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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第三十五話 闘い

 急に全員に警告を発したため、皆が俺に注目したが、やはりすぐに思い至ったのだろう、全員改めて引き締まった顔つきになり、周囲を警戒し始めた。

 鑑定しっぱなしの氷漬けのホーンドベアーの残りHPは30を割ったところだ、耐久値の分を入れてもあと1分程でこいつは窒息死するだろう。もう氷を維持しなくても大丈夫だ。俺は氷漬けになっているホーンドベアーの鑑定ウインドウを消し、皆と同様に周辺を警戒する。あ、そうだ。目の前には幅50mの氷の壁があるから警戒すべき方向は左右と後方に限られる。水場の沼は氷の壁の向こうにあるはずなので後方については警戒の重要度は高くない。となると、左右に対しての警戒を固めなければいけない。

 しかし、左右を警戒すると言っても、キョロキョロと見回すのは効率も悪い。

「氷に向かって左手に土を出す。全員右側を見てくれ」

 そういうと同時に左手に地魔法で同様の土壁を出す。これで警戒すべき方向をかなり絞ることが出来るはずだ。氷と同様に高さ5mに合わせて作ったので、ちょっとやそっとでは乗り越えたり崩したりするのは難しいだろうし、仮にそういったことをやられても、対応して態勢を整えるだけの時間を稼ぐことくらいは充分に出来るだろう、と考えたからだ。

 俺の考えを全員理解してくれたようで、全員一様に右手方向を注視し始めた。ケリーを除いて全員状態が良好に回復しているのは確認済みだ。

『グッ、ガオォォォォォォォォン!』

 やっぱりいたか。新手のホーンドベアーの咆哮だ。心なしかさっきよりも大きく聞こえたような気もする。あ、気のせいじゃねぇ。ウインリーのMPは2減り、残り1にまで減っている。状態も恐慌(小)だ。ザッカリーとベックウィズのMPも2づつ減少し、同じく恐慌(小)になっている。くそっ、まずいぞ、これは。

「アル、皆、また様子がおかしいわ! ケリーのところへ連れて行くわよ!」

 ミルーも気がついたようだ。俺とミルーは一番まずそうなウインリーを押してケリーを座らせている木の下に移動させる。移動させながら俺とミルーにも鑑定をしてみると今度は俺達もMPが2減っているのが確認できた。次にザッカリー、そしてベックウィズを何とかしなければいけない。あと一回あの咆哮があるとウインリーも完全な恐慌確定だ。

 ここで大人たちが全員恐慌になってしまうと、仮に首尾よくホーンドベアーを始末できたとしても、撤退が出来ない。まだ、新手のホーンドベアーがどこに居るかはわかならない。声の感じから推測しても二方向を壁に囲われているので居る方向が掴みにくい。しかし、まだ姿も見えないので、ミルーと作戦を練るなら今しかないだろう。俺は右手の壁の無い方向を指差しながら言う。

「姉さん、ホーンドベアーが姿を現すとしたらあっちだと思う。姿が見え次第今度は地魔法で生埋めにします。万が一俺が失敗したら姉さん、頼みます」

 ミルーはそれを聞くと刹那の間だけ俺を見つめると、落ち着いた声音で言った。

「わかったわ、アル、私も多分それしかないと思う。頼りにしてるわ」

 作戦とも言えないような内容だが、こんな時にあまり複雑なことをしても失敗するだろう。とにかく、何をしたらいいかの指示が必要だ。俺達はザッカリーとベックウイズもなんとかケリーの傍まで移動させ、座っているように言うと、元の場所には戻らず氷の壁に沿って5mほど右に移動し、そのまま氷の壁の角あたりを注視する。多少溶け出しているとは言え、透明な氷の見通しはかなりいい。だが、表面が溶け出しているので氷の壁の向こう側のすぐ傍で何かが動けば判るだろうが、多分氷から数mも離れたらよくわからないのではないかとも思う。

 俺は念のため鑑定の選択モードを使う。せめて対象選択に引っかからないかを期待してのことだ。

「姉さん、姿が見えたら魔法でも何でもいいからぶつけてくれ。怯んだ隙に土で押しつぶしてやる!」

「うん、わかった。慎重にね」

 俺とミルーはもうそれだけしか言葉を交わさなかった。ミルーのMPはまだ600以上あるし、風魔法以外は全てそれなりに使えるから何とかなるかもしれない。とにかく、出来ることは何でもやって全員で生き残るのだ。

