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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百八十二話 次に向けて

7446年8月3日

「で、なんで振られたのさ?」

 酔っ払ってクダを巻く姉ちゃんにもう何度目かの同じ質問を繰り返す。

「……好意は有難いし、俺も好感を持ってはいるが女房はクレア一人と決めている、とか言ってんの……知ってるわよ……そんなこと……」

 そして姉ちゃんも同じ答えを返してくる。最初こそ八層突破で俺のことを「さすが私が鍛えただけあるわ」と褒めてくれたが、もうウンザリだ。やっと休みの取れた姉ちゃんを誘って食事と言う名の慰めパーティーを開催していた。

 このマルハスというそこそこのランクの店に入ったのは十五時くらい。今はもう二十時を回っているはずだ。兄貴はロズラルとウェンディー、ダイアンの元で作業場での各種ゴム製品の修繕の作業手順の引き継ぎを監督し、今頃は皆を引き連れて晩飯まで終わらせている頃だろう。

 店の一番奥のテーブルに俺と姉ちゃんが陣取ってもう五時間以上。いつの間にか麦焼酎のでっかいボトル(一升瓶くらいある)は一本空いている。八割くらいは俺が飲んでるけど。姉ちゃん酒弱いのな。前世のチューハイを思い出しながら麦焼酎をジュースで十倍くらいに割って飲み易くさせていたが、あっという間にへべれけだった。後でミヅチに教えてやろう。酒なら絶対に姉ちゃんに勝てる。

「あー、毒中和ニュートラライズ・ポイズンもう一回! これ美味しいわね!」

「へいへい」

 姉ちゃんに何度目かの毒中和ニュートラライズ・ポイズンを掛けてやりながら(姉ちゃんは酔っ払って魔術のための精神集中が出来ないのだ)心の中でだけ溜息を吐く。みかんの絞り汁とハチミツを追加で注文し、ついでにアイスペールの氷も補充して貰う。勿論自分でも出せるが店なのだから金を払って注文すべきだ。むしろ酔っ払いをシラフに戻してまた酒を飲ませているのだから俺は店から感謝されるべきだろう。

「んぐっ、んぐっ! あんた、良い飲み方知ってるわね。褒めてつかわす!」

「ああ、有り難き幸せ」

 醤油のない、塩味だけのサザエのつぼ焼き風の料理をつつきながら気の抜けた返事を返す。殻から火の通った身を出して皿に盛られているのでナイフとフォークで切って食べるのだが、風情もクソもない。折角だから箸で食いたいよなぁ。箸持って来んの忘れたのは痛恨だぜ。

「あ! あれ食べたい! バルドゥッキー!」

「はいはい。おい、ズールー」

 後ろを振り返り、隣のテーブルでエンゲラとギベルティと飲み食いしていたズールーに声を掛けた。

「はい、行ってまいります」

 すまん。でも、お前酒飲まないじゃん。エンゲラもギベルティも結構いい感じに酔って楽しそうで、既に俺の警護という意味ではまともな奴はズールーしか残って居ない。今からソーセージ工場に行っても工場で寝泊まりしているジョンとテリーを残して誰もいないはずだ。在庫が残ってなきゃジョンもテリーも寝入りばなをズールーに叩き起されて夜中にソーセージ作らされるのかぁ……今度飴玉でも買って行ってやろう。

「でさぁ、ユーリーったらさ、ああ見えて優しいんだよね。……あーあ」

 あーあじゃねぇよ。嘆きたいのは俺の方だ。どうしてこうなった?

