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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百二十八話 新たな層へ

7447年5月9日

 七層のオーガメイジが居ると思われるモン部屋の前に到着した。
 今日はカームとキムが居るので少し遅いペースだ。
 今の時刻は朝十時くらい。
 本来ペースの速い七層でここまで四時間くらい掛かってるしね。
 なお、彼女たちには昨晩あれから更に色々詳しい話をしている。

 モン部屋突入にあたってはミーティングが必要だ。
 と言っても内容は一言。

「始末して来るからここで待ってろ。少し休憩にしよう」

 それだけだ。

 あ、あとギベルティの差し出した水筒に熱いお湯を入れ、お茶を淹れておくように命じておいた。
 丁度いい休憩地点のようなものだしね。

 あとはいつも通り慎重に部屋の中心部に忍び寄り、オーガメイジの含まれたオーガの集団を発見し次第レベル八の水魔法と火魔法の氷で固めて窒息死を待つだけだ。本当ならいつもの様に白兵戦を仕掛けても良かったが、今回はカームとキムが居るし、まぁ多少なりともそれなりのところは見せておくべきだろうと思ったんだよ。

 今ではレベル八で出せる氷だけで始末を付けられる事は判ってる。最初の時のように八倍なんかで使う必要はない。そうだな、レベル七だと一発じゃきつい。最低でも倍は欲しい。欲を言えば三~四倍で使えたら群れの中心から多少狙いが逸れても確実にオーガの集団の息の根を止めることは出来る。レベル八ならそんな心配もないくらい充分な量の氷が出せるから、使用MPはレベル八を二種類の合計十六で済む。更に全部使わずに量を減らしても充分だ。ついでに消す時も楽だしね。

 高さ五m、直径三十mくらいの氷で固めてやった。
 これだってレベル八で出せる氷の三十分の一にも満たないんだぜ。
 それでもレベル七の三・五倍というところだ。
 氷に拘ってる理由は、地魔法で同程度の量の土で埋めると流石に一匹くらい出てきちゃうからなんだ。

 地魔法は手から出すのでなければ指定範囲の空間の上部から土が湧き出してドサドサと降り落ちてくる感じだからもっと多くの量を出す必要がある。完全に埋めるまでには当然タイムラグもあるから移動もされちゃうしね。尤も、MPは少なくて済むのでその分沢山出したっていいんだが、量が多いと魔石を取るためにオーガの死体を探すときにアンチマジックフィールドで消すときに大変だしね。

 氷で固めた後、皆が待機している場所までとことこと歩いて戻る。ギベルティが用意しておいてくれるお茶でも啜ってしばし休憩だ。

「あの、グリード君。オーガメイジは……?」

 車座になってお互いの背後を監視している救済者セイバーズの中に混じったカームがギベルティの差し出したお茶を受け取りつつ尋ねてきた。

「ん? ああ、始末してきた。もうすぐ死ぬだろ」

 輪の中に入り込んだ俺もお茶を受け取ると早速口をつける。カームとキムは俺が何を言っているのか全く理解出来ていないようだ。ぎょっとしたような顔を見合わせると何か言おうとしていた。

「どのくらい居た?」

 胡座をかいたラルファがまずそうにお茶を啜りながら聞いてきたので、何か言いたそうにしていた二人は喋るのを止めたようだ。どう見てもラルファは何の危機感も抱いていないように見えるからだろう。しかし、確かにあんまり旨くないお湯で淹れてるけどさぁ。気持ちは解るがもう少しマシな顔は出来ねぇのかよ、素直過ぎるだろこいつは。

「いつもと一緒。十匹ちょいじゃねぇか? ちゃんと数えてねぇからわかんね。お、炒り豆くれよ」

 グィネからお茶請けの炒り豆を貰ってそれをポリポリと齧る。豆は旨いな。

「相変わらずいい部屋とこですよね」
「本当だよ、オーガが十匹以上固まってくれてるのはここくらいだしなぁ」
「ですよねぇ、今回みたいにアルさんがやってくれる時は良い休憩になりますから」
「だよなぁ、俺にも炒り豆くれよ」
「どうぞ」

 グィネとバストラルは呑気そうに会話をしている。

 ズールーとエンゲラは早くも魔石採取用の大ぶりのナイフを取り出して脇に置いてそれぞれお茶を飲んでいるし、ゼノムは頬の変な位置に生えてきた髭を抜くのに忙しそうだ。

「ねぇ、グリード君。こんなことしてて大丈夫なの? 皆に聞いても心配いらない、すぐに解るって言うばかりで何も教えてくれないの……」

 お茶のカップを両手で持ったキムが心配そうに聞いてきた。

「魔法で片付けるって聞いたけど……」

 カームも少し落ち着きが無いみたいだ。

「ああ、オーガなら纏めて氷漬けにしてきた」

「「氷漬け……?」」

「あと十分くらいで皆死ぬだろ」

「「皆死ぬ……?」」

 ん……そうか、二人は魔法が使えないんだったよな……じゃあ理解が足りないのも頷ける。
 勿論、氷漬けに出来る事を知らないって意味じゃない。

「ん、後で見りゃ解るよ」

 適当に時間を潰して氷漬けにしたオーガが窒息死するのを待ち、いよいよ魔石採取だ。
 ミヅチが居ればアンチマジックフィールドの練習も兼ねて彼女に氷を消させるところだが、居ないので俺が消す。左手の前に五m四方くらいのアンチマジックフィールドを展開させ、歩き回って氷を消す。

