挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

312/518

第二百四話 挑戦権3

7446年10月21日

 カームもキムもベテランの冒険者らしくごく僅かな音しか立てていない。
 未だに不思議な迷宮内の風が立てる草ズレの音に紛れてオーガに近づいて行く。
 ここからだと、既に姿勢を低くして慎重に近づく彼女たちの居場所を正確に知る術はない。

「ふーん、やっぱりキムさんの方はともかく、カーム姐さんは流石ね……」

 ミヅチが呟いた。
 判るのか!?
 すげーな、こいつ。

「今二人はどの辺です?」

 ミヅチの呟きが聞こえたのだろう。バストラルが囁くようにミヅチに尋ねた。

「キムさんはオーガの手前三十……二十七、八mくらい。カーム姐さんはその右の方……二十mくらい離れてるかな……キムさんの方が判り易いよ」

 まじかよ。

 ゼノムが時計の魔道具を抱えたままトリスの顔を見るが、トリスは首を振っている。
 だよなぁ。
 ま、いいや。

 ……。

 お。

 なるほど。言われてみれば俺にもなんとなく判った。
 あそことあそこか。

 オーガまでキムは十五mを切った。
 カームの方は少しキムの方に近づいてキムの右、十五m程の所だろう。

 皆も判ったようで身じろぎ一つせずに彼女たちを注視している。
 周囲の監視が疎かになっているが、前方はオーガと彼女たちだけだし後方はたった今通ってきたところだ。
 まだ暫くは生命感知ディテクト・ライフも目視での監視もあまり意味は無いだろう。

 カームが立ち上がって下草から頭だけを出したかと思うと、すぐにその前に弓も出てきた。

 そして、矢を発射。

 オーガの斜め後方からだったのでオーガには気付かれず首の後ろに命中した。

「ギオオオォォッ!」

 矢が刺さったオーガは弾かれるようにして飛び上がるのと立ち上がるのと、そして振り向くのを同時にやってのけた。
 だが、忌々しそうに首の後に刺さった矢を引き抜いて投げ捨てると即座にしゃがもうとした。
 武器を拾おうというのだろう。

 キムはその隙を見逃す程、のろまではなかった。
 身を隠していた下草からまるで短距離走の選手のように突進する。
 違いは長大な槍を腰だめにしているかどうかだ。
 あと、彼女の頭髪同様の金と黒の縞模様の先の丸い長い尻尾。

 キムは突撃の声を上げたりせず、槍と共に一直線だ。
 しゃがみかけたオーガがキムに気が付いた時にはもう殆ど穂先との距離はなかったと思う。

 慌てて体を起こしかけたオーガの右胸にキムの長槍は深く突き刺さった。

「ゴオッ!? ガアアァァッ!」

 驚きと痛みに苦しむオーガはついさっき矢を受けたことを忘れたのだろうか。
 胸に刺さった槍を抜こうと両手を槍に掛けた。
 弓を打ち捨てたカームが下草の中を駆け抜け、膝裏の腱を狙い接近していることには気が付いていないようだ。

 カームは矮人族ノームの背の低さをも利用して頭は下草の中から出ていない。
 恐らく肺を傷つけられたオーガは、口から血を垂らしながら槍を引き抜こうとキムと力比べをしている。
 本来であれば即座に槍を引き抜くべきだ。
 掴まれるのはともかく、折られでもしたら目も当てられないし、オーガには充分にその力がある。
 特に相手が複数の時は他のオーガに折られる可能性も高いからね。

 だが、いくらオーガのオツムの程度が悪かろうと、胸に刺さった槍を刺さったまま折る程ではない(尤も、これについてはオツムの程度は関係ないけどね。オーガに限らずとも、どんな奴だってまず本能的に抜こうとするだろう)ので今回に限っては相手が一匹であることもあって、キムの方法が正解だ。
 オーガに接近するカームに対する目眩ましにもなる、と言うよりそれが狙いだろう。

「あああああぁぁっ!」

 キムの口から気合の声が迸る。
 槍を抜こうと後退あとじさりまでしようとするオーガに対して更に深く槍を突き刺そうとでも言うかのように、キムは力強く一歩、二歩、と前進する。
 槍を握る二の腕の筋肉が盛り上がり、革鎧から覗いているうなじあたりにも力が入っているのが見て取れる。

「グガッ!?」

 カームがオーガの膝裏を彼女の短刀で切り裂いた。
 彼女の使う短刀は、俺が昔作った(作ったのは殆ど親父とアルノルトだけど)64式銃剣程ではないが、それでもかなりの業物で、切れ味は鋭い。

 オーガが片膝を突いた隙にキムは槍を引き抜き、今度は牽制だけにしたようだ。
 どうやらカームが切り裂いたのは左膝の裏のようだ。
 左膝を地に突いていながらも、そこそこ思い切った動きで棍棒を拾い上げたオーガは顔を歪めて笑ったようだ。

