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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百九十五話 黒黄玉4

7446年9月9日

「で、どういったご用件ですか?」

 ムローワを借り切っている。少し昼寝をしたので頭もスッキリだ。

 店にテーブルは幾つもあるが、真ん中に四人掛けのテーブルを置き、そこにヴィルハイマーとバースを座らせ、彼らの向かいには俺とカーム(カーマイン・ミシャウス)が座っている。周囲には他の殺戮者スローターズのメンバーが戦闘奴隷も含めて全員集合だ。

 当然皆には心理的圧力を掛けて欲しいが、罵ったり動き回ったりというのは厳に慎めと言ってある。貴族である俺は品のない行為を好まないので俺かカームの合図を確認したら全員で睨みつける程度にしとけというのも忘れてない。途中で茶々を入れるのなんて以ての外だ。

 そもそもこの二人は泣く子も黙る緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのリーダーとサブリーダーである。安い脅しが俺に対して効果が無いように、彼らにも効果は無い。一番効果があるのは無視することだろう。特に、追いつけ追い越せで目指している俺たち殺戮者スローターズに「別に何も意識していない」と思われ、無関心で居られる事だ。

 だから皆には「俺たちが会話出来る程度の声で適当に馬鹿話でもしておけ。多少笑うくらいは問題ない。但し、あからさまに馬鹿にした態度も取るな。こちらには関心を向けるな。空気だと思え」と言ってある。また、念のためミヅチには隅っこに座って貰い、目立ちにくいように嘘看破ディテクト・ライを頼んでおいた。彼女の周囲はエンゲラと元騎士二人の奴隷に固めさせる。

「グィネ、なんでお茶なの? え? ヒスも?」
「ん~、なんとなく。ラルもお茶にしといたら? ミヅチさん、氷入れて下さい」
「氷入れた冷たいお茶も美味しいわよね」
「デンダー、カリム。今回もよく働いてくれた。チレ入り食ってもいいぞ」
「「ありがとうございます。ご主人様」」

「……黒黄玉ブラック・トパーズのことだ」

 ヴィルハイマーが言った。

「最後に会った日時と状況を教えて欲しい」

 バースが補足した。

 別に隠すようなことじゃないので何一つ包み隠さず正直に説明した。三日前の午後、七層のモン部屋の前で出会ったこと。そして、戦闘開始の直後、ロット(ロストール・ミルストロン)がいきなり倒されて危機に陥っていたため、様子を見ていた俺たちが彼らに助太刀して切り抜けたことを丁寧に話す。

「で、そのマッドトレントってのは……なんじゃそら。魔法使ってくんのかよ」
「アルさんのフレイムスロウワーで牽制続けてなかったら大変だったと思うよ」
「私、フレイムジャベリン入れた」

「七層北側の魔物の部屋か……くそ、一度七層を突破して逆から行かないと……くそっ!」
「ロットが死んだのか……」

 バースが沈痛な表情を浮かべて言った。ヴィルハイマーは、悪態を吐いて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。ところで何か食わないの?

 そして、彼らが七層に転移してきた水晶棒まで同行しようか申し出たが断られたことを話す。そう、同行させてくれていたのなら特急のガイド料を頂戴出来たのにな。七層×七人×十万Z(ガイド料)×五(特急料金)。約二千五百万Zが最低ラインだ。七層なら俺たちの一日~二日分くらいの稼ぎに相当する。別に高くはない。奴らなら払えるだろ。

 む、こうやって考えると七層辺りなら結構バランスの取れた良い料金設定な気もする。

「ジェル、あとでルクソー行かねぇ?」
「いや、俺は遠慮しとく……それに、ルクソーなんて安い店、病気貰いに行くようなもんだぞ」
「あ、やっぱそう? 先月フッグス剣商に長剣ロングソード頼んでちょっと金欠なんだ」
「なら素直に止めとけよ……あ、ミース、この後、ちょっと飲みに行かないか?」

