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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第二十八話 見送り

 さて、連絡員つなぎの始末を決心した俺だったが、その方法については全くいいアイデアが浮かばない。殺すこと自体はいつでも出来るが、今はゴム小屋建設と厩舎の増築中だ。下手に始末すると当然騒ぎになる。前回のようにいついなくなっても不思議のない冒険者兼護衛ではないのだ。

 連絡員つなぎなどをやっているということは当然まともな人間ではないのだろうが、この工務店(?)で恒久的に雇っている人間か、臨時雇いかの判断もつかない。どちらにしろ請け負った作業中に失踪する可能性は低いだろうし、残された職人達の作業負担も増えるので捜索もされるだろう。

 いくら遺体を水に変えられると言っても何の理由もなく失踪した人間の捜索はバークッド村のレベルでもそれなりに徹底的に行われてしまうだろう。と、そこまで考えてやっと気づいた。誰も見ていない、もしくは見られていない環境で始末するから失踪扱いになるのだ。白昼堂々、事故に見せかけて殺すことは出来ないだろうか?

 何だか考え方が殺し屋のようになってきている。が、これはもう決めたことだ。前回の連絡員つなぎを処分したときに多少なりとも思うところはあったが、ミュンはまだまだ俺には必要な人間だ。いままで世話してもらい、寝るときを除いて一緒に暮らしてきた情もあるのだ。

 見ず知らずの人間、しかもデーバス王国に加担する連絡員などを生業としている奴とミュンだったら比較にすらならないし、とっくに腹は決まっている。これから俺が人生を賭けてやろうとしている事を考えたら別にどうと言う事はない。よし、事故に見せかけて処分しよう。失敗は許されない。一撃で処分できなければ事故に見せかけるチャンスは二度と無いと思うべきだ。外傷を付けて殺すのもまずい。屋根や梁の作業中に転落死させる方がいいだろうか。いや、屋根の高さは4~5mと言ったところだ。落ちたくらいでいきなり死ぬとしたらよほど運が悪くないと無理だ。

 だとするとどうするか? 水と地魔法を組み合わせて遅効性の毒を作るか? ふぐをイメージすればテトロドトキシンくらいは作れそうだ。だが、作ったとしてどうやって摂取させる? 食い物に混ぜ込むのは職人全員が同じスープを食べているから困難だしな。転落死+アルファでなにか出来ないだろうか……。



・・・・・・・・・



 こんなことばっかり考えていると心が荒んで来るな。出たとこ勝負を掛けるにしても不自然な点が多ければ問題だし……。ゴムの作成の監督的な仕事をしながらこんなことを考えていた。

 今はダイアンとミュンがゴム板からブーツ用のゴムベルトを切り出している作業中だ。その傍ではファーンが型にエボナイトの原料を注ぎ込んでいる。あの大きさはベルトの留め具になる部分の型だろう。四角いリング状の小さな型に手桶から慎重にエボナイトの原料を注いでいる。

 テイラーとエンベルトはミルーがすでに混ぜ込んだ木炭と硫黄の入った硬質ゴムの素の桶を撹拌している。アルノルトはミルーと一緒にブーツの底の形に切り抜いたシートを貼り合わせてソールを作っているようだ。作業は順調だ。手持ち無沙汰は俺だけのようだ。ちょっと気分転換に実験でもするか。

 母屋の作業場に使っている倉庫に移動して地魔法で土を作り出す。レベル3程度の地魔法を使ってバケツ一杯分くらいの量を作り出す傍から無魔法を使って土にふるいをかけるように土くれを選別していく。何をしているかというと、せっかくなので魔法で作った土から鉄分が取れないか実験しているのだ。土くれの中には多少の鉄分があってもおかしくないだろうと考えてのことだが、俺の考えがおかしいのか鉄分はほぼゼロに近い。

 感覚的には高さ1mの10m四方程度の土から取れる鉄は僅か2g程だ。こんな僅かな鉄を作り出すのに使うMPはものすごい量が必要になる。まず10m四方の土を作り出すにはレベル5の地魔法で大体6回くらいだ。これだけでMPは30も使ってしまう。この量をレベル3の地魔法で作ろうとしたら何百回と魔法を使わないといけないだろう。なので今は鉄を取り出すことが目的ではなく、選別を少しでも効率的に出来ないかの練習だ。

