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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百六十話 戦い済んで

7447年12月16日

 ザクッ!
 ザクザクッ!

 魔法の長剣が俺の周囲で唸りを上げながら回転をしている。
 最初は何本かの剣が食道内に引っ掛かってしまい、回転が止まるかとヒヤリとした一瞬もあった。
 だが、数十もの長剣に連続して斬り付けられ、傷は次第に斬り裂かれていく。
 回転を阻まれた長剣も再び力を取り戻したように再度の攻撃へと移っていった。

 魔法の長剣の攻撃でシャドウドラゴンの食道はあっという間にボロボロになっていく。

 シャドウドラゴンは耳を塞ぎたくなる程の大音声で苦しみを訴えている。
 勿論俺の両手は肘の先から消失しているので塞げないけど。

 そしてすぐに食道の奥の筋肉や神経束、または気管やらなんやらについてもあっという間に斬り裂いてしまった。

 シャドウドラゴンの雄叫びはそれと一緒に小さくなっていき、遂には沈黙した。

「ああああぁぁぁぁッ!!」

 ボロボロになった首だか胴体だかを勢いのままに斬り落とした。
 即座に鑑定をして死亡を確認したかったが、万が一死んでいないとまずいのでブレード・バリアの効果時間が切れるまで傷の断面に対して更に攻撃を……あれ?

 魔法の長剣はドラゴンへの攻撃を止めてしまった。
 この魔術、自動的に攻撃を行うんだけどな……。

 ああ、死んだのか!

 まだ効果時間は幾らか残っていたが、ブレード・バリアをキャンセルして【鑑定】して死亡を確認。
 周囲を見回す。

 さっき飲み込まれた場所から少し移動していたようだ。

「エンゲラァァァッ!!」

 大声で忠実な戦闘奴隷の名を叫ぶ。

「どこだぁぁぁッ!!」

 その時の俺には周囲を見回してライトニングボルトの檻が無くなっているかを確認する余裕もなかった。
 まぁ、無くなってたんだけどさ。
 十二層と十三層の両方のライトニングボルトの檻はいつの間にか消失していた。

 どのくらい探したのか判らない。
 すぐに腕の痛みによって現実に引き戻されたから大した時間ではなかったのだろう。

 地面に座り、落ち着いてリジェネレートの魔術を使った。
 まず右手だ。

 鋭利な刃物ではなく、エボナイトプレートごと押し潰されるように噛み斬られた断面から赤黒い塊がずるっと飛び出す。
 斬られた手の長さはだいぶ戻った。
 だが、まだだ。
 更にリジェネレートを使う。

 肉の棍棒のようだった右手は先が平べったくなる。
 そして、そのきわには魔術を掛ける度に小さな肉の芽のようなものが生える。
 最終的に全部の指が生えたことを確認。

 左手に移ろうとした時には既にかなりの集中力を使っていた。
 戦闘中であれば必死だし、意識のタガも緩んでいるから数十回程度の連続使用はなんとかなる。
 だが、周囲に脅威がなくなると気が抜けるのか、連続して集中するのにはなかなかどうして骨が折れる。
 ガキの頃には大量のMPを一気に使おうとあれこれ試したものだが、それにはこういう理由もあった。

 ……それでも左手にも五本の指を生やした。
 右手の方は皮膚の再生まで終わっており、表面には僅かに毛も生え始めて以前と見分けが付かない程にまで回復していた。

 左手の回復を待たずに立ち上がるとまた周囲をエンゲラを求めて探し回る。

 エンゲラは程なくして見つかった。

「エンゲラ……」

 どう見ても彼女は死んでいる。
 胸から下は無い。
 右腕も肘の上、二の腕の半ばで噛み切られている。
 だが、その顔には傷一つなかった。

 あれだけ高いところから落ちたのにな……。
 体重の何分の一かに軽くなっていたためかな……。
 それとも、ヘルメットのお陰か。

 彼女の脇に膝をつき、開いていた瞼を閉じてやり、ヘルメットも脱がせてやった。
 まだ多少の体温は残されていたが、既にどうしようもないことは火を見るよりも明らかだ。

「エンゲラ……よくやった。よく戦った。お前のことは……」

 ふと思い直す。
 胸の傷口は左のほうが若干大きく残されており、魔石らしきものが見える。
 このまま丁寧に運んでも途中で落ちてしまうかもしれない。周囲を探すと彼女の下半身も見付かり、太腿にはナイフも残っていた。

 俺のナイフはいつの間にかどこかに行ってしまっていたので彼女のナイフを抜くと丁寧に魔石を採った。
 不思議と涙は出てこなかった。

 そこまでの作業を終え、ふと自分の姿に気が付くと苦笑いが浮かぶ。
 ボロボロもいいところの格好であるばかりか、ドラゴンの血液と唾液まみれだ。
 誠に面倒だが水でも被っておこう。

 鎧を着たまま水を被り、唾液だけでも洗い流す。
 精神的な活力は失われ、腕は復活したものの、心臓が一つ鼓動する度に目眩がする程の食い千切られた痛みは続いている。

 ああ、治癒魔術でも掛けておくか……。
 MPはまだかなり残っている感じだが、HPはどうかね?

