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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百四十三話 The Un-Dead 6

7447年7月15日

 レジストの魔術を使っておきたかったが自分に掛けるので精一杯だった。
 すまんな。

 自動ドアは秒速五㎝もない程の非常にゆっくりとした速度で降りていく。
 古くてどこか作動不良を起こしているようだ。
 ガタついている。

 頭頂部を鑑定した瞬間、銃剣から左手を離し素早くディレイドブラストファイアーボールを十倍威力で作る。
 遅延タイマーは二秒だ。
 同時に全員に対して姿勢を低くしてしゃがむように合図をする。
 バースとジルも一拍遅れはしたものの、すぐにしゃがんだようだ。

「……全く、いちいち儂が警備を切らねばならんのも面倒だと言うに……」

 ブツブツと不平を言う年を取った男の声が扉の向こうからこぼれてくる。
 まだ勘違いしているようだ。
 先ほどのアナウンスの内容から考えるに、内部では“警備システムが作動した”という事しか判らないのではないだろうか?
 セントリー・ガンが設えてあった通路には監視装置と言うかカメラのようなものはないのか、あっても経年劣化して既に機能していないのだと思う。

 そうじゃなきゃこちらの正体は警備システムが作動した瞬間に露見している筈だ。
 それから、警備システムの作動スイッチはきっとこの扉の側、恐らくは扉の向こう側にあるのだろう。
 スイッチを切りに来たついでに扉も開けてやろうということだろうね。
 部下(?)に対する優しさが仇になったな。

「ワズムン。お主、趣味が悪いのか我慢強いのか……こんな光……獲物の装備など外してから……」

 死霊討伐グレイブ・ストライクを掛けられた武器の光を感じているようだ。
 のんきだねぇ。
 尤も、何百年か何千年かは知らないが、手下以外誰もここに来た奴なんかいないだろうからね。
 勘違いや警戒心が薄いのも無理は無い。
 俺はそれにつけ込むだけだ。

 俺の手の中に魔力が集中し、拳より少し小さいくらいのダイヤモンドの様な結晶となる。
 出来た。
 こいつは起爆した瞬間に直径五十㎝くらいの巨大なファイアーボールと化す。
 燃え盛る礫を無数に周囲にばら撒くのだ。

 向こうがこちらを視認したのが早いか、俺が手榴弾宜しくぽいっと扉の向こうに投げ入れたのが早いか。勿論投げ込むと同時に俺の前にアンチマジックフィールドも張って防御壁とするのは忘れちゃいない。

「なっ!?」

 驚愕の声が上がる。
 そらま、そうだろうね。
 襲撃など予想だにしてなかったようだし。
 すぐに轟音が鳴り響き、半分近くまで降りてきたドアの上半分から僅かながら燃え盛る礫が天井に跳ね返ってこちらの通路にも飛んで来る。
 予想はしてたが、このドアも頑丈なんだな。

 礫が俺の魔術で相殺されるとすぐに立ち上がり、無言のままに床の中に沈みつつあるドアの上端に左手を掛け、跳躍と同時に左手を引き寄せてドアを飛び越える。
 勿論アンチマジックフィールドは維持したままだ。

 ドアの向こうは三十m弱の通路が続いており、その先はT字路になっているようだ。
 この通路がTの字の縦線になる。

 T字路の突き当たりの壁の前。
 吹き飛ばされたのであろう人影が見える。
 ボロボロになった、かつて服であったろう物を纏っているが、ファイアーボールでボロボロになったと言うよりは元の時点で結構ボロボロだったんだと思う。
 俯いた頭からは結構長めの灰色の髪が生えているが、ファイアーボールに曝された事を考慮に入れてもそのボサボサ具合は最後に手入れをしてからかなり時を経ているように見える。

 壁を背に、顔の前で腕を交差させた防御姿勢を取っている。
 腕を含む体中に銃弾のように礫がめり込み、ブスブスと煙を上げていた。
 吹き飛ばされはしたんだろうが壁にぶち当たった訳では無いようだ。
 背の高さはドア越しに頭頂部を見た時に想像していたが俺より二十㎝は低いだろう。
 ボロ服のお陰で体格まではよく判らないが、見えている前腕の感じからして枯れ木のよう、と言う訳ではなさそうだ。 

