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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第三十四話 更なる覚悟

『グォルッ、グォォォォォォルゥゥアァァァッ!』

 物凄い大音声の咆哮だった。
 その叫び声を耳にしたとたん、全員の体が強張り、自由が効かなくなった。
 あくまで一時的、僅か1秒程度ではあるが、確かに硬直し、動けなかった。

 硬直中に慌てて目の前にいたベックウィズを鑑定してみると【状態:恐慌(小)】になっている。また、MPも最大値から1減っている。ベックウィズは元々多少の魔法が使えるが、それでもMPの最大値は20もない。そこまで考えて気がついた。確かケリーのMPは3しかなかったはずだ。MPがゼロになるとまずい!

 想像通りケリーのMPは1減って2になっており、【状態:恐慌(大)】になっている。パニック寸前か、既にパニックを起こしているかのどちらかで、どう考えても危機的状況だ。

 何だ? 一体どういうことだ?

 確かに先程の咆哮は非常に恐ろしい物ではあったが、パニックを起こす程のものだったか?

『グォォッ、ゴォォォォゥゥゥアァァァッ!』

 うわっ、まただっ!

 今度は俺とミルー以外はすぐには動けないようだった。また硬直が発生したと同時に鑑定してみるとケリーのMPは既にゼロで状態は括弧のつかない恐慌だった。恐らく、完全な意味での恐慌状態ということだろう。あっと言う間に腰を抜かし、あわあわ言うだけで何も出来ない様子だ。

 また、大人三人も状態は恐慌(小)だったはずなのに、今は恐慌(中)へと変化し、多少腰砕けのような状態になって膝が笑っているようだ。MPも更に2づつ減っている。元々のMPが6だけだったウインリーは既に半減している状況なのでこっちもまずい。俺はミルーと顔を見合わせるとまずは見るからに動ける状態ではないケリーを引き摺って木陰に隠した。

 隠しながら振り返り、様子を見るが、まだホーンドベアーの姿は確認できない。今のうちに隠れるなり逃げるなりこちら側の態勢を整えないとどうしようもない。だが、どう考えても俺とミルーで大人三人に加えてケリーの面倒を見ることは不可能だ。

「アル、とにかく皆を木陰に! 最悪、やるしかないわ!」

 ミルーはそう言うとケリーを俺に任せ、膝が笑っている大人達を押すようにして移動させようとする。やはりMPの多さなのだろうか、ミルーは俺と同様に一時的な恐慌状態からすぐに立ち直り、指示してきた。既にミルーの状態は俺と同様に良好に回復している。ひょっとしたらあの叫び声を聞くと恐慌状態になってしまうのかも知れない。俺とミルーは瞬時に立ち直ることが出来たが、多少MPが多いとは言え、恐慌(小)の状態のまま再度あの叫び声を聞いてしまうと、恐慌状態は進行し、恐慌(中)になってしまうのかも知れない。

 俺は一瞬の間に直感的にそこまで閃いたが、今はそんな分析などしている場合ではない。とにかくケリーを木陰に隠し、ミルーを手伝わなくてはならない。……手伝う? いや、別に手伝うことに不満があるわけではないが、手伝っている場合か? すぐに防御を固めるか、攻撃して無力化しないと結局後手を踏むだけじゃないのか?

 取り敢えずケリーは木陰まで引き摺ることには成功した。まだ相手が視界に入っていない今なら周囲に壁を作る時間も充分にある。地魔法で土壁を作るか、火魔法と水魔法で氷の壁を作るかだろう。火魔法で炎の壁を作ることも当然できるが、初期温度は300度だ。これを100度上昇させるMPは1で済むが10秒程時間がかかる。熊なら数百度くらいの炎の壁を突破しても多少の火傷くらいは負うかもしれないが、矢も通らないような皮膚だ。死ぬことは無いだろう。いつかミュンや間者を拘束した時のように一気に土で押し固めるか?

