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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百三十七話 いよいよ?

7447年7月14日

 昨日は大変だった。
 結局、王城に泊まりこみとなってしまっていた。
 因みに一睡も出来ていない。

 あれから一度バルドゥックに戻り、馬車をチャーターしてワイヴァーンの鱗と頭部を持って再び登城したのはいい。
 三の丸の一室に専用の部屋があてがわれていたことも頷ける。

 到着後暫くしたら国王夫妻にリチャード殿下がやって来た。
 まずは頭を見せろと言うので、氷漬けの状態で馬車の荷台に載せたままだったワイヴァーンの頭を見せた。覆いとして使っていたゴム引きの布を取り去った時、三人は一様に驚きの表情を隠せなかったようだ。でも、その時の俺は昨日の午前中に“鱗がでかい”ということは聞いていたし、更に鱗の数も多いようだと言うことも聞いていたが、「そこまで驚かれるとは」と少し意外な気持ちでもあった。

 なにしろ殺戮者スローターズには誰一人として本物のワイヴァーンを見た事のある奴など居なかったのだ。だからこのワイヴァーンが普通の倍以上の大きさだなんて、俺も知らなかった。多少は大きい程度なんだろうなぁ、と思っていた程度だったんだ。

 国王を含めて大騒ぎしているところに通りかかった軍人だの役人だのもワイヴァーンの頭を見て驚いている様子だった。結局よくわからん大量の人が入れ替わり立ち替わりやってきて、一様にワイヴァーンの頭を見ては大騒ぎしていた。あれはきっと王城に出仕しているほぼ全ての人が噂を聞いて、一目見ようと足を運んで来たんだろう。

 いつの間にか人員整理のような役目を押し付けられながらも「これだけ多くの人が感心して見てくれるような事を出来たんだなぁ」と、実感が湧くと共に一緒に十一層に行った皆を誇らしい気持ちになったのもむべなるかな。

 ここまでは忙しかったけど嬉しい事でもあるし、人員整理程度の事など気にするようなものでもない。頭部の鱗なんて二束三文だろうし、欲しいなら献上してもいいさ。でも、売れるなら売りたい。

 こうしている間に呼び出された職人たちが続々と登城してきた。
 その数はなんと十二人も居た。
 職人と言えど王城に登城してくるのだからして、それなりにこざっぱりとした服装をしていた人が多かった。
 かなり儲かっていそうな人も居て、俺なんかより数段上等そうな服の人も珍しくはなかった。
 それはそれとして、リチャード殿下が俺と彼らを三の丸に招き入れて鱗の検分が始まってからが問題だったのだ。

 リチャード殿下は無責任にも「この四つの大きな袋に入ってるのはすべて表にあったワイヴァーンの鱗だ。そなたら、存分に検分し価格を付けよ」と宣ってくれたのだった。

 袋には剥ぎとった鱗を整理しないまま無造作に詰めていただけなので、まずは大きさ別に整理する必要があると職人たちは指摘した。仕方ないので長径一㎝刻みくらいで山にしようと思って一袋を逆さにしたところ、零れ出た鱗を見た職人たちは眼の色を変えて飛びついてきたのだ。

 長径で三㎝を超えるような鱗は滅多に手に入らないらしく、彼らにしてみれば宝の山に見えたらしい。結局俺も含めて十三人がかりで〇・五㎝刻みの山を作るのに一晩かかってしまったのだ。

 長径一㎝以下の小さなものは加工が難しいために大した値は付かないらしいが、それでも一枚一万Zは優に超えるし、それ以上の大きさであれば一枚ン万とかン十万Zという高価格で取引されるとの事だ。加工処理には鎧の部位ごとに何通りかの処理方法があるらしく、何の処理もしないまま持ち込んだ事も好きなサイズの鎧を作れるので、これも多少値を上げる要因になっていたらしい。

