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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百七十九話 九層

あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い申し上げます。
7446年7月17日

 ほぼ予測通りの時間、今朝九時頃に、合計九匹目のミノタウロスを殺した。やはり平均すると十七時間という復活サイクルは正しいようだ。正確には十七時間強だと思う。十三日にバストラルを地上に戻してから空き時間に半数づつ、この部屋の探索も兼ねてランニングをさせているが、不審なものやモンスターには全く出くわしていない。一回だけミノタウロスを倒した直後に九層に転移してレッドバトルクラブを狩ったくらいであとは念のため出来るだけ様子を見て過ごしていた。

 また、この日までに第二シャワー室とでも言うべき場所を発見していた。柱から二百mほど離れた場所に丁度良いコの字型の岩があり、その中心も平らに近い石なのでそこまで穴を開けた桶を持っていけばすぐにでもシャワー室として使えることを確認出来た。第二とは言え、転移水晶の部屋の換気が悪い以上、今後はこちらが使用の主体となるだろう。

 移設しないのは実験の結果に過ぎない。シャワー用の櫓を転移水晶から百m以上離れた場所に作ると大体一昼夜で縄で縛った部分が勝手に緩んで崩れてしまう。しかし、不思議なことに桶の箍が外れたりはしない。これらはもっと長い時間をかけて外れるのだろう。また、武器など金属が多い物であればあるほど壊れるまでの時間は長いように感じる。数十年、数百年単位でないと壊れないのだろう。

 このあたりの迷宮の特性を掴む事においてもこの八層の転移水晶を収める柱とその周囲は最適の実験場だと言えるだろう。今まで自分たちの感覚的な部分だけを頼りに、間違った思い込みをしていることもあるかも知れない。試しに単なる縄に結び目を作って放置しておいたら一昼夜で結び目はかなり緩んでいたしな。縄の耐久値自体は鑑定しても減っていなかった。そりゃそうか。

 ま、僅かな不便さにさえ目を瞑れば明るく開放的な場所でシャワーを浴びられるのだからあんまり気にしても仕方がない。そういうものだ、と受け入れるしかないだろう。尤も、この辺りの事は結構前から観察されていたようで、その観察成果の正しさを再確認したに過ぎない。だが、危険な通路で観察を続ける訳じゃ無いのでこちらの方がより正確に時間との関係を精査出来る、というだけに過ぎない。

 とにかく、ミノタウロスについてはほぼ正確な復活サイクルが掴めただけでも大収穫だし、八層の転移水晶の間の基地化もそこそこ満足の行くものになった。では、ギベルティは先に帰し、七層でオーガを狩って稼いだら今回は帰ろうか。

 走ったりうろ覚えのラジオ体操をしている程度じゃ鈍るしな。訓練が必要だ。



・・・・・・・・・



7446年7月18日

 さて、大量に食料を買い込んでいるのでこれから一週間は九層の探索を中心にする。皆も先週は碌に稼げていない(それでもオーガの魔石で三千万Zとかなりの金額は稼げているけどね)し、大して働いた訳でもないから休み無しでも諸手を上げて歓迎だ。但しバストラルだけは今回は同行せず、昨晩戻ったときにギベルティの後を追わせ、王都の工場へと向かわせている。

 いつも通りのペースで八層に到着した。一晩休み、朝飯を食い、全員でランニングをたっぷり二時間。シャワーも転移水晶の間と外の第二シャワー室で浴びて汗を流す。そして景気づけに朝九時くらいに復活したミノタウロスをぶっ殺してから九層に転移する水晶棒を掴む。

 さあ、九層突破を目指してこれからもいつも通り歩きまわるぞ!



