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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百十四話 人の為ならず

7447年2月7日

 迷宮に入って五日目。
 八層や九層のモン部屋の主相手に網撃ち銃を試している。
 実際に使用してみて新たに判明した細かな問題点を一つ一つ潰すという地味な作業だ。

 網の目については当初の予想通り一辺二十五㎝程のサッカーゴールよりもかなり大きなもので十分であろう事は判った。だが、そこに付ける釣り針のような針の数はもう少し増やした方が良さそうである事も併せて学んだ。それに網の畳み方にもコツが必要だった。結構失敗したんだよね。

 そして、銃の方についても一番大きな問題点と予想されていたその重量についてやはり問題が発覚する。何しろ一丁の重量が十㎏近くもあるのである。二丁の銃を無理やり一丁にしたようなものだし、薬室はかなり肉厚に作っているから仕方ないんだけどね。

 ベルに使わせようと思っていたのだが、彼女の高い筋力数値を持ってしても長時間の射撃姿勢の維持は難しかった。とは言え、短時間であれば問題はないので彼女には我慢して貰うより無い。移動時の運搬はズールーが居ればズールーに、居なければトリスがひぃひぃ言いながら運ぶだけの話だ。しかし、やはり【鑑定】によって見れる各種能力ステータスの数値自体には信用がおけないなぁ。

 勿論ある程度の目安にはなるし、事実ベルは見た目の通り(一般的な兎人族バニーマンの女性の例に漏れずプロポーションが良い事は言うまでもないが、出会った頃と比較して最近では筋肉だってかなり発達している。傷の治癒などで手足や腹部に触る度に脂肪層の下に発達していく筋肉を感じて微妙な気持ちになっていた。ミヅチだって腹筋は割れている)それなりに力も強い。

 彼女もランニングの他に多少の筋力トレーニングは行っている。それに、何と言っても冒険者なんだし、弓や剣の稽古も怠ってはいないから普通の女の子どころか、冒険者の中でもかなり俊敏に動ける方だ。何度も言うが、筋力だって実際に優れてもいる。数値程ではないにしても……筋力の値に及ばないまでも、それなりに実際の力もあると見て良い。

 そこらの碌に稽古もしていないような輩と腕相撲したってまず負けないとは思う。だが、ベルとミヅチよりも俺が子供の頃の親父の方が力は強いと思う。ベルの今の【筋力】は二十四。ガキの頃の親父の筋力の値と同じくらいだが、どう贔屓目に見ても親父の方が力は強いとしか思えない。同様に筋力値はレベルの問題もあってギベルティが一番低いが、しょっちゅう荷運びをしているからか、重量物の運搬については殺戮者スローターズの中でも彼が随一の力を発揮している。俺を除いてだけど。

 恐らく、【鑑定】で見ることの出来る各種能力値は“この数値までは鍛えられるよ”という上限なんだろう。

 まぁ、気になっちゃったから仕方ないんだけど、能力値についてはこれ以上考えてもしょうがないし、何より今は銃のテスト中だ。

「もう癖は大体解りました。三十~四十m程度離れていればミノタウロスの集団も五匹くらいは確実に絡め取れるでしょう。行きますか?」

 モン部屋の大きさは平均して一辺が五十mくらいの四角い形をしていることが多いので想定距離でのテストは難しい。部屋の外の通路から撃ち込めば全く不可能ではないが、モンスターが纏まっているとは限らないしね。ま、飛んで行く網の広がりを確認することは可能だからテストには充分ではある。

「よし、行ってみようか。今日はもうお昼も大分過ぎてるからこのまま適当に稼いで明日中央に行こう」

 決心を固めた俺はそう宣言するとモンスターから魔石を採取しているラルファやグィネ、バストラルを視界の隅に収めたまま、別の通路の奥の警戒を続けた。今回はズールーとエンゲラがそれぞれ虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズを率いている。八人だがあの強いミノが混じってなきゃ問題ない。

 混じってたとしても行動を制限出来れば大丈夫だろうし、網に掛からなかったとしても皆でタコ殴りに出来ればまず勝てるだろ。



・・・・・・・・・



7447年2月8日

「じゃあ、皆、作戦通りにな。確認するぞ。このまま進んでミノタウロスたちがこちらに気が付いたら三十mまで引きつけてからベルが網を撃つ」

 ベルが頷き、銃の薬室を開放すると空包を込めた。銃口にはまだ網の付いた棒は入っていない。それなりの重量があるのでバストラルが背負っている。今から取り出して全員で丁寧に畳んでから装填するのだ。

「ベルはすぐに弓に装備を変更。ベルの護衛はミヅチ。ミヅチは護衛しながらも弓を撃てるだけ撃つ」

 ミヅチは大切な支援役兼護衛となる。万が一ベルの網が多くのミノタウロスを絡め取れなかった場合、彼女の弓が無いと危険度は大きく増大する。

「他の皆は俺と一緒に突撃だ。ミノタウロスは七匹が復活していると予想される。二手に分かれて俺、トリス、バストラルは右から。ゼノム、ラルファ、グィネは左側からだ。第一目標は網に捉え切れなかった奴だ。網に引っかかった奴は第一目標を殲滅してから相手をする。いいな?」

