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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百八十七話 お願い2

7446年9月1日

「ご存知もくそも、本当に碌な事は知らんのさね」

 ミラ師匠は困ったような顔で言った。どうも隠し事をしているようではなく、本当に大したことは知らないようだ。

「……別に隠しとりゃせんがね。私が知っとるのは……そうさな……迷宮が出来た謂れくらいのもんさね」

 あ、あんですと!?

「おお! それをお教えいただけませんか!?」

 謂れか。是非、聞きたいもんだ。

「と、言ってもの。この迷宮を作ったのはベッシュ様という亜神さね。でも、何のために作ったかまでは知らんし、それについての興味もないからどうでもええさね」

 ベッシュ様ねぇ……。亜神か。オースは結構神様が色々関わってるよな。しかし、神様とか今はあんまり興味がない。美紀、いやリルスの名前でも出て来たらまた違うけど。

「なるほど。亜神様がお作りになられた、と。そう言えば、以前三層からこのエリアに来る条件があると仰っていましたよね。今、我々は三層の転移水晶を使う際に表面に浮き出ている呪文は唱えていません。リルスから聞いた方法で転移しているのですが、あの時師匠が仰られようとしていた内容はどういった内容だったのですか?」

「あの時……? ああ、あんたらが二回目だか三回目だかに来たときか……リルス様からはどう聞いておるかいの? まぁ、多分一緒じゃろうけど」

 ミラ師匠は【固有技能】についてもご存知でおられる。もういいか。妖精たちに隠しておいてもいい事なさそうだし。俺は、三層からの転移のキーとなるフレーズがミヅチと俺が生まれ変わる前の世界で生きていた国の歌であることを説明した。

 同時に説明の必要を感じたため、おそらくジョージ・ロンベルト一世も時代は違えど同じ国の“人間”であったこと、そして、リルスについてもまた同様に同じ世界の生まれであったことを簡単に説明した。

 ついでにリルスは俺の女房だったことも言おうとしたが、それを言う前にそれまでの内容を聞いたミラ師匠は驚くでもなく、平然と返してきた。

「ああ、そんなところじゃないかと思っとったさね。元々私らは地上のグィルムという土地に居ったと聞いとる。ここよりずっと大きい湖の脇の湿地の片隅に居ったそうな。じゃがの、見ての通り、地上で暮らすには私らは弱い。ミヅチはともかくアルは【鑑定】出来るから想像はつくじゃろ。地上に居った頃は長生きする者でもせいぜい数十年。沢山の仲間が何かに食われて亡くなったさね」

「そんな……」

 ミヅチが絶句している。

「百年単位で生きることが出来れば魔力も、魔法の特殊技能のレベルも上がるから死ににくくはなるけどの。じゃが、当時の祖父たちにはなかなかそこまで生きられる者はおらなんだ」

 ほ!? 何だか結構なお話になって来そうな……。

「ひっそりと隠れるように、と言ってもこことは比較にならない広い世界でそれなりにのんびりと暮らしていたそうな。でも、ある時、妖精の翅の鱗粉が万病の妙薬になるという噂が流れての。沢山の人族がやって来て翅を毟られてしもうた。妖精は弱いからの。翅を毟られたら数日で死んでしまう。ああ、言っておくが万病の妙薬になるなんて嘘さね。んな事あらせん」

 一瞬だけミヅチのお兄さんの為にその鱗粉を少し分けて貰えないかお願いしそうになった。ミヅチはどう思ったのだろう。横目で観察しようとしたが止めておいた。

「リルス様は旅の途中で我らの事を知り、哀れに思ったのじゃろうな。安心して住める場所を用意すると仰って下さった。ああ、その時はまだ亜神ではなかった頃よ。それから何十年も何百年も経ち、我らの数も百人を切ってしまった頃、再びグィルムへと現れたリルス様は僅かに生き残っておった祖父たちをこの地に導いて下さった」

「陛下……」

 リルスは東方から西方へと旅をした。まだ亜神にも、当然闇精人族(ダークエルフ)にもなっておらず単なる精人族エルフ不定命イモータルであった頃の話だ。ひょっとしたら千年も前の話かも知れない。

「その時に我らにお教え頂いたんさね。何かの用事で外に出ても必ずここに戻れるようにとな」

 ふぅん。

「その当時、この迷宮は出来たばかりらしくての。一層にも守護者が居ったと聞いとる。また、リルス様と階層を転移する時には生き残りの全員と一緒に転移出来たとも伝わっとる」

 ああ、妖精の手は小さいからな。あの水晶棒をリルスが掴み、余った部分に全員で小さな掌を当てていたんだろうな。羽虫のような妖精たちが水晶棒にたかるという、ちょっとぞっとしない光景だろう。