 そして、それぞれの職人が値を付ける段になってからが大変だった。長径一㎝から三㎝までの五つの山にはすぐに値が付いた。全部剥ぎ取ったとは言えど小さいのは皮ごと剥いでいたので数は一番多い。この五つの山だけで合計三千枚を超える数の鱗が確認されていた。価格は下が二億五千五百万Zから上は三億一千五百万Zまで付けられた。

 この十二人の職人が付けた値の平均値で購入されることになっている。この五つの山については合計二億七千五百万Zという事になった。ここまでは特に大きな問題はなかった。何しろ普通のワイヴァーンから取れる鱗と大きさはあんまり変わらないからね。

 問題は三・五㎝~七㎝程の大きさの鱗の山八個(数えたら五千枚に少し足りないくらいだった)とそれ以上の大きさの山だ。最大の七・五㎝を超える山の鱗の数は二百枚も無いが、一枚六十八万~八十万Zという値が付けられたのだ。平均だと七十五万Zであり、これだけで一億五千万近い金額だ。

 面倒だからこれ以上細かい事ははしょるが、原種ワイヴァーンの鱗は全部合わせて二十三億に少し足りない程度が職人たちの見積もった平均金額となった。

 但し。

 上記の金額はあくまで“通常の”ワイヴァーンの鱗だと想定しての価格であった。単に大きさから判断しただけの値付けであるという事を忘れないで欲しいと全ての職人が言ったのだ。要は、加工処理を終えて鎧を作成した場合、何がしかの特別な名前が付きそうな素材であることと、魔法の反応がある点については無視された価格であり、これを鎧に仕立てた場合(全部使えば四人分くらいの量はあるそうだし、贅沢に使えば三人分くらいだそうだ)には、その価格は更に高価になるだろうと釘を差していた。

 当然俺にとっては非常に有り難い話だ。
 飛び上がって踊りだしそうなくらい夢のある話だ。
 なにしろこれで……。

 にやけ顔を抑えるのにほぼ全ての精神力を動員する必要があり、寝不足であった事もあって、夜が明けて国王に報告する際にはつい変な声まで出そうになる始末だった。寝不足のハイテンションって怖い。



・・・・・・・・・



「……ふぅーっ。名前付きになりそうなのか……」

 俺とリチャード殿下から報告を受けた国王は少し興奮気味の顔で頷いた。

「職人共は揃ってそう申しております。名付なつきの武具となると国宝級です! どんなに質が悪くても貴族家であれば家宝にしてもおかしくありません。ですが、今回の鱗については質は最高どころではない、というのが職人共の共通した見解にございますれば……」

 俺の隣で俺同様に臣下の礼を取りながら報告する殿下も、声の調子から推測するに興奮を隠せない様子だ。このご時世、絵画や彫刻などの美術品も少しはあるが、パトロン制度なんて発達してないからそういった品は非常に希少で無茶苦茶な値が付く。固有の名前付きの品なんてそれ以上の価値を有するのは常識だ。迷宮などから稀に手に入る魔法の品が高額な理由の一つでもある。

「ふぅむ……。とは言えそれも鎧に仕立てが終わってからの話だな……」

 対する国王もこんな事を言いつつ声が弾んでいた。
 ところで、俺、売るだなんてまだ一言も言ってないんだよね。
 いや、勿論売りたくない訳じゃないさ。
 国宝級だと言うのであればいっその事献上するからその代わりに領地くんねぇかなって思ってるだけだ。
 だって、先代の国王は俺みたいな冒険者がファイアーボールのワンドを献上した褒美としてそいつを子爵に叙して領地を任せた事があるんだろ?

 魔法の鎧(マジカル・アーマー)が作れそうなのは解った。
 それが一着どころではなく、三着……下手したら四着くらい作れそうだというのも聞いた。

 でも、魔法の鎧なんかに未練はない。
 国宝だの家宝だのにも全く興味はない。
 使いもせずに飾っておくだけの品物には美術品以上の価値はない。
 そりゃあ俺だって高価な美術品は欲しい。
 持ってるだけで自慢出来るだろうし、所持しているというだけで箔を付けてくれる。
 その上、物の価値を知る人が見れば感心だってしてくれる。
 何より、所有者である俺の目も楽しませてくれるだろう。

