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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百八十五話 久しぶりに妖精郷へ

7446年8月30日

 予定より少し早く、十一時前に地上への階段を登る。ズールーは一番嵩張って、且つ重量のある冷蔵庫リフリジレーターを背負っているので大変だろうが、大切な魔法の品(マジック・アイテム)を単なる荷運び(ポーター)兼料理人のギベルティに背負わす訳には行かないだろう。ひょっとしたら今回得た戦利品のうちで一番高価かも知れないのだから。ま、ギベルティの背負っている行李の中には金の延べ棒が五本も入っているんだけどね。

 晩夏とは言え、既に真昼近い時刻の強い日差しで熱された空気が感じられてきて、額にはそれまでとは別種の汗が浮かび始める。地下の涼しい迷宮から暑い入口広場へと階段を登っていることを実感させるいつものあの感じだ。クソ暑い日差しの中、当然の如く閑散としていた入口広場を横切って、さっさと例の山人族ドワーフの親父が経営する魔道具屋へなだれ込んで魔石の換金を終わらせた。

 そしていつものように、ここだけはこの時刻でも僅かに客が付いているムローワの屋台でバルドゥッキーを齧り、昼間からビールを飲む。冷蔵庫に魔石突っ込んでビール冷やそうかな?

 ズールーは屋台の脇に荷物を降ろすと売り子の姉ちゃんと木陰に向かう。
 もうさぁ、結婚する?
 キャシーみたいにソーセージ工場に通わせてやっても良いぞ。
 それでお前の士気があがるなら別にいいよ。

 そうこうしているうちに虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズも戻ってきた。急に人が多くなった印象を受ける。

「どうだった?」

 ミヅチが戦果を聞いてくるが冷蔵庫リフリジレーターは隠しようもなく目立つから笑顔だ。

「おう、結構稼いだぜ」

 俺も良い気分で笑顔になる。

「こっちも六層で金鉱石見つけたよ!」

 ほお! そりゃいい知らせだ。

「「いい感じの鉱石よ」」
「精錬で半月は掛かるかな?」
「そんなには掛かんねぇだろ」

 虐殺者ブッチャーズの連中もがやがやと騒いで自慢気にしている。ジェルが担いでいるあの袋に入っているのか。その大きさは以前俺たちが六層で見つけたものと大差ないだろう。結構な大きさに見える。純度も同じくらいであれば精錬して二十㎏というところだろう。ジェルの荷物は若いキムとヒスが手分けして持っているようだ。

殺戮者スローターズの方は……ステータスオープン……冷蔵庫リフリジレーターかぁ! すげえな。高級魔道具じゃないか!」

 ケビンが冷蔵庫リフリジレーターの名前を見て興奮している。

日光サン・レイの時に一度見たことがあるわね」

 カームが羨ましそうに言う。まぁ、その金鉱石よりは高いしね。でも、金鉱石を見つけられたのでカームの顔は満足そうでもあった。

「ご主人様、只今戻りました」

 少し遅れて迷宮から上がってきた根絶者エクスターミネーターズからエンゲラが進み出て俺の前に跪く。ヘンリー、メック、ルビー、ジェスの四人も彼女の後ろで跪いている。

「ああ、ご苦労さん。そっちはどうだった? 重傷者は出たか?」

「いいえ。特に大きな問題もなく……ですが、その……私共は特に戦果は……」

 ありゃ、殺戮者スローターズ虐殺者ブッチャーズがお宝を得たからと言ったって、そんなに小さくなることはない。得られないのが普通だし。ってか運だし。

「ん、そうか。じゃあ、お前も皆と食ってこい。一服したらズールーと一緒に皆で荷物を運ぶのを手伝ってくれ」

 エンゲラだけでなく彼女の後ろで跪く戦闘奴隷全員に命じた。地面は熱いしな。

「「はい、ご主人様」」



・・・・・・・・・



 俺が皆と話しながらゆっくりとビールを飲み、バルドゥッキーを味わっていると虐殺者ブッチャーズの連中はあっという間に食べ終わっていた。ミヅチやロリックと一緒に転生者で話していたのだが、どうもミヅチを待っているようだ。

 ああ、そうか。さっさと金鉱石を金細工師の所に持って行きたいんだな。それに、魔石も換金しなきゃならんだろうし。今月から旧日光(サン・レイ)プラス誰か、という編成にしているため俺の戦闘奴隷が抜けた分虐殺者ブッチャーズの頭割り人数は増えている。

 しかし、少数と言えど七層でオーガを倒してその魔石を得ているので実は彼らの実入りは増加し、少しは俺も儲かっている。俺はミヅチに「皆待ってる。行っといで」と言って彼女を虐殺者ブッチャーズの元へ送り出すと少し残っていたバルドゥッキーを口に放り込み、ビールで押し流した。

