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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百十六話 黒子

7447年2月30日

 六層と四層の転移水晶の間を通り過ぎる時に、殺戮者スローターズの野営地で荷物の番をしていたのはそれぞれキムとデンダーだった。ゼノムもラルファもレベルの低い俺の戦闘奴隷には休みになるような荷物番なんかさせるつもりはないのだろう。

 彼らには「一度地上に戻るが、今日明日の二晩地上でゆっくりと休み、明後日の朝からまた迷宮に戻る」と伝言を頼んだ。メンバーの入れ替えは無しだ。

 ギベルティのような専用のポーターを伴っていない虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネターズは一度に運べる荷物の量は知れている。だから、今回の迷宮行では彼らも荷物番以外では殆ど休めていない筈だ。今回、僅かではあるが俺達が地上に戻るので、そのタイミングにゼノムもラルファも適当に休みを入れるだろう。

 地上に戻った俺達は久々の夕焼け空を見上げて背伸びをすると、魔石を換金した。いつものムローワで晩飯を食うことだけを決めて一度ボイル亭とシューニーへと別れた。

 ボイル亭の前でバストラルがおずおずとして俺に語りかけてきた。

「あの、すみません、今なら王都行きの最終に乗れます。明日の夜帰ってもいいですか?」

 ああ、そうか。バストラルにはキャシーに休日の予定がつかないからバルドゥックに戻る必要はないと言わせてたんだよな。

「ん、わかった。行って来い」

 俺の返事を聞いたバストラルはそそくさと目の前のボイル亭に駆け込んで行った。

「ちぇっ、サージさん、いいなぁ……」

 グィネが部屋への階段を登りながら言う。

「グィネはあの人とどうなの?」

 ベルが尋ねた。あの人って……そんなんじゃ分かんねぇよ。俺の知る限りここ最近でも何人もにきゃあきゃあ言ってるし。

「ん、なんか、もう飽きました」

 分かるのかよ!? しかも“もう飽きた”って……。

「あの人この前、ペギーズの前で戻してたんですよ。お酒に弱い人はちょっと……格好悪いし」

 ひ、ひでぇ。体質だってあるだろうし、酒なんかゼノムだって弱いのに……。山人族ドワーフの価値観か? ゼノムは酒には弱いけど、バルドゥック中のドワーフからそれなりに尊敬を集めているようにしか見えんが……。大体酒に強い弱いが格好良い悪いと関係あんのかよ? まぁ、解らんでもないけどさぁ……。 

「今はあの人だろ? ほら、煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)の……」

 トリスが知った風なことを言っているが、煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)のガルンだろ、どうせ。結構前から気に入ってるようだったし。

「ああ、ロイルさん? あの人、そこそこ格好いいけど目つきがやらしーんですよ。お酒飲んでるとすぐ腰に手を回して来るし……」

 ありゃ、違ったか。

「私はやっぱりゼンダーさんが格好良くて好き」

 誰だそいつ? ゼンダー、ゼンダー……どっかで聞いた気もするが、思い出せん。

「ああ、マッシュズの?」

 どうやらミヅチは知っているらしい。あと、マッシュズって安物の服屋じゃねぇか。服屋の店員なんざ知らんわ。

「そうそう、あの人、センスいいですよね?」

「え? うん、そうね」

「この前の休み、ラスルーンで一緒に食事したんですけど、私の為に席は引いてくれるし、お酒のセンスも良かったし、指がすっごくセクシーなんですよね、ミヅチさん、そう思いません!?」

「あ……うん。私もそう思う、かな?」

 後でミヅチに聞いてみたら気障ったらしい顔ばっかりの普人族ヒュームでマッシュズの跡取り息子らしい。確かに服のセンスなんかは良いみたいで、そこそこ金回りのいい冒険者の女性を中心に人気はあるようだ。でも、マッシュズなんて吊るしの安物服ばっかじゃんか。王都で仕立てる服の方が余程センスよく纏まるし、着心地も良いわ。グィネだって、よく行く王都のケンノートンで一品物の女性服仕立てて「最高ですよ~」っつって喜んでるじゃねぇか。あ、扱ってる品物の品質は関係ないよね。



・・・・・・・・・



 ボイル亭に入るとラッセグに任せている王都からの定期報告の他に手紙が何通か残されていた。三通の殺戮者スローターズへの参加希望の依頼を適当に流し読む。それから幾分重要そうなメッセージに目を通す。

 一通はロンスライルのマダムからで、三人目の旦那との結婚の宴会の招待状だった。四月の下旬か。儲かってるんだな。

 残り二通の差出人はノイルーラ・ジーベクトとミマイル・フォーケインであった。アンダーセンの姐ちゃんを除く国王の三人の庶子の娘達の内、上と下の二人だ。内容は二人共似たようなもので、是非一度会って話がしたいとか、冒険者としての偉大な業績を讃えたいとか言うもので、差出人の名を確認した時に予想した範囲から一歩も出ていない。

