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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百六十五話 恐ろしい物

7446年6月4日

「それはそんなに恐ろしい物なのですか?」

 ミヅチの馬を御するエンゲラが後ろに座るミヅチに尋ねた。

「うん。本来は強力な痛み止め、かな? 精製の仕方で効果の強弱もあるけど、普通に集めた汁を煮出して乾燥させただけでも……」

「もう止めとけ。そうと決まった訳じゃない。皆、この話はトリスとベルにしか言うつもりはない。他には他言無用だ。これ、絶対だぞ」

 ミヅチの喋りを遮って全員に強く命じた。

 ヨーライズ子爵領を出る寸前、オークの一団に襲撃を受けた俺達は、それを軽く一蹴して全滅させた。その後、魔石を採取しようと思ってオークの着ていた臭っさい革鎧のバンドをナイフで切っていた。

 おつむの程度の低い亜人モンスターお決まりの、品質の悪い痛み止めなんかの薬品が出てくるのは当たり前だし、そんな低品質で、単に痛み止め程度にしかならない薬品には誰も興味はない。オースにはもっと良い、魔石を利用した治癒薬も沢山流通している。どうせスペースを専有するならそうした物を携帯した方が有効だしね。しかし、グィネが一匹のオークの背負っていた荷物を漁ったところ妙なものを見つけたのだ。

 かなり長さのあるパイプである。

 最初はぶっとい吹き矢(ブロウガン)だなぁと思ってぽいっとうっちゃった。しかし、それを踏んづけたミヅチが興味を持ち、ステータスを見て「あっ!?」と思い出したかのように叫んだのだ。すぐにミヅチはその声に驚いた皆を適当に誤魔化してその場をやり過ごした。しかし、その直後、不審がる俺を無理やり少し離れた場所まで引き摺って行くとノックスを俺に【鑑定】してみて欲しいと言ったのだ。

「ちょっと、このノックスっての、鑑定し()て欲しいんだけど……もし私の想像通りなら……」

 ノックスと言うのはオークが持っていた痛み止めの薬の名前だ。茶色い粉末状になっている。触ってステータスを見れば大抵の品物の名前くらいは判るからな。俺の【鑑定】によるとカレッソという草の花の一部を潰し、出てきた液体を煮詰めて作る痛み止めだそうだ。効能はあんまり高くはない。当然だがその通り伝える。すると、

「ん……でも引っ掛かるんだよね……アヘンかと思ったんだけど……」

 とノックスを見つめて顎に手を当てて考え込みながらながら言った。だが、鑑定ウインドウには麻薬の“ま”の字も出ていない。っつーか、何でいきなり阿片とか……後で夜中の見張りの交代の時にミヅチに聞いてみたら、

「だって、植物の花から作るって言うし、痛み止めだって言うし、タバコなんかそうそう手に入る筈もないオークがパイプを持ってたのよ? 組み合わせたらこれはもう『阿片』でしょ?」

 とか答えが帰ってきた。んな訳ねーだろ、それだけの情報で阿片に辿り着くお前の脳味噌が心底脅威だわ。そう嫌味を言ったら、

『え? 麻薬とか作り方調べたりしませんでした?』

 と真顔で答えが帰ってきた。しねぇし。そもそも、麻薬とか興味なんざ全く無かったわ。

『中学とか高校の時とか、そういう事に興味を持つ人って多いと思うんですよね。私も教室でこそそういった本は読みませんでしたが、家で読んでましたよ』

 そんなんだから友達いなかったんだろ……。暗いし。ガキは勉強以外は外で遊ぶもんだ。そもそも中高生は部活で忙しいだろうに。

『あの……むかぁし話したことあると思いますけど……私、文化系だったので……』

 そうだっけ? でも友達と遊ぶだろ? 女の子なら買い物とかさ。

『……だから友達、あんまりいなかったって……誰かと外で遊ぶより家で本を読んだり、ゲーム……スーファミもメガシーディー付きのサンニーエックスメガドラもコアグラツーもネオジオもタウンズマーティーもレーザーアクティブもピピンもピーシーエフエックスもプレステもサターンも、あ、エムペグ見れるハイサターンですけど、スリーディーオーもロクヨンとディーディーもプレステ2もゲームキューブもドリキャスもキョウバコもサンロクマルもプレステ3もウィってこのへんはとっくに就職してからか……とにかく学生の頃持ってなかったのはバーチャルボーイとプレイディアくらいでネットあったし、パソ通始めたの小学生からだし……大学でも話し掛けられなくてサークルに入りたいって言えなかったし……友達は画面の向こうに居たからいいんです! インドア派だったんです! インドア派な子は皆こう言うの気になる年頃だったんです! 水泳部だったとか某大学校行ったとか、ましてそのけっ、けっこ、結婚してたとかそんな人には分からんのですっ! プレステ4なんか買って二年も遊んでないんですよっ! 高かったのにっ!』

 途中から呪文みたいな訳のわからんことを捲し立てられてキレられた。いや、お前が何言ってるのかさっぱり分からねぇよ。ゲームの名前らしいことはなんとなく分かるが……え? ゲームじゃない? ゲーム機? あ、そう。お前そんなにゲームばっかしてたの? 暇だったの?