「他に怪我人は?」

 またバースが心配そうな表情を浮かべて言う。

「カークさんとバールさんがちょっとした怪我、ロール(ローレイル・ナルゾメリン)さんが軽い打ち身ですね。大したことはなかったようです」

 俺が話している間、カームは澄ました顔でバルドゥッキーを齧り、豆茶で喉に流し込んでいた。俺もカラシをたっぷり塗ったカゾット入りを齧り、豆茶を飲んだ。旨い。

「そういやルッツはどこ行った?」
「便所じゃないですか?」
「あいつ、小便近いよな。今日の四層でもよぅ」
「もう、食事中に止めてよ」

「ロットの遺体は? ン、ンンッ!……魔石だけ取っていたのか?」

 ヴィルハイマーが言った。少しイラついているようだ。わざとらしく咳払いなんかもしている。

「いえ、遺体はバールさんが担いでいました。彼の装備品は手分けして運んで行くようでした」

「ねぇ、明日どうするの?」
「うーん、キャシーには悪いけどちょっと工場に顔を出したいんだよね。ミヅチさんの意見を聞いてラリーと一緒に新しいの考えてたんだ」
「美味しいやつ!?」
「勿論さ」
「え? なに? 新メニュー? ラリー、貴方はもう食べたの?」
「いえ、まだ二人で考えている段階ですよ、ジンジャーさん」

「大将、ここはもう素直に進めた方が良かぁないですかね?」

 バースが少し心配そうな顔のままヴィルハイマーに耳打ちする。多少周りがガヤついているので少し声のボリュームも大きくなっていたようだ。何とか聞き取ることが出来た。

「あら、あなたも結構ナイフとフォーク使えるようになったじゃない」
「ふっ、奴隷頭としてご主人様に恥を掻かす訳には参りませんよ、コーロイル様」

「……く……糞、こいつに……癪に障る……」
「でも大将」
「解ってる……」

 いひひ、何か知らんがヴィルハイマーの悔しそうな顔を見てると愉快な気持ちになって来る。ま、お楽しみはこんくらいにしとくか。カームもあんまり追い詰めるなという顔をしてるようだしな。

 俺は左手で左頬を掻くと(静かにしろという合図だ)おもむろに口を開いた。

「安心して下さい。私は酒を飲んでいませんし、武具の手入れも万全です」

 急にしんと静かになったムローワの店内に俺の声はやけに大きく聞こえた。

 今回、必要だと思った奴数名には酒を禁じていた。どうしても必要を感じていたのは、ミヅチとグィネ、ズールー、ギベルティ、それにカームだ。ミヅチは戦闘力や魔力の観点から言わずもがな。グィネも迷宮内での現在地把握に必要だ。ズールーは俺の奴隷頭であるし、力もある。そもそも酒は飲まない。ギベルティはズールーの補完で力仕事が発生する可能性を考慮すると居た方が良い程度だけど。カームは旧日光(サン・レイ)のリーダーであり、暫定的だが殺戮者スロターズからの出向者がいない時には実質的な虐殺者ブッチャーズのリーダーとなっている。それに、殺戮者スロターズがしっかりと旧日光(サン・レイ)を吸収し、きっちりと支配下に置いているという証にもなる。

「ぬ……くく、こいつ……どこまで……ああ、もう! そうだ、黒黄玉ブラック・トパーズの救出を依頼する!」

 顔を歪めたヴィルハイマーが悔しそうに吐き出した。

「……ほう? それをなぜ私に? 緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドは動かないのですか? 黒黄玉ブラック・トパーズとは協力関係にあるのでしょう?」

 半々くらいの可能性で黒黄玉ブラック・トパーズの救出の依頼ではないかと予測はしていたが、単純に興味もあるしどんな理屈をつけるのか聞いてみたかった。意地悪だけど緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドより殺戮者スローターズの方が上だからだと言わせてみたい気持ちもある。

「……」

「勿論我々も動くつもりだ。グリード君。俺たちの用意は既に整え終わっている。最後まで行方のわからなかったレンバー(レンバール・コールマイン)をさっきハニーコレクションの個室で見つけたと連絡があった。これが終わり次第俺たちも迷宮に行くんだ」

 隣に座るヴィルハイマーをやれやれ、というような顔で見やった後、肩を竦めたバースが言った。ちなみにハニーコレクションってのはバルドゥックで一、二を争う娼館の名だ。彼は続けて、

黒黄玉ブラック・トパーズとは交代で迷宮に入っていたんだ。いつもどちらかが戻ってから一日掛けてお互いに情報交換の時間を設けていた。勿論、日程については多少の前後は認めていたが、流石に三日はな……限界だ。今から駆け付けると七層に行くまでに更に三日は掛かっちまう。君ならもう少し早いだろう?」