・・・・・・・・



7446年7月22日

 九層に行き始めてから初めて祭壇の間に辿り着いた。勿論、祭壇の無い普通のモン部屋は幾つか見つけているよ。モン部屋の主は八層より少し数の増えたトロールが中心だが、ケイブトロールとかトロール・キンとかも出てきている。まぁ全部焼き殺せばいい。焼き殺さなくてもダメージを積み重ねて擬似的に殺してから纏めて焼いてもいい。あ、結局焼き殺すってことか。どっちでもいいや。

 で、その九層の祭壇の部屋なんだが、全員期待したよ。そりゃあもうね。ガーゴイルの数は相変わらず四匹だが、レベルが一~二レベル上昇していた。それと召喚されたモンスターはちょっと嫌な奴だった。グリーンポイズンリザードって奴で、フロストリザードの親戚みたいな奴だ。それだけじゃない。なんと、多数のコボルドも一緒に召喚されてきたのだ。

 で、そのコボルドだが、全員がこんな奴らだった。

【 】
【男性/22/7/7446・小犬人族・第六氏族】
【状態:良好】
【年齢:0歳】
【レベル:5】
【HP:10(10) MP:24(24)】
【筋力:2】
【俊敏:2】
【器用:1】
【耐久:2】
【特殊技能:地魔法(Lv.3)】
【特殊技能:水魔法(Lv.3)】
【特殊技能:火魔法(Lv.3)】
【特殊技能:風魔法(Lv.3)】
【特殊技能:無魔法(Lv.5)】

 な? 嫌な感じがするだろ?
 今までちゃんと魔法を使ってくる敵ってのは七層のオーガメイジくらいしかいなかったが、一度に出てくるのは七層のモン部屋に予め居る数匹だ。多い時でもせいぜいが五匹だろう。それに、魔法の特殊技能レベルには多少バラツキがあって高くても四レベルだったし、基本的には何か魔術弾頭を飛ばしてくる攻撃魔術しか使ってこなかった。

 しかし、こいつらは全く違う。

 最初の時は十五匹も同時に召喚されてきた上、どいつもこいつも揃って全元素魔法が使え、魔法の特殊技能のレベルも皆同一だ。そして、厄介なことに攻撃魔術を使ってくるのは勿論だが、その中にアンチマジックフィールドやクァグマイアが含まれていたのには閉口するしか無かった。おまけにキュアーなんて初歩的な治癒魔術まで使う奴もいた。

 つまり、俺様の切り札で必殺技の埋め立てや氷漬けが殆ど意味を成さない。鑑定するまでもなく数が多いというだけで氷漬けにしたものの、僅か数秒で氷に大穴を開けられた時には腰を抜かすほど驚いた。死体を鑑定して初めて全元素魔法が使えることを知ったくらいだしね。効果範囲は大して広くはないがクァグマイアも地味に嫌な攻撃だ。泥沼に足を取られたところに躱しようのない範囲でグリーンポイズンリザードの毒のブレスが襲いかかってくるのだ。

 この毒は、吸い込んでしまうと胸が内部から爛れるような痛みを齎し、呼吸が苦しくなる。呼吸が苦しくなるのだからそれに伴って、当然低酸素状態に陥るので身体能力は落ちる。【状態】が何かの中毒になる訳ではないのでキュアー系統の治癒魔術で回復出来るのは助かるが、やはり痛みは残るし、まともに治療をしようとするのであればかなりの魔力を注ぎ込む必要がある。

 まぁ、コボルドのMPを超えるように五本弾頭のストーンボルトミサイルなんかでアンチマジックフィールドを食い破って攻撃魔術を放てば残りの一本で即死させられるんだけど、そんな魔術を実用的に使えるのなんて俺だけだしねぇ。よっぽどファイアーボールでも叩き込んでやろうかと思ったくらいだった。後で考えたらそれが正解なんだけどさ。

 二百くらいのMPのファイアーボールをぶち込んでコボルドたちに揃ってアンチマジックフィールドを使わせてファイアーボールの爆発を消滅させ(直撃させた一匹はアンチマジックフィールドを使っていようが、当然それを貫通して丸焦げで、飛び散る燃えた石を他のコボルドにそれぞれアンチマジックフィールドで防御させて魔力を消費させるのだ)てやればいい。後はしょぼいアロー系の攻撃魔術やクァグマイアにさえ気を付けて落ち着いて対処すれば問題ない。