 確か真ん中のヨリーレお嬢様と会ったのが去年の秋だったから、彼女に遅れること数ヶ月か。ボイル亭の番頭が言うには双方のメッセージは共に本人が直接現れて、俺が迷宮に入っていて居ないと伝えるとその場でメッセージを書いて残したらしい。書かれている日付は確かに数日前と迷宮に入った直後くらいだった。

「ふーん。あのヨリーレお嬢様とは違って従士だの使いだのに任せたりしないで、本人が直接来たのか……少し感心するな」

 部屋でメッセージを読んだ後にそう言ったら、ミヅチは少し考えてからちょっと嫌そうな、落ち着きのない顔つきをしながら言った。

「ん……普通なら好感度高いよね。だけど、私としてはマイナスの評価をせざるを得ないかな……。単なる町娘であれば勿論プラス評価で好意的な気持ちになるかも知れない。でも、将来の王妃の座を射止めたいと言うならいきなり本人がやって来るなんて、そんな軽々しい行動はマイナスじゃない?」

 む、言われてみれば……。
 こいつもそれなりに考えているようだ……違うな。

「おい、お前……心にもない事を言うな」

「え? 心にも無いってそんな……私は将来のことを考えて……」

 どうやら図星だったようだ。ミヅチの目は派手に泳いでいた。

「セコい奴ゃなぁ、お前。今の言葉はよくよく考えた末に俺かベルあたりが言いそうな事だろう?」

 少しニヤついた俺に指摘されてミヅチは恥ずかしそうに薄青紫から薄赤紫に顔色を変色させる。

「だって……」

「だってもクソもねぇ。そもそも、自分の立場を強化するために誰かを貶めるような事を言うなよ。明確な根拠があるならまだしも、想像でしかねぇだろ? 似合わねぇよ」

 さっきのミヅチの発言は少し言い過ぎなきらいもあると思う。最終的に俺が国を興すことを目標にしているなんて彼女たちは聞いていないのかも知れないし。物凄く有望で将来領地の一つも任せる程度の、上級貴族へ昇爵させる候補の一人くらいとしか聞いていない可能性もある。

 だとしても軽々しいか。いやいや、何故俺に嫁ごうとしているなんて思うんだ? 増長するのも大概にしろよ、俺。得ている情報だって国王に発破を掛けられたというだけの話で、アンダーセンの姐ちゃんだって彼女たちが積極的に俺の心を射止めようと動いているなんて一言だって言っちゃいない。単に発破を掛けられて尻を叩かれていると言っただけだ。

「ん……ごめんなさい……」

 しゅんとしたミヅチはしおらしく謝った。

「あんまりらしくないこと言うなよ。例えばさ、『グリード准爵閣下、陛下から命じられましたので筋だけは通すためにとにかくお会いしたという実績だけを作りに参りました。わたくしには既に心に決めた殿方が居りますもので……非礼をお許し下さい』とか言ってくる可能性だってあるだろ?」

 詫び(?)を入れるために直接訪ねて来た可能性もあるよね。そうであれば直接来ると言うのも礼儀正しい行いと言えるだろう。メッセージの内容からしてまず無いだろうけど。

「あ、うん……そう、ね」

 ま、こいつにしてみればはっきり言って面白くない話であるのは確かだろう。表面上や、理論的に考えて認めているように思っているだけで、心の奥底では納得し難い、というのは理解出来なくもない。だけど、上級貴族や国王であれば複数の配偶者を持つのはある意味で当たり前だ。貴族に限らず、裕福であれば平民だって複数の配偶者を持っている人だっている。男女限らずね。そこに愛があるかどうかは別だろうけどさ。



・・・・・・・・・



7447年3月2日

 ランニングもトレーニングもせずに、俺たちは午前六時頃に入り口広場に集合した。流石に時間が時間なので広場は冒険者のような奴らや商売人でごった返している。色々声を掛けられてうざいのでランニングをしたりして時間をずらしてから来ても良かったのだが、時間が勿体ない。今日は一気に四層の転移水晶まで行くつもりなのだ。

 ここんとこの迷宮行は銃の改良などがメインで、探索には殆ど時間を割いていないから八層や九層の転移水晶の間を囲んでいる大きな部屋で幾らでもトレーニングは可能である。広いからランニングをしたり、数時間おきに模擬戦をしたり、腕立て伏せや腹筋などのトレーニングも気晴らしも兼ねていつも以上に行っていた。

 他の冒険者のパーティー同様に俺達も適当な隅でお互いに装備の確認をする。紐やバンドの緩みはないか、忘れ物はないか、武器は問題なく使用可能な状態にあるか、確認だけはきっちりと行っておく必要がある。これを怠って万が一の時に大問題になっても嫌だしね。

