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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百五十話 換金 2

7447年8月5日

「う……これは……」

 商会長は袋から取り出した【豪傑の腰巻きロインクロス・オブ・ダーリング】を一目見るなり魔力感知ディテクト・マジックを使いもせず絶句した。

 無理もない。

 洗濯はしているからもうとっくに悪臭は落ちている(注意して嗅げばズールーの香りが鼻孔をくすぐるだろう)が、何だか訳の解らんボロっちくてきったない革にしか見えないし。

 それでも一応手に取ってまずはステータスを見、次いで魔力感知ディテクト・マジックの魔術を使った。

「……【豪傑の腰巻きロインクロス・オブ・ダーリング】ですか……確かに魔法の品(マジック・アイテム)のようですが……。しかし、この……いささか使い古したような革ですと、そのぅ……」

 ほれ、腰巻き(ロインクロス)なんだから腰に巻いてみてくれよ。
 巻いても頭の中に何も浮かんで来ねぇけど。

 しかし、流石は大手商会を預かる商会長だけのことはある。
 会長はスッとソファから立ち上がると腰巻き(ロインクロス)を巻いた。
 勿論、本来は下着じゃない。
 ミノはそれしか身に着けていなかったので下着みたいになってたが、鎧の上から腰に巻いてミニスカートのように身に着ける物だ。

「特に何も感じませんな……」

 やっぱそうか……。
 メインの効果がステータスに影響を及ぼすアイテムは身に着けても何も感じない。
 これは【力の腕甲ブレイサー・オブ・マイト】で試しているので判ってはいた。

 え? 腰巻きを身に着けたことがあるのはズールーだけだよ。
 なんか、その……嫌じゃんか。
 ズールーに訊いても「別に何も感じない」とは言っていたからそうじゃないかと思ってたけど、やっぱね。

 いやぁ、腕甲と腰巻きだと腰巻きの方が強力だと思うけど、取り上げるなら奴隷からだろう。
 それ以上の意味は無い。

 会長は腰巻きを外すと丁寧にテーブルの上に置く。

「それはどうでしょうか? 売れそうですか?」

 会長が黙ったまま俺を見たので訊いてみると「難しいでしょうな……ですが、感じる魔力はかなりの物ですから希望がない訳ではありません」と言われた。

「オークションとは別に以前の指輪のようにどなたか効果を知っていらっしゃる、又は調査可能な方にお心当たりはございませんか?」

「ふぅ~む……まぁダメ元で訊くくらいは……」

「そうですね。販売するかどうかはともかく、調査だけでもして頂けますと……そのままでは価格の付けようも無いでしょうし……」

「解りました。こちらの商品はお預かりいたします。調査費用はこの腰巻き(ロインクロス)に込められた魔法の効果やその度合によって変わりますが、結構ですかな?」

「どの程度の価格が見込まれますか?」

「おおよその目安ですが、込められた効果が魔法のレベル換算で一レベル毎に百万Z程とお考え下さい。また、二~三ヶ月中に効果がはっきりと判明しない場合にはお代は結構です」

「解りました。その条件で調査をお願い致します。それまでお預けします」

 ミヅチと二人、商会長に頭を下げてお願いし、サンダーク商会から辞去した。
 腰巻き(ロインクロス)の借用書などはいちいち書かない。
 何度か取引もしてお互いそれなりに信用もあるし、何より少し遠いが親戚筋でもある。

 なお、アミュレットの販売代金は今日明日にでも支払われる予定だそうだから、購入した人は王都の人なのだろう。
 明日の夕方に代金を受け取りに来ることになっている。



・・・・・・・・・



「あの会長さん、読みが凄いね」

 サンダーク商会から俺の商会へと向かう道すがら、ミヅチが感心したように呟く。

「そうだな。殆どピタリ賞だ。それにあれだけの金を払える顧客を掴んでいるって人脈も大したもんだ」

 今の俺には不可能に近い。
 いずれはそういった大金持ちの商人や貴族とも誼を結びたいが当面は無理だろう。

「でも、これで……」

「ああ、今回の金が入ってくれば、税金払っても手持ちでギリギリ九十億を超える……例のワイヴァーンの鎧はもっと高いだろうから……」

 肩越しにミヅチを見るとふんわりとした笑みを浮かべていた。

「うん、良かったね」

「二十歳前に金に目処が付いたのは本当に幸運だったよ……俺一人じゃ……」

 もっと多くの時間を必要としただろう。

「そこは気にしなくてもいいんじゃない? 皆もそういう気の使われ方は喜ばないんじゃないかな?」

 確かにそうだな。

 商会に到着すると二階に上がって一休みすることにした。

 しかし、何もせずにだらけている訳にも行かない。
 氷を浮かべた冷たいお茶を飲んで一休みしたら午前中は帳簿の整理。昼食を挟んで午後は仕入先への挨拶回りだ。お中元のような贈り物の付け届けは勿論だが、牧場主への引っ越しの交渉など、やることは山のようにある。



