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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百四十一話 The Un-Dead 4

7447年7月15日

 何事か話しているミヅチとエンゲラは一体何やってんだ?
 そんな彼女たちを横目に宣言する。

「では、そろそろ皆さんは地上へお帰り願います」

「一千百万だったよな? 払えばいいんだろ?」

 バースがバカにしやがってとでも言うかのような顔をして言う。
 持ってるのか!? くそ。

「……先ほどバースさんとヒュールニーさん、それにフレイムシャフトさんの三名につきましてももう一度治癒しました。値上がりしてるに決まってるじゃありませんか」

 返事をしてしまう前に思い出せて良かった。

「あんまり格好をつけるもんじゃないぜ」

 すっかり見透かされてた。でも、ここで認めると俺が行こうが行くまいが勝手に行っちまうだろう。

「……え? 何言ってるんです? さっきので解りましたよね? このヴァンパイア、倒したのうちのパーティーですよ? 皆さんは碌な働きもしていませんでしたよね? バースさんだってまた麻痺食らって寝てただけじゃないですか」

 もう遠慮して下手に出るのも面倒臭ぇ。
 あんたらがこの先に行って殺されるのはどうでも……いいんだよ。
 あんたらに一緒に来られても迷惑なんだよ。
 麻痺させられて倒れられると氷漬けに出来ないし、誰かが人質にでも取られたらどうせ見捨てらんねぇだろ?
 下手すりゃ血ィ吸われて眷属になって敵が増えるだけだ。
 俺とミヅチと戦闘奴隷で充分だよ。
 そっちのがよっぽどのびのび戦える。

 ……そうだ!

「それに皆さんが行ったとしてもまだヴァンパイアが居そうな事言ってたじゃないですか」

「あん? 言ってたか? そんな事?」
「麻痺して慌ててそれどころじゃなかった」
「俺も」
「私は、少し離れてたから聞こえなかった」
「何か言ってたのか?」
「魔法の腕が云々とか言ってるのはわかった」

 ……そうかよ。
 大事な話っぽかったんだから聞いとけや!

「とにかく、まだ居そうな事は確かです。また麻痺させられて私の世話になりたいのですか?」

 わざと高慢ちきな表情を浮かべて馬鹿にしたように言う。

「もういいわ。私達が足手まといになりそうなのは確かよ」

 アンダーセンがとりなすように言ってくれた。
 まぁ、あんたは麻痺してなかったし、そうそう足手まといにはならんだろうけどな。
 でも、黒黄玉ブラック・トパーズや従者を先導して地上に戻らにゃなるめぇよ。

「お前さん達はそれでいいだろうけどな、俺達ぁサラを殺された上にロベルトまで攫われちまってるんだ。そう簡単に引っ込めるか」

 緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド槍使い(アタッカー)、バニーマンのコールマインが不満気に言う。
 そらまぁ、気持ちは解る。
 意地もあるだろうし、自分たちの手でリーダーを救いたい、せめてその一助となりたいと言うのは頷ける。

「あん? あんた、黒黄玉ブラック・トパーズに喧嘩売ってるのかい? こっちだってカークを殺られてんだ。あんまり舐めた口聞くと叩っ殺すぞぁ!?」

 殆どヤクザのような口調で凄んだアンダーセンが言い返す。

「ああ? 誰に向かってモノ言ってんだァ? サブリーダー殺られた仇も討たずにすごすご逃げるような臆病者はすっこんでろ!」
「そうだ、この玉無し共が! リーダーが玉無しだと全員根性もねぇんだな!」

「っだと、コラ!」
「あ、姐さん! こいつら、言うに事欠いて!」

 ああ、もう。マッサージしながら言い合いしててもバカみたいなだけだ。

「うるせぇっ! 黙れ三下共が! 七層程度でいつまでもぐちぐちやってる二流冒険者風情はおとなしくご主人様の言う事を聞けっ!」

 ズールーが吠えた。お前が言わなきゃ俺が言う寸前だった。

「これ、ズールー。あまり乱暴な口を利くものじゃない。……それはそうと、本当に皆さんもいい加減理解して欲しいですね。そんな体で何が出来るって言うんです? 皆さんの体調が戻るまで待ってられないんですよ」

