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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百五十八話 マルソー・エンゲラ

7447年12月16日

 ぐむぅぅッ!!

 突き刺した槍を頼りに、突進するシャドウドラゴンに何とかひっついて行く。
 貼り付いた上で攻撃魔術を連射してやる!

 そう思っていた。

 右手は槍を、左手は背鰭に引っ掛け、両足で胴を締めるようにするが、胴が太過ぎてどうしようも無かった。
 だって胴の直径は二m近いし、そんなのを締められるほど俺の足は長くねぇ。

 しょうがないので背鰭にも片足を引っ掛けようと藻掻くが振動と動きが激しくてダメだった。

 結局、腕だけで金魚のフンのように張りついて飛ばされないようにするので精一杯だ。
 腰の後ろに挿してある盲目の矢アロー・オブ・ブラインドネスなんか、当然どうしようもない。
 どっちかの手を離しでもしたら振り落とされちゃうよ、これ。

 地を這っているために振動が大きく、何か攻撃魔術を使おうにもこんな状態だと流石の俺も魔力を練る為の精神集中すらままならない。

 翼の後ろの位置なので木の枝については翼が薙ぎ払ってくれているだけマシなのが救いか。

 ある程度突進したシャドウドラゴンは前進を止めキョロキョロと辺りを窺う様子を見せた。
 エンゲラを見失ったか?

 チャンスだ!

 こんなにびったりと接触していて、碌に動いていない今なら……!
 未だに【魔法抵抗マジックレジスタンス】が残っているため、弾頭を発射する普通の攻撃魔術じゃあダメだ。
 必殺の攻撃魔術の為に魔力を練り始める。

 だが、その瞬間にシャドウドラゴンはエンゲラではなく、胴体の真ん中辺りにひっついている俺を思い出したようだ。
 シャドウドラゴンの体が大きなカーブを描くのが判る。
 尻尾で俺をはたき落とそうと言うのだろう。

 いや、違う!

 飛び上がりやがった!

 またもや離されないように必死にしがみつく。
 魔法は当然キャンセルされた。
 痛みに耐えて魔力を練ったり、戦闘行動中に魔力を練ることが出来るのは自らが意識して体を動かしているからだ。
 次にどう動くか解らない相手にしがみついて振り落とされまいと、その動きに合わせた体重移動など体全体の対応を迫られる状況とは訳が違う。
 使える魔法なんか元素魔法を素で使えるくらいだろう。

 でもね。
 こんな事もあろうかと必死に覚えた呪文もあるんだ。

「ガフト・モースラズク・ゲヴァニックミル・ハクザトリミ・ミル・ゴール・キルム・インレモートゥン・ガーケンダリ・ザーケンデリ・ハンゼメココ・ガッヘドゥング・ギムコー・ハイロポル・ケルトーニンシュ・ガグマンムル・カイルート・ブズィーン・ダマヴァンツ!」

 五本弾頭のアイスジャベリンの魔術!

 ……だめか……。

 どうやら【低位魔マイナー・グローブ・オブ法無効・インヴァルネラビリティ】に阻まれたようだ。
 やっぱレベル三じゃ無理か……。
 もっと高レベルだと呪文もかなり長くなってしまう。
 それでも覚えられない事も無いし、実際に覚えてはいるが、こんな状況だと絶対に途中で失敗する。

 今の呪文だって失敗しないかヒヤヒヤしながら唱えていたのだ。
 奇跡的とまでは言うつもりもないが、成功と失敗だと確率はいいとこ半々だろう。

 もっと高レベルの攻撃魔術だとこの三倍くらい長い呪文を正確に一定のリズムで決められた時間内に唱える必要がある。
 無理でしょ。

 おわっ!

 上下が反転した!

