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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百七十話 特別?

7446年6月30日

「ミノタウロスが八層の転移水晶の間を守護する番人だったんでしょうね。本来は全員で突撃して倒すのが良かったみたいだけど……。番人を倒したから檻は消えて、アンチスキルの効果も解除されたってところかな?」

 とミヅチが言うので、なるほど、と思った。因みに、今いる転移水晶の間は、出入口が一箇所しか無いことを除いて他の階層のそれと大差がない。一辺三十mくらいの部屋で、中央に転移水晶の台座がある。

「でもまたあのミノタウロス? だっけ? が復活しないとも限らないし、別のモンスターで復活するかも知れないんだよね?」

 ベルが不安そうに言うが、ミヅチはやんわりと否定する。

「ミノタウロスを倒したら魔法や特殊技能は使えるようになったし、ここ以外は明るいまま。それに、転移水晶の周り百mくらいってモンスターは近づかないものなんでしょ? 多分だけどあのミノタウロスは特別なモンスターで、やっぱり中ボスだったんだと思う方が自然かな。根拠は無いけど復活もしないんじゃない?」

 ミヅチの意見に対して明確に反論出来る者は居なかった。だが、だとすると十四層のあいつも復活はしないのか? よく分からん。確かめになんか二度と行きたくねぇし。

「仮に復活したとして、問題はこの転移水晶の間にまで侵入してくるかどうかだなぁ」

 トリスが言う。確かにそうだ。

「ですね。侵入して来られたらここを基地化するのも難しいでしょう」

 バストラルも言った。俺も同意見だ。

 昔、一層の部屋でスカベンジクロウラーが目の前で復活するところを見た。あの時は確か十時間くらいで白い霧みたいな靄が渦巻き、ごく小さな光を一瞬だけ発して出現していた。半日くらいここで様子を見て、復活するかどうか確かめるのも悪くないだろう。

 おあつらえ向きに今はまだ昼前だし。

「仕方ねぇ。ここで丸一日待機して復活するかどうか確認してみるか……昼飯まで表を見回ろう」

 転移水晶の間で一休みしながら今日の方針を決めた。



・・・・・・・・・



 この丸い部屋を皆で適当に見回っていたが、流石に直径二㎞もあると昼までにちょっとしか見て回れなかった。一度転移水晶の間まで戻って昼食を摂り、午後もまた部屋を見て回った。夕方を過ぎ、十九時を回っても部屋は七層のように明るいままだ。モンスターと出会うことも無かった。

「大体全部見たかな……? グィネ、どうだ?」

「……殆ど全て見てますね。あと七箇所、見れていない部分もありますけど……ここからだとちょっと歩くことになりますが、どうします?」

 少し脳内検索の時間を置いてグィネが答えた。

「ん~、飯食ってから考えよう。戻ろうか」

 念のためだがミノタウロスを倒してから十時間が経過する前に転移水晶の間に戻っておきたかった。あいつを倒したのは十時過ぎだったはずだ。二十時くらいには戻っておきたい。

 転移水晶の間に戻り、今朝ギベルティに作って貰った弁当で晩飯を摂る。残りの探索は明日の朝、九層を覗く前にやることにした。今朝、七層の転移水晶の間を出る時にはギベルティに「八層を越えるつもりだから場合によっては二日くらい戻らないかも知れないからあまり心配するな」と言っておいたのだが、その時に持たせて貰った弁当は明日の朝の分までしかない。あとは保存食で凌ぐつもりだった。

 またここまで来るのも面倒だからそう言ったのだが、あのミノタウロスが復活するのであれば今後の補給なんかについて、より真剣に考えなければいけない。皆の心配もその点に集約されている。それに、ミノタウロスが復活するとして、アンチスキルエリアまで復活してしまうかどうかの問題もある。

 アンチスキルエリアまで復活しないのであればあまり問題は無い。固有技能はともかく、魔法が使えるのであれば俺たちなら余程油断さえしなければまず問題は無いだろう。しかし、ミノタウロスが魔法を使って来ることも考えられるから一長一短ではある。

