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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百十九話 不安2

7447年4月6日

「アル、さっきから一体何をしているんだ?」

 考えに集中している事を誤魔化すためにトロール・キンの頭部を観察していた俺にゼノムが声を掛けて来た。説明も必要だろうし、これ以上考えても結論なんか出る訳がない。丁度良いか。

「ん、傷口を調べてるんだ。こいつを見てくれ。ここに鉄砲の弾丸たまが命中した」

「ふむ」

「で、そのまま頭蓋骨を通り、後頭部の頭蓋骨も通り抜けて、多分あっちの壁のどっかに刺さってる」

「後ろの方が傷はでかいな。前の方は矢傷より小さいのにな」

「ああ、顔面の方の頭蓋骨を通る時に僅かに角度がずれたんだろうな。それで、後頭部の頭蓋骨を通る時には正面じゃなくて少し斜めになっていたんだろう。弾の勢いは殆ど変わらずに弾だけが少し大きくなったと思えばいい」

「ほほう、なるほど、よく解らん」

 流石に運動エネルギーや衝撃波については話してもよく解らないだろう。それらには触れずに出来るだけ平易に言ったが、ゼノムにとっても理解の範疇外だったようだ。でも、ラルファやグィネだって理解出来ないと思うので何の問題もない。

「弾の改良が必要ですか?」

 ベルも話に参加してきた。尤も、彼女の場合はゼノムとは全く別の意味だろう。

「ん。必要かどうかはまだ解らない。相手によって何種類か使い分け出来れば良いんだが、流石にそれはな……(えっ?)」

 返事をしながら振り返ってベルを見た俺は思わず声を上げて後退りしそうになった。こ、こいつ、なんつー表情を……。

 ベルは双眸を爛々と輝かせ、顔は僅かに上気している。口元には妖しい酷薄そうな笑みが貼り付き、息は少し荒くなっているようだ。ああ、こいつ……あれか? 危ない人か? だが、それ以前の問題がある。

「ベル! 銃口を下ろすな! 指は引き金(トリガー)から外せっ! それよりさっさとギベルティを呼んで銃を渡しておけ」

 つい大声で叫んでしまった。

「え? あ、すっ、すみません! ラ、ラリーを呼んで来ます」

 非常に初歩的な事で俺に注意され、恥ずかしさから真っ赤になったベルは慌てて部屋の外に駆けて行った。銃はちゃんと右手で銃床の付け根を上から、左手で被筒部を下から支えられ、銃の角度は銃口を上に向けた三十度から四十五度。控えつつの姿勢になっていた。
 うん、その控え銃(ハイポート)が意識せずに自然に出来なきゃダメだ。

 さっきは出来てたのによぉ……。

 今日、これからは様子を見ながら全員交代で生体目標への射撃をさせるつもりだったが、ベルがあの様子だと先が思いやられる。
 射撃に必要だから立射の据銃きょじゅう姿勢と控え銃や立て銃などの本当に基本的な執銃姿勢だけは教えていたが、この調子だと執銃教練、やっぱりやんなきゃダメかねぇ?
 ダメだろうな。
 今度から銃にもストラップを付けるようにしておこうか。

 結局その後はベルの執銃安全不履行を理由に銃の使用は控えることにした。充分に威力は認められたし、どうせ経験値は入らないからね。周囲の安全に気を配ることが出来なければ万が一の事故の際に怪我人が出るくらいならまだしも、死者でも出たら取り返しがつかない。

 それに、そろそろもっと広い範囲での連帯責任を意識させ始めてもいい頃だろう。

 その日の晩飯の段にベルが皆の前で謝罪した。

「その……みんな、私のせいで今日の練習の機会を奪ってごめんなさい」

 俺が何か言う前に自ら謝罪するあたり、責任を感じているんだろう。
 少し雰囲気が暗くなりそうだったし、ベルを責めるような状況にはしたくない。

「責任を感じるのは良いが、それはあの時ベルの傍に居て彼女が視界に入っていた全員が等しく感じるべきものだ」

 この機会に改めて全員に銃の取り回し、つまり執銃について説明する。

「……特に今のこの銃については安全装置が付いていない。周囲の安全については気を配りすぎということはない。気を付けてくれ」

 最初に網撃ち銃を作ってから何十回言ったかわからない内容を繰り返して言う。特に今回は射撃に関しては一番優秀だと目されていたベルですら射殺に酔って安全が疎かになっていたことが皆のショックだったようで、いつも以上に神妙な様子で聞いて貰えた。