 あれから数日はドンネオル一家を引きずり回してお得意様である娼館や靴屋なんかを回ったり、改めて俺の奴隷たちとお互いの顔を覚えて貰ったり、ソーセージのつくり方なんかを簡単に紹介しているうちにあっという間に時間が過ぎ、必要な事務処理や売上台帳のつけ方なんかを教えているだけでこんなに日にちが経ってしまったのだ。

 そんな折、やっと姉ちゃんからこの日なら休みが取れると連絡が来たので日程を調整して食事に誘い、酔わせて一度全部忘れさせ、発散させてやろうとしたらこれだ。簡単に言うと姉ちゃんはユーリ・グロホレツ卿に横恋慕していた。

 だが、当然第一騎士団はロンベルト王国の超エリートコース。入団する時点で他の騎士団で正騎士になっている人がほぼ全員を占める程だから、その出身地では高く評価されていたんだろうし、そりゃあ唾が付いてるのは当たり前だろうさ。既に結婚している人なんか珍しくもなんともない。

 彼は第一騎士団に従士として入団した時には既に結婚しており、姉ちゃんが正騎士の叙任を受けた頃には子供までもうけていたとのことだ。当然姉ちゃんはグロホレツ卿の第二夫人の座を狙うことになる。

 正直な話、オース的な感覚で言えば第一騎士団の人が結婚相手であれば第一だろうが第二だろうが何の不満もありゃしない。姉ちゃん自身、第一騎士団の騎士でもあるし、一生生活に困らないくらいの金どころか、オース一般の基準では田舎領主以上の収入は約束されているようなもんだ。万が一大きな手柄でも立てて中隊長にまで出世出来るなら正式な士爵としての道も拓ける。万々歳だ。

「グロホレツ卿はさ、それだけ最初の奥さんを愛してるんだろ。相手が若いからってふらふら第二夫人を娶るような人じゃないってことじゃんか。いい人なんだな」

「そうよ……私の一年先に第一騎士団に入った人で、すごく優秀だし、経験も豊富で頼り甲斐もあるわ。常に周りに気を使ってくれて優しいし……右も左もわからない私のことも頭が良くて可愛いって言ってくれてたのに……」

 はいはい。この会話ももう何度目かねぇ……。碌な人生経験もせずに田舎から出てきた姉ちゃんは、年上で頼り甲斐のあるグロホレツ卿にいつしか心惹かれていた。魔術の技倆が優れていたために第一騎士団のキャリアでは追い抜いてしまったが、そんなもの姉ちゃんには関係無かったのだろう。姉ちゃんらしいと言えば姉ちゃんらしい。

 俺としては二年くらい前に第一騎士団に入団して従士として絶賛下積み中のロバート・ブッシュという人を推す。年齢も二十三と姉ちゃんより一つ年上で、姉ちゃん同様にどっかの士爵家の三男だからきっとハングリー精神も持ち合わせているだろう。顔も野性味のあるかなりの美男子だし、俺の見たところ人柄だって悪くない。実力までは知らないがそもそも第一騎士団に実力の低い奴なんかいる訳ない。

 だが、まぁ今する話でもないだろうし、今日はとことん付き合ってやろう。



・・・・・・・・・



7446年8月6日

 各種業務の引き継ぎもほぼ終わり、いよいよリョーグ一家と共に兄貴たちがバークッドへ向けて帰る日が来た。二年ちょっとに亘って陰日向なく俺を支えてくれた従士一家との別れは名残惜しいがその役目もラッセグたちが引き継いでくれる。

「アル様、お体にお気を付け下さい」
「お世話になりました。皆様にも宜しくお伝え下さい」

 リョーグたちは口々にそう言って別れを惜しみ、年長のロズラルとウェンディーは御者台の隣に座り、若いルークとダイアンは護衛の従士と共に馬車の警護を固める。

「こちらの方こそ世話になった。お前たちも元気でな。またな」

 早朝に出発する彼らを見送った後はドンネオル家の家財道具の位置を少しずらしたり、ヨトゥーレン母子からの店のレクチャーなどで時間は過ぎていく。ソーセージ工場の方も思ったより順調であり、この分ならラッセグたちの支援も受けられるからキャシーに任せておいてもまず大丈夫だろう。バストラルと戦闘奴隷たちを伴って俺もこの日の昼食後にはバルドゥックへと帰ることにした。