 いっそのこと槍から手を放してすぐに攻撃魔術を使用、地上に落ちる前に風魔法を使って軟着陸を試みるのも良いかも……。

 無理!
 絶対無理!
 まず高度に余裕が無い。
 今はせいぜい二十~三十m。
 落下している間に攻撃魔術くらい放てるだろうが、その後は風魔法なんか使う間もなく墜落死だ。
 こんな高さから地面に叩きつけられて助かるものか!
 運良く木の枝がクッションになったとしても大怪我で済めば幸運だろう。

 【魔法抵抗マジックレジスタンス】を削り切るくらいなら出来るかも知れないが、怪我の治療の為に魔力を練っている間に食われておしまいだ。

 先に風魔法を使って離脱、直後に攻撃する手についても考えないでもないが、攻撃魔術を使用するまでシャドウドラゴンが黙って見ている筈もない。
 食いつかれるか、さもなきゃ吐息ブレスを食らって攻撃魔術は失敗。
 良くてもう一度風魔法を使って、なんとか着地を狙えるかどうかと言うのが関の山だ。

 しかし。

 シャドウドラゴンの前足の爪の間に何かが絡んでいるのがふと目に入った。

 ……あれは!

 ゴムプロテクターの一部だ!
 肩当て(スパールダー)か!?
 それとも胴掛け(キュイラス)か?

 俺のゴムプロテクターは無事なので必然的に誰のものかを理解する。
 俺のじゃなきゃエンゲラのもの以外にあり得ない。

 彼女の身を案じて頭上(地面)を見上げると人が倒れているのが見えた。
 ドラゴニアンではない。

 ゴムプロテクターをぶっ飛ばされたエンゲラだ!
 ヘルメットも飛ばされてしまったのか、完全に顔が露わになっている。
 木立に隠れて胸部より上くらいしか見えなかった。
 だが、俺が自分の奴隷を見間違う訳はない!

 時が止まったように感じる。

 エンゲラは目を閉じ、動いていない。
 レトリバー犬のような耳がやけに鮮明に目に入った。

 ――おめでとうございます、ご主人様!――

 二人で迷宮を走破中、魔法の武器(マジカル・ウェポン)を発見した時、尻尾をパタパタと振って我が事のように嬉しそうだった顔……。

 エンゲラは目を閉じ、動いていない。

 瞬間的にカッと来てしまう。

 こいつ、エンゲラを!

 エンゲラは死んでいるようにしか見えない。
 だが、まだ助けられるかも知れない。
 急げ! 即死じゃなきゃ、まだ生きているなら助けられる!

 そもそもこのままシャドウドラゴンにしがみついていても地面に叩き付けられてしまう。
 俺の狙いとしては高度五~六mで風魔法を使って横に逃げるつもりだった。

 思い切って槍から手を離し……!

「うおおおぉぉッ!!」

 風魔法を使って軟着陸を試みる。

 枝に引っ掛かりながらもなんとか着地出来た。
 猛ダッシュでエンゲラが倒れていた方へ……。

「エンゲ……ラァァァッ!!」

 彼女の名を大声で叫びながら駆ける。
 まだ死んでくれるなよ!

 パーン!

 叫んだのと殆ど同時に少し離れた後ろ(・・)で銃声が響き渡る。

 え? 銃声?

 生きてたのか!?
 ホッとした。

「はいっ!」

 エンゲラの返事が後ろから……は?

 ドオオオォォォン!!

 地響きを立ててシャドウドラゴンが地面にその身を投げ出した。
 あのままひっついていたら今頃ぺしゃんこだ。

 それはそうとなんで……?

 木の幹に隠れているが、あそこに倒れているのはエンゲラだ。
 横顔が見える。

「お呼びですか、ご主人様!」

 後ろから俺の横に駆けつけて来たのもエンゲラだ。
 エンゲラが二人……?

