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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百九十二話 黒黄玉2

7446年9月6日

 七層のオーガメイジが巣喰う部屋の手前のちょっとした岩場で休憩を取り始めた俺たちは、森の中に消えていった黒黄玉ブラック・トパーズの背を揃って見ていた。

 長くても十五分ってところだろうか。
 何が? って、勿論黒黄玉(ブラック・トパーズ)による戦闘開始までだ。

 オーガメイジの気配察知能力は視界の良くない森の中でも百mもの距離に達する。部屋の直径は大体五百mなので、中心あたりに居ると思われるオーガメイジの集団は、敵対者が部屋の外周から百五十m程中心部に進んだあたりで気付く。

 この森の中を初見で進む場合、分速十mくらいじゃないかなって思ったのだ。

 僅かに進んでは草木に身を隠して周囲を窺い安全を確認する。当然、最初から一直線に中心を目指すなんてこともしないのではないだろうか。彼らも部屋に入ってすぐに散開したようだし。だから、中心へ向かう速度は分速十m。そんなもんだろ。

 このオーガメイジの部屋はこのバルドゥックの迷宮奥深くに進むに当たって確かに大きな壁だ。でも最近では俺たちも痺れ薬や氷漬けを使わないでもある程度余裕を持って処理出来るようにもなっているし、七層まで自力で来れるなら全滅はないだろ。あるかな?

 厳しくなったら、又は厳しそうだと踏んだらアンダーセンは確実に俺たちに声を掛けて来ると思う。その辺、最終的には自分のプライドより仲間を取るタイプに思える。だが、勿論冒険者らしく意地の張り時というのも心得ている。以前、五層で見たフロストリザードとの戦闘なんか、思いっ切り意地張ってやがった。まぁフロストリザードについてはその能力について大体のことは知られていたようだし、最終的には勝てると踏んだのだろうが。

 ヴィルハイマーのおっさんなら違うと思う。あのおっさん、無理出来るところと出来ないところの見極めが凄いからな。メンバーも軒並みベテランで固めているし、いつか六層だかで出会った時も結局援護は無くても何とかなってた。俺から回復薬を買ったのも保険以外の何者でもないだろう。

 あのおっさんならこういう時、絶対に俺に先を譲る。その後、俺たちの倒したモンスターの死体を詳細に調べるのだ。地面に残る足跡やその向きなんかも調べると思う。最初にどういう布陣で部屋に居るのか、歩幅の間隔は通路で出会うオーガと同じ程度なのか、死体のどこかに変わったところ、何か気付くところはないか、徹底的に調べ上げる。

 そして、地上に戻ったら相手の攻撃バリエーションを可能な限り想定し、対応策を訓練する。昔何度か緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドの訓練を盗み見たことがあるが、あの内容は絶対にこれだ。一見無駄に見えるところもあったので初めて見たときは気付かなかった。

 しかし、気付いてからは俺としてもかなり参考になったので殺戮者スローターズの訓練に取り入れた部分は多い。

 正直、根拠は訓練風景だけしか無いが、俺には何故だか確信がある。



・・・・・・・・・



 そろそろ十分程が経つ。
 黒黄玉ブラック・トパーズは百m程は前進しているだろうか。
 生命感知ディテクト・ライフの魔術を使って確認してみた。

 うん、やっぱりその程度だ。
 部屋の中心部に居ると思われるオーガメイジやオーガの集団は距離が遠くて感知出来ない。
 黒黄玉ブラック・トパーズ二列横隊ダブル・エシュロンを組んでいるようだ。

 皆はとっくにお茶を飲み終えている。
 ちらちらと森の方を窺い、どことなくそわそわしているようだ。
 ミヅチはともかく、そろそろラルファやベルの生命感知ディテクト・ライフの感知範囲から出そうだしね。

 まぁ、あのアンダーセンの姐ちゃんはどこか人に好かれる要素があるのは確かだろう。
 面倒見いいしな。
 それに、緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのバースと言い、この黒黄玉ブラック・トパーズのカークと言い、サブリーダーは苦労人っぽくて嫌いになれない。
 しょうがねぇな。

