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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百五十七話 パレード

いろいろとご心配をお掛けしました。
申し訳ありません。
生牡蠣は美味かったですが、少なくともこの作品が完結するまでは加熱用の牡蠣を生で食うような真似はしないと誓います。
7445年12月28日

 昨日の晩、換金した魔石はトロールとオーガのものが三十五個づつ、便所コオロギのが八十四個、でかカマキリのが四十個、大ヤスデのが五十三個、スカベンジクロウラーのが十一個だった。

 全部で七千八百万Z(金貨七十八枚)か。久々の大稼ぎだったな。奴隷を除く全員に百五十六万Zのボーナスを支払い、俺の手取りは六千七百万Z余り。これが毎回なら皆に毎月五百万近いボーナスを払ってやれるんだが……。今回はちょっと長かったし、流石にそりゃ無理か。

 それに、ラルファとグィネは訳のわからんことに無駄遣いしそう……別にいいけどさ。「貯金しとけよ」と言って金貨一枚に金朱二個、銀貨六枚を渡してやる。皆はゼノムを代表者として共同で神社のロッカーを借りているらしい。

 ミヅチは俺のロッカーに居候でもするのかと思っていたが、皆と同じロッカーを使っているようだ。それぞれ名前を書いた小袋に金貨を入れて預けている。「別に俺のとこ使っても良いんだぞ」と言ったが、月に三十万Zもする管理料の一人あたりの料金を減らすために参加していると言われたので納得した。ゼノムとトリスが少しだけ多く出しているらしい。

 六十七枚の金貨を預けるために神社に直行し、ロッカーの袋に入れた。金貨千枚の袋が二つ、五百枚の袋が二つ、百枚の小袋が七つになった。二年前の同時期の十倍くらいあるが、まだまだ全然足りない。ロッカーは結構でかいので金貨千枚の袋でも二十個近くは入る容量がある。

 いろいろ考えると、少なくともこのロッカーを金貨で一杯にしたいのだ。欲を言えばロッカー二つね。グィネに使わせている槍、ベルに使わせている剣、それに水化の腕輪。売ればどの程度の金額になるかは判らないが、武器の方は億単位を期待してもバチは当たるまい。

 ここバルドゥックに来て三年半、半分くらいは商売の利益だが、残りのかなりの部分は七層に行ってからの稼ぎであるからして、この調子なら十年も掛からずに二百億Zくらい貯められそうだ。だけど、ここらで一発、でっかく稼ぎたいよな。ン百億なんて贅沢は言わない。ン十億でいいのだ。……贅沢か。ま、八層に期待だな。

 昨日の夜はその後、残してきた四人の戦闘奴隷と合流し、全員で飯を食って寝た。俺達が迷宮に潜っている間、戦闘奴隷たちは訓練をしたり、ソーセージを作っていたりしたらしい。話を聞いてみるとキャサリンは一生懸命頑張っているようだ。今日明日はランニング以外は丸々休み、明後日はミヅチとバストラル、キャサリンと一緒に王都に行き、工場の候補を幾つか見てくるつもりだ。

 とにかく今日明日はゆっくり休もう。
 昼飯時にソーセージの味見をしたりしてまったりと過ごした。



・・・・・・・・・



7446年1月1日

 王都ロンベルティアのグリード商会の前、ベール通りにミヅチと職員たちと一緒に立ち、第一騎士団のパレードが通りかかるのを待っていた。真冬なのでかなり寒いが全員それなりに暖かい格好をしているし、屋台で熱いシチューも買ってきているので防寒対策はバッチリだ。この前の商品の補充以来、商会への客足は戻っているので、正月の今日は全員久々の休日となっている。

 よく見えるように、アンナを肩車してやる。ハンナはダイアンの入婿に来たルーク、カンナはすっかりお祖父ちゃんのように懐いているロズラルに肩車をされている。アンナは恐縮するレイラのセリフを真似たのか、

「すみません、会長」

 などと口にして居るが、猫人族キャットピープルの小娘一人くらい、軽いものだ。それに、弾むような声はよく分かる。ハンナもカンナも楽しそうだった。

「「お!」」
「「あ!」」

 先導する係員が大声で歌を歌いながら近づいてきた。
 係員の声は既に大層掠れており、何を歌っているのかさっぱりわからない。
 沿道に並ぶ民衆の歓声が王都に木霊する。
 もうパレードはあの角の向こうにいるのだろう。
 俺たちに肩車をされた三人の子供たちがはしゃぎだした。
 おいおい、危ないからそんなに激しく動かないでくれ。

