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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百九十四話 黒黄玉3

7446年9月8日

 ん?

 ズールーとエンゲラが倒れたマッドトレントに手こずっているようだ。
 さもありなん。樹木だしな。そうだよな?
 こりゃ迂闊だった。
 ナイフや剣で切り開くなんて無理だろ。

「ゼノム、ラルファ。魔石採るの手伝ってやってくれないか?」

「ん? ああ、そうだな」
「わかった」

 その間ミヅチ先生の講義が続く。

『いろんなゲームで言われてるけどトレントは大別して三種類。元々は単純に精霊かそれに近いもの。木の精とか、日本的に言うなら木霊や付喪神みたいなもので、普通は良い感じに手助けしてくれるような存在が多いね。次は、トールキンの有名な小説に出てきたエントという種族で、当然雌雄の区別もあるよ。さっき言った木の精なんかの世界中に残る伝承を元にして作ったのかも知れないね。次も同一と言ってもいいけど、それが何らかの理由で凶暴化したもので、大抵のゲームだのなんだので敵として、モンスターとして出て来るのがこれ』

 ほうほう。トリスやベル、グィネ、バストラルもふんふんと頷きながら聞いている。

『今回はその中でも最悪の三番目のタイプね。地下迷宮、ダンジョンに居たんだし。そう判断していいでしょ。でも、結構ラッキーだよ。トレントから取れる木材は魔法的な物が多くて弓や盾に加工すると……結構焦がしちゃったね……』

 あ……そ、そんな目で見るなよ。
 知らなかったし。
 ほら、お前以外全員仕方ないって顔してるじゃんか。

 そもそもモンスターの装備ならともかく、体を何かの素材にするなんて思い付かねぇだろ?
 毛皮とかでっかい牙とかなら解らんでもないが。
 え? 言ったことある?
 聞いてたっけ?
 あ、薬の材料とかは聞いてたな。

 あ、でもさ、お焦げは美味いじゃんか。
 関係ない?
 あ、そう。

 ごめん。

 ふと気が付くとゼノムたちが倒れたトレントの傍で何やらひそひそと小声で話している。こっちの話が一段落したことに気付いたようだ。

「あの……奥様、この魔物の魔石は一体……?」
「ミヅチ、こいつの魔石はどの辺りにあるんだ?」

 ズールーとゼノムがミヅチに尋ねた。
 尋ねられたミヅチも難しい顔をしている。判らないのだろう。
 そりゃそうか。
 樹だしなぁ。

 結局、胸っぽい場所に斧を打ち込んで見たりした。
 硬くてなかなか刃が通らないため鋸を欲された。

 試しにゼノムの斧で切り落とし、枝打ちをした右腕(?)のステータスは【トレント材】であり、【鑑定】だとやはりミヅチの言う通りなかなかに貴重なもののようだ。

 仕方ないので使えそうにない頭の上に多く生えている細い枝くらいは枝打ちして捨て、木材である死体ごと八層の転位水晶の間まで運び、魔石はそこでゆっくりと採ることにした。しかし、こいつを運ぶのには非常に骨が折れた。

 ロープを掛けて交代で引き摺って元来た転移水晶まで戻った時(恐らく六~七㎞もの距離を引き摺っていた)には真夜中を過ぎており、ある程度休憩を取りながら移動していたにもかかわらず、全員がヘトヘトだった。

 しかし、トリスが「ロープはこの部分にかけて下さい。重心はここです」と複数のロープを掛ける場所について指示してくれたことは非常に助かった。トレントの木材はどうやら場所によって密度が異なるようで、皆が予想していた重心とはえらく外れた場所であったのだ。

 そもそも木材とは言ってもちゃんと処理する前の木の段階であるから幾何学的な綺麗な形をしていない。たとえ密度がそう変わらなくても俺たちの目分量なんか大して当てにならなかったと思う。

 地味~に役に立つな、【秤】は。そう思って他に使えないかもう一回見てみようとトリスの【秤】を鑑定したら、

【固有技能:秤;技能使用後一分間以内に意識中で選択した二つの対象の比較を可能に…………分割は意識を集中し、他から邪魔が入らず作業を継続する限り永遠である。MAXレベルの拡張能力は生物に対しても能力が使用可能になることであるが、衣服や装備品は別の対象として処理されることに留意せよ】

 とあった。
 いつから表記が追加されていたんだろう?

 そんなことより、これって、モンスターや人なんかに使えば重心点が解るのかね?
 ベルの重心が見れるということか。

 重い金属を使った鎧なんかだと重心点はズレるだろうけど、皮鎧程度ならそう大きく変わらないだろう。
 柔道や合気道なんかやらせると空気投げとか出来るのかしらん?
 今度の訓練の時にでも徒手格闘やらせてみよっかな?

