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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百六十二話 ZONE

前回の第百六十一話ですが、加筆しました。
読み返さなくても全く問題ありませんが、多くの方にご要望を頂いたゼットとベッキーとの再会のシーンなどを追加しています。ご興味があればどうぞ。
7446年4月29日

「お待たせしてしまいましたか?」

 少し申し訳無さそうにミュンが言う。

「いや、時間まで言ってなかったからな。念の為にと早く来たのはこっちの方だから、気にしないでくれ」

 手に持っていた石に「ライト」の魔術で明かりを灯すと改めてミュンを見た。
 体は歳のせいか少し丸みを帯びて来たように見えるが、愛嬌のある顔立ちは昔のまま、優しい目で俺を見てくれていた。

「ミュン、改めて紹介する。こいつはミヅチ。ミヅェーリット・チズマグロル。俺の、女だ。ミヅチ、彼女はミュン。ミュネリン・トーバスだ。俺の恩人だ。色々教わったし……そうそう、手裏剣打ちも彼女に習ったんだ」

「改めてご挨拶を申し上げます。ミュネリン・トーバスです。アル様が小さい頃にお屋敷でメイドを務めておりました。アル様は私の恩人です。アル様を、どうか宜しくお願いします。支えてあげて下さいませ」

「よせよ、ミュン。それを言ったら助けて貰った数は俺の方が多い」

 ミュンは微笑んだだけだった。

「こちらこそ改めて。私はミヅェーリット・チズマグロルと申します。私のことはミヅチと呼んで下さい。それと、貴女のことはよく伺っています。この人を……その、可愛がって頂いてありがとうございます」

 ミヅチはミュンに挨拶をして礼を述べると、ミュンのスカートの裾を掴んで後ろに隠れているアイラードと目線を合わせるようにしゃがんで微笑んだ。明かりがあるとは言え、夜中に闇精人族ダークエルフに微笑まれるってのは……どうなんだろ? アイラードはミヅチの事を少し怖がっているみたいだ。こいつもか……しょうがないとは言え、ミヅチもやるせないだろうな。

 ミヅチは眉を八の字にして凹んでいる。バークッドにも精人族エルフは何人も居る。しかし、当然だがダークエルフは一人も居ない。恐らくウェブドス侯爵領にも居ない。まして、ミヅチは黒に近い一般的なダークエルフの肌ですらない。エルフだけあって顔の造作自体は美人な部類には入るだろうが、白く染めた髪、薄紫の肌、大きな向こう傷が目立つ顔、外見上で唯一血が通っている事を思わせるのはピンク色をした唇だけだ。子供には怖いだろうな。

「これっ、アル! 申し訳ありません。あとできつく叱っておきますので、どうかお許し下さい」

 その様子を見たミュンはすごい勢いでミヅチと俺に謝ってきた。こうなることはここでアイラードを見た時から予想していたし……しょうがないよ。だけど、今日の昼に会った時は何ともなかったんだよなぁ……。あのあと少しだけミヅチが喜んでいたのを知っているだけになぁ。

「気にしないで下さい。仕方のない事です」

 ミヅチも少しだけ気落ちしたような顔でそう言うと立ち上がって一歩下がった。俺に隠れるようにしているんだろう。

「……すみません」

 蚊の泣くような声でミュンが謝る。アイラードはまだ六歳になったばかりだ。本当に仕方のないことだと思う。

「ところで、何故アルを?」

 話題を変えようと、ここにアイラードを連れてきた理由を尋ねた。

「あの、今日の午後、この子に短槍の使い方を見せて頂いたそうで……。申し訳ありません。私だとおぼろげな記憶しかなかったもので、簡単なことしか教えられませんでしたもので……有難うございます。……ほら」

「怖がってごめんなさい」

 俺に礼を言うミュンは、すぐに自分の後ろに隠れていたアイラードを前に引っ張り出して頭を下げさせるとミヅチに詫びさせた。

「いいのよ、気にしないで」

 またアイラードの背丈に目線の高さを合わせたミヅチは、そういってアイラードを撫でた。アイラードは今度は怯えないでミヅチを受け入れたようだ。ミヅチに撫でられたアイラードはその後俺の方を見て口を開く。

