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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百十一話 手紙の謎

7446年12月28日

 前日に王都へと移動したあと、皆はそれぞれの用事などのため、早い奴は昨晩のうちに別れている。一夜明けた今朝、ミヅチは「私はちょっと『お歳暮』? を持って先にトゥケリンさんのところにご挨拶に行くわ」と、朝食の後でソーセージ工場に寄ると買い物に行ってしまった。俺も用が済んだらトゥケリンの治療院に顔を出すと言って、彼女とは治療院で合流することにした。

 まずは兄貴たちと一緒に登城してゴム鎧の納品だ。

 これで第一騎士団からの注文は殆どはけた。次回用として第一騎士団からは四着の注文を取り、残り七着は全て第二騎士団からの注文となった。とは言え、第一騎士団との付き合いがこれで終わる訳ではない。まだ騎士と従士の六割程度しか当家のゴム鎧を購入していないんだよ。

 残りの四割は今使用している鎧が使える状態でも補助費が申請出来る時期が来たら注文を貰えるだろうし、既に使用している人も購入七年後にはまた補助費を申請して買い直すと思われる。

 金属と革を使った今までの鎧と比較してゴム鎧は耐用年数が短いことが欠点だ。だが、金属製の鎧より安価であり、軽く、防御力もそれ程劣らず、更に修繕費用も比較にならない程安価であることが長所である。そのおかげでこうして長く付き合える関係を築くことが出来そうなのは本当に嬉しい話だ。

 惜しむらくは金属鎧プレートメイル板金製の全身鎧(フルプレートアーマー)程派手ではなく、見栄えもあんまり良くない点が挙がるだろう。多分ここだけはどんなに頑張っても絶対に勝てないところだと思う。まぁ、エボナイトプレートも結構良い艶もあるんだけどね。色がねぇ……地味過ぎるわ。

 だから、前述した理由で金属製の鎧の需要は必ず残る。確かにウチのゴム鎧に押されることで、以前と比較すれば受注量自体は減るだろうが、無くなったりはしない。ついでに言うとやっぱり防御力自体は金属製の鎧の方が上なのだ。重いけど。勿論、プレート部分の表面だけ見栄えの良い薄い金属製にするという案もあるにはある。

 だけど、そこまで手を出したらねぇ……。これについては兄貴や親父とも話をしており、やっても旨みは少ないだろうという結論になっている。

 じわりじわりと何年も掛けてバークッドブランドで名を通していった方が良い。生産量についても、伸ばしたとしても今の倍から、どんなに多くても二・五倍がいいところだろうと思っている。それでも十年後、二十年後にはウチが国内最大の鎧メーカーとなっている筈だ。俺は市場の寡占化の一角に食い込んで、ある程度のコントロールはしたいが、独占して恨みを買いたい訳じゃないのだ。

 とにかく、次回からは第二騎士団が主な取引相手となる。個人用装備品購入の補助費として七年おきに半額を補助して貰える第一騎士団と異なって、第二騎士団では七年おきに三割の補助費が支給されるに過ぎないので、人数に対する注文者の割合は第一騎士団と比較して激減することが予想される。

 しかし、分母の数が桁違いだ。第二騎士団は騎兵たる騎士の数は第一騎士団の五倍も多い五百人。歩兵たる従士に至っては二十倍の千人もの人数を抱えている。これが第三、第四になると人数はもっと多い。第三、第四は個人用装備の補助費は支給されないらしいが、それでも交換時期が来て買い換えるなら、そのうち一割程度はウチの鎧を購入してくれると思う。

 注文のサイクルを考えれば来年中には受注量を数着引き上げても市場に大きな影響を与えないだろう。何しろ、最初から最後まで一貫して金属鎧プレートメイルを製造する工房だと年に二着作る程度で手一杯らしい。分業の工房でも、いいとこ五着といった有様だ。だから非常に高価である。高価であり過ぎるのでそこまで手の届かない騎士たちは泣く泣く重ね札の鎧(スプリントメイル)金属帯鎧バンデッドメイル、果ては金属鱗鎧スケイルメイルや最悪、鎖帷子チェインメイルだけで我慢する人も出てくる。

 俺たちの相手はそういう人や、金属製の鎧の重量を嫌う人だ。第一騎士団だって、多分人によっては地味~なウチの鎧を購入してはくれないだろうよ。でも、ゴム鎧を使っていない殆どの人は軽い鎧は羨ましいとか言ってる。購入者が増えてくれると嬉しいんだけどな。



・・・・・・・・・



 商会へと戻る兄貴達と別れた俺は、サンダーク商会へと赴いた。例の指輪の件と魔除けの件についての進捗を聞きたかったのだ。

 まず、指輪の方だが、封のされた手紙を手渡された。封蝋にはどっかの家紋が入ってるが、俺は紋章については詳しくないのでどうでもいい。どこのお貴族様が購入したかなんて興味はあんまりないのだ。

