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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百三十二話 祭壇 1

7447年7月2日

 地上へと戻ったのは夕方だ。
 十層の守護者については何とかなりそうな目処もついた。
 だが、十一層か……。
 今までとは全く違う、ワンフロアぶち抜きだと思われる広大な世界。
 直径十kmはあると思われるから、面積は日本の大田区と品川区を合計した程度には広いだろう。
 自治体の面積なんか広い県のトップ5と狭い県のトップ5くらいしか覚えてねぇから根拠ねぇけど。

 入り口広場でたむろしていた殺戮者スローターズのメンバーやキャシーと合流した。今回の迷宮行で十層の突破を図る事は伝えてあるのでカームがムローワを借り切っていてくれた。一度宿に戻り、着替えなどを済ませてから殺戮者スローターズ全員で集合だ。

 全員集まっている事を確認し、十層の突破に成功したと報告した。
 俺の報告を聞いて歓声を上げた皆から祝福を受ける。

 二匹のグレート・アンダーグラウンド・ヴォジャノーイの魔石を取り出して見せる。
 今回のクワガタ巨人については、人型と言うほど人に近いモンスターではなかったために武器や防具などの装備品については得られなかったが、魔法の掛かった蹄鉄を得られた事、そしてその恐るべき能力を説明し、話は十一層の光景へと続いた。

 その光景を目にしていない全員が感心したような、そして、非常に興味をそそられたような、ある種憧れのような表情を浮かべていた。
 魔法の蹄鉄にはあまり興味はないみたいね。
 売るつもりは無い事を言ったし、売ったところでボーナスを得られないからかね?
 話を聞いて即座に将来的に役に立ちそうな品物であることに思い至って、今騒ぐような物ではない事であると思っていてくれればいいんだけどな。
 って、ミヅチやトリスが喋ってやがる。
 ま、いいけど。

 でも、あのクワガタ巨人の方はともかく、十一層についてはいずれ皆も目にするかも知れないね。

 何しろ今回、根絶者エクスターミネーターズは五層の転移水晶の間に到着したのは二日目の十六時前らしいからな。人数が二人減っていて、戦力としては落ちている筈なのにこれは驚異的な記録だ。ジンジャーやヒスがいた時とあんまり変わらない。

 ロリックと俺の戦闘奴隷のメックの魔法のレベルが上昇していることも大きな要因の一つでもあるだろうが、戦闘の積極性ではベテラン揃いの虐殺者ブッチャーズをも凌ぐからだろう。彼らはかなり経験を積んでいるし、元々のレベルが低かった事もあってここ二年では一番レベルが上がっているパーティーだ。あとちょっと、そうだな、一、二時間も縮めることが出来りゃ六層に行く切符も手にしそうだ。

 勿論、虐殺者ブッチャーズの方も負けていない。彼らも二日目の二十時過ぎには六層の転移水晶に到着していたようだからね。こちらも安定的に二十時前に到着出来るようであれば実力の証明としては充分だ。七層に行く許可だって出せるさ。

 何しろ今回は旧救済者セイバーズからのリーダーなしでの成績だからな。そもそも二日で六層の転移水晶まで踏破ってのは救済者セイバーズを除けば緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドにすら出来ない超スピードだ。

 彼らの顔も自信に彩られている。

「さて、六日からの迷宮行だが、次回は虐殺者ブッチャーズはゼノム。指揮を執ってくれ。そして、根絶者エクスターミネーターズの方は……そうだな。バストラル、お前行ってみろ」

「え? 俺ですか!?」

 意外そうな顔で返事をするバストラル。

「ああ、そうだ。そろそろそういう経験もしておいていい頃合いだろう?」

「……はい。やってみます! ところで、マールとリンビーは一緒に連れて行っちゃダメですかね?」

 ……こいつ、しょうもないところでびびるなぁ。
 末席に座らせていたマールとリンビーの二人は輝くような顔つきで俺を見た。
 キラキラという擬音でも放っているような目が眩しい。
 あ、バストラルはこの二人をソーセージ工場で指導していた関係もあるし、びびってたんじゃなくて単に早く使ってやりたかったってところなんだろうか。