「あ……あの……アレイン様。どうもありがとうございましたっ!」

 あれは俺が勝手にしたことだし、いいんだ。礼を言われる程のもんじゃない。俺としてはお前(アイラード)がしっかりと見ていてくれたことが嬉しかったくらいだ。銃剣を持ったままぺこりと俺に頭を下げるアイラードを見つめ、さっきのミヅチのようにしゃがむとアイラードの頭に手をやって口を開く。

「アル。その銃剣バヨネットは昔俺が使っていたものだ。そいつを使って俺は何度もホーンドベアーと戦った。お前が持っている奴は今バークッドにある武器の中で一番多くホーンドベアーをえぐった武器だ。刃の根本までぶち込んだこともある。大事にしてくれて有難うな。今度はお前がそいつを使ってゼットとベッキーの力になってやってくれ」

「はい!」

「良い返事だな」

 わしゃわしゃとアルの髪を撫でて立ち上がるとミュンを見た。
 アイラードの両肩に手を置いたミュンは微笑んでいる。
 その表情には感謝が込められているように感じた。

 その後、適当な石に腰掛けて暫らく近況を語りあい、三十分程を過ごした。

 途中、第一騎士団の話や迷宮の話、そこで倒したモンスターの話をしたりした時にはアイラードも興味津々と言う体で身を乗り出してきた。ミヅチも結構喋ったのでアイラードはミヅチにも大分慣れたようだ。なお、ミュンは旦那のボッシュにも黙ってアイラードが五歳になった昨年の春から定期的に夜中にアイラードに剣を教えているらしい。どうもロンベルト王国の一般の剣の使い方であるフォーゲン流ではなく、ミュンが昔習ったやり方のようだ。すっげー劣化したミヅチの使うような剣術って感じだろうか。

 しかし、定期的か。毎晩じゃないのは、その……Yes/No枕の問題なんだろうかね?

「……じゃあ、俺達は軽く運動してくる。何もしていないと腕が鈍っちまうからな」

 いい頃合いになったのでそう言って切り上げた。アイラードはまだ話を聞きたそうにしていたが、深夜だし、そろそろ良い子は寝る時間だ。最後まで名残惜しそうだったアイラードは別れるときにミヅチに抱きついていた。すっかり慣れ、打ち解けてくれたようで、ええこっちゃ。が、そりゃ俺のもんだ。顔を埋めるな。

 俺はその間にミュンに小声で耳打ちをした。今夜時間を取って貰った本来の目的はこれだった。

「例の件だが、あれからすぐに憂いは断った。安心してくれ。問題ない。伝えるのに時間が掛かって……長い間不安にさせていただろう? 済まなかった」

 そう言って軽く頭を下げる。

「アル様。私には何も不安などございませんでしたよ」

 頭をあげるとミュンはいつかの時、そのままの笑顔を見せてくれていた。

 おう、大船に乗った気でいろって言ったろう?



・・・・・・・・・



 ミュンたちと別れたあと、俺とミヅチは村の西の方へと歩を進めた。そちらの山の方にはシュリーカーが居る横穴があるのだ。バークッド近辺のシュリーカーはあまり大きくなるようなこともなく、ボロ布を耳栓替りに耳に詰めておけば然程苦労することもなく狩ることが出来る。放っておいても近寄らない限り大した問題にもならない。

 そう言えば昔、ミュンにねだって何度か狩りに行ったことがある。シュリーカーは複数の小さな足の生えたきのこのようなモンスターで、コイツ自身には大した戦闘力も無いし、その気になれば転生者でもない普通の子供にだって殺せる程度の存在だ。しかし、自分の周囲に獲物となる動物が接近して来た事を感じると頭部に開いている幾つかの穴から金切り声のような叫び声(口じゃないので叫び声、と言うのも妙だけど)を発し、周囲のモンスターを呼び寄せる。

 それだけなら呼ばれたモンスターが近寄ってくる前にさっさとぶっ殺して魔石を採ってとんずらこけばいいのだが、至近距離でその叫び声を聞くと運が悪い場合、脱力状態になってしまうことがあるのだ。それを避けるための耳栓である。