「ふふ……。君は若いのに仁義を心得ているな」

 碌に紋章を眺めることもなく、「拝見します」と一言言ったっきり、さっさと封を開け、手紙を抜き取ったあとで封筒を紋章が見えないようにテーブルに置いたのを見て商会長はそう評した。そうだよ。サンダーク商会の商圏を荒らすつもりなんかさらさらないよ。

 お褒めの言葉を頂いたことに一つ頭を下げ、手紙を開いた。

 ――この指輪の販売者殿へ

 まず、非常に貴重な魔法の品をご販売頂いたことに深く謝意を表する。
 また、指輪の能力の判別については、実際に想定通りの効果を発揮するか装着して確認した。その後改めて特別な魔術を使用して確認したことにより、真正なる魔法の品であると同定した。能力は体力の回復である。回復自体は怪我などの回復を幾分促進させたりする程度のものであるが、貴重であることに変わりはない。

 重ね重ね、このような貴重な品をお譲り頂いたことに心より感謝する。

 ロンベルト王国右大臣 ダースライン侯爵ゾトルート――

 まぁ、手紙に名前を書くのはオースでも礼儀だよね。
 書いてあるものを読んでしまうのは仕方がない。

 って、何ぃ!?

 ダースライン侯爵と言えば今代の大臣の一人だ。
 別名、筆頭宮廷魔術師。
 宮内省の長官である。
 俺だって名前を知っている有名人だ。

 姉ちゃんに魔術を見せろと迫ったりしてローガン男爵に追い払われた老い先の短い情けない爺さんのイメージが強いが、大臣という、政治家や官吏たちのほぼ頂点に君臨している人だ。
 政治に辣腕を振るっているのかまでは知らないけど。

 ついでに言うと過去の多くの大臣のように、その在任は短い期間ではない。
 例えば、宰相たる左大臣は十年以上に亘る長い在任期間の彼とは異なり、何年か前に僅か二年という短い在任期間で代替わりしていた筈だ。
 確か国王の従兄弟か何かでまともな領地を持たない名前だけの公爵だったと思う。
 なお、サンダークの本家の当主も右大臣の一人で領土省(国土省)の長官を兼任する事実上の領土大臣だ。正式には領土尚書とかなんとか言ったっけ。

「……!」

 絶句した俺を見て商会長は「大方、購入者を知って驚いている、というところかね?」と柔和な笑みを浮かべて言った。

「……いえ……まぁ、吃驚はしましたが……」

 ま、それだけだ。
 確かにダースライン侯爵の名前には驚いたが……そんなことより“特別な魔術”の方に、より興味を惹かれている。
 これ、聞いても教えてくれないだろうなぁ……。

 一目見せてくれるだけでいいんだけどな。

「気にせんでもいい。そこまで気を遣っている君が直接出向くとは思えんしな。手紙に名前くらい書いてあっても不思議じゃあない」

 商会長はそう言ってくれたが、機会を得ることが出来れば“特別な魔術”について教えを請うなり、見せて貰うなりお願いしたいところではある。勿論、何か商取引をするのであればサンダーク商会を通すことについては全く不満もない。

 なお、魔除けの方は競売オークションの事前告知を行っているそうで、最初の反応を見ているところだった。この、最初の反応を纏めた上で実際の入札期限を決め、最低落札価格も同時に決定され、改めて正式に告知されるらしい。

「かなりの値が予想されています」

 商会長は嬉しそうな笑みを浮かべて言った。
 どのくらいの値段なのかは俺にもまだ明かせないそうだ。
 あんまり安い(一億に届かない)ようなら売らないのもありかなぁ?
 でも一回くらい競売オークションってやつを経験してみるのもいいよね。



・・・・・・・・・



 夕方前に代金を受け取る用意をして再訪を約し、その足で向かったのは闇精人族ダークエルフトゥケリンの営む治療院である。三ヶ月ほど前、バルドゥッキーの販売を打診したところ大喜びをしてもらった事が記憶に新しい。

 治療院に到着すると、王城や商会に同行しなかったミヅチがトゥケリンやその奥さんとお茶を飲んで駄弁っていた。テーブルにはどっかの高級店で購入したらしい、お歳暮であるお菓子の木箱が乗っており、中身は既に無くなっていると思われる。同国人同士、それなりに積もる話でもあるんだろう。商売の話は俺が到着するまでしてはいなかったようだ。ミヅチらしい。

「グリード殿。つい先日、本国より連絡がございました。可能であれば毎月三千五百本のバルドゥッキーを用立てて頂けると嬉しいのですが……」

 心なしかトゥケリンの対応は少し丁寧なものになっている気がする。
 でも三千五百本って……そんなもんでいいの?
 今の工場なら休日を一日潰して稼働させるだけで賄える量だぞ。
 思わずミヅチの顔を見るが、彼女は問題ないという顔で頷いた。
 え?
 王都ロンベルティアへの隊商の便を増やさせた?
 わざわざ?