「……ダメに決まってんだろ。こいつらじゃまだゴブリン相手だって怖いわ」

 俺に言われてマールとリンビーの二人が俯いてしまった。そりゃまぁ、一対一ならゴブリンは疎かノール程度でもまぁなんとかなるだろうよ。怪我を覚悟すりゃオークやホブゴブリンだって倒せないまでも相手くらいは出来るかも知れない。でもそんなの、成人くらいの人なら素人でも必死になりゃなんとかなるわ。そもそも、迷宮じゃ一戦してそれで終わりじゃない。

「おい、マール、リンビー。お前らじゃまだ早い。腕はともかくもう少し体が大きくならないとな」

 ルッツがそう言って励ましてやっている。

「ああ、大体槍での突ギ(つき)だってまんだまだだよぅ。そんなんじゃご主人様に大丈夫ですとはなぁ。はぁ、とても申し上げられねぇ」

 彼ら二人の指導をさせている俺の戦闘奴隷のジェスにもダメ出しを貰ってしまっている。

「マール、リンビー」

 少しいたたまれない気持ちになった俺は二人に呼び掛けた。

「「はい、ご主人様」」

「しっかり食ってるか?」

「「勿論です!」」

 彼らには毎食必ずバルドゥッキーを一本と生野菜としてキャベツ半玉かそれに相当する量の野菜、前世の六枚切り食パン換算で三枚程度の量のパンを食い切ることを義務付けている。まだ二ヶ月程度なのでその効果はあまり現れてはいない。しかし、これでしっかりと走り込みをして槍の素振りを毎日五百本に加えて、ミヅチが教えたスクワットを中心とするダイエット筋トレを元にしたトレーニングを二日おき、毎食後に五セットづつやれば一年も経ずして駆け出し冒険者程度の体力は付くだろう。技の方はともかくね。

「お前らはまだ体を作る時期だ。迷宮なんかまだ気にしなくていい。もう暫くしたら進捗を見てやるからな? しっかりやっとけ」

「「はいっ」」

 うむ。良い返事だ。こういうの気持ちいいよね。

 翌日、ボイル亭の小僧の目を盗んでミヅチの玉竜と俺のウラヌスにそよ風の蹄鉄ブリーズ・ホースシューを装着させてみた。
 ふむ。
 やはり簡単に装着出来るし、簡単に外せる。
 小僧に蹄鉄には触れるなと言うのも不自然な気がしたし、外せない事を不審がられてステータスを見られてもアレなのですぐに外し、纏めて神社のロッカーに突っ込んでおいた。



・・・・・・・・・



7447年7月10日

 十一層へと足を踏み入れた。

「天井が見えない……?」

 キムが上空を仰ぎ見て言う。

「本当に通路も無いのね……それに、この光……」

 カームも低い背を少しでも高くしようと背伸びをしながら周囲をキョロキョロと見回しているが、今転移してきた半円形の半径五mあるかどうかという広場の上空以外は密生した森の木に邪魔されて何も見えないだろう。

 何しろ、前回もグィネを木に登らせなければ二百m先にある筈の草原すら碌に見えなかったのだから。太さ五十~六十㎝はあろうかという木はその間隔が二~五mくらいしかない。所々には葉の大きな下草も生えているし、枝だってかなり低い位置からも生えている。

 光合成の定義って知ってる?
 光が差し込まないと駄目な筈なんだけどな?
 ……こんなの今更か。

 なお、天井からの明かりはやはり夕暮れのような茜色のままだった。

「どうする? このまま進む?」

 ミヅチが俺に尋ねる。
 転移先についてもその全ては壁際だと思われるし、それしか無いだろうよ。

「まずこの森を抜けてみよう。五m間隔で傘型壱番ウェッジ・ワンだ」

 そう言って先頭に立った。
 念のため生命感知ディテクト・ライフの魔術を使ってみたが、感知範囲である半径二百mでは自分たち以外には何の反応も示さなかった。
 また、罠発見ファインド・トラップや、縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)の魔術も使ってみたが、やはり反応は無かった。
 ま、前回も同じだったのでこれは予想してた。

 それなりに苦労して森を通けると、急に目の前が開けた。
 今迄あれだけ沢山の木々があったにも拘らず、急にそれらが一本も無くなったのだ。
 前回グィネが見たという草原を目にした俺たちはその手前で再度集まった。

