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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百五十五話 八層の姿

7445年12月21日

 年末進行のため十九日から二十七日までの九日間を今年最後の迷宮行と定め、二十八日から来年一月六日までの九日間を年末年始休暇とした。そして、今回の迷宮行はここ数ヶ月とは異なり、久々に殺戮者スローターズはフルメンバーで挑む。虐殺者ブッチャーズ及び根絶者エクスターミネーターズには少し早く長い年末年始休暇を言い渡した。

 勿論、休暇中に迷宮に入りたければ好きに入っても構わないし、分け前についても俺には払う必要は無いと言った。但し、二層以降には絶対に足を踏み入れないことと、俺の許可を得ての迷宮行ではないので入場税は自腹だし、迷宮内で消費する食料などについても自腹だと言っておいた。また、当然だが四人の戦闘奴隷についても貸し出すつもりはない。こうなると正直言ってこの休み中に迷宮に入る奴は一人もいないとは思う。

 とは言うものの、稼ぎが減るから文句を言われたりするかと思って、言い訳も考えてはいたが、誰一人文句を言わず、むしろ嬉しそうに歓声を上げていた。少し不思議に思ってカームに聞いてみたら、彼女を含めてみんな少々へばり気味だったらしい。

 二月程前の移籍テスト以来、ランニングをする奴もチラホラと出てきていたので喜ばしい傾向だとほくそ笑んでいた。しかし、これがかなり体力を消耗させる上に、一層とは言え迷宮で連戦になる。へとへとになって地上に戻り、無理やり食事を詰め込むと酒を飲むようなことも出来ず、宿に帰って死んだように眠る。翌朝はまた、起きてすぐランニング、迷宮での戦闘となる。

 収入についても高価な魔法の品(マジック・アイテム)や貴重な鉱石こそ手に入ってはいないが、月に大体三回の迷宮行、月間に直すと八十~九十万Z程の収入になっているから文句は全く無い。むしろ日光サン・レイ時代より増えている。

 迷宮に入る回数こそ増えているが、今のところ日帰りだし、月間で平均するとだいたい二十日間だ。月に大体二回、合計十八日前後であった日光サン・レイ時代より若干増えただけに過ぎない。安全面では全く気が抜けない連戦になるにしても、殺戮者スローターズから頼りになるリーダーが派遣されているので多少の怪我について心配しなくて済むようになっただけ気持ちは楽になったと評された。

 そう言う訳で、各々休暇を楽しんだり、休養に充てたりしたいと考えていたとのことだ。今まで出向に来た殺戮者スローターズのメンバーから「必ず年末年始は大型休暇になる」と聞いていたので密かな楽しみにされていたらしい。

 ランニングや休みの期間中の迷宮なんか義務でも何でもないので、やりたくなきゃやる必要なんて全く無い。俺としてはやって貰った方が戦力の底上げに繋がるので嬉しいと言えば嬉しいが、定められた迷宮行できちんと働いてくれさえすればあとは何をしていようがそいつの勝手だ。

 元々休みの日にトレーニングをする奴はするだろうし、しない奴はしない。人は楽な方に流されるものだし、強制されなきゃやらない奴は俺もそのように扱うだけ、それまでだ。例えばロッコなんかは自分が計算が苦手な事を知っている(別に珍しくはない。但し、金勘定の機会の多い冒険者では珍しい)が、勉強する気は無いようだし、改める気もないんだろう。同じように読み書きの出来ないジェルについても同様だ。

 対して、最近はズールーとエンゲラ、ギベルティはバストラルに読み書きを教わっているようだし、その場にはキャサリンを始めとしたジョンとテリーも居る上にズールーの女まで居るらしい。誰が言い始めたのかは知らないが、これは良い傾向だ。

 俺は必要にかられてズールーやエンゲラには数字や大字を含めた日本語の漢数字やアラビア数字も教えていたが、それまでだ。彼らにしてみれば他の一般的な文字についても聞きたかったんだろう。教えて欲しそうにしていたのは判ってはいたが、俺に遠慮していたのか教えて欲しいとまでは言われなかったので、俺も教えはしなかった。

 それを知ったオコンネルとガルハシュもファイエルノートとマンゾッキに初歩的な足し算から計算を教えているようだ。だが、バストラルは読み書きや計算を教えるついでに簡単な科学なども教えているようだし、基礎的な農学についても教えているようだ。彼ら四人も興味を惹かれてはいるみたいなのでいずれは合流するように思える。