 武器さえ手に入ればこっちのものだとでも言うかのように見える。
 しかし、その頃にはカームは下草の中を大回りして元いた場所に戻ると弓を回収し、矢を撃ち始める。
 キムはカームに近づかれないように上手にオーガを牽制している。

 ふぅむ……。

 最初にカームがオーガに接近した以外は結構慎重に戦うのね。
 キムもカームもお互い声を掛け合いながら、安全重視で戦っている。
 しかし、オーガはその程度じゃ終わらねぇぞ。

 ほれ。
 危ないぞ。
 あーあ。
 オーガの左の二の腕に槍を突き込んでいい感じにダメージを与えられたと思ったろ?

 でも、それは大きな間違いなんだよね。
 多分、あのオーガはわざと狙ってた。
 その証拠に左腕の筋肉を引き締めて槍が抜けないようにしている。
 そしてすぐに右手に握った棍棒を振りかぶる。

 だが、いい感じにカームがオーガの顔面に矢を打ち込んだ。
 それで怯んだ隙にキムは槍を引き抜けたようだ。

 もう少しで槍を破壊されるところだった。
 キムが最初に槍を突き込んだ時に使った【剛力】はもうとっくに切れているようだ。
 今、彼女は力ではなく、その俊敏さと攻撃のタイミングで戦っている。

 カームもそれをよくフォローしている。
 まだまだ一対一では危ないようだけどこの形であれば充分にオーガを相手取ることも可能だろう。
 そうしてオーガを傷つけ、弱らせて倒した。

「六時二十七分二十秒」

 ゼノムが言う。
 確かスタートは六時二十一分三十秒くらいだから、ここまで六分弱か。
 オーガに近付くまでに一分以上使っているので実質の戦闘時間は四分半くらいかね?
 長いな。
 慎重過ぎる。
 まぁまだ魔石を採るのにどのくらい掛かるかだよね。

 魔石を採るのに掛かった時間は十五分ぴったりくらいか。
 合計二十一分十秒ね。
 初めて七層に来た頃、オーガから魔石を採っていた俺たちとは比較にならないほど速い。
 今のズールーやエンゲラに迫るかも。
 ベテラン冒険者の面目躍如と言ったところだね。

 さて、次はバストラルとエンゲラの番だな。一度戻って再度七層に転移しようか。
 勝てるんじゃないかね?



・・・・・・・・・



 今度も都合よく一匹だけのオーガと出会うことが出来た。
 おあつらえ向きに背の高い下草に覆われた草原にいるのも同じだ。

 カームたちのようにバストラルとエンゲラも少し打ち合わせをしたいと言うので時間を割く事にした。

 何事か簡単に相談した彼らはすぐに準備OKだと伝えてきた。
 よし。
 ゼノムが脇からそっと俺の方を叩く。

「開始」
「七時二十六分」

 俺が宣言するとほぼ同時にゼノムが現在の時刻を言った。
 さっきの反省も含め、ゼノムには頃合いを見て時計に触れていて貰い、キリの良い所で合図してもらうようにしていた。

 俺の宣言を聞いたバストラルとエンゲラはカームたちとは異なり、身を隠すような事はせずに猛然と駆け出していった。
 当然オーガはすぐに気が付いた。
 同時に棍棒を携えてバストラルたちの方へと駆け出そうとしているのが判る。

「少しでも時間を稼ぐつもりか……正面から当たることになるけど、それも手だよな」

 トリスが呟く。

「今のあいつらなら可能だろうしな」

 それを受けてゼノムが言うが、彼の言葉を聞いたカームとキムはぎょっとしたようにミヅチに尋ねる。

「本当?」
「あのオーガを……正面から……」

「ん~、オーガ相手には相当な場数を踏んでますからね……私もマルソーやサージが一対一でオーガを仕留める所、何回も見てますよ」

 ミヅチはバストラルたちの背中から視線を外すことなく答えた。

 槍を構えて走るバストラルの左で、抜身の段平ブロードソードを引っ下げたエンゲラも走っている。
 すぐに二人はオーガと相対した。
 バストラルは突撃の勢いを殺すことなく槍を突き入れるのかと思っていたが、少しは慎重なようだ。
 槍でオーガを捌き始めた。
 エンゲラの方はオーガの後ろに回り込もうと動いている。

 オーガはそれを嫌って棍棒で牽制しようとするが、バストラルが効率よく更にそれを牽制していた。
 完全にオーガの動作や行動を読んだ動きだった。

 エンゲラが俊敏にオーガの回りを動きまわり、オーガに隙を作り出す。
 バストラルがその隙につけ込んで思い切った突きを命中させる。

 バストラルのクリーンヒットを二発受け、一気に動きの鈍ったオーガの首筋をエンゲラが切り裂いた。

「七時二十八分二十秒」

 ゼノムが言った。
 オーガを仕留めるのに二分も掛かっている。
 ああ見えて結構慎重に運んでいた。
 緒戦だからかね?