 まして、もっと別のモンスターが復活してくるようであれば下手に特殊技能なんか使われても厄介なだけだ。あのドゥゲイザーにしても、特殊技能が使えなければ浮かび上がることも出来ずに光線も放てないまま地面に転がっているだけだろうから、むしろタコ殴りに出来るだけ楽勝だ。

 弁当を食って二十時を過ぎてもモンスターが復活する気配は全くなく、外は明るいままだ。やはりミヅチの言った通り、あのミノタウロスは復活しない奴なのかもな。ちょっとだけ安心した。いや、まだ気を抜ける訳じゃないな。

 あ、そう言えば技能が使えなかったという事は【天稟の才】もだめだったか。経験値は増えているようだが、三倍じゃないんだろうな、きっと。少しだけ勿体無い気持ちになったが、普通は得られる経験値が増えるなんてことはないのだ。それこそ俺の【天稟の才】かミヅチの【部隊編成パーティーゼーション】でもない限り得られる経験値が増加するなんて事は無いのだから勿体無いも糞もなかった。

 この日は見張りを二交替にして出来るだけ入口から遠い場所で休む事にした。見張りチームのうち一人は必ず部屋の中を見るようにしている。本来は二人一組を作って、柱の外側を回らせたいが、万が一モンスターが復活した際に部屋の中まで入って来るのかどうかという点についても観察したかったので、今回は入口の警戒だけにした。また、休む方も鎧は着けたまま、おまけに武器もすぐに手に取れる位置に置いたままという、近年にない警戒態勢だ。



・・・・・・・・



 深夜二時くらいに見張りの交代のためミヅチに起こされた。鎧を着たまま魔法で出した土のベッドに横になっていただけなので、正直言って全然疲れが取れていない。こんなんじゃ碌に休息にならないぞ。あまり長期間の潜行は難しいな。九層あたりで潮時になるのだろうか?

 トリスとベル、グィネ、ズールーと入口から少し離れた所に車座になって座る。皆、疲れが抜けていないようで、俺と大して変わらない、しけた顔をしていた。眠気覚ましに熱湯を出してお茶を淹れ、不景気な面を突き合わせて啜った。

 交代してからたっぷり二時間以上経った頃だろうか。入口から差し込む外の光が急速に弱まった。

 慌てて皆に声を掛け、同時に【鑑定】をしてみる。

 使えない!

「グィネ! 皆を起こせ! ズールーとトリスは入口の警戒! ベルは弓の用意!」

 俺に命じられたズールーは即座に剣と盾を手に取り出入口を固めるようにトリスと二人で左右に散った。グィネは大声で「起きてっ!」と叫びながら寝入っている皆を揺すり起こし、ベルは転移水晶の前くらいまで後退すると矢筒クイーバーから矢を引き出した。

「魔法……ダメか!」
「ダメね」

 トリスとベルは早速試したようだ。俺も銃剣を構えながら出入口となる通路の正面から少しずれた場所に立った。転移水晶の間に繋がる幅と高さが二m強、長さ十m程の通路の先は既に部屋の中同様にかなり暗くなっている。近づいて気が付いたが、例のモンスターが復活する時の靄が発生しているのが判った。出入口となっている通路から四~五m位の場所を中心にして発生した靄がゆっくりと渦を巻いている。

 グィネに起こされてミヅチ、ゼノム、ラルファ、バストラル、エンゲラも完全装備で駆けつけてきた。

「ミヅチ。残念だが予想が外れたようだ。あの靄はモンスターが復活する兆候だ。……それから魔法や技能もまた使えなくなってる」

 ミヅチに説明しながら、その実全員に対する説明を行い、警戒レベルを上昇させる。

「どうするの? 復活と同時に全員で突っ込むの? それなら今のうちに外に……」

 ラルファが意見してくる。

「ん……それも悪くないが、様子を見たい。向こうから手を出して来るか、俺が言うまで全員動くな。それからエンゲラは部屋の中を見ててくれ。まさかこの部屋にモンスターは出て来ないとは思うが、万一の用心だ」