 【HP:0+367(498) MP:508+50(558)】

 しかし驚いたね。
 威力十倍のディレイドブラストファイアーボールをまともに食らった筈なのに死んでねぇよ!
 大ダメージだけどさ。

 交差させていた腕をすっと元の位置に戻し、すぐにこちらに顔を上げた。

 髪の毛の下には声から想像した通り老人のようなしわくちゃの顔があり、その双眸は邪悪な赤い光を発している。

 正直言って色々と話をしてみたい気持ちもあるが、今は会話よりも優先しなければならない事の方が多い。
 そもそも気を抜いている所にいきなり攻撃魔術を叩きつけるような相手に対しては怒りしかないだろう。

 俺の後ろで何人かがドアを乗り越えて飛び降りる音が聞こえた。

 しわくちゃの老人の顔が、ニィ、と歪む。

 すべて理解した。こいつらは想定外の侵入者だ。
 とでも言うかのような表情をしてこちらに手を伸ばす。

「来るぞっ!」

 一言警告を発し、アンチマジックフィールドを維持しながらダッシュを開始する。
 さぁ、来い!
 攻撃魔術は全部受け止めてやる!

 魔術を維持しながら駆け寄ってくる俺を少し驚いたような表情で見た老人だが、すぐにその手から電撃が発せられた。狭い通路だし、チェインライトニングだろう。

 電撃はバリバリと空気を引き裂く音を立てつつもアンチマジックフィールドに受け止められ、僅かな紫電を発したのみで消滅する。

 己の攻撃魔術が消滅させられたにも拘らず、老人は僅かに感心したような表情を浮かべたのみ。
 慌てることなく再度攻撃魔術を放ってきた。

 老人の手から巨大な石槍が打ち出される。

 これは、ストーンカノンか!?

 だが、この程度であればチェインライトニングより容易く受け止められるさ!
 前に突き出した左手の先に張られているアンチマジックフィールドの位置を調節して受け止めた。
 石槍の先頭が紫電を放ちながら俺のアンチマジックフィールドに飲み込まれてゆく。

 その間にも俺とヴァンパイアロードとの距離は縮まってゆく。

 さぁ、次はどうするつもりだ?
 どんな魔術だろうが全て受け止めきってやる。

 と、ヴァンパイアロードはいきなり横っ飛びに掻き消えた。
 風魔法か。
 風は大部分を殺したが、風魔法により発生した空気と俺との間にあった空気まではアンチマジックフィールドでも殺せない。
 僅かに俺の走る速度が鈍った。
 俺から見て左方へとすっ飛ぶ老人のヴァンパイアロード。

 T字路の奥、左右に広がる通路は左側がそのまま部屋に、右側は十m程先で行き止まりになっているようだ。行き止まりじゃなくて閉じた戸かも知れないけど。

 通路の奥、部屋の入り口あたりで両足を広げて腰を折り、左手を地につけたヴァンパイアが空いた右手で壁の一部を叩く。
 俺の後ろで先程のような戸が動く音がする。

「貴様ら、儂を守れ! 時間を稼げ!」

 老人が何者かに命令し、再び風魔法を使って部屋の奥へと退避した。
 仕切り直そうと言うのだろう。

 ならば。

 振り向きざまにアンチマジックフィールドをキャンセル。
 すぐさま開き始めた扉の前に二十倍でアシッドクラウドの魔術。
 通路の奥は五mもの奥行きにわたって黄色いガスで充満した。

 まだあの扉の向こうに何が潜んでいたのかは不明ではあるが、これで少しは足止め出来るといいんだが……。
 たとえヴァンパイアだとしても強力なびらん性の強酸ガスを乗り越えてノーダメージという訳にはいくまい?

「後ろは任せたぞ! 出てくる奴だけ全員で相手をしろっ!」

 さぁ、これからが本番だ!
 その目ン玉、俺が予約したからな!



