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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百六十六話 八層の中心

7446年6月14日

 今回は根絶者エクスターミネーターズに同行した。六月九日に迷宮に入り、今日出てきたのだが、初日にきっちりと三層まで突破して見せてくれた。翌日からの四層は聞いていた通り苦戦が見られたものの、概ね問題は無いと言って良いと思う。報告の通りジンジャーとヒスを除いて迷宮での経験が浅いメンバーが多いからか、罠について良い意味で無頓着なところがスピードアップに繋がっていると思われる。

 その代わりと言ってはなんだが、戦闘はかなり丁寧に、慎重に運ばれているようだ。これはリーダーを除けばロリックとメックの二人しか魔法の使い手がいないことが原因だと思われる。つまり、治癒魔術の使用回数が少ない、という事なのだ。ま、最初のチーム分けの時、この点についてはカームと散々話し合ったんだけどね。戦闘が長引く傾向が強いこと、それに伴って結果的に軽傷を負う人が出るため、治癒に時間が取られ易いことが問題といえば問題だ。だがバルドゥックの二流以上、一流半程度の力は身に付いていると思われる。

 ほぼ全てのメンバーが大した時間を迷宮で過ごしていないにも関わらず、この成績は躍進著しいと言ってもいいだろう。その証拠に俺が前に立ってリードし、戦闘での怪我が減った今回は四層を四時間で突破し、一日だが五層にも足を踏み入れてみた。しかし、やはり地力の問題が大きい。経験豊富なジンジャーもヒスもモンスターの矢面に立つことは少ない。どうしても盾を装備するロリック、サンノ、メックを中心にせざるを得ないのだが、彼らの力不足のために強くなった五層のモンスターにヒヤリとする場面が多かった。

 モン部屋なんか、四層ですら殺戮者スローターズからのリーダーが居なければ恐ろしくてとても見ていられないだろう。うん、当面は四層で経験を積むべきだ。



・・・・・・・・・



7446年6月23日

 今回は虐殺者ブッチャーズだ。前回の根絶者エクスターミネーターズと異なり、俺の戦闘奴隷以外は比較的ベテランで固めているためか、罠を恐れる傾向が強い。しかし、戦闘についてはそこそこ安心して見ていられる。魔法使いの数こそ二人と人数自体は同じだが、練度が異なる。魔法にしても回復にばかり気を因われず、ここぞという時の攻撃についてもしっかりと攻撃魔術を叩き込んでいる。

 ミースが後ろから魔術を使える事が大きいし、何より壁役シールド・ホルダーのロッコの実力が非常に高く、頼りになることがこのパーティーの特色といえる。盾こそ使っているが、総合的な防御の技術ではゼノムと同等と言っても良いかも知れない。走ってないのは自由なのでどうでもいいが、こいつもある意味で天才なのかもしれないと思った。とは言え、トップチームならこういう奴がゴロゴロしていてもおかしくはないか。ロリックかサンノがこの程度になってくれれば根絶者エクスターミネーターズの方も、もう少し安心して見ていられるんだが。

 ま、全体的に言ってもう少し慎重さと大胆さのバランスを大胆さに傾けられたら良い。殺戮者スローターズから来るのがズールーかエンゲラ以外なら五層のフロストリザードだって怪我人さえ覚悟すれば相手に出来る。多分余程慢心してない限りは死人までは出ないだろ。何ヶ月も一層で経験を稼がせた効果もここに来て役立ったと思いたい。レベルアップしてる人も多いし。

 虐殺者ブッチャーズならそう遠くない時期――あと一年くらいしっかりと経験を積んだら六層も良いかもね。これはどちらかと言うと俺の戦闘奴隷二人の経験を積ませる事が主目的だ。彼らが足を引っ張っているとも言えるし。とは言え彼らも前衛や攻撃役として重要だから、現時点で足を引っ張りがちであることを理由にジンジャーとヒスと入れ替えるつもりはない。入れ替えたら六層も行けるだろうけど、流石に俺の紐が少なくなるのは許容できない。

 今だって五層の転移水晶の間までは行けるのだ。流石に四層、五層を一日で突破することは無理だが、五層に補給物資を運ぶ事は十分に可能だ。

 確認も出来たし、宣言したこともある。じゃあ、八層でも突破するかね。



・・・・・・・・・



7446年6月26日


「明日からの迷宮行だけど、今回は殺戮者スローターズからは出向者は出さない。したがって虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズは人数が減る。今回は無理のない程度で探索をして欲しい」

 連携訓練の時間の終わりに、俺は全員の前で訓示を垂れ始めた。

「ああ、今回、殺戮者スローターズは八層を突破する。そうなると何があるか解らないから流石にフルメンバーは欲しい。皆には一週間迷惑を掛けるけどそこは勘弁して欲しい」

 八層を突破する、と言ったのが効いているのだろうか。殺戮者スローターズ以外の、特に古参の旧日光(サン・レイ)のメンバーの目つきが変わった。全員新しい階層でお宝を得られる可能性を思っているのだろう。ギラギラとした目つきになったように思う。いや、あんたら九層に行く前にもう少し力を付けてくれよ。流石に今のままで六層や七層は無理だろ。