「尤も、だぁれも外になんか行きゃせんがね。ここは木の実はなるし、池に魚もいる。あっちの隅にはミツバチも居る。滅多なことでは誰も入って来んし、初めて人が来たのは私が生まれる前じゃが、礼儀正しく闖入した非礼を詫び、誰も傷つけんかったと聞く。勿論たまには我らを見て邪な心を抱く輩も居るが、そういうのは全員で殺す。我らには居心地の良い場所さね。それが実感されたのか、今では人数もあまり増えん。増やすより遊んどった方が楽しいからの。死人が少なければ焦って子を産むこともあるまいて」

 その後、幾つかの話も聞いたが基本的にはあまり俺の役に立たない情報ばかりだった。俺たちが話に夢中になっていたからか、干物が食えなくなった妖精たちはいつの間にか散っており、楽しそうに水辺を飛び回っていた。中には魔法の修行らしきことをしている奴もいるが、元来がカールのように飽きっぽいのか、仲間に誘われるとすぐに遊んでしまうようだ。

「さて、今回もどうせ、あれよな? 知らない魔術を教えて貰いに来たんよな?」

「ははっ。その通りです」

「顔に書いてあるわい」

 お見通しだった。

「まぁええよ。沢山魚を持ってきてくれたし。ただ、なにがいいかねぇ? もう結構教えてると思うがの」

 む、俺の知らない魔術であれば何でもいい、と言いたいところだが可能であれば……そうだね。やはり、当面の迷宮での探索で有効に使えそうな魔術が第一。次点が迷宮では役に立ちそうにないがあると便利なものだろうな。

「見えない相手と喋れるようになる魔術はありますか?」

 ミヅチが言うが、そんな魔術、ここに来た当時いの一番に聞いてるし、それ、前にも言ったじゃんか。

「知らんね」

 ほらな。

「ああ、ごめんなさい。喋れなくてもいいんです。遠くにいる人と何か意思が疎通出来さえすればいいんですが……」

 それも聞いたことがある。ファクシミリのようなことは出来ないものかと思ったのだ。答えは当然のように「それも知らんね」だ。

「前にも言ったが『通信』系は無理だ。トランスミュート・ロック・トゥ・マッドで細かい部品も作れるようにはなったから安定的な『電源』さえ確保出来ればそのうち『電信無線』くらいは何とかなるだろうけど、当分は駄目だろうな。このあたりは諦めた方がいい」

 実はトランスミュート・ロック・トゥ・マッドを覚えた真の理由は効率的なゲルマニウムの抽出や加工のためでもある。タングステンは見つかった(自然界にあるかどうかは解らないが、多分あるだろう)のでゲルマニウムさえあれば点接触型のダイオードを作ることは訳ない。

 クロムやニッケル、モリブデンなんかも迷宮で発見される(採掘ではない)ような純度の高い鉱石こそ知らないがその存在は確認しているし、一部利用もしている。ゲルマニウムだけ無いということもないだろう。

 電源や蓄電池コンデンサについてもライデン瓶なんかバルドゥックの雑貨屋で買える材料で作れる。後はショッキンング・グラスプやライトニングボルトで電気を溜めるだけだしね。ちびっちょいライデン瓶をコンデンサにすれば増幅器アンプも作れるし、小指くらいの大きさで小さい真空管程度を使ったのと同程度の性能は望んでもバチは当たるまいよ。

 性能は地球の物と比較してもの凄く低いだろうし、装置も作れたとしてズールーが担げるかどうかという所だろうが、それでも無線送受信機を作れる目処は立っている。平地であれば竿を利用したアンテナ線を立てて十㎞程度の通信は可能だろう。中継局を高い山の上にでも置けばもう少しマシだろうし。それだって充分過ぎるほどの革命を齎すだろうよ。

 何しろ戦場で遊兵を作らない可能性が高い。俺たちが幾ら抜け作だろうと無線通信網が確保出来さえすれば同数の兵力なら勝てるだろ。モールスだって慣れれば五秒もあれば数文字は送れるし、前進だの後退だの右だ左だ程度であればアホでもすぐに理解出来るだろ。

 だだっぴろい平原で正面からぶつかり合うにしても各部隊にすばやく命令を下せるメリットは計り知れないのだから。

 え? 奪われたり盗まれたりしたら? そんときは暗号使えばいんじゃね? 相手に確実に転生者が居ないと判明していれば日本語だっていいし、居るならば簡単な命令表でも用意して時間ごとに変えれば良いだろ。何番の命令書を開封しろでもいい。

 何にしても見渡せる範囲であればでっかいアンテナもいらんだろうし、最悪でも有線という手もある。何しろ今の俺にはワイヤーを作る程度、鼻血流して数時間だろうし。その気になりゃ材料の銅鉱とゴムも一緒に泥にして銅線の周りにゴム被覆された電線だって……鼻血流しながら飲まず食わずで半日かな? 嫌だなぁ。もっと慣れなきゃな。

