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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百七十七話 調査開始

7446年7月8日

 朝、リョーグ一家やバストラル夫妻と飯を食っている時に当面の話をした。まず、俺は飯を食ったらさっさとバルドゥックへ戻ること。次に来週からの工場の試験稼働に向けてキャシーを残していくこと。そして、今週末にギベルティだけを迷宮から先に戻し、キャシーの補佐をさせることだ。

「俺は明日から最低でも十日くらいは迷宮に入りっぱなしになる。出たら一度様子を見に顔を出すよ」

 俺たちは明日から(残っている奴らが気を利かせて資材調達などを済ましているのなら、今日戻って一休みした昼くらいからになるが)また迷宮に入り、八層の基地化を済ませる必要があるのだ。

「その後はまたすぐに迷宮に行くけどな。それで、出た頃……えーっと、三週間後くらいには兄貴も来るだろ。そしたらいろいろやることも多いし一週間はこっちで過ごすと思う」

 大体の予定を伝える。更に、奴隷たちにゴムサンダルを支給してやれ、という事や、細々とした話であっという間に食事の時間は過ぎていった。その後店に戻り、奴隷たちに食事を食べさせてやっていたズールー達が戻ったのを見計らって帰ることにした。出発時の別れ際にバストラルとキャシーがキスをしていやがった。いいねぇ、若いのは。甘酸っぱくなる。

「なにやってんの? お前?」

 ミヅチに言う。指咥えんなよ。みっともない。

 俺とミヅチ以外の四人はバルドゥックで借りてきた馬車だ。見送るリョーグたちやキャシーに手を振ってロンベルティアを発った。



・・・・・・・・・



 さっさと戻ったのでバルドゥックに着いたのはまだ十時前だ。馬車を返却し、ボイル亭に戻ると丁度ゼノムとトリスが大荷物を背負って戻ったところだった。おお、気が利くな。

「お帰りなさい、アルさん。資材は全部揃えました。後は食料を買い込めば終わりです。そっちの方はベルたちが買いに行っています」

「ん……そうか。じゃあ俺は屋台の件でムローワに行って来るわ。全部集まったら装備を整えて入口広場で待っててくれ。……ああそうだ、ギベルティ、ミヅチから俺の装備を受け取ってズールーに渡しといてくれ。ズールーだけ入口広場で待たせといてくれ」

 俺は厩舎に馬を預けるとギベルティにズールーだけを残して先に行けと指示した。

「みんなは先に迷宮に行ってろ。途中で俺を待つ必要はない。三層の転移水晶の間で会おう」

 それを聞いたゼノムとトリスはすぐさま部屋に戻り装備を整え始めるようだ。俺も自分の装備一式をギベルティに渡してやらにゃあ。部屋に向かった。

「なにやってんの? お前?」

 部屋に入り、装備を纏めようとしたらミヅチまで付いて来た。

「お前も皆と行くんだよ。早く鎧やらなんやら身につけてさっさと行け。今日は荷物も多いからな。スタートも遅いし、強行軍になるぞ」

「……ちゅー」

「は?」

「行ってらっしゃいのちゅー」

 ……バストラルたちが羨ましかったのか?

 幾つだよ……。

 今は十八か。



・・・・・・・・・



 ムローワの親父と屋台の話を済ませ、入口広場へと向かう。ちょっと無駄話し過ぎちゃったかな? 暑い中ズールーを待たせてへばられることを考慮していなかった。だけど、あいつなら体力あるから大丈夫だろ。

 入口広場に到着すると、木陰の涼しい場所でズールーが待っていた。手早くゴム鎧を身に付け、荷物でパンパンになっている俺のリュックサックを背負う。あれ? あんまり重くないぞ? タオルや着替えなどの軽い荷物を主体にしてくれたのか。

「皆はいつ頃行った?」

「半時間くらい前でしょうか」

「そっか、飯は?」

「食べました」

「悪い、俺まだなんだ。ちょっと待っててくれ、串焼き買ってくる」

 左手に串焼きを五本も持ちながら銃剣を受け取りズールーと二人、迷宮の入口を潜る。二人で一層へと転移し、ズールーが預かっていた地図を広げさせ、現在地のアタリをつける。串焼きをむしゃむしゃと食べながら番号を確認して地図を見て現在地を確定させた。