「じゃあ、俺もそろそろ用意しとくか。あ、ズールー……はまだ話し中かよ……。エンゲラ、じゃねぇ、ヘンリー、すまんが馬車を一台借りてボイル亭まで回してくれ。ほれ」

 そう言ってヘンリーに馬車のレンタル代にはかなり多い金朱を二枚渡す(二頭立ての荷馬車のレンタルは一晩二十万Zが相場だ。今回は二晩なので四十万Zくらい掛かる)。間違って声を掛けそうになったエンゲラはこれから根絶者エクスターミネーターズと魔石の換金だ。

 なにしろ俺たち殺戮者スローターズの三パーティーの持ち帰る魔石は量が多いから換金には結構時間が掛かるんだよね。殺戮者スローターズはともかく、残りの二つのパーティーは魔石の結合なんかしないことが殆どだからね。一層から五層くらいまでの細かい魔石がわんさかあるのだ。

 どうにも理解し難いがそれが冒険者流なのだそうだ。大した重さではないが、嵩張るから無駄だと思うんだけどねぇ。魔石で膨らんだ袋を誇示して入口広場を横切るのがカッコイイんだってさ。大方のところ魔石の結合の為に無魔法でMPを消費するのが嫌でそういう価値観になっているんだろうな。バルドゥックに来たばかりの俺も最初はビビって無駄な魔力を使わないようにしていたなぁ。

 二十分程でヘンリーが馬車を借り受けてきた。お釣りは俺が戻るまでの戦闘奴隷たちの飯代と、余った分は「今夜の飯代の足しにしてくれ。どうせ派手に行くんだろ?」と言って遠慮するトリスに押し付けた。虐殺者ブッチャーズは魔石屋からまだ出てこない。冷蔵庫リフリジレーターを馬車の荷台に積み、続いて布袋に入れてある金の延べ棒をギベルティの行李から出して積み込む。勿論行李に入りきらず手分けして持っていた分はとっくに積み終えている。

「ご主人様、これは?」

 荷物の積み込みを手伝っていたエンゲラが不思議そうに尋ねてきた。

「ん、これらも今回の戦利品「えっへっへ、重いっしょ?」

 答えようとした俺に被せてラルファが鼻息荒く自慢げに言う。

「ん? ああ、大したことない大きさの割には重いね」

「ま、ラルファも後でゆっくりと自慢してやれ。今日はさっさと王都に行かないと行けないんだ。こいつらも王都じゃないと捌けないしな」

 そう言うと御者台に乗り込んだ。あ、忘れないうちに言っとかなきゃ。

「そっちの鉱石な。すまんが神社に入れといてくれ。あとで俺のロッカーに移す。それから例の奴(リング)はミヅチに相談してから処分するかどうか決める。予定通り明後日には戻れるとは思う」

 とゼノムに耳打ちした。ゼノムには「ん、流石に疲れたから今回は王都には行けんが、頼むな」と返される。ネイスン(鰊に似た魚)の燻製を頼まれているのだ。バルドゥックでも買えないことはないが、ゼノムは王都の有名な燻製屋謹製の物を好んでいる。俺も何度かご相伴に預かったが確かにありゃ旨い。一級品だ。

 そうこうしているうちに魔石屋から虐殺者ブッチャーズが出てきた。金鉱石は相変わらずジェルが背負っているようだ。そのまま三軒離れた金細工師の店に入っていく。ここから見ただけで皆結構はしゃいでいるのが解る。

 エンゲラが「ファルエルガーズ様。では、我々も換金に向かいましょうか」とロリックに声を掛け、根絶者エクスターミネーターズもリーダーを務めたエンゲラ以外の戦闘奴隷をこの場に残して魔石屋へと向かった。彼らは彼らでジンジャーとヒスが抜けているのでその分報酬の頭数は減っているから実入りは増えている。

 金細工師の店に入った虐殺者ブッチャーズは数分で出てきた。精錬するまで価格は不明だからね。ミヅチは店の前で皆から挨拶を受け、別れるとその足で馬車まで来た。

「お待たせ」
「おう、相当儲かったようだな。皆大喜びじゃないか」

 俺が返答するとミヅチは少し口の端を上げて答えながら手を差し出してきた。彼女の手から金貨が一枚に銀貨が十枚以上渡された。すげぇ!

「合計でオーガを八匹殺ったからね。先週は七匹。大儲けよ。二回分の経費はもう抜いてるわ」

 それでこの額か! そりゃあ結構なものだ。俺の分を入れて十一等分してもかなりの金額だ。当然オーガ以外にもモンスターは倒しているから今回の二週間半でゆうに三十万Zを超えるであろう経費を差っ引いても俺は百万Z以上儲かったのか。

「え? そんなに!? ミヅチさん大変だったでしょ?」

 虐殺者ブッチャーズがまだ日光サン・レイだった頃、一度だけ共闘したことのあるグィネが口を挟んできた。

「ん~、大変って程でもなかったかな? あれから一年でしょ? 多分皆レベル上がってるはずだし。ゼノムさんが私の前に連れて行ってくれていたから少しは慣れたみたいね」

 うむ。ゼノム、ミヅチと続いて出向させた甲斐はあったようだ。

「……俺もうかうかしてらんねぇ……」

 バストラルがぼそりと呟くように言ったのが聞こえた。そう言えばこいつもグィネと一緒に当時の彼らの戦いぶりを見ていたんだよな。そうそう、頑張ってくれよ。



・・・・・・・・・



 ミヅチと二人、さっさと王都まで行くとサンダーク公爵筋ゆかりのサンダーク商会に金の延べ棒と冷蔵庫リフリジレーター守護の指輪リング・オブ・プロテクションを持ち込もうとしている。

