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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百八十三話 それぞれのアプローチ

7446年8月8日

 虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズの休日の都合もあり、あれから一日置いた今朝から俺たち殺戮者スローターズはまた迷宮へと足を踏み入れた。今回の迷宮行ではゼノムを虐殺者ブッチャーズに、ズールーを根絶者エクスターミネーターズへと送り込んでいる。俺を含め残った九人が九層探索の主部隊となるが、今迄のように虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズも迷宮で延々とトレーニングを積むが如く漫然と探索させるような事はさせていない。

 今回から彼らにも階層踏破時間以外の別の任務を与えている。簡単な方の根絶者エクスターミネーターズから説明すると、彼らには四層まで干し肉を中心とした消耗品の運搬を行わせている。片道一日半をかけて四層の転移水晶の間へ物資をピストン輸送させるのだ。四層の転移水晶の間に辿り着いたり、そこで野営キャンプを張るようなパーティーは、俺たち殺戮者スローターズを除いて、現在のところ五層以降に足を踏み入れている緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズ煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)の三つだけだ。

 ここに誰か一人を見張りとして置いて残りの九人は荷物を降ろしたらすぐに地上へと転移し、再度物資を背負って迷宮へと入り直すのだ。

 次に、虐殺者ブッチャーズ。彼らも荷運び(ポーター)が主な仕事となる。彼らには四層に集まった物資を六層の転移水晶の間へと再運搬して貰うことになる。ここで注意しなければならないことは虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズもメンバー構成を入れ替えているということだ。根絶者エクスターミネーターズからジンジャーとヒスを虐殺者ブッチャーズへと移籍させ、代わりに虐殺者ブッチャーズからは俺の戦闘奴隷のヘンリーとルビーを根絶者エクスターミネーターズへと異動させた。

 虐殺者ブッチャーズはほぼ元日光(サン・レイ)で構成させることになるため、彼らも含めて誰からも一目置かれているゼノムに任せる。彼らにしてもゼノムは安心出来るリーダーであり、確かな実力については全く疑いを抱いていない。餌として「往路の様子を見てゼノムがOKを出すのであれば無理をしない範囲で七層でオーガをぶっ殺しても良い」とも言ってある。

 お陰で今回、虐殺者ブッチャーズの士気は異常な程高い。根絶者エクスターミネーターズに残される形になったメンバーたちは悔しそうではあるが、合同訓練などで自分たちの実力が低いことは彼らが一番承知していることだ。本音を言えばロリックだけでも異動させて経験値を稼ぎ易い虐殺者ブッチャーズへと入れたかった。

 これについては一昨日の夜、カームとジンジャーの二人と相談した時に彼女たちも一応は頷いてくれたのだ。何より彼は魔法が使えることが大きい。治癒魔術はともかく、攻撃魔術は迷宮の奥の戦闘では必要不可欠なのだ。

 特にカームは以前七層での戦闘を経験している。オーガを相手取るには攻撃魔術は必須と言っていいからむしろ積極的に賛成したほどだ。ゼノムが同行することでオーガも一匹は確実にゼノムが仕留めてくれるという期待もあってロリックを含むメンバーの死亡については考慮されていなかった。俺も七層に転移して最初に通路で出会う数少ないオーガだけを相手取るならゼノムさえ居れば問題ないと思う。

 それに加えてロリックは政治的にも経済的にも力のあるファルエルガーズ伯爵家の長男だという理由もあった。ロリックに箔が付くことにもなるし、彼の活躍を知ったファルエルガーズ家が戦闘奴隷を送ってくるなど何らかの援助も期待出来るらしい。それが本当なら確かに有難い事だし、似たような話を耳にすることもあるのでもし実現したら嬉しい事ではある。戦闘奴隷が増えればメンバーのローテーションも可能なのだ。

 一人あたりが得られる経験値は減るが、低レベルの人の底上げにはなる。なにも全員が一流冒険者の域に達する必要なんかない。伸びた能力値を全て使いこなせなくても、レベルアップさえ出来ればその時運が良ければHP上昇の恩恵があるのだから。