「七時四十五分三十秒」

 合計十九分と半か。
 エンゲラはオーガの魔石を採り慣れているからバストラルがエンゲラの助手のように彼女の指示で動いていた。
 それでもカームたちより遅いな。

「うーん……」
「……むー」

 カームとキムは渋い顔だった。



・・・・・・・・・



 二回戦はバストラルとエンゲラを先にして欲しいとカームたちが言うので希望を容れて順番を入れ替えた。

 バストラルたちのタイムは一回戦の時より少し遅く十九分四十秒であった。

 対してカームたちのタイムはかなり縮まり、なんと十九分を大きく上回った。
 十八分十秒である。
 これは魔石の採取で更に少し時間を縮めたためだ。
 あと、もう一つ。
 カームはミヅチから魔法の曲刀シミターを借り、キムはグィネから同じく魔法の槍を借りていた。
 このために後攻にしたようだ。
 二回戦と三回戦の二回、この武器で戦えるからな。
 何をしてもいいと言った以上、これはルール違反でも何でもない。
 それを言ったら装備まで完全に同じにしなければいけないし、そうなると俺やゼノム、ミヅチなんかとポジションが重なる奴はまずムリだろう。

 ただ、バストラルたちは少し不満そうだった。
 そんな顔するなよ。
 特にバストラル。
 お前だって、力の腕甲ブレイサー・オブ・マイトを最初から使ってるじゃん。

 そして昼食を挟んで三回戦。
 先攻は元に戻ってカームたちからだ。
 何故こんなに時間が開いたのかと言うと、一回戦と二回戦はどちらも単独のオーガを相手取らせたかったから、丁度いいのを探すのに時間が掛かったからだ。

 今回、オーガが居るのは同じ草原でも下草の高さはいいとこ十㎝というところだ。
 その代わり腰くらいまでの高さの岩がところどころにあるが、とても身を隠せるようなものではない。
 但し、今回は最初から二匹いる。

 一匹は俺が魔法で仕留めると宣言し、今回はそれを開始の合図にした。

 それ以外は今までと同様に森の中から様子を窺うことにした。
 こちらは灌木ではなく、高さ一m程の下草に隠れての観察が可能だ。

「隠れて近付くことは無理そうか……微妙な感じだな」

 トリスがグィネに小声で語りかけている。

「そうですねぇ」

 グィネも難しい顔で返事をした。

「ねぇ、グィネちゃんならどうする?」

 キムもグィネに何やら訊いているが、飛び道具がなけりゃ突撃しかない。
 岩と岩の距離がある程度あるので、ここから二十m程先にある最初の岩まではオーガの目を盗んで近寄ることは可能だろう。
 だが、隠れられるのは一人だけだろうな。

「魔法で攻撃しますね」
「……」

 キムは黙ってしまった。
 キムにしてみれば魔法を使わない方法を訊いてみたかったのだろう。

 だが、彼女たちはグィネが魔法を使えることはよく知っている。
 何しろキムなんかオーガに折られた腕を治療して貰ったこともあるしな。
 そして、バストラルが魔法を使えることも知っている。

 但し、一緒に戦ったこともないし、どの程度使えるのかは知らないはずだ。
 昔七層で会った時にはバストラルは一切魔法を使っていなかったからね。
 バストラルも魔法を覚えたての頃は各元素魔法のレベルが上ったとか話していたこともあったが、じきにそんなこと言わなくなったしね。

 彼女たちの口ぶりからして「大したことはないだろう」と思っているフシが見受けられる。

 まぁ、実際大したことはないんだけどさ。
 それでも、積極的にダメージを与えるように修行している事もあって、凄まじく効率的に経験を積んでいるのだ。
 元素魔法は軒並みレベル二になっており、火魔法はレベル三だ。
 無魔法の方は三ヶ月くらい前にレベル四になっている。
 一人前の魔法使い、とまでは行かないが、もうフレイムジャベリンが使えるんだぜ。

「いいか?」

 カームに聞くと頷いた。
 キムもだ。

「ゼノム、今回はタイミングもあるからちょうどいい時間は無理だ。こっちに合わせてくれ」
「ああ、わかった」

 二匹のオーガが丁度こちらに注意を払っていない隙を突いて一匹の後頭部にファイアーアーバレストミサイルを叩き込んで始末した。

 オーガが倒れたと同時にカームとキムが飛び出した。

 彼女たちは魔法の武器のお陰もあって奮戦し、今回も十八分半という好記録だった。
 合計五十七分五十秒ね。
 これを上回るにはバストラルたちは今回かなり急がなければならないね。

 戦闘時間は二分切らないとダメだろうな。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