・・・・・・・・・



 部屋は幅二十m程、奥行きは五十m程だろうか。
 恐らくはこのヴァンパイアロードの生活圏だったのだろう。
 骨や皮で作った椅子。
 床の所々には明かりの魔道具が埋め込まれているらしく、結構な明るさだ。
 廊下は天井だけが明るかったのに、この部屋は床に一定間隔で魔道具が埋め込まれているようだ。
 下からの明かりだけとかヴァンパイアってのは趣味が悪い。

 この部屋で俺は死闘を繰り広げていた。

 お互いに風魔法で瞬間的な高速移動を行いつつ、手裏剣のように誘導ミサイルを付加した攻撃魔術を放つ。

 だが、生身の体の俺としてはそんな無茶、いつまでも出来る筈がない。
 今では部屋の入口から五m程の家具がなにもない場所でアンチマジックフィールドを左手に展開して、ヴァンパイアロードのMPが切れるのを待つという消極的とも言える戦いになっている。

 ヴァンパイアロードはその見た目からは想像も出来ない程の動きと耐久力で俺を翻弄し……続けている気になっているのか。
 いや、違う。
 あの顔に浮かんでいる表情は焦りだ。

 【HP:0+997(498) MP:164+50(558)】

 ……。



・・・・・・・・・



 数分前、部屋に後退したヴァンパイアロードを追ってこの部屋に突入した時のこと。

 後ろの方からは「バースとマルソー、メックは分断役だっ! 前進! 防御に徹してご主人様の方へ行かせるな! ヘンリーと俺でこちらを受け持つ! ルビー、ジェス落ち着けよ!?」とズールーの怒鳴り声が聞こえる。バースやジルを差し置いてズールーが上手に指揮を執っているようだ。同時に「おらあっ!」とか「動きを鈍らせて! 足を狙うの! 狙えない!」とか聞こえているが、気にしている余裕はない。

 何故なら俺の相手は部屋に後退したヴァンパイアロード一人だけではなく、他に三人も居るのだ。
 部屋に居たヴァンパイアだと思われる三人(赤光を放つ目と口から覗く乱杭歯がその証拠だ)も数時間前にぶち殺した四層のヴァンパイアに負けず劣らずの奴らだ。ついでに全員武装してやがる。

 一人は中年の普人族ヒュームの女に見える。
 傷みまくって普通じゃ使い物にならない革鎧の残滓を身に着け、丸盾ラウンドシールド長剣ロングソードが得物だ。

 もう一人は二十代後半くらいの虎人族タイガーマンらしき男だ。
 女同様に、傷んで殆ど剥がれかけた、かつては高品質であったろう金属帯鎧バンデッドメイルに身を固め、楕円形の盾エリプソイド・シールドと先の方が幅広になっている変形した鉈のようなでかい剣を振り回している。

 そして、最後の一人。業物と言えるような重ね札の鎧(スプリントメイル)に身を固め、右手にはフッグス剣商謹製の長剣ロングソードを持ち、緑青と見まごうばかりの鮮やかな碧緑色に表面を染められ、先細りの台形の先端両脇から二本のスパイクが伸びている特徴的な小楯バックラーを左手にした中年の精人族エルフ。ミヅチが“リクガンシールド”とか言ってた奴だ。これでボーナスの倍プッシュはおじゃんが確定になったな。

 この三人が恐るべき連携で前衛に立ち、ヴァンパイアロードが何らかの魔術で傷を癒やす時間を稼いでいる。ヴァンパイアロードはアンデッドであるため、通常の治癒魔術ではなく、別の魔術で傷を癒しているのだろうが、慣れていないらしくかなり時間がかかるようだ。

 回復の魔術は練習しておけよ。
 どうせ今まで傷付いた事なんか無かったんだろうがよ。

 最初こそ中年の女とヴィルハイマーをタイミングよく氷漬けにしてやる事が出来た。
 その間に残ったタイガーマンに銃剣を二回突き刺した上でストーンボルトを一発当てて、かなりのダメージを与えられたのは僥倖だった。
 俺もいいのを一発貰い、鎧のお陰で直接の傷は受けなかったものの、衝撃で左の肋骨を数本持っていかれた上に、弾かれて背中から入口付近の壁に打ち付けられたが。当然即座に回復させてダメージは消したけどね。

 とにかく、そうしてタイガーマンと遊んでいる間に、女かヴィルハイマーのどっちかがアンチマジックフィールドで氷を消しやがったのだ。ヴィルハイマーがアンチマジックフィールドを使うには相当長い間精神集中が必要だろうし、恐らくは女の方だろう。鑑定をしている暇なんか無いから勘だけどさ。

