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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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幕間 第二十九話 目良隆(事故当時26)の場合(前編)

 糞っ! あいつ……。

 昨晩は帰ってから暫く屈辱感で眠れなかった。
 一夜明けた今日、朝寝坊をしたため少し遅れて午前の配達を済ませ、遅い昼食を摂りながら昨晩の件について反芻していた。
 直接罵りはしなかったが、言葉の端々には俺を突付くような事を感じさせた。

 静香の奴……!

 大学を出てちょっと大きな会社に就職したからと言って、上から目線になりやがって。
 俺だって家業が酒屋じゃなけりゃ大学くらい行ってその程度の会社に入れたわい。
 そして、今頃はバリバリと大きな仕事に打ち込んでいた筈だ。

 それをあいつ……。

 仕方ないじゃないか。
 実家で商売をやってるんだ。
 長男の俺にどうしろと?
 妹はまだ短大に入ったばかりだし、俺が仕事をしないでどうする?
 そりゃあ親父も五十になったばかりだからまだまだ仕事は出来る。
 若いうちに別の会社で仕事して社会経験を積むという選択肢もあったろう。
 でも、酒の配達は重労働だ。

 嫌でも俺がやるしかないだろ!

 だが、コンビニか……。
 確かに聡が言う通りフランチャイズ本部に対してかなりの加盟金を支払う必要はある。
 店の建て替えも必要だろう。
 バイトだって雇わなきゃいけない。
 しかし、静香の言う事も尤もだ。
 この辺りにはまだコンビニは無い。
 チャンスは今しかないだろう。
 ウチの場合、幸いにも元は酒屋だから酒も扱えるのは大きい。
 少し離れたところにもう一軒ウチと同じくらいの大きさの酒屋がある。
 あそこに先を越されたら……!

 ああ、糞、結局静香の言う通りだよ。

 先細りになっているのは俺だって解ってるさ。
 いずれ蛸が自分の足を食うように、大して多くもない貯金を切り崩さないと商売自体が立ち行かなくなる。
 勇気が無かっただけだ。
 絶対に成功するという保証が欲しかった。
 だが、そんなもの、どうしたって得られっこないことも解ってる。
 今ならまだコンビニに転換するだけの体力は残っている。
 だが、一昨年から俺の給料を半額にしても赤字になり、今ではお袋の給料まで半額にしてやっとしのいでいる状態だ。

 酒屋としてはとっくに赤字なんだ。

 法人税だってもう何年も青色欠損の繰越なんだ。
 まぁ、これは俺の責任だけとは言えないだろうが。

 ……やるか。

 死ぬ気になってやってやる。
 俺がやる、と決めたら聡だって協力してくれるだろう。
 あいつだっていつまでも仕事もせずにぐうたらしていられる訳もない。
 バイトさせてやる。

 そう思ったら不思議と静香に感謝の念が湧いてきた。
 経緯はどうあれ俺の気持ちを固めてくれた原因は静香の言葉だ。

 あいつだってそれなりに苦労もあったろう。
 大手企業だから周囲は優秀な奴ばかりなんだろう、きっと。
 そんな中で本社に移動するという事がどういう事だかくらいは俺でも判る。
 静香にしてみたらとても見ちゃ居られなかったんだろう。

 ふと時計を見上げた。
 時刻は一時二十分を僅かに回ったところだ。

 確か静香は今日は昼過ぎに一度会社に行くと行っていた。
 昼間だし混んでないだろうから最寄り駅の隣のターミナル駅で急行に乗り換えると言って時間を確かめていたっけ。
 今から最寄り駅に向かっても静香には追いつけない。
 車でターミナル駅に向かう方が確実だ。

 一言礼を言いたい。

 俺の人生の節目に気付かせてくれた彼女に。

 携帯の番号やアドレスの交換をするの忘れていたのは不覚だったが、こういう事は電話やメールではなく直接言うべきだ。

 今なら素直な気持ちで言えると思う。
 ありがとう、と。



・・・・・・・・・



 ギリギリで新宿行きの急行列車の最後尾に飛び込む事が出来た。
 とにかく滑り込む事に集中していたのでホームに静香が居るのかすら確認出来なかった。
 だが、ここから先頭方向に向かえば乗車しているなら会えるだろう。

 次の駅を過ぎたあたりで先頭車両まで来てしまった。
 でも、静香を見付けることは出来た。
 声を掛けようとしたがイヤホンをして目を瞑っている。
 既に眠っているような感じもする。

