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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百七十二話 未到の地2

一回空いてしまって申し訳ありません。
7446年7月1日

 仲間の死体を調理する匂いに釣られて出て来たレッドバトルクラブは合計で三十匹近かった。三回に渡る波状攻撃をいろいろな魔術で乗り切った俺たちは山のように折り重なっているバカでかいカニを前に溜め息を吐いていた。

「全部は持ってけないよねぇ……」

 心の底から残念そうな声でラルファが言う。

 正直な話、俺も全く同感だ。脚一本、鋏一個すらも一人では食い切れない程でかいカニなんか初めて食ったんだし。純粋に蟹肉だけで腹一杯に出来る贅沢はそうそう続けられないということだ。

 ちなみに、一番効率良く切り抜けられるのはアシッドクラウドの魔術だったが、甲羅と一緒に肉まで腐るので、折角の獲物が食えなくなるからすぐに使いものにならないと却下した。他のクラウド系の魔術は効きが悪く、結局足止めにすらならなかった。

 そして、氷漬けも大した効果はなかった。動きを止められるのはでかいけど、完全に氷漬けにしてもかなり長い間生きてやがんのな。碌に呼吸してないんかね? 時間ばっかり掛かりそうなので諦めた。脚だけ氷漬けにしても自分で脚を途中で切ったりするんだぜ。大丈夫だろうと思って近づいて武器を振り被ったら脚切って動き出すから本当に吃驚した。危ないよな。

 そんな中で猛威を振るったのはウェッブの魔術だ。粘着性の高い糸に絡め取られ、動きが鈍ったところにグィネとバストラルが槍を突き込んで脳を破壊する。前世、タンクガニやアブラカニと呼ばれる海辺の小さなカニを生き餌に黒鯛チヌを釣っていた経験が活かされた。脳の位置は殆ど同じだったんだよ。唯一の問題らしい問題は、クラウド系の魔術同様に現時点では俺とミヅチしか使える者はいないという点だが、そのうちトリスが使えるようになるはずだ。

 ウェッブで倒したレッドバトルクラブは加熱されたり、甲羅が砕かれたりといった傷みもなく、目と目の間に槍を突き刺した跡が残るくらいで綺麗なものだ。丁寧に解体すればバケツ三杯分くらいのカニミソも採れるし、良いことづくめだよ。脚や鋏も胴体から切り離して纏めて紐で縛れば一人で一匹分くらいはなんとか持てる。胴体はデカ過ぎてとてもそのままでは持てない。カニミソは茹でてから丁寧に中身を取り出した鋏の殻に詰めて持ち帰ることにした。後で少し塩振ってから加熱してやれば美味しく頂ける。ちょっと煮て水分を半分以下にしてから瓶詰めにしておいてもいい。数日も放っておけば食えるだろ。カニミソの塩辛だ。イカ欲しいな。

 カニミソに目が眩んだトリスは強制的に全員から水筒を取り上げ、その中にカニミソを詰めている。俺は、それを眺めながらカニから採った魔石を手の中で弄びつつ、一つを残してまとめていた。だって、価値は大したことないんだもん。一個三千くらい。ノールやゴブリンゾンビよりはマシだが、オークやホブゴブリン以下だ。

 さて、もうトリスも気が済んだろう。

「よし、じゃあ帰るぞ。荷物が多いから注意しろよ」

 俺がそう言って声を掛けると珍しくグィネが反対意見を述べてきた。

「折角九層まで来たんだし、ちょっとモン部屋を覗くくらいしてから帰ったって……」

 あら? 積極的だねお髭さんは。荷物については取り敢えず、転移水晶の周囲に置いておいて、帰りに回収することにすればまぁ問題は無いけどさ。

「うん、そのくらいしてもバチは当たんないっしょ!」

 ラルファもそれに乗ってきた。これで決心が付いた。帰ろう。

「いや、ダメだ。まずは八層の転移水晶の間をきちんと整備することが先だ。あそこをちゃんと過ごし易い場所にする。ミノタウロスについても丁寧に調査する必要がある。本格的な九層の探索はその後だ」