「ん、もういいぞ。畳んでくれ。解んねぇし、こっちだな」

 塩味の豚ロースをくちゃくちゃと噛みながら歩き出した。安物の肉は硬いな。

 なんだかんだで一層を突破するのに三時間掛かってしまった。ズールーのリュックサックのポケットに入れてある時計の魔道具で時間を確かめると十五時を少し回っている。

「ちょっと急ごう」

 ズールーに声を掛け、トイレ休憩だけで二層へ行くことにした。
 さっさと八層まで行ってミノタウロスの復活サイクルやなんやの調査をしなきゃならんのだ。



・・・・・・・・・



 二層へ転移して急ぎ足で一時間。途中のモン部屋は四ヶ所を通り過ぎたが、主が居たのは最初の二つだけだ。あとの二つはオウルベアやノール・シルバーヘアードの死体が転がっていた。誰かが通った後なんだろう。傷口からして先行している殺戮者スローターズではなさそうだ。

 しかし、楽なのは確かだ。早歩きのような速度でどんどんと行程は消化出来るはずで、歓迎するべき道程だろう。この分なら二時間くらいで二層を突破出来ると思われ、ズールーと二人、楽な気持ちで迷宮の通路を歩いて行った。

 しかし、二十分程で歩みが遅くなった。

 戦闘音だ。

 人の叫び声や怒号、モンスターのものだろう金切り声が聞こえて来たのだ。

 あの金切り声はオウルベアだろう。

「どうします?」

 ズールーが尋ねてくるが知れたことだ。

「ん……行くぞ。決着がついて無いようであれば様子見だ」

 二人でてくてくと通路を歩くこと一分。モン部屋に到着した。
 その間依然として戦闘音は続いていた。
 オウルベア相手に何分も戦闘しているなんて決め手の少ない三流パーティーだろう。

「どら……知ってるか?」
「いえ、存じ上げません」

 一匹のオウルベアと、こちらにケツを向けて必死に闘っているパーティーは六人組の男女だ。金属帯鎧バンデットメイル鎖帷子チェインメイルなどの豪勢な装備からして俺もズールーも知らない奴らだ。年の頃は……お揃いにしているらしい面頬付きの兜でよく分からん。全員普人族(ヒューム)か? それに革ブーツ――ありゃウチの商会が扱ってるゴム底じゃねーか――も履いているし、碌に鑑定も出来ないからレベルも良く解らない。

 かろうじて後方で指揮を執っている奴だけは兜から外に出ているくすんだ金髪を鑑定して、レベル八で普人族ヒュームの聞いたことのない男爵家に連なる一つ年上の女だということが解ったくらいだ。魔法は二種の元素魔法が使えるようだが、レベルは無魔法でも二と低い。

 二層に顔を出すような奴らで知らないってことは、最近バルドゥックに来た実力派なのだろうか? 希にロリックたちのようにどこぞの騎士団出身とかいう奴が流れてくることはあるし、三流とか言って失礼だったかな。

 オウルベアはかなり傷ついており、もう余程のことが起きない限り冒険者側が負けるようなハメにはならないだろう。だが、彼らは一切の油断をせずきっちりと戦列を組んで連携を取って闘っている。へぇ、結構やるじゃねぇか。

 勿論、殺戮者スローターズに所属する誰と比べても動きに無駄も多い部分が目立つが、指揮官リーダーとして後衛に立つ魔術師らしい槍を持っている女の指示でお互いの弱点を良くカバーし合っているようだ。魔法は一切使ってないがね。俺とズールーは水筒のゴム栓を抜いて喉を潤しながら彼らがオウルベアを嬲る様子を眺めていた。

 そのリーダーらしい女がオウルベアに止めを刺した。

 最後の方だけだが見ていた限りでは怪我人も出ていないようだし、なかなか見事な連携を誇っていると言えるだろう。三層でもやっていけるんじゃね?