 他の皆もこっくりと頷くのを確認し、早速バストラルが背中から降ろした網の端に発射体であるラルックの木で作った棒を取り付け、網を九十九折のように畳む。端の方を少し狭く、中央辺りは広く畳むのがコツだ。針が引っ掛からないようにここは慎重に行う必要がある。なお、網は針を取り付けてある目が干渉しないように上下以外の横のラインについて全て少しづつずらして作成されている。

 準備が終わり、前進を始めた。

 俺とゼノムを先頭に矢印型のようにメンバーを配した鋒矢壱弐番アローヘッド・ワンツーの陣形だ。俺の右後ろにはトリスとバストラルが、ゼノムの左後ろにはラルファとグィネが位置し、俺とゼノムの後ろにはベルとミヅチがいる格好だ。

 そして、いよいよミノタウロスと相対する。

 こちらに向かって雄叫びを上げながら猛然と突撃をしてくる七匹のミノタウロスのど真ん中目掛けてベルの構える網打ち銃が轟音と共に火を噴いた。

 網は散らばって突進してくるミノタウロスのうち、中央近辺の五匹を絡め取る。

 大成功だ!

 ほぼ素っ裸のミノの肌に網に仕掛けられた釣り針が食い込み、暴れるほど別の釣り針も食い込んでいる。手に持った斧を振り回そうとするが、ワイヤーで作られた網はそう簡単には切れない。そればかりか、網が引っ張られて別のミノに余計に針が食い込んでいる始末だ。三十秒程度持ってくれれば御の字だと思っていたが、この様子じゃ一分以上は持ちそうだ。嬉しい誤算だな。

 銃剣を構えて右端のミノに突っ込みながらほくそ笑んでいた。

 唸りを上げて突き出されてくる三角槍パルチザンをギリギリで躱し、ミノの懐に飛び込むと銃剣をがら空きの脇腹に深く突き刺し、そのままこじって横に斬り抜き後ろに走り抜けた。

『ゴオエッ!』

 ミノが苦しみの声を上げるがそこに「エメロン!」と叫びながらトリスが斬りかかり、続いてバストラルが大ぶりの突きを心臓にお見舞いする。

 あっという間に料理が終わる。

 網に絡め取られ、動きの鈍ったミノを銃剣の先で散々に突いてやっているうちに、ほら、もう全部始末がついた。

「やってみりゃ大成功だったな」

「うむ。これなら安全に倒せるな。もうここもいつでも安心して来れるだろう」

 俺の言葉に斧頭の血を拭き取りながらゼノムが答えてくれた。

「でも、網の回収が大変そうだね……」
「派手に転げてくれましたからねぇ」
「ちょっと千切れてるね。凄い力だわ」

 ラルファ、グィネ、ミヅチが網に絡め取られたまま絶命しているミノを観察して言う。

 確かにこっちは惨憺たる有り様だ。体に食い込んだ釣り針を網ごと引きちぎろうとした奴もいて、体中に小さな傷を作っている奴も居る。網も一部はぐちゃぐちゃに絡んでいて、確かにこれを再び使えるように回収するには骨が折れる事だろう。トロールなんかを相手にテストをしていたので想像は付いてたけど、流石に五匹も絡んでいるので網は諦めた方が……いやいや、これ作るのだって結構苦労したんだ。

「すまんが出来るだけ回収して再利用したいな。これ作るの結構大変なんだよ……」

「ラルの腕輪でミノタウロスの死体を一気に水にしてしまえば多少楽でしょうね」

 ベルが満足そうな笑みを浮かべて言う。なるほどね。

「確かにそうですね……じゃあこいつらから魔石を採るのが先か」

 バストラルは腰から魔石採取用の大ぶりのナイフを引き抜いて端っこのミノタウロスに近づくと網の目を避けて胸を切り開き始めた。それを見た他のメンバーも次々とナイフを抜いて作業を始めた。

 結局死体を纏めて水にしてから網をきちんと広げて畳むまで八人掛かりで三十分近い時間を要した。ま、この程度なら許容範囲だろ。一部千切られた部分の補修は仕方ない。



・・・・・・・・・



7447年2月9日

 三連休の初日、午前の全体訓練を終えて皆で弁当を食っている時に直近の予定について話をした。

「次の迷宮行だけど、殺戮者スローターズは二週間以上、可能なら今月一杯迷宮に潜る。四月の入れ替え戦までにある程度安全に十層に行けるようにしておきたいからな。その間、虐殺者ブッチャーズはゼノム、根絶者エクスターミネーターズは……」