『はぁ? ソフト全部買えるわけ無いでしょ!? 一機種で二~三本、多くてもせいぜい七~八本ですよっ! クソゲーやってる暇なんかないんですからっ!』

 知らねーよ……。

『ふんだ。オークも碌に知らなかった癖に……私なんか、私なんかね、今まで出会ったモンスター、全部知ってましたよ! 他にも一杯知ってます! 役に立つんだから!』

 ……うん、そうだね。っつーか、夜中に騒いでりゃグィネもエンゲラもそりゃ起きるわ。

 とにかく、ミヅチが言うにはこのノックスという痛み止めは阿片かそれに近い中毒性のある麻薬の類の可能性があると言われたのだ。なお、戦闘中にオークが生きている間に様子を見るために鑑定した時には【状態】は良好であった。中毒とかそんな怪しげな表示なんか無かった。「中毒を起こしているようには見えなかったがな」と、それを指摘したところ、

「はっ、これだから素人は」

 と見下され、

「いくら阿片でもそれなりの期間、それなりの量を吸引しないと中毒なんかにはなりませんよ。一発で中毒になる麻薬なんかまずありませんし、そもそも地球の人間相手の話であって、オースではどうだか……ましてモンスターですしね。それに、麻薬中毒と中毒の禁断・離脱症状をごちゃまぜにするのも素人ですね」

 と言われて、それもそうか、と思った。だって俺、素人だしな。後で本当にグィネにもエンゲラにも聞かれない時に話したのだが、俺の【鑑定】では慢性中毒は解らないのかも知れない、と言う事になった。確かに病気の人を【鑑定】しても発症しないと判らないしね。

 とにかく“麻薬”とか“阿片”とかいう物騒な単語が混じっていたのでグィネがずう~っとしつこく聞いてきたため、この二人には話すことにしたのだ。まぁ俺が彼女グィネでも流石に聞き流せない言葉だしな。

 この話は今んとここれでお終い。



・・・・・・・・・



 俺たちの騎馬はバルドゥックの外輪山を登り、街を見下ろせる場所まで来た。まだお昼にはなっていない時間だ。

「お昼にはバルドゥッキーが食べられますかね?」

「迷宮に入ってりゃそうだろうな」

 前で手綱を操るグィネに返事をしてバルドゥックの街へと下る坂道を進ませた。ゴールデンウィークの休みについてはゼノムやトリスに任せてあるのでどのくらいの期間探索を休みにしていたのかは解らないので、今日が休みなのか、迷宮に入っているのかは不明だったのだ。

 上から見て分かっていたことだが、バルドゥックの街は出発前と何一つ変わった所は無い、相変わらず人口三万人を超える威容を誇る都市であった。

 途中、シューニーでエンゲラを降ろしたあと、ボイル亭に到着した俺たちは丁度腸詰めとボイルの終わったバルドゥッキーを持って階段を昇っているキャシーを捕まえた。燻製をしようと部屋と屋上とを往復していたところだったようだ。

「あ、グリードさん。お帰りなさい!!」

 元気よく挨拶するキャシーに向かって「皆は迷宮?」と尋ねると、多分全員明日戻るだろうとの答えだった。

「え? 毎日戻ってないの?」

 とグィネが聞いた。俺もそう思った。

「ええ、今は全員四層まで行っているそうですよ。凄いですね~」

 とキャシーは笑って答えてくれた。

「全員一日で三層を越えられるようになったのかな? 根絶者エクスターミネーターズも?」

 ミヅチとグィネが驚いて言葉を交わすが、四層に行っているってことはそうなんだろ。それはともかく、二階への階段を昇りながらキャシーに別のことを尋ねる。これは確認しておかねばなるまい。

「メンバーの移動ってあった?」

「無いです。四月の終わりにテストをやったって聞きましたが……」

 へぇ。

「ん、そうか、有難う。俺達は着替えたら昼飯に行くけど、どうする? まだなんだろ?」

 キャシーに聞くとまだだと言うのでさっさと着替え、その間にジョンやテリーにも燻製器スモーカーにソーセージを詰め込ませた。着替えてきたエンゲラが来るのを待ち、皆で昼食に行った。バルドゥッキーは晩飯までお預けでもいいだろ。