 と言い、もう一度ヴィルハイマーの顔を見た。
 ……救出ねぇ……。

 あの時黒黄玉(ブラック・トパーズ)とは途中から合流したはずだ。捜索範囲はかなり限定される。六層から七層への転移先は約二百弱。うち半数以上がモン部屋に通じていない。北側のモン部屋に通じる場所なんか二十くらいだ。

 前回の俺たちの使った順路とは途中から合流しているようだし、戻らない時間を考えればそこそこ距離のある場所のはずだ。正確な地図を持っている俺たちなら彼らの使った水晶棒は片手で数えてお釣りが来る程度の場所にまで絞り込める。

 確かにバースの言う通り、俺達なら通常進行でも二日目の夕方には七層へ突入出来る。休息時間を極限まで削れば明日の朝出発するとして夜中頃には七層突入だって可能だと思う。俺一人ならもっと早い。

 急いで七層を突破し(可能なら北側のモン部屋に通じる場所に転移した方が効率がいいだろう)、再度北側のモン部屋を突破して黒黄玉(ブラック・トパーズ)が六層から転移してきた水晶棒に戻るべく消えた先を追えば……。

「何か言う事があるんじゃないですか?」

 黒黄玉ブラック・トパーズが仲間だって事はもう割れてんだからよ。言うべき言葉があるだろうが。“お願いします(プリーズ)”だよ。あと、ガイド料だ。こっちもメンバーを動かすんだから只じゃ動けねぇよ。

「大将、グリード君はお見通しのようですよ。あまり黙っていると印象が悪いですよ」

「ちっ……もう判ってるならこれ以上隠していても仕方がない。そうだ。俺がお前の情報を国王陛下に売ってた。レッド(レッド・アンダーセン)と一緒にな」

 な、何ぃ!? あの国王おっさん、やけに耳が早いと感心していたが、トップチーム(こいつら)まで使って情報吸い上げてたのかよ! 殺戮者スローターズのメンバーからも“思わず”と言った調子で声が漏れる。

 俺も表情を動かさないように多大な精神力を必要とした。そのせいでプリーズだとか金のことは何処かにすっ飛んでいたくらいだ。

 それはともかくとして、国王に漏らされて困るような事なんか別にない。敵対するような事を考えていたり、はかりごとを相談したりなんかもしてないしね。せいぜい何層に行ってるとか、結構稼いでるようだとか、戦闘力はかなり高いみたいとかそんな程度の情報しかないだろ。怒る様な事ではないが、面白くないのは確かだ。

 カームがテーブルに肘をついて足を一本テーブルの外にはみ出させる。それを認識した奴から順次、殺戮者スローターズの全員がヴィルハイマーを睨みつけた。

 ヴィルハイマーは一斉に睨みつけられて少しだけ動揺の色を見せたものの、すぐに自己を取り戻したようだ。

「これ以上は人払いして貰えないと話せんし、今話しても仕方ないことだ。黒黄玉ブラック・トパーズの救援の謝礼として三千万Zを払う。但し、リーダーであるレッドの生存が絶対条件で、それを達成出来なきゃ減額だ」

 ああ、そうだ。金だよ。金。ま、減額は仕方ないね。特急ガイド料金は対象を生きて迷宮の外に連れ出すのが大原則だからな。ヴィルハイマーは「引き受けてくれるなら前金だ」と言って金貨を十五枚、テーブルの上に重ねる。豪気だね。

 しかし、前々からこの二チームは距離が近いと思っていたが……同じ事やってやがったのか。最近は周囲を憚ることなく協調体制をアピールしてたりもするし、本当はかなり前から仲間なんかね? それでもポンと大金を出すのはおかしな気もするけど、まぁいいや。

「いいでしょう。ミヅチ、グィネ、ズールー、ギベルティ、カーム……ふん、酒は飲んでいないようだし、ジンジャー、ミース、ジェル、ロリック。すぐに宿に戻って迷宮に行く用意をしろ。救出報酬の五()を出す。一時間後に入口に集合だ。ああ、ミヅチはこのまま俺と一緒に居てくれ。すまんがエンゲラ、ヘンリー、メックはグィネと一緒にボイル亭まで行って俺とミヅチの装備も持って来てくれ。行け」

