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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百二十話 不安3

7447年4月8日

 さて、昨日は一昨日に引き続いて銃を使用せず、再度徹底して銃の扱いについて教え込んでいたが、やはり今後のことを考えるといつまでも使用しないと言うのも微妙な気持ちになる。経験値が得られない件についてはどうしようもないが、有効な武器であることに間違いはないのだ。誰でも一定の威力で遠距離攻撃が可能になる利点は経験値を差し引いても余りある。

 ミノやトロール、オーガと言った力のあるモンスターと対峙する際には、やはり保険として持っておきたい。こういった強力なモンスターの攻撃は例え頭部などの急所に命中しなくとも、体のどこかに僅か一撃、命中するだけで手酷い被害を受けてしまうのだ。特に荷運び(ポーター)であるギベルティに使わせることが出来れば大きな切り札になるだろう。

 ギベルティが朝食を用意している間、部屋の隅で装備の点検をしながら色々な事について少し考えていた。

「ねぇ、アル。昨日の見張りの時にサージと話したんだけどさ……」

 いつのまにか隣に来たラルファが小声で話し掛けて来た。シャワーを浴びたばかりのようでまだ髪が濡れており、タオルを頭に巻いていた。ここじゃ魔法が使えないから乾かしてやれない。

「あのときのベル、本当に銃口をアルに向けてたの?」

 少し疑わしそうな表情を貼り付けたラルファは、気が付いた俺に顔を近づけて更に小さな声で訳のわからない事を言った。
 確かに銃口は俺の方を向いていたし、引き金に指は掛かりっ放しだったさ。そうじゃなきゃあんなに慌てるもんか。ゼノムだって俺の横で見てたんだぞ。

「どういう意味だ?」

「うーん、実はね……」

 昨日の夜の見張りの時、ラルファとバストラルは銃の使用が禁止された原因となったベルの行動について話し合っていたのだそうだ。そして、普段から弓での狙撃などでモンスターにダメージを与え、飛び道具に造詣の深いベルが銃を不用心に扱ったことについて二人は不審を禁じ得なかった。

「言われてみりゃ確かに……」

 そう答えはしたものの、俺としてはあの晩ベルと会話したことで納得はしていた。弓より数段強力な銃の威力に興奮を抑えられなかったと言っていた。ミノやトロールをすら一撃で無力化可能な威力に酔いしれていた。弓だとミノやトロールは疎か、オークやホブゴブリン位になると本当に正面から目玉にでも当てない限りは弓矢じゃ一撃とは行かないしね。

「あのベルが銃を不用心に扱うってのはねぇ……」

 ラルファが言うにはベルにしては不自然過ぎる行動だと言う物だった。確かに、言われてみればあれだけ普段から銃の取り回しについて口煩く言っていたにも拘わらず、あのベルがそんな基本的な部分で抜けているというのも考え難い。基本的にベルは俺の言い付けに背いたことは無い。勿論、反論したり、意見したりする事はあるので単なるイエスマンではないが、一度取り决めた事についてその後に何か言うようなみっともない真似はしない。

 その彼女があの時に限って安全について怠った……?

 確かに腑に落ちない。

 しかし、昨日は熱心に執銃について再学習していたではないか……。

「ねえ、あんたはどう思うの?」

「うーん。そう言われてみれば……確かに変な気もしてきた。バストラルも呼んで、いや、直接ベルと話す」

「うん、そうして。でもきっとベルにも何か考えがあると思うんだよね。出来れば二人きりで、怒らないようにね」

 そりゃそうだ。勿論解ってるさ。

 ベルはラルファの次に朝シャン(シャンプーなんか無いけど)の為に転移水晶の間を出ている。部屋の外に居るのは彼女だけ……だな。残り全員部屋に居る。俺はギベルティに朝飯はもう少し待っていてくれと言い残して部屋を出た。出歯亀に行くんじゃないから勘違いしないで欲しい。

 シャワーにしている岩場と転移水晶の間の中間くらいの場所でベルが戻るのを待つ。

「あ、アルさん、お早うございます」

「ああ、ベル、おはよう」

「アルさんもシャワーですか? 珍しいですね。どうしました?」

 いや、もう一部だけど鎧着けてるじゃんか。今更シャワーなんざ浴びねぇよ。

「ちょっと話してもいいか?」

「なんです?」

 ベルは濡れた髪を拭きながら少し頭をかしげた。

「なぁ、今になってやっと気付いたんだが、何か言いたいことがあるのか?」

「ふふっ。アルさんにしては鈍いなと思ってました」

 鈍いな、って、買い被り過ぎだろ。

『と、言っても、一昨日の夜に話が出来ましたから、気付いても気付かれなくてもどっちでも良かったんですけどね。でも、気付いてくれたのであれば、もう私の狙いは解っているんじゃないですか?』

 ベルの言葉を聞いて少し微妙な気持ちになるが、やっぱり目的があったのか……。
 しかし、目的ねぇ……銃の安全について再度の徹底を図ることか?
 今更?