 死体が出て来ると予めナイフを用意していたズールーとエンゲラを始め、皆が早速ナイフを突き立てに小走りに駆け寄って行った。

 念の為に周囲を監視している俺から少し離れた場所からカームとキムの話し声がする。

「あの時最初からこう出来ていれば……」
「姐さん、何言ってるの? そうだったら未だにコーリットさん達にお金を吸われていたよ」
「あ、そうか」
「それにあの時は結局誰も死んでないし」
「でも、途中でこりゃ誰か確実に死ぬかと思ったわ……」
「それはそうかも知れないけど、私は腕を折られても自分が死ぬとは思わなかったなぁ」
「私は後ろで全部見てたから……魔法を使って来たのを見て、本当に驚いたわ」

 別に彼女たちもコソコソと話していた訳じゃないので近くに居た奴には聞こえていたと思う。
 彼女らの一番近くで魔石を採っているグィネの顔をそっと窺うと、ありありと苦笑が浮かんでいた。

 苦悶の表情を浮かべたままのオーガの死体。
 その胸を切り裂きながら苦笑いを浮かべるドワーフの若い女。
 ちょっとシュールだ。

 そして、七層の転移水晶の間に到着した。
 モン部屋でカームとキムはオーガを固めた氷を見て腰を抜かす程驚いていたようだが、ここまでの道中で魔法の技能についてのレベルアップと経験値を得易い方法を発見した事について説明したら感心したような顔になっていた。

 少し休憩して、昼食にはまだ早かったので八層へと転移した。



・・・・・・・・・



「八層はやっぱり違うね……」
「トロールだっけ、なにあいつ……突いても突いても目の前で傷が治っていくなんて実際に見るまで信じられなかった……」

 八層の転移水晶の間に到着した時にはカームとキムの二人共かなり疲労が溜まっていたようだ。ぼやいたと思ったら座り込んでしまった。これ、ミノが残ってたらまずかったかね?

「それでも傷の治癒なんか放っておいてガンガン突き入れてやれば倒せますからね」
「火魔法使えば楽だったでしょ?」

 そんな二人にグィネとラルファが声を掛けている。俺はさっさと鎧を脱ぎ始め、外したパーツをズールーに渡していく。ギベルティが行李から替えの下着を出してくれさえすれば、それを受け取り次第いつでもシャワーを浴びに行けるようにしておくのだ。

「でも、苦労しただけあってトロールの魔石も結構な値が付くんだよね」

 カームが嬉しそうに言った。

「色は悪いけどオーガのより大きいしね」

 ラルファも早速革鎧を脱ぎながら答えている。

「それにさ。でっかい虫、倒すの自体はオーガよりだいぶ楽ね」

 キムも幾分明るい声音だった。

「ですね。あれで魔石は一個十万くらいの値が付きますからね。正直お金を稼ぐならなかなか会えないオーガを探して彷徨くよりも八層を歩いていた方が楽ですよね。オーガ強いですし」

 ま、俺としちゃオーガのが楽なんだけどね。出て来る数が少ないから魔法使う回数も少なくて済むし。だが、まぁ、虫はオーガのような一発死亡クラスの致命的な一打を放ってこないからグィネが言うことも頷けはする。あ、カマキリの鎌は切るためのものじゃなくて、獲物となる相手を掴んで固定するためのものだ。鎧のない腕を掴まれても、せいぜい尺骨か橈骨のどちらかが折れる程度で切り落とされるようなものでもない。首でもやられたら流石に危ないだろうけど、それはカマキリに限った話じゃないしね。

 今日はたまたまスカベンジクロウラーが出て来なかったので比較的高価な魔石だけを得ることが出来た。



・・・・・・・・・



7447年5月10日

「それは何?」

 いつものように網撃ち銃を担いだギベルティにカームが尋ねている。

「ん? 新型の弓だよ」

 ギベルティは上手い事言うな。彼にも銃の撃ち方は学ばせているし、銃と言う言葉も教えているんだけどね。

「弓? 弦も無いし、変なの……クロスボウって訳でもなさそうだけど」

 キムも不思議そうに訊いていた。

「九層の転移水晶の手前、ミノタウロスの集団相手に使うためのものですよ。見てれば判ると思いますよ」

 バストラルが少し詳しく言うが、結局何にも説明してない。
 別にいいけど。

 網撃ち銃も使うのを止めようか、どうしようか少し悩んでいたが、結局使うことにした。
 それ以前に、カームとキムが居るままだと使わないと流石に怖い。
 そもそも、ライフル銃とは違ってこいつ自体には殺傷能力は殆ど無い。
 飛翔体となる棒が直撃でもすりゃ多少の傷を負わせるくらいは出来るが、それもたかが知れてる。
 うむ、網撃ち銃という名が良くない。
 網撃ち器(ネット・シューター)にした方がいいだろ。
 ……言葉遊びかよ。

 まぁ、使うことにした以上、カームとキムにも一応口止めはしておいた。
 二人ともパーティーの守秘義務についてあれだけ深い理解をしているが、念の為、ね。

「でも、九層か……」
「九層と言ったらさ」

 しかし、すぐに興味を失ったのか、カームとキムは何か小声で話し始めた。
 どうやら食い物の話らしい。
 カニか?