・・・・・・・・・



7447年8月7日

「うおっ……」
「綺麗……」
「おっきいね。あむ……金貨より硬いのか」
「噛むなよ……汚いだろ」
「これが……ステータスオープン……」
「ほほう、俺も。ステータスオープン……」

 例の【地魔法除け(アース・アミュレット)】の売却代金から納税した残り、五十二億八千七百五十万Zからボーナスを支給した。
 ロリックとバストラルを除く転生者とゼノムが対象だ。

 一人あたり一億Zを超えるのでそれらの人については白金貨を使ったのだ。白金貨の大きさは金貨より二回り程大きい直径約七十㎜。厚みもかなり厚く、その重量は二百gを超えるだろう。

 ボイル亭の俺の部屋で一通り白金貨を眺めたあと、全員でぞろぞろと神社に行ってロッカーに金を預けた。

「ねぇ、今回で結構お金溜まったっしょ? 百億超えた?」

 ラルファがウキウキした表情で聞いてきたが、それを聞いた全員が俺に注目した。

「ん~、まだ十億くらい足りない。でも、先月のワイヴァーンの鎧が完成すれば楽勝で超えるだろうな」

 俺も上機嫌でニコニコしながら答える。

「来年の春くらいでしたっけ?」

 グィネが言うのは鎧が完成して納品される時期だろう。

「その筈だ」

「でも、どのくらいの金額になるかは判らないし、それまではまだ迷宮で稼いだほうがいいと思います」

 トリスが頷きつつも言う。ベルも同調する。
 彼らも奴隷の購入を考えているらしい。
 その為にはもっと多くの金が必要になる。
 余裕を作るためにも更にある程度稼いでおきたいと全員一致した考えでいるようだ。

 勿論、ワイヴァーンの鎧はとんでもない値段になるらしいから目標金額(個人的には、国王に支払う百億Zとは別に百億Zは色々な買い物や工作など投資用の金として必要だと思っていた)は非常に高い可能性で大幅に上回ると見込まれる。足りなきゃ高価そうな魔法の品(マジック・アイテム)はまだあるからそれらを処分して賄えばいい。【そよ風の蹄鉄ブリーズ・ホースシュー】を除けばどうしても必要だと思える品は無いんだし。

 それに、ワイヴァーンの鎧が完成するのは来年の春だ。それまではシコシコと迷宮に潜って稼げるだけ稼ぐさ。尤も、稼ぐのも大切だが例の収集端末兼変性装置の調査……してどうするんだよ? まぁ、興味はある。どうせ宇宙船の修理とか絶対に無理だろうから、そっちの方じゃなくて、データバンクに格納されているだろうルーグ3(オース)の情報だ。

 これ以上の情報が取れる見込みは少ないが、確実にこれ以上の情報が取れないと確信するまでは調査するつもりだ。そうじゃないと、いつか「あの時もっとちゃんと調べておけば……」なんて思わないで済む。そう思うのは俺だけじゃない。誰が思っても不思議はない。



・・・・・・・・・



7447年8月13日

 夕方に迷宮から地上へ戻ってきた。
 真夏のバルドゥックは盆地のため夕方でもあまり涼しくはならない。
 噴き出る汗を拭いながら俺たち救済者セイバーズの帰りを待ってくれていた皆と合流して飯を食いに行く。

 装備を置いて着替えようとボイル亭に戻ると、番頭さんから声を掛けられた。
 なんでも、言伝があるらしい。
 またお嬢様の誰かが接触を図ろうとして来たのか、それとも殺戮者スローターズに入れてくれといういつものよく知らん冒険者からか。

 番頭に呼び止められた俺を、いつもの事だとその場に残して皆はそれぞれの部屋に戻るため階段を登っていく。

 ……。

「この言伝はいつ?」

 番頭さんに聞くと、昨日だと言う。丁度俺たちは迷宮に入っており、今日戻ると伝えたところ、出直すと言ったらしい。今日も午前中と午後の二回、戻っていないか確認に来たそうだ。 

