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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百十三話 魔法の指輪

7447年1月21日

 前回の迷宮行では相変わらず八層の広間で銃の開発を続けていた。
 細かな問題点を潰し、改良を施し次回の迷宮行で再度テストを行うのだ。
 そこで問題が無ければ通路だの部屋の主だのに対して使ってみようと思っている。

 それが上手く行けば、その次にはいよいよ九層に行ってミノの集団に対して網撃ちを行ってみるつもりだ。トロールなんかに対して有効であればミノにもある程度の効果を期待してもいいだろう。

 と、ある程度順調な(順調でもないが)迷宮の方は置いておいて、実は今、俺はミヅチと二人で王都に向かっている最中なのだ。
 今回迷宮に入っている間に、例のダースライン侯爵から返事があり、出来るだけ早く会って話を聞きたいとの内容だったのだ。会合の場所は王都の行政府にある宮内省のエリアである。俺はてっきり、他の省は別にしても宮内省(宮中行事などを取り仕切り、国王の補佐をするための部署)とか城軍省(軍事関係の部署)なんかは王城の中にあるんだと思ってたよ。

 日本の宮内庁だって皇居の敷地の中にあるじゃんか。まぁ、後で聞いてみたら、ちゃんと両方の省だけでなく、他の省も王城の中にもあるらしいのだが、王城の方はあくまで出先機関であって本部みたいなのは行政府の建物が密集している地域の中の一つにあるんだってさ。

 で、国王が大臣だの政治家だの官僚だのに用事が出来たり、何か話をしたいときには彼らが出仕している行政府からわざわざ呼んでくるんだって。これって、偉くなれば偉くなるほど国王に呼び出される感じで面倒臭くね? せめて王城のすぐ隣に行政府があればいいのにね。

 勿論、俺としても王家の生活の場である宮殿を兼ねた王城の中に多くの政治家(上級貴族とも言う)だの役人だのが毎日出勤してくるなんて嫌だろうから、場所を分けたということについて理解はしている。

 でも、なんぼなんでも一㎞近くも離れているのはどうかと思うんだ。俺はそうしないようにしよう。心のノートに書いておいた。

 大臣に会うのだからして、俺とミヅチは裁きの日に着るような上等な服を着ている。前世の着物を彷彿とさせる前開きのものだ。着物とは言っても男性用にも女性用にも袖に袂はない。また、オースには袴がないのでどうにも締まらない格好に思えるけどね。代わりに少しゆったりとしたズボンを穿き、靴は相変わらずの戦闘靴だ。因みに、俺は公職にもついていないし、下級貴族なので帯の色は深緑だ。ミヅチは鮮やかなピンク色である。

 まずは仲を取り持ってくれたサンダーク商会に寄り、商会長に挨拶をし、彼と一緒に宮内省まで行くことにした。行政府の建物の一つ、宮内省に割り当てられた場所まで来ると、商会長は門番の第三騎士団の騎士だか従士だかにダースライン侯爵からの招待である旨を告げる。その場では少し待つことになった。だが、奥に引っ込んで行ったのとは別の騎士団の人と、ここらの建物なんかの世間話に興じていたので、十五分以上待っていたが別に手持ち無沙汰ではなかった。

 その後応接室らしき場所に通される。そこのソファに腰掛け、出されたお茶を二口三口啜ったあたりで「ん? マッカゼの間か? カムクラの間に通せと言うておったろうに!」とか怒鳴り声が聞こえてきた。ミヅチと顔を見合わせる。なんとも騒がしいね。

「いらっしゃいましたな」

 俺と同じ緑系統の帯を締めたサンダーク商会長が言う。
 あの声がそうか。

 そして、一人の爺さんが入室してきた。痩せぎすの、目付きの鋭い爺さんだった。顎先には灰色の髭が逆三角形に生えており、同色の、年齢の割には豊かな髪は少し長めで丁寧に後頭部に撫で付けてあった。着ている物は見るからに上等なもので、俺やミヅチの着物と同じようなデザインではあるが、数段金が掛かっていると思われる。帯の色は……なんと、赤だ。侯爵で大臣ともなると違うねぇ。

 あ、国王は紫、妃殿下方や王子、公爵なんかは青だよ。うちの親父がもし「正式に」謁見するような場合、黒になる。ウェブドス侯爵は黄色、第一騎士団の騎士団長、ローガン男爵は赤。中隊長クラスで白じゃないかな。これらの帯の色は貴族であることや、その中でもある程度の格付けによって決まっている。どんなに偉くても平民だの自由民だのは茶色とか水色系統、またはミヅチのようなピンクなどの別の色にしなくてはならない。