 ところで、俺とズールー、ベル、グィネが引っ張っていた途中、疲れたラルファが木に座ろうとしていた所を憤激したゼノムにケツを蹴り飛ばされていた。ざまぁ。



・・・・・・・・・



7446年9月9日

 ギベルティが作っていてくれたカーフ(ポトフのような野菜と豚肉の煮込み料理。勿論バルドゥッキー入り)は適度に塩が利いていて殊の外旨く感じられて疲れた体に染み渡り、若い俺達はつい多めに食べてしまう。どうせ今日は地上には戻らずにあのでっかいトレントから魔石を採って過ごすのだ。ベーコンと卵を追加で焼いて貰い、それも綺麗に平らげた。

 面倒臭かったのでミノタウロスは放って置きたかったが、やはりトイレは外で済ませたい。
 明るい開放的な場所でシャワーも浴びたいよね。
 ミヅチとベルが後頭部に蜂の巣のように矢を撃ち込んであっという間に片付けていた。

 ミノタウロスは最近ではもう腰巻きくらいしか身に付けていない。
 最初に持っていた素晴らしい斧もどんどん劣化していき、十匹くらい前に倒した奴からは石器時代の斧みたいな粗末な武器しか持っていない。
 なんだか少し可哀想な気がしないでもない。

 ズールーとエンゲラは文句一つ言う事なくミノタウロスの死体から魔石を採り、引き摺って柱の裏の死体置き場に捨てに行った。体感温度十五℃くらいの気温のせいかどうかは知らないが、大体五日くらいで肉は腐り始め、一月もかからずに白骨化する。白骨になると年単位で残るようだ。柱の裏には既に三十を超える数のミノタウロスの死体や白骨が転がっている。

 俺はざっとシャワーを浴びるとすぐに寝てしまった。

 翌朝は少しゆっくりとしたかったが、それでも七時頃には全員起き、部屋の隅に放ってあったトレントを取り囲む。

 悲しそうな顔をするギベルティ愛用の鉄鍋をトランスミュート・ロック・トゥ・マッドの魔術を使い、氷で作った器の中で泥状にして鼻血を流しながら鋸を作った。オースで流通している鋸(適当に整形された鋳鉄を叩き伸ばし、ヤスリで刃を付けただけ)より余程高性能な奴が出来たが、ギベルティの顔を見るとなんだか微妙な気持ちになる。

 鉄材としては柄も付いていることだし、ズールーの両手剣バスタードソードを潰した方が純度も高いうえ、高品質だろうから多くの材料を取れる筈なのでノミや金槌も作れたかも知れない。そうしても良かったが、剣は高価だ。百万Z以上の品を潰して鋸作るのも憚られたのだ。

 鋸を作ったものの、魔石を傷つけたらまずいのでなかなか思い切って挽けない。大胆に行くところはゼノムの斧も使って丁寧に解体するしかなかった。

 なんとか魔石を採り出した時には既に昼過ぎになっていた。

 ああ、結局顔の額の裏にあったよ。
 お陰で結構な量の木材が単なる貴重なゴミと化してしまった。

 魔石の価値は二百五十万に少し足りないくらい。順当に売れれば千七百万Zくらいだが、もう少し高目の評価を期待してもバチは当たらんだろう。大きさはオーガの物より一回り大きいくらいだが、色合いが違う。かなり白に近い。

 疲れたので木材はまた今度にすることにして地上へと戻った。

 地上へ向かう階段を登りながらトレントから入手した魔石を取り出して握った。居るかどうかわからないけど、チャーチさんに自慢でもしてやろうと思ったのだ。

 残念ながらチャーチさんは居なかったが、バルドゥック騎士団の若手の男に戦果の報告がてら自慢して我慢した。立派な魔石を見た騎士団員の瞳は羨ましそうに見開かれたが、丁寧に祝辞を述べると情報をくれた。

「今日の午前中に戻った煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)も立派な魔石を持ち帰っていましたね。それより少し小さかったですが、優るとも劣らない色合いでした。何でも三層の部屋に居たフレッシュゴーレムとかいう魔物から手に入れたらしいですよ。大怪我をしたメンバーも居たらしいですが、殺戮者スローターズといい、煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)といい、トップチームは流石ですね」

 おお! あいつらもフレッシュゴーレムと当たったんか!?
 まぁ、奴らには手練が何人も居るから勝てたのだろう。
 俺の時幾らくらいになったんだっけな?
 四百万~五百万くらいだったような。
 十四層に叩き落とされた後で換金したから印象薄いな。

「ああ、そう言えば、まだ戻らないパーティーも居るみたいですね」

 へぇ。でもそんなの毎月のように出てるから珍しくもない。ま、一応どこの奴らか聞いておくか。そう思ってどこの間抜けがドジこいたのか聞こうとした時だ。

 俺たちに近寄ってきた人影が一人。緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド山人族ドワーフ、レンバル(レンバル・フレイムシャフト)である。

