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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百二十六話 再出発

7447年4月29日

 戦闘奴隷になりたいと生意気を言うマールとリンビーの二人を諦めさせるべく、ズールーとエンゲラに張り倒させていたところに現れたのはサンノ、ルッツ、ロリック、デンダー、カリムの五人だった。朝のランニングを終えたばかりらしく汗まみれで現れた五人は朝食のバルドゥッキーをジョンとテリーに作らせようとやって来たらしい。

「お早うさん、グリード君。何やってんだ?」
「よう、もうランニング済んだのか。ズールー、マルソー。どうしたんだよ?」

 サンノとルッツが声を掛けてきた。うるせぇな。邪魔すんなよ。

「バルドゥッキーなら中でメックたちが掃除してるから言えよ」

 それだけ答えるとマールとリンビーに視線を戻す。
 どうやらサンノたちは大人しく工場の中に入ってくれたようだ。
 二人は相変わらず恨めしそうに俺を見ている。
 そんな目で見られても使い物にならんものは使い物にならん。

 大体、戦闘奴隷になりたいなんて、いきなり俺に言って来るあたりもどうかしてる。
 苛めの報告ならそれもいいが、そこまで緊急を要する類の話じゃないだろう。

 まずは奴隷頭であるズールーあたりに相談でもして話を通し、彼を納得させた上で一緒にお願いしてきて然るべきだし、何ならキャシーだっていい。彼女相手なら話し易いだろうし。そもそもジョンとテリーは何してやがった。

 奴隷頭であるズールーをすっ飛ばして俺に直訴などとんでもない。
 ズールーの立場だって無くなるということが解らんのかね。
 解らなかったからそうしたんだろうけど。

 ロンスライルさんよぉ、躾、きちんと終わってねぇじゃねぇか……。
 未だにズールーは厳しい顔つきのままだ。
 まぁ、普段一緒に居る訳じゃ無いしな。
 これでズールーを責めるのもお門違いだからそんな顔すんな。
 自分の心配なんかしてないって顔だけど。

「おい、二人共。お前ら、死にたいのか?」

「いえ、死にたくはありません」

 少しの沈黙の後、マールがおずおずとして答えた。

「お前は?」

 再度リンビーに声を掛けた。

「あ、あの、私も死にたくないです」

 少し涙声になっている。

「そりゃそうだろうな。俺だって死にたくない」

 手に持っていたバルドゥッキーの串焼きの残りを口に放り込み、残った串を弄ぶ。

「お前らさ、戦闘奴隷がどういうものか解ってて言ってるのか?」

「「……。」」

 いつ俺に盾になれって言われるかわかんねぇんだぞ?
 いつ逃走の時間稼ぎのために見捨てられるかわかんねぇんだぞ?
 そん時に碌に時間稼ぎの一つも出来ない奴を使う訳ねぇだろうが!
 人が増えりゃ食料も運ばなきゃいけねぇんだ。
 一度に転移出来る人数が限られている以上、無駄な席はねぇんだよ。

 ズールーもエンゲラも今では相当に名の知られた戦闘奴隷で通っている。
 碌に実績のない新人ニュービー冒険者なんか道で出会ってもスッと避けてこそこそと耳打ちを始めるくらいだ。
 八層を突破してからこっち、王都でだってそれなりに噂にはなっているだろう。

 だからかねぇ……。
 こいつらもそういうのくらい耳にしてない方がおかしい。

「一度くらい迷宮に連れて行ってみたらどうです?」

 店から出てきたロリックが話し掛けて来た。
 お前には関係ねぇだろうがよ。
 それどころか、仮にこいつらを戦闘奴隷にするとしたら……。

「ロリック、すまんが責任を持てないならちょっと遠慮してくれないか? それに、こいつらを戦闘奴隷として使うなら根絶者エクスターミネーターズに入れることになるんだぞ?」