 ふふん。思ってたより結構早かったな。

 自分の部屋で装備を脱ぎ、着替えているとミヅチが来た。

「クローとマリーな。もうバルドゥックに着いてるってよ」

「え? ああ、あの人達か。もう少し掛かりそうとか言ってなかったっけ?」

 言ってたけど、それはあくまで俺の予想だ。キールからバルドゥックまでは馬車がいなければ急いで三週間。普通に来て四週間。のんびり来ても一ヶ月だ。馬車付きならプラス二週間くらいかね。四月中にはキールを出るような事を連絡してきていたから、調査には二ヶ月以上掛けたという勘定だ。

「で、いまどこに居るの?」

「取り敢えずマートソン亭に宿を取ってるらしい。ジンジャーもヒスも二人の顔は知らないだろうから、今日、もう一度来るようならムローワに来いってフロントに伝言残しといた」

「私、迎えに行こうか?」

「ん~、行き違いになっても……まぁいいか。一緒に行こう」

 じゃあ着替えを急ごう。
 シャワーは適当でいいや。
 フロントの伝言は行き違いになった時のためにそのままにしておくことにする。皆には先にムローワに行っておいてくれと言い残して、ミヅチと二人でマートソン亭に向かった。



・・・・・・・・・



 マートソン亭に着いて確認したらクローとマリーは居たが、ジンジャーとヒスは出てしまった後だった。部屋に案内されたのでクローとマリーが取っている部屋に入った。こいつら、生意気に二人部屋だよ。未成年の癖に……って成人してたわ。

『悪いな。さっきまで迷宮にいたんだ』

 そう言って二つしか無い椅子の片方に腰掛ける。ミヅチはもう一つの椅子で、クローとマリーはそれぞれのベッドに腰掛ける形になっている。挨拶は済ませている。

『あの、アル、これ……』

 マリーが金貨を数枚と他の硬貨を何十枚か差し出して来た。

『いい。持ってろ。二千万や三千万程度の金はすぐに稼げるから、そん時まとめて返してくれりゃいいから』

 硬貨を押し戻して笑いながら言うと、二人は驚いて顔を見合わせる。

『ねぇ、それよりお二人はご結婚なされたんでしょ?』

 ミヅチが微笑んで言うと二人は照れ臭そうに手を差し出してきた。
 ステータスを見ろと言うことだろう。

「ステータスオープン……」

【クロフト・バラディーク/5/1/7447 クロフト・バラディーク/11/6/7440】
【男性/14/2/7428・普人族・バラディーク家当主・ウェブドス侯爵騎士】
【状態:良好】
【年齢:19歳】
【レベル:7】
【HP:104(104) MP:22(22) 】
【筋力:15】
【俊敏:20】
【器用:15】
【耐久:15】
【固有技能:誘惑セデュース(Lv.6)】
【特殊技能:地魔法(Lv.2)】
【特殊技能:水魔法(Lv.2)】
【特殊技能:無魔法(Lv.2)】
【経験:59189(60000)】

【マリッサ・バラディーク/16/4/7447 マリッサ・ビンスイル/10/4/7447】
【女性/14/2/7428・普人族・バラディーク家第一夫人・ウェブドス侯爵騎士】
【状態:良好】
【年齢:19歳】
【レベル:7】
【HP:106(106) MP:27(27) 】
【筋力:14】
【俊敏:21】
【器用:17】
【耐久:16】
【固有技能:|耐性(毒)《ポイゾナス・トレランス》(MAX)】
【特殊技能:水魔法(Lv.2)】
【特殊技能:火魔法(Lv.2)】
【特殊技能:無魔法(Lv.2)】
【経験:54196(60000)】

 む……クローの【誘惑セデュース】のレベルが上昇している。
 すまんな。

 それと、相変わらずマリーの能力値は僅かだけど高い。
 おそらく、子供の頃きちんと栄養を摂り、飯屋の手伝いと言う、一桁の年齢に合った適度な運動をしていたからだろう。
 農作業や剣の修業なんかは一桁年代後半という子供には適度を超えた重労働だから、彼女の生い立ちが能力値の上昇には最適と言うことか。
 やはりMP以外でも十歳までは色々とあるようだ。
 なんでもやり過ぎは良くないとも言うけど……。

 まぁ、大した違いはないし、この程度、半年も迷宮で鍛えてやれば誤差だ、誤差。
 それに、能力値の熟練度については別物だから能力値が高い程良いとも言えないしね。

 それよりも経験値を見れば彼らがどれだけ努力をして来たのかが判る。
 戦争では一度も剣を交えておらず、魔物退治なんか年に一回か多くて二回。
 それだってホーンドベアーあたりを何十人かでタコ殴りしてたんだろうから一回殴れればお慰みだろう。
 となると、あの経験値はその殆どが修行で稼いだものの筈。