「改めて言うが、射撃姿勢は大別して三種類。銃を持っている時の姿勢は五種類な。だけど、当面の間、射撃姿勢は立射。射撃時以外の取り扱いは控え銃と立て銃の二種類だけ徹底して貰う。これはギベルティも含めて全員が無意識に出来るようになるまで続ける。それまで実戦使用は禁止だ」

 迷宮の中で伏射ねうち膝射ひざうちはまず必要にならないだろうから省く。本当を言えば立射は俺の知っている自衛隊の教本には載ってないが、迷宮では数十mの距離で射撃を行うだろうし、場合によってはもっと近距離になるだろうからすぐに移動出来るこちらの方が有効だろうと立射を基本とした。ストラップが出来るまでは下げ銃や吊れ銃も無理だ。担え銃だけは可能だけど、あれは格好つけて行進する時くらいだからこれも省く。捧げ銃? それこそ軍隊が出来て敬礼が必要になるまでいらんだろ。

 とにかく銃を携えての移動時の控え銃と停止時の立て銃だけは叩き込んでおかなきゃ。

 それに、今回の経験値の件もある。
 例の件についてもそろそろいい頃合いかも知れない。
 勿論“鑑定アイデンティフィケーションの魔術”についてだ。
 迷宮から戻ったらミヅチとロリックに相談しよう。



・・・・・・・・・



 その晩、夜中の見張りの時にベルと一緒になった。
 皆が寝ている傍でベンチに二人で腰を掛け、熱い豆茶を啜っていた時、彼女は改めて詫びてきた。

「最初の時はとにかく外せないと気が張っていて気付かなかったけど、その後のミノタウロスを相手にした時、マルソーが撃った銃の威力に骨抜きになっちゃいました。あの時から使いたくて、撃ってみたくてうずうずして仕方なくなってました……。二回目のトロール・キンの時、銃弾一発で倒れるモンスターを見て凄く興奮してしまったんです。私は銃を使うのに向いていないのかも知れません……」

 酷く恥ずかしそうに謝るベルは子供のようにおどおどとしていた。

「そこに自分で気が付けたのであれば問題ないさ。それに、ベルが射手をやらないでどうする? 【射撃感覚シューティング・センス】の持ち腐れになるぞ」

 冗談めかして言うが、実のところベルがそれ程思いつめているとまでは考えが及んでいなかった。

「でも……」

 ベルは何かに怯えたような雰囲気を醸し出しながら俯き加減になっている。

「『自衛隊』でもさ、最初に実銃が貸与されてから、実際に射撃訓練を始めるまで結構時間がかかるんだ。俺も『執銃』、銃の取り回しのことを『執銃』と言うんだが、最初にしっかりとそれを叩き込まなかった責任は重いと思っているよ。今回の件、誰の責任が一番かと言ったら、あんな中途半端な状態で実戦に使った俺が一番悪い。すまなかった」

 さっき見張りを交代したラルファは俺達のすぐ後ろで毛布に潜っている。起こさないように声のトーンを落として答えた。

「そんな! 謝らないで下さい。ちゃんとした姿勢はともかく、私は……ラルやグィネ、サージもですが、銃の威力や危険さについては良く知っていたんです。安全には気を配るべきでした」

 おどおどとした自信を喪失したような雰囲気から一転して俺を庇ってくれるベル。

「うん、そういう見方も出来るだろうな。でも、銃の取り扱いについて一番知識と経験があるのは俺だ。少なくとも全員の取り扱いについて問題がないと確信出来るレベルまで実戦に使うべきじゃなかった。……俺も焦っていたんだろうな……ごめん」

 銃が完成し、浮かれていた俺が一番悪い。確かに安全に九層を通り抜けられるようにしたかったが、焦る必要なんかなかったのだ。

「……す、すみません。私……アルさんに要らないって言われたらどうしようって……」

 ええっ!? なんでそうなるのよ。

「……おい、そんなこと俺が言う訳ねぇだろ。ベルだけじゃない。殺戮者スローターズの他の皆にもそんな事言わんよ」

 俺、簡単にそんなこと言うように見えるんかね? 少し凹む。

「はい、それは解っています。でも、今回迷宮に入る前、トリスと話したんです。銃の威力は凄い。あれだけの物を作れるならバルドゥックの迷宮なんかすぐに奥まで行けるだろうって……。それに、誰でも少し練習すれば迷宮で戦う程度の距離であれば簡単に命中出来るようになります。そうしたら私なんてちょっと射撃が上手いだけの……いつ虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズの誰かと交代だって言われるか……」

