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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百八十一話 振られ気分で

7446年7月26日

 ロンバルド公リチャード殿下に付き添われて身体計測会場となっている三の丸の一室に戻る俺だが、頭の中は忙しく働いていた。今回国王や王妃から得られた情報はかなり貴重なものだ。まず、迷宮の各階層には守護者がいる(いた)らしいことが判明した。次に、守護者は何度も打倒するといずれ現れなくなる。ストックが切れる感じかね? そして最後に、守護者は何らかの魔法の品(マジック・アイテム)を持っている。

 但し、これは確定してない。少なくとも六層から八層までの守護者は持っていた、と言うのが正しいのだろう。一層から五層については建国王より前の時代に打倒されていたかして、その情報は不明だし、何とも言えない。

 それから、初めて打倒される守護者は業物と言うべき装備品――命名までされている装備品を身に着けてもいたようだ。生物でない、無機物に対する神社での命名は、まず最初に司祭だか神官だかから見積もり金額が伝えられる。それに納得すれば神社に一晩預け、翌日に正式な代金が伝えられる。安い場合は数万Zくらいらしいが、高価な物になるとン千万とかン億Zを請求されることもあるらしい。だいたい利己的なものに近くなるほど高価になるようだ。

 因みに、子供の頃に作った千歯扱きは完成した瞬間から【千歯扱き】と名前が付いていたし、【真鍮工芸品ブラス・クラフト】とステータスや鑑定でも表記されている挽き肉機(ミンチ・メーカー)は試しに命名に出してみたら七十万Zと請求された。金は払っていないので命名はされていない。何もせず挽き肉機を引き取るのに手数料に当たる五%の三万五千Zを支払っただけだ。最初の見積の段階で品物と【ミンチ・メーカー】と命名したい旨を伝えたところ、ステータスを見て難しい顔で弄り回した神官は「百万はしないのではないか」という見積を言ってよこしたのだ。

 ものは試しだと思い、俺のお手製(俺じゃなくてアルノルトのお手製か)の長剣ロングソードに【グリードの剣】と名付けたいと見積もって貰ったら、ステータスを見もせずに「ほぼ確実に億単位は下らないし、場合によっては十億二十億を超えても全く不思議はない」と言われたので無料で済む見積だけで脂汗を流して辞退した。

 因みに生き物の場合は結婚と同時でない、通常の命名の儀式の場合、一律十五万Zだ。そこそこ大金なので名無しの温床でもある。金持ちは牛馬にも命名することもある。俺もだけどさ。いつか俺の馬の名前を話す時が来たら教えてやるよ。あ、ミヅチの馬は彼女は玉竜と呼んでいるが命名はされていない。因みに国王が乗る馬は代々毛色によって「セーガイファー」、「ブラック・コーテザン」、「アシュリー」と名付けられているとのことだ。後ろの二つはともかく、最初の一つは訛ってんじゃねぇか。みっともねぇ。なお、牛馬を盗んでも盗んでから一年以内でないのであれば問題なく命名してくれるらしい。一年以内なら? 雷だよ。

 ミノから手に入れた戦斧バトルアックスは【両刃ダブルエッジ戦斧バトルアックス】とステータス表記されている。伝説の名匠カジバートが作ったと言われる【ブレード・カジバート】みたいに固有名詞が入っていなかったので皆だけでなく俺までもがつい見逃していた。名匠と言われる職人が製造したものには、希にその職人の姓が品物に付くこともあるらしい。

 また、いつの間にか名前が付いている事もある。例えば、ある地方で目印ランドマークになっている“とんがり岩”と呼ばれているような岩は【花崗岩】からある日突然【とんがり岩(ポインテッド・ロック)】になっていることもある。全くもってご苦労なこった。

「八層を突破したようだね。おめでとう、グリード君」

 俺の隣に並んだリチャード殿下は柔らかい笑みを湛えて祝辞を述べてきた。そう言えば国王との間で俺の話題が出たみたいなことを言っていたな。

「ありがとうございます。ですが、幸運に恵まれたことと仲間の手助けがあってこそです」

 殊勝に答えておく。

「謙遜するなよ。物凄く立派な事だ。誇るべき偉業だと思うぞ、私は」

 む、そう言えば彼のご先祖様の業績を抜いたんだ。謙遜したり殊勝なことを言おうものなら建国王の業績が大したことのないことであるかのように思われてしまいかねないな。

「……確かに。それなりの苦労もありましたし、強大な魔物に行く手を遮られもしました。誇りたい気持ちもそれなりにはございます。恐らく今のバルドゥックの冒険者では我々以外には無理でしょう」