 とにかく彼女ら二人の賛成を取り付けたところでロリックを呼び出して打診したのだが、彼は断ってきた。「異動自体は魅力的だが自分には責任を持たねばならない戦闘奴隷が居る」と言うのがその主な理由だった。カームやジンジャーはそれを聞いて憤慨した。

 理由は「それを言うなら虐殺者と根絶者双方に戦闘奴隷を供出し、場合によってはズールーやエンゲラまで出向させるアルはどうなるのだ? アルは自分の戦闘奴隷に責任を持っていないのか?」と言うのが彼女達の言い分だった。それを聞いてなるほどとは思ったものの、俺はきっちりと彼らの人生に対して責任を取るつもりでいるし、ロリックの言いたいことからは外れているような気がしたので彼の希望を認めた。そして、少しだけロリックの考え方に共感した。

 俺はまだどこかで奴隷について割り切れていない。低賃金の被雇用者を雇うような感覚がある。裕福ではないがどこかのんびりとしたバークッド村で生まれ育ち、奴隷の悲劇的な側面に殆ど触れることがないまま成長してしまったことも大きな要因だろう。加えて、触れ合った奴隷も全てが農奴であり、労働力の中心であった。

 ゴムの商売を始めてから新たに従士とその家族にも労働力の中心は出来た。しかし、農業は依然として大きな基幹産業だったのだ。その農業を支える労働力に無体なことは出来ない。安い賃金で朝から晩まで、碌に休日もなく働き続ける奴隷は大切な財産だが、本人たちの意向に反して家族が引き裂かれるなど決して悲惨な状況に追いやられた人は居なかった。むしろ、両親はある意味でシステマチックに奴隷を扱っていた。個人個人に向いた仕事を割り振っていたばかりか、大切な財産をそう簡単には手放したりしないように努力していたと思う。

 これについては色々な考え方もあるが、少なくとも俺は親父ヘガードお袋(シャル)の双方とも「奴隷は大切な労働力であるばかりではなく、人口の大部分を構成する大切な領民である。領主として領民の生活に責任を持たねばならない」という考えの下に奴隷たちへ接していたと思っている。それを見て育って来たために俺の中ではどこかそういった考えが“理想の奴隷への接し方・遇し方”という印象を刷り込んでいるのだと考えてもいる。

 両親にとって奴隷とは「自らが全ての責任をもって保護すべき者たち」であった。多分。俺はどうにもそこまで割り切れてはいないことが実はコンプレックスである。勿論、それが嫌だ、という訳でもないのが難しいところだ。

 そんな俺に対してロリックは裕福なファルエルガーズ伯爵家の長子でこそないものの、長男として生まれている。幼少期から家には農奴以外にも沢山の奴隷が居たのだそうだ。使えない奴隷だって居たと言っていた。そうした奴隷は簡単に売り払われてしまう。彼の実家で働く奴隷は僅かな優秀な者を除いて長くても数年で売られてしまっていたそうだ。

 そうした状況についてロリックは常々気の毒に思っていた。生まれて初めて個人で所有したデンダーとカリムの両戦闘奴隷は大切に、長年に亘って可愛がってやろうという考えを滲ませている。どちらかと言うと俺の両親に近い考えを自然と育んでいたのだと思う。唯一俺と異なるのは「自分(主人)が側に居てずっと見守る」か「自分(主人)が居なくても人生を歩めるようにしたい」かの違いくらいで、どちらが良いと言う類の物ではない。

 どちらかと言うとより今のオースに合っているのは前者の方だ。「良き主人に恵まれ、忠節を尽くし、良き人生を送る」と言う、オースの奴隷に理想とされている成語がある。それを体現するべくロリックは考えているのだろう。それはそれで認められて然るべきものだ。俺だって俺なりにその成語を体現したい。ロリックとは方法が少し違うだけで目指すところは同じだろうと思っただけだ。

 やはり上級貴族家で育っただけのことはあるな、と思う。俺もそうだがトリスやベルも貴族家の出身ではあるが、ロリックのような“オース的”な考え方には馴染めていない。いつだったか、出会ってちょっとした頃、ヒーロスコルも居た頃に三人で食事をしているときに彼が言っていたことがある。