「それは解ってるけどさ、モン部屋の主の顔くらい見て行こうよ。あれだけカニを呼び寄せたからモン部屋までモンスター居ないかも知れないじゃん」
「カニが居たからエビが居るかも知れないですよ!」

 ……そっちかよ。いや、俺もエビは好物ですよ。メートルクラスのエビなんかいたらそれこそ飛び上がって喜ぶかも知れない。だが、それを聞いたからには余計ダメ。エビハンティング(仮称)はちゃんと八層で体を休められるようになってから。っつーか、エビが居る保証なんか無いだろうがよ。それに、水が殆ど無い場所でもカニって結構生きていたりするけど、エビは聞いたこと無い。

 居たところでモンスターなんだろうから、またでっかい鋏を持ってる気もするし。そうなるともうエビじゃないよな。ザリガニ(ロブスター)だろ。俺はエビだとクルマエビが最高だと思う派なんだよ。クルマエビは刺し身でも、煮ても、焼いても、揚げても、蒸してもどうやって食ったって極上に美味いのだ。クルマエビ以外のエビの食い方はそんなにバリエーション豊富ではない。イセエビだって加熱すれは非常に美味だが刺し身は歯ごたえがあるばっかりで味の方は今ひとつだと思う。ボタンエビやブドウエビなんかは逆に刺し身が飛び抜けて美味だが、それ以外は今ひとつ所ではなく、今三つくらいだしな。

「ダーメ。帰る」

 エビが居ない可能性が高いとまでは言わなかった。迷宮では何が起こるか解らないってのはもう嫌と言う程味わって来たからね。俺には虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズも含めて殺戮者スローターズから唯の一人の死者も出すことなくこのバルドゥックの迷宮での稼ぎを終え、皆にそれなりの褒章を与える責任がある。出来る出来ないじゃない。少なくとも俺の夢に付きあわせている以上、それを承知していようがしていまいが、最低限俺にだけはそう志向する義務があるだろう。

 準備不足で新しい階層の奥まで行くなんて以ての外だ。特に前人未到と言われている九層以降は、勢いに任せてえいやで進む事だけはしてはならない。最近とんと見掛けないので忘れがちだが、落とし穴を含め通路の罠についてもきちんと魔術で調査をしておかなければならないのだ。

 今回は九層を覗き見ただけで満足すべきだ。



・・・・・・・・・



7446年7月1日

 八層に戻り、必要な荷を持つと全員ギリギリなんとか動ける、というレベルで大荷物だった。お互いの荷物が邪魔になるので順番に七層に転移する。

 昨晩戻らなかったため、ギベルティは心配していたらしいが新しい層に行った時などは予定を大幅にオーバーして戻ることもままあったし、今回は遅くなる可能性について示唆していたため、それなりに保存が効き、温めればすぐに食べられる食事を仕込んでのんびりと待っていたらしい。

 そこに大量のカニの脚や鋏を抱えて戻って来たので、その格好に驚いたようだ。

 簡単に事情を話し、八層の転移水晶の間の基地化のために数日でまた戻ることを伝えると大量の氷をねだられた。いつか氷が溶けるのは仕方ないにしても、せっかく仕込んだスープなどを少しでも長い間冷蔵したいがためのおねだりだったようだ。

 勿論、否やは無い。ギベルティが望むだけの氷を出してやり、ついでに整形も施すと、全員で迷宮の外に戻った。今晩だけは宿でゆっくり眠るが、必要な荷物を準備して明日からまた基地建設だ。

 ああ、そうだ。取り敢えず戦斧は売らなくてもいいか。ミノから手に入れたバトルアックスとバルディッシュもケビンとカリムが使いたいというなら格安で譲るか貸してやってもいい……かな? 魔石とセットで売るのも手……ちっ、たまにはおっさんに餌やっといた方が角が立たないかな。とは言え焦る必要もない。今月納品に行くついでがいいだろ。三百五十万Zは惜しいといえば惜しいが、必要経費と考えるべきかもな。

 だけど、カニの魔石は売っちまえ。一個だけは纏めないで取っといてるんだよね。レッドバトルクラブなんて聞いたことのないモンスターの魔石だから、それを根拠に九層到達を主張すればまた俺たちの評判も高まるだろう。ついでに緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズを引き離してやれる。