「じゃあ、キャシー。当初の予定通り十二日には迷宮から戻るからその日の夕方にはバルドゥックへ来いよ。君が抜ける間の十五日まで工場は休業でいい」

 最初の立ち上げが肝心だからあと一月ひとつきはキャシーをこちらに置いて休みなく生産しようと主張するバストラルを制して言った。それは駄目だ。彼女らは先月の工場の試験稼働からこっち、休みなく働き(仕事を学び)続けている。

 確かに最初の最初はそれも必要なことだが、いずれ休業日は必ず作るつもりだったのだ。顧客になるようなロンベルティアの業者にも早いうちに周知させておいた方が後々のトラブルも少なくて済む。

 ローテーションで休みを取らせて毎日稼働させるのは皆がもっと慣れてからでいい。別に温情で奴隷に休みをやろうとしている訳じゃない。人ってさ、休みなく働いていると仕事の効率が落ちると思うんだよね。農業なんかは休めないけどさ。最低限食っていけるだけの給金は支払うつもりだし、その金の使い道がその日の飯だけじゃ人生詰まんないだろ。奴隷ごときに趣味を作れだなんて口が裂けても言うつもりはないが、誰にだって息抜き(リフレッシュ)は必要だよな。

 ソーセージ工場で働かせる奴隷たちもいずれ、忠誠心が高く素養がある奴から順に他の仕事に従事させるつもりだし、早いうちから俺のやり方に慣れて欲しい面もある。っつーか、仕事が休みの日には既に文字を覚えたばかりか、バストラルから簡単な計算まで教わっているジョンとテリーを先生にして文字を学ばせたいというのが本当の狙いなんだけどね。

 そうすれば彼らの次の世代はもっと幼い頃から文字を知ることになるだろう。同年代の男女を半数づつ、同一の種族で揃えた意味が効いてくるのは十年後二十年後だろうな。ミヅチから話を聞いたライル王国のやり方を範に取ったものだが、有効は有効だろう。

 今の殺戮者スローターズのメンバー三十人弱を中心に、若い奴隷を百人くらい。領地に封ぜられるまでに本当に最低限必要だと考える部下の人数だ。勿論何があっても俺を裏切らない奴隷の数はもっと多いほうが良いけど。ま、それなりに金も掛かるし、もう少し先の話でもあるしそっちは追々ね。

 借りてきた馬車の御者をバストラルに任せ、御者台にふんぞり返って座りながらバストラルと話しているうちにバルドゥックに到着した。ギベルティに馬車のレンタル費用と迷宮行の食費を渡して返却に行かせると、宿に向かったが、誰も居なかった。

 皆どっかに遊びに行ってるのだろう。俺としては今日バルドゥックに戻ると伝えているので虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズも今日は日程を合わせて地上に居る日のはずなんだがなぁ、と思い、取り敢えずズールーとエンゲラをカームとジンジャーの宿に向かわせた。

 彼女たちとも打ち合わせが必要だし、今夜は全員で適当な店を借りて今後の方針について話をしたかったのだ。程なくしてズールーとエンゲラが戻ってきたが二人共手ぶらだった。仕方ないので一度宿に戻って荷物を置いて戻って来いと伝え、俺もバストラルもシャワーを浴びて時間を潰すことにした。

 ところが、俺たちがシャワーを浴びている間にボイル亭に宿を取っている連中は全員戻って来ていた。どこに行っていたのかミヅチに聞いたところ殺戮者スローターズ全員で外輪山の外側まで行って今朝から訓練をしていたらしい。ふむ。

 とにかく予定通り今晩カームとジンジャーに話をすることは可能なのだ。再び戻ってきたズールーとエンゲラには悪いがまた二人をカームとジンジャーの宿に向かわせると一休みしたら早めにムローワへと来て欲しいと伝言を命じズールーとエンゲラには特に用事がないなら先にムローワに行って場所を取っといてくれと頼んだ。

 二週間ぶりのボイル亭のベッドに仰向けに寝転がり少し頭を整理してみる。内容は当面の殺戮者スローターズの三チーム全体の編成についてだ。今回九層へと突入したことで俺は建国王の業績を抜き、一躍時の人になっている。