『そうか。実を言うと俺が自力で気付いた訳じゃ無いからそこは誇れないんだ』

『いいですいいです。でも、あの時に言った気持ちは本当のことです』

『ん?』

『アルさんに要らないって言われたらどうしようってことです』

『ん、ああ……』

 それ以外のところには演技や方便も含まれていた、って事か……。

『ん……格好つけても仕方ない。ベルのしたいこと、目的は解らないままだ。なぜあんな真似をしたんだ?』

『……本当に?』

 本当に? って、そんなわかり易い目的なんか? やっぱ再度安全管理について徹底しようとすることか?

『……でも、もう私の目的は半分以上達成されていますよ』

 ベルは柔らかい顔付きをして言った。

『……』

『当面、銃について使用禁止になりました。この間に私達は銃の扱いについて再度考える時間が作れました』

 ベルは少し居住まいを正して真剣な顔付きになった。

『……アルさん。先日ミヅチさんとゼノムさん、トリス、それに私で話し合った事があります。聞いて貰えますか?』

『そりゃ勿論』

 ベルを始めとして意見があれば誰の意見だって聞くし、採用に値すると思えば当然採り入れるさ。

『最近アルさんは慢心していませんか? いえ、変な意味じゃないんです。適当な言葉が見つからなくて……そう。銃が一応完成したことで隙が出てませんか? うーん、これも適当じゃないですね……そうです! 皆に気を配り過ぎて本来の目的を見失っていませんか?』

 え? 隙? 出てたかな?
 まぁ自分じゃ気付かない事もあるだろうし、指摘してくれるなら有り難い。
 ベルは矢継ぎ早に言葉を継いでいく。

『アルさんは殺戮者のメンバーを誰も殺さない、殺させないと言っています。勿論、それは立派で素晴らしいことです。私も大賛成です。でも、そんな事、迷宮に入っている限り約束出来る類のものじゃありません。建前ですよね?』

 ……面と向かって言われるとキツイね、こりゃ。俺としては建前なんかじゃなくて本気でそう思っているんだけどな。でも、ベルの言うことも理解できる。死者を出さないなんて、何が起こるか解らないバルドゥックの迷宮に潜っている限り約束なんか出来るわけない。でも、それを言っちゃあ将来について、未来について何も言えないじゃんか。最低限俺にはそれを目標の一つにするのが責任だと思うし、義務ですらあると思ってる。

『解ってますよ。でも、これだけは覚えておいて下さい。人は必ず死にます。私達だって今まで何人も迷宮で死んだ人を見て来たじゃないですか』

『ん、まあ、そりゃそうだ』

『ところで、何故今回、ミヅチさんとトリスは継続して出向させたままなんです? 今までのアルさんでしたら、前の迷宮の射撃練習で上手にこなせた私と、伸びの著しいマルソーを虐殺者と根絶者に行かせてるんじゃ?』

 急に全然関係ない話を始めたベルに、俺は誰か近づいてきたのかと思ってつい周囲を見回してしまったが、そんな事は無かった。

『いや、特に理由はないよ。強いて言えば、二人共射撃については得意そうだったからまずは集中して訓練して欲しかった、と言うのが理由かな』

 うん。ミヅチもトリスもそこそこ要領がいいし、魔法も使えるから本格的な射撃練習は後回しでもいいと思ったんだ。それよりも早くモノになりそうなベルとエンゲラを優先させたに過ぎない。

 俺の答えを聞いたベルは何やら口の中でブツブツ文句を言っているようだった。『全くもう』とか『お陰で……』とか言っている。何だかなぁ……今回の殺戮者内での人選についてどうも俺は予想外の行動をしてしまったようだ。確かにここ最近は特に理由なく連続で出向させたままってのはしてなかったね。

『今回、本当はミヅチさんがアルさんに話をする予定でした。元々はミヅチさんから相談を受けたことが始まりですので。でも仕方ありません。私にはああするくらいしか思い付きませんでした』

 んん?