 ……残り七十八か。ここまで追い詰められたのは久々だな。
 あ、レベルが上ってる。
 ん? 精力減衰吐息エナジードレイン・ブレスを食らったから、結局は二レベルも上がってる事になるのか……。
 HPも山盛りだったし、レベルも高かった。特殊技能も沢山あったし、何より魔法のレベルがMAXなんて相手……。

 どうでもいいか。

 まずは治療だ。
 それから、皆のところに戻らないと……。
 億劫だが痛みはなんとかしたい。
 治癒魔術を連続して掛け、残っていた痛みまで完全に無くした。
 そして、エンゲラの魔石を腰の後ろに装着していたサバイバルキットに収納して立ち上がる。

 ああ、そうだ。
 ちらっと見かけたエンゲラの死体になっていたドラゴニアンは?

 周囲を探して元来た登山道に出ると、最初に勘違いした偽エンゲラが裸で倒れているのを見つけた。
 確かセイバク・ドラゴニアンだったよな。
 ……やはりそうか。
 【特殊技能:写し身(コピー・デッドボディ)】は自分を殺した相手か自分が最後に殺した相手のどちらかの姿を取ることが出来るそうだ。効果時間はレベルと同時間。
 また、ドラゴニアンは死ぬと石になったり、溶けて毒ガスを発したり、最悪は爆発することも判った。
 なんて厄介な奴らだ……。

 ああ、そうだ。
 またドラゴンのところまで戻らないと……。
 恐慌からどうやって脱したらいいのか、ヒントでもあればいいんだが……。

 それに、炎の剣(フレイム・タン)貫きの槍スピアー・オブ・ピアシングも回収しておかないとな……。



・・・・・・・・・



「ひっ、ひっ……」

 皆のところに戻るとミヅチが恐慌を起こしたまま涙をボロボロと零し、嗚咽しながらも剣を抜いていた。
 近づいて来たのが俺だと判ってもその手は曲刀を固く握りしめて離さない。
 抱き締めて声を掛けると少しだけ落ち着いたようで、やっと座ってくれた。

 他の奴らも似たり寄ったりであり、手の施しようがなかった。

 辛うじて俺を敵だと認識していないだけでも助かる。
 剣を構えているだけミヅチはまだマシだと言える。

 因みに、ドラゴンのステータスから読み取れたところでは、【特殊技能:咆哮ハウルタイプⅢ】に【特殊技能:恐怖の霊気(フィアー・オーラ)タイプⅡ】を乗せて放たれていたらしい。
 それによるとこの状態からの回復には早い奴(高レベルの奴)でも丸一日。遅い奴(低レベルの奴)だと一日半近くもこのままにして放っておくしか無いようだ。
 え? 勿論、あらゆる手は尽くしたさ。
 でも、俺の知っている魔術は全て効果はなかったんだ。

 俺の目に映る【鑑定】は日本語のために【状態】欄には全て【恐慌】と記載されてしまったようだ。
 英語かラグダリオス語(コモン・ランゲージ)であれば別の書き方になっていたような気もする。
 【状態】が【恐怖】なんて日本語としてはおかしいからなぁ……。
 フィアーもパニックも同じ【恐慌】で片付けられていたんだろう。

 ゼノムが持っていた時計で時刻を確かめると、最初にドラゴンの【咆哮】を耳にした頃から一時間くらいしか経過していなかった。
 もっと長い間戦っていたような気がするけど、そんなもんか。

 しょうがないのでまた山を少し登ってドラゴンの頭をそう簡単には溶けそうにない、でかい氷で氷漬けにした。
 次に胴体の中を探り、エンゲラの腹部を探し当てる。
 ひしゃげて半ばから折れたライフル銃はストーンカノンで撃ちぬいてバラバラに壊して捨てた。
 ドラゴニアンの死体についても回収して纏められるものについては回収し、それも腐らないように氷漬けにした。
 爆発したり、石になったり、溶けて毒ガスを放出したようなものは魔石の捜索すら面倒で放っておいた。
 ついでに、俺の右手も発見したが、回収したとしてどうする訳にも行かないのでフレイムスロウワーの魔術で焼いた。