「魔物を見たか?」

 念の為、皆に聞いてみるが、当然答えは否である。

 目の前に広がる、高さ十㎝程度の背の低い草が生い茂る草原の先には、これもグィネの報告通りところどころに森や林がそこそこの密度で点在しているように見える。
 外周の森よりはその密生具合は多少疎らにも見えるが、大して変わりがないようにも思える。

 せっかく通路の壁もないのに見通しの悪いことで自然と溜め息が漏れる。
 暫く全員で目を凝らしてみたが、やはりモンスターらしき動くものは見当たらなかった。
 七層よりも幾分光量が落ちる夕暮れのような明かりのせいもあるのかも知れない。

「ここなら開けてるし、安全も確認出来たからいいんじゃない?」

 ミヅチが言うのは地魔法で高い足場を作ってグィネに広い範囲を見させることだ。
 草原があるという事を聞いた時から必要だろうとは思っていた。
 この前は木が多くて階段を作りにくかったからね。
 全く無理とは言わないが、天辺まで登るのに枝を避ける為にウネウネと畝った階段を作るのだってかなりの精神集中を要求される。
 こういう目立ちそうな事をするのであれば、一度で済ませたいんだよ。

 前回はグィネの身長を入れても六、七m程度の高さから見ただけだ。
 水平線まで(見える範囲)は十kmも無い。
 おまけに木々が生い茂っている森の高さを考慮に入れると見渡せたのはいいとこ五㎞。
 転移水晶の柱程度までがせいぜいだ。
 だから今回はグィネの身長を抜いて最低でも十二、三m程度の高さの丘を作る必要を感じていた。

 欲を言えば余裕を持って二十m以上の高さは必要だろうと考えていた。
 高さ二十mともなると、登りやすさや階段の角度を考えて底面の直径は五十~六十m程度は必要だろう。
 生えている木に邪魔されない広い場所が必要だ。
 ついでにその頂上には潜水艦の艦橋のように頭だけが飛び出る程度の壁もあったほうが良いだろう。
 どこに潜んでいるかも解らないモンスターからの攻撃を考えればね。

「やっぱり外周は幅二、三百mの森ですね。その内側は同様の草原のようですが部屋の反対側については恐らくそうだろうという程度です。草原の表面までは見えませんでしたから。
 その内側は森や林が結構密集している感じのようです。割合としては、草原か荒野っぽいと思われる場所が二、森が五、林が三ってところでしょうか」

 土山から降りてきたグィネの報告自体は大方のところが予想された通りだった。

「部屋の反対側の方にも転移を試した方がいいか?」

「ん~、勿論その方が確実性は高まりますが、それは後々でも良いんじゃないでしょうか?」

 グィネがそう言うならそうなんだろう。

「で、地面はどこも平らっぽかったの?」

 ミヅチが尋ねる。これも重要な事だ。

「ええ、森の中が丘になっていたとしても高さ自体は大した事はないでしょう。どちらかと言うと地面がここより低い場所があるかどうか解り難かったのが難点ですねぇ。森や林の下の地面がどうなっているかは近付いてみないと……」

「山みたいのが無さそうだって事が判っただけでも大きいわ」

 ベルも会話に参加してきた。確かその通りだな。

「ああ。だけど、この迷宮って各層の中での地形はあんまり上下しないよな」

 俺の言った事には共感は得られたが、誰も理由の解説まではしてくれなかった。
 勿論、このバルドゥックの迷宮内の地形は全く上下しない訳ではない。
 【傾斜感知インクリネーションセンシング】の特殊技能を持つミヅチやカーム等はごく僅かな地面の傾斜具合にも気が付くし、ラルファの【空間把握】でも気付く事もあった。
 しかし、今までははっきりそれと解るような事もあまりなかった。
 不思議には思っていたけどさ。

「とにかく、行ってみなけりゃ始まるまい」

 この場所での会話を打ち切ると、作った足場を消そうかどうしようか迷った。
 ま、消しておくか。
 俺が足場を消している間も皆はしきりとこの層について話し合っている。
 不安なんだろうな。

傘型壱番ウェッジ・ワン、二十m間隔。目標はあの木だ」

 かなり大きく間隔を取って草原の先の少し高い木を目指すことを告げる。
 多分あの木までは二百mあるかどうかだろう。
 あそこまでは罠は無い筈だ。

「一気に走り抜けるぞ」

 少し姿勢を低くしつつ草原に足を踏み入れた。
 あんまり意味無いと思うけど、気分的な問題だよ。



・・・・・・・・・



 草原を渡り、少し移動して森と林の間の切れ目のような広場に入った。
 今通ってきた後ろ以外は木々に覆われており、これでこの階層に何かモンスターが居たとしても視線は遮られているだろう。
 流石に遮るものが何もない草原を渡るのに全員が緊張を隠しきれなかった様子で一息ついてるところだ。