 だけどそんなのは俺の子や孫、それ以降の代になってからでいいんだよ。
 多分、俺が生きている間にそんな余裕はない。
 建国の父としての達成感が得られれば満足だ。
 やったぞ、と思えればいいんだ。

 それに、俺の軍隊の鎧はゴムプロテクターがあれば充分だと思っている。パラゴムノキの種も去年里帰りした時に、将来輸出をしない事を条件に少し分けて貰ってるんだ。俺の魔力とグロウスプラントの魔術があれば毎日五百本のゴムノキの成長を一ヶ月分促進できる。昔みたいに真っ昼間だろうが飯食ってミヅチを抱いて眠っちまえば毎日三ヶ月分の成長だって可能だ。三週間で樹液が取れる様になるんだぜ。まぁ、その間は他に何にも出来ねぇけど。

 結局、ワイヴァーンの鱗については鎧に仕立ててから改めて価値を諮ることになった。その為にはまず俺が個人として職人に材料持ち込みでの鎧の制作を依頼する事になる。勿論、鱗をこのまま全部売ってしまってもいい。王室からはそれを勧められた。しかし、鎧になった暁には名前付きになる可能性があると知って「はいそうですか」なんて言う訳がない。そこだけは譲れないよ。

 鱗の加工に四ヶ月程、鎧の仕立てには一着あたり同程度の時間が掛かる。つまり、正式な値が付くのは早くて来年の春だ。ま、超高額な品物だし、そんなもんだろう。

 なお鱗の加工だが、是非やらせてくれという職人が数人名乗り出て来た。でも、そのうちの一人、評判が良いと聞いていたカーリムって人にお願いするつもりだ。最初は時間短縮のために希望者全員に等分にして渡そうかとも思っていたが、鎧の着用者(国王の希望により、まずはリチャード殿下の体のサイズに合わせて製造される)の体型に合わせて一枚一枚微妙にしならせなければならないそうなので、全工程を一人の職人がやった方が良いのだとの話を聞いたんだ。

 加工費は一着分でおよそ三千万Zと見積もられている。その後の鎧の仕立ての工賃は一千万Z程度らしい。まずリチャード殿下の鎧と盾を仕立て、余った鱗は未加工のまま取っておく。これは現在五歳になったばかりのリチャード殿下の息子の鎧を仕立てるために使うそうだ。成人した後に改めて加工を施してから鎧として仕立てたいんだって。

 熟練した鎧職人は着用者の成長について鋭い予測眼を持っているんだけど、流石に本人が成人するくらいの年齢は必要だそうだ。そのくらいになれば後々の身長の伸びや、手足の成長などをある程度見越して加工を行う事が出来るらしい。

 流石に鎧は一品物の高級品の代名詞だなぁ。
 バークッドの大量生産に近いゴムプロテクターとは違うねぇ。
 感心した。

 なお、王太孫であるリチャード殿下の息子の鎧についてはリチャード殿下の鎧と等価にて譲ることになった。つまり、リチャード殿下の鎧と全く同量の鱗が予約され、残った鱗についても修理用としてキープされることになる。最初の鎧に付けられる見積り価格の四倍とまでには行かないだろうが、三倍くらいは見込んでもバチはあたらないだろう。



・・・・・・・・・



 捕らぬ狸の皮算用(既に捕ってるけど)をしながらホクホク顔で商会に戻り、ラッセグ達を誘って食事に行った。

「どうしたんです? 急に皆で食事だなんて?」
「アル様、今日はお疲れのようですが、なにか良い事がおありですか?」

 急に作業場から呼び出されたラッセグとミリーが言う。

「ん? うん、まぁな。そのうち解るさ。なぁ、ハリス?」

「は、はい?」

 ハリスはよく分かっていないという顔のまま、どう答えていいか解らないようだ。
 そりゃそうだけど、そんな固くならずにもう少し嬉しそうな顔をしてくれよ、なぁ?

