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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百三十三話 祭壇 2

7447年7月10日

 祭壇を睨みつけながら暫し黙考した。

「取り敢えず、別の場所に行ってみよう」

 モンスターを見かけた訳じゃない。祭壇に近づけば高確率でモンスターが召喚されるのだろうが、見た訳じゃないからな。これは逃げるのとは違う。単なる転進だ。いや、モンスターから逃げたって別にいいんだけどさ。今までだって何回も逃げてるし。

 取り敢えずドーナツ状だと思われる草原を右の方に移動した。次に森の切れ目があったらそこから奥に入り込むつもりだ。

 暫く移動するとやはり森の切れ目に到着した。幅十m程度でまるで通路のようにそこだけすっぱりと木の生えていない部分がある。奥を覗いてみると緩く右にカーブしているようだ。罠もないみたいね。なら、ここを進んでみるか。

 百m程の距離で今度は左にカーブし、更に百m程先で行き止まりになっているかのようにまた周囲を森に囲まれている。用心しながら少し進むと、今度はミヅチが「待って」と声を発して皆の足を止めた。

「あれ、祭壇よね?」

 ……ミヅチの指差す、左前方の方向を見ても深く生い茂る木に邪魔されて何も見えない。
 やはり森の植生が濃く、ミヅチの位置からでないと見えないようだ。
 彼女の立っていた場所を空けて貰う。

「祭壇に見えるな……でもガーゴイルまでは見えないな」

「アルさん。私にも見せて……」

 グィネと場所を変わる。
 しっかりと場所を覚えて貰わないとね。

 そこからまた少し進むと、次はエンゲラが反対方向に祭壇を発見した。

「あの祭壇、さっき見た場所から二百m強ってところですね」

 新たに発見された祭壇の場所を確認したグィネが言う。
 ふーむ。
 驚くべきことに、これで今日は三つ目の祭壇を発見した。
 この十一層にはこんな高密度で祭壇があるのか……。
 祭壇と祭壇の間をこの森の切れ目の通路のような場所が通っているということか?
 どうやら皆も俺と同様の疑問を感じたようだ。

 今までこの迷宮に存在した祭壇は、その全てがモン部屋とでも言うべきの、ある程度の面積のある部屋の中にガーゴイルの石像と共に安置されていた。その部屋に足を踏み入れるとガーゴイルの石像が命を吹き込まれて動き出し、同時に祭壇の前に大きな魔法陣のような模様が光とともに浮き出て部屋の守護者とでも言うようなモンスターを召喚するのだ。

 それらを全て倒せば祭壇の上部に設えられた祠の扉が開いて、運が良ければ何か財宝を得ることが出来る。冒険者の目的である財宝を得るにはこれ以外だと何年に一度と言うくらいの低確率でモン部屋の主が魔法の品を装備していることが確認されている。その他、三層以下の壁などを掘り返せば貴重な鉱石を得られる可能性がある、という程度だ。あとは……守護者くらいかね?

 だから、俺たち救済者セイバーズに限らず祭壇と出会って見逃すというのは、普通はまずあり得ない。見逃しているのはカームとキムが指揮を執る虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズくらいのものだ、と思う。カームとキムが「犠牲者を出さずに倒せる魔物であればいいのだけど……」と言わなければ挑戦していたと思う。

 彼らにしたって祭壇を見逃して迂回路を選択することについては根強い反対意見があったと聞いている。
 そのくらい貴重なお宝を得られる可能性を秘めているのが迷宮の祭壇だからだ。

 え? 命あっての物種だって?
 そうだね。
 解りやすいように喩え話でもしようか。
 普段不摂生気味のあんたと、戦い慣れしてそれなりに鍛えられている冒険者じゃ明らかに開きがある。相手も加減しようか。

 闘犬をやるような土佐犬と戦って、勝てたらサイコロを振っていい。

 それなりの目が出たら数億円。
 出目によっては数十億円の価値のある品物をあげる、と言われたら、あんたならどうする?