 お前らんとこはデンダーやカリム、メックにジェスと既に戦闘奴隷が四人もいる。下手したら戦闘奴隷だらけになっちまうよ。

 勿論、精人族エルフの奴隷使い、ロズウェラみたいな奴もいるから禁じられている訳でもないがね。迷宮内で奴隷に反乱を起こされていない事を鑑みてもロズウェラはしっかりと奴隷たちの心を掴み、相応の扱いをしている証拠だ。反乱だろうがモンスターに殺されようが、ご主人様を失った戦闘奴隷なんか、遺産相続の過程でどこに売られるか判ったもんじゃないからロズウェラはちゃんと奴隷の忠誠心を得ているとも言える。

 なお、当然十人全員を戦闘奴隷で固めたってOKだが、そんなパーティーを作ったところでまともに機能するとは思えない。監督者が居ないのを良い事に、一層に転移したらずっとそこでサボってるだろう。

「まぁまぁ。確かにそうですが、一層をちょっと見せてあげるのも人生勉強ですよ。『鉄は熱いうちに打て』とも言うじゃありませんか。若いうちに鍛えるのも大切でしょう?」

 いや、言わんとする所は解るが、そのちょっと見せてあげる過程で死んじゃったら元も子もないだろうがよ……。

「おう、今ラリーに聞いたんだが、そいつら戦闘奴隷になりたいんだって?」

 ルッツも話に首を突っ込んできた。まじでよしてくんねぇかな。まぁこいつの場合、大半は興味本位なんだろうが。

「無理だろ。武器の扱いも出来ないだろうし、すぐにおっ死んじまうのがオチだ。そんな甘いもんじゃねぇよ」

 サンノも加わって来たが俺の気持ちを代弁してくれているかのようだ。彼の後ろにはデンダーとカリムが居て小さな革袋を提げている。朝飯用のバルドゥッキーはちゃんと買えたようだな。

「俺もそう思う。……お前ら程度、すぐに魔物に殺されて俺の財産減らすだけだ。諦めろ」

 吐き捨てるように言ったら、マールとリンビーの二人は更に項垂れるばかりだった。
 ほらな?
 この程度の事を言われる程度で何も言えなくなるようじゃ迷宮で戦うなんて無理だろう。

「アルさん、そんな言い方したら何も言えなくなっちゃいますよ……。なぁ、お前ら?」

 そうロリックに声を掛けられても、勿論二人は拳を握り締めて項垂れたままだ。
 ロリックは奴隷の扱いには慣れていると思っていたんだが、こうして見ると結構甘いのな。
 ま、俺も結構甘いんだけどな。
 どうしても人を相手にしていると思ってしまう。
 物であると、消費可能な、単なる財産であると割り切れない。

 俺は前世から通して子供を持った事がない。
 甥や姪を可愛がったりはしたものの、彼らにしてみればたまに会った時に小遣いをくれるちょっとウザい親戚の伯父さんという程度だろう。

 ゼットとベッキーにしたって一緒に過ごしていたのは彼らが二歳半までのごく僅かの期間であり、ちゃんとした人格を備えるまで付き合っていた訳でもない。そりゃまぁ、二人の性格くらいは解っていたが性格はあくまで性格。乳幼児に人格は無い。一人の人間が自分の頭である程度考えられるようになるまでの間、一緒に過ごし、成長を見つめた事はないのだ。

 そういった意味では一番近いのは姉のミルーだが、俺自身が乳幼児であったこともあって、まともに触れ合ったのは彼女が五歳になった頃からだ。その時期には既にかなりの人格が形成されていた。三~四歳頃の人格が発生する時期については碌に知らないのだ。

 加えてミルーはド田舎とは言えれっきとした貴族の家の生まれでもあったし、親父やお袋の教育だってあった。その上、たっぷりと愛情を注がれて育ってきた。都会の奴隷の子とは比較にならないだろう。

 対してマールとリンビーは生まれながらにして奴隷であり、確か五~六歳だっけな? もっと前だっけな? とにかく小さな頃から親とも疎遠だ。親の愛情を殆ど知らずに育ってきたと言っても過言では無いかも知れない。広義ではネグレクトを受けて育ってきたとも言えるだろう。買った当初はこの二人だけでなく、皆一様に痩せており、表情に乏しく目つきも悪かった。

 ご主人様である俺を恐れている風にも見えた。

 尤も、当時から俺はかなり名の知れた冒険者でもあったし、そこそこの商会も経営していた。

 それはそれで仕方のない事だと思ってもいたんだ。

 それが、曲がりなりにも僅か一年と経たず自分を主張し、俺に希望を述べてきた。

 その程度には……。

 あの瞳の輝き。

 しかし。

 よりにもよって戦闘奴隷かよ……。

 くそ。

 なんだってそんな危ないもんに憧れるかね?