 目を涙で一杯にしたベルが言った。
 そっちの方を恐れていたのか。
 でも、そうなったらそうなったで仕方ない……というレベルの話じゃないんだろうな。

 ベルにしてみれば銃の無い頃は、魔法を除いて彼女の弓矢が飛び抜けて強力な遠隔攻撃手段だった。だから自負心もあったろうし、それに支えられた自信も持っていたんだろう。銃が出来てもやはりベルの射撃の技倆はかなり優れていることは誰もが認めていた。彼女自身もそれは理解していたんだろう。

 だが、単純な射撃の技倆を考えると固有技能を使っていないベルは一番上手、と言う訳ではない。射撃はやはり練習回数がモノを言う。勿論過去に銃を扱ったことの有る俺が一番上手かった。正しい射撃姿勢は反動リコイルを抑える事にも有効なのだし、特に連続射撃を行う際には撃鉄を起こす動作やその意味を自然と理解している俺に一日の長がある。そもそも設計、製造は俺がやってるんだしな。

 尤も、時間の問題でいつか抜かれるとは思うけど。

 まぁ、俺はいい。
 ベルだって最初から俺を上回るなんて考えちゃいなかったようだし。

 そこに、思わぬ伏兵が登場した。エンゲラだ。最初こそ火薬の炸裂音に腰が引け、怯えさえ見せていたエンゲラだが、射撃を練習させ、発射音に慣れると天性の才能を持っていたのかめきめきと上達した。あっという間に固有技能を使わなければベルですら太刀打ち出来ないようになってしまったのだ。ベルにしたら危機感を覚えていたのかも知れない。

 でも、俺を除いて二番手だぜ。
 多分、俺の射撃の技倆は元々そんなに優れてはいない事もあって今後もそう上達することはないだろう。それでも百m程度の近距離までなら問題ないんだからいいんだけどね。ベルだって俺と同じく数十~百m程度であれば固有技能を使わないでも相当な命中精度を誇っており、その技倆は未だに伸び続けている。

 それが銃の威力を目の当たりにしてちょっと調子に乗ってしまい、安全が疎かになったくらいでここまで気に掛けて悩むとは……。射撃に自信を持っていた彼女だけにショックもあったのかも知れないな。

「さてね……。次の入れ替え戦でベルに挑戦しようって奴が居るとは思えないけどな。それに、そう簡単に将来の侯爵夫人に楽をさせられるか。地位が欲しけりゃベルにもトリスにも俺と一緒に泥を啜って貰わにゃあな」

 自分で渋いと思っている右の唇の端だけを吊り上げたニヒルそうな笑みを浮かべて返答する。

「はい……はい……そうですね。でも、一言だけ言わせて下さい」

 俺の左に座っているベルが泣き笑いのような表情を浮かべながら俺を見上げて言った。
 ん? 何よ?

『あんまり格好つけて誤魔化さなくてもいいよ。もう少し素直に言いなよ』

 ベルの言葉を聞いて自然と笑みが溢れる。

『ん、そっか。そうだな。ベル。ラルファもそうだけど、あんな程度で……そう簡単にお前らを手放すもんか。お前らはオースで初めて日本人の友達になってくれたんだ』

『あら、トリスやグィネ、サージは? ロリックもそうだし、それを言ったらミヅチさんの立場は……? あと、ゼノムさんやカームさん達は?』

 少し気持ちが晴れたのだろう。ベルは俺に身を乗り出して上目遣いで言った。
 からかうような口調だ。
 目のやり場に困る。
 っつーか、“初めて日本人の”って言ったじゃん……。

 頭を掻き、尻を思い切り前に出すとベンチの低い背凭れにふんぞり返るようにして背筋を伸ばし、寝ている皆を逆さまに見て誤魔化そうとした。

 すぐ後ろで寝ているはずのラルファが上半身を起こしてニマニマとニヤつきながらこちらを見ていた。
 思い切り目が合った。
 ふふ。
 寝れるときには寝とけよ、お前。
 起きて盗み聞きなんかしてんじゃねぇ。