 魔法の技能だって生き物にダメージを与えるような事は出来なかっただろうから毎日毎日、それこそ血の滲むような努力をしていた筈だ。

『二人共、結婚おめでとう』
『おめでとうございます』

 心から祝福する気持ちで言った。
 はにかんだマリーは真っ赤になって俯くかと思ったが、照れくさそうに笑っていた。

『二十以上も年上の嫁さ痛っ!』
『年の話はするなって言ってるでしょっ!』

 しかし、去年会った時も思ったがクローは顔つきからして昔別れた時の甘さは抜けている。
 騎士団で揉まれ、それなりに成長したということだろう。
 責任だってある程度持たねばならなかったと思う。
 そういう意味ではラルファやグィネなんかあんまり成長しているように感じないのは……俺のせいでもあるんかね?

 転生したと言ってもラルファなんか元は高校生。
 その後は長年冒険者をやっていたから、そういった部分での甘さはないが、どこか未だにガキ臭いところも多い。
 冒険者なんか風来坊ホームレスとあんまり変わらないし、ゼノムと二人、気ままに流れていたんだから責任なんか一切感じない子供時代を二回やってるだけに過ぎないんだよな……。
 グィネも合流するまで行商人であった親の庇護下にあって何の責任を負うようなこともなかった筈だ。
 おぎゃあと生まれ落ちて三十年以上経った人には見えないよねぇ……。

 ま、いいや。

 にこにこしながら夫婦漫才を見るのも飽きた。

『ところで、ダート平原の調査の方だが……』

 二人はダークエルフが出して来たような羊皮紙の報告書レポートを荷物から引っ張り出してきた。

 ふむ……。

 そこそこ良く纏まってる。測量なんか出来ないから見た目からの推測に過ぎないが耕地面積や見込みの収穫量も作物別に表になっている。農業以外の産業についても言及がなされており、不充分ではあるが産出されている金属についての記載もある。

 駐屯している軍隊や領地の郷士騎士団についての情報も結構詳細だ。惜しむらくは治安状況について一切の記載が無いが、こちらはダークエルフの報告書で補完すればいい。

 特筆すべきなのは通ってきた街村の領主に関する民衆の評判について書かれていることだ。

 俺が領地を得たら、今までその地を治めていた代官と一緒に王都に帰る人も居るだろうから全部が全部そっくりそのまま俺の下級貴族として残る訳ではないけれど、元々その地に根付いているために残る人だって居るだろうからこれはかなり参考になる資料と言えるだろう。

『ありがとう。こいつは大いに助かるよ』

 礼を言うとクローとマリーは一度顔を見合わせる。そして一つ頷くとマリーが口を開いた。

『ねぇ、言われたから結構真面目に調べたんだけど、どうするの?』
『うん。一体何に使うんだ?』

 ああ、言ってなかったな。

『近いうちに工作して上級貴族として授爵する。この四つの領地のどれかを俺が領有して旗揚げするんだ。そのための下調べだよ』

 詳しいことを初めて耳にした二人は一瞬だけぽかんとしてあっけにとられたような顔をしたが、すぐに詰め寄ってきた。

『おい、領有だって? どういうことだ?』
『上級貴族になるの?』

 事情を簡単に説明し、細かいことはこれから行く飯屋で他の奴に確かめろと言った。



・・・・・・・・・



 ムローワでクローとマリーの二人を皆に紹介した。
 俺の故郷の騎士団に放り込んでいた二人については以前に話したこともあるし、グィネやエンゲラも既に顔を合わせているので転生者の間に溶け込むのは問題がなかった。
 ただ、転生者以外のメンバーには二人共気後れしていたようだ。

 まぁ、バルドゥックで最高の冒険者だからそういう事もあるだろう。
 ロッコなんか顔はいい男だけど結構粗暴なところもあるし、カームやキム、それにぽやんとしているイメージが強いミースだって元々持っている雰囲気は凄腕冒険者のそれが匂い立つ。
 勿論他のメンバーも似たり寄ったりだから、碌に命のやり取りをした事のないマリーやクローじゃ雰囲気に飲まれてしまうのも仕方のない事だ。

「さて、次回より迷宮の布陣をちょっとだけ変える。基本的には今まで通りだけど救済者セイバーズから俺が抜ける。暫くの間、一層でこの二人を扱く」

 全員がニヤニヤと嫌な笑いを浮かべた。
 日光サン・レイが吸収された後、暫くの間は来る日も来る日も一層でモンスターを殺しまくらされた事でも思い出したのだろう。
 そんな事は知らないクローとマリーは、一体どこに意地の悪そうな笑いを浮かべられる要素があるのかと不思議なようだ。