 ミヅチと二人、シュリーカーの住む横穴を目指しながら、「初めてシュリーカーを狩りに行った時は、その前に別の魔物と出会ってミュンが怪我をしたが、俺が見事に救った。嘘だけど」とか「次回行った時はミュンの忠告を聞かず、至近距離でまともに叫び声を聞いてしまい、脱力して小便を漏らしたことがある。本当だけど」とか下らない思い出話をしながら歩いていた。

 真っ暗で不気味な森のなか、懐中電灯のような「ライト」の明かりのみを頼りに歩かなくてはならないので少しでも雰囲気を和らげてやろうと思っての事だった。しかし、「そんなに気を使わなくてもいいよ。私、ちゃんと見えてるし」と言われ、そう言えばミヅチは【赤外線視力インフラビジョン】の特殊能力を持っていたんだった、と地味に落ち込んだ。

 ミヅチに言わせると周囲の空気よりも樹木の肌は少しだけ温度が低いそうで、問題なく見えるそうだ。むしろ、俺が傍にいる方が俺から放射する赤外線で【赤外線視力インフラビジョン】の邪魔になりやすい、と言われた。じゃあ、お前から放射する赤外線はどうなんだよ、と言いたかったが黙っていた。きっと自分自身の赤外線も目に映りはするのだろうが、慣れているから問題ないんだろう。

 当然だが俺たちの戦闘力はかなり高い。シュリーカーは勿論、叫び声に釣られて寄って来たマンタレイという空を飛ぶエイのようなモンスターやホブゴブリンもついでに狩り、当然ながら目的のシュリーカーの身を首尾良く手に入れることに成功した。

 この辺りで脅威と言えるのはホーンドベアー位だろう。それだって手の届くような至近距離から不意を打たれない限り俺もミヅチも全く問題がないだろうよ。あと二時間もすれば夜が明けるだろう。

 なお、家に戻ったら兄貴はライトを使って明かりを確保しながら型稽古をしていた。

「お? 二人共こんな夜更け……そろそろ夜が明けるか? 今何時だ? 出掛けていたのか? 全然気が付かなかったな」

 とまだ真っ暗な空を見上げて笑い、手拭いで流れる汗を拭いていた。

「あ、ああ、冒険者だしな。魔物相手だし、腕は鈍らせたくないしね」

 と笑って誤魔化し、採って来た魔石を渡した。

「おおっ!? ……こんなに沢山……十個以上あるじゃないか! ……凄いな。いいのか?」

「勿論だよ。宿代だと思って受け取ってくれ」

「はっはっは。そう気を使うな、金を使ってくれ商会長……って鎧の注文くれたんだよな」

 つまらない冗談で笑うが、俺は吃驚していた。兄貴はこんな夜中に稽古をしていたのか。
 昼間は見回りや従士の稽古を見てやらなきゃならないし……夜中くらいしか時間が取れないんだろうな。



・・・・・・・・・



7446年4月30日

 翌朝、ゼットとベッキーは朝食を摂るとすぐに魔法の修行をするために二階の領主執務室にお袋が放り込んでいた。俺やミヅチに色々話を聞きたがっていたが、そんなもの後で幾らでも話してやると言って魔法の修行をさせた。俺達はその間にランニングに出掛け、戻ったらシャーニ義姉さんに天候予測プレディクトウェザーの魔術と生命感知ディテクトライフの魔術を、兄貴に占い(ディヴィネーション)の魔術を使ってみせた。シャーニ義姉さんの方は全属性の魔術に適性があるが魔力は一般より少し高いくらいだ。技能のレベルも無魔法も含めて全て四とそう高くない(一人前の魔術師並みなので年齢から考えると結構高いとも言える)。

 兄貴の方はミヅチよりも高い魔力を誇っている。長くても数日も練習すれば使えるようになる筈だ。但し、これについては奥の手にした方が良いとは言っておいた。ついでに石化フレッシュ・トゥ・ストーン解石化リムーブ・ペトリフィケーションもそこらを跳ねていたカエルを捕まえて実演した。

 因みに、シャワーで済ませた俺と兄貴を置いて、ミヅチはグィネやエンゲラを誘って朝から風呂に行っていた。汗を流すのにはシャワーで十分だけど、一旦風呂に入っちゃうとな。気持ちは解る。