 うひひ、ヴィルハイマーのおっさんの悔しがる顔が目に浮かぶぜ。アンダーセンの姐ちゃんもあんなおっさんにはさっさと見切りをつけて俺の下に付けば悪いようにはしないのにな。

「よし、今日はムローワに行って腹一杯カニ食おうぜ。ズールー、エンゲラ。取り敢えずどこでもいいからこれで明日まで大八車借りてこいよ。重くて仕方ねぇ」

 奴隷二人に金を渡し大八車を用意させた。その間にカニの脚や鋏を数本づつ纏めて氷漬けにしておいた。え? どうせなら高級店のドルレオンに行けって? あそこも悪くないけど、少々お高くとまってるからこんなでっかいカニなんか持って行っても迷惑なだけだ。殻剥きにしても大した手間でもないし、それなら気心の知れたムローワでいいよ。ズールーの女も居るし。第一ジョンやテリーはまだ小さいから忘年会でもない限り流石にドルレオンには……ねぇ?

 迷宮から見たことのない程でかいカニの脚を持って帰った殺戮者スローターズはかなり注目を集めていた。荷物は大八車が来るまで放っておく訳にも行かないので、魔石の換金に行ったのは俺とゼノム、トリスの三人だ。その間にも時間は経ち、俺達が戻る頃にはキャサリンがジョンとテリーを引き連れてバルドゥッキーの屋台を組み立て始めていた。皆もそれを手伝っているが、目的はバルドゥッキーでは無いことは明白だ。

「おい、ここじゃカニ食わないぞ。ズールー達が交渉を纏めて来たら俺達はさっさと引き揚げるからな。宿に戻って着替えたら資材の買い出しもあるし、つまみ食いしてる暇なんかないぞ。ここはキャシーに任せとけ。あとキャシー。今晩はムローワな。ジョンもテリーも期待しとけ。美味いもん腹いっぱい食えるぞ」

 そう言ったところでズールーとエンゲラが大八車を引いて戻ってきた。手分けして氷漬けになったカニを荷台に載せ、ボイル亭に戻った。

 その後は予定通りコンロや毛布、調理器具などを手分けして買い集め、ムローワで宴会をした。昆布やかつお節がないのが不安だったが、ミヅチが持っていた干椎茸(ロスルッジ)で出汁を取ってカニすきしゃぶしゃぶを楽しんだり、焼いて食ったりして皆腹一杯になった。ああ、勿論カニミソをたっぷり付けて食ったさ。ゼノムも焼酎との相性について納得がいったようだ。ええこっちゃ。



・・・・・・・・・



7446年7月2日

 一夜明け、大荷物を抱えた俺たち殺戮者スローターズはまた迷宮へと足を踏み入れる。問題がなければ今晩、虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズも迷宮から戻る予定だが、今は八層の基地化とミノタウロスの件の調査が急務だ。彼らには明日から予定通り三日間の休暇を過ごして貰う。休暇の二日目、明後日の夜には戻るので安心して欲しいと言付けておくことにした。その日、八層の突破と九層の報告をするつもりだ。

 さて、明後日の夜にはまたミノタウロスを撃破して八層の転移水晶の間に最低限の荷運びは出来るだろう。今回は荷運びが目的なので、嫁さんの居るバストラルは残りの殺戮者スローターズへの言付けもあるから、今回は同行しない。だからパーティーを割ることもない。予定通りその後は一度さっさと戻り、皆に報告をしたあと、場合によっては長期戦の備えを整えて再度八層に戻る。その時には復活の周期などミノタウロスについて何らかの確証を得るまでは迷宮に居続ける予定だ。

「よし、行くぞ、ロルファム!」



・・・・・・・・



7446年7月3日

 昨日一日で予定通り三層を突破し、二日目の今日は四層から六層までを突破する予定だ。

 朝、五時には皆朝食を終えて装備を整え、四層に向かって転移した。

 昼過ぎには五層も突破して五層の転移水晶の間に辿り着いたのは午後一時頃だった。簡単に昼食を摂り、今日初めての長目の休息を取ることにした。ここではシャワーを浴びて臭いを落としとかなきゃいけないからね。