「はいはい! あたし行くわ!」

「んじゃラルファ、お前な」

 どうせラルファはミノを相手に延々と迷宮に篭もり続けて居るのが嫌なだけだろう。俺も含めて皆嫌なのに……。

 網撃ち銃が出来ても使った網をまた再使用可能な状態にするのは面倒だし、出来ればやりたくない。それに、網撃ち銃よりも復活直後に後ろから不意を打つ方が楽だし、安全だ。だから九層中央の転移水晶の間に篭もるのだが、あそこは魔法を使うにも結構移動しなきゃならんし、実際問題、長い間迷宮に篭もることを考えると非常に気が滅入る。勿論、気分転換にミノの復活の合間を縫って九層のモン部屋に行ってみたり、十層に行ってみたりはするつもりだけどさ。

 あの銃だって完成したとは言えないと思う。何より外したら後が無い。とは言え、それなりの大きさである網を撃つ以上、連射なんて出来る訳も無いんだけど。予備も兼ねてもう一丁作成しなければならないだろう。加えて改良の余地はまだまだ残されているから継続して色々と試験も必要だ。九層中央の部屋も中心部の直径五百mを外れれば魔法が使えるからそこでやるしか無いんだけどね。

虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズはいつも通り十二日から迷宮に入ってくれ。殺戮者スローターズは食料や消耗品の確保もあるから一日遅れの十三日から迷宮入りする。殺戮者スローターズの最初の一週間以降の消耗品の手配もしておくから、虐殺者と根絶者(みんな)は六層の転移水晶まで輸送を頼む」

 皆が理解したのを確認し、言葉を続ける。

「連絡事項や万が一の突発事項が有れば六層の転移水晶の間、例の鍋の中に手紙を入れておいてくれ。こっちも予定や何やらについてはそれで連絡するから」

 そう言って締めると解散した。

 勿論、今回もミヅチの【部隊編成パーティーゼーション】は使用しっ放しにする。ミヅチからしか連絡は出来ないが、異常があった場合に分かれて行動しているメンバーに即座に知らせる事が可能な便利さは手放せない。お陰でミヅチは迷宮に入る度に固有技能を使いっ放しになるので【部隊編成パーティーゼーション】のレベルは未だに八だ(効果時間の延長のための固有技能使用では固有技能の経験値は得られないようだ。また、連続使用するにしても一時間以上のインターバルを置かないと同様に経験は得られない)。

 Maxにする事自体はあと五百もしないでレベルアップだから連続して使えば一日に十の経験を得られると仮定すれば二月ふたつきも掛からずに可能なんだけどね。魔法の修行やらなんやらでつい忘れたりして思い出した時にしかやってないんだ。今回の迷宮行が終わって落ち着いたらちゃんと予約の小魔法か無魔法を使って時間を取ってやらせるのも悪くないかもな。経験値のボーナスや熟練度のボーナスも魅力的と言えば魅力的だし。

 ぞろぞろとバルドゥックの中心街目指して戻りながら、三々五々別れていく。俺はギベルティと一緒に食料品店に向かった。注文して金を払ったらその後はミヅチと一緒に一度王都の商会に顔を出して必要な指示をしなければならない。指示と事務処理を明日中に済ませてバルドゥッキーを抱えてバルドゥックに戻ったら消耗品の注文漏れがないかチェックしてギベルティに入荷予定の確認をさせて受け取れるものは受け取っておかせなきゃ……。



・・・・・・・・・



「あら、お久しぶりね」

 ギベルティと一緒に食料品店に行くと黒黄玉ブラック・トパーズのリーダー、アンダーセンが居た。そういや、この姐ちゃんも緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのヴィルハイマーと一緒になって俺の情報を国王に流してたんだよな……。別に責められる筋合いの物でもないが気分は良く無い。

「ああ、こりゃどうも。おい、親父、注文だ」

 一応愛想笑いと会釈だけしてアンダーセンの脇を通ると店の親父に話し掛けた。アンダーセンは腰巾着のカークと一緒に来店していたらしく、するりと脇を通り抜けた俺のことは気にせずに二人でなにか話している。元々戦闘奴隷や荷運び(ポーター)なんか使っていなかったし、彼らも自ら消耗品の買い出しだろう。

 半壊して三人も頭数が減った黒黄玉ブラック・トパーズは今や良く言って一流半の冒険者だ。最近メンバーの募集をしているとは聞いているが、どうにもアンダーセンの姐ちゃんのおメガネに適う奴は居ないようで、桜草プリムローズと言う二流パーティーから魔法使いを一人引き抜いただけで頓挫しているらしい。驕れる者は久しからずや、盛者必衰か。少し気の毒な感じもするね。

「グリード君、ちょっといい?」

 注文を終え、店を出ようとしたら呼び止められた。

「なんです?」

「ここじゃ話し難いわ。どこかに入って話したいんだけど」

 あのさ、俺は忙しいんだよ。この後王都まで行かなきゃならないんだ。あんたらと世間話なんかしてる暇ねぇっての。

「まぁ、聞いといて損はないと思うわ。君はゲイリーやロット、マリンの葬儀にもわざわざ来てくれたしね」

 なによ?

「私の妹達の話」

 急に低い小さな声で囁くようにアンダーセンは言った。

「ギベルティ、ミヅチに少し遅れそうだと伝えといてくれ」
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