「二人共、多分だけどそのままじゃ他の皆にはとても付いていけないと思う。まぁ明日の午前中に腕は確認するから、もし俺の読みが外れてたらその時はまた改めて考えなおすよ」

「む……そりゃあ冒険者としては……迷宮にも入ったことは無いけど、俺もマリーも正式な騎士の叙任を受けてるんだ。剣や槍ならそうそう遅れは取るつもりはないぞ」

 クローは少しムキになっているようだ。マリーも「お荷物になんかならないわ。私だって騎士なのよ」と少し憤慨した様子を見せている。勿論彼ら二人について馬鹿にする気持ちなんかこれっぽっちもない。ある意味で当たり前の評価を下し、無理矢理にでも経験を積ませないと厳しかろうってだけなんだがな……。

「おいおい、お二人さん。自信があるのは結構だがな、アルが言うことは素直に聞いておけって。それともバルドゥックの迷宮を舐めてんのか? あ?」

 ケビンが静かに窘めた。

「でも、俺たちはアルの力になりに来たんだ。足を引っ張るためじゃない」

 クローが反論する。その気持は有り難いんだけどさ。そう肩肘張るなって。

「そうよ。ウェブドス騎士の実力はそれなりに高いと思うわ」

 ああ、そうか。こいつらウェブドス騎士団が舐められてると思ってるんだな。

「しょうがねぇな。おい、ヘンリー、メック。お前らの経歴をこのお二方にお教えして差し上げろ」

 ビンスが貴族の強権を発動させてヘンリーとメックに命じた。

「はい。私、ヘンリー・オコンネルは十年前にデーバス王国ストールズ公爵騎士団に入団し、七年前に正騎士の叙任を受けました。その後一昨年の戦で戦時捕虜となり、その際にご主人様にご購入頂きました。腕にはそこそこ自信を持っておりましたが皆さんにはとても及びませんでした。迷宮に入ってそろそろ二年が経とうと言うのに未だに足を引っ張る事もございます。しかし、ご主人様。必ずお役に立って見せます」

 デーバス王国という外国出身とは言え、正騎士になって五年も経った奴ですら迷宮の冒険者はきついんだと知った二人は少し驚いている。

「私、メイスン・ガルハシュは八年半前にデーバス王国マーカライト子爵騎士団に入団し、六年半前に正騎士の叙任を受けました。その後はオコンネル同様に戦時捕虜からご主人様にご購入頂きました。私もオコンネル同様に腕に覚えはありましたが、やはり皆さんにはとても……。ですが、私も必ずお役に立ってみせます、ご主人様」

 獅人族ライオスである彼もヘンリー同様に、購入された当初は皆に全く及ばなかったと言ったためにクローもマリーも驚いたようだ。
 勿論、全く歯が立たなかったなんて事はない。
 きちんとした指導者の下で体系的に剣や槍の技術を学んで来ていただけあって当初から即戦力だった。

「そう苛めてやるな。……クロー、それからマリー。不満を持つのは結構だが、実力は確認しておかなきゃならない。新婚早々の二人の命だけでなく、皆の命に関わるからな。それに、ここに居る誰もウェブドス騎士団を侮ったりはしていないよ。こう言っちゃ何だが、実力さえ証明出来りゃいいんだし」

 まぁ、皆も転生者だとは言え新人がいきなり足手まとい扱いするななんて生意気な口を叩いたものだから少しからかっただけだ。すぐに判ることだしね。

 なお、翌日の全体訓練では案の定、クローもマリーもこてんぱんにやられた。しかし、皆のその裏にある感情も読める。新人二人が入ったことで救済者セイバーズへの競争率が上がることを懸念していたのだ。まして、二人は転生者であり、尚且つちゃんと実力で正騎士の位を勝ち取っている。ロリックのように伯爵家の長男だからといってほぼ自動的に正騎士に叙任されることはないのだ。

 ああ、二人の名誉のためにも追加で言っておくと、確かにそれなりの実力は確かめられた。昔のフィオ程ではないが昔のロリックよりは余程マシだ。これなら二層や三層でも油断しなきゃ戦える。大丈夫だろう。

 って事は、多少は無理も出来るって事でもある。
 あんまりのんびりとしてられねぇからな。
 時間が許す限り徹底的に扱きまくってやる。

 
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