 この爺さんがダースライン侯爵だろうな。

「侯爵閣下、先日はどうも。それで、こちらの二人が例の……」

 サンダーク商会長が俺たちに目配せをした。

「初めまして、閣下。アレイン・グリードと申します」
「ミヅェーリット・チズマグロルです。お会いできて光栄でございます」

 俺達はソファから立ち上がると挨拶をした。

「おお! お!? ……グリード? どこかで……グリード……と、失礼。わざわざ呼び立てて済まなかった。私がダースラインだ。……なに、グリード!?」

 ダースライン侯爵は当然売主の俺たちの情報については今初めて知ったはずだ。姉ちゃんにご執心だったこともあるからグリードという名前には聞き覚えがあるのだろう。尤も、最近は姉ちゃんからとんと名前を聞かなくなっているので、諦めたか、何にしてもそこまで暇ではないのだろうと思っていた。

 ソファに腰掛けようとして固まったまま俺の顔を見つめていたダースライン侯爵を前に、俺とミヅチの二人はゆっくりとソファに座り直した。

「いきなりこんなことを聞いて不躾だが、君には第一騎士団に親戚が居るかね?」

 相変わらず固まったままの姿勢でダースライン侯爵は俺に尋ねた。

「姉が第一騎士団でお世話になっております。よくご存じですね」

「……アレイン・グリード……グリード商会の……殺戮者スローターズか……道理で」

 へぇ。しがない冒険者のことなんかよく知ってるね。まぁ、ゴム製品を中心とした商会を立ち上げ、その創業者はまだ小僧という程の若年で、且つ先日は王国初代国王のジョージ・ロンベルト一世陛下の偉業を追い抜いたという冒険者だから名前くらいは知られていてもおかしくはない。何しろその御蔭で冒険者以外でもちょっとした有名人になったしな。

「あ、いや。度々失礼。姉上は魔術師として非常に優れていると聞く。君も魔術は得意なのかね?」

 ま、似たようなことは言われるとは思っていた。

「人より少しマシな程度ですね。魔法ならこのミヅチの方が得意なくらいですよ」

 俺に言われてミヅチはにこりと微笑む。

「ふむ、闇精人族ダークエルフか……。ならば魔術が得意なものが居てもおかしくは……時に、チズマグロルさんとやら、無魔法のレベルは?」

 ソファに腰掛けながらダースライン侯爵はミヅチに尋ねた。
 何ぼうっとしてんだよ、お前。
 ミヅチはぼうっとして聞き逃したらしい。
 肘で小突いてやる。

「あっ!? はい! す、すみません。緊張のあまり……」

 仕方ないので侯爵の質問を繰り返した。
 そういうの、止してくんないかな?
 大物の心象を悪くしたくはないじゃんか。
 仕方ないけど。

「先日五になりましたわ。閣下」

 それを聞いたダースライン侯爵は目を丸くして驚いた。本当は七なんだけどさ。

「流石に日常で実戦的に魔術を使用している冒険者は魔法の特殊技能レベルが上がり易いな」

 この爺さんも若い頃はバルドゥックの迷宮に入っていたこともあるらしい。だが、流石に筆頭宮廷魔術師ともなると魔法で直接ダメージを与え、その対象が後に死亡すると魔法の経験値の効率が良いことは知っているらしい。勿論、経験値の効率と魔術への習熟は全く別物であるし、どちらかと言うと冒険者は攻撃魔術でダメージを与えるよりいざというときの為の治癒魔術に魔力を温存している事の方が圧倒的に多い。だからあまり知られていない。

 カマをかけて感心した振りでもしてどの程度知っているのか聞きたい気もしたが藪蛇になっても嫌だし、別に俺が何を得られる訳でもないので流しておいた。

 こうして世間話を数分行い、会合もいよいよ本題に入る。

「それはそうと、今日の件、あの指輪のことだがな。あれはやはりバルドゥックの迷宮で入手したものかね?」

「ええ、そうです」

 ダースライン侯爵は指輪の売主である俺のことを知らなかったのだからバルドゥック産とまでは知り様がなかったのだろう。その後九層の祭壇から手に入れたことを伝えると感心したような顔でふむふむと聞いていた。

「ところで、先日頂戴したお手紙にて触れられておりましたが、指輪の能力は“回復”だそうですね?」

 “回復”が“治癒の促進”であれば冒険者にとって非常に貴重なものである。怪我をしても地上で寝込む時間が短くて済むのだし、それは稼ぎに直結する。

「うむ。我が家に先祖代々伝わる『守護の指輪リング・オブ・プロテクション』と同じ名前であり、効能も同じであろう事は私自らが確認しておる」

「なるほど……」

 俺の記憶違いでなければ、あれは回復ではなく、ダメージの減殺であったはずだ。

「後学のためにどのような方法でお試しになられたのかお伺いしてもよろしいですか?」

 俺の言葉を聞いたダースライン侯爵は簡単に説明をしてくれた。
 その方法は以下の通りである。

 契約などの時に魔石の粉と自らの血液を混ぜてそれをインクの代替として拇印を押すことは以前話したことがあるので知っていると思う。その時、普通はピンを使って指先を傷つける。その程度の傷では本来HPは減らない。が、痛いは痛い。大したものではないし、魔法への精神集中を阻害する程でもない。まぁこれは人によるが。大多数の人の場合、真剣になっていれば魔法を使おうと精神集中を行う程度のことは可能だ。