 とにかく、戦闘の邪魔はしなかったし、俺達には関係がない。さっさと通り過ぎて皆との合流を目指そう。全員戦闘終了後に息苦しい面頬は跳ね上げているが、別にもう興味もないのでそのまま通り過ぎようとした。

「ん、行くぞ」
「はい」

 ズールーに声を掛けて部屋に足を踏み入れた。勿論、要らぬ刺激をしないように最短距離で部屋を突っ切るような真似はしない。壁沿いをてくてくと歩き出したのだ。当然ながら彼らも俺たちに気付いているようで、こちらが部屋に足を踏み入れた時から注目を受けている。何人かは用心のためもあるだろう、再び面頬を下ろした。やぁ、どもども。邪魔なんか何一つする気はないから端っこを通してくれよ。

 彼らのパーティーのうち前衛の左右で戦っていた二人はオウルベアから魔石を採ろうと死体に剣を突き立て始めた所だ。

「見ちゃいられませんな」

 ズールーが囁く。彼らの魔石の採り方についてだろう。初心者にありがちな無駄の多い解体を行っているのは俺も気が付いていた。ズールーが言わなければ俺も同じ事をズールーに言っていたくらい、初心者丸出しの採り方だ。なかなかの戦闘力とはうらはらに冒険者として未熟過ぎる。やはりどこかの騎士団から流れた奴らか。

「そうだな……」

 ズールーに返事をして壁に沿って大回りをしながら目的の通路に向かって歩いて行く。敵意を示さないように武器は手にしていない。俺は銃剣を肩に掛け、ズールーは剣を鞘に収めている。と、その時になってやっと気が付いた。俺達の向かう先の部屋の隅にリュックサックが投げ出されている。彼らの誰かの荷物だろう。足を止めて部屋を見回すとリュックサックが人数分転がっていた。

 ちっ、これだから初心者は……部屋には主が居るのが当たり前だ。不意を打たれでもしない限りは荷物があちこちに投げ出されているなんてあり得ない。リュックサックもお揃いのようだし、この荷物は彼らの物で間違いはないだろう。

「あー、すみません。通りますよ」

 置き引きと勘違いされるのも癪だし、一言くらい声を掛けておくべきだろう。

「失礼しましたっ! すっ、すぐにどかしますぅ」

 すると、その冒険者の一団から一人の女が進み出てきて俺達に声を掛けてきた。リーダーとは別の奴だ。腰に歩兵用の剣(ショートソード)を吊っている。メインアームに槍を使っていたアタッカーだった奴の一人だ。

「ああ、いえ……すみません」

 足を止めたまま返事をする。彼女はリュックサックを持ち上げてまた中央辺りのオウルベアの死体の傍に戻ろうとした。彼女の身を包んでいる鎖帷子チェインメイルはそこそこ使い込まれているようだが、少なくとも青色のこいつの家のものだろう家紋が刺繍された少しボロいサーコートからはみ出した、見える範囲の手入れは行き届いており、錆の一つも浮いていない。

 リュックサックを運ぶ彼女を見送ってまた進もうとした時だ。別の男から声を掛けられる。前衛の真ん中で壁役シールドホルダーを担っていた奴だ。

「なぁ、済まないが少し話を聞かせてくれぬか? いや、勿論礼はするつもりだ」

 こいつも結構若そうで、年齢は俺と同年代か少し上だろう。

「何でしょうか?」

 俺は足を止めたまま近づいてきた重ね札の鎧(スプリントメイル)を着た男と向き合った。

「その……見たところその金属鎧プレートメイルは第一騎士団の方々が使っているものと同じものだろうか?」

 ほう? お客様かね? とは言え、王国騎士団以外にはまだまだ売るつもりはないよ。

「正確に同じではありませんが……メーカーは一緒ですよ」

 知っているなら誤魔化しは意味が無いだろう。

「なんと! では、その鎧はバルドゥックでは結構出回っているのであろうか?」

「いや、バルドゥックでは購入出来ないでしょうね」

「むむむ。とすると、グリード商会からか……。グリード商会とはどうやって渡りをつけたのか教えてはくれぬか? 何度も頭を下げたのだが決して売って貰えないので困っていてな……一着でも良い、どうしても欲しいのだ」