 丁度彼女の向かいの席が空いていたのでそこに腰掛けた。
 目を覚まして俺が目の前に居たらどんな顔をして何を言うのだろう。

 きっと、黙って寝顔を見て、女心が解らないとか、言われるのだろう。

 それもまた良し。



・・・・・・・・・



 間に合わなかった。
 幾ら悔やんでも悔やみ切れない。
 事故だ。

 あっ、と思った時には座席から投げ出されていた。
 すぐに何かに頭を打ち、ボキッと首の骨が折れる音が聞こえ、意識が飛んだ。



・・・・・・・・・・



 そして、なんとか命を取り留めたと思っていたらどうも違うようだ、と思ったのは事故から一週間程が経ってからの事だ。
 俺は輪廻転生の実例となっていた。
 しかも外国のようで、周囲の人達が何を言っているのか碌に解らない。
 英語っぽい気もするが、なんとなく違うとも思う。

 一年程が経過した後、俺を取り巻く大体の事情は掴めてきた。

 生まれ変わったのはロンベルト王国にある何とかという貴族の領地らしい。
 風に潮の香りが含まれていることからどこか海の近くなのだろうと推測出来る。

 元来大して頭の良くない俺だが、この一年程でどうにかこうにか喋っている内容について理解は出来るようになってきた、と思う。
 まぁ、流石に黙って一年も聞いてりゃアホでもそれなりに覚えるさ。
 他にやる事なんて無かったし。

 そうしているうちにある日、ステータスオープンについて知った。

 隣村の伯父だか叔父だかがたまたま家に寄った時に俺を触って「ステータスオープン」とか言って、暫く俺とはちょっと外れた方を見ていたんだ。

 その時は、何やってんだ? としか思わなかった。
 だが、その後暫くした後のある日、冬になる前に購入して備蓄しておいた干し肉がかなりの割合でダメになっていた事があった。

 渋い顔をした両親が奴隷を呼び(そう、ウチでは奴隷を何家族も持っていたんだ!)、何やら地面に文字を書いて指示すると干し肉を選別させていたのだ。
 その現場を監督する役は俺の母親だったのだが、その間俺は彼女に背負い紐で背負われていた。
 だから気付けた事でもある。
 倉庫の干し肉を保存していた樽をほじくっていた奴隷たちは干し肉に触ると口々に「ステータスオープン」と言いながら肉とは少し違う場所を眺め、次に両親が地面に書いた妙ちくりんな文字と見比べるようにしていたのだ。

 それを見た俺は閃いた。
 そしてすぐに試してみたくなった。
 だって、それはそうだろう?

 既に俺は隠れて喋る練習をしていたから発音くらいは出来る。
 眠くなったふりをしてむずかる俺を寝室に連れて行った母親は俺が目を閉じるとすぐに出て行った。

 念の為に数分待ち、いよいよ俺も言ってみた。
 何も変わりゃしない。
 急にバカバカしくなってつい笑い声を上げてしまったが、その後すぐに使い方が解った。

 そして、自分に触れて言ってみる。

「ステータスオープン」

【 】
【男性/14/2/7428】
【犬人族】
【特殊技能:超嗅覚スーパー・オルファクトリー
【固有技能:上書き(オーバーライト)10】

 なんだこれ? 漢字? 日本語?

 【犬人族】? 

 犬、か。
 何となく知ってた。
 尻尾あったし。
 最初は西洋人っぽい人が住む未開の地かとも思ってた。
 アフリカにだって西洋人は沢山居るだろうし、南アメリカにだって多いだろ。
 そこに居る遺伝か何かで耳や尻尾の生えた人の一族に生まれたのかも知れないとも思ってたんだ。
 だが、これで完全にはっきりした。
 地球ですら無いわ、ここ。

 【特殊技能】?
 【超嗅覚スーパー・オルファクトリー】?
 【固有技能】?
 【上書き(オーバーライト)10】?

 こっちはさっぱり判らん。
 そもそも何でここだけ字の色が赤いんだ?



・・・・・・・・・



 暫く様子を窺って過ごしているうちに解ってきた。

 大抵のものには何か名前が付いている。

 だが、俺の知る限り俺だけは名無しだ。

 この【上書き(オーバーライト)】って奴は名前のデータ(?)を上書き出来るのではなかろうか?

 隣の10という数字が意味不明だが。

 技能なんだからきっと使い方があるのだろう。

 何度か試しているうちにようやく使えるようだ。

 まずは服で試してみるかな。

 さっきまでは俺の着せられているオムツは【下着(幼児用)】と出てた。

 オムツだろう、常識で考えて。

 オムツ、オムツ、オムツ……あれ? なんだかすごく眠くなって……。



・・・・・・・・・



 いつの間にか眠ってしまったようだ。
 今は部屋に誰もいないし、結果を見てみるか。

「ステータスオープン……おお!」

 寝っ転がったまま下半身を見下ろすようにすると【オムツ】と青色の窓に表示されている。
 そこに丁度母親が入って来た。

「あれ? 誰もいない……変ね?」

 とか言っていた。
 うーん、ステータスを見る時はもっと慎重になった方がいいかな?
 喋っているところを見咎められて気味悪がられても事だ。
 お粥のような大して旨くも無いいつもの食事を摂らされた。
 ここは素直に食っとくか。
 さっさと一人になって試したい事もあるしな。

 よし、次は当然俺の名前だな。
 俺は家族からウォーリーと呼ばれている。
 だからウォーリーだ。
 ウォーリー、ウォーリー、ウォーリー……ぎゃあっ!
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
 頭が締め付けられるように痛い!
 あまりの痛みに声も出せん!



