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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百九十九話 葬儀

7446年9月12日

 緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドは昨晩遅くに戻ったそうだ。それだって普段の殺戮者スローターズより半日程遅いくらいの速度なのでかなり無理をして迷宮を踏破していたことになる。元ナンバーワンの面目躍如ってところかな。朝飯を済ませたあと、外輪山の向こうの斜面で合同訓練をしようと出掛けるときに緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドから使いが来て教えてくれたのだ。

 ヴィルハイマー(あのおっさん)も結構焦りを感じていたんだろう。

 まぁ、王様が気にかける最初の子供についての情報を知っちゃっているんだから無理もないけど。アンダーセンが庶子だなんだとかいう情報については今更の話なので俺としてはどうでもいい。せいぜい後々に国王の夫婦喧嘩の種になるかどうかという程度の価値しかない(本当に今更なのでそれすらも怪しいけど)。それに、国王とヴィルハイマーとでどういう話になっているのかまでは知らないし、直接関係ないので興味もない。報酬が貰えれば他人だしな。

 とにかく、報酬の残りと魔石の換金のために楡の木亭へと出向いた。

「後金だ。確かめてくれ」

 バースはそう言って金貨を十五枚、テーブルに置いた。勿論俺は、しっかりと一枚一枚ステータスを確認してから受け取る。しかし、古くて汚ねぇ金貨だな。人に金払うときは綺麗な奴で払えよ。お里が知れるぞ。ってそりゃ単なる俺の思い込みか。

「確かに。あと、例の件についてはアンダーセンさんにも喋っていませんからご安心ください」

 勿論、例の件とは彼女が国王の最初の子供だということだ。

「んなこたいちいち心配してねぇ。お前さんも馬鹿じゃないだろうしな。そんな事より、一体どんな魔法(手品)を使った?」

 腕を組んだヴィルハイマーが俺を睨むようにして言う。
 やたらにいい声でドスを利かせるとなかなか迫力あるな。

「え?」

 魔法(手品)? 何言ってんだ?
 ほら、隣のバースも……ってあんたもかい。二人して怖い目で見るない。

「一晩……いや、一日も掛からずに七層にまで行くとか信じられん。七層の地図はいいのを持ってるんだろうが、黒黄玉ブラック・トパーズを見付けるまでの時間を考えても……余程運が良い……いやそれにしても早すぎるだろう。……フロア中央の転移水晶以外に下の階層へ移動する方法があるのか?」

 ヴィルハイマーは俺の目をじっと覗き込みながら言った。
 バースも嘘でも言おうものなら見逃さないとばかりに俺の一挙手一投足に注目してやがる。
 あるかい、そんなん。ありゃとっくに使ってるわ。

 彼らの目の下には隈が出来ており、心なしか頬もこけているように見えた。昨日迷宮から戻った俺たちも似たような顔だったので、このおっさんらも俺たち同様に必死こいて迷宮を急いでいたと思うと少しだけ親近感が湧き上がってきた。

 だけど、別に種も仕掛けもありゃしな……ふーん。

「さて、そこは何とも。しかし、もしそんな魔法でもあるならばどんなに金を積んででも教えて欲しいですよ」

 億単位だって惜しくはないよね。

「おい! 本当に転移水晶を使わないでも層をまたげるのか!? 知ってるのか!?」

 バースがテーブルの上に身を乗り出して叫ぶ。
 うるさいなあ、もう。知ってるよ。少なくとも三層から多分十四層まで一分と掛からずに行けるぜ。教えたら喜んで飛び込みそうだな。ダイブさせてやろうか? 片道切符になるだろうけど。

「はぁ~っ。知る訳ないじゃないですか。知ってたらこっちが教えて欲しいくらいですよ」

 大仰に肩を竦め、溜め息を吐きながら言った。ついでに「何言ってんだ、こいつ」というように思い切り馬鹿にした顔をしてやった。

「ちっ、いちいちムカつく面しやがって……」

 ヴィルハイマーは苦虫を何匹もまとめて噛み潰したような渋い顔をしながら悪態をつくと、「だとすると……ごにょごにょ……知ってても……ごにょごにょ……」となにやら小声で呟いた。でも、それはどうかね? 今回、黒黄玉ブラック・トパーズの件で解ったが、情報を公開した上で無鉄砲な冒険者共が自滅するのを待つ、という手もあるよな。だけど……。

「……知っててもそりゃ言わないでしょうね。言ったら無駄な死人が増えますよ」

「抜かせ。格好つけて尤もらしい事言うなよ。どこの世界にそんなお人好しが居るか」
「情報売ってからアホが死んで行くほうがいいだろ」

 ありゃ。考えることは皆一緒か。

「だが、まぁ言わないってことは本当にそんな手はないってことか」
「そうでしょうね。我々なら喜んで方々に売り付けてましたね」

 あーあ。出身成分が低く、出自の悪い冒険者は殺伐としていて嫌だねぇ。
 出身成分とか日本の北にある国みたいな言い方だけど。
 お上品なお貴族様の俺としては合わない世界だよ。

 今更、七層だのなんだのに実力の低い冒険者が来る程度の事で荒らされるとは思えない。
 黒黄玉ブラック・トパーズですら全滅ギリギリになってるんだからな。

 それより、緑色団あんたらが楽になる方が嫌だよ。
 それこそ荒らされる可能性があるからな。
 どうせ八層や九層になんか行ってくれないだろ?