 ギベルティは皿に盛られている料理を吟味し始めた。ギベルティの部屋に余っている食料は一日分というところだし、持って行けるなら持っていくつもりなんだろう。そうじゃなきゃサバイバルキットの非常食に手を付けるハメになってしまう。乾パンはまだ出来ていないのだ。

 ベルがトリスと一緒にムローワのおっさんにバルドゥッキーの在庫を寄越せと交渉を始めた。ギベルティ以外の俺に名を呼ばれた全員はとっくに外に走り出している。

「では、聞かせて頂きましょうか。楡の木亭でもいいですよ」

 酒を飲んで少し悔しそうな顔をしている残りのメンツを置いてムローワを出た。



・・・・・・・・・



 楡の木亭のヴィルハイマーの部屋に通された俺とミヅチはちょっと意外な話を聞いた。

「あまり知られていないがレッドは国王の庶子だ。国王が今のお前さんよりもっと若い……同い年くらいの頃か、騎士団の従士の時分に仕込んだ最初の子供だよ。結婚前だから外聞を憚って公開はされていない」

「公開されていない庶子とは言え、最初の娘だけあって成人と同時に第二騎士団にも入れてやったらしいが、正騎士の叙任を受ける段になる時まで彼女はそのことを知らなかったそうだ」

「当時は若くて反発心もあったんだろうな。親の七光りで身贔屓されている事を感じたんだろう。それで叙任寸前に騎士団を飛び出して、昔から実家に仕えていた従士の子弟を引き連れて冒険者になったんだ。勿体ねぇ」

「一時期は俺と一緒に迷宮に入ったこともある。奴が馴染みの従士連中を呼び寄せるまでの間、緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドに所属してたんだ。一年くらいだけどな」

「おかげで俺様も覚えめでたく国王の犬になれたって訳だからあまり偉そうな事も言えんのだがな」

「別に喧嘩した訳じゃない。奴は奴で独立したかっただけだ」

「騎士団を飛び出して暫くは国王や実家とも折り合いが悪かったようだが、仲直りしたんだろう。何年も前からまた繋がりはあるようだ」

「この話は絶対に漏らさないでくれ。知ってるのは僅かな人数だけだ。お前さんもわざわざ国王の不興は買いたくないだろう? 俺も彼女を放っておいて見殺しにして不興を買いたくはない。何とかして助けたい。その為なら何でもする。幾らだって頭も下げるさ。頼む。救出に行ってくれ。たとえ間に合わなくても魔石だけは回収したい」

 聞くだけ聞き、時間に追われていることでもあるので早々に退散した。彼らも彼らで迷宮に行くらしいしな。後でミヅチにも嘘じゃなさそうであることは確認した。なお、俺の情報については二年ほど前に国王からの依頼があり、何か動きのあるたびに報告をしていたらしいが、予想通り大した内容じゃなかった。

 ミヅチと二人、楡の木亭から入口広場へと向かう十分弱の間に少し話をした。

「なぁ、なんでお前、あいつのこと気に入ってるんだ?」
「え? 気に入ってるように見える?」
「ああ。三日前に黒黄玉ブラック・トパーズがモン部屋に入った時も援護に行くのが嬉しそうだったじゃないか」
「……まぁ、嫌いじゃないのは確か」

 “嫌いじゃない”と“気に入っている”とか“好き”ってのとは天地の開きがあると思うんだけどな。あの時お前、笑ってたじゃないか。

「ちょっと昔の私を見てる気がしてたの……三十過ぎて独身だしね」

 なんじゃそら。同病相憐むって奴か? 俺は少々妙な顔つきになったらしい。ミヅチは昔の自分と重ねてしまっていたようだ。だけど、三十過ぎて独身なんて貴族には掃いて捨てるほど居る。新たな貴族としての自分の家を興せないのであれば結婚前の準爵のままで居る方が税金がかからないので生活自体は楽だからだ。外聞は悪いけどね。