 確か馬車一台を何人ものダークエルフの戦士が護衛してるんだよな……四百㎏に迫る重量だから馬車一台なら殆ど一杯に近いのか。

「勿論全く問題はございません。ああ、それから、麻袋にでも包んでゴム引きの布袋で密閉するなら常温で二ヶ月間は美味しく食べられますよ。保証します」

 多分二ヶ月半は大丈夫だろうけど、念の為少し少な目に申告した。

「おお! それは素晴らしい! 品質が長持ちすれば助かります」

「それで、味はどうします? 五種類ありますから七百本づつ全部の味で混ぜこぜ(アソート)にしますか?」

 そう尋ねるとトゥケリンは少し恥ずかしそうに「全て普通のバルドゥッキーでお願いしたい」と言って来た。うん。まぁ好みもあるだろうし、最初はそれが一番良いかも知れない。ああ、一番安いから恥ずかしいのかな? そんなん、全く気にしまへんがな。

「それと、価格の方ですが、本当に市価の三割で宜しいので?」

「ええ、勿論ですとも。彼女ミヅチにもお願いされていますからね。儲けは度外視です」

 っつーか、仮に市価で売ったとしてもノーマルのバルドゥッキーであれば一本三百Z。
 儲けは金貨一枚(百万Z)にも全然足りないのだ。
 奴隷たちに休日出勤の割増手当を払う訳でもないし、別に損はしないし、感謝してくれるならそっちの方が良い。

 納品予定の十日くらい前に量の連絡を言付けてくれればOKだと言って治療院を後にした。

 あとは……ああ、そうだ。
 鉄鉱石やその他の鉱石も買っとかなきゃ。
 それに、一番大事なことだが、ラッセグたちやヨトゥーレン一家は勿論、殺戮者スローターズの従業員たちについても納税処理を行っておく必要がある。商会に帰ったらミヅチと二人、今日明日は計算や事務処理に追われるだろうな。面倒臭ぇ。電卓欲しい。



・・・・・・・・・



7447年1月5日

 明日からまた迷宮行となる。

 この年末年始は結構忙しかった。

 年末に納品や帳簿の確認、納税などを纏めて行い、大量の干物を持ってミヅチと迷宮に入り、ミラ師匠のところまで行って魔法の修行。戻ったら戻ったでまた王都にとんぼ返りをして、王都の大きな商会に頼んで取り置きをして貰っていた大量の金属鉱石を運ぶため、乗合馬車をチャーターして宿まで鉱石を運んだ。

 その後は師匠から新しく習った花火パイロテクニクスの魔術と死霊討伐グレイヴ・ストライクの魔術、そして下降煙グラウンド・スモークの魔術の修行だ。ちなみに、正月の修行の際にダースライン侯爵の手紙にあった“特別な魔術”について質問をしてみたが、ミラ師匠にも心当たりは全くないとのことで非常に残念であった。

 確か姉ちゃんの話によると、ダースライン侯爵の魔法の特殊技能のレベルは無魔法が七になるとかそんなもんだった筈なので、本当に“特別”だとしても俺が習得出来ない道理はないと思う。

 少なくとも、神が使うような非常に高度な魔術はともかくとして、ミラ師匠ら妖精族でもこの世に存在する魔術全てをカバーしている訳でもないことが改めて判明した訳だ。だからと言って俺にとって大切な師匠であることに何の変わりもない。

 さて、明日からの用意も終わったし、寝るか。

 
花火パイロテクニクス」オルタレーション
(地魔法Lv1、火魔法Lv3、無魔法Lv4、消費MP10+ タイプにより変動)
魔術の発動には種火が必要(種火は魔法的なものでも、そうでなくとも良い)。
花火タイプ:色とりどりに輝く光が一瞬爆発し、華々しく燃えあがるが、音は伴わない。30m以内の距離でこの光を見た生物は一時的な盲目状態となる可能性がある。
煙幕タイプ:種火から煙が湧き出し、煙幕のように直径10mを覆う。この煙幕は術者のレベルごとに一分間持続する(術者の意志で中断は可能)。煙幕内はインフラビジョンやXレイビジョンも含めてどんな視覚を用いても、煙幕の中や向こう側を見通すことは出来ない。煙幕に入った生物は全員、【筋力】および【敏捷】に-4のペナルティを受ける可能性がある。これらの効果は、煙幕が消散するか、対象が雲の範囲を離れてから2~5分間持続する。

死霊討伐グレイヴ・ストライク」エンチャントメント・ネクロマンティック
(地魔法Lv3、火魔法Lv3、風魔法Lv1、無魔法Lv5、消費MP12)
術者は自分が接触している望みの武器(又は自分の拳など)一つに対し、魔法的な陽光を纏わせることが出来る。光はライトの魔術の半分程度の明るさである。この光を纏った武器はアンデッド・モンスターに対し、特別な攻撃力を上乗せすることになり、対アンデッド用の強力な武器(ダブルダメージ)となる。効果時間は術者のレベル×5秒。

下降煙グラウンド・スモーク」オルタレーション・エンチャントメント
(地魔法Lv1、風魔法Lv1、無魔法Lv3、消費MP5)
術者のレベル×0.1m^3までの体積の炎が排出する煙を直下の地面に吸収させる。吸収は地面でないと効果が無い。焚き火などの煙に気付かれにくくする魔術。
+注意+
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