「おい、そろそろ戦闘準備だ」

 そう言いながら銃剣の状態を確認する。
 ギベルティはさっと荷物を担ぐと少し離れたいつもの岩陰に向かう。
 ズールーとエンゲラは無表情で立ち上がり、剣を抜いた。
 トリスとベルも準備を行い立ち上がり、同様にラルファも立ち上がって斧をくるくると回した。
 バストラルとグィネは槍の石突を地に突いて杖のように持っている。

 そしてミヅチは立ち上がると俺に向かって微笑んだ。

 皆が俺に注目している。

 期待すんな。まだ行かねぇよ。

半包囲弐番ハーフ・シージ・ツー。ミヅチの合図で武器使用自由ウェポンズ・オール・フリー。ミヅチ、ベル、トリス、ラルファ、グィネ、バストラル。オーガを見たら問答無用で構わんから弓でも魔法でも好きなものをぶち込め。あ、ファイアーボールは危ないからダメだ。一匹づつ当てられるのにしとけ。ズールーとエンゲラは俺と一緒に右翼からだ。散れ(スプレッド)

 ミヅチが何一つ音も立てず凄い勢いで森に飛び込んで行く。
 それを皮切りにラルファ、トリス、ベルが入口から左に。
 グィネとバストラルが槍を低く構えてミヅチの後を追って正面から。
 ズールーとエンゲラは俺と一緒に入口から右へ。

 北側のオーガメイジの部屋は南側の部屋同様に深い森になっているが、潅木の茂みは殆どない替わりに高さ五十㎝~一mくらいの下草が所々に生えている。
 身を隠すには丁度良いし、たとえ乗り越えても潅木の茂みよりは立てる音は小さい。

 ズールーとエンゲラを背後に従え、出来るだけ静かに部屋の壁に沿って百m程を駆けた。
 少し意識するだけで頭の中にはミヅチの【部隊編成パーティーゼーション】から皆の居場所についての情報が流れてくる。

 エンゲラはゴムプロテクターを着用しているので俺の後ろ二十m程で俺同様あまり音を立てずに俺の後を追っている。
 ズールーはもっと遅れており、更にその後ろ四十mをそろそろと近づいているようだ。
 金属帯鎧バンデッドメイルだからな。

 他の皆もそれぞれ散っているようだな。
 ミヅチが一番突出しているがそれでも壁から六十m程だ。
 最初の勢いはなんだったのか。
 彼女の左右斜め後ろには二十m程の間隔を置いてグィネとバストラルが居る。

 ラルファやトリス、ベルもそれぞれの速度で壁沿いに散らばっているようだ。
 まだ移動を続けている。

 ここはミヅチからの合図があるまでは壁沿いの移動に専念するところだ。
 包囲するには出来るだけ散らばっていた方が都合が良いからね。



・・・・・・・・・



 暫くして全員散らばったのが解る。

“前進せよ”

 ミヅチから頭の中に命令が来た。
 “突撃せよ”とかではないので単に距離を詰めておけというだけだろう。
 皆も同じ理解のようで、ゆっくりと中心部に向けて動き始めたのが解った。

 必ずしも黒黄玉ブラック・トパーズが壊滅に追い込まれるとは限らない。
 特に危なげなく戦えているようであれば手出しする必要はないのだ。
 彼らの対魔法戦闘を観戦できればそれでいい。

 銃剣を構えながらゆっくりと前進する。
 あの下草は深そうだ。
 音を立ててもつまらんし、迂回すべきだろう。

 そろそろと進み、全員が壁から百m程離れた。
 黒黄玉ブラック・トパーズの連中はもうそろそろオーガメイジの警戒網に引っ掛かるはずだ。

 俺たちも途端に移動速度が落ちる。
 木々の隙間を窺うとちらっとだがオーガだかオーガメイジだかの背中が見えた気がした。
 反射的に動きを止め、ゆっくりと身を低くする。
 黒黄玉ブラック・トパーズや他の殺戮者スローターズは木や下草が邪魔になって見えなかった。