 助さんを諌める黄門様のように柔らかい物腰を心掛けた。格さんは……さしずめエンゲラかね? でも、あんなふうに口上を述べるのは苦手そうだよね。

 俺としてはあの扉の向こうには「我が主(ケスト・ロード)」とやらが隠れてる部屋でもあるか、八層みたいに四層の何処かへと転移する転移水晶でも鎮座していると思っている。四層のヴァンパイアが一匹とは限らない以上、他の冒険者をヴァンパイアの眷属として増やされでもしたら厄介だ。まして、ヴィルハイマーが連れ去られている以上、のんびりと時間を食って奴までヴァンパイアの戦力にさせられる事は避けたい。

 ふと気が付くと少し離れた場所に居るミヅチが何か言いたそうに俺を見ているのが解った。同時に頭の中に「用心深く」「騒ぐな」「相談しろ」と命令が来る。誰にも聞かれたくない相談があるということか。

「ちょっと失礼」

 とだけ言い置いてミヅチとエンゲラが立っている方へ向かった。
 傍まで行くとミヅチは少し言い難そうな表情を浮かべて小さな声で話し掛けて来る。

「ごめん、始まっちゃった」

「え?」

 何が?

「私、今日はちょっと行けそうにない」

 どうしたんだよ? きょとんとした顔でもしてしまったのだろう。ミヅチは鈍いなとでも言うように俺の耳に口を寄せて言う。

「だから、アレ。始まっちゃったの。マルソーも能力使ってから気付いてたみたい」

 ああ、生理か……ヴァンパイア相手にそれは……どうなんだろ?
 血を吸うだけに血の匂いに特化して敏感だとかあるのだろうか? サメみたいに。
 もしそうなら不意打ちは必ず失敗する事になる。
 不意打ち出来る機会自体あるかどうかじゃなくて、その可能性が完全に潰えるという目が出てくるのだ。

『それと、これ。さっきマルソーが気が付いたらしいわ。最後、ドサクサに紛れて回収してくれたの。見てみて』

 ミヅチは緊急用のパックから回復薬を取り出すと一緒に手に握り込んだ物を渡してくれた。
 針金のように非常に細く加工された何かの石の指輪だ。結構傷んでおり、その細さと相まって身に着けていても余程注意して見ないと見落とすであろうことは確実だ。

「いつもみたいに急がないで。薬はゆっくり飲んでね」

 回復薬の栓を開け、瓶と一緒に渡されたものを口に近づけるとゆっくりと飲みながら【鑑定】した。

【身隠しの指輪】
ヒヤシンス(ジルコン)
【状態:良好】
【加工日:2/5/6631】
【価値:1】
【耐久:4】
【インヴィジビリティの魔術と同じ効果(但し、この指輪も含む):チャージ数(47/999)】
【装着者はチャージされた回数だけこの指輪と一緒に透明化することが出来る。チャージを1消費する毎に最大で一時間まで透明化が可能。攻撃行動を取った際には効果時間中でも即座に効果はキャンセルされる】

 ……ふむ、魔法の品(マジック・アイテム)か。
 エンゲラが左腕を狙った理由はこれかぁ。
 誰にも気が付かれずに貴重な魔法の品(マジック・アイテム)を得られたのはでかい。
 最初に一撃を入れた時にでも気が付いたのだろう。
 その後のはありゃ半分演技か。
 魔石を採る時に刻んでも不自然じゃなかった。
 皆、目を逸らしていたしね。

 あっ!?
 前に見たヴァンパイア……指輪も一緒に塵にしちゃったんかな?
 まぁ今更だ。

 とにかくエンゲラには心の座布団を一枚。



・・・・・・・・・



 結局、残った全員は死体を担いで帰る事にしたらしい。
 足手まといなので(さっきも殆ど役に立ってなかったし)居るだけ迷惑だからそれで良し。
 だが、俺は帰る訳にはいかない。

 一度出直してグィネや他の皆と一緒に行きたいのは山々だが、時間が経てば経つ程ヴィルハイマーのヴァンパイア化の可能性は高まる(でも、経過している時間から言って……)し、さっき滅ぼしたヴァンパイアが定期的に連絡でも取っているのであれば、連絡が無い事から色々と面倒になる可能性が高い。