「メックとジェスを呼んで、いいや。メック!! ジェス!!」

 ロリックには返答せずに、工場に向かって大声をあげた。
 二人が来るまでの間にマールとリンビーに声を掛ける。

「お前ら、来月中に俺達と同じ外輪山のコースを二時間以内で走れるようになれ。それが出来たらもう一度話を聞いてやる」

 そんな顔したってまだ認めた訳じゃねぇぞ。

 ……畜生。

 後悔する気がする。

 ……畜生。

 ――後悔だけはしないような人生を送ることを勧めます――

 確かにそうだよな……。
 だが、一度吐いた唾は飲めん。
 ヘンリー、メック、ルビー、ジェス。
 お前ら今まで結構楽し過ぎだろ。
 少しは精神的にも苦労させてやる。



・・・・・・・・・



 当面のガキ二人の面倒をメックとジェスに押し付けたあと、時間も押している事もあって俺はさっさとトゥケリンの治療院へ出向くとミヅチと合流した。彼へ挨拶をし、注文をし、そして代金を前払いした。ダート平原の調査だ。因みに調査費用には二千五百万Zとの見積だった。高ぇ。業突く張りの闇精人族ダークエルフ共め。これでいい加減な調査内容だったら夜にミヅチを苛めてやる。

 ……あれから一年。そろそろクローもマリーもウェブドスの騎士団を退職して出発しているだろう。

 去年の暮、二人は揃って騎士の叙任を受けた。特にマリーは会計についてかなりの実務を任されていたらしく、仕事の引き継ぎやなんやで退職には春くらいまで掛かるだろうとの事だったのだ。退職してバルドゥックに来る途中、ダート平原の視察を頼んでいるから到着は夏から秋にかけてだろう。

 彼らには念のため馬の購入費用と旅費などの支度金として二千万Zを送っている。ちゃんとした軍馬を二頭調達しろと言っているからどうしてもこのくらいの金額になってしまう。合流してからしっかりやれば二人で二千万Zなんて半年で返せるさ。

 さて、可能なら午前中のうちにはサンダーク商会に行っておきたい。ミヅチと二人でサンダーク商会まで出向いたが、アポなんか取ってないので商会長は接客中とのことで会えなかった。空き時間を確認すると遅くても夕方頃には空く筈だと手代のおっさんが言っていたので夕方に出直すことを言付けて退出した。

 仕方ないのでミヅチと二人で手分けして豚肉などの仕入先を挨拶回りだ。勿論、挨拶は副次的なもので、本当は仕入先の中でのシェアの調査である。新参の客であるグリード商会に対しての食肉卸しの割当量を増やして貰う交渉と言った方が良いだろう。出来れば豚だけでなく牛肉も卸して欲しいのだ。これはと思う食肉店やその後ろの牧場主などには可能なら仄めかし(サジェスチョン)の魔術まで駆使してゆっくりと交渉を続けている。

 そうこうしているうちに時刻は四時を回っていた。ミヅチと合流し、再びサンダーク商会へと足を運ぶ。と、興奮したような顔つきの一団がサンダーク商会から出て来て馬車に乗り込むところだった。商会長はその団体を見送るために商会の入り口まで出てきているようだ。

 大口の取引先なんかね? 邪魔しないように距離を取って見ているとすぐに馬車は出発していった。ミヅチと二人、商会長に軽く会釈をすると手招きをされたのでそそくさと近づいた。

「いやぁ、グリードさん、例の地魔法除け(アース・アミュレット)ですが、評判は上々ですよ!」

 ほほう!
 今日一番良い話じゃないか!