「あー、うん。明日くらい、いや今日にでもお触れが出ると思うぞ?」

 ニヤつきを抑えられないままそう言ったら、ドンネオル夫妻はすぐに理解してくれたようだ。十層の突破だと思ってくれている。

「んふふ。飯食ったら俺は店に戻って少し寝る。お前ら、今日は仕事休んで行政府前にでも行ってみろよ、な? なぁに、店はレイラたちが居りゃ心配ないさ。な? ちょっと行ってみろよ」

 ラッセグもミリーも俺がそこまで言うのならと頷いてくれた。
 ふふふ。今日の昼にはワイヴァーンの頭が公告と一緒に行政府前に飾られるんだそうだ。
 是非見て欲しいんだよ!
 今日の夜には剥製屋に持ってっちゃうらしいからさ。



・・・・・・・・・



 夕方にバルドゥックに戻った俺は食事の前に部屋で寛いでいたミヅチを捕まえた。

「鱗は鎧に仕立てるとさ。幾らになるかは来年の春までは判らん」

 俺の部屋で話を始める。
 ミヅチはテーブルを挟んで向かいに腰掛けて氷を浮かべた豆茶を飲んでいる。

「でも大体のところは判るんでしょ?」

「うん。一着十億は超えるだろう。事によったら二十億でもおかしくない。それが何着になるかについては本当にもう少し経たないと判んない。でも、最低でも二着は見込まれてる」

 とにかくまずは実際の加工をする前に加工の方針を立てる必要もある。それに伴って仮の仕立てが必要だ。着用者であるリチャード殿下の希望も聞かなくてはならないし、デザインについても決めなくてはならない。この時点で鱗については大体の使用枚数の見積りが行われる。この時点で何着作れるかは大体判明するが、依然として最終的なところについては判らない。

 その後、設計に従って使用する鱗の加工が行われる。鱗の加工には当然失敗もあるだろうから加工を終えるまで歩留まりも判らない。その後は使える鱗の選別をしなくてはならない。併せて仮の仕立てを何度か行う。この時点になってやっと使用枚数や使用する鱗の大きさが正確に判明する。正確に何着作れるのか判明するのはこの時だ。恐らく二着か三着だろうと言われている。鱗を贅沢に使用するらしいからねぇ。

「すごい! 二着なら四十億!? 報酬と税金払っても三十億か……。アミュレットも高く売れそうだし……この分なら」

 ミヅチの顔が興奮の度合いを帯びて、心なしか赤みが差しているようだ。

「うん。他の魔法の品(マジック・アイテム)の価格にもよるけどな。他の魔法の品(マジック・アイテム)はともかく、アミュレットと今の手持ちと合わせると合計で百二十億近くにはなると思う」

「……そう。おめでとう。夢を叶えるんだね……」

 豆茶のカップをテーブルに戻したミヅチは泣きそうな顔をしながらも微笑んで言った。

「うん。その……ありがとう」

 ミヅチと視線が交錯する。
 俺にも自然と笑みが浮かんでいた。
 自然と顔の距離が詰まっていく。

 その時、ボイル亭の階段を乱暴に駆け上がる音がした。
 無作法な奴が居たもんだな。
 ……宿泊してるの、俺達だけじゃないしな。

 少し残念な気持ちになった。
 ミヅチも苦笑を浮かべている。
 俺も肩を竦める。

 だが、その無作法な足音は俺の部屋の前まで来ると扉をノックした。
 誰だ?

「グリード君、居る!?」

 慌てているようだ。
 この声、殺戮者スローターズじゃない。
 でも知ってる。
 黒黄玉ブラック・トパーズのリーダー、アンダーセンの姐ちゃんの声だ。

 
 文中には記載していませんが彫刻や絵画なども作成者が「完成した」と思った瞬間に固有の名前がつく品も本当に稀ではありますが存在します。「○○の像」とか「〇〇の情景」とかそれ以外にもその作品に相応しいと思われる名前が付くこともあるのです。

 さて、次回からまた幕間でございます。その幕間のあとは本編第二部の終了まで幕間はありません。第三部開始前には数話ある予定です。
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