「うむ。そうして誇るべき業績だ。グリード卿も我が事のように喜ぶのじゃないか? あの稀代の魔女にしてこの弟あり、というところだろう」

 ……アルは私が育てた、とか言って自慢する様子が目に浮か……ばない。俺の姉ちゃんはそんなことは言わねぇ。俺にしか。そもそも育てられてねぇし。

「そうだと嬉しいです。でも、まだ姉には頭が上がりませんよ」

「はっはっはっ、彼女は努力家だからなぁ……結婚はまだ当分先のようだな」

 え? 結婚の話なんかあんのかよ!? 見た目はそこそこ良いけど胸ないぞ? 俺が驚いた顔をしたからか、殿下は「まさか、知らなかったのか? 結構有名だと思ってたんだが」と口を濁した。ええ、存じ上げませんでしたですよ!

「ん、家族だから君も知っていると思ったんだがな。先月の終わりくらいか……今月の頭だったか? 騎士団の騎士に求婚したらしい」

 ああ、姉ちゃんの方から求婚でもしなきゃ……って、えええっ!?

「だ、誰に……?」

 あまりのことに声が掠れた。

「グロホレツ卿だ。理由は知らんが断られたそうだよ」

 ぷっ、きゃはは、振られてやんの! 振られてやんの、あの姉貴! ざまぁ……糞っ。
 グロホレツ卿なら知っている。
 姉ちゃんと同じ第三中隊の騎士だ。
 確か姉ちゃんが騎士の叙任を受けた翌年だか翌々年だかに騎士に叙任された人だ。
 鎧も売った……じゃない、姉ちゃんの騎士叙任の護衛で付いて来た時に親父があげたんだ。
 騎士としては姉ちゃんの後輩だが、年齢は七つ八つくらい上のはずだ。
 今は三十手前かぴったりくらいかな?
 俺の印象は薄いが顔だって判る。
 ちっ、あんた女を選べる面かよ!
 なんつー贅沢な事を抜かしてやがる!
 馬みたいな細面で、癖のある短い茶髪。
 髭も濃かったよな。
 剃るのが下手で顎の下に傷つけてたりもした。
 そんなご面相でも……スーパーエリートの第一騎士団なら選り取りみどりか。
 だが、糞……。
 そう言えば姉ちゃんは今日の納品時も俺とはあまり顔を合わせないようにラッセグやリョーグ一家とばっかり話をしていたな……。
 兄貴ともあんまり口を聞いていなかったように思う。
 なんだろう、この気持ち。
 イラつく。
 あの野郎、俺の姉ちゃんを振っただと!?
 美人で腕っ節もあり、魔術師としての技倆も確かな姉ちゃんだぞ。
 年だってまだ二十二だ。オースでだって充分に適齢期の範疇だ。
 一体どこが不満……俺は願い下げだ、あんな女。
 性格に難が有りすぎる。
 特に弟に対する数々の仕打ち……って程のことはされてねぇか。
 やばい、頭を下げてこちらからお願いすべき案件だわ、こりゃ。
 き遅れる前に姉ちゃんを娶ってくれるなら持参金だって持たせてやるべき……姉ちゃんも結構金持ってるからそれはいいか。

「……い……おい、どうした?」

 まずい、足が止まってた。ついでに俺の中の時間も止まってたようだ。思わず少し赤くなった気がする。

「あ、すみません。少し驚いたもので……」

「ふふ。可愛いところもあるんだな」

「は?」

「いや、気にしないでくれ」

 リチャード殿下はそう言うと歩を進めた。
 その目は幼い子供に向けるような色だった。
 ああ、クソ。格好悪ぃ。



・・・・・・・・・



 身体計測は終わり、バークッドの人たちは騎士団の人々と口々に挨拶を交わしているところだった。姉ちゃんも居るが、少し離れたところで立っている。

「行ってやったらどうだい?」

 リチャード殿下がそう言って俺に気を使ってくれた。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。俺は殿下に軽く会釈をして背を向けると姉ちゃんのところに向かった。