 部屋の隅には緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズのどちらのものかは不明だが、使われている野営の用意がされており、俺たちを安心させた。この様子だと六層には相当苦戦しているらしいことが一目瞭然だったからだ。七層を目指すのであれば野営は六層の転移水晶の間がメインになるだろうしね。

 生野菜なんかの足の早い食材がそこそこの量で置いてあるってことはメインのキャンプ地はまだこの五層ってことだ。

「やっこさんたち、だいぶ苦戦しているようだな」
「そうですね。グィネが居た我々でも六層では相当時間が掛かりましたからね……」
「一年や二年は大丈夫じゃない?」
「そのくらいは掛かるでしょうね」

 ゼノムとトリス、ベル、ズールーが鎧を脱ぎながら世間話に興じていた。ミヅチは着脱が容易なゴムプロテクターの便利さを享受して軽くシャワーを浴びているところだったし、グィネとエンゲラは新型のプロテクターについて俺と一緒にラルファに説明していた。買ってくれよ。ギベルティは昼食の後片付けをした後、念のためと言って野営地の備品や消耗品の在庫を確認してあちこちゴソゴソしている。

「ご主人様、異常は見当たりません」

「そうか、ご苦労だったな」

 俺もヴィルハイマーのおっさんやアンダーセンの姐ちゃんがこちらの備品や備蓄にちょっかいを出すようなセコイ真似はして来ないだろうと踏んでいたのでおざなりな返答になってしまうが、ギベルティにしてもあくまで念のための確認に過ぎなかったのだろう。

「上がったよ」

 ミヅチがシャワーから上がったようだ。既にプロテクターを脱ぎ終わっていたグィネがシャワー室に飛び込んだ。

「むー、やっぱいいなぁ。ちょっとマルソー、後ろのバンド外してよ」
「右から外すわよ」
「うん」

 鎧の中でも着脱は楽な部類ではあるものの、革鎧も革のバンドや紐であちこちを留めているのでそれなりに面倒だ。それに、一人で着脱する場合はそれなりに時間は掛かる。長さの調節が出来る上に伸縮自在なゴムバンドとは比較にならない。

 そうして二時間ほど休息を兼ねて全員でシャワーを浴びた。

「よし、行くぞ。ザリハム!」



・・・・・・・・・



 六層に転移してグィネの脳内地図を頼りに暫く進むと異常を発見した。通路の途中に二体のケイブボアーの死体が転がっていたのだ。魔石は抜かれている。

「やっこさんたちの跡か。暫くは楽が出来るかな?」

 ゼノムがケイブボアーの傷口を調べながら言った。

「魔法の跡は無いな……どっちかは判らんが、流石だよ」

 俺もケイブボアーの傷口を見ながら口にした。

「まぁ我々もケイブボアーくらいなら魔法無しでもなんとか相手出来ますが……」
「とは言え、アルさんやゼノムさん、ミヅチ、ラルを除くと魔法の武器(マジカル・ウェポン)は必要だけどね」

 おや? 俺の隣でミヅチが少し照れくさそうにしている。最近ベルはミヅチをさん付けで呼ばなくなった。たまにさん付けになる事があるが、それはまだ癖が抜けきっていないだけだ。(ミヅチと比べたら)若いベルに親しみを込められて愛称で呼ばれることが本当に同年代の気がして嬉しいらしい。……そういうもんかね?

 それはそうと、ベルも手厳しいな。それじゃあ魔法の武器(マジカル・ウェポン)を持っていないトリスがすごく不憫に思えて来るじゃないか。次なんか出たらトリスに渡してやろう。

 それからはある程度にすぎなかったがモンスターが掃除されていたためかかなりスムーズに進んだ。あれ以来、道中でモンスターの死体を見付けることこそ無かったが、主の居るはずの部屋は死体だけが転がっていた。流石にこちらは魔法の跡も良く目立っていたけど。

 そして四時間程も進んだ頃だろうか。

 追いついたようだ。

 ……あの声は、緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドか。

 ヴィルハイマーのおっさんの無駄にいい声が響いて来たのだ。

 
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