 勿論、仲間もありだ。自分以外に九人までだけど。
 鎧も着ていいし、刀や槍、弓程度なら武器も使ってOKだ。
 土佐犬も一匹とは限らないけどね。
 でも、過去の事例から言って、多くても五匹を超える事は滅多にない。

 結構な割合で挑戦者が出てくると思うよ。

 仮にあんたが「そんな恐ろしいこと出来ない」と思っているとしても、あんたの周りには喜んでやりそうな、人生一発逆転を狙いそうな奴くらいいるだろう?
 迷宮に入る冒険者ってのはそういう奴だ。

 カームもキムも、皆を抑えるのには苦労したと言っていた。
 そんな彼女たちだって今は強力な仲間が居ることから祭壇を見る度に期待しているのが判る。
 流石に、ほぼ初めてとなる迷宮深部の層だから祭壇に寄ってみようと言い出さない程度の分別はあるけど。
 まぁ、いつでも来れるしね。

「うーん……まだ時間も早いし、戻って別のところも見てみよう」

 なんとなくこのまま進むのも憚られたので再度仕切りなおすことにした。

 結局午前中一杯かけて、草原の内周を三㎞程も見て回った。
 祭壇は合計で七箇所も発見した。
 当然だが全て遠くからちらっと見ただけだ。
 傍まで寄って見たものは一つもない。
 祭壇と別の祭壇までの距離は最短で二百mくらいから最長で一㎞くらい。

 角度によっては見えない事もあるだろうから幾つか見落としだってあると思う。
 どうも部屋の中心にある転移水晶の柱を中心とした円状に並んでいるような気もする。
 流石に等間隔ではないみたいだけど。

 昼食の後、思い切って最初に発見した祭壇に近づいてみようという事になった。



・・・・・・・・・



 今まで迷宮で見てきた祭壇とは明らかに違う。
 まず、黒い炎が点かない。
 と言うか、そもそも火を焚く炉のような物がない。
 それから、形も少し違うようだ。
 おまけに、遠目には祠のように見えたものには扉はなかった。
 で、ガーゴイルもいないし、モンスターが召喚されてくるなんてこともなかった。

 これには拍子抜けもいいところだ。
 皆も用心しいしい、慎重に近づいてきたのに肩透かしを食ったような顔をしていた。
 別の発見済みの祭壇も同様であった。

 木々に埋もれるように、森の中でひっそりと佇む苔むしたような祭壇を前にして疑問は尽きないが、結局森の奥に足を踏み入れてみることにした。

 葉の広い下草を踏み分けながら、青々と生い茂る枝を避けつつ進むと、森が途切れ、下草の生えていない荒れ地に出た。長いところで五十mくらい、木が生えていないちょっとした広場だ。

「どのくらい進んだ?」

 グィネに尋ねてみると、現在地は外周から八百m程だという。
 罠もないし、モンスターも見かけない。
 祭壇に近寄っても何もない。

「このまま何事もなければあそこまでそう大した時間は必要なさそうね……」

 ミヅチが柱を見上げながら呟く。
 つられて俺も木々の上に伸びる細長い柱を見上げる。
 まだ遠くて表面がどうなっているかは判らないが、今までの例から考えると真四角に近い形なのだろうか?
 表面は自然の土か岩を削ったようにゴツゴツしているのか?
 人工物のように滑らかになってるのだろうか?
 ここからだと良くは判らない。
 柱は遥か上空で雲に突っ込んでいるが雲だか靄だかはゆっくりと動いているようだ。
 ふっしぎ~。

 それはそれとして、この調子であれば、確かに度々屈んだりして枝を避けなきゃいけないから、単に平地を進むよりは遅くなる。しかし、それでも五㎞。たまにはこうして森が途切れる空き地のような場所があることも考慮すると、何事も無ければ俺達の足で一時間半といったところだろう。

「今何時?」

 ベルがラルファに訊くと、十四時という答えが返ってきた。

「どうします?」

 トリスが俺に尋ねて来る。
 ここからならその気になりゃ転移してきた水晶棒までは十五分で戻れる。
 途中の草原を走ればもっと早いだろう。

「もう少し進んでみよう」



・・・・・・・・・



 荒れ地を抜け、その先にある多少植生が薄い、林っぽい場所に足を踏み入れた。
 フォーメーションはラルファを先頭とした縦隊トレイルになっている。
 俺は真ん中辺りで右を注目している。