 俺が「我が主(ケスト・ロード)」とやらであれば、連絡が取れなくなった手下はまず死亡を疑う。何しろ冒険者のうろつく迷宮内での話だしな。そしてそれがあれだけの手駒であれば自分の情報も漏洩したものとして即座に防御を固める。僕を増やす事も考えるだろう。ヴァンパイアの能力的にも可能そうだし。

 ならば、目ン玉を得るためにもここは出来るだけ急いで強襲しかない。

 何しろあいつにとって「ロード」と言うべき存在が居る事が確認されたのだ。と、言うことはあいつの目玉じゃ不足している可能性が高い。

 ……しかし、ミヅチが生理なのは痛いな……。

 俺に次いで戦闘力の高いミヅチが居ないと危険度は増す。だが、はっきり言ってさっきのヴァンパイアクラスの実力を持った敵が増えるのはまずい。新米ヴァンパイアとも言うべきカークやサラですら非常にパワーアップしていた。

 俺のMPはまだ七千近く残っている。戦闘奴隷も六人が全員いるし戦力としては充分だ。それに加えてギベルティも居るからあと丸二日程度なら無補給でも問題はない。

「ミヅチ、あいつらが使った通路を辿って地上に戻れ」

「でも……」

「エンゲラに気付かれるくらいだ。ヴァンパイアにも気付かれるだろう。安心しろ。俺達で必ずロードとやらの目ン玉をほじくり返して来てやるさ」

 ミヅチから保管用の瓶を受け取り、丁寧にしまった。

 指輪は預けておこうか迷ったが、結局持って行く事にした。
 ヴァンパイア相手に素っ裸になるのは怖いから使うかどうか判らないが、何しろMPを消費せずに一時間も姿を消せるというのはでかい。
 最悪の場合、逃げるのに使える可能性もある。
 でも多分使う機会は無いだろう。

 不満気な顔を揃えている緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドの前に行く。

「今からあの扉を調査して、問題が無い様であれば突入します。一人か二人であれば同行しても結構です。ですが……」

「解ってる。同行者の安全の保証なんか無いってのはな。ウチからは俺とジルが行く」

 バースがウルフワーの弓使いのジュリエッタ・カムシュを指して言った。
 彼女はさっきの戦闘中になかなかのタイミングでファイアージャベリンで援護してくれた魔術師でもある。

「安心してくれ。俺が居なくても地上に出れば謝礼はしっかりと払うさ」

 はした金なんかどうでもいいけど納得してくれるなら楽でいい。
 勿論、十人を超えていたって一向に構わないが、この先は四層だとは限らない。

「わかりました。お二人共体の調子は如何です?」

「もう問題はない」
「私も」

 二人共即答してきた。まぁ彼らも超一流の冒険者だ。異常が残っているのであれば志願はしてこないだろう。

「では、これからこのパーティーの指揮は私が執ります。従って下さいますね?」

「ああ」
「構わない」

 二人は神妙に頷いた。

「では、まず最初はどちらか一人、あの扉に入って奥を確認して下さい。確認後、可能ならすぐに報告に戻って下さい」

 念のためそう言ってみる。

「くっ、グリード……手前ぇ……一番危険な役を……」

 レンバールが不満気に口にする。

「よせ、レン。俺は従うから問題ない」

 バースはそう言って激発しようとする緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのメンバーを抑え、すたすたと扉の前に立った。

「……ふむ、ここか」

 そう言うと躊躇せずに扉に手を掛け、腕に力を込める。

 扉は暖簾のように上開きに開いていく。

 俺も含め、全員が抜刀したままその成り行きを見守っている。
 勿論、扉の向こうにモンスターが潜んでいた場合の警戒のためだ。

 しかし、扉の向こうは四層のどこにでもある通路が伸びているだけだった。
 違いは一mというその幅の狭さと、三m程しかない高さだけだ。
 通路は数メートル程で左に折れ曲がっている。
 やっぱり落とし穴じゃあなかったのね。
 落とし穴だったらどうやって戻ったんだって話だしな。