『もう、なんで私はこんな話の時ばっかり……。うまく伝える自信ないのに……ミヅチさんもゼノムさんもトリスも……あ、すみません』

 なんか言い難そうだ。

『アルさん。もう迷宮で銃を使うのやめませんか?』

『は?』

 何を言い出すんだ?

『ああ、違う違う。銃を使う事自体は良いんです。良くないけど、良いんです』

 訳が解らないよ。

『私はカームさんたちにも当然信頼を寄せています。彼ら、彼女らは普通のオースの人ですが、今まで付き合ってきて、それなりに信頼出来るだろうと思っています。でも、オースの人です。決して馬鹿にする訳じゃない事は予め最初に断っておきます。こんなこと言いたくないですが、銃を始めとする地球の兵器について、本当の怖さを知りません。きちんと説明すればある程度想像するくらいは出来るでしょうが、本当の意味での怖さなんか理解出来る訳ありません』

 そうかもね。そうじゃないかもね。どちらにせよ確信なんか持てっこない話題だよね。

『ええとですね。私は、いえ、私達はこの先、迷宮の中で遅かれ早かれ誰か死ぬだろうと思っています。勿論、誰だって死にたくありません。私だってそうです。死ぬつもりはありません』

 お、おう。

『その上で、あえて言います。誰が死んでもいいじゃないですか。アルさんさえ死ななければ夢は続くんです』

 ええーっ! 良くないよ!

『ミヅチさんから聞きました。元々銃は領地が出来てから取り組む予定だったって……。あのミノタウロスごときに苦戦している私達を見かねて計画を前倒ししたんでしょう? やめて下さい。私達のために大きなリスクを冒さないで下さい』

 ん……まぁ、網撃ち銃は確かにあの強力なミノタウロスがいつ復活するか解ったもんじゃないから作り始めたのは確かだ。魔法使えねぇし。

『確かに最初は皆銃の威力に酔いました。興奮しました。それは私もです』

 ベルの説明はあちこちを行ったり来たりしながら続けられた。要点を簡単にまとめるとこうだ。

 銃を使うのは転生者とゼノム、ズールーとエンゲラ、それに加えてギベルティだけの時にして欲しい。これは現在銃の存在について知っている全員ということになる。ああ見えてロッコやジェルなんかのお調子者たちも相当口は堅い。銃について彼らが知ったとしても、そう濫りに情報を漏らすことは考えにくい。バルドゥックの最前線を走る殺戮者スローターズの原動力の秘密を漏らすことはトップチームに所属する冒険者としては考えられない自殺行為だからだ。

 だが、次回かその次かは判らないが、いつかは入れ替え戦に勝利して、誰か交代する奴も出て来るだろう。今まで通りならその時は銃も引き続いて使うだろう。しかも、今後もっと深い階層に行けば、あのミノタウロスよりも更に強力なモンスターが出てくることも考えられる。

 非常に強力なモンスターを簡単に倒せてしまいかねない銃についてそれでも口を噤んでいられるだろうか? 直接誰かに吹聴しなくても仲間内での会話から漏れることだってあるのだ。

 特に十層、十一層と深部に行けば唯でさえ注目されている殺戮者スローターズのメンバーの会話は嫌でももっともっと注目を浴びる。

 将来的に独立した際の大きな力になるであろう銃の情報をこんなことで漏らす「可能性」を高める訳には行かない。どうしても銃を使用せざるを得ない場合、旧殺戮者(スローターズ)のメンバーしか居ない時じゃないとダメだ。

 例えそのせいで誰かが犠牲になったとしてもそこは割り切るべきだ。
 それが容認出来ないのであれば入れ替え戦については出来レースでも何でもいいから入れ替えにならない結果にしろ。