確認を終えて、いつものように群衆をかき分けながら入り口に向かう。すると入場税を払った後、衛兵のチャーチさんに声を掛けられた。

「グリードさん、今回はどのくらいのご予定です?」

 いつも冒険者に潜っている期間の予定なんか確認していないのに……。どういう風の吹き回し……って、一つしかねぇよなぁ。三人の内誰かは知らないが、チャーチさんに頼んでいたんだろう。誰だっていいけど。

「前回同様にある程度長いだろうとしか言えませんね……」

「そうでしょうな」

 チャーチさんは重々しく頷いた。

 会釈をして地下への階段を降りる。



・・・・・・・・・



 四層の転移水晶の間に到着したのは二十時をかなり回った頃だった。だが、十五時間弱で到着出来た事に全員が深い満足感を覚えているようで、雰囲気は明るい。ただ一人、戦闘には参加しないが、大荷物を背負っているギベルティだけはかなり堪えているようで辛そうだった。すまんな。

 四層で荷物番をしていたのはルッツだ。殺戮者スローターズの竈の前で革鎧にオイルを塗り込んで手入れをしていたようだが、既に後片付けを始めていた。他には誰も居ない。

「あれ? 今日迷宮に入るって聞いてたんだが……勘違いか?」

「ふふ、どう思います?」

 グィネが自慢気に無い胸を張って言う。それをエンゲラが眺めながら俺と同様の薄笑いを浮かべている。エンゲラと目が合った。すぐに逸らした。

「昨日入ったにしちゃ遅過ぎるし……やっぱ今日、か。一日で四層かよ……落ち込むなぁ」

 別に落ち込んだ様子もなくルッツが軽い調子で言う。

「なぁに、四層までならすぐに出来るようになるさ」

 トリスがキャベツの入った包みをリュックサックから出してギベルティに渡しながら言う。

「へへ、そうだといいな。今日は何だい?」

 涎を垂らしそうな顔でルッツはギベルティに尋ねた。お前、時間から言ってとっくに晩飯食った後だろ? 食えるなら別にいいけどさ。

「今晩は『ウォコノム焼き』、という奴ですよ。食べますか?」

 お好み焼き、な。昨日買い出しに行ったら良いイカが売ってたんだよ。ソースも青のりもないけどマヨネーズならあるし、一緒に居たミヅチのリクエストもあったからたまにはいいだろ。今日はギベルティも疲れるだろうから後片付けも含めてあんまり手間の掛かりそうに無い奴にしたんだ。

「なんだそりゃ? 美味いのか?」

「何度か食べたこともありますが、そこそこ行けますよ」

 なお、お好み焼きはバストラルが生前お好み焼き屋でバイトをしていた事があるらしく、口うるさくかき混ぜ方を指導して来るので皆滅多に食っていない。たまに誰かが食べたいと言う時に食べる程度だ。をたふくソースが無いから大して旨い物じゃねぇしな。

 食事の後、最初の見張りの俺とエンゲラを残して手早く後片付けをして男はさっさと床についた。明日はシャワー浴びられるし。だけど、女性は最近贅沢になって来たのかお湯で濡らしたタオルで体を拭きに部屋の隅へ行った。

 ギベルティはよほど疲れていたのか、既にすうすうと規則的な寝息を立てている。トリスももう小さな鼾をかいているし、ズールーとルッツは死んだように膨らんだ腹を抱えて身じろぎ一つしていない。多目に作った分は彼ら二人が処分したのだ。一番端っこで丸くなっているバストラルはキリキリと歯ぎしりをしていた。うるせぇ、と思って無理を承知で念を送ったら静かになった。

 部屋の反対側でタオルで簡単に仕切りを作った向こうから話し声が聞こえて来る。距離があるので内容までは碌に聞こえないけど。

「あー、ベルさんいいなぁ大きくて……ミヅチさんも形が……」
「もう、触らないでよ」
「グィネもその胸元の黒子、セクシーじゃない?」
「あ、これ? 昔は無かったんですけどね。今は子供の時からあるんですよ」
「そう言えば、私も昔、右手に大きな黒子があったんだけど、今は消えてるわね」

 声の感じからして相変わらずグィネが話題を提供しているようだ。俺は桶に張った足湯に浸けた右足の裏をエンゲラにマッサージして貰っていた。

「生まれ変わってりゃ黒子なんか出たり消えたりするでしょうに……」

 エンゲラは女性たちの会話が聞こえているらしく、苦笑しているようだ。
 犬人族ドッグワーだから【超聴覚スパー・ヒヤリング】が無くても俺より耳は良いしね。
 黒子の話かよ。
 下らねぇ。
 ミヅチには口に出せないような場所の傍に黒子があったなぁ。
 闇精人族ダークエルフにしちゃ肌の色が薄いから判りやすい。
 王都の治癒師、トゥケリンの奥さんは濃い紫色の肌だけど顎の黒子は判るから関係ねぇか。

 あ~、気持ちいい……そこそこ、もっと強く。
 次、左ね。
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