「そうですか! それは良かったです」

「お陰でオークションの告知をしたものの、入札を開始出来ないのが辛いところです。まぁ立ち話もなんですので奥へどうぞ」

 前にも言ったことがあるが、高価な品物のオークションは公開競り方式ではない。そういうの買う人、買える人は忙しいから特定日時に一箇所に集まるなんて出来る訳無いのだ。オークションの手順としては、まず、事前告知が行われる。確実に入札に参加しそうな人やその品物についての識者など何人かに品物を見て貰うのだ。そしてその場で商会長も交えて相談が行われて最低落札価格が決まる。

 その後改めて入札の可能性が高そうな人たちに正式な告知をして同時に最低落札価格も伝えられる。入札の希望者は都合の良い日に商品をじっくりと見て、希望価格を商会に申し入れる。入札を希望する人全員に商品を見て貰った後、商会は改めて希望者全員の希望価格のリストを作成して全員に配布する。そして、期日を決めて非公開の入札となるのだ。入札希望者はリストを眺めて最終的な入札価格を決定し、商会にそれを伝える。これがあるので希望価格の決定は駆け引きのしどころだと言える。従って、入札希望者の全員に品物を見て貰う迄は入札は行われない。

 商会長が「値が付くには最低半年は見て欲しい」と言った所以である。

「今の方々も入札の希望者でしてね。遠路はるばる騎士団長や財務官を伴ってご覧になられにいらっしゃいました」

「ほう。それはそれは……」

「先程彼らが話していた希望価格は四十五億Zでしたよ。これは今回のオークションの希望価格の平均あたりですな。然らば、落札価格はだいたいその一・五倍程度は見込めるでしょう」

 ぬっは! い、一・五倍ですと!?
 な、七十億近いじゃねぇかっ!!

「えっ? 六十七、八億ってことですか?」

 俺と同様に目を剥き、瞳の中に(ゼニー)マークを描いたミヅチが言う。
 俺も同じような顔をしてるんだろうな。

「左様です。我々としても一発で十億の利益が出る商売は久々です。感謝しますぞ、グリードさん」

 サンダーク商会長はほくほく顔で俺とミヅチに頭を下げる。
 勿論、俺たちもほくほく顔だ。
 なにせ仲介手数料と税金払っても五十億だぜ、五十億!
 救済者セイバーズの皆にボーナス払っても四十億以上が手元に残る。
 俺の資金は一気に倍以上になるじゃないの!

「九名の方々が入札の意思を表明しておりまして、品物の開陳は残すところあと一名です。いま暫くお待ちください」

 待つよ待つ待つ、幾らでも待ちますとも。首を長くして。

 なんでも入札希望者はロンベルト王国だけでなくグラナン皇国やバクルニー王国にも居るらしい。当然ながら、かの国々の貴族なんかに直接連絡を取ったりはしていない。大使館みたいな出先機関に打診をして本国に連絡を取って貰っているのだ。出先機関は情報収集と関税の交渉がメインの業務であるが、たまにはこういった仕事もある。絵画や彫刻などの芸術作品などの取引だって立派な国家間交渉の種になるのだ。

 なお、ロンベルティアにはデーバス王国の出先機関もあるが、一応国境を巡っての紛争中なので殆ど没交渉となっており、出先機関も騎士団に監視されているとのことだ。勿論、監視の度合いが非常に高く、それと判るように露骨に監視されているという意味での監視である。当然そういう相手にはオークションの開催も告げられない。

 早馬を持っている外国の大使館で入札を希望する国はすべてアミュレットの視察を終えているらしく、今は国内の有力な顧客である大貴族の中で入札を希望する人の視察を受けている所らしい。

 あ、これ聞いとかなきゃ。

「あ、そういえば売却代金なんですけど、白金貨で頂戴出来ますか?」

 五十億ともなると金貨なら五千枚である。最悪それでもいいけど嵩張るだろう、重量と体積的に。白金貨は話に聞いたことがある程度で実物を見たことはないからこれを機会に見てみたい。

「ふふ、当然ですよ。今回最低落札価格を一億に設定しているのはそういう意味でもあります」

 なんでも最低落札価格によって支払う貨幣の種類に制限をつけるのが慣習だそうだ。当然伝える相手も厳選されている。今回であれば「億単位必至。支払い能力が無い者にはそもそも伝えないけど、冷やかしは勘弁してよね」という意味になるそうだ。