・・・・・・・・・



【ウォーリー/15/3/7429】
【男性/14/2/7428・ヘイムダル士爵家長男】
【犬人族】
【特殊技能:超嗅覚スーパー・オルファクトリー
【固有技能:上書き(オーバーライト)9】

 痛みは無限とも思える程長い時間続いた。
 だが、痛みが引いてから自らのステータスを確認すると見事に最上段に俺の名前が入っていた。

 うむ。これなら誰かに見られても俺が名無しであると思われる事はないだろう。

 あれ? そう言えば俺の叔父だかにステータスを見られた時は変な騒ぎにはなっていなかったような……?

 なんだかまずくないか? これ?

 え? それに数字が減ってる!?

 なんで?



・・・・・・・・・



 半年もするとだんだんと解ってきた。
 いつだったか覚えちゃいないが、俺は神様に会ったんだ。

 夢の中でだけど。

 色々な事が聞けた。
 大体予測はついていたが、俺は地球じゃない別世界に生まれ変わってたんだ。
 元の生活に戻ることも出来ない(尤も、これについては、最初の頃、つまりとっくの昔に諦めがついていた)。
 それに、静香もどこかに居るらしい。
 ま、これは蛇足と言ってもいいけどね。
 今更だしな。

 固有技能である【上書き(オーバーライト)】についても効力は俺が当たりを付けていたものほぼそのままの様らしい。

 これで完全か? と聞いたら違うらしいので全部が解っちゃいないけどさ。
 ここまで聞き出すのに結構時間を食っちゃったんだよね。

 あとは世界のことなんかを幾つか聞いておしまい。

 夢かな? と思って目が覚めた後、ふざけたことが書いてあるウインドウが浮かんでいたので夢じゃなかったんだろうとは思っている。
 神様がやったことであるなら理解は出来ないが、思考停止して納得は行く。
 だって、神様だし。
 何だって出来るだろ。

 その後は神様に幾ら聞いても解らなかった能力の細かい内容について調べることに腐心した。

 まず、使用回数。

 これはなんでか解らないけどたまに増える。
 最近は滅多に増えない。

 次に【上書き(オーバーライト)】が有効な期間。

 これはあれから何度か使ううちに解ってきた。
 実は今、固有技能の表記には追加があるんだな、これが。

【固有技能:上書き(オーバーライト)(Lv.5) 5】

 って感じだ。今は多分百日近く効果を発揮するんじゃないかな?
 何しろ最初の頃は六日で切れてたんだ。
 誰にも気付かれないまま俺の名前が消えた時にはほっとしたもんさ。

 その後暫くしてレベルが二になった時に倍の十二日に伸びた。
 三になった時は更に倍の二十四日になった。
 気付かれないように日付を数えるのに苦労した。
 カレンダーなんて壁に掛かってないしな。

 この時点でレベルが上ったら倍々に有効な期間が伸びるのかも知れないと予想した。
 レベル四の時は四十八日だ。

 あと、レベル表記の隣の数字な。
 これについても何となく判った。

 稀に【上書き(オーバーライト)】を使った時、いつかのあの痛みが襲って来る事がある。
 そして数字が一だけ減るんだよ。

 ゼロになったらどうなるのかは解らない。

 だけど、なんとなくだが、俺はこの数字を猶予のようなものだと思っている。

 要は“間違えてもいい”残り回数だ。

 最初の自分への【上書き(オーバーライト)】の時以外に四回間違いを犯している。

 本来名前を【上書き(オーバーライト)】しちゃいけない対象に対して使うことでの警告のようなものだろう。

 自分自身に使った時、部屋に入って来た蟻に使った時、ベッドに“百万円”、“宇宙戦艦ムサシ”、それから“麦芽百% ユウヒ ウルトラドライ”と名付けた時、の五回だ。
 いずれの時も【上書き(オーバーライト)】自体は成功した。

 生き物への名付けや、本来この世界にあり得ないような名前を【上書き(オーバーライト)】しようとすると警告としてああなると理解している。
 とは言え、“液晶テレビ”とか“自転車”なんてのはOKなので俺の推測が正しいのか微妙な気持ちではある。



・・・・・・・・・



 そして、ついに俺自身に正式な名前が付けられた時があった。

【ウォルター・ヘイムダル/27/9/7429】
【男性/14/2/7428・ヘイムダル士爵家長男】
【犬人族】
【特殊技能:超嗅覚スーパー・オルファクトリー
【固有技能:上書き(オーバーライト)(Lv.7) 5】

 いやぁ、ウォーリーとか付いたまんまじゃなくて良かったわ。
 苗字もあったしね。

 
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