の伴侶を失ったログウッドは未来に絶望し、彼女の仇討ちだとばかりに俺の殺害を目論んだ。
 までは良かったがね。

 あんな伝言を残してりゃこっちだって出向く時には用心もするさな。
 店で使われている奴隷だから自由になる時間も限られていたんだろうし、俺が一人になるまで監視を続けるなんて無理だったんだろうな。

 曜日の指定もあったが、月曜は週に一度の早上がりの日だったようだ。
 普通の奴隷には休日なんて存在しないからね。
 店で使われている奴隷は毎日開店から閉店まで働いている。
 休日を貰っているのなんてそれこそ戦闘奴隷くらいのものだし、伝言して呼び出すくらいしか方法はなかったんだろう。

 理由が解れば何ということはない。
 将来の家族を死地に追いやられた復讐ってだけの話だよね。

 将来の家族と主張しているのはログウッドだけなので本当の所は解んないけどさ。

 とにかく、動機が判明したのでバーランクスを後にした。
 最後にログウッドには「俺の戦闘奴隷は使い捨ての盾にするほど安くねぇ。お前はエンゲラを侮辱したに等しい」と顔を近づけて睨みながら言ってやった。
 ぶっ殺してやっても良かったが、ログウッドの主張の通り本当にエンゲラと将来を誓っていたのであれば俺が殺したり、騎士団に突き出すのもなんだか嫌な気がしただけだ。
 ログウッドの持ち主で、店の主人でもあるバーグは俺の顔色を窺っているばかりだし、嫌な気分になる。

 因みに、エンゲラはギベルティと好い仲になっていたのかと思っていたので後でギベルティに確認したら「え? ログウッドって奴のことは聞いてました。そこまで深い仲だったのかは存じませんが……」と言っていた。
 そして、「私とマルソーはそういう仲ではありません。ご主人様もご存じの通り、関係したことはありますが、彼女は私のことはそれほど好みではなかったようです……」と寂しそうに笑っていた。

 ……ま、いいや。
 ログウッド、殺さないで正解だったかもな。



・・・・・・・・・



7447年12月30日

 今日は忙しい。
 朝から兄貴達と王城へ登城してゴムプロテクターの納品を行い、その後はトゥケリンや仕入先との打ち合わせもあるのでそこで別れる。
 深夜にはバルドゥックに戻ってミヅチと二人でミラ師匠のところへ行かねばならない。
 で、その後、明日か明後日にミヅチと一緒にライル王国へと出発するのだ。
 移動や打ち合わせの合間に付け届けの干物を始めとする買い物なんかも必要だ。

 トゥケリンにはライル王国に行くことについて、先週の休みの際に遅すぎるお歳暮を渡す時に話している。
 ミヅチも言っていたが、首都であるエルレヘイという地下都市の入り口までは問題なく行けるだろうとの事だ。

 ま、薬を届けるついでにゴヅェーグルさんに挨拶することと、ミヅチの上司だという戦士長と話をすることが目的だ。それに、あわよくば元老職に就いている人に顔を売り、知遇を得ておきたいという色気もある。

「じゃあ、アル、俺たちは一度店に戻って一休みだ。今日は適当な宿に一泊したらそのまま村に帰る。春にも来るからその時にはドラゴンの頭、見せてくれよな」

「ああ、勿論だよ。じゃあ春に」



・・・・・・・・・



 予定通りトゥケリンへの挨拶や仕入先回りもした。
 今は新年になる寸前だ。
 昼のうちに王都で買っておいた大量の干物をかついでミヅチと二人、迷宮の入り口を潜ったところだ。

 結構時間掛かっちゃったな。

 まずは急いで二層を踏破しないといけない。

 
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