 俺だって今、どっかの貴族家の当主(若しくは将来当主なるのが内定しているような人)以外と結婚すれば階級は平民(俺が当主であれば普通は名ばかりのグリード家当主だし、相手が当主であれば相応の階級となる)となって贅沢税以外に一割税を払わなくてはいけなくなる。姉ちゃんだって結婚に失敗した以上、第一騎士団で中隊長を目指しているはずだ。正騎士の時点で国王が当主であるロンベルト公爵家の従士という名実の伴った平民は確定だが、中隊長になれば本人が士爵になれるからな。

「おい、あんまバカにすんな。お前がどう思おうが勝手に同情しようが好きにすりゃいいけどな」
「そんな! 馬鹿になんかしてないよ」
「ならいいけど」
「姫騎士レッドか……ちょっととうが立ち過ぎ……フヒ」
「は? なんだ? 羨ましいのか?」

 お姫様に憧れてたのか? こいつもいい年だとは言え、今は若いしなぁ。女ってそういうもんなのかも知れないな。

「ふん……お姫様ね。憧れるのか? お姫様は無理だけど、もう少し良い思いは……」
「ちっ、違うよ! 別に憧れてなんか!」

 なんだよ、赤くなりやがって。
 お姫様になりたいとかちょっと可愛いじゃねぇか。

 入口広場には殺戮者スローターズだけでなく、緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドも居た。俺とミヅチは再び昼まで着ていたゴムプロテクターを身に付ける。

「いいか、強行軍だ。十㎞以下の場所に転移するまで繰り返す。あと、歩かねぇぞ。途中で出てくる魔物は基本的に全て俺とミヅチ、ズールーに任せろ。他の皆はギベルティと各自の身を守ることに専念しろ。それから、部屋の主も含めて魔石は採らない。時間が勿体無いからな。転移運にもよるが目標は各層突破に一時間だ。休憩は各層の転移水晶の間で三十分。明日の朝までに七層に行くぞ!」

 ミヅチとズールー以外の全員が絶句した。グィネとギベルティもだ。

「おい、なんだそのつらは? 何のためのランニングだ? 各層のコースなんざ長くても十㎞だと言ったろ? ランニングの時は二十㎞は走ってるじゃないか」

 腰に手を当てて見回した。グィネはともかく、ギベルティにはきついだろうな。

「よし、行くぞ!」
「「「「応ッ!!」」」」

 いい返事だ。
 三層、いや、四層までは引っ張ってやる。
 そのあたりでもう一度考えるか。
 ミヅチは置いて俺と、ズールーが担ぐグィネで先行するのも一つの手だろうな。



・・・・・・・・・



「よし、五十一分。三十分休憩」

 一層の転移水晶の間では休憩しているパーティーも居たが、みっともないのを承知で全員大きく息を吐いて隅に寝っ転がった。踏破距離はおよそ八㎞。今の時刻は二十一時二十分くらいだ。

 文字通りモンスターは全て無視するか蹴散らして強引に突破してきた。通路の奥にモンスターを鑑定の視力で発見し次第、俺とミヅチでダッシュして(勿論、間に罠がない場合だ)片付けていた。氷なんか使わなくても一層や二層まではなんとかなる。

 三層あたりから通路のモンスターはともかく、部屋の主を相手取るには氷漬けも……攻撃魔術でなんとかなるか。



・・・・・・・・・



7446年9月10日

 時刻は零時半。日付も変わった。

 三層の水晶棒までを四時間ほどで抜けてきたことに、皆は興奮を隠せないようだ。
 なお、ギベルティがダウンしたのでズールーと俺で交互に担いだ。おかげでギベルティはかなり回復が見られた。
 だが……。

「ミース、行けるか? 無理なようならここで「行けるわ! 大丈夫」

 そうか。
 なら、休憩したら行くか。
 彼女の様子を見ていたのか、ジェルやロリックも気力を奮い起こしている。

 ……。

 …………。

 そして夜が明けた午前五時半。
 五層の転移の水晶棒に辿り着いた。
 流石に、四層、五層ともなると駆け抜けるというのも辛くなってくる。
 ゾンビなんかが隠れている隠し扉なんかは一気に駆け抜けたが、普段は早足程度だ。

「あの氷、とんでもないわね」

 カームが溜息を吐いて言う。

「なんだよありゃ! すげーな!」

 ジェルも疲れは見せているが興奮を隠せない様子だ。無理もない。祭壇の部屋で召喚されてきたモンスター、シルヴァンウルフ八匹の足止めの為に五レベル相当の氷を二倍くらいの量で出したのだ。