「先日はレジスト系の魔術についてお教えいただきましたので、今回は同様になにかから身を守るような魔術をお教え頂けますか?」

 俺がそう言うと「樹皮防御バークスキンは知っていると言っとったね。石皮防御ストーンスキン鉄皮防御アイアンスキンは知っとるかね?」とミラ師匠は仰った。

 顔を見合わせたミヅチと俺は早速その二種の魔術の教えを……どうせすぐ効果切れるんだろうなぁ。名前からして樹皮防御バークスキンと同系統の魔術のようだし……。

「それ、樹皮防御バークスキンと比べて強力そうなのは何となく理解できますが、効果時間は同様なのでしょうか?」

「ん? そうさね。効果時間は一緒だろうの。違うのは防御力だけさね」

 うーん、どうなんかね。俺でさえ三十秒くらいか。使いどころが難しそうだけど役には立つだろう。

 ミヅチは石皮防御ストーンスキン、俺は鉄皮防御アイアンスキンを教わった。

 二人共そもそも樹皮防御バークスキンの魔術については時間を掛ければ使えないこともない、という程度であり、コツが異なるのか覚えるのに少し苦労した。

 一秒とか二秒で防御フィールドを展開出来るようになればいつか役立つ日も来るかも知れない。

 それだけを希望として魔術の習得と練習に取り組んだ。

 また、追加でミヅチは火炎討伐フレイムストライクの魔術を教わり、俺は水中呼吸ウォーターブリージングの魔術を教わった。

 火炎討伐フレイムストライクは小さな火球ファイアーボールを放射状に三発撃ち出す魔術で、火球一つはファイアーボールの魔術には及ばないし、当然別々に操る事は不可能であるものの、ある程度広い範囲を焼き払うことが可能な魔術だ。当然魔力を注ぎ込めば火球の数を増やすことも可能だ。

 水中呼吸ウォーターブリージングの魔術は読んで字の如く水中での呼吸を可能にする魔術だ。だが、これが存外にコツが掴み難く、かなり苦労することになった。だってさ、水を肺に入れてそこから酸素を取り込むんだぜ。少なくとも俺はそう理解した。つまり、溺れる必要がある。勿論、魔術が効力を発揮すれば溺れることはないが、気管に水が入った瞬間、どうしても本能的に拒否してしまうのだ。

 流石に俺もこれには参った。結局習得すること自体は出来たがそれまでにかなり時間を取られてしまい、興味を持ったミヅチも俺同様に習得には手こずったばかりか、魔力量の問題で妖精郷にいるあいだの習得もままならなかったほどだ。

 ま、それはともかく、それなりに有効そうな防御系の魔術について教われたのは大きい。樹皮防御バークスキンは、効果の程は大したものではないし、それなりに知られている魔術でもある。しかし、その上位版とも言えるであろう石皮防御ストーンスキン鉄皮防御アイアンスキンは俺もミヅチも聞いたことすらなかったのだ。

 使うのに必要な魔法の特殊技能のレベルやMPなんかの問題はあるが、これを使いこなすことが可能であれば心強い部分もあると思う。特に前衛に立つラルファなんかね。何しろ樹皮防御バークスキンとは異なり水魔法は必要ないからね。


 
石皮防御ストーンスキン」オルタレーション
(地魔法Lv4、無魔法Lv6、消費MP18 地魔法ダブル無魔法組み合わせ)
対象の皮膚の防御力を石のように上げる。石になる訳ではないので対象の行動は阻害されない。効果時間が切れるか、石皮に術者のレベルの倍以上のHPダメージを受けるまで効果は持続する。効果時間は術者のレベルと同じ秒数。

鉄皮防御アイアンスキン」オルタレーション
(地魔法Lv6、無魔法Lv7、消費MP29 地魔法トリプル無魔法組み合わせ)
対象の皮膚の防御力を鉄のように上げる。鉄になる訳ではないので対象の行動は阻害されない。効果時間が切れるか、鉄皮に術者のレベルの四倍以上のHPダメージを受けるまで効果は持続する。効果時間は術者のレベルと同じ秒数。

火炎討伐フレイムストライク」エヴォケーション
(全元素Lv2、無魔法Lv7、消費MP29)
小型のファイアーボールを放射状に三発撃ち出す。誘導可能なのは中央のものだけ。そのため、対象との距離が開くとファイアーボールの距離もどんどん開いていく。放射の角度は中央をゼロ度とすると約十度ずれる形で左右に拡がる。弾頭を一発増やすと中央の上方、もう一発で中央の下方、その後は右上から順に隙間を埋めるような形で増える。

水中呼吸ウォーターブリージング」オルタレーション・リバース
(水魔法Lv2、火魔法Lv1、風魔法Lv3、無魔法Lv6、消費MP12)
水中での呼吸を可能にする。効果時間は術者のレベル×五分。
+注意+
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