 だが、最初の時はそこまでは頭が回らず、氷を消されたなら攻撃魔術の連射で片っ端から撃ち抜いてやる! と頭に血が上っていた。俺の魔術とミヅチとベルの矢でコボルドを片付けた時にはズールーとグィネが酸素摂取量の減少と痛みから舌を出して呼吸に喘いでおり、グリーンポイズンリザードには残ったゼノム、ラルファ、トリス、エンゲラが群がって叩き殺しているところだった。

 とにかくズールーたちに治癒魔術を繰り返しかけて治療し、生き埋めにしていたガーゴイルの首を刎ねた後でやっと開いた祠の扉の中はいつも通り空っぽで、その日は貴重な教訓を得ただけで先に進むしかなかった。

 ミヅチは「コボルドやゴブリンにも魔法を使う奴がいてもおかしくはない」と前から言っていたが、同時に「魔法を使うにはそれなりの精神集中や修行も必要だからそうそうは居ないと思うし、万が一居たとしても知れてるでしょ」とも言っていたので俺も含めて皆すっかり忘れていた。何しろ、今までそんな話はミヅチからしか聞いたことは無かったし「コボルドが魔法が使う」なんて彼女以外、バルドゥックの冒険者たちの口の端に上ったことすらないのだ。

 俺も正直、コボルドが魔法を使うだなんて、夢にも思わなかったよ。コボルドにも魔法の修業をする根性のある奴がいるんだねぇ……違うか。



・・・・・・・・



7446年7月23日

 一昨日とは別の祭壇の間に到着した。いつも通りガーゴイルを首だけ出して土で埋めると、今度こそ用心して部屋の真ん中、祭壇の前まで進む。魔法陣が床に展開され、モンスターが召喚される。今度はゴブリンが二十匹近くだが、鑑定結果は先のコボルドと大差ない。そして、祭壇正面、俺達の真ん前に召喚されたのは真っ黒い肌をした一見ゴブリンのような奴が居た。

 俺の脇で身を固くしたミヅチが驚くようなはやさでストーンジャベリンを叩き込んだが、その黒いゴブリンはひらりと魔術弾頭を躱し、宙に浮いた。背中からコウモリみたいな羽根が生えていやがった。おまけに先っぽが鏃みたいな細長い尻尾までケツにぶら下げていやがる。

【 】
【男性/23/7/7446・小悪魔インプ族】
【状態:良好】
【年齢:0歳】
【レベル:8】
【HP:59(59) MP:38(38)】
【筋力:9】
【俊敏:15】
【器用:10】
【耐久:9】
【特殊技能:浮揚】
【特殊技能:地魔法(Lv.4)】
【特殊技能:水魔法(Lv.4)】
【特殊技能:火魔法(Lv.4)】
【特殊技能:風魔法(Lv.4)】
【特殊技能:無魔法(Lv.5)】

「悪魔よ!」

 ミヅチが注意を呼びかけた時にはそのインプ目掛けて放たれた俺のミサイル付きのファイアーボールが着弾寸前だった。躱し切れなかったインプが歪んだ顔をしながらもアンチマジックフィールドを展開するが、その魔力を食い破ったためか驚いたような顔をしたインプの胴にファイアーボールが着弾し、燃え盛る炎に包まれた石を飛び散らせて爆発した。勿論周囲のゴブリンも巻き込んで体を引き裂く。しかしミヅチ、なんで判ったんだ? 後で聞いたら「コウモリの羽根で鏃の尻尾と言ったら悪魔しかないでしょ?」と事も無げに言われた。俺にはよく分からんが、そういうもんかね?

 残ったゴブリンたちは一斉にアロー系の魔術を使ってくる(多分)が、精神集中が終わるより前にゼノムやラルファ、トリス、ズールー、エンゲラが彼らの集団に飛び込んで暴れ、グィネが槍で突き殺し、ベルが遠い奴を弓で射殺してしまったので魔術を放てたのは僅か一匹に過ぎなかった。そのストーンアローもトリスの盾で弾かれてしまい、ミヅチがそいつの首にナイフを投げつけて斃した。

 それからガーゴイルを始末して開いた祠の中には一振りの剣が収められていた。

 柄に触れないよう、鞘の部分だけを持ってエンゲラが恭しく俺に剣を差し出してくる。

 柄の長さは十五㎝程、精緻な装飾の施された派手な鍔があり、鍔と揃いの装飾が施された白い鞘の長さは八十㎝はないかな? 長剣ロングソードサイズだ。

「ステータスオープン」

炎の剣(フレイム・タン)