「キュアーオールが使えるならあの程度……」

 苦笑いを浮かべて言った。流石の俺もかなり疲れがある。魔力を大量に使った風を装うのも演技なんか必要ない。

「もうそろそろ魔力は大事にね。いい加減厳しいでしょ?」

 ミースはかなり苦しそうだ。革鎧すら脱がずに寝床に倒れ込みながら言った。しかし、もうひと頑張り、という気持ちは顔に現れている。

「ふっ、あの程度、楽勝だって言ったろ? 大丈夫だ」

 ヘルメットを脱ぎ、プロテクターを外しながら言った。
 次は六層なので順番にシャワーを浴び、三時間程休むことにしたのだ。
 最初は疲れの激しいグィネにシャワーを浴びさせ、可能な限り連続して寝て貰うようにしている。
 次がジェル、カーム、ズールー、ミヅチ、俺、ジンジャー、ギベルティ、ロリック、ミースの順だ。

「しっかし……大したもんだ……」
「ああ、これ程とはね……私たち、殆ど役に立ってなかった」
「私も……結局数える程しか槍使ってないわ……」
「追いついた頃には戦闘終わってるしね……」

 ジンジャーとカームがぼやく。
 ロリックはと言えば、疲労の為か始終無言でいてさっきまでがぶがぶと水を飲んでいたと思ったらもう鼾を立てている。

 そうそう、追いつけないうちは殺戮者スローターズの一軍は無理だよ。
 頑張ってくれ。

アンダーセン子爵家は王国北部のあまり裕福でない小領の領主ですがエルフです。
レッド・アンダーセンの母親は当時第一騎士団の輜重部隊に所属していました。
国王は種族が違うので子供は出来ないと言いくるめて行為に及びました。
母親の方も、ま、いっか、とつい遊んでしまいました。
二人は若かったのです。

しかし、なんということでしょう!
運命のイタズラか、二人の愛(欲)は実を結んでしまったのです!
国王である父親の血を引いているので子供は普人族として誕生しました。
耳紋もしっかりと遺伝していますので言い逃れは不可能です。
ですが、子供の出来難い別種族の女を娶るのはロンベルト王国の次期国王として許されることではありません。
第二とか第三夫人であればなんとでもなりますが、当時彼は一介の第一騎士団の従士であり、当然結婚なんかしていませんし、一人前の騎士として叙任を受ける前でもありましたので早過ぎると言われました。
国王自身も別に愛情があって行為に及んだ訳でありません。
母親の方も同様です。

そこで、金で解決しました。
実家のアンダーセン子爵家もこれには大喜びです。
毎年、かなりの額の養育費が入ってくるのですから。
取り敢えず生まれた子は当時の子爵家の当主の子として命名されました。
母親とは姉妹という関係になってます。
当然、実家での居心地は良い訳ありません。
とは言え、王子(当時)の血を引いていることは確かなのでそれなりの教育も受けさせ、王国第二騎士団に放り込まれました。

勿論、国王にとっても本来は長子です。
その時には即位していますので強権発動です。
あんまり無碍に扱うのも気が引けるというものでしょう。
その後、レッドは頑張って正騎士として叙任を受ける直前まで行きます。
入団自体は裏口みたいなもんですが、その後は実力です。
でも、叙任の直前、国王本人から「いやぁ、流石俺様の娘」とか聞いちゃいます。

?って感じですがよくよく話を聞いてみると……うわぁぁん、私の実力じゃなかった(実力なのは本当)! 家族はエルフなのに私だけヒューム! おかしいと思ってた! 養子だと聞いてたけど、養子ですらなかった! すっげー年の離れた姉ちゃんだと思ってたのがオカン(オカンは適当な下部の男爵家かなんかに嫁いでのうのうとやってる)だったなんて! 戦争で両親が亡くなった忠義の厚い従士の忘れ形見って話(子爵家の人々はそう口裏を合わせていた)はどこ行ったんだよ、クソが!
辞めてやる……ああ、辞めてやる。辞めてやる!! あんな無責任なおっさんの七光とか最悪だ!
グレて冒険者やっちゃうもんね!

ってところです。
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