 係員のすぐ後ろに第一中隊の中隊長であるゲンダイル子爵が騎乗している。すぐ後ろに小隊長たちが続いているが、その中には第一小隊の小隊長を務める第一王子のロンバルド公爵リチャード・ロンベルト四世殿下も含まれている。

 そして、隊長たちの後ろには第一中隊の平騎士達も続き、更に後ろには従士達が国旗や団旗の付いた長竿の武器を掲げて歩いている。第一中隊の後ろには騎士団長のローガン男爵と副団長のビットワーズ準男爵、それに直属らしき騎士も続き沿道の民衆に手を振っていた。

 続いて第二中隊長のバルキサス士爵が続き、その後に第三中隊長のケンドゥス士爵と続いており、姉ちゃんも第三中隊の平騎士に混じって歓声を上げる沿道の民衆に満面の笑顔で手を振っていた。

 騎士団の正騎士たちは全員、グリード商会の前に並んでパレードを眺めている俺達の前で騎乗したまま抜剣し、捧げて礼をしては剣を収めていた。有力な出入り業者の前ではパフォーマンスでそういった事をやるようだ。レイラはこういったパレードは三年置きに行われると解説してくれた。

 アンナやハンナ、カンナは大喜びで失神寸前のはしゃぎようだった。

「しかし、大したものですな」

 ロズラルが話し掛けて来た。言いたいことはよく分かる。

「ああ、全くだ」

「これだけ多くの方にバークッドの鎧を使って頂けているなんて……」

 ルークが感動したように言う。
 第一騎士団の隊長格は全員と言って良い程、黒いゴムプロテクターを着用し、平騎士も着用率は半数近くに達するだろう。従士の中にも黒い鎧を着用している人はちらほらと目立っている。

 姉ちゃんはこれを見せたかったのかも知れない。

 姉ちゃんも俺の設計した長剣ロングソードを抜剣して捧げ、にこりと微笑むと鞘に収め、再び前を向いてパレードは続けられた。

 その後、少し間を置いて第二騎士団、第三騎士団、第四騎士団と全ての騎士団がパレードに続いていた。勿論、警備や巡回などの都合もあるだろうからほぼ全ての団員が参加したのは第一騎士団だけなんだろう。人数も全ての騎士団は一緒くらいに調整されていたみたいだったし。

 騎士団のパレードがグリード商会の前を通り過ぎるのには十分以上もの時間が掛かった。合計千人も居ないであろうが、数えてた訳じゃないし……いいとこ五百人くらいか?



・・・・・・・・・



7446年1月2日

 昨日の夕方に王都からボイル亭に戻った俺とミヅチは、まだ夜が明ける前、朝の五時に新人を含む奴隷七人を伴ってバルドゥックの迷宮前の入り口広場の片隅にいた。今日明日で六層までを突破し、明後日の一月四日は丸一日七層でオーガ相手にこいつらを鍛えるのだ。面倒臭いっちゃ面倒臭いが、手っ取り早く経験を積ませるのにオーガ程丁度良い相手はそうそういない。それに、二日間で六層を突破可能なスピード感を肌で知って、感じて欲しかった。

「これで三日間は問題無いと思います。念のため少し多めにしていますが……ご主人様、やはり私も……」

 リュックサックに入れる六人分三日間の食料を一人一人に手渡しながらギベルティが言う。

「ああ、大丈夫だよ。うちのやり方がどんなもんか知って貰うだけだからな。お前に荷運び(ポーター)をやって貰うまでもない」

「しかし、ご主人様……」

 俺の返事を聞いたズールーが心配そうに言う。そう言えばズールーはこの六人での七層行きに最後まで反対していた。せめて自分かエンゲラを同行させろと煩く言っていたな。

「ズールー、心配してくれるのは有り難いけれど、もう少しこの人と私を信頼してよ。それとも付いて行くのに私じゃ不安?」

 背の高いズールーの胸をつつきながらミヅチが言う。

「いえっ! 奥様! そんな、滅相も! 分を弁えず出過ぎた事を申し上げました。お許し下さい」

 ズールーは自分が出過ぎたことを言ったのだと自覚したようで、恥じ入りながら申し訳無さそうに頭を下げている。

「ごめんごめん。少し意地が悪い言い方だったわね。でも、ヘンリー(ヘンリー・オコンネル)もメック(メイスン・ガルハシュ)もデーバスで正騎士だったのよ? 実力は折り紙付きでしょ?」