「奴隷なんて許されることじゃないとは思います。でも、世の中の仕組みがそうなっている以上、それに抗っても虚しいだけです。この数カ月で私は幾つか大切な事を学びましたよ」

 酔いが回ってそう言うロリックにヒーロスコルが言う。

「ほう? どんなことだ?」

「少なくともこれから私が奴隷を購入するようなことがあれば、その奴隷の一生について私なりに良い人生を送らせてやろうということです」

 それを聞いた俺は「へぇ」と思ったものだ。何しろバストラルの身の上を哀れに思って強引に奴隷階級から救い(掬い)出した者が言うセリフじゃないと思ったからだ。同時に彼は彼で色々考えることが多かったのだろうなとも思った。そんな彼に俺は戦闘奴隷を買ったらどうかと忠告したのだ。ロリックが二人の戦闘奴隷を買ったと聞いたのはそれから数日後だった。

 それから彼はずっとデンダーとカリムの二人を可愛がっている。別のパーティーになることは考えていないのだろう。移籍の方も彼ら三人一緒にしたいと公言していたくらいだしな。三人揃って殺戮者スローターズへ移籍するために隙を見てはランニングを続けている。その効果もあってか先日は「三人共あと十五分というところまで来ましたよ」と嬉しそうに言って来たのだ。

 とにかく、全てが当初の俺の希望通りとは行かなかったものの、新たな布陣は決まった。

 あとは九層の探索を続け、何らかの成果が欲しいところだ。



・・・・・・・・・



7446年8月12日

 今回九層の探索を始めて二日目。

 途中二回目の転移をした先でぶつかった部屋には既に見慣れた祭壇があった。部屋に突入する前に五十m四方もある部屋の中心辺りのガーゴイルを首だけ出して全身を土で埋め固める。

「ラルファ、トリス、エンゲラ。お前たちが切込アバン・ギャルドだ。召喚された大物を狙ってくれ」

 三人が無言で頷く。ラルファは舌なめずりをしている。

「グィネとバストラルは槍衾スピア・インターセプターだ。コボルドだかゴブリンだかを近づけさせるな」

 グィネは貫きの槍を脇に挟んで髭をしごき、バストラルは両手でしっかりと槍を保持したまま突撃姿勢をとって緊張した顔つきになる。

「ミヅチとベルは魔法でも弓でもどっちでもいいからコボルドなんかに叩き込んで混乱させろ」

 二人はそう言われることを予想していたのだろう。既に左手にある弓の弦を確認すると腰の後ろの矢筒クイーバーから矢を引き抜いた。

「俺はまずファイアボールを雑魚に向けて放つ。その後、様子を見て必要なら声を掛けつつ適宜魔術で援護する。余裕があればガーゴイルを始末する。いいな、行くぞ!」

 今回召喚された主はグリーンガルガンチュアスパイダー。猛毒を持つ恐ろしいモンスターだ。

 しかし、ここまで来るとき同様、トリスの振るう炎の剣(フレイム・タン)は存分にその猛威を振るい、蜘蛛の体表にびっしりと生える不気味な緑色の繊毛に火を点けあっという間にガルガンチュアスパイダーの動きを鈍くさせてしまった。お尻から出る糸(天然のウェッブの魔術のようなものだ)も炎の剣(フレイム・タン)を振るうトリスにとってはなんらの脅威にもならない。

 同時に召喚されたコボルドもその中心目掛けてファイアーボールをぶつけ、あっという間に半数以上を即死させ、動転して魔術を使う前にグィネとバストラルの槍、ミヅチとベルの矢で斃されていった。ガーゴイルも何も出来ないまま殺されて行く。

 体中を炎に巻かれ動きの鈍ったジャイアントスパイダーはエンゲラの段平ブロードソードやラルファの手斧トマホークによってどんどん脚の数を減らされて行く。

 最後に手斧トマホークを頭部に叩きこまれて蜘蛛は動かなくなった。

 同時に祭壇の祠が開く。

 この時ばかりは全員で祠を注視する。

 期待に染まった八対の視線を受け、祠の扉は開いた。

 いつものようにエンゲラが祠の中へ手を伸ばし、鎮座ましましている物を掴み取った。掴み難いようで右手だけでなく左手も祠の中に突っ込んだ。ほほう。何が出てくるのかな……。皆もごくりと喉を鳴らしてエンゲラが祠から引き出すであろう品を見つめる。