 夕方、どこから聞きつけてきたのか、煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)の連中がボイル亭まで来てグィネを飲みに誘っていた。相変わらず口では「戻ったばかりだし皆と……」とか言いながらまんざらでもなさそうな顔をしてガルンとかいう煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)山人族ドワーフにデレデレしてやがった。はいはい髭面にモテモテで羨ましいです。うぜぇ。

「気にしないで楽しんでこいよ」

 こっちはこっちで楽しくやるわ。キャシーやジョン、テリーも居るし、今日作ったばかりのソーセージもあるしな。



・・・・・・・・・



7446年6月5日

 朝から王都の商会まで出向き、細々とした打ち合わせなどに忙殺された。いちいち俺が行くのも面倒くさかったので、候補が二箇所にまで絞られていたソーセージ工場の契約についてはミヅチとルークに丸投げした。

 夕方、バルドゥックに戻ったら殺戮者スローターズは誰も地上に戻っていなかった。「まだ明るいし、もう少し掛かるか」と思って一度宿に戻り、入り口広場に戻ったら丁度虐殺者ブッチャーズがズールーと一緒に戻って来ており、屋台販売していたバルドゥッキーに全員で齧りついていたところだった。よく見るとグィネもエンゲラも居た。

 無事に戻ったことをズールー以下の戦闘奴隷三人に祝福され「全員分の戦闘靴を持って帰って来ているから後で取りに来い」と言って俺もバルドゥッキーに齧りついた。そうこうしているうちに根絶者エクスターミネーターズも、殺戮者スローターズも地上に帰還してきた。

 ひと通り挨拶を交わし、話を聞くと、やはり二チームともに今は四層まで足を伸ばしているとのことで、もう日帰りはしていないとの事だった。虐殺者ブッチャーズは三月中に、根絶者エクスターミネーターズは五月に入ってからだそうだ。

 ふむ、これでもう赤字にはならないな。ありがたい話だ。

 また、メンバーの入れ替えについてはテストを行ったものの、未だ体力試験を突破できず挑戦資格を得た者は居ないらしい。まぁ数ヶ月じゃ無理だろ、流石に。

 その後、虐殺者ブッチャーズに行っているズールーと、根絶者エクスターミネーターズへ行っているトリスを除いて俺が居なかった間の出来事について報告を受けた。

 まず根絶者エクスターミネーターズ。四層に行き始めたのは良いが、やはり時間内での四層の突破に四苦八苦しており、安心して五層に行かせるにはまだ時間がかかりそうだとのことだ。

 次に虐殺者ブッチャーズ。四月には四層を突破したものの、五層まで含めた一日での突破はやはり時間がかかる見込みだ。

 これは魔法の使い手の問題もある。戦闘を行った後、軽傷者が少ない場合は良いが、多かったり、重傷者が居るとそれなりに魔力の回復に時間が取られたり、場合によっては痛みが引くまで休憩を余儀なくされるためだ。まぁある意味仕方のない事だ。

 最後に殺戮者スローターズだ。俺の居ない間、迷宮行はちゃんと五層までに抑えていた。これには少し驚いた。てっきり金の亡者のラルファあたりが七層に行こうとか言い出すかと思っていたのだ。

「だって……アルもミヅチも居ないしさ……それは無理でしょ、冷静に考えて。何しろあんたが居ない間、私が皆の事を心配しなきゃいけないからね。無理は出来ないよ」

 とラルファが言ってた。何でお前が皆の心配をするんだよ。そんなのゼノムやトリスたちに任せてあるんだから伸び伸びとやっても良かったのに。一瞬そう思ったが、そう言えば出発前に一緒に行きたがるラルファを抑えるために適当な事言った気がする。ずっと本気にしてたのか……誰か教えてやれや。ニヤつくゼノムやベルからアイコンタクトを受け、「ああ、ご苦労だったな。よく皆の事を考えてくれたようだな」と言ったらニマニマとしていた。

 やっぱチョロいわ。本当に助かる。

 その後、エンゲラと同型の鎧をグィネも作ったと聞き、ジェスに俺のお下がりをやると聞いたラルファは不満そうな顔をしていたが、値段を聞いてゼノムの顔色を窺ったりしていた。ゼノムは苦笑しながら頷いてやっていたが、腕を組んで考え込むと、暫くしたら諦めたようで何も言って来なかった。

「次、俺が虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズの成長ぶりを見る。その後、場合によっては殺戮者スローターズをフルメンバーに戻して今月中に八層を突破する。みんな、その気で居てくれ」

 その晩は最後にそう言って締めた。

 皆、あの不気味な雰囲気が漂う八層の部屋を思い出したようで、ゴクリと唾を……ああ、やる気だったのね。睨みつけるようにしながら唇の端を釣り上げている奴が多かった。びびってたのは俺だけか。

 
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