・・・・・・・・・



7447年4月30日

 昨日、と言うか今朝の早朝暗いうちにバルドゥックに戻った俺とミヅチはまた妖精郷へと向かっていた。一層と二層を抜けいつものように三層から君が代を歌って二層の妖精郷のエリアへ転移すると例の落とし穴と蛇の噴水を突破して夜中まで一休みだ。

「先に寝て。四時間したら起こすわ」

 床に俺のローブを敷いただけの簡易的な寝床を作ると最初に俺が休むことになった。

「うん。じゃあ先に休ませて貰うわ」

 外した籠手プロテクターを枕代わりに目を閉じた。
 すぐに俺の体に何か掛けられた。
 ミヅチが彼女のローブを掛けてくれたんだろう。



・・・・・・・・・



「今年は例年より雨季が短かったのでかなり甘くなっていますよ」

 俺の右で髪をひっつめにした椎名が中堅スーパーの青果担当のバイヤーに熱弁を振るっている。正式なプレゼンは先月、十月の末頃の訪問時に終えており、うちの輸入するナムドクマイ種のタイ産のマンゴーは他の商社の扱うフィリピン産のペリカンマンゴーより高価だったが食味と梱包が良いと判断され、今日はその初回の納入日だ。

 先方も満足気に相槌を打っていた。

 確か初めて彼女に担当を任せた顧客だった筈だ。
 この時は苦労したんだよな。どうしても攻略出来ず、たまたま青果の仕入れルートが開拓出来たこともあって、思い切った俺は普段あんまり扱わないマンゴーを提案させたんだ。
 それが上手く嵌った。

 初受注に大喜びをしていたっけ。

 お礼を言って席を立つ俺たちをバイヤーさんは応接フロアにあるエレベーターホールまで見送りに来てくれた。

 エレベーターの扉が閉まると椎名は「ありがとうございます。受注出来たの半分以上川崎さんのお陰です」と俺に頭を下げた。頭が戻ると髪をひっつめにしているせいもあって、耳たぶのほくろが目立つ。

 こんな事もあったなぁ……。



・・・・・・・・・



 揺り起こされた。
 交代の時間か。
 寝床から立ち上がって伸びをしつつ籠手プロテクターを装着する。
 俺と交代に今度はミヅチが休む番だ。

 同様に籠手プロテクターを外し枕の位置に置くと、ミヅチは寝床に横になってローブを掛けた。
 彼女の脇、洞穴の壁に凭れて座った。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

 ミヅチは籠手プロテクターを枕代わりに俺の方に顔を向けて目を閉じる。

 二時間ほどが経過し、時刻は既に二十一時を回った頃だろう。

 リュックサックのポケットに紛れ込んでいた銃弾の弾頭を弄びながら彼女の顔を見つめた。
 結局治らなかった顔の傷が目立つ。
 少し申し訳なく思った。
 結局未だに病気を治す魔術は使えないままだ。

『銃さえ使えば小さな子供でもあなたを即死させられる。怖いの』

 ベルから聞いたミヅチの言葉を思い出す。
 ……そうだな。
 戦場での流れ弾は恐ろしい。
 だから銃だけは絶対に俺の陣営以外では使われないようにせねばなるまい。
 来るべき時までは絶対の秘密だ。
 そう思っていた筈なのに……な。
 変わったもんだ。

「ん……」

 少しミヅチが姿勢を変えた拍子に白く染められた髪が彼女の顔を隠した。
 そっと髪を撫で付けて顔を出してやる。
 エルフ特有の少し尖り気味の耳が顕になった。
 普人族ヒュームよりも小さな耳たぶにほくろはない。
 新しい体だから当たり前といえば当たり前だ。

 再び手の中の弾頭を弄ぶ。

 ピン、と親指で弾き、落ちてきたところを横から掴む。
 もう幾度も繰り返し同じことをやっている。

【鏃】
【鉄】
【状態:良好】
【加工日:26/3/7447】
【価値:1】
【耐久:114】
【性能:10-120】
【効果:無し】

 やじり、ねぇ……。そういやあ薬莢は【真鍮工芸品ブラス・クラフト】で、網撃ち銃やリボルビングライフル銃は【金属工芸品メタル・クラフト】だったよな。火薬に至っては【綿(加工済み)】とか【染料(加工済み)】とかのまんまだし。性能欄に数字が表記され、かろうじて武器だと認識されているっぽい弾頭と較べてどうなのよ? ……棍棒と認識されるよりはマシか。

 おっと、こんなことを考えてボーっとしている間にそろそろ時間か。

「そろそろ起きろよ」
「ん……あ……なた……そんな……恥ずかし……」

 お前、一体俺に何やらせてるの?