 念の為に腰にロープを結んでバースは通路に足を踏み入れた。
 万が一の際にはロープを引っ張って安全にバースを回収するためである。

「……何かあるぞ!?」

 曲がり角から奥を覗き込んだバースが興奮気味に言う。

「何かって何よ?」

 ジルがバースに尋ねた。確かに。

「もう少し近づいて見ねぇと……なんか光ってるな……それに、何か書いてある。あ、いや、浮かんでる……待ってる(ハヌミン)? なんだこりゃ?」

 なんだこりゃはこっちのセリフだ。

 身体に影響の有りそうな問題は無かったので俺も見てみた。
 曲がり角の奥は少し先で行き止まりになっており、その床の上にはピンク色に光るプレートのようなものが僅かに浮かんでいるように見える。
 ホログラムにも思える。
 そのプレートに中抜きになるようにラグダリオス語で文字が書いてある。

 ――待機中――

 このプレートに書かれているラグダリオス語を二十一世紀の日本語風に無理に解釈するとこんな感じだろうか。

 プレートを睨みつけながら考える。

 まず、これは何だ?
 恐らく転移の仕組みだと思われる。
 行き先までは不明だ。
 でも、帰ってくる方法はある筈である。 

 次に、ミヅチをどうするか?
 あんな怪しい場所の調査にはミヅチや他の転生者を同行させるべきだろう。
 だが、今は調査が目的ではない。
 勿論ヴィルハイマーの救出でもない。
 ヴァンパイアロードの目ン玉をほじくりに行くのが主目的だ。

 調査なら後でも出来る。

 あの先にいると思われる相手が単数か複数かは不明だが、ほぼ百%の可能性でヴァンパイアが含まれている筈だ。
 その相手とは交渉可能かどうかで言ったら多分無理だと思う。
 目ン玉くれよって言われてどうぞなんて奴が居る訳ない。
 と、なるとまず確実に戦闘になる。

 調査はその後でゆっくりと行えばいい。

 逸る心を無理やり捻じ伏せる。

 通路を戻り、待機している皆の前に立つと口を開いた。

「これから我々で奥に行ってみます。五分以内に一度戻るつもりですが、五分待って誰も戻らないようでしたらアンダーセンさんをリーダーに、全員四層中心の転移水晶を目指して出発して下さい。我々からは念の為護衛として彼女ミヅチを付けます」

 そして、すぐにズールーに命じた。

「ズールー。あの光る床に立ってみろ。多分どこかに転移すると思う。転移して戦闘にならないようであれば周りの様子だけ窺って可能な限り早く戻ってこい。恐らく一歩床から踏み出してもう一度踏み直すと戻ると思う。もし戦闘になるようなら出来るだけ離れて一分耐えろ。お前が転移して三十秒以上戻らないようであれば全員で後を追う」

 ズールーは即座に俺の命を実行すべく通路の奥に消えた。転移水晶と同じであればどこに転移するのか判らないが、これは特定の場所との行き来だろうと直感している。そうでなければヴァンパイアが使っている事自体不自然すぎる。

 後ろから見守っていたら、ズールーが光るプレートに足を踏み入れるとその姿は光の粉になって消えた。転移水晶と全く同様である。
 光るプレートは使用直後の転移水晶のように輝きを失うことはなかった。

 そして、十秒と経たずにズールーが光の粒から再構成されて戻ってきた。

「ご主人様、この先はやはり迷宮の何処かです。見た事のない石造りの場所でした。あれは三層とも異なると思います。また、明かりは天井だけのようでしたが普通よりも明るかったように思います」

 ズールーが転移した先は五m四方程度のがらんとした小部屋のような場所であったらしい。開きっぱなしの出入口のようなものがあり、転移した直後に一歩踏み出すと床は同様にピンク色の輝きを取り戻し、プレート状に輝いたそうだ。開きっぱなしの出入口の先は部屋と同様の石造りの壁が見え、通路のような感じで左右に広がっていたそうだ。

「よし、順番に行こう。先ずはジェス、そしてヘンリー、ルビー、メック、エンゲラ、ズールーの順だ。転移したら部屋から出ないで静かにしていろ。次に俺。それからバースさんとジルさん。最後まで問題がなければギベルティだ。ギベルティが転移を終えて異常がないようであれば誰かを一度帰す」