 ミヅチも気にしては居ないようだし、それとなく新人にも気を使っているようだ。ヘンリーとメックも「お任せ下さい! ズールー様」とか言ってる。元正騎士が兵隊出身のズールーに頭を下げるというのも妙に見えなくもないが、ズールーは俺の奴隷頭だし、当然のことだな。秩序だっていることは良い事だ。

「私は何も不安はございません。それより、お二方とも碌に休みも取らずに……お体の方が心配です……」

 エンゲラが心配そうに言うが、休みならこの前二日間もゆっくり休んだ。十代の肉体を持つ俺達には充分だよ。

「大丈夫よマルソー。ちゃんと休んでるから心配は要らないわ」

「ああ、問題無い。……そうだ、ギベルティ。四日の夕方には戻るから、これで牡蠣用意しといてくれ。鍋食いたい」

 俺もエンゲラに心配いらないと笑いつつ、ギベルティに銀貨を一枚握らせた。本当は生牡蠣を食いたいが、流石に食中毒が怖い。日本で生食用に流通しているものであればいざ知らず、オースで生牡蠣を食う度胸なんか無い。え? 俺はそこまで馬鹿じゃねぇよ。

「四人とも、ご主人様と奥様のやり方をよく学んでおけ。それから、何を見ても他言無用だ。俺たちやお前らだけで話すことも許さん。いいな!」

 奴隷頭の訓示も終わったようだ。
 だけどそれ、俺が格好つけて言おうと思ってたのに……。
 それに俺の奴隷や殺戮者スローターズしかいないところなら話したって別に構わないんだけどな……。

 さて、行くか。殺戮者スローターズのやり方ってのを学んで貰う必要がある。

「ヘンリー、メック。今日の一層だけど、あなた達二人が両翼で強襲掃討アサルト・スイーパーよ。ルビー(ルバーノ・ファイエルノート)とジェス(ジェスタス・マンゾッキ)は中衛で槍衾スピア・インターセプター。私とこの人が前衛で切込アバン・ギャルドをやるわ」

「ま、これからやるのが殺戮者ウチの本来のやり方だ。モン部屋なんかの要所は俺とミヅチが処理するが、サクサク行くからな。遅れるなよ」

 そう言うと広場の隅から迷宮の入り口へと向かっていった。



・・・・・・・・・



「よし、十五分休憩する。用足しに行きたい奴は今のうちに行っておけ。この部屋の周囲なら魔物は近寄らないから安心だぞ。飲み物が飲みたい奴は水筒を持ってこい」

 今の時刻は九時半くらい。今日の一層の行程は全長で約九㎞、迷宮の中を時速二㎞で進んで来たことになる。一般的に言ってかなり早いペースだ。が、とても満足は出来ない。今の殺戮者スローターズであれば時速三㎞は出る。街中の道の上を歩くよりちょっと遅いくらいだ。

 四人ともそれなりに疲れた表情はしているがまだまだ行けそうではあるな。途中で出会ったモンスターには俺とミヅチが先頭になって切り込んだので、彼らは俺達の撃ち漏らしをタコ殴りにしていただけだろうからあんまり疲れてはいないだろう。

「六人なのにいつもとあんまり変わらんペースか……凄いな」

 ヘンリーが言う。

「ですだ。ご主人様は、はぁ大したお方だで」

 ルビーも同調した。

「む……根絶者エクスターミネーターズはもう少し時間が掛かってたか……」

 ヘンリーたちの話を聞いたメックがジェスに言った。

「そう……だすかね? おらには一緒くらいかと……」

 ジェスは自信なげに答えた。

「ちょっと遅いね」
「仕方ないさ、メックに魔法使わせてたからな……。二層はもう少しペースを上げるつもりだけど、この分じゃ三層を超えるの夜になっちゃうだろうな。それまでには奴の魔術レベルも上昇するだろ……いや、させる……させられる、と思……明日もある……やっぱ流石にそりゃ無理か」