 じりじりと中心部目指して近づく。
 ラルファは既に百二十mも壁から離れているようだ。
 いや、【部隊編成パーティーゼーション】にも誤差があるから分かんねぇけど。

 黒黄玉ブラック・トパーズはどうか?
 そう思った時だ。

「ゲビョッ! グギャボッ!」

 オーガメイジの物らしい叱咤するような声が小さく聞こえた。
 始まるな。

「……!」

 黒黄玉ブラック・トパーズも何か言っているようだが距離があって内容までは聞き取れない。
 気付かれた事に気付いたのだろう。
 当面は高みの見物と洒落込みたかったが、場所が悪い。
 ここじゃ何にも見えないだろう。

 そっと近付いて行った。



・・・・・・・・・



 ふと気が付くと少し離れたところにエンゲラが居るのが見えた。
 俺との距離は三十m程度だろう。
 彼女の方でも俺の姿を視認したようでお互い目が合う。

 一つ頷いてやり、またゆっくりと前進を続けようとした。

“突撃せよ”

 ほう、何か動きがあったようだな。
 しかも俺たちが手を出すべき何かが。
 ニヤリと笑みが浮かぶのを意識しながらも全力疾走に移る。
 同時に生命感知ディテクト・ライフの魔術も使ってみる。

 ひのふのやの……オーガは全部で十二匹か。
 大盛りだな。
 うち五匹は最低でもオーガメイジが混じっていると思った方が良い。
 場合によっては七匹位居ても不思議じゃない。

「くっそぉぉぉぉっ!」
「ロットの仇ぃぃぃっ!」

 ありゃ、もう死んだ奴が居んのか。
 あっけねぇな。

 見えた。
 四十~五十m程先だ。

 走りながら左手を突き出しフレイムアーバレストミサイルを放つ。
 オーガの群れの後方に居て精神集中を行っているオーガメイジらしき奴の一匹が目標だ。

 そいつの側頭部に俺の炎の槍(フレイムアーバレスト)がぶち当たり、見事に即死させた。
 殆ど同時にあちこちからフレイムアローやジャベリン、ストーンボルトなんかが飛んで来て後衛に居たオーガメイジの精神集中を乱した。
 皆、きっちりと仕事をしているな。
 しかし、六匹居たらしいオーガメイジ全ての精神集中を乱すか殺しても前衛のオーガには何も手を出せていないのも事実。

 そして、こちらの攻撃魔術がオーガメイジに到達する前に何本か魔術弾頭がオーガメイジから放たれてしまった。

 これは仕方ない。

 オーガメイジから放たれてしまった魔術弾頭は合計四本。
 うち二本はカーク(カーク・ダンケル)の盾に弾かれてあらぬ方角へ飛び去った。

 皆、用心はしているだろうが流れ弾に当たるなよ。

 もう一本はこれもヴィックス(ヴィッケンス・バルケミー)の持つ盾に当たり貫通はしたものの、完全な貫通とまでは行かず、盾に突き刺さっただけだ。
 多分すぐ消えるだろ。アイスボルトっぽいし。

 最後の一本は槍を構えるゲイリー(ゲイリー・バグマイア)の頭部を狙ったものらしいが、彼はすんでの所で頭を傾けてやり過ごした。

 前衛のオーガと戦闘中にも拘わらずなかなかやるなぁ。

 意外でも何でもないが黒黄玉ブラック・トパーズは善戦していた。

 ロット(ロストール・ミルストロン)らしい倒れた奴を庇いながら前衛となっている六匹のオーガにそれなりに対抗している。
 幾らか傷も負わせているようだ。
 顔面にクロスボウボルトが突き立ったオーガが二匹。
 槍使い(アタッカー)の誰かの槍が足に刺さってそれなりに鈍っている奴が二匹。
 そして、斧による物らしい大きな傷を受けているのが一匹居るが、どのオーガも倒れるまでには至っていない。