「何よ?」

 無理すんな。誰だって泣きたい時もあるんだぜ。みっともないから胸は貸さないけど、飲み行くなら付き合ってやるさ。個室を借りたっていい。

「何よ、気持ち悪いわね」

 俺も高校生の時の彼女、夕海に振られたときは数日後に不意に涙が出たものさ。なぁに、ちょっと飲んだらすぐに俺は席を外すよ。ダイナマイトになったって構いやしないぜ。

「なんなのその同情の……あ……」

 そんなに硬くなるなよ。
 ああ、そうだ。俺は知っちまった。知ってしまったんだよ。
 だけど、からかったりなんかしねぇさ。
 世界にたった二人、俺たち姉弟はたった二人だ。
 俺に出来ることなら何だってしてやるさ。
 腕力に物を言わせてグロホレツ卿を脅しつけるとか、一転して土下座してお願いするくらい軽いもんだが、それは姉ちゃんも望んじゃいないだろう。
 大体俺にそんなことされても姉ちゃんが余計惨めなだけだ。
 俺に出来る事は「知っちゃった」と言う事をそれとなく匂わせることと、一人になれるような場を用意してやるくらいだろう。
 姉ちゃんは未だに騎士団の宿舎で寝泊まりしているし、個室になったなんて聞いてない。
 騎士の叙任を受けたからにはもう個室を貰えてるんだろうか?
 ま、どっちでもいいさ。

「おい、ミルー、アル、何をやってる? こっちに来て一緒に団長閣下にお礼を言え」

 兄貴が俺たちを呼ぶ声がする。
 姉ちゃんも兄貴には知られたくないだろう。

「行こうか、呼んでる」

 思いの外優しい声が出せた。と思ったら少し怪訝そうな顔で姉ちゃんは俺を見た。ばっか、俺だって成長して……生まれた時から酸いも甘いも噛み分けたいい大人だっつーの。

「うん……」

 とは言え、案外素直に頷いて俺の後に付いてきた。

 兄貴と握手しながら豪快に笑うローガン男爵に挨拶と次回の注文のお礼を言い、ばしばしと男爵に背を叩かれる俺の横で姉ちゃんも頭を下げる。ローガン男爵は特に変わった態度に見えなかった。いつも通りな感じだ。第一騎士団には姉ちゃんの他にも何人かの女性も居るし、こういった色恋の話だって無い訳じゃないんだろう。それに、もう一月ひとつきも前の話だと言うし、騎士団長が気にするようなものじゃないだろうさ。



・・・・・・・・・



 その日の晩、兄貴達やリョーグ一家、ドンネオル一家に加えて俺の奴隷(勿論戦闘奴隷のズールーとエンゲラだ。子供たちを含めバストラル夫妻とギベルティは一緒ではない)と一緒に大宴会となった。姉ちゃんは騎士団の仕事があるとかで参加していない。

 お題は勿論俺の八層突破だ。周囲に持ち上げられ、ひとしきりいい気分を味わいながら大いに食べ飲んだ。珍しいことに兄貴は喜んでかなり酔っ払っていた。兄貴にこんなに喜んで貰えただけで大満足だよ。甲斐もあるというもんだ。そういやあ姉ちゃんからまだ祝辞を貰ってねぇな。ラッセグたちの顔見せもあるし、まだまだ王城の第一騎士団の詰所には暫く顔を出さなきゃならんし、明日以降、どっかで顔を合わせた時にでも休みの日を聞いて晩飯に誘ってやろう。



・・・・・・・・・



7446年7月27日

 朝から行政府に行って商会の従業員の登録を済ませるのにかなり時間を食った。どこの世界もお役所ってのは大変なもんだ。決してサボっている訳じゃないのに下々はつまらない事で不平ばかり言う。とは言え、それも仕方のないことではある。難しいね。

 本当はいちいち登録なんかしなくてもあんまり問題になることはないが、きちんと登録してあればいろいろ安心な部分も多いし、万が一の時に変な突っ込まれ方もされない。面倒臭いがこれも世のしがらみって奴の一つだろう。

 ラッセグを筆頭にラフィットとミリーとハリスの五人で日がな一日、行政府の傍の茶店でお茶を啜って駄弁り、鼻くそをほじって過ごしていたようなもんだ。交代で一人づつ行政府のロビーでいつ呼ばれるか解らない待ち時間の長いことといったらもう、筆舌に尽くしがたいよ。

 ま、いい骨休めになったかな?