 果たして出てきたものはソフトボールより少し大きいくらいの金属鉱石だ。色合いからして銀か。黒ずんでいないから上物だろう。百万Zは下らないだろうが詰まらんな。

「銀かぁ……。贅沢だけど金ならねぇ」
「私達も贅沢になったものね……でも銀かぁ……」

 ラルファとベルが同時にため息を吐いた。

「これ、なんかすごく重いです……」

 そう言ってエンゲラは銀鉱石を俺に差し出してきた。両手で持っている。

「ステータスオープン」

【タングステン鉱石】

「なにぃっ!?」

 ステータスを見て驚いた俺が思わず大声を上げてしまったのでエンゲラは鉱石を取り落とすところだった。詰まらなそうに見ていた皆も一体何があったのかと少し驚いているようだ。

 地球では別に貴金属でも何でもないがそれなりに希少ではある。とは言え価格は知れている。一㎏あたり数千円と銀より安い。比重がプラチナや金に近いのでメッキされて詐欺に使われる事が有名なくらいで一般の人はあまり聞いたことのない名のはずだろう。

 だが、もっと特徴的な事は融点が高く三千度以上の高温でも容易に溶けないことだ。トランスミュート・ロック・トゥ・マッドの魔術で鍋とかき混ぜ棒を作れば、その魔術を知らない奴でも魔力さえあるならどんな合金も思いのままに作れる。配合を知っているならだけど。プラチナだってオスミウムだって火魔法と三十MPもあれば溶かせる。

 鑑定しても俺の知っているタングステンのようだ。鍋とかき混ぜ棒の持ち手の工夫さえすればこの量なら結構大きな坩堝が作れるだろう。

 こりゃ良い物を見つけた。

「ねぇ、何なのそれ? 銀じゃないの?」

「ああ、聞いて驚け。タングステンだ!」

 それを聞いたミヅチは目を丸くしていた。そして、「それで剣を作れば……」とかぶつぶつ言っている。詳しいな、こいつ。タングステンはかなりの硬度がある金属でもある。でも重いから手持ちの武器は無理じゃね?

「たんぐ……なにそれ?」
「タングステンだよ、ラル」
「グィネ、あんた……知ってんの?」
「名前は聞いたことあるような……」
「私は知りません。銀より貴重なんですか?」
「ああ、工業用の刃物とかの……」
「トリスは知ってるの?」
「うーん、それくらいしか知らないなぁ」

 がやがやと言う皆にミヅチが鼻の穴をおっぴろげて得々として説明を始めた。

「硬いから金属加工用のドリルに使われたり、その上重いから『劣化ウラン』同様に『戦車』の『高速徹甲弾』や『APFSDS』の芯材になったりしているわ。『放射線』を通さないから『戦車』の装甲に使われたりもされてる」

 ドリルはともかく、戦車の徹甲弾とか劣化ウランとか専門的なことまでよく知ってるな。少し感心した。褒めてやると「え? 私の業界では一般常識ですよ?」と不思議そうに言われた。

 お前、俺と同じ食品業界人だったんじゃなかったの? ホントにお前、あの大人しかった椎名なの? そもそもなんでそんな事知ってるの? あの会社でそんなこと知っててスラスラ言えるのって多分他に誰一人居ないぞ。っつーか、普通はタングステンを知ってる人でも詐欺だとか電球のフィラメントだとかの方が先に出るだろ。それに全く触れないってのも理解出来ん。変な知識ばっかり貯めこんでないでもっと他の勉強してた方がマシだったんじゃ……。

 それはともかく、現在彼女の知識はかなり役立っている。それに、あまり問い詰める程俺も暇じゃない。

 しかし、いい物が手に入った。薬莢はともかく弾頭や、色々なものを作るのに役立ちそうだ。

 
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