 それを見て一瞬だけ慌てたが(僅か二十秒程でアンチマジックフィールドを使いやがったのだ)、逆に頭が冷えた為に落ち着いて魔術を使うことが出来た。

 タイガーマンが俺に対して剣を振り下ろして来たところにディスインテグレイト。
 勿論、剣に対してだ。
 こいつらはヴァンパイアロードじゃないからディスインテグレイトを使ってさっさと塵に変えてやっても良かったが、人一人の体積を塵にしてやるには流石にMPの消費がでかすぎる。

 タイガーマンは握っていた剣が分解され、俺の目の前で派手に空振りをして体勢を崩す。
 流石のヴァンパイアと言えども予想外の事にとっさに体勢を立て直すことが出来なかったのだろう。

 その首筋に狙いすました真空刃ヴァキュームブレードの魔術をお見舞いしてやる。

 タイガーマンの首は血を吹き出すことなく地面に転がった。
 流石のアンデッドも首切られたらダメか。
 なんつったっけ?
 ミヅチが言ってた。
 ああ、デュラハンだっけ。
 あいつじゃないと死ぬんだな。

 氷を消した女とヴィルハイマーに向き直ると火炎討伐フレイム・ストライクを牽制に放つ。

 ヴィルハイマーが僅かに目を見開いたようだったがすぐに冷笑を浮かべて野球ボールくらいの小型ファイアーボールを弾こうと盾を構える。
 だが、女の方が慌てたように突っ込んで来て三発とも盾とその身で受けた。アンデッドなんだろうからして当然ダメージは通常よりも高い筈だ。

 ?

 ご主人様の寝室を焼かれたくないのか?
 自殺願望でもあるのか?

「あれは危険よ! 消しなさい!」

 女が強い口調でヴィルハイマーに命じている。
 ひとつ頷いたヴィルハイマーは俺に近付くのを止め、その場で再び精神集中を始めた。
 お前さんの魔術程度で俺の魔術を相殺出来るもんか!

 ならば何度だって撃ってやるさ。

 火炎討伐フレイム・ストライク

 今度は女は身を挺して防ぐような事はせずに火球を飛び越して猛然と俺に向かって来る。
 ヴィルハイマーが身を挺する番って訳か?

 さて、この女、どう料理してやろうか?
 裸のヴァンパイアじゃないから麻痺だの何だのは剣を使っている限り発揮出来ない筈。
 剣技こそさっきのタイガーマン同様にヴァンパイアの能力上昇の恩恵で冴えているだろうが、小型ファイアーボールを二発も受けて動きの鈍ったヴァンパイアなんぞ……。

 ならば!

 魔術を発射後、すぐに俺も銃剣を構えつつ女に向かって前進。
 同時に鉄皮防御アイアンスキン石皮防御ストーンスキン樹皮防御バークスキンを連続使用。

 俺の体が青い魔術光に包まれる。

 それでもダメージ軽減のために左の肩当てで長剣ロングソードの一撃を受けるように身体を捻り、避けようも無い程の至近距離からファイアージャベリンの八本弾頭で貫いてやった。

 あれ?
 覚悟してた程痛くない。
 と、言うより、全くダメージが無いように思える。
 これ、結構使えるのかね?

 女の顎の下から陽光を纏った銃剣で斬り上げ、顔を真っ二つにしながら不思議に思って女の後ろを見る。

 何故って、火炎討伐フレイム・ストライクの炸裂音が聞こえて来なかったんだ。

 腰を抜かさんばかりに驚いたが、ヴィルハイマーは見慣れた薄紫色に輝く力場を発生させていた。一体全体、こいつはどういう事だ!? あのおっさん、こんなに速くアンチマジックフィールドを展開出来るのか? さっきのもおっさんの方か?

「ふしゅーっ! いい気分だ……グリード、お前は使えそうだ、こっちに来い!」

 そう言ってニヤリと笑うヴィルハイマー。
 たった今、お前の先輩を倒した俺に余裕だね。
 それに、人間的な感情まで無くしたと見える。

 
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