 エンゲラは地上に葬ってやりたかったので彼女の遺体は全て回収し、氷漬けにした。
 上で待っているギベルティのところに戻ろうかとも考えたが、往復で数時間は必要だし、万が一その間に他のモンスターの襲撃を受けたら、こいつら、ゴブリン一匹にも軽く全滅させられるだろう。

 仕方がないのでみんなの傍で待機を続けた。



・・・・・・・・・



7447年12月17日

 夕方近くなるとミヅチ、ズールー、ゼノム、ラルファ、トリス、ベルが順次己を取り戻す。
 各自一様に不甲斐なさを謝して来る。
 だが、どうしようもない事だし、気に病まれても困る。

「仕方がない事だし、今更気にしても取り返しは付かない。それより、こんな事の無いようにレベルアップに取り組んで欲しい」

 と言うと申し訳無さそうな顔をする。
 気にすんなと言ったばっかだけど、これはこれでしょうがないよなぁ。

「マルソーは?」

 ミヅチが尋ねる。

 俺は胡座をかいたまま下を向いて一つ溜息を吐くと、サバイバルキットからエンゲラの魔石を取り出して掌に乗せて見せ、「ここにいる」とだけ答える。

 これには全員が絶句し、押し黙った。
 ミヅチとラルファが震える手を伸ばして魔石に触れるとステータスを確認した。

「貴方……その手は……?」

 俺の手が不自然に見えた事に気が付いたミヅチが驚く。
 皆も気が付いたようだ。

「ああ、ドラゴンに食い千切られた。その後すぐに、リジェレネートの魔術で再生したから問題はない。籠手はもう使いものにならないけどな……」

 エンゲラの魔石を仕舞いながら答え、ショックを受けているであろう皆に新たに命令を下す。

「エンゲラの遺体は上でドラゴンの死体の傍に氷漬けにしてある。ドラゴンはともかく、ドラゴニアンってドラゴンと人のあいの子みたいな奴も何匹か一緒だからまずはそいつらから魔石を採っておいてくれ」

 つまらなくてもいいから目の前に仕事を押し付けてそれに没頭させてやる必要がある。

 俺の前で両膝を突いて俺の手を取っていたミヅチが立ち上がり「皆、行きましょう」とゼノムたちに声を掛けて立ち上がった。
 ……うん、頼むよ。

 彼ら六人が上に行ってから暫くするとカームやロッコ、グィネ、バストラルらも順次、恐怖による心神喪失状態から脱した。
 同様に役立たずだった事を詫びて来るが、さっさと上に行って魔石を採るのを手伝って来いと言って追い払った。

 ……それはそうと、ドラゴニアンから魔石採るのに何時間掛かってるんだ?
 目立つように置いておいたから場所が解らずに素通りしたなんてことはない筈だ。
 氷についてもミヅチがいるから大した労もなく消せる筈だ。
 【咆哮】で僅かに削られたとは言え、ミヅチのMPはとっくに全快になってるんだし。

 クローとマリーが己を取り戻した。
 時間的にはもう深夜に近い。
 周囲は相変わらずの明るさだけど。

「アル……すまん」
「ごめんなさい……」

 二人共役立たずで終わってしまったことを恥じ、詫びの言葉を述べてくる。
 今までの皆同様、エンゲラを失ったことも知っているのでそれについての意味もあるのだろう。

 だけど、ありゃあこいつらのせいじゃない。
 俺の責任以外の何者でもない。
 今思えば豪傑の腰巻きロインクロス・オブ・ダーリングも預けていて良かった。

 あれがあったらズールーまで失っていた可能性が高い。

 そういう意味では最小限の犠牲でドラゴンを倒すことが出来たとも言える。
 ……戦闘奴隷一人の犠牲で竜殺し(ドラゴン・スレイヤー)の称号なら上出来だろ。

 なぁ、エンゲラ……。
 ……畜生。

 クローとマリーを促して道を登り始めて十数分。
 すぐに作業中の皆と出会った。

 皆は口々にドラゴンの巨大さと真っ白く馬鹿でかい魔石をその身に抱えていたことを褒めそやした。
 魔石は思った程大きくはなかった。
 【鑑定】での価値も百二十三万四千五百六十七であり、売っても一千万弱か。
 たった一つの魔石の価値としては飛び抜けているが、些か拍子抜けの感も拭えない。
 でも、数字の並びからして階層守護者の魔石であることは確かなようだ。

 ……こいつら、ドラゴンから鱗を剥がしていて時間が掛かってたのか。
 エンゲラの遺体は凍ったままだ。

 その側に腰を下ろし、鱗を剥がしている様子を見つめていた。

 
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