 俺達はそのまま氷の壁の傍で警戒を続けた。あれから咆哮は轟いて来ない。一体どのくらい時間が経ったのだろうか。数十秒か数分か、事によったら10分近くも経過しているのだろうか。とにかく長く感じた。手のひらに汗をかいて気持ち悪い。ズボンの生地で汗を拭いながら、新手のホーンドベアーを待ち受けている時にちょっと体が軽くなった気がした。ひょっとしてレベルアップか? すると氷漬けにしたホーンドベアーはやっと窒息死してくれたのか。しかし、レベルアップには6000以上の経験値が必要だった筈だ。このホーンドベアーは相当な経験値だったのだろう。

 いつもみたいにのんびりと自分を鑑定している場合ではないので取りあえず今はレベルアップはどうでもいいが、そうか、さっきの咆哮からはまだ1分程しか経っていなかったのか。ものすごく緊張していたことがわかる。緊張自体は悪いものではないが、緊張しすぎはよろしくない。もっと力を抜いておかないと、いざというときに動けない。緊張しすぎて魔法失敗して死にましたってのは格好が悪い。

「うわぁっ!」

 皆を座らせた辺りから恐怖感の篭った叫び声があがった。ちいっくしょ、そっちかよ。俺は急いで振り向くとホーンドベアーがどこから出現したのか確かめようとする。土を回り込んできたのか、乗り越えようとしているのか、どっちだ?

 ホーンドベアーは土壁を回りこんできたようだ。氷漬けにした奴より少し小さい気がする。こいつがさっきの奴の子供なのか?

 どちらかと言うと壁を越えて来られるより回り込んでくれた方が距離があるのでありがたい。早速地魔法だ。だが、氷漬けにしたときのように予め整形した形で土の板を出現させるにはミルーとの距離がまだ近すぎる。じゃあと、先ほどのようにMPを90くらい使って土を出す。それを無魔法で飛ばし……まずい! 今度はベックウィズたちを巻き込んじまう。

 俺が躊躇してる間にミルーは炎を出してそれをホーンドベアーに向けて飛ばしながらベックウィズ達から離れるように駆け出した。くそっ、出した土、どうしよう? 俺は今両手を広げて頭の上にかざしている。その手のひらに下接している形で直径29mほどの土で出来た球体があるはずだ。体積はだいたい12500m^3くらいなので直径はそんなもんだろう。本来はこれを整形しつつ飛ばして押し固める。あ、転がしてみようか? 無魔法である程度表面を固めた上で勢いをつければ転がるだろう。押しつぶせないかな? いやいや、ミルーを巻き込むかも知れない。やはり飛ばすべきだろう。

 変形させつつ飛ばす。いつかみたいにドーナツのように変形させてその真ん中にホーンドベアーを入れて周りから押し潰すのだ。ミルーがホーンドベアーに炎を飛ばしながら挑発し遠くまで誘導している。……いまだ、行けっ!

 ドーナツ状の土の塊がホーンドベアー目掛けて飛んで行く。よし、これは行けるっ! ホーンドベアーは土をかわせないと見るや、動きを止めた。観念しやがったか? と思ったが、何と言うことか、体を縮めると一気に飛び上がった。ちょうどサーカスなどで投げ輪や火の輪をくぐる動物のように跳躍するとドーナツの穴を跳躍することで潜り抜けたのだ!

 完全に捕まえた、と思っていただけに俺のショックは大きかった。飛び上がったホーンドベアーは小山のように盛り上がった土の上に着地すると今度は俺を目標にしたらしい。こちらに頭を振り向けてきた。くっそ、見てろ。ミルーの放った炎がホーンドベアーの肩に当たり、毛を焦がすのが見えた。しかし、ホーンドベアーはミルーの炎を意に介した様子も無く無視する。俺目掛けて小山の上から走り降りようと体勢を整えるべく右の前足を引く。その時、視界の隅でザッカリーが立ち上がりホーンドベアー目掛けて散弾スリングショットを発射した。

 小型の鳥を落とせるくらいの散弾を発射できるスリングショットだが、ホーンドベアーにはほとんど効果はないだろう。徒に敵意を煽るだけじゃないか。

『ギャオォォン!』

 何と、放たれた散弾のうちの1発が奴の左目に命中したらしい。ちょっと怯んだ感じだ。今だ! 俺は小山になっている土を再度操る。

『ゴォッ! グワォォォォォォン!』

 俺に操られた土がホーンドベアーを覆い尽くす直前に例の咆哮が来た。
 かなり距離が近かったこともあり、耳をつんざくような大きな咆哮だった。

 まずい。ウインリーは完全な恐慌状態に陥ったろうし、ザッカリーやベックウィズもどうなるのか?