 だから魔法が使える人の割合が高い貴族なんかの場合、すぐに治癒魔術を掛ける人も多い。俺もそうだし。

 今回の件で指輪を嵌めたダースライン侯爵は契約の時(公文書などでも使うらしい)同様に自らの指にピンで傷をつけたらしい。傷は出来たがどんなに指を絞るようにしても血は出なかったと言う。ついでに傷についてもすぐに塞がってしまったそうだ。その後、その日は指輪は効果を発揮することはなかった。

 翌日、今度は指輪を嵌めず、ピンで指を傷つけた。指を絞ると当然血も出る。それを確認後、すぐに指輪を嵌めた。すると、傷は塞がり、当たり前のように出血も止まった。

 これは以前より所持していたダースライン家に先祖代々伝わる守護の指輪リング・オブ・プロテクションと全く同一の効果であり、名前も同一のことから本当に同じ効能を持った指輪であると、ほぼ信じるに至ったと言う。

 ここまで話を聞いて俺は少し疑問に思った。“ダメージの減殺”と言うのは指輪を嵌める前に負ったダメージにも有効なのであろうか。そもそもピンで指先を傷つける程度、ダメージとも呼べない。その程度の軽いダメージ(経験値同様、小数点以下のダメージの可能性も一応ではあるが考えられる)であればあまり時間を置かなければ減殺の対象になるのだろうか。

 ついでに人のいい侯爵は先祖代々に伝わる方の守護の指輪リング・オブ・プロテクションも見せてくれた。

守護の指輪リング・オブ・プロテクション
【金・サファイア】
【状態:良好】
【生成日:16/10/7112】
【価値:1】
【耐久:49】
【性能:ダメージ回復;1HP】
【効果:この指輪を嵌めている対象はHPにダメージを受けるような事柄がある場合、指輪の魔力によって1HPだけ受けるダメージを回復出来る。回復可能なダメージは一日あたり1HPまで】

 外見は微妙に異なるだけでよく似ており、俺の【鑑定】内容とも一緒……じゃねぇ。

 だが、そんなことは噫にも出さず、わざとらしく魔力感知ディテクト・マジックの魔術まで使用して感心したように呟く。

「確かに魔法の品……失礼、ステータスオープン……仰る通り名前も一緒ですね」

 俺の言葉を聞いた侯爵はゆっくり頷きながら指輪を受け取ると、口を開いた。

「また、全く同じ物であると確信したのは、ある“特別な魔術”を使用して確かめたからだ」

 それ、それだよ! 聞きたかったのは。

「そう言えばお手紙にも書いてありましたね。その“特別な魔術”というのはどのような魔術なのです?」

「申し訳ないがそこまでは言えぬ。だが、これでは納得もし難いであろうしな。“特別な魔術”とは二つの品の魔力を比較する魔術よ。この魔術を使って両手に持った魔法の品(マジック・アイテム)の魔力を比較できるのだ」

 ……ほう? そんな魔術があろうとはね。

「その魔術で同じものだとご判断された?」

「そうだ。これらの指輪は他に能はないが小さな傷の治癒には大変に重宝する。譲り受けることが叶い私も嬉しい。まして、我が家に代々伝わるものが九層という、初代陛下にも及ばなかった迷宮深部から出たとなるとその格も上がろうというものだて」

 ニヤニヤとして侯爵は指輪を嵌め直した。
 ミヅチが俺の隣で居心地悪そうに身じろぎをする。

 比較の魔術とやらでは殆ど同じものに見えるらしい。それに、どうやらこの侯爵の“特別な魔術”をもってしても俺の【鑑定】の固有技能には及ばないことが判明した。それで充分だ。あとに残るのは俺の見付けた方の指輪の能力に多少疑問が残る程度であるが、元々大した能力ではないし、別に気にする程のこともあるまい。

 その後は望まれるままに少しばかり迷宮での話などをして退出した。

 サンダーク商会長とは宮内省の建物を出た所で別れた。



・・・・・・・・・



 グリード商会本拠へと向かう道すがら、ミヅチと会話をした。

「あの大臣、指輪の入手時の逸話を聞きたかったというのが本音かねぇ?」

 ついでに九層から出てきたと聞いて自分とこの家に伝わる魔法の品の格を上げる事にもなって重畳なことだ。

 それを聞いたミヅチは自分の馬を俺の馬に寄せた。

「ちょっと……一つだけ」

「あん? なんかマズかったのか?」

 真剣な顔をした彼女は俺の耳に口を寄せると小声で言ってくる。

「あの人、一箇所だけ嘘を言っていたわ。『他に能はない』ってとこ。ねぇ、本当にあの指輪、貴方が言った通りの能力なのかしら……?」

 なぬぅ!?

 確かに【鑑定】しただけで、碌に能力の確認もせなんだ……。
 【鑑定】が完璧じゃない(と思われる)事は理解しているけどよぉ……。
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