 その後いろいろ質問を受けたが基本的に八層の話は全て都度報告している。目新しい話は出来ない。層の中央らしき大きな部屋に強力な魔物が巣食っている可能性が高いと思われるので、戦闘力は落としたくないからフルメンバーの殺戮者スローターズで行くと言ったのだ。

 なお、彼らとしても現時点で自分がメンバーに入っていないという不満はあるようだが、テストをしているためどうにか抑えているようだ。うん、本当にあの閾値を超え、且つオーガ相手に十分な戦果を出せるのであれば交代も吝かではない。その場合、俺の膨大な魔力を隠し続けるのは難しい。だから前振りとして、最近はまた魔法の特殊技能のレベルが上がったと言っているし、結構多めに魔力を使うようにはしている。だけど、流石に無理があり過ぎるよね。

 ま、それを理由に俺に何か言ってくるとは思えないけど。魔力量を隠したことが原因で死人を出したこともないし。そもそも魔術の使用にはその間碌に他に意識を割けない程多大な集中力を要する。特に高度な魔術に関してはその傾向が強い。これは冒険者なら誰でも知っている。余程のことがない限り軽々しく魔術を使う間抜けは生き残れない。だからそんな事で俺を責める奴もいない。

 当面は大丈夫だろうとは思うけど、やる気もあって交代には一番可能性の高いと見込まれているジンジャー、ミース、ジェルに対しては何らかのフォローをし、場合によってはゼノムやズールーのように転生だのなんだのを説明してもいいと思っている。別にそんな情報、漏れたところで何の害もないし。文明が進んだ世界から転生して来たなんて言ったって、その証拠になるようなものでも作ったりしなきゃホラ吹きだと言われるだけだ。

 今のところ挽き肉機くらいか? それだって中身を見れば大した構造でもない。似たような物は腕の良い鍛冶屋だの金細工師だのでも作れる。精度は高いけどパッと見でそこまではなかなか判らんし。ステータス見ても【真鍮工芸品ブラス・クラフト】って出るだけだしね。普通なら「ああ、すごいね、よく思いついたね。頭いいのね」ってなもんで終わりだ。

 簡単に構造が漏れないように王都やバルドゥックの鍛冶屋や金細工師に分散して部品を発注もしている。最悪、王家だのなんだのの予想もつかないようなところから横槍が入っても誤魔化すことくらいは問題ない。ってか、挽き肉機の構造なんざ数年も秘密が守れればいいのだ。その間にブランドイメージを作り上げて後続と差をつけることが大切だ。シャ○エッセンが同様の商品の中で比較的高価にも関わらず抜かれないのは最初に作ったブランドイメージも大きく寄与しているのだから。

 その後はさっさと解散し、迷宮内で消費する食料の買い出しとソーセージの製造を行い、晩飯を食って寝た。なお、ベルとトリスが小麦粉を捏ねて適当な生地を作り、餃子とシュウマイを作っていた。保存が利かないのと醤油が無いのが惜しい。あと、皮の生地についてはまだまだ改良の余地は大きい。

 ラルファ、グィネ、ミヅチも「肉まん!」とか「ハンバーグ!!」とかいろいろ作ってる。メンチカツも作ったが、ハンバーグ同様、牛肉を入れないとあんまり美味くねぇのな。ああ、そう言えばトンカツだのチキンカツだのに近い奴は昔からあるよ。



・・・・・・・・・



7446年6月30日

 三日前、いつも通りランニングを終え、さっさと迷宮へ突入した。初日だけは俺が根絶者エクスターミネーターズ、ミヅチが虐殺者ブッチャーズに参加して全員で三層の転移水晶の間で落ち合い、二日目はいつも通り俺とズールーが組になって六層を越えた。三日目の昨日はオーガを殺して魔石を確保しつつゆっくりと一日かけて七層をギベルティを護衛しながら二往復して突破して、いよいよ今日、八層へと足を踏み入れた。幸先良く、中央の部屋に繋がる場所に転移できたので、四時間もかけてえっちらおっちらやってきた。

 部屋に入る前に小休止をする。

「部屋の周囲は約六.三㎞。直径は二㎞程だと思われる。これは一度グィネと一緒に一周回ったし、ほぼ円形というのもまず間違いはないだろ。ミヅチ、お前は五十m先行して偵察だ。何か見つけたら止まれ。問題があるようならすぐに戻ってこい。どっちにしろ【部隊編成パーティーゼーション】で分かるし」

 皆が頷いたのを確認して続ける。

「特に何もなければ俺達はミヅチの後方で二列縦隊ダブルトレイルだ。先頭は一人で俺。二番目はゼノムとラルファ。三番目はズールーとエンゲラ、グィネとバストラルはその次だ。最後尾はトリスとベル。いいな。接敵したら俺がダッシュして前進しながら鋒矢壱番アローヘッド・ワンに移行だ。ミヅチはその際に取り込む。前衛に残るか後ろに下がるかはその相手次第だ。時間は幾ら掛けても良い。慎重に行くぞ」