 行政府での用事が済んだあと、彼らを連れて工場の方にも顔を出す。奴隷たちに紹介もしなきゃならんし、お互いに顔と名前くらいはしっかりと覚えておいて欲しいからだ。

 工場の通りに面した場所に屋台が出ていて数人の人だかりがあった。キャシーの呼び込みに加え、元気なジョンの声が響いている。あと二人居るようだが、テリーじゃないな。別の奴隷の子に売り子を経験させているんだろう。

 早速やってやがるのか。良い滑り出しなようで安心した。報告は受けていたがちゃんとこの目で確かめるってのは実感が伴うからねぇ。しっかし、屋台に不向きそうなあんな悪い場所なのに良く客が集まってるもんだ。

 少し離れた所から様子を窺っていたが、「なんでも良いから一本買って食ってみろ」と言って戸惑うハリスに大銅貨を一枚(一千Z)握らせると送り出した。ラッセグとミリーがしきりと恐縮していたがこれはハリスの勉強でもある。ハリスは買い物なんかしたことはないはずだ。

 さて、どうなるかな?
 今日の朝飯や昼飯の時は俺が支払っていた。
 ちゃんと見てたら出来るよな。

 俺に命じられたからか、初めての買い物で興奮しているのかパタパタと駆け出したハリスの足はすぐにゆっくりになった。人だかりの傍で観察しているようだ。売り子に欲しいものを告げ、商品と引き換えに金を渡す。お釣りがあればすぐにそれを受け取る。そして買ったバルドゥッキーにお好みでマスタードをつけて齧り付く。単純だが金の使い方を覚えるには良いだろう。別に難しいことじゃないさ。

 ハリスが売り子をやっていた奴隷の子に何か言った。
 奴隷の子はフライパンでバルドゥッキーを焼いているジョンに何か言う。
 ジョンは「はいよっ」と威勢良く返事をしてフライパンから焼けたバルドゥッキーを選ぶと売り子に渡した。
 売り子が何やらハリスに告げ、ハリスはしっかりと右手に握っていた硬貨を差し出すと同時に左手でバルドゥッキーの串を受け取るとマスタードの瓶からスプーンで掬って塗りつけた。
 齧り付く。
 笑顔が溢れているようだ。
 売り子がお釣りをハリスに差し出すと、少し驚いた顔で受け取った。
 忘れてたな、ありゃ。
 思わず俺がプッと噴き出す。
 ラッセグ達も気が付いていたのか、またもや恐縮そうに詫びてくる。
 いいんだ。
 これでもう二度とお釣りについて頭から離れることはないだろう。
 お釣りを受け取ったハリスはすっかり口が止まらないようで、齧りながら俺たちの方に戻ってくる。
 少しはにかんでいた。

 ハリスから俺に手渡されたお釣りは銅貨五枚(五百Z)だ。あれ? 少なくねぇか?
 ハリスがかじっているバルドゥッキーはカゾット(チーズ)入りの奴だ。六百五十Zのお釣りのはずだが……?
 どういうことだ?
 幾らハリスが金の使い方を知らなかったとしてもお釣りを誤魔化すとは思えない。
 とすると計算ミスだろうか?
 あの売り子の奴隷は買ってからまだ一月くらいだし、そういうこともあるんかね?

 不思議に思いながらも戻ってきたハリスがバルドゥッキーを食べ終わるまで待つと揃って工場へと歩いて行った。屋台に近づくと原因が判明した。カゾット(チーズ)入りだけ五百Zの値札が立っている。チレ入りより高ぇじゃねぇか。こんな値段でよく売れるな。

 俺が皆を伴って傍まで行くとキャシーがすぐに気が付いたようだ。続いてジョンも。そして売り子二人も。

「「いらっしゃいませ、ご主人様」」

 ジョンとキャシー以外の売り子二人が慌てて俺に挨拶をする。その声で並んでいた客も俺に注目した。オーナー登場だしな。

「ん」

 軽く頷くだけでその場はやり過ごした。軽快に声を上げながらもキャシーとジョンの二人が僅かに「失敗した」と言う表情を浮かべる。ははぁん、接客中の挨拶は例え俺でもしなくていいって言うの忘れてたな。ま、いいか、気がついてるみたいだし。

 工場に入るとバストラルとギベルティ、テリーが丁寧に挽き肉機の使い方を指導していた。ズールーとエンゲラは手持ち無沙汰のようで隅っこの方で椅子に座っていた。俺の顔を見た奴隷達が一斉に「おはようございます、ご主人様」と唱和する。

 バストラルが自慢気な表情を浮かべている。おはようございます、って仕込んだのお前か。

 なお、カゾット入りの価格についてバストラルに聞くと「ああ、カゾットはあんまり仕入れられませんからね。高級プレミアムと銘打って高めの価格設定にしてるんですが、ちゃんと売り切れますよ」と言っていた。こいつ、やるな。

 
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