 生み出した土を無魔法にかけて選別する時に使うMPだが、こちらは何と1000MP程も使ってしまう。1立方メートルを選別するのにMPを10も食う計算になる。金属を作り出すのは多分俺以外には誰も出来ないだろうな。俺でさえ朝昼晩頑張ったとしても一日に数10g作れるかどうかだし。それよりも生み出した大量の土を処分するほうが大変だ。魔法で消すにしても選別と同じくらいのMPを使ってしまうしな。生み出した土を処分することまで考えると一日10g、つまり百円玉2枚強くらいの量の鉄を生み出すことがせいぜいだ。

 金属を直接生み出せる魔法があれば便利なんだが、そんなものがあったら武具はもっと安いだろうし、文明ももっと進んでいただろう。ちなみに、鉄を選別する過程で金や銀、白金などの貴金属も選別できないか試してみたが、こちらの方はさっぱりだった。全く出来ないわけではないが、砂粒程度の貴金属が取れるかどうか、というところで、基本的に貴金属は取れないと思ったほうが良さそうだ。だが、クロムやニッケルは多少だが取れる。ステンレス鋼の製造も全く無理ではないだろうが量が少ないので現実的ではない。

 ここ数日は金属の選別にばかり心を奪われている。それというのも中古の鍛冶設備をヘガードが入手してくれたからだが、俺に鍛冶が出来るわけでもないのでこれは遊びの範疇を超えてはいない。おっと、かなり話が逸れてしまったようだ。

 こうして遊びながらもあの連絡員つなぎの処分について考え続けている。だが、いくら考えてもいいアイデアは浮かばない。しょうがないな。



・・・・・・・・・



 数日後、川べりのゴム小屋の屋根の骨組みを作っているときに例の連絡員つなぎが上に登るのを遠目で確認した。さりげなく近づいていく。タイミングも重要だが、確実に息の根を止めなければならない。俺は小屋を作っているのが珍しくて近くまで見に来た子供、という体を装って興味津々、という顔つきをして近づく。この小屋の設備配置のための基本的な間取り設計は俺がしているが、それを職人に伝えているのはヘガードなので、職人達は俺を単なる子供としか見ていないはずだ。

 建造中の小屋まで10m程の距離を置いて木材の切れ端に腰掛けて建造中の小屋を見上げる。親方を入れて8人の職人が臍と木釘で忙しそうに組み立てをしている。上で作業をしているのはそのうちの5人だ。例の男が作業を続けながら梁の上を移動している。あとはタイミングを待つだけだ。そのまま数分経っても丁度良い位置に来ない。

 うーん。困ったな。だがまだ10分も経ってないし、このまま暫く様子を見るか。

 10分くらいが経過。まだだ。

 さらに10分くらいが経過。お、また動くようだな。いけるか?

 うん、いけそうだ。ここで風魔法を使えば風に吹かれて足を滑らせたように見えるだろう。ゆるいが丁度よく風もあるし。

 今だ!

 俺は風魔法を使い奴の体を吹き飛ばそうとした。

 当然風を起こす方に向けた手の光が見られないようなタイミングは見計らっている。

 だが、何と言うことか、建造中の小屋の骨組みごと大きく揺れていた。
 手抜き工事かよ。
 目的の男だけでなく、上に登って作業をしていた全員が足を滑らせてしまったようだ。

 これはまずいな。

 みな口々に叫ぶが1秒以内に落下してしまった。本当なら目標の連絡員つなぎだけが足を滑らせたところで再度風魔法を使って体勢を崩して頭から落下させるつもりだったのに、全員が足を滑らせたことに驚いて何も出来ないまま落下してしまった。最初に風魔法を使った後、俺はそれを見ていただけだ。

 だが、このまま放置するよりはやってしまったことを生かすしかあるまい。下で作業をしていた、事故に慌てている職人に混じって連絡員つなぎに近づく。運良く死んでくれたらいいのだが、鑑定をかけて見ると【状態:両足骨折】なだけで命に別状はないようだ。他にも数人怪我人がいるので全員が慌てている今しかチャンスはないだろう。