 ちょっと体勢がキツかったけどそのまま手招きをする。
 起きてるならお前も少し付き合えよ。

 ベルが新しい豆茶を淹れに立ち上がったようだ。

 
銃の取り扱いについて専門用語を簡単に解説をします。
(※非常に簡単に書いていますので、より詳しくご興味をお持ちであれば各言葉で画像検索して頂ければご理解いただけると思います)

執銃しつじゅう:銃を取り扱うこと

控え銃(ひかえつつ):姿勢は本文中を参照
立て銃(たてつつ):体の右脇に銃を銃床を床につけて立て、右手で銃身を握る
下げ銃(さげつつ):銃のスリングストラップを利用して銃を下向きに背負う
担え銃(になえつつ):銃床あたりを右手で持って銃を右肩に担ぐ
吊れ銃(つれつつ):銃のスリングストラップを利用して右肩に銃を背中側に縦に吊る
捧げ銃(ささげつつ):銃を体の前で縦に両手で持つ。銃を持ったままの敬礼

据銃きょじゅう:銃で射撃するために構えること

立射:立ったまま射撃すること
膝射:膝立ちになって射撃すること
伏射:伏せて射撃すること(二脚を使用するかしないかで姿勢が異なる)

■銃の簡単な仕組みと各部の名称

・全ての銃は火薬で弾丸を飛ばし、その運動エネルギーで目標を殺傷するための武器です。銃は、その種別について幾つかの分け方があります。

シングルショット:単発式の銃で一発発射するごとに弾丸などを込めます。火縄銃などが代表的です。
リピーター:連発銃の事です。弾倉を備えていますので一発撃った後でも弾丸を銃の内部で発射位置に移動させることで再装填せずに射撃が可能です。この中でも回転式の弾倉を持つ銃のことをリボルバーと言います。

オートマチック:弾倉から薬室への給弾を自動で行います。この中で弾の装填のみが自動で発射は一発ごとに引き金を引くタイプのものをセミオートマチックと言い、弾の装填に加えて引き金を引いているあいだ弾丸が連続発射するものをフルオートマチックと言います。


・銃身:バレル、弾頭が通る直線の筒です。一般的な銃ですとジャイロ効果で弾丸を回転させ、命中精度を高めるために内部には螺旋になった溝が掘ってあることが多いです。この溝のことをライフリングと言います。昔の銃や現代でも散弾銃などにはライフリングはありません。
・引き金:トリガー、発射スイッチのようなもの。普通はこれを引くと弾頭が発射されます。火縄銃などは引き金を引いてから発射まで時間がかかる物もありました。
・銃把:グリップ、引き金を引くときに握る場所。銃によって本体から飛び出ていたり(ピストルや軍用小銃など)、本体と一体になっていたり(一般的なライフル銃など)様々。
・撃鉄:ハンマー、引き金を引くことによって撃鉄が落ち(激発と言います)銃弾を発射する為の火薬を爆発させます。
・撃針:ピン、撃鉄が叩くのは現代の大抵の銃の場合これです。これが叩かれて飛び出し、銃弾に仕込まれた雷管を叩きます。雷管内の発火薬がショックを受けて爆発することで弾頭を飛ばすための発射薬である火薬に引火されます。
・被筒:ハンドガード、銃身は弾丸を何発も発射していると火薬の発火と銃弾の摩擦で温度が上がります。高温になった銃身に直接触れなくてもいいように普通は銃身の途中くらいまで下半分や全体を覆います。
・銃床:ストック、銃で狙いをつけたりするときに肩に当てたりして固定するために使う部分です。本来は前床と後床に分かれますが、普通は後床のことを銃床と言います。
・尾筒:レシーバー、銃の本体ともいうべき機関部です。
・遊筒:ボルト、銃弾を装填したり、排出するために必要な部品です。
・遊底:銃身後部の薬室に入っている弾薬を押さえて閉鎖しておく部品です。遊筒と同一視されることも多いです。
・薬室:チェンバー、遊筒により運ばれた銃弾が詰められる部分で、銃身の後ろにくっついています。
+注意+
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