 昼食を摂ったあと、うちの訓練場でミヅチやグィネ、エンゲラも交えて稽古を行う。今日はゴム製品の製造をしていた従士たちも参加するようだ。従士の役に就いていない平民や奴隷は引き続きゴム製品の製造に携わっている。……あれ? バークッドの従士たちの稽古ってこんなにぬるかったっけ? 昔はむちゃくちゃきつかったイメージだったんだが……。

「物足りないようだな」

 兄貴が苦笑いを浮かべて俺に話し掛けて来た。

「いや、別に、そんなことは……」

「お前だけじゃない。皆の顔を見ていれば判る。毎日迷宮に挑んでいる一流の冒険者と一緒にしないでくれ」

 兄貴は肩を竦めると従士たちに大声で気合を入れていた。

「ホラ、ウィットニー! そんなへっぴり腰じゃダメだ! アルが笑ってるぞ! 昔はお前、アルに剣を教えてたんだろうが!」

 笑ってねぇよ……。

 殺戮者スローターズでは下位の、グィネやエンゲラも従士を相手にすると圧勝することも多かったようだ。勿論、槍や剣を扱う技術自体は従士たちの方が高い。しかし、突きの鋭さや払いからの攻撃へ移る際の体重移動などでグィネに軍配があがっているようだ。エンゲラはエンゲラで、防戦になると滅法強かった。それに、組んだ相手と上手に連携を取り、そいつが攻撃し易いように相手の体勢を上手く崩していた。いっつも防御や連携ばっかり叩き込んでいたからな。

 まぁいいや。

「兄貴、やろうぜ」

 昔使っていた木銃はどっかに消えていたので銃剣は使えない。
 木剣を構えて兄貴に声を掛けた。



・・・・・・・・・



 やっぱり兄貴は強かった。最近、模擬戦をしても俺は滅多に攻撃なんか貰わない。ごく稀にゼノムに斧を当てられる程度で、それも相手の方が数が多く、俺はたった一人で後衛を守る設定の時だけだ。にも関わらず、この短時間で兄貴は木剣を俺に直撃させた。一対一だったのに……。勿論、俺はほぼ全て、当てようと思って放った攻撃は全部当てたが、兄貴のレベルは僅か十一に過ぎないのだ。しかも、経験値から言って今年十一になったばかりだろう。俊敏は三倍以上、器用も二.五倍は俺の方が高いのに……。

 いきなり放って来た奥の手の二連突きも難なくいなし、既に兄貴の腕を上回っていることを確信したが、俺の脇を通り抜けざまに放たれた、脇腹の背中側への攻撃を貰った時は一瞬息が詰まった。プロテクターで腎臓キドニーを守ってはいたので大怪我には至らなかったが、そんなことよりもモロに直撃を受けたことにショックで息を詰まらせたのだ。絶妙なタイミングで放たれた見事な突きであった。

 凹むわ。これ、まじで凹むわ。俺は決して稽古をサボったりしたことはない。ランニングも出来る限り継続して行っているし、実戦についても怠っていない。白状すると一対一なら相手がモンスターでもない限りそう簡単に直撃を貰うことは無いとすら思っていた。

 勿論、慢心から油断していたなんてことも無い。あの兄貴相手に油断なんて出来るはずも無い。その証拠にその一撃以外は全て躱すかいなして外していた。勿論、側で観戦していたミヅチだけでなく、グィネも、エンゲラも驚いていた。三年ちょっと前、第一騎士団相手に模擬戦を行ったところを見ているのは唯一エンゲラだけだが、彼女にしても成長した俺であれば兄貴の攻撃を貰うことは無いと思っていたようだ。

 おそらく、兄貴は能力値を全て使いこなしているのだろう。天性のボディバランスに加え、弛まぬ努力で肉体に秘められた全ての能力を己のものにしているのだ。訓練によって、意志の力で自由に脳のリミッターを外せる領域に到達しているのだろうか。いや、まぁ、客観的に見てそれでも俺の圧勝としか言えないんだけどさ。

 だが、同時に俺にもまだまだ大きく成長出来る余地があることも理解できた。普人族ヒュームを始めとするオースの人類は、才能と、やりようによっては意志の力によって集中力を高め、肉体のポテンシャルを限界まで引き出すことが可能であることが証明されたのだ。