 やりたくは無いが仕方ない。地魔法でコップ一杯位の土を生み出し奴の口周辺に無魔法で押さえつけ声が出せないようにし、MPをつぎ込んで崩れかけた梁を哀れな連絡員の頭目掛けて落とすしかないだろう。MPは2000くらいつぎ込めば行けるだろうか? はしっこく近づいて治癒魔法をかけようとした直前に風で崩れた梁が奴を押しつぶしたように見せかけるしかない。

 駆け出しながらそんなことを考えていると、親方が連絡員の名を叫びながら飛び上がるようにして駆け出すのがわかった。げ、親しい仲なのかよ。下手に殺せないじゃないか。仕方ないので本当に治癒魔法をかけるしかないか……。

 落ちた怪我人のうち一番重傷だったのは連絡員の男だったので取り合えず治癒魔法をかける。同時にシェーミ婆さんを呼んでくるように言い、次の男に治癒魔法をかける。それで力尽きた振りをして座り込んだ。骨折するほどの重傷者はこの二人だけだったのであとは放って置いても問題は無いだろう。この二人にしても取り合えずの治癒魔法をかけただけだし。本気で治癒魔法をかければすぐにでも健康体になるだろうが、そこは怪しまれたくないので手を抜いた。俺のMPが多いことはゴム製作で知っている人間はいるから最初はともかく、最終的にはあまり怪しまれるということもないだろう。



・・・・・・・・・



 連絡員は親方の知り合いの息子で今回限りの臨時雇いだったらしい。本人と親方からかなり感謝された。殺そうとした相手に感謝されるなど、背中がムズ痒くて仕方ないが何も言わず感謝を受けた。また、怪我人5人の治療にシェーミ婆さん以下、シャル、ファーン、ミルー、休息を取った俺が再度治癒魔法を掛けたことで明日からもまた作業が継続できるそうだ。

 うーん、困ったなぁ。直接会話したことでどうも殺す気も削がれてしまった。本当はこんな甘いことじゃいけないんだがなぁ。しかし、流石に魔法で怪我の治療をして貰ったとは言え、こんなガキに頭を下げる男に対して殺意は湧いて来ない。本当にどうしよう。

 小屋の方は風が吹いたくらいであわや倒壊か、という手抜き工事だと思っていたのだが、建造途中でもあったのでその点を責める事は誰もしなかった。また、俺達が治癒魔法をかけたことで親方も感謝しているし、あえてここでつまらない話をすることも無いと思い、俺も何も言わなかった。多分手抜きはもうしないだろうし、いいだろう。

 完全にマッチポンプになってしまったことに忸怩たる思いを抱くが、起こってしまったことは仕方ないし、ここで悩んでも何にもならない。職人達も俺のことを坊ちゃん坊ちゃん、と呼び、親しげに振舞ってくる。ああもう、一体どうしたらいいんだ!?

 しかし、事は動き出した。

 翌日にウェブドス侯爵家から早馬が来た。
 次回予定される出兵への参加要請だ。
 ゴム製のプロテクターなどの実戦証明コンバットプルーフのチャンスなので本来は喜ぶべきことなのだろうが、最近人の死に対して思うこともあったばかりだし、殺人未遂までやった翌日だ。ついつい出兵するヘガードやそれに付き従う従士達の事を思ってしまう。

 バークッド村の軍隊がこの村を出発するのは1ヵ月後になるらしい。

 ヘガードはそれまでに騎士団とキンドー士爵に対しての納入物を作れることを確認するとプロテクターの製造を命じてきた。こんなこともあろうかと改良は重ねてあったので期限までの製造は問題ない。

 その翌朝から出兵するメンバー全員の体のサイズを図り、プロテクターを作る。今回は時間も限られているし、侯爵の騎士団の注文、キンドー士爵からの注文、プロテクターの製造で手一杯だ。改良したプロテクターの型さえ作ってしまえば俺にMPが必要な作業はないが、忙しいことは忙しい。剣の稽古をサボれないか聞いてみたいが答えは分かり切っているし、俺自身が剣の修行の必要性は理解しているので何とか時間を遣り繰りするしかないだろう。