 進みだしてから五分も経ったかどうかという頃、また先程同様の空き地に出た。
 今度は荒れ地ではなく背の低い草に覆われていた。
 草原だ。

「外周から一㎞くらいですね」

 グィネの言葉に頷きながら周囲を見回す。
 鳥も、動物も、モンスターも何もいない。

「この調子なら一気に通れそうね」

 キムの言葉に全員が「そうだね」とでも言うような顔になった。

「ん? なんか出っ張ってるね?」

 飽きずに柱を見上げていたミヅチが変なことを言う。
 彼女が指さしたのは柱の遥か上の方、霞だか雲だかに突っ込む辺りだ。
 丁度雲の切れ目に差し掛かったのだろうか。
 言われてみると確かに僅かに出っ張りと言うか、膨らんでいる場所があるようなある気がする。

 その時だ。
 耳をつんざくような大きな音がした。
 この音は、ライトニングボルトの檻が出来る時の音だ!
 同時にミヅチの【部隊編成パーティーゼーション】が効果を失う感覚。
 慌てて周囲を見回す俺たち。
 明かりが光度を増し、周囲は昼間のようになった。

 ライトニングボルトの檻は遥か遠く、外周の近くで発生し、十一層のほぼ全てをぐるりと取り囲んでいるようだ。

 そして、キロメートル単位で遠くの方に七色に輝く光の柱が何本か立ち登った。
 数えてみると俺達の左右前方に一本づつ、奥の方の左右にも一本づつの合計四本だ。

 何が何だか解らないが取り敢えずこれだけは言える。

「森に逃げ込め!」

 皆は蜘蛛の子を散らすようにバラバラに森に逃げ込んだ。
 言われなくても固まって一方向に逃げないのは熟練冒険者の証。
 合流するなら視界を遮っているであろう森の中。

 しかし、それでもどちらかと言うと今来た方の森を中心に逃げ込んだようだ。
 確実に安全そうだし、これは仕方ない。

 俺は広場の真ん中に土の小山を作ってから逃げ出した。
 もしモンスターが近くにいるのであれば盾に出来る。
 近くにいなくてもこちらに向かってくるだろうし、小山を怪しいと思って近寄って調べる素振りでも見せてくれれば幸いだ。
 でも、そんなことよりも魔法が使えるか試さなくてはならなかったからだ。
 何しろ、ライトニングボルトの檻が出来たということは、それすなわち、守護者に気取られたという意味に他ならないと思ったし。

 最後に森に逃げ込んだ俺は、その直前に一度だけ後ろを振り返り、全方位を見た。
 今のところ特に変わったものは見えない。

「アルさん、こっちです」

 囁くようなトリスの声がした。
 そちらを見るとトリスの他にグィネとカームが傍に居るのが見えた。

 森に入ってから再合流したのか。

「皆の場所は?」

「ベルとマルソーが向こうに逃げたのが見えました」
「ミヅチさんとキムもそっちの方ね」

 トリスとカームは広場に向かって右手のを示しながら答えてくれたが、グィネは他に注意を払う余裕が無かったようだ。

「ラルファとズールーは?」

「判りません」

「あっちかな?」

 左の方を見ながら言うと、そちらの方にチラリと金髪が見えた。

「居た。グィネ、ラルファとズールーを呼んで来い。トリスはミヅチたちに声をかけてくれ。再合流する前にモンスターが見えたら無理に合流しなくてもいい。手強そうなら声でも魔法でも使って何とかして俺を呼べ。俺も見つけ次第攻撃魔術を撃ち込むから」

 そう指示を出して俺はカームと二人、広場から見えにくいように木の影に隠れるようにした。

 程なくしてラルファとズールーを伴ってグィネが戻ってきた。
 音を立てないように極力密やかに移動を心掛けているようだが、ズールーの金属帯鎧バンデッドメイルは結構な音を立てる。

「皆は?」

 声を低くしたラルファの質問に「向こうの方。今トリスをやってる」と返事をした時だ。

「なに、あれ!?」

 カームが声を上げ、斜め上を指さした。
 つられて全員が指の先を追うように視線を移動させる。

 まだ米粒程に小さい何かがこちらへと飛んでくるのが見えた。

 え? あれって……。
 ひょっとして!?

 距離が遠過ぎて鑑定は射程外。
 当然魔法も射程外。
 魔力をかなり注ぎ込めば届くかね?