・・・・・・・・・



 転移した先はズールーの報告通り石造りの空っぽの倉庫みたいな場所だった。石造りと言っても確かに三層とは異なり、コンクリートの打ちっぱなしのような感じでもある。埃やなんかが壁に付着していてよく判らない。そして、明かりも天井だけが光っているようだが、確かに結構明るい感じだ。ライトの魔術には劣るがそれでも迷宮の他の場所よりは余程明るい。ん~、弱い蛍光灯に照らされた病院の廊下だとか、地下道みたいな感じもする。

 ギベルティの転移を待ってジェスを一度返す。伝言内容は「異常なし。探索を開始するので皆はさっさと戻るように」というものだ。

 ジェスが戻ってくるのを待って、部屋から通路に出てみた。通路の幅は四m程。通路に足を踏み入れて気が付いたが、通路の床もコンクリートだかのように滑らかな気がする。床と壁、床と天井の境についてもきっちりと九十度のように見える。人の手が入っているとしか思えない。

 床には往復したような裸足の足跡があり、部屋から出て左の方に続いていた。

 左右を見回すが他に足跡は見付からない。

 しかし、左手の方を見ると緩やかに右にカーブしているようだ。
 右手の方は同様に左にカーブしているように思える。
 迷宮の他の場所よりは明かりが強いために判明したことだ。
 この通路はかなり大きな弧を描いていると思われる。
 ひょっとしたら迷宮の外周に沿っているかそれに近いほどの大きな弧だと思う。

「どうだ?」

 バースがジルに尋ねた。【超嗅覚スーパー・オルファクトリー】になにか感じないか確認しているのだろう。あ、そう言えば、ジルはミヅチの生理に気が付いていたのだろうか? 気が付いていたとしても無視してくれたのだろう。

「……解り難いわね……特に変な匂いはしないと思う……」

 うーん、ヴィルハイマーが通った筈とはいえ、石になっていたんだろうし、流石に臭いは残さないよなぁ……。

 とにかく、他に手掛かりがある訳でなし、まずは足跡を辿って行くことにした。
 本当なら罠を警戒しながら慎重に進むべきだろうが、裸足の足跡には特に歩調を乱していた様子は見られない。先頭を行くズールーとヘンリーに「罠にだけは気を付けろ」と言うだけにして俺は定期的に魔術を使って罠を探査するだけに留めておいた。

 移動速度は分速二十~三十mと言ったところだろう。

 なお、この通路の左手には転移してきたのと同様の空き倉庫みたいな部屋が沢山連なっているが、どの部屋も床に光るプレートは見当たらなかった。

 十分ほども進んだ頃だろうか。

 右手の壁に板のようなものが貼ってあったらしい場所に着いた。
 何故それが判ったかと言うと、右手の壁の一部に周囲と比較してそこだけが四角く埃が薄い壁があったのだ。
 その下には何も無かった。

「一層から戻って来る場所みたいだな」

 バースがボソリと呟く。

 言われてみればそうかも知れない。
 通路の左側にしか部屋がないけど、両側に部屋があったら迷宮の入り口を降りた場所のように見えることは確かだ。
 明かりは松明じゃないけど。

 そっと合図をして適当な部屋に入る。

「あまり喋らないように。廊下だと結構遠くまで響くかも知れません」

 俺が文句をつけたら俺の奴隷たちも無駄口を叩いたバースを責めるように見る。
 でも、何か喋りたくなる気持ちは理解できる。
 俺も喋りそうになってたし。

「ああ、そうだな。悪かった」

 バースも自覚があったのだろう。
 素直に非を認めてくれた。
 解ってくれりゃいいのよ。

 通路は相変わらず何もない。
 罠もなければモンスターも出てこない。



・・・・・・・・・



 もう一時間以上……いや、一時間半近くは歩いたろう。
 通路の様子は相変わらずだ。
 しかし、やっと変化が現れた。

 右にカーブして先が見えないギリギリのあたりの明かりが少し強くなっているようだ。
+注意+
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