 以前、十四層に落とされた時、さっさと戻ってしまったのが悔やまれる。少しは部屋の外に気を配っておけば良かった……と後悔しても後の祭りだ。あんときゃ、大きな危機を脱して気が抜けたり、勢いでミヅチをモノにしたり、更にはリルスと話したり、途中でミヅチと分かれて一人で戻り始めたりでそんなことに気を配る余裕なんか無かった。丁度二年ちょい前か……。

 唇を舐め、緊張を少しでも解す。トリスも先の割れた長い舌でぺろりと唇を舐めていた。

 靄の渦は段々と勢いを増してはいるようだが、まだ大したことはない。しかし、スカベンジクロウラーの時よりは少し短い時間で勢いが増していっているような気がする。あの時は確か、別のモンスターを倒してから復活したのがスカベンジクロウラーだったはずだ。今回はどうなんだろう?

 ミヅチの言うように外の部屋は普通のモン部屋とは違う感じがしないでもない。最初から転移水晶のこんなに傍に居たことも考えて特殊であることは確かなようだ。それに、万一またミノタウロスが復活してくるのであればひょっとしたらもう一個魔法の品(マジック・アイテム)を手に入れられるかも知れない。

 もしそうなら九層なんか誰が本気で探索するもんか。ちょこっと顔を出して珍しそうなモンスターの魔石を手に入れたらバイバイだ。

 まだか……。

 皆の顔も緊張している。

 まだか、まだか……。

 ごくり。誰かが唾を飲んだ。

 そろそろか。

 今!

 ぺかっとちょっとした光を放ち、靄は霧散した。そして、未来からタイムスリップしてきたターミネーターのように地面に蹲る背中が見えている。赤銅色をした濃い茶色い肌の偉丈夫とも言える。ターミネーターと違うのは、粗末だが腰巻き(ロインクロス)を身に付けている点だ。

 それを見たズールーとトリスがぴくりと反応するがすぐに俺の命令を思い出したのか、慎重に様子を窺っている。

 俺の両脇でミヅチとラルファがモンスターを認めて身を硬くしたのが解った。

 ゼノムが魔法の斧を持ち直した。

 そのまま数十秒が経つ。

 粗末な腰巻き(ロインクロス)を身に付けた男がこちらに背を向けたままゆっくりと立ち上がる。後頭部しか見えないが、もじゃもじゃとしたざんばらの髪の上には牛の角が二本生えているのが確認できる。右手に持っている長柄は片刃の戦斧(バルディッシュ)か?

 ミノタウロスだ。

 立ち上がったミノタウロスはこちらに背を向けたまま彫像のように動かなくなった。

 緊張に耐え切れなくなったのか、俺の後ろでバストラルが身動みじろぎした気配が伝わって来る。

「まだ動くな」

 囁くように言った。

 数分が経ったろうか。

 誰も動かず、喋らず、ミノタウロスにも何の変化も見られない。
 あ、そう言えばライトニングボルトの檻が発生している様子もない。
 そっと後ろのベルを振り返り、目で合図をする。
 続いて左手を前から回し、俺の右肩の後ろを指し示す。
 そしてミノタウロスを指差した。

 頷いたベルは弓に矢を番えると引き絞って発射する。
 放たれた矢は見事にミノタウロスの右の肩甲骨より少し背骨側に突き刺さった。

『グィデェッ!』

 濁った叫び声を上げたミノタウロスは驚いて飛び上がり、こちらに振り返った。
 しかし、すぐにキョロキョロと辺りを窺い出す。
 用心深く腰を落とし、斧を構えたまま。
 まるで転移水晶の間に続くこの通路が目に入らないかのような感じだった。

 暫くそのままで待ち、ミノタウロスが苦労して矢を引き抜いているのを眺めたあと、再度ベルに合図を送る。

『ヴィオオォッ!』

 またも痛みに悶えるミノタウロスは斧を構えつつ素早くこちらに振り向いた。
 目に不思議そうな光を浮かべ、そっと左手を斧から外すと入口に伸ばしてきた。

「ひっく! あ……」

 グィネが緊張してしゃっくりをしたようだが、それに反応したのは俺たちだけだ。
 ミノタウロスは入口の空間を撫でるようにしているだけで何らの反応も示さなかった。

 ふむ。
 あっちからはこっちが見えないのか?