 数瞬の間にそんな事を考えながらミルーが押しているウインリーの手を引くように振り返った。見えた、多分250m位先だろうか、茶色い体毛のかなりでかい熊だ。こちらに向かって四つ足で駆けて来ている。パッと見たところ体高は2mはありそうだ。あれなら立ち上がったら5mはあるんじゃないか? まだそうスピードは乗っていないようだがあの勢いでスピードを上げて駆けてこられたらここまで来るのにもう10秒もないかも知れない。もう考えたり迷ったりしている暇はない。勿論悠長に鑑定なんかしている場合でもない。

 俺はウインリーの手を離すと両手を広げてホーンドベアーに向き直り俺の使える最大の6レベルの水魔法を100倍で使い、同時に火魔法も6レベルで100倍にしてマイナス30度の氷で固めようとした。大丈夫、まだ数秒はあるから集中は出来る! 元素魔法合計で1200ものMPも使って縦横50m四方、高さ5mの氷の板を俺の前方25m辺りを中心になるように出現させる。勿論、タイミングは考え、温度調節は初期設定で可能な下限、飛ばして狙い撃ちではなくてホーンドベアーが丁度いいポイントに着いた瞬間に発動させる。無魔法で操ったり、温度調節など余計なことをしなかった。と言うより、余裕がなくて出来なかった。

 50m四方にわたって地面から急激に水が発生し、1秒と経たず、一瞬にして水位は5mに達する。同時に俺の前に高さ5mの氷の壁が出現する。幅50m、奥行50mの量だ。その中心部あたりにホーンドベアーが氷漬けにされている格好になった。周囲の木と一緒に気泡もなく透明度の高い氷で彫像のように閉じ込めた格好だ。このまま放っておくと火魔法に持続を込めていないのでいずれ溶けてしまう。そう、火魔法と風魔法だけは効果を維持させるのに無魔法の持続を重ねなければならないのだ。水魔法や地魔法は維持に魔力を使わなくても出現させた元素は放っておけは永続的に存在するのだが。

 使う魔法は別に地魔法でも良かったのだが、地魔法で発生させる土は効果範囲の下部からではなく、上部から発生するのだ。おそらく大した違いは無いだろうが、少しでも早く足を止めたかったので下から発生する水魔法を使ったに過ぎない。だって、水の抵抗だって馬鹿にはできないだろう?

 今は5月で気温も20度くらいだろうか。魔力で維持をしなくてもこれだけの量のマイナス30度の氷の塊はそうそう簡単に溶けたりはしないだろうが、いつどうなるかはわからない。そもそもあんなにでかい熊と接近戦で戦うとか無理だ、と思う。俺は更に水魔法と火魔法で10m四方くらいの量の氷を作り出し、無魔法で熊の上に運び下ろして歪なピラミッドのようにしてから、恐る恐るホーンドベアーを鑑定してみる。

【 】
【女性/1/7/7403・ホーンドベアー】
【状態:良好】
【年齢:33歳】
【レベル:13】
【HP:181(181) MP:5(7)】
【筋力:39】
【俊敏:14】
【器用:7】
【耐久:33】
【特殊技能:咆哮】

 ついでに咆哮の特殊技能のサブウインドウも見てみる。

【特殊技能:咆哮;威嚇のために上げる叫び声。この特殊技能にレベルはない。この声を50ホーン以上の音量で聞いた同レベル以下の高等生物は精神にダメージを受けMPが減少する。減少するMPは聞いた声の音量に比例して大きくなる(最大5MP)。精神にダメージを受けた生物は例外なく一時的な恐慌状態に陥り、体を意思通りに動かすことが困難な時間が発生する。その結果MP最大値の5%以上MPが低下した場合には恐慌状態となり、意思通りに体を動かす事が困難な時間は最低10秒間持続する。この効果時間中に再度咆哮を聞くと恐慌状態は深化し、体を動かすことは更に困難な状態に陥る。この状態は最低1分間持続する。また、効果時間中に重ねて咆哮を聞くことによってこの恐慌状態の深化は更に2段階進行し、最終的にはMPが残っていても完全な恐慌状態に陥り、精神がパニック症状を起こしてしまう。最終的な恐慌状態に陥った場合には回復までに最低2時間が経過し、更にある程度のMPを回復させないと完全な回復には至らない】

 なるほど、だから俺とミルーはほんの少し硬直した程度ですんだのか。
 ケリーも時間さえ経てば無事に回復するらしいし、ホーンドベアーは氷漬けになっているので暫くは時間がある。

「ねぇ、アル。わたし、母様が昔どうやってホーンドベアーを倒したのか言ったっけ?」

 ミルーが油断なくショートソードを構えつつホーンドベアーを見ながら言う。

「いや、聞いてないけど?」

 ミルーは呆れた様に言葉を継いだ。

「ホーンドベアーの頭や手足の先を氷で固めたんだって。頭を固めると声が出せなくなるし、場合によっては口の中まで氷が入るからちょっとやそっとでは取れないらしいのよね……。そこを父様が剣で何とか倒したらしいんだけど……」