・・・・・・・・・



「うンま! このカニうンま!」
「カニシャブって言ったよね? これ本当に好きだわ」

 九層を通る途中で倒したカニを一匹。ギベルティに担がせた甲斐があったな。
 カームとキムは喜んで食っていた。
 俺たち?
 流石にもうそこまで騒ぎゃしない。
 毎回一度は食ってるからね。
 飽きはしないけど。

「ああ、救済者セイバーズに入れて良かった……」
「一度食べただけだしね……頑張った甲斐があった……」

 そう言って貰えて良かった。
 しかし、カニで頑張ったとか冗談なんだろうが安っすいな、おい。
 たまにバストラルがカニの足や鋏を持って帰ってたし、トリスだってちょくちょくカニミソを持って帰ってたじゃん。
 知らないの?
 ベルがカニシュウマイ作った時、居なかったっけ?
 ありゃ救済者セイバーズだけで食ったんだっけ。
 醤油がないから一回こっきりで止めちゃったんだ。

 それより網撃ち銃、もとい、ネット・シューターについて感心してた話はどうなったのさ?

 そうれはそうと、明日から十層の地図作成で大変だぞ。
 鋭気を養っておいてくれ。



・・・・・・・・・



 こうして二ヶ月ほど頑張って十層もかなりの部分の地図がグィネの頭の中に入った。
 その間、変わったことと言えば緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドの前衛、精人族エルフのバース、普人族ヒュームのサラ、それにベンノと言う盾持ち(シールド・ホルダー)の三人組が七層のオーガを相手に大怪我を負い、ほうほうの体で逃げ帰り、暫く活動停止を余儀なくされたくらいだ。
 ああ、煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)は慎重に六層を歩きまわっているようだ。また、黒黄玉ブラック・トパーズは戦闘奴隷を数人購入したらしい。
 そうそう、アミュレットだけど、八月の四日が入札締め切りだってさ。
 あと一ヶ月強だね。
 幾らの値が付くのか本当に楽しみだよね。

 俺たち殺戮者スローターズも順調であった。

 カームとキムも救済者セイバーズにしっかりと溶け込み、元々一流の冒険者であったこともあってそこそこ頼りになるようになっている。特に採掘による鉱石の発見についてはカームは非常に確かな知識を持っていた。この辺がクサい、とカームが言うと十回に一回くらいは何らかの鉱石や宝石を得ていた。安物も多かったけどね。

 ミヅチ曰くノームはドワーフと並んでこういうのが得意らしい。それを聞いて鉱脈だの採掘だのの知識が全くなかったゼノムはへそを曲げていたけど。そう言えばバークッドのドワーフの従士、鍛冶を担当しているアルノルトの父親のゲルダン・フリントゲールも鍛冶だの細工だのはからっきしだった。ゼノムとは逆に酒にはすっごく強かったけど。

 カームはローゼンハイム伯爵領の鉱山街を支配する男爵に仕える従士の家の出で、本格的に鉱山で働いたことはないものの、それなりの知識を持っているとの事だった。道理でね。彼女が言うには六層以下は殆ど手付かずで、通路を歩いていてもたまに怪しいところがあるらしい。特に十層はそれまでの層と異なり、勘が働く場所の数は相当増えているんだって。これだけ取ってもカームが移籍して良かったと言える。

 また、魔法の品(マジック・アイテム)こそ得なかったが、魔道具なんかも救済者セイバーズで三つ、虐殺者ブッチャーズもミヅチがリーダーをしている時に一千万Zクラスと見込まれる無色透明のレンズ状のガラスを発見していた。些か値段が高過ぎると思われるかも知れないが、無色透明のガラスは非常に高価だ。種ガラスになるからね。サンダーク商会の会長曰く今までも同様のものがバルドゥックから何度か出たことはあるんだって。これは俺が買い取った。先々使えそうだったし。

 六月の末から七月にかけ、カームとキムの二人をそれぞれ虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズのリーダーとして出向させる時が来た。二人共魔法が使えないから今回はあんまり無理をさせない。

 だが、救済者セイバーズは別だ。
 いよいよ十層を超える時が来たのだ。
 ライフルなしで守護者相手にどこまで行けるかね?
 せめてネット・シューターくらいは一応持ってった方がいいかねぇ?

 
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