 彼らの話を横目にしながら俺とミヅチは小声で相談していた。

 メックには魔法の経験を稼がせるために、生きたゴブリンを押さえつけて地魔法でその顔の上に土を出させ、窒息死させていたのだ。無魔法のレベルが低いのでまともな攻撃魔術が使えないために苦肉の策だ。昔、嫌がるラルファにもやらせたことがある。口の中にコップ一杯位の土を出して指向性を持たせて押し込めばゴブリンくらい簡単に窒息させられる。ミヅチも見ていられないと言って嫌がっていた。

 本来はそれなりに時間を掛けてレベル三を目指すべきなのは俺も解っている。魔術のレベルが一~二くらいのうちにそれなりに時間を掛けて魔術に親しんだ方が良い。魔力を練るコツは人それぞれ少しづつ違うらしいから自分の練り方に慣れておくべきなのだ。

 無魔法のレベルが三になれば代表的な攻撃魔術は使えるので、あとは人手を使わずに自分一人でダメージを与えられる。今のメックの魔力量(MP)は十。無魔法のレベルが上昇すれば十一。おそらく地魔法も上昇するだろうから十二か。

 「ストーンジャベリン」を三十分に一回使わせて慣れさせてからそれを攻撃に使わせればいいだろう。とは言え、実用的なところ……数秒で撃てるくらいにまで慣れるにはそれなりに時間も掛かるだろうからかなり先のことになるだろうけど。最低でも半年は見込むべきだろう。

 五層くらいまでなら余程の相手じゃない限りジャベリン系の攻撃魔術は切り札クラスの攻撃力を誇る。大抵の魔物であればまともに当たれば一撃で仕留められるのだ。あのフロストリザードですら直撃に耐えられるのは三発がいいところだろう。下手すりゃ二発でかな~り弱るからね。当たれば、だけど。



・・・・・・・・・



「「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」」

 奴隷四人が荒い息を吐き、手持ちの槍に縋ったり、膝に手を突いたりしている。

 今の時刻は二十一時。一層は四時間半程で抜けたが、二層は五時間、三層に至っては六時間も掛かった。昼飯は移動しながらホットドッグを齧って済ませていた。今夜の晩飯は遅くなったがバルドゥッキーとキャベツやにんじん、芋を煮て済ますことにする。ポトフのように煮込みはしないのであんまり旨くはないがそれは仕方がない。

「全体であと五時間は縮めたいな」
「そうねぇ……初日は十六時には三層を抜けたいしね……」

 この三層の転移水晶の間は結構混みやすい。二流や一流半のパーティーが何時でも野営しているし、場合によってはトップチームも居ることもある。今日も到着した時刻が遅かったので壁際には居場所を得られなかった。なんとなくだが最高の場所は角地、次が壁際って感じだ。十六時くらいにここに到着できれば角は無理にしても、大抵の場合壁際には場所を見つけられるものだ。

 冒険者は正月だからといって休む奴はあんまりいない。パーティーごとに決められた日程に従って迷宮に入るのが普通だ。迷宮に入らない時間は全部が休日みたいなものだから正月休みに拘泥する奴はあんまり多くない。寧ろ飯屋は混むし、他の店も休みが多いから正月は迷宮に入っちゃう奴も多い。宿の小僧たちも順番に休みを貰えるから正月は人手が足りなくなり易い。イコールでサービスの質も落ち易いしね。

 ところで、結構時間を掛けただけあってメックの魔法の経験もかなり得られた。今日だけで四百くらい魔法でダメージを与えられたようだし、無魔法のレベルを上昇させるにはあと二千二百くらい魔法でダメージを与えればいいんじゃないかな? しこしことしょうもない魔術を使わせて居るだけだと一年以上掛かるような経験を積ませた甲斐はあったな。

 明日は……四層五層はアンデッドばっかりだし、窒息もクソもなかった……。六層のイノシシや、七層のオーガを窒息させられるほどの土は出せないし……。まぁ、また近いうちに機会を見付けて今回同様に経験を稼がせてやりゃそこそこ早くレベルアップするだろ。

 しかし、この様子だと見張りを任せるのは少しばかり不安だな。大サービスだ。今日は俺とミヅチの交代でいいだろう。申し訳無さそうにする四人に気にするなと言い置いてミヅチも先に休ませた。



・・・・・・・・・



7446年1月3日

 ふむ……レベルが上ったか。昨日とは異なり、窒息死が殆ど見込めなくなったため、奴隷たちへ経験を積ませる方向にシフトした。必殺技、下半身氷漬けだ。お陰でルビーとジェスのレベルは一づつ上昇し、七と六になった。ヘンリーとメックまでは流石に無理だ。だが、明日行く七層で首だけ出したオーガを無傷から一人で殺せば一匹あたり千五百とか稼げるのだ。その気になりゃ四人とも経験値の一万くらい、たった一日で得ることも夢じゃない。