 と思っているうちにグングンとこちらに近づいてくる。
 大麦の粒くらいになった。
 コウモリの羽を生やしたようなトカゲっぽい爬虫類に見える。
 色は……まだ遠いからか真っ黒に見える。

「ひっ!?」

 カームが小さいが恐怖感の篭った叫び声を上げる。

「ド、ドラゴン?」

 呆然としたようにズールーが言う。

「初めて見るね!」
「かっこいい!」

 ラルファとグィネがトンチンカンな事を言っている。

 しかし、ドラゴンか。
 だとするとミヅチから聞いたことがある。
 俺でも知ってる。
 火を吹く筈。
 種類によっては酸だとか毒液だとか氷なんかも……あと一個あったような……。

「動くな、喋るな」

 急いで一人づつ順番に触り、レジストアース、レジストウォーター、レジストファイアー、レジストエアーの魔術を掛けた。真面目に練習してて良かった……。

 有効時間は千秒だから十五分以上は持つ。
 ……最後に俺自身にも……よし。

散開スプレッド!」

 左の方を指さしながら指示をすると同時に、身を低くして右の方へと駆け出した。

 ちらりと上空を見上げる。

 木々の隙間から空飛ぶトカゲが見えた。
 大麦の粒くらいだったドラゴンはもう結構大きくなっている。
 小さなビー玉くらいかね?
 少し細身のワニみたいな頭部。
 ありゃなんだ?
 角か?
 頭の後ろの方へと伸びるように何本かの角が生えている。

 流線型に伸びていると思われる胴体。
 その背中から生えている、一見するとコウモリのような翼。
 翼の真ん中辺りには恐ろしげな鉤爪まで生えているようだ。

 糞、邪魔な枝だな!

 限界まで姿勢を低く保ち、地を這うように駆ける。
 居た!
 トリスを先頭にミヅチたちは少し森の奥の方を俺達の方へ移動しているところのようだ。

 彼らの方へ方向を修正すると、向こうもすぐに気が付いたようだ。

「何か出てきた!?」

 用心深そうにミヅチが低い声で尋ねてきた。
 何のんびりしてやがる!
 気が付いてねぇのかよ!?

「ドラゴンだ!」

 全員の顔色が変わった。
 気が付いてなかったようだな。

「対抗する魔術を掛ける!」

 そう言うとまずミヅチにレジストの魔術を掛けた。
 彼女もレジストの魔術は全種類使えるが、ミヅチの魔力は俺に次ぐ貴重な攻撃手段だ。
 可能な限り温存しておきたい。
 続いて連続して全員にレジストの魔術を掛けた。

 一瞬だけ振り返り、上空を仰ぎ見るが、木々に邪魔されて見えない。
 これじゃ気が付かないのも無理はないか。

「あれはっ!?」

 最初に魔術を掛けてやったミヅチは広場に近寄りながら上空を見上げていた。
 彼女の少し後ろにいたエンゲラもミヅチ同様に硬い表情で空を見上げている。

 ようやっと気が付いたようだな。

「あっちに散開しろっ! 俺はこのまま射程に入り次第撃ち落としてやる!」

 急いでミヅチの脇に向かいながら皆に指示を飛ばした。
 エンゲラが弾かれたように身を屈めたまま走りだす。

「ドラゴン、じゃない?」

 ガタガタ言ってんじゃねぇ!
 もう大きなビー玉くらいになってるんだ!

 鑑定……当然まだ無理か。
 でも、射程を延長した攻撃魔術ならもう届くだろ。
 発射点に固まっているのは良くない。

「早く行けっ!!」

 のんびりと目を細めて空を見上げたままのミヅチに怒鳴る。
 同時に左手をドラゴン目掛けて伸ばす。

「ワイヴァーンよ!」

 何でもいいさ!
 ストーンカノンミサイルを発射した。

 左腕の先から打ち出される超大型の電信柱。
 これだけ距離が開いていれば加速するのにも充分だ。

 空飛ぶトカゲ目指して猛スピードで飛翔する俺の魔力の結晶!
 トカゲを視認しやすいよう、発射直後に僅かに軌道はずらしている。
 ドラゴンだかなんだか知らんが、こいつさえまともに決まれば!

 ……何いぃぃっ!?

 
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