 ああ、そうだ。俺が思うに大した情報ではないし出兵に当家が参戦することを連絡員に伝えればいいのか。このところ頭を悩ませていた問題が解決できることを素直に喜んでおこう。



・・・・・・・・・



 ミュンを通じて連絡員つなぎにグリード家の参戦と1ヵ月後のバークッド村出立の情報を流すと、連絡員つなぎは体調と怪我の治療を理由にして、しきりにドーリットへの帰還を望むようになった。しかし、親方がそれを許さず、厩舎の増築と作業小屋の建造は急ピッチで進められた。怪我を治療してもらったことで職人達の士気も高かったからだろうか、20日ちょっとで両方の作業は終わり、充分に拡張された厩舎とそれなりに満足できるゴム製造のための作業小屋が完成した。

 デーバス王国との小競り合いに出立するメンバーはヘガードを筆頭にシャルも行くようだ。また、従士も全員参加で総勢10名の所帯だ。規模が小さいとは言え、ロンベルト王国の防衛だか侵略だかの為に赴くのであるから軍隊は軍隊だ。

 俺は派遣部隊全員のプロテクターが間に合ったことに胸を撫で下ろしながら残る村人達と共に出立を見送った。荷馬車には2頭の馬を使うし、1頭しかいない軍馬にはヘガードが騎乗しているため、彼らが帰還するまでは農耕や開拓に馬を使うことは出来ない。すでにキンドー子爵からの注文は納品済みであるため、騎士団向けの品物で満載の荷馬車には念のためと作ったフリーサイズの予備のプロテクター一式も積み込んである。荷馬車は従士長のベックウィズが御し、シャルはその隣に腰掛けている。

 本来は食料や衣料品なども荷馬車に積み込むのだが、今回は商品と必要不可欠な軍用品で既に馬車は一杯の為、食料などは途中で必要な分だけ買い、納品後にキールで補給するそうだ。硬質ゴムとエボナイトで固めた従士達は黒一色で精悍そうに見え、ちょっと格好が良い。前にヘガードに尋ねた所、金属製の鎧はこの世界には既にあるようだが、俺がイメージしていた板金製の全身鎧(フルプレートアーマー)はあまりに値段が張るので上級貴族しか持っていないそうだし、一般的な兵隊は固くなめした革鎧か良くて鎖帷子チェーンメイルらしい。

 革鎧はともかく、鎖帷子チェーンメイルは防御力もそれなりにあるが重いので行軍中には着ないことが多いらしい。それらと比べるとキルトなどの本来、鎧下と呼ばれるような服の上にゴムバンドで留められるプロテクターの評判はすこぶる良かった。当然革鎧の上に装着できるようなタイプも用意してある。従士によって装備がまちまちなので幾つかの種類を作らざるを得なかったのが面倒なところではあったが、このプロテクターのお陰で皆の生存率が高められるなら言うことは無い。今回出兵するメンバーの鎧下や革鎧にはプロテクターの装着を考えてゴムバンドを通す金具や、ベルトホールを付ける改造済みだ。

 また、オースではそれほど男尊女卑でもないので軍隊には女性もいるらしい。俺の常識で言うとWACだな。尤も、俺が所属していた当時の自衛隊の女性隊員は母性保護の観点から正面戦闘部隊の戦闘要員には配属はされないが。確か転生する大分前には陸自では正面戦闘部隊にも女性隊員は配属され始めていたはずだし、イスラエルでは女性も徴兵対象だったので、軍隊に女性が居ること自体は問題が無いのか? 地球の文化を先取りしているだけか? まぁそこはどっちでもいいけど。ここは地球じゃないし、地球や日本の常識と比べるほうがどうかしているだろう。今後、もし注文があるならプロテクターも女性向けのものも作ったほうが良いらしい。シャルのプロテクターを作る時にたまたま居合わせたヘガードがそう言っていた。

 出兵したら数ヶ月~半年は帰れないそうだ。

 俺は敬礼したくなる体を抑えるのに苦労していた。

 
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