 いやいや、それ所ではない。今の咆哮で俺も一瞬体が硬直し、同時に精神集中が乱される。

 これは危険だ。俺は硬直から立ち直るのに1秒程度かかるが、ホーンドベアーは中途半端に覆っただけの土から抜け出るのにどのくらいの時間がかかるのか? 俺が立ち直るのと大して変わらないような気がする。

 俺はすぐに風魔法を使い奴の周りに竜巻のように空気の渦を作り出す。竜巻は土を巻き上げ、奴の視界を塞いだ筈だ。だが、かなり強い竜巻だが、あんな何メートルもある熊を上空に巻き上げるだけの力などあるはずも無い。力ずくで突破される可能性も高い、と言うより、突破されることは前提だ。今の竜巻は次の仕掛けの準備に過ぎない。

 俺は水魔法と火魔法を使い、また氷を出すが、今度は火魔法を使う前に無魔法で水を整形する。直径50cmほどの槍状にだ。そして火魔法で凍らせ、まるで尖った電信柱のような槍を作り上げる。無魔法でこいつを飛ばしてやる!

 俺と小山までは30mあるかどうか。
 電信柱を俺の後方200mのところまで移動させる。
 そして、既に風魔法の持続を切った小山の上には目を庇っているホーンドベアー。

 出来るだけの速度で電信柱を飛ばす。
 時速何Kmか知らないが、猛烈な速度で飛翔する電信柱。

 ホーンドベアーの頭を目指して飛翔する超大型の槍。

 こいつが当れば流石に即死だろう。

 ホーンドベアーも猛スピードで飛んでくる槍に気がついたようだ。

 だが、もう遅い。

 多少動いたところで俺の誘導から逃れられるものか。

 死ね。

 狙いは過たず、氷の電信柱は奴の頭蓋を貫通し、頭を吹き飛ばしてどこかへ飛んでいく。

 全てが終わり、空を見上げると太陽はまだ中天にも達していなかった。



・・・・・・・・・



 それから暫くは油断無く周囲を警戒したが新たなホーンドベアーが現れることも無く、他の危険な魔物が現れることも無かった。ベックウィズとザッカリーは状態が恐慌(大)になっており、MPも6とか7しか残っていなかった。彼らが回復するのに10分程もかかった。状態が良好以外から変化するのはいろいろと問題がある。特に今回のようなケースを思うと、いろいろと考えさせられる。

 ケリーとウインリーは2時間が経過しても回復しなかった。恐らくMPがゼロだからだろう。

 暇で仕方ないので二匹のホーンドベアーから魔石を回収し、ついでに一番上等とされる腹の肉や横隔膜、肝臓を取り、ゴム引きの布袋に入れた。かなり大きな袋はそれだけで一杯になった。氷漬けの方は氷に100度くらいの火魔法を再度かけてすぐに溶かした。周り中が水浸しになったが仕方ないだろ。

 ベックウィズとザッカリー、ミルーは興奮したように語り合いながら、俺は粛々と作業をしていた。いろいろ考えていたのだ。あの咆哮は耳栓をすれば大丈夫なのだろうか、とか下らない事からはじまり、最後に使った氷の槍について彼ら二人が覚えていたら厄介だな、などと考えていた。

 結論から言うとベックウィズとザッカリーの大人二人が恐慌状態で殆ど記憶がないことを彼らの会話から推測する。最後に使った俺の氷の槍の魔法は見られたかもしれないが、話している内容を聞くに、覚えては居ないであろう事を確認し安心する。

 ミルーは二人には「最終的にアルが魔法で仕留めた」と説明していた。

 さあ、帰ろう。



・・・・・・・・・



 木陰から覗いている奴に俺達は気がつかなかった。距離が結構あったし、暫く周りを警戒していても襲われそうな気配が無いことが確認できていたからだ。

 ホーンドベアーは数年で生殖可能な大人になるらしい。

 こいつとはこれから先、暫く付き合うことになる。

 一方的に奴が突きかかって来るだけの関係だが。

 奴は俺を仇か何かのように……。

 
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