「皆、動くなよ……わっ!」

 少し大き目の声で叫んでみるが一向に反応しない。

「……聞こえてないみたいですね」

 トリスが俺の方を振り返って言った。

「それに、入口も分からないみたいね」

 ミヅチも目を細めてミノタウロスを観察しながら言う。

「あいつ、バカ?」

 お前もな。とは言え、何もない空間を撫でるようにして調べているミノタウロスは馬鹿にしか見えないのは確かだ。

「どうします? 一気に突っ込みますか?」

 バストラルが緊張を孕んだ声で言った。

「なんか、このまま射殺せそう。目を潰しましょうか?」

 アイスモンスター程でっかい目玉じゃないぞ? 出来るのか? ベル。

「ちょっと待って。もう少し試してみないと。ズールー、通路に一歩だけ足を踏み入れて」

 ミヅチがズールーに言うと、ズールーは一歩、通路に踏み出した。
 ミノタウロスに変わった様子はない。
 もういいだろう。

「戻れ」

 ズールーを戻した。

「どうも中には入って来れないようだな。それに、通路に一歩くらい足を踏み入れても大丈夫みたいだ。声も届いてはいないみたいだし……」

 様子を見ていたトリスがポツリと言う。

「なら、ここの基地化をする価値はありますね」

「まぁな……」

 俺はグィネに答えながら、ちょっと考えていた。恐らくあのミノタウロスを倒すことはそう難しくはない。ベルにちょこちょこ矢を射らせてもそのうち死ぬだろうし、矢が勿体無いのであれば目だけでも潰して貰って盾を構えたトリスとズールーを前衛に立たせ、グィネとバストラルが一気に槍を突き入れればそれだけでもう瀕死だろう。

「ベル、奴の目を潰してくれ。その後ズールーとトリスが盾で壁を作りながら突撃。長物を使っているグィネとバストラルが突き殺せ。但しあんまりやりすぎんなよ。ステータス見たいからな」

「右目から行くわ」

 俺が言い終わると同時にベルは即座に矢を撃ち放った。
 ぞぶっと言う音を立てて矢がミノタウロスの右目に突き刺さる。

『ギモ゛オォォォッ!!』

 ミノタウロスは驚きと痛みに耐えかねて斧を取り落としながら両手で顔を覆って絶叫した。

 その時にはズールーとトリスが並んで盾を構えながら駆け出し、その後にグィネとバストラルも槍を構えて付いて行っていた。

 すぐにミノタウロスのくぐもった声が聞こえ始め、トリスもズールーも蹲ったミノタウロスに斬り付けている光景が目に入った。
 と思ったら、二人共盾を構えたまま距離を取ったようだ。
 グィネもバストラルももう攻撃行動は起こしていない。

 死んだかな?

 【鑑定】……まだダメか。

 銃剣を構えながら近付いて行くが、きっともう瀕死なんだろう。

 あ、これも試さないとな。

 虫の息のミノタウロスの脇を慎重に通り抜け、柱の外に出た。
 すると、また遠くでバーンと空気を引き裂くような大きな音がした。
 半径二~三百mで柱を囲むように例のライトニングボルトの檻が作られた。

 なるほど。

 そっとミノタウロスの脇にしゃがむとステータスを見てみた。

【 】
【男性/1/7/7446】
【小牛人族】
【特殊技能:大瞬発】
【特殊技能:大剛力】

 ふうん。
 おら。
 死ね。

【 】
【男性/1/7/7446・小牛人族マイナーミノタウロス・センチネル
【状態:死亡】
【年齢:0歳】
【レベル:9】
【HP:-60(200) MP:10(10)】
【筋力:30】
【俊敏:20】
【器用:10】
【耐久:60】
【特殊技能:大瞬発】
【特殊技能:大剛力】

 なるほどね。

 さて……。
 腰巻き(ロインクロス)も武器として最初から持っていた戦斧バルディッシュも、どうということのない普通の品だった……。そうは問屋が卸さないってことかね?
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