 こんなオーラッド大陸の片隅にあるバルドゥックの迷宮で何層にまで行ったかなど、俺にとっては正直どうでもいい。建国王の業績さえ抜いて箔は付いたがそれ以上の効果なんかない。とは言え、名誉だの箔だのは流石に金で買うことは出来ないものだから可能な限り、大いに活用させて貰うつもりだ。

 まぁ、そもそも大勢集まってくる沢山の冒険者同様に財宝を求めて迷宮に入りだした俺だから、階層の突破なんかおまけ以外の何物でもない。単に競争相手ライバルが減るから相対的に俺たちの取り分が増えるだろう、という予想の下に深い階層を目指していたというのが本音のところだ。

 九層で最初に出会った祭壇の祠の扉が開いた時には大いに期待したものだが、スカだったので事はそう単純でもないのだろうと言う予測が建てられただけでも大いに有益だと言える。

 きっと祭壇の祠には最初から全て何か入っているという訳じゃないんだろう。

 バルドゥックで言われていたことは「建国王は八層で手に入れた財宝を元にロンベルト王国を建国したのだから、八層に存在した祭壇の祠の財宝を全てではないにしてもかなり多く独り占め出来たのだろう」というような内容であり、俺もそれを否定する材料は持っていなかった。と言うより信じたかった。新しい階層に行けばそこの祭壇の間の財宝を取り放題だと思いたかったからだし、そうであった方が俺にとって都合が良かったからだ。

 だが、壁や床を掘って得られる鉱石はともかく(昔買ったツルハシなんかが無駄にならないのは重畳だ)、祭壇の間については依然としてスカがある事が判明したので、計画の修正を余儀なくされている。

 九層に行けた時には「安全に気をつけて適当に九層を探索するだけで誰にも手を付けられていないお宝が沢山得られる。万が一、領地を得られる程高価なお宝が得られなかったとしても、その先の十層のお宝と併せたら総合的にその程度の価値のお宝を得ることくらい訳ない、これでこんなカビ臭い迷宮とはおさらばだ」と思っていたことは確かだ。

 本当に取らぬ狸の皮算用だが、遅くとも来年中には迷宮とおさらばして(勿論格好だけは迷宮に挑む冒険者を継続する)半年くらいはミヅチが必要としている薬の材料を探し、見付かれば良し。完全に見付からなくてもかなり揃うだろう。同時にグィネを中心にダート平原の地図を作成させるため彼女の護衛に旅慣れたゼノムとラルファ、適当な戦闘奴隷を数人付けて探索させる。頃合いを見てそれなりの価値あるお宝を選別して国王に献上して……とか妄想していた。

 しかし、そうは問屋が卸さないだろうなぁ、とも心のどこかで思ってもいた。今回はそちらの方が正しいようだ。余程運が良くない限りはまだ暫く迷宮に潜る必要もあるんだろう。ミヅチは「普通は深い階層であるほど祭壇から得られる確率は高く、そしてより貴重な品が出るはず」とか適当臭いことを言っているが、根拠は前世のゲームらしいから全く信用出来ない。

 皆が言うように仮にミヅチの見解が正しいとしても(多分正しいんだろうなぁ、とは思うけど)確率が高くなろうがより貴重な財宝が手に入り易くなろうが、祭壇で確実にお宝が手に入ることと比べたら、結局やることは今迄と何一つ変わらないのだから。

 俺にしてみればみずほ銀行の販売する宝くじの一等から三等くらいまでの賞金が増え、当選本数が二倍や三倍になったからと言って「良かったね」とは言い難い。勿論悪いことじゃないけどさ。

 ただ、八層で最初に見た特別製のでかい祭壇、モンスターが召喚もされず、最初から祠の扉が開いていたあれを忘れた訳じゃ無いぜ。

 さぁ、そろそろ行くか。全員に発表する前にカームとジンジャーに打ち合わせという名の根回しをしておかなきゃな。
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