 問題はその中にたまにゼノムが混じっているところが発端だった。ただ混じって聞いているだけなのだが(平民出身の上、冒険者が長かったゼノムは当然のように読み書きや基礎的な計算は出来る)、割り算や分数、小数に苦戦しているらしい。そして、教わったことをラルファに確認しようとしてラルファも分数の計算が満足に出来ない事が露見してしまった。

 それを聞いた俺とミヅチ、トリスとベル、グィネは腹を抱えてゲラゲラと笑ったあと、念の為にグィネに幾つか問題を出してみたら彼女も不完全だった。グィネを除いた四人で顔を見合わせて青くなり、慌ててロリックも呼んでみんなで確認した。

 n次方程式あたりまでは俺を始めとしてミヅチ、トリス、ベル、バストラル、ロリックみんなが問題無かったが、三角関数、対数あたりになるとミヅチとベル、バストラルが脱落し、微分、積分でロリックが脱落した。複素数やベクトル、離散数あたりになるともう俺しか残っていなかった。とは言え確率や素数などと合わせて暗号で必修だったためこれはずるいけど。計算自体は圧倒的にトリスの方が早いし。

 若いころに詰め込まれた記憶はそう簡単に忘れはしないものだと思っていたが、土曜日も休日になって久しい。いや、俺の詰め込まれ方が多少特殊だったこともあるだろう。かろうじて昭和の時代から防大に入っていた俺は特殊な詰め込まれ方をされていた。と言っても別段特別なことじゃない。大隊(防大では寮ごとに大隊と呼ばれる)の方針で成績不良者へは宿泊している部屋のメンバーも連帯責任で鉄拳制裁を始めとする無茶苦茶な体罰が横行していただけの話だ。

 建前としては税金から学生手当という名の給料を貰っているからには勉学も課業であるために一切の手を抜いてはいけないということだ。周囲に迷惑をかけないようにと必死になって勉強に明け暮れた(本音を言うと同室にも必ず上級生は居るので部屋単位での罰を受けた後に更に同室の上級生から罰を受けるからだ)。同室の同級生と何度も教えあったものだ。お陰であれから何十年も経っているがかなり覚えている。

 複素数やベクトルはともかく、分数や小数については必要だろう。ラルファとグィネについては全員一致でバストラル学級に突っ込み、俺の意に反しはするが強制的に学ばせることになった。因みに本人たちは「出来るって! ちゃんと出来るって! ちょっと忘れただけだって!」「ちょっと計算ミスっただけですよ! 大丈夫、ちゃんと出来ますよ!」と言っていたが、分数同士の割り算が出来ない時点で誰も信用しなかった。確か小学校で習うよな?

 今、迷宮の七層の転移水晶の間に居るが、バストラル先生のもとで、俺の奴隷三人が小学校一二年程度の基礎的な算数を教わっている。それが終わったらゼノム、ラルファ、グィネに対してもう少し高等な算数の授業が行われる。

「もっと早く教わっておけば良かったな……」

 ゼノムが言う。ラルファとグィネは嫌そうな顔をしている。
 少し可哀想になったので何も言わないでやろう。

「明日からは八層の奥に進むんだし、あんまり根を詰めないでね」

 ミヅチが何か言ってる。一昨日と昨日までの二日間で六層までを突破してきたんだ。八層ではあまり高価な魔石を得られそうもないので今日だけは一日七層を歩き回ってオーガを三十五匹もぶっ殺して魔石を採っていた。そろそろ良いだろうというところで七層の転移水晶の間まで進み、明日に備えることにしていた。明日からの一週間、俺達は八層の奥を目指す。



・・・・・・・・・



7445年12月27日

 八層に転移を始めてから一週間が経ち、今日が最終日だ。

 ジョージ・ロンベルト一世が語ったと言われている八層の情報(重なっている場所があるとしか思えない、というやつだ)は二日目に否定されていた。同時にジョージ・ロンベルト一世はグィネと同様の【地形把握マッピング】の固有技能や、ラルファと同様の【空間把握】の固有技能を持っていなかったであろうことが判明した。

 八層に転移したあと、通路状の洞穴を進んでいくと分かれ道があったりするのは今までと一緒だった。しかし、通路は大抵が行き止まりになっており、その行き止まりには新たな転移水晶の台座が鎮座していたのだ。

 十二月二十二日(初日)はそういった転移水晶には触れずに来た道を戻り、一日中七層と八層を行き来して終わった。最終的に八層は小さなエリアの集合体であろうと結論付け、あとは通路の行き止まりにある転移水晶からの転移先を調査しようと言う事になった。