「あ、え? あそこ……?」

 倒れているエンゲラを指差すと、俺の脇に到着したエンゲラもそれを見て息を呑んでいる。

「あ……そんな、あそこに倒れているのはモンスターの筈です! さっき仕留めたんです! 私じゃありません!」

 あ、【鑑定】すんの忘れてた。
 目の前のエンゲラはいつもの内容だった。

 そして、倒れているエンゲラは……。

【 】
【女性/19/6/7440・セイバク・ドラゴニアン】
【状態:死亡】
【年齢:7歳】
【レベル:18】
【HP:-23(139) MP:24(36)】
【筋力:32】
【俊敏:25】
【器用:21】
【耐久:23】
【特殊技能:写し身】
【特殊技能:地魔法Lv.3】
【特殊技能:水魔法Lv.3】
【特殊技能:火魔法Lv.3】
【特殊技能:無魔法Lv.5】

 ドラゴニアンだったか。
 【写し身】の特殊技能だろうか。

「……無事ならいい。隠れて移動しながら射撃を続けろ、行けっ」

「はいっ!」

 しかし、動転のあまり【鑑定】を忘れているとはな。
 っつーか、消耗品である筈の戦闘奴隷如きに一体何を……。

 エンゲラが距離を取り始めた。

 既にシャドウドラゴンは俺が離れたことに気が付き、頭を高く掲げて周囲を探している。
 すぐに発見された。

 直後に吐息ブレスが飛んで……じゃない、攻撃魔術だ!

 予め当たりを付けていた方向へと風魔法でダッシュして躱……ミサイル付きか、クソッ!

 アンチマジックフィールドで放たれたストーントレバシェット(?)ミサイルを相殺するので精一杯だった。

 シャドウドラゴンが攻撃魔術を放つ寸前、チラと見えていたが貫きの槍スピアー・オブ・ピアシングはまだ刺さったままだ。

 あ、エンゲラに炎の剣(フレイム・タン)を置いてけって言うの忘れてた。
 今の俺にはナイフしか武器が……盲目の矢アロー・オブ・ブラインドネスもあった。
 とにかくこいつを突き立ててやる!

 腰の後ろに挿しておいた魔法の矢を一本。
 右手にしっかりと持ち、シャドウドラゴンを目指す。

 シャドウドラゴンは連続して攻撃魔術を放ってきた。
 そのせいもあってアンチマジックフィールドで相殺するのに手一杯な俺は、碌に近付く事も出来やしない。

 しかもこのドラゴン、魔法には相当慣れており、精神集中の時間は一秒あれば良い方だろう。
 中でも攻撃魔術の使い方にかなり習熟している。
 単純に最短距離で狙うという芸の無い方法なんか一発もない。
 ミサイルを付加していることを存分に利用している。

 ドラゴンの眉間からでかい石槍が放たれた。
 ミサイル付きかどうかは解らないから対応せざるを得ない。

 しかし、ミサイル付きではなかった。
 射線から体をずらし、今度こそ反撃を……ダメか。

 攻撃魔術を放つ合間にドラゴンはその巨体を利して這いまわり、木々を薙ぎ倒していることで足場も相当に悪くなっている。

 俺が逃げやすい方向は倒木が折り重なっている。
 仕方が無いので反対方向へダッシュし、尻尾の一撃を躱すべくアンチマジックフィールドをキャンセルして風魔法を使わされる始末だ。

 勿論俺だってそうしている間に攻撃魔術を何発か叩き込んでいる。
 奴の【魔法抵抗マジックレジスタンス】も残すところあと四回の筈。
 習熟している複数弾頭ならあと一回で、削り取ってお釣りが来る。

 エンゲラもライフル銃で援護してくれている。
 数秒おきに銃声が響き、ドラゴンの顔には着々と傷が増えている。
 勿論ダメージも。

 【HP:10622(11446) MP:142(335)】

 一発で百弱のダメージ。
 魔法が付加されているとはいえ、所詮は小さな銃弾。
 豆鉄砲か。
 もっと大きなダメージを与えないと魔法への集中力を削ぐことは出来ない。
 ダメージから言って顔に針を刺されているような感じだろうか。
 相応に苛つかせてはいるようだ。

 そして、ここまでの戦況ではかなりMPを消費させることに成功している。
 おら、もっと使って来いよ!

 銃声が響く。
 うまいこと魔法へ精神集中をしている最中の命中だったようだ。
 ナイスだエンゲラ!

 それに、エンゲラはもうかなりの距離を取っているようだ。
 よし!