 うひょ。

 続いて小魔法キャントリップスのマジカルディテクション。
 反応がある。
 うむ。

 念のため無魔法のディテクト・マジック。
 びんびんに反応がある。
 うむうむ。

 最後に当然ながら【鑑定】をしてみた。

炎の剣(フレイム・タン)
【チタン鋼】
【状態:良好】
【生成日:23/7/7446】
【価値:1】
【耐久値:53256】
【性能:135-205】
【効果:刀身から炎を発することにより、炎に弱い対象に対しては最大でクアドラプル・ダメージまで望める。また、炎の明るさは通常のライトの魔術と同等である】

 ほほう。サブウインドウを読んでみると、柄を握った装備者が刃の表面に刻まれた呪文コマンドワードを唱えることによって三十秒間だけ刀身から魔術的な炎が発生し、通常のダメージに上乗せされるとな! この炎は何度でも発生可能だが、必ず発生から三十秒経過するか、鞘に収めることで消えるそうだ。高温に強いチタン鋼を使ってるのも頷ける。

 鞘を左手に、柄を右手に持ってすらりと引き抜いてみて驚いた。刀身が緩やかに波打っている。真っ黒い刀身のリカッソには「エメロン」という呪文コマンドワードが刻まれている。

「すげっ」
「あ……魔法の(マジカル)……」
魔法の武器(マジカル・ウェポン)だ」
「すごい魔力ね」
「ほう、フランベルジュか。片手用とは珍しいな」
「「おめでとうございます! ご主人様!」」
「ミヅチさんの剣みたいに黒いんだね」
「名前あったのね?」

 最後にミヅチが俺の顔を見て確信したかのように言って来た。

「ああ、凄いぞ。炎の剣(フレイム・タン)、と言うのだそうだ。これか? エメロン!」

 俺が呪文コマンドワードを唱えた瞬間に波打つ刃から小さな炎が噴き出し、周囲を照らした。そのまま適当に振ってみるが炎は全く弱まるようなこともなく刀身に絡みついている。炎で輝く刀身は残像を残すかのように美しく周囲に自己主張をしている。

 ……しばし、炎の宿った刀身を見つめる。

 三十秒経ったのだろう、炎は刀身の中に引き込まれるかのようにしゅっと収まった。

 剣を鞘に戻した俺は、トリスに剣を渡すと「トリス、お前が使え。ベルの剣みたいに使用者が刀身を握って呪文コマンドワードを唱えると暫くの間炎が出てくるようだ」と言って肩から自分の銃剣を降ろして手に持った。

「え!? こんな強力そうな魔法の武器(マジカル・ウェポン)、アルさんが使うべきでは?」

 剣を受け取りつつトリスが意外そうに言う。

 ばっか、お前、俺の銃剣にはそれ、鍔が装飾過多で邪魔んなって入んねぇよ。
 それに入ったとしても炎が出たら使えねぇじゃんか。

「いいんだ。トリスは火魔法が使えないんだし、丁度いいだろ。後でどのくらい炎が使えるのか試しとけ。じゃあ魔石採ろうぜ」

 そう言って自らゴブリンの胸に銃剣を突き立てた。さっきのコボルドは魔法が使えただけあって一層のモン部屋の主並の価値の魔石だったのだ。こいつだって似たようなもんだろ。捨てるには勿体無い。

 炎の剣って格好いいよね。正直使ってみたかったけど、まぁいいや。そもそも白兵戦に於いて俺の得意技は自衛隊の銃剣格闘がベースになってるし、魔法の武器(マジカル・ウェポン)を補って余りある豊富な魔力だってある。

 だが、単なる俺の予想にすぎないが、あの【炎の剣(フレイム・タン)】ってトロールに対して必殺の武器じゃなかろうか。それに、虫だのカニだのに対してもね。

 ミヅチに聞いたら「多分その通りだと思う。それに、アンデッドなんかにも相当有効なはず」だってさ。良かったな、トリス。

 
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