 十二月二十三日(二日目)に思い切って転移水晶を握ると呪文を唱え、次のエリアに進んだ。転移先には同じような通路状の洞穴があるだけだった。そして、その先には新たな転移水晶を発見したのだが、驚きはしなかった。予想されていたからである。グィネの固有技能では一つのエリアしか解らない。同じ水晶で転移すると転移元の水晶に戻された。勿論呪文は同じではない。

 しかし、何度か転移を繰り返すうちにラルファの固有技能がレベルアップしたのだ。転移の度に方角を確かめようと【空間把握】を使わざるを得なかったからだ。レベルアップ当初、ラルファは急に混乱の症状を呈した。

 以前、彼女の固有技能がそろそろレベルアップしそうだと思っていたが、いちいちカウントするのもアホらしかったので放っておいた。しかし、彼女の固有技能が特殊なのか、最大レベルの能力拡張についてすぐに気が付いた。

 俺達が装備する品物まで感知したそうだ。色々雑多な品物がすぐ傍の空間を浮遊している感じを受け、頭が処理について行けずにこんがらがってしまったらしい。効果範囲外からの侵入ではなく、能力を使用した瞬間に皆の装備品が宙を漂うように浮かんでいることを感じ取り、気持ちが悪くなってしまったのだ。

 それを聞いた瞬間に【空間把握】のレベルアップに思い当たり、ラルファを【鑑定】すると、最終行に新たな情報が追記されていた。

【……MAXレベルの拡張能力は効果範囲内にある無生物のうち、そこに存在することが不自然であるものについて全て認識可能になることである。これは予め効果範囲内に存在していても認識が可能になる。また、自分自身が効果範囲外に出ても効果時間の終了までは効果範囲内の物体について感知が可能になる】

 この直後、もよおしてきたラルファはパーティーの女性を伴って、今転移してきたばかりの水晶棒に転移した。苦笑いを浮かべ、用足しに消えた女性陣を見た俺達は、周囲の安全を確かめていた。ついさっき転移してきたばかりだし、まず危険はないだろうと踏んだのだ。程なくして戻った女性陣と合流したとき、ラルファが非常に興奮していたのだ。

 用足しを我慢して転移したラルファが水晶棒近辺に用心の女性陣を置いたまま二十mくらい距離を離れたのだが、その際に【空間把握】の効果範囲から外れたことを感知したそうだ。しかし、外れたにも関わらず効果範囲内に留まっていた俺たち男性陣が効果範囲の中心部近辺をうろうろしていることを感知したし、効果範囲の上端ギリギリには周囲を警戒する女性陣のブーツなどを感じ取れたそうだ。

 このことからラルファは転移先と転移元はそう大きく距離は開いていないこと、更に位置関係はほぼ上下であることを認識した。これを聞いた皆はロンベルト一世の伝記にあった「重なっている場所があるとしか思えない」という言葉にピンと来る。今まで八層内だけで転移が行われていると思っていたが、階層をまたいでの転移が行われている可能性に思い当たったのだ。

 勿論、パズルのピースを嵌めていくように、グィネの作成する地図のエリアを繋ぎ合わせるうちにいずれ気が付いていた可能性は高い。しかし、二日で気が付けたことは僥倖である。通路で出会うモンスターに変わりばえが見られなかったことからてっきり八層のままかと思っていた(当然僅か四~五十mの高低差で八層から九層になるとは思えないが、その可能性に思い当たることが出来たのは大きな収穫だと言える)のだ。

 まして、迷宮の真ん中の転移水晶を使った訳ではないのだから当然とも言える。今まで迷宮中央の特別な転移水晶を使用しない限り、階層を超えて移動することは出来なかった。ただ一つの例外は昔俺が引っかかった転移の落とし穴の罠だけだ。

 ここで六層の転移の罠も、実は罠ではないのではないかという意見も出てきたが、能動的に呪文を唱えない限り転移することのない転移水晶とは根本的に異なるため、その意見は否定された。

 また、転移の水晶棒を使っての転移でも以前の転移位置から少なくとも五十m以上離れるのは当たり前のようで、ラルファが気が付けたのは、数少ない「近距離での転移」だったという幸運のおかげだろうこともすぐに判明した。

 明けて十二月二十四日(三日目)からはとにかく洞穴を突破し、新たな転移水晶に辿り着くことをのみ念頭に置くようになった。それまでの二日間は最初に八層に転移して来たエリアを全部