・・・・・・・・・



7447年5月2日

 今回ミラ師匠たちに教わった魔術は和平の膠(ピース・グルー)騒音の壁ロアーリング・ウォールの二つだ。双方とも習得にはそれなりに苦労した。騒音の壁ロアーリング・ウォールの方はともかくとして、和平の膠(ピース・グルー)については即時の発動が可能になるようにしておきたい。トリスやバストラルのほか、ビンスとロリックも使えるようになる可能性があるしね。

 寝不足のまま王都に戻るとミヅチと二人、まずは睡眠を取ることにする。
 夜明けまではまだ暫くあるとはいえ、今日は昼迄寝てやろう。

 結局二人共九時頃に起きたんだけどね。
 貧乏性だよね。

 さて、ミヅチとは魔術の習得に掛けた時間以外たっぷり話し合った。
 マールとリンビーは今月末までにランニングコースを二時間以内で走れなければ元の奴隷に戻す。走れるようであればヘンリーやメックに槍の稽古でも付けて貰って殺戮者スローターズ全体の予備メンバーとしてもいいし、根絶者エクスターミネーターズに編入してもいい。クローやマリーが合流したらその時はその時だ。

 ダート平原の調査についてはまずは参考程度だろう。
 ミヅチが言うには、調査できた本当の事を報告してくると思うとは言うが、調査力は未知数だし、場合によってはクローやマリーの方が鋭く見てくる可能性もある。こちらについてはちゃんと調査出来る様なら良し、そうでなければいずれ調査隊を編成しなければならない。

 そして、地魔法除け(アース・アミュレット)

 やはり半分くらいの確率で地魔法単体や地魔法と無魔法のみの組み合わせの魔術をキャンセル出来る威力は大したものだ。極論を言えば俺の地魔法最強の攻撃魔術、ストーンカノン(ミサイル)だってキャンセルされてしまう可能性があるのだ。尤も、アイスとかフレイムとかがあるから俺の敵対者が装備していたとしてもあんまり怖くないけどね。

 しかし、あの価格は魅力的だ。
 ミヅチ理論に従えば十層以下では更に性能の良い物を入手出来る可能性もある。
 新体制にもなったことだし、こりゃあ熱も入ろうってもんじゃないか。

 
和平の膠(ピース・グルー)」オルタレーション
(地魔法Lv4、風魔法Lv3、無魔法Lv4、消費MP10)
目標となった武器一つは一瞬だけ僅かな輝きを放つとともに、すでに収まっている鞘、ホルダー、矢筒などから抜くことが出来なくなる。効果時間は術者のレベル×六十秒。ただし、武器の所持者は効果時間中に一度だけ武器を抜くことを試みることが可能。術者とのレベル差一レベル毎に魔術を打ち破る可能性は一%あり、最低は一%。しかしながら魔法によって武器を抜くことが出来ないと気付いた場合、この確率は倍に上昇し、尚且つ抵抗を意図してこの魔術に魔力で対抗を試みた場合、ゼロレベル無魔法に込めるMP一点毎に抵抗確率は三%上昇する。

騒音の壁ロアーリング・ウォール」エヴォーケーション
(地魔法Lv4、風魔法Lv4、無魔法Lv5、消費MP13)
術者が望む壁一つ(最大サイズは術者のレベル毎に十平方メートル。効果時間は術者のレベル毎に十分間)に対してその壁に対する聞き耳などを欺瞞する騒音を発生させることが出来る。壁は大きな凹凸のない平面または緩やかな曲面であり、途中で折れ曲がっている場合、曲がり角までが有効範囲となる。騒音は壁を通して反対側の物音を聞こうと試みる対象のみに発生する。
+注意+
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