「そうだったんだ……。無我夢中だったからね……。別に何か考えがあってやったわけじゃないよ」

 ちょっと考えるとわかるが、俺は縦横50m高さ5mほどの氷の板を出すためにMPを1200も使った。レベル6相当の魔法200回分だ。単純に元素量だけで考えてもレベル6の水魔法100回分だ。レベル6の水魔法や地魔法で出せるのは5m立方くらいだからな。ところが、これが地魔法だとレベル7まで使える。レベル7だと10m立方程度の量が出せる。単純計算で8倍の体積の元素をMPの消費が1しか違わないで出せるのだ。MPの効率を考えると今回と同じ量の水をレベル6の水魔法かレベル7の水魔法で出すことを考えるとよくわかる。俺は今回50m×50m×5m=12500m^3の水を出し、同じ範囲に火魔法を使って氷にした。まぁ火魔法は置いておこう。これをレベル7の水魔法で同じ量くらいの体積を出すとするとレベル7の12.5倍で出せることになる。まぁ13倍だ。消費するMPはレベル6の場合で600、レベル7だと91だ。地魔法も同様なので、地魔法で同じ量の土を出して埋めたと仮定すると、こちらは火魔法を使わないので13分の1くらいのMP消費で同じ量の土が出せた計算になる。

 しかし、俺は少しでも早くホーンドベアーの脚を止めたくてMP消費効率を無視して氷を出した。地魔法でも、結局突破はされなかったような気もするが、ほぼ中心ではなく、大分こちらに近づいた場所か、真ん中に閉じ込めようと早いタイミングで魔法を発動して、やはり避けられて真ん中からずれた場所になっただろう。勿論今の氷の中だって真ん中でななく、若干俺に近いあたりだとは思うが。

 要はまたびびってしまっただけだ。多少真ん中からずれていたとしても大勢に影響は無かっただろうし、維持の為にMPを使うことも無いのだ。ヘガードくらいの剣の実力でもあればそうそうびびることもないのだろうか? だが、四つんばい状態で体高が2mもある熊に迫られてびびらないってのは早々出来る事でもないような……。

 だが、ミルーが言うには若い頃の両親はたった二人だけでホーンドベアーを倒したと言うではないか。俺は彼らの数百倍、親父と比べても数千倍ものMPを持ちながらびびって腰が引けていたのだ。確かに俺の剣の腕は親父とは比較にならないし、姉と比べても月とすっぽんだ。剣でどうこう出来ない事はわかる。しかし、その代わりの魔法じゃないのか? MPを無駄遣いして、肝心なときにガス欠になるかも知れない。

 ちらりとホーンドベアーに視線を移し、再度鑑定する。氷漬けにしているので窒息するだろうが本当にそうなるのかはわからない。心配になってHPが減っているか確認したかった。少し減っていたのでほっと肩の力を抜き、氷が溶けないように改めて持続の無魔法を使った。無魔法のレベルは8になっており無魔法で出来ることは全て出来る様になって久しい。持続も効率が倍になって使えるのでこれだけの氷を溶けないように維持するのに必要なMPは2分あたり僅か4にしか過ぎない。

 氷の維持も問題がないようなので改めて大人達を見ると全員既にナイフと剣を持っていた。ケリーは未だ木陰で震えているがあれは仕方が無い。皆は恐慌状態に陥りながらも抵抗しようとしていたことが理解できる。確かに俺も魔法を使って氷漬けにしたが、あれは恐怖心からホーンドベアーの足を止めようとしたことの延長に過ぎない。抵抗しようとしたミルーや大人達。恐怖感から足止めをして時間を稼ごうとしただけの俺。どちらが良いとか悪いとかいう問題では無い事はわかるが、どちらがオースに生きる人の考えなのだろうかという問題が残る。

 多分、抵抗したとしても揃って殺されたかもしれない。ミルーは魔法で頭を固めるとか足元を固めるとかしようとはするだろう。ひょっとして上手くいけば出来たかもしれない。出来なかったかも知れない。だが、ミルーがやろうとしたことと、俺が実際にやったことでは天と地ほどの開きがあるような気がする。あれだけの直接的な脅威に立ち向かおうとしたのだ。少なくとも俺以外は迫り来るホーンドベアーをどうにかして殺そうと、殺してでも脅威を拭い去ろうとしていた。俺はといえば殺すことは早々に諦めて時間を稼ぎ、逃げるなり何なりしようとして、それが上手く行ったに過ぎない。