 と言うのが彼ら四人の出した結論だった。

『ベル、お前、本気で言ってるのか?』

『本気ですよ。途中で死んでしまう人はそこまでだったって事です』

 能面のような無表情でベルは冷たく言い放った。
 確かにちょっと前の俺でも似たようなことは考えたろう……。
 しかし。

『それはミヅチとゼノム、トリスも一緒なんだな?』

『そうですよ。元々ミヅチさんが言い出したことですし、相談を受けた私達全員で出した結論です』

『……』

『危険を減らすために計画を前倒しして銃を作った。それは良いでしょう。でも、それによって将来に禍いを招きかねません。アルさん、そんな甘いことでどうするんですか』

 甘い、ねぇ。部下の犠牲を少なくすること、少しでも安全性を高めることを甘いと言われちゃ仕方ない。甘いかも知れん。しかし、俺はそうは思わない……。

 この何が起こるか解らないバルドゥックの迷宮で誰一人犠牲者を出すことなく莫大な財宝を手に入れる。あのジョージ・ロンベルト一世ですら出来なかった厳しい目標だと思うんだけどな。だけど、ベルたちが言っている事とは少し違うことも確かだ。

 銃を使わずにそれが出来たら確かに素晴らしい事だろう。

 だが、あのミノタウロスの中に居た無茶苦茶強い奴。あんなのが今後も出て来るなら……出て来るだろうなぁ。銃なしでどうにかするのは至難の業だ。ドゥゲイザーだってもう一度戦えばどうなるか解ったもんじゃない。

『……そ『ミヅチさんから伝言です』

 俺が返事をしようと息を吸い込んだところにベルが言葉を重ねた。

『その……ミヅチさんからの伝言ですが、これから言うことは私達四人の総意でもあります。今までのはアルさんが好みそうなそれっぽい建前です。建前とは言っても情報の漏洩なんかについては結構本気ですけど……本当のところは……』

 本音があるのか。

『銃さえ使えば小さな子供でもあなたを即死させられる。怖いの』

 確かに銃の威力を目の当たりにすれば心変わりする奴が出ないとも限らない。少しでも目端が利くのであれば寝ている時なんかに俺たちを銃で殺し、例えばロンベルト王国に新型の武器だと言って売り込んだりすることすらやろうと思えば可能だろう。新規に弾薬は作れないだろうけど、ある程度製造した直後ならそれなりの量になる。

 ベルは続けて言う。

『まずあり得ないレベルで考え過ぎなのは解っています。カームさんを始め、今のメンバーは皆アルさんを頼りにしていますし、当然アルさんの意向についても尊重しています。……誰よりも大きな夢を語り、夢に向かって走り続ける強固な意志を持っています。皆結構アルさんの事解ってますよ。それに、誰よりも強く、誰よりも聡明で、誰よりも先のことを考えています。そして……誰よりも皆の安全に気を配り、心を砕いてくれています』

 どこの聖人だよそれ。俺はそんな大したもんじゃないぞ。
 それに、そんなん真顔で言うなよ。
 目を逸らしたくのを堪えるのに結構な努力を要した。

『ご存じありませんか? カームさんを始め、皆、アルさんの下で貴族になると言ってるんですよ。そりゃあ、迷宮ここで大きく稼いでも良くてどこかの貴族の従士になれるくらいでしょうし……。そうだ、いつか故郷に帰ると言っていたミースさんですらジェルさんと将来のことについて話し合ってるそうですよ?
 ロッコさんとケビンさんは上品に振る舞うために今まで面倒だと断っていたサージの勉強会にも去年の暮くらいから顔を出し始めました。ああ、サージが教えているのは文字や算数だけで、そちらの方は私とトリスが中心になっています。
 サンノさんとルッツさんはつい先日、割り算までマスターしています。ズールーとマルソーはヘンリーとメック達のアルさんの奴隷だけじゃなく、デンダーやカリムにも色々教えているそうですよ。皆、ミヅチさん、ゼノムさん、ロリックさん、トリス、それに私の五人へのアルさんの講義に早く参加したい、そのレベルになるんだって言っています。
 休みの日、全日に亘って遊び呆けている人なんかもう誰も居ませんよ』

 え……知らなかった。でも……。

『あ……ラルとグィネは……その……』

 うん。それは知ってた。

『とにかく、アルさんを裏切って銃について漏洩することは考えにくいですが、そう思っていなくてもどうしても漏れちゃう可能性は否めません。嫌な言い方ですが、そのあたりは転生者やアルさんの奴隷とはそもそも意識からして違うでしょうから……』

 ああ……まぁ、それはそうかも……。

『アルさん、貴方はもう皆の希望になっているんです。貴方の夢に人生を託そうという人たち全員の希望です。勿論、それは私達も一緒です。万が一にもつまらないところで躓いて欲しくはありません』

 ベルはそう言って微笑んだ。
後ほど追加や修正をするかも知れません。
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