黒黄玉ブラック・トパーズを知らないか?」

 知らない訳無いだろ。
 ……そういう意味じゃないのは顔を見りゃ判る。

「どうしたんです? 一昨日? ああ、先一昨日くらいに七層で会いましたが……」

 それを聞いたレンバルはじろりと俺を睨むと「まだ迷宮から戻っておらん。予定なら遅くても昨日戻るはずだった。まさかとは思うが……」とか言って来やがんの。

 あいつら、戻ってねぇのか。一人死んだうえ、怪我人も居たし、地図を作りながら、確認しながらの移動だと動きは遅いだろう。オーガと出会って休憩してたりしたら結構時間も掛かるんじゃないか? トップチームが二~三日戻らないことなんかちょこちょこあるしな。他のチームは迷宮内で野営だってするらしいからね。

「人聞きの悪い冗談は止して下さい。我々は窮地に陥った彼らに援護を行って救援したくらいですよ?」

 少し憤慨した声で言った。当然だよね。

「ああ、そうなのか……すまん。気が立っていてな……悪かった。だが、そうか。知らんのならいい。疲れてるとこ邪魔して申し訳なかったな」

 レンバルはそう言うとぷいっと俺達から離れ、入り口広場の隅に歩いていく。彼の向かった先には木陰に椅子が置いてあり、どうやらそこが定位置のようだ。いつか見たヴィルハイマーの奴隷、ゾフィーに何か喋ると彼女はすぐに走っていった。行き先は楡の木亭かな?

 大物であるトレントの魔石以外をさくっと換金した後宿に戻り、暫くゆっくりしていると緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドから使いが来た。多分そうじゃねぇかという気がして外には行かなかったんだ。

「グリード君。すまんがウチの大将ロベルトが話をしたがってる。もし、今夜時間があるならドルレオンに来て貰えないだろうか? 他に何人か増えても構わない。また、そちらが出向くのが億劫であれば場所と時間を指定してくれればこちらから行く」

 バース(バースライト・ケルテイン)さんよ、相変わらず大変だね。
 ドルレオンの料理は非常に魅力的だが、ちょっと疲れてるから重いのは勘弁だ。
 本当はそうめんでも食いたいところなんだよ。
 暑いしさ。

「十八時、ムローワでいいですか?」

「分かった。こちらは俺と二人で行くことになると思う」

「分かりました」

 帰っていくバースの背を見ながらちょっと思った。緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズが協力関係にあるのはいい。俺たちへの対抗の意味が多分に含まれてもいるのだろうし。だが、あの心配っぷりはどうなのよ?

 俺は黒黄玉ブラック・トパーズがあのままモンスターの餌食になっているとは思えない。そりゃオーガは強いけど、彼らだって七層に転移して何日掛けたのかは知らんが碌な損害も出さずにモン部屋まで辿りつけているのだ。そう簡単にやられはしないと思う。

 まして、メンバーのうちの一人を失ったばかりだ。普段以上に警戒し、慎重に進んでいるだけじゃないか? 冷静に考えれば黒黄玉ブラック・トパーズが七層に行ったのだって二回か三回くらいじゃねぇの? モン部屋に突っ込んでいった理由だって気を抜いたんだか対抗心なんだかは知らないが、初心に戻ってちまちまと進んでいるだけだと思うぞ。

 アンダーセンの姐ちゃんなら出来るだろうし、出来ないのであればとっくの昔にモンスターに殺されて魔石だけになって排泄でもされてるはずだ。

 正直なところやっぱりバルドゥックの街でトップに君臨するパーティーとして相応の実力は備えていると思う。それが迷宮から戻るのが二~三日遅れる程度で大騒ぎすんなよ。極論を言えば今回俺たち殺戮者スローターズだってトレントを倒した時に全員に持たせているサバイバルキットに充分なロープが無かったらあの場でズールーの両手剣バスタードソードを鋸にして解体していたはずだ。

 モン部屋の主を倒した直後だから暫くはそちらについて気にしないで良さそうだとは言え、周囲の警戒やなんやで人手は取られていただろうし、戻るのは相当遅くなってたはずだ。トレントを倒していたのが今日だとしたらやっぱり予定よりは二~三日は余計に掛かっていたと思う。

 木材と化したトレントを一人で持ち運べる分量にまで解体し、重い荷物を運んでちまちまと転位水晶まで何往復もしたことだろう。

 夕方になって虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズも迷宮から戻ってきた。丁度いいので彼らにも今日はムローワで食事をするように言い、ロリックの戦闘奴隷のデンダーに店を押さえに走らせた。

 へへ、ヴィルハイマーのおっさんよ。

 今夜は三十人近くで囲んでやるぜ。
 洗いざらい喋って貰うぞ。

 ま、どうせ大したこた無いんだろうけどさ。

 たまにはヴィルハイマーのおっさんのびびった顔を肴に酒を飲んでやりたいじゃないの。

 
申し訳ありませんが来週から暫くの間、本業で出張が多く、更新が不定期になると思います。
出来るだけ安定的な更新を心掛けますが、致し方ない事もありますのでご容赦下さい。
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