「おい、なんだその面は? 自分だけいい格好するな」
「まさか、本気で言ってたのか?」

 無駄な人死ひとじにが出るという言葉に呆気にとられる二人を残して席を立った。貰うものは貰ったし、もう用はないよ。



・・・・・・・・・



 金を受け取った後、一度ボイル亭に戻って細かいのを財布に入れるとゴムプロテクターを装着して皆が訓練をしている外輪山の外まで急ぐ。すっかり遅れちまったよ。到着早々、戦闘奴隷以外のメンバーに昨日の特別手当を渡す時に訓練が終わったら魔道具屋に魔石の換金に行くから来いと言った。

 ちなみに、訓練そっちのけで昨日の話でもしてるかと思ってとっちめてやろうかとわくわくしながら気配を殺して近付いたのだが、歩哨として見回っていたキムとサンノ、バストラルに見つかってしまった。真面目にやってたのね。疑ってごめんよ。

 その後は昼過ぎまで訓練を行って連携の確認をし、弁当を食って昼過ぎには解散した。

 魔道具屋で魔石を換金したあと、宿に戻ってプロテクター類を脱ぐと腰に剣だけを下げて迷宮に行こうとミヅチを誘いに行った。しかし、ミヅチにたまにはゆっくりと湖畔で昼寝でもしようと誘われてしまう。いつもいつも休みの度、空き時間の度に魔法の修行で精神を擦り減らすのは辛いよなぁ。たまにはいいか。

 ミヅチと二人、川沿いを歩いている時だ。

 河原で焚き火、もとい、葬式をしている集団がいる。バルドゥックの人口は三万人を超えているので毎日のように誰かが死ぬから葬式は珍しくない。が、折角久々にデートと洒落込もうかとしている時に辛気臭ぇものを見ちゃったな、と目を逸らそうとしたら知っている奴らだった。昨日とか、今日にしても午前中にやってくれよ……。

「あれ、黒黄玉ブラック・トパーズよね?」
「だな。……死んだ奴らの葬式か」

 わざわざ遺体から魔石を取らずに地上に運ぶのは葬式を行う為だろうというのは想像がついていた。流石に魔石だけを取るのは最後の手段だ。

 燃え易いように工夫して並べられた薪の上に、木製の“葬儀台”と呼ばれる木で組んだ脚付きの台を置き、その上に燃え易いようにソトムという植物の実を絞ったソトム油を塗りこんだ遺体を安置して火を点ける。

 この葬儀台は難燃性の木であるラルックという細い木を組み合わせて作られている。難燃性とはいえ火が点き難いだけの普通の木材なので燃えはする。あまり大きくならないので建材としての利用はされない。丈夫という訳でもないし、直径せいぜい五㎝程度にしかならないからだ。

 燃料となる薪を順次追加して、普通は葬儀台が燃え尽きる二時間位もあればソトム油の効果もあり、遺体は骨と魔石だけになる。勿論、日本の火葬場のように火勢は強くないので骨は多少ひび割れることはあっても、元が老人でもちゃんと形は残る。

 彼らの葬式はもう殆ど終わりの頃の様子だった。
 三人分の遺骸は殆ど骨だけになっている。

 見ちゃったものは仕方ない。
 向こうもこちらに気がついている可能性も高い(河原は精々三~五mくらいの幅しかないし、そのすぐ脇が道だからね)から黙礼だけして通り過ぎようとした。

「わざわざ来てくれたのか?」

 ゾンビみたいに顔色の悪い獅人族ライオス戦斧バトルアックス使い、バールが声を掛けてきた。違ぇーよ。誰が好き好んで来るかっつーの。

「グリード君……」

 アンダーセンが申し訳なさそうな顔つきをして頭を下げる。

「「この度は御愁傷様です」」

 つい、俺とミヅチはそう口にして頭を下げてしまう。在り来りだが他に言うこともねぇしな。

「わざわざ済まないな」

 カークも声を掛けてきた。

「ロットは俺の弟分だった。ゲイリーとはガキの頃からの付き合いだ。ありがとう」

 ヴィックスも項垂れながら礼を言った。

「マリンはあれで頼りになったのよ……来てくれて嬉しいわ」

 ロールも泣き腫らした目をしばたたかせて言う。

 ……。

 …………。

 なんだか妙な雰囲気だ。もう行きたいんだが、そうも行かない感じがある。
 嫌だなぁ……。

 結局昼寝はしそこねた。
 ミヅチと二人、げっそりとして宿に戻るとそれぞれの部屋に別れ、晩飯までベッドで寝た。



・・・・・・・・・



7446年9月13日

 明日から迷宮に行くので基本的には一日オフ。ただ、若い分体力の回復も早い俺達は今日もランニングを終えると迷宮の一層で魔術の修行を行っている。

 メンバーは新メニューに取り組んでいるらしいバストラル夫妻と明日以降の消耗品の買い物で忙しいギベルティを除く殺戮者スローターズ全員。それにロリックと彼の戦闘奴隷たち、ビンスにミース、それになぜかジェルも居た。総勢十九人にも上る。仕方ないので魔法の使えないゼノムとジェルにメックを除く俺の戦闘奴隷五人、ロリックの戦闘奴隷二人の面倒を見て貰って小遣い稼ぎを兼ねた戦闘訓練を行って貰うことにした。