 盾を構えたカークとヴィックスがある程度距離を置いて左右に広がって前に立ち、盾持ち(シールドホルダー)として防御に専念している。
 戦斧バトルアックス使いのバール(バルテイネス・ゾム)がその中心で踏ん張り、でかい戦斧を振るっている。
 彼らの後ろにはロール(ローレイル・ナルゾメリン)、ゲイリー、マリン(マリン・ルッキーマ)の槍使い(アタッカー)三人が槍衾を形成して前衛をカバーしたり隙あらばオーガを突こうと様子を窺いつつも激しい牽制を行っていた。

 リーダーのレッド・アンダーセンは既に放ったのだろうクロスボウ二つを足元に打ち捨て、フレイムジャベリンをオーガの顔面に命中させた。いい技倆うでだ。

 日光サン・レイより上だと言うのは正しいな。

「ロットを踏まれるっ! もっと左に寄って! マリンとロールは順に魔法で攻撃! 右からよ!」

 黒黄玉ブラック・トパーズのメンバーに指示しながらも俺たちの援護に気が付いたのだろう、アンダーセンはちらりと周囲を見回すと「感謝するっ!」と大声で叫び、再び攻撃魔術を使うべく精神集中を始めた。

 さて……。

 ありゃ。

「うりゃぁぁぁっ!」

 俺の反対側に近い位置から手斧トマホークを引っさげて鬨の声を上げたラルファが傷ついて悶えているオーガメイジの群れに突っ込んで行く。
 早い、早いよ。
 仕方ないのでもう一発フレイムアーバレストミサイルを中でもまだ元気そうな奴に叩き込み、追加で仕留める。オーガメイジはあと四匹。

 エンゲラが走り出している。
 その向こうの大柄な人影はズールーか。

 どちらもオーガメイジの方に向かっている。

 矢が飛来し、黒黄玉ブラック・トパーズが相手をするオーガの一匹の顔面に刺さった。

 またストーンジャベリンが飛んできてその隣のオーガの肩口にぶち当たる。
 それで怯んだオーガはカークの影に隠れたゲイリーの槍に胸を貫かれた。

 マリンがフレイムボルトを放ち、別の一匹に命中させ、それを確認した後だろうか、ロールがウインドカッターで更に別のオーガの首筋を切り裂いた。

 前衛のオーガは残り四匹か。

 そこにひょろひょろと白いボールのような物がアンダーセンの後ろから飛来し、オーガをも飛び越えてオーガメイジの集団まで届くと一匹に命中した。途端に白いボールは弾け、オーガメイジの全身を拘束するように包み込む。周囲に居たもう一匹も巻き込んだようだ。

 チャンスだな。

 蜘蛛の糸に包まれてオーガメイジ二匹が倒れたあたりにグロウススパイクの魔術。

 地から生えた直径十㎝、高さ一mもの石のスパイクに貫かれ、二匹のオーガメイジはあっという間に絶命した。オーガメイジは残り二匹。

 アンダーセンの両脇を通るようにグィネとバストラルが走り込み、残っているオーガの牽制に加わった。
 ラルファ、ズールー、エンゲラが傷付いたオーガメイジの集団に到着し暴れ始めた。

 もう大丈夫だろ。

 さぁて、何と言ってやろうかね?


 
黒黄玉ブラック・トパーズ名簿

 レッド・アンダーセン 女 ヒューム 歩兵用剣・弩・魔法
 カーク・ダンケル 男 ヒューム 長剣・盾・魔法
 ローレイル・ナルゾメリン 女 エルフ 槍・魔法
 ゲイリー・バグマイア 男 ヒューム 槍 
 マリン・ルッキーマ 女 ウルフワー 槍・魔法
 バルテイネス・ゾム 男 ライオス 戦斧
 ヴィッケンス・バルケミー 男 ドッグワー 戦棍・盾
 ロストール・ミルストロン 男 エルフ 長剣・盾・魔法

なお、来月からは本業で出張が多く、更新ペースが乱れると思います。
また、頂いたご感想は全て拝読させていただいております。
大変失礼なうえ、全部ではなく心苦しいのですが大抵のお返事は活動報告の方でさせていただいています。
たまに活動報告の方にも目を通していただけると幸いです。
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