 王都までの道中にミヅチに指輪の件で相談したら、少しだけ考えた彼女は「売るべきね」と言った。一日に一回、僅か一HPとは言え、ダメージを低減してくれる能力は「大切なものだ」と評してはいたが……。

「確かにそれで生死が分かれることもあるかも知れない。それでも今回は売ってみるべき」

 ときっぱりと言ったのだ。その理由は「正確にその能力が解るのは貴方だけでしょう? 正直な話、あまり強力とは言えない魔法の品(マジック・アイテム)だし、そう惜しくはないでしょ。それより、どうやって能力を調べ、どのくらいの値付けがされるのかを知った方がいいと思うの」という事だそうだ。

 確かにミヅチの言う通りだ。俺の考えと一緒なので少し安心したくらいだ。余りにも安い値であれば売らなければ良いだけの話だしね。そん時はお守り代わりにまだ魔法の品(マジック・アイテム)を渡していないラルファかエンゲラ……ダメだ。ヘンリーかメックにでも渡してやればいいか。勿論俺かミヅチが使っても良いけど、二人共そうそうダメージなんか受けないしなぁ。

 サンダーク商会に持ち込んだ金の延べ棒は品質を確認後(大方金細工師のところで溶かしたりするんだろう)代金はグリード商会に払って置いて貰える。冷蔵庫リフリジレーターは売れ次第、守護の指輪リング・オブ・プロテクションについては買い手が付けば希望価格を連絡して貰うよう頼んだ。

 但し、俺が納得する価格で販売「後」にどういう能力でどうやって調べたのかを教えてくれる条件とした。勿論能力の程が不明でもそれで俺が納得しさえすれば販売はする。ミヅチによると好事家というのは居るらしい。好事家ねぇ……そりゃ世界は広いから居るだろうけどさぁ。どうなのよ?

 なお、以前持ち込んだ大型冷凍庫ビッグフリーザーと大型シャンデリアだが、冷凍庫フリーザーの方は三億Z以上になってまだ買い手同士で争っているらしい。買い手の情報を聞いてみたくはあったが、サンダーク商会の商圏を荒らすと取られても嫌なので我慢した。大型シャンデリアは驚いたことにサンダーク公爵の本家で買ってくれるらしい。でかくて明るいだけで装飾になっていない、名前だけのシャンデリアだが四千万Zと言われたので諸手を挙げて喜んで売った。

 自分の商会に顔を出し、帳簿をぺらりと眺めた後、さっさと燻製屋まで行ってゼノムに頼まれたネイスンの燻製を入手し、ついでにこの店で俺とミヅチが運べるだけの干物も購入した。

 その後は少し遠回りしてバルドゥックの東に回って町に戻ると適当な宿に投宿し、荷物を纏めた。お土産の燻製は宿に余計に金を払って共同の氷冷蔵庫にタグをつけて保管して貰う。共同だが宿の人が管理しているので盗まれる心配は極小だろう。

 その後ミヅチと二人、足首まで隠れるようなローブを目深に羽織り、暑い中入口広場まで出向くとバラバラに迷宮に入った。一層の転移水晶の小部屋で待ち合わせだ。二時間半ほどで一層の転移水晶の間に到着し、水を飲んでミヅチを待っていたら彼女もすぐに到着した。

 二人で二層へと転移する。流石に例の場所へは行けないか……仕方ないのでいつものように三層から戻るか。二層を突破して二流冒険者どもが野営キャンプを張る二層の転移水晶の間に、またローブを目深に下ろした格好で入る。さっさと三層へと転移し、二人でローブのフードを上げると、再び呪文が浮かんだ転移水晶を握り「君が代」を歌う。いつものことだ。

 そして今、俺たちは妖精郷へと足を踏み入れた。

 さて、ミラ師匠はともかくカールはまだ俺たちのことを覚えているだろうか。

 まぁ、覚えては居てくれるだろう。

 何しろ五百年も前のジョージ・ロンベルトの事は覚えているんだから。

 ほら、妖精たちは俺たちのことを覚えているぜ。

 ぴるぴる言いながら俺やミヅチの頭の上や肩の上に止まったり鼻の穴を脇から引っ張って拡げられたりしている。

 中には嬉しそうな表情を浮かべしきりに干物の匂いを嗅ぎ取ろうとしているようなのも飛び回っている。

 最初の頃はまるっきり無視してたのにな。

 ミヅチは掌の上にまだ小さな子供の妖精を乗せて笑顔で歩いている。

 さて、到着した。

「カール、俺だ! アルだ!」


 
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