 これは用心深く立ち回り、出来るだけ安全な方法で成果を上げようとする事とは根本的に異なる。蛭を叩き潰し、スライムを丸焼きにして、日本から持ってきた知識を使って、ありあまる魔力を行使して……それらがたまたま上手くいって調子に乗っていた俺の鼻っ柱は見事に叩き折れた。結局肝心なときに逃げ腰になってしまって何が個人の武勇がものを言う? 何が一国一城の主を目指す? 一体どの口がほざくのか。

 まだホーンドベアーのHPは170近く残っている。もう暫くで死ぬことは確かなのだろう。そして、ホーンドベアーを倒した経験値が俺に入ることになるだろう。それはいい。なんだかんだ言っても倒したのは俺なのだから。だが、俺はホーンドベアーを倒した気にはとてもなれない。何しろ倒そうとして、殺そうとしてその結果勝ち取ったのではないのだ。びびって臆病風に吹かれスッ転んだ手にたまたま金貨を握り締めたに過ぎないのだ。

 心を入れ替えねばならない。
 俺はもう地球に生きているのではない。
 オースに生きているのだ。

 ここではここの生き方があり、価値観がある。

 国境ではちょくちょく紛争が起きて、非戦闘員まで巻き添えで殺されることも珍しくないと言う。

 人間達の勢力圏以外にはこのように強力な魔物や獣がうろつき、虎視眈々と獲物を狙っているのだろう。

 暴力が支配し、暴力には暴力で抗わねば問答無用で殺されることも多いだろう。

 油断なく周囲に気を配り、食えそうな相手は殺して食う。

 そうしないとちょっとした油断や慢心でこちらが食われることになる。

 良いとか悪いとか善行とか悪行とかそういったものを全て包括している自然な世界だ。

 無謀に立ち向かうのではなく、常に冷静さを失わず効率よくクレバーに立ち回る。

 俺がこんなことを考えながら氷を維持しているうちにホーンドベアーの状態は良好から窒息になった。HPが数秒ごとにみるみると減少していく。もう限界なのだろう。まだミルー達は油断なく気を配っているようだ。ケリーを中心にして周囲を固めている。大丈夫、もうすぐ死ぬよ。

 反省点は多いが、それを今後に生かさねばならないな。今回だってそうだ。素直に地魔法で埋めてしまえば大量にMPを消費せず、さらに持続に集中力を割かなくてよかったのだ。まだMPは4500以上残っているが、ここで別の敵に襲撃を掛けられたら本当にまずかった。即死させられるのなら別だが、最初から地魔法を使っていればMPの消費を抑えられただけではなく、氷の維持に気を使う必要も無いのだ。少なくとももう暫く、こいつが死ぬまで別の事に気を回す余裕は無いことが問題なのだ。咄嗟の判断力、腰の引けない勇気、冷静に計算できる精神力。俺に足りないものだ。8歳の肉体に引っ張られる精神や感受性とは違うことだ。勿論多少の影響はあるだろうが、もう肉体に精神が引っ張られるなんて事は無視して良いくらいにはなっているのだから。

 ……新たな敵? そう言えばウインリーは子連れだったと言っていた。子熊がいるはずだ! 氷漬けでもうすぐ死ぬこいつの性別は女性、雌だ。母親なのだろう。地球の熊の生態だと父親に相当する熊は一緒ではない筈だ。しかし、ここはオースであって地球ではない。生態系や自然環境も地球に近いと神様は言っていたが完全に同じではないとも言っていたではないか? 火山でもない北の山から硫黄が取れるのも地球ではまず有り得ないことだ。つまり、地球の熊と生態系が同じである可能性は否定しろ! たったいま用心深く、冷静に物事を考えろと思ったはずだ。

 俺は叫ぶ。

「全員、新手に注意しろ!」

 
今回は従士長のベックウィズです。
名前が二つあるのは生まれたあとの命名と従士長に昇進した時の命名です。

【ベックウィズ・アイゼンサイド/14/2/7415 ベックウィズ・アイゼンサイド/18/3/7389】
【男性/2/6/7388・普人族・グリード士爵家従士長/アイゼンサイド家当主】
【状態:良好】
【年齢:47歳】
【レベル:12】
【HP:109(109) MP:18(18) 】
【筋力:19】
【俊敏:14】
【器用:26】
【耐久:20】
【特殊技能:風魔法(Lv.2)】
【特殊技能:無魔法(Lv.4)】
【経験:256329(270000)】
+注意+
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