 俺の方のメンバーはミヅチ、ラルファ、ベル、トリス、グィネ、メック、ビンス、ミース、ロリックの魔法が使える十人となる。

「クラウド系の攻撃魔術を使えるようになりたいんだけど、ウインドカッターも使えないからなぁ……エアバッシュやエアハンマーの練習しないと駄目ですかね? 私は風魔法の攻撃魔術はほとんど練習してないんですよね……」

「ねぇ、グリード君。ジャベリン使うなら魔術弾頭はアイスも練習したほうがいいかなぁ?」

 わいわいうるせー。
 どうせ魔力は少ないし、回復させてもすぐに精神的にへばるからいいとこ一時間くらいしか居ないだろうけど。
 でもビンス、ミース、ロリックが参加するとはどういう風の吹き回しかね?

 その晩はバストラルたちにムローワに来いと言われたので、いつもと代わり映えしないがムローワで晩飯を食うことになった。バルドゥッキーの新味かね? と皆で予想していたが、そうじゃなかった。

 ロールキャベツだ。具は塩胡椒で味付けされた豚挽き肉に玉ねぎだけかと思っていたら、なんだろう? 少し懐かしい味もする。

 あ、これ椎茸か。

 ミヅチからせしめたのだろう。ロールキャベツの表面にはベーコンも巻かれた上でコンソメスープで煮込まれており、キャベツもとろとろだった。旨いけど流石に前世、レストランで供されるもののように絶品とは言いがたい。ま、しょうがないけど。

「こんな時期によくキャベツがあったな」

 感心したように言うと、少し高価だが、王都では時期をずらした二毛作なんかの作物も輸入されているから購入自体は可能らしい。そういやあ、金さえ出せば王都で買えないものは無いとまで言われているくらいだしなぁ。工場から戻るキャシーにわざわざ運ばせたようだ。

「これ、椎茸ロスルッジね。干し椎茸ロスルッジも使ってるのね。よく手に入ったわね」

 あれ? ミヅチがそんなこと言うってことは、椎茸の出処はミヅチじゃないのか? そう言えば先月くらいだっけ、椎茸切れたから王都のトゥケリンのところに行きたいとか言ってたな。

「ええ、バルドゥッキーのお礼にとトゥケリンさんがおすそ分けしてくれたんです」

 へぇ、こちらとしては以前のお礼や防腐剤のお礼だと思って付け届けさせてただけなんだが。彼を窓口に本格的にライル王国と取引するのも悪くないかもな。そう言えば彼は国王に“外商長”なんて肩書で呼ばれてたな。ミヅチは暗殺稼業の窓口とか言ってたけどそれだけなんかね?

 あ……調査はライル王国に頼むのも手かも知れない。ミヅチによるとライルの隊商はロンベルトだけじゃなく、デーバスにもキノコや秘薬の行商に行くらしいし、護衛には何と言ったっけ? 戦士階層だかも付くらしいから少し多めに付けて貰って途中で調査に向かわせるってのもアリだろ。

 いいこと考え付いたと思ってその晩にミヅチに相談したら「内情を知られることになる」とか言われた。しかし、そんな事気にしてたら何も出来ない。それに、知られて困る内情なんか無いよ。そもそも外国の間者なんか沢山居るんじゃね? ミュンの例もあるしさ。小競り合いが続いている相手の領地の調査をしない奴なんかいないだろうし、ひょっとしたら部外者のライル王国や別の国も間者を送り込んで調査してるかも知れない。

 別に俺が調査してることを隠したい訳でもない。単に手が足りないだけなんだし。むしろ調査のために長旅をしないで済むだけ皆は俺の目の届く範囲で鍛えられる。仮にミヅチくらいの実力の奴を調査に向かわせた場合、どのくらいの費用がかかるのか聞いてみたら「暗殺とは違うし判らない。でも、暗殺の場合は億単位になることもある」と言われた。

 流石に困難さの度合いが違うからそこまで高価であることは考え難い。しかし、優秀な戦力を一定時間割くことに対して料金を決めているかも知れない。とは言え、暗殺と異なり、危険の度合いも違うし、幾らかでも安くなることは確実だろう。

 合わせてクローやマリーにも調査させて結果を突き合わせて比較出来れば、ライル王国の調査力にもあたりが付けられる。ついでに、パイプも太く出来るし、内容によっては俺たちに好意的か、対立の恐れがあるのか、中立かについて判断する材料として一助になるかも知れない。

 見積は只だろうし、急ぐことでもないから今度王都に行ったついでに一回茶飲み話しくらいしに行こうかな。

 
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