 渡りって……私はそのグリード商会の商会長なんですがね。って知るわけ無いか。しかし、揃って冒険者らしくない、かなり豪勢な装備なんだし、今更別に要らんだろ? っつーか、これではっきりした。きちんと俺の顔を見ても俺が殺戮者スローターズのリーダー、アレイン・グリードであることに気が付いていない。ぎこちない魔石の採り方と言い、こいつらやっぱり新人ニュービーだ。

 だが、疑問は残る。

 第一騎士団が黒染の金属鎧プレートメイル(ゴム鎧)を使い始めている事は王都に居て騎士に興味が有るやつなら大抵知っている。調べればグリード商会が供給元であるということだってすぐに判るだろう。地方の成金騎士が引退して冒険者稼業でも始めたのかと思っていたら……どうも違うようだな。ゴム鎧に興味を示しているということは、ある程度でもその優秀性を知っているということでもある。地方出身者がバルドゥックに来た、という訳ではないらしい。

 しかし、王国の正騎士団の誰かが纏まって引退して冒険者をやるなんて事でもあれば、それが姉ちゃんの耳に入らないなんてことはない。幾ら俺に厳しい姉貴だとは言え、それを知ったらどんな奴か情報くらいはくれるはずだ。一体誰だ? こいつ?

 ジェーミック・ノックフューリ レベル八 二十歳 精人族エルフ 平民か。……え? ロンベルト公爵騎士だと!? そう言えば、さっき鑑定したリーダーの女、あいつどうだったっけ? 忘れた。もう一回鑑定……いつの間にかまた兜の面頬を下ろしている。おまけにこちらを向いているので髪の毛での鑑定も出来やしない。

「断られたんでしょ? 無理だと思いますよ」

「確かに、断られ申した。しかし、そなたは入手出来ているではないか。礼はする。この通り、グリード商会へ渡りをつけては貰えないだろうか?」

 ノックフューリは俺に頭を下げて頼む。しかし、経営戦略上、無理だ。一つ例外を作ったらどんどん例外だらけになっちまう。

「第一騎士団の方であれば買えますよ。あ、それに今ではごく僅かではあるみたいですが第二騎士団にも売っています」

「……無理を言うでない。そのくらいは某でも知っておる。しかし、第二騎士団ですらなかなか難しい。ましてや第一騎士団など……それが出来ぬからこうして頭を下げておるのだ」

 そらそうだろうけどもさ。

「ジェームス、もうよいではありませんか。私の心配は要りませんよ。それに先方も困っているご様子です。第一鎧など、攻撃を受けなければそもそも必要のないものです」

 リーダーの女が口を挟んできた。あれだけ立派に指揮を執るだけの事はある。分別は付くようだな。攻撃を受けなければ云々というのは迷宮を、いや、魔物モンスターを舐め過ぎだが。

「しかし、お嬢様……折角の機会ですぞ」

 そういやどっかの男爵家の人だっけ? お嬢様とやらは。

「よいのです。それに、どうしても必要であればいずれ私から直接、アレイン様にお願いします。ああ、あのお方は今頃もっと下層で英雄的な……」

 付き合ってられん。
 去年くらいからこっち、こういうアホもたまに出て来てる。

「もういっすか? 行くぞ」

 苦笑いを浮かべてジェームスと呼ばれたノックフューリ卿に会釈をしつつ、ズールーに声を掛けてさっさと目指す通路に飛び込んだ。
 勿論、部屋はさっさと近道を横断したよ。

 
年末年始ですが、誠に申し訳ありませんが今週末から1/5まで実家に帰省しますのでその間の更新は滞ると思います。とは言え、出来れば予約投稿などで途中に一回くらい更新を入れたいとは思っています。

なお、頂戴致しましたご感想は全て拝読させて頂いています。
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