・・・・・・・・・



7446年5月1日

 午前中に全員分のブーツの素体が完成した。兄貴が引っ張ってきただけあって靴職人のバールは非常に仕事の早い、熟練の職人だった。グィネとエンゲラのプロテクターもほぼ完成し、幾つか調整部分を残すのみとなっている。明日には村を出立できるだろう。ゴム鎧の方は着てしまえば良いし、荷物らしい荷物はブーツくらいだ。サドルバッグにでかい袋でも引っ掛けておけば大丈夫だろう。それでも厳しいようなら順番に馬から降りて走ればいいだけのことだ。少なくともドーリットまで出れば道はかなり良くなるしね。

 既に出来上がっている物資を先に運んでくれと言われるかも知れないな、と予想していたが、次回の納品時にはドンネオル家が王都に、リョーグ家がバークッドに戻るのだ。その家財道具の運搬もあるので無理に運ぶ必要はない、と言われた。

 お言葉に甘えさせていただくことにした。

 今日は俺も何度も風呂を楽しんだ。



・・・・・・・・・



7446年5月2日

 昼過ぎ、また二頭の軍馬に別れて騎乗した俺達はバークッドを後にした。俺とミヅチが汎用型のゴムプロテクター、グィネとエンゲラが狩猟などに使われる新型のプロテクターを着ている。

 新しく作った戦闘靴に慣れるため、グィネとエンゲラは馬には乗らずに歩いている。彼女たちのプロテクターは急所と手足に防御力を集中させる作りになっていて、重量も少し重い。今まで革鎧しか身につけていなかった彼女たちには慣れるまで我慢してもらう他ないだろう。だが、獣やモンスターに噛み付かれるのはほぼ全て手足だと言って良い。

 手の指先の外側のみがミトンのように固められ、指先から肘までを覆う大型の篭手ガントレットに加え、汎用型のプロテクターでは硬質ゴムかゴムバンドであった、脹脛や腿の裏側までエボナイトプレートが配されている。勿論可動範囲はきちんと考慮されており、戦闘行動には支障のないようになっている。対して、胴体部などは飛び道具での攻撃についてはあまり考慮されていない。デザインは全体的に曲面が増えた上、対弓矢用の溝を廃しており、濡れたようにぬめぬめとする光沢のある感じだ。

 とは言え、兄貴の話によるとこれでも俺が長年使っていた第三世代型よりは胴の防御力も多少増しているらしいから充分と言えるだろう。エボナイトを含む素材や設計の改良は常に行われているそうだ。今着ている俺の鎧にしても表面を覆うエボナイトプレート自体の厚さは以前と殆ど変わらないが、裏側に空冷エンジンの冷却フィンのように彫り込みを入れ、その隙間に硬質ゴムを使って凸凹を合わせているという、ハイブリッドのような構造にして軽量化と防御力の維持の両立を図っているらしい。この構造はグィネとエンゲラの鎧の手足にも採用されている。

 今まで以上に心強さを感じる。安心して迷宮に挑むことが出来るだろう。

 すっかりと懐いたゼットやベッキー、アルたちと別れるのは後ろ髪を引かれる思いだったが、あまり長い間のんびりとしていても意味は無いのだ。



・・・・・・・・・・



7446年5月6日

 一週間も掛からずにキールに到着した。とりあえず宿を確保した後に最初に向かうのは騎士団の本部である。今の時刻は十四時過ぎくらいだから、今度こそ会えるはずだ。門番へのアピールのために鎧は脱がずに向かった。

 門番に来訪と面会の意を伝え、四人で待機していた。

 程なくして俺たちと同年代の少女が本部から出てきた。あまり品質の良くない革鎧に身を包み、腰には長剣ロングソードを佩いている。濡れたような黒い髪は邪魔にならないよう短くなっているが、見覚えのある顔立ちだ。

 バークッドの高級ゴムプロテクターに身を包む一団を見て気が付いたのだろう。律動的な歩調で近づいて来る。

 こんな印象なんか欠片も感じさせなかったあいつが……変われば変わるもんだな。
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