 時速一㎞にも満たないゆっくりとした速度で三十分も進んだ頃だろうか。

 いきなり【部隊編成パーティーゼーション】の感覚が消失した。俺の【鑑定】の視力には五十m前方で戸惑うようなミヅチの背中が見えている。

「糞っ!」
「「えっ?」」
「「奥様!」」

 【部隊編成パーティーゼーション】の感覚が消え、慌てたような声が複数上がる。同時に俺とズールー、エンゲラが縦隊から抜けだして走り始めた。何か異常があって【部隊編成パーティーゼーション】を切らしたに違いないのだ。

「ミヅチッ!」

 呼びかけに応え、不審そうにキョロキョロしていたミヅチが振り向いたのが解る。ぱっと見で問題はない。そのまま【鑑定】しても問題はない。皆も俺たちの後を追っていることは気配で解る。

 一体どうしたというのか? 駆けつけた俺達の方に少し戻ってきたミヅチに尋ねる。

「おう、どうした!?」

「あれぇ? 急に【部隊編成パーティーゼーション】が切れちゃった。おかしいな……。ごめん。もう一回やり直すよ」

 なんだよ、もう……ってあれ? 変だ。

「モンスターじゃないのか?」

 追い付いてきたゼノムが言う。

「ん、ごめんなさい。違うみたい。もう一回【部隊編成パーティーゼーション】を「あれ?」

 ミヅチがそこまで言ってまずゼノムに触れようとした時だ。ミヅチの無事を確認し、周囲の警戒のため少し前進していたエンゲラが不審そうな声をあげた。鼻をスンスンさせている。少し気の抜けた顔つきではあったが、全員が得物を手にして散開した。

 エンゲラの【超嗅覚】になにか引っ掛かったのかと思ったのだ。

「あれ? おかしいです……鼻が利きません」

 はい?

「モンスターじゃないのね?」

 ベルがエンゲラに確認した。

「ええ、私の【超嗅覚】が使えない感じなんです」

 思わずエンゲラを【鑑定】した。

 何も異常はない。

「ん、問題ないわ。ちゃんとゼノムさんと【部隊編成パーティーゼーション】が出来た」

「うむ。大丈夫そうだな」

 ミヅチとゼノムが再度【部隊編成パーティーゼーション】を行ったようだ。

 【鑑定】で見た通りミヅチの方は問題が無いみたいだ。だが、どうにも腑に落ちない。ミヅチの【部隊編成パーティーゼーション】はちょっとやそっとのことでは解除されない。戦闘中だろうが睡眠を取ろうがミヅチが対象者に対してオンとオフを切り替えるように念じるか、部隊の解散を念じなければダメだ。それが解除された? エンゲラの【超嗅覚】も使えなくなったと言うし……何か変だ。

「まさか……グィネ、ちょっと来てくれ」

 グィネの腕を引っ張ってエンゲラの立つあたりまで移動した。しかし、途中でグィネが声を上げる。

「あれっ?」

 グィネの【地形把握マッピング】も切れたようだ。あのあたりからこっちは特殊技能だの固有技能だのが使えなくなる場所なのか? 試しに【鑑定】を使おうと思ってみたが、予想通り使えなかった。グィネに言って【赤外線視力インフラビジョン】を使って貰おうともしたが、こちらも当然のように使えないようだ。

「少し戻ろう」

 全員を促して少し戻った。戻ると再び【鑑定】は使えるようになった。

「今、グィネを引っ張ってみて分かった。どうやらあの辺りで特殊技能だのは使えなくなるみたいだな」

「えっ? ちょっと待ってください。じゃあ魔法も!?」

 トリスが驚いた顔で言った。
 そうだ。魔法も特殊技能の一種だったはずだ。試してみるか。

 俺はまたすたすたと戻りライトの魔術を使おうとした。当然ダメだ。魔力が練れない。

 ぽかんとしたり心配そうな表情を浮かべる皆を見やると肩を竦めて首を振った。

 まずいな、これは。戦闘力は半減どころの騒ぎじゃねぇ。

 ……ん? さっき俺は【超嗅覚】の使えないエンゲラを【鑑定】した。

 仮にだ。あの辺りから内側が“アンチスキルエリア”だとして、その外側から放った魔法だの何だのは大丈夫ってことか?

 心配そうな皆の傍まで戻ると、見えやすいようにフレイムブリットの魔術を放ってみた。

 ……問題ない……ようにしか見えない。

 足元に転がっていた石にライトを掛け、それを放り投げた。

 明らかにさっきエンゲラがいた場所よりも遠くまで飛び、光っている。

「方針を変える。このまま全員で中心を目指すのは止めだ」

 そう言って皆を見回した。

 
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