 これで心置きなく魔法を使うことが出来る。
 今まではエンゲラが居たので考えもしなかった。

 地魔法、レベル(MAX)

 とにかく発現速度が最優先なので、効果範囲や形状の指定なんかまでは無理。
 勿論倍率指定もしていない、と言うかその僅かな時間すらも惜しい。
 単に意識した俺の掌を中心として土を出すだけ。
 それも掌を中心としたでかい球体の天球部からバラバラと降るようにしか出せない。
 だけど、量が量だぜ?

 【魔法抵抗マジックレジスタンス】があったとしても……!

 上空に土が半球状の絨毯のように出現したかと思う間もなく、バラバラと降り積もる。
 レベル(MAX)の地魔法は凄い。
 土の出現する半径は六十m強に達する!
 俺の後ろ側には碌に出てないと思うけど。

 でも、この量じゃどんなに速かろうと地面を這い回ってちゃあ逃げられ……何ぃ?

 振りかかる土の最初の一摘みがシャドウドラゴンに触れた瞬間……土は全て消えた!
 これ、【魔法抵抗マジックレジスタンス】か?
 まさか【低位魔マイナー・グローブ・オブ法無効・インヴァルネラビリティ】じゃないよな?
 レベル(MAX)の魔法だし。

 慌てて【鑑定】すると【特殊技能:魔法抵抗マジックレジスタンス3】だった。
 ああ、こっちで削り、いや、埋め殺せるのも時間の問題か。

 ならばもう一発!

 間髪入れずに今度は水と火魔法で氷漬けだ!
 地を這っているなら下から湧き出る方が早く接触……クソ、飛びやがった。
 でも、水と接触したのか氷は発現しなかった。
 【魔法抵抗マジックレジスタンス】を削ることには成功か。

 飛ぶんじゃ仕方ない。
 今度はもう一度地魔法……ぬぁに!?

 シャドウドラゴンは持ち前の超速度の飛行能力を発揮してあっという間にその効果範囲から逃れてしまった。
 埋めるどころか最後に尻尾に掠らせたのがせいぜいだ。
 掠ったかどうかまでは確信ないけど。
 ああ、空中から湧き出した土が消えたから掠ってはいたのか。

 お得意の埋葬もダメかよ……。

 目測で三㎞近くも離れた場所から僅か一分と掛からずにここまで来れる快速を誇るだけはあって、埋めるのは土だろうが氷だろうがまず無理なようだ。
 正直言って加速にはもっと時間が必要だと思っていた俺が甘かったんだろう。
 勿論、一気にトップスピードと言う訳ではないのだろうが、ツーストのバイク並みの急加速とは恐れ入る。

 必殺のつもりだったのにな。

 シャドウドラゴンは飛行したまま身を捻ると想像以上の疾さで方向転換を果たす。
 僅かな硬直。
 攻撃魔術かっ!

 バーン!
 銃声が響いた。
 いやぁ、エンゲラ、本当にナイスタイミングだ!

 魔術をキャンセルされたドラゴンに向かってストーンライトカタパルトミサイルを八本……くそ、吐息ブレスか!

 風魔法を使ってすっ飛んで躱す方が先だ。
 攻撃魔術をキャンセルして……えっ?

 シャドウドラゴンは吐息ブレスを放つために一瞬身を縮めたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。

 体を戻すとバネのように猛スピードで突進する!

 それも俺とは異なる方向へ!

 まずい、狙いはエンゲラかっ!?

「ぐぁうっ!」

 シャドウドラゴンはエンゲラを口の先で咥えた。

 腹のあたりを咥え、上半身と足が口先の両脇からはみ出している!

――あの、ご主人様。これ、つまらない物ですが……いえ、たまたま儲かりましたし……その、ちょっとした感謝の気持ちです――

 俺に向かって微笑むエンゲラの顔が脳裏を駆け巡る。
 俺の仲間を目の前で殺させてなるものか!
 消耗品?
 知るか!

「マルソーッ!!」

 
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