 しかし、高いところから見たグィネですら全くモンスターを見掛けていないってのも不気味だよな。
 その時だ。

「あれ、何?」

 森の奥を窺っていたラルファが疑問を口にした。

 ラルファが指さしているのは森の奥の方、つまり転移水晶があると思われる層の中心部方向だった。

「ん~? どれ?」
「どこだ?」

 カームとトリスも彼女が指す方向を見ているが特におかしいものは見つけられないようだ。

「多分その位置じゃ幹に隠れて見えにくいよ。この角度で……」

 ラルファが今まで立っていた位置を譲る。

「ん……あれは!」
「え? ……あ……」

 背の低いカームの後ろからトリスが立ち、二人で一方向を見た。
 少しして何かに気付いたようだ。

「何が見えるの?」
「どうしたの?」

 エンゲラとベルを始め、皆も集まりそちらを見る。
 俺も見てみたが、立っている位置が悪いらしく、沢山の葉をつけた枝や木の幹に邪魔されて二十mくらいしか見通すことは出来ない。

「アルさん! あれ、祭壇です! 祭壇が見えます!」

 ぬぁに!?

 急いでトリスに場所を譲って貰うと、確かに百m程先に祭壇の一部分だけが僅かに見えた。
 少し頭の位置を左右にずらしただけで見えなくなる絶妙な角度だ。

 祭壇があるということは……。

 すなわちモンスターが召喚されるということ。
 そして、今まで同様であれば四体のガーゴイルの石像がその傍にある筈。

 だが、お宝が得られる可能性もある。
 見逃す手はないと思われる。

「どうする? あそこまで行ってみる?」

 今にも舌なめずりでもしそうな挑戦的な顔つきでラルファが言う。

「でも、森の中よ。広場じゃなければ……」
「木がかなり邪魔になるかもな」

 ベルとトリスが同時に警鐘を鳴らした。

 そうだよな。
 特にキムとグィネの得物は槍だ。突くだけならいいだろうが、振り回したり、振り下ろしたりといった使い方は相当難しいか、まず無理だろう。
 槍だけじゃなくて剣だってそれなりに厳しいと思われる。
 恐らくだが普段とあまり変わりなく使えるのはラルファの血塗れの手斧ブラッディ・ハンドアックスだけなんじゃないか?

 これだけ視界が悪いとミサイル系の攻撃魔術もそうだし、必殺技の氷漬けだって目の前の奴くらいにしか……。
 武器を振りかぶっていたり、体の一部を武器にしているような相手が目の前にいたら氷漬けなんて出来る訳ない。
 武器を振り下ろすのなんかコンマ一秒もかからないから氷漬けなんかよりよっぽど早い。

 どうする?

 さっきまでは、これ以上木々の密生度合いが高まるようであれば最悪の場合、火魔法を盛大に使ってすぐに十層へ退避することまで頭のうちにあった。
 木までは燃やせない迄も葉っぱや小さな枝くらいは燃やせるだろうと思ってのことだ。
 また、もしモンスターが巣食っているのであれば山火事のような大火の熱と、酸素で呼吸しているのであれば酸欠で始末出来るかも知れないとすら考えていた。

 尤も、以前推測したようにオースの空気の成分が地球と同じで、モンスターが空気中の酸素で呼吸しているなら、という仮定の上での話だけど。
 それにしたって元々薄弱な根拠しかねぇしな。

 でも、祭壇があるとなると話は別……だろうなぁ。
 祭壇まで燃えちゃったらまずいだろ。
 石の部分も多いから燃えないかも知れないけどなんらかの害を及ぼさないとも限らない。
 お宝的に。

 このくらいの木であれば風魔法レベル七の攻撃魔術である真空刃ヴァキュームブレードでぶった切れるだろう。
 でも、切った木どうすんだよ?
 その場に倒れて余計に邪魔になるだけだ。

 おい、どうするよ、俺?
 やっぱ普通に戦ってお宝を得るしか道はないのかねぇ?

 
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