 やってもいいけど、あんまり意味ないんだよな。能力値も耐久力が上がればHPも増えるし、ネガティブHPの枠も上昇するから死ににくくはなるけどさ。増えた能力値も大きく貢献する訳じゃ無い。寧ろ、能力値が低いままランニングを継続させることで能力値の上昇との関係を分析する方が良いんだよね。

 別に確たる根拠がある訳じゃ無いけど、能力値が低い方がレベルアップに頼らない能力値上昇が早い気がするのだ。そもそも今回だって本来の殺戮者スローターズはこんな感じだぞってことを理解して貰う意味の方が大きいし、レベルアップを目的にしている訳じゃ無い。経験を積ませることはいつでも出来るしな。おお、帰ったらジョンとテリーにもこれから毎朝走るように言うか。泣こうが喚こうが、ラルファに鬼だと罵られようが走るだけで死にゃあしない。そもそもジョンもテリーも血の一滴まで俺のものだったな。

 きゅうりの酢漬け(ピクルス)を薄切りにしているヘンリー。コンロで湯を沸かし、バルドゥッキーをボイルしているジェス。パンに包丁を入れているルビー。すりこぎでカラシナを擂り潰して辛子を作っているメック。俺は裸足になった足をお湯に浸けながら彼らをぼうっと眺めていた。ミヅチは先にシャワーを浴びている。

 午後に通り抜けてきた五層の転移水晶の間、そしてやっと辿り着いた六層の転移水晶の間のシャワー室や台所、足湯などに目を丸くしている奴隷たちに命じて夕食の用意をさせていた。

「はぁ、さっぱりした。お湯足しとこうか?」

 シャワーを浴び終わったミヅチが声を掛けてきた。

「ん? ああ、頼む」

 飯の用意にはもう少し掛かるだろう。スープも作る筈だしな。ミヅチと入れ替わりで俺もシャワーを浴びると飯の用意は終わっていた。ありゃ、少しゆっくりとし過ぎたかな? 待たせて悪いね。

「へぇ、これ旨いな」

 見た感じ、何の変哲もない野菜スープだがしっかりと出汁が取れている。

「ラリーさに教わっただす」

 ルビーがはにかんだような笑みを浮かべて手を差し出した。空になったカップを渡し「あ、半分くらいで頼む」と言って注いで貰ったおかわりを受け取ると、食パンで挟んだホットドッグもどきを食べた。鼻にツンと抜ける辛子の風味が良い。マスタードじゃこうは行かないね。ミヅチや彼らの好みはどうだか知らないが、俺はマスタードより辛子の方が好きなのだ。

 ジェスは辛子で涙目になっているようだが、食欲はちゃんとあるようだ。ヘンリーもメックもぱくぱくと食べている。食いっぷりからして彼らは辛子に抵抗は無いようだ。ミヅチは「サビ抜き」と称して辛子は付けていない。ダメだったか。代わりにキャベツの塩漬け(ザワークラウト)を刻んだものを多目に挟んでいる。乳酸菌は居るんだよな。

「あー、食いながら聞いてくれ。明日はいよいよ七層だ。オーガを相手にして貰う。最初に俺とミヅチが魔法抜きで手本を示す。その後はお前たち四人だけで一匹仕留めてみせろ。数の調整は俺達がちゃんとやるから心配しなくていい」

「そう固くならなくていいわよ。四人で掛かればまず大丈夫。但し、ヘンリーとメックは防御に徹するべきね。二人がオーガの攻撃を凌いでいる間にルビーとジェスが攻撃を当てれば良いと思うよ」

 ふぅふぅと熱いスープに息を吹きかけて冷ましながらミヅチが言う。ヘンリーとメックはお互いを見て頷き合っている。ルビーはふんふんとのんびり頷きながら、ジェスはごくりと口の中のものを飲み込んで頷いていた。

 オーガの攻撃方法や有効な位置取りなどを説明して休むことにした。流石に誰一人無傷とは行かないだろう。大怪我をしても必ず治療してやるから安心しろと言って見張りを任せて眠った。ま、六層には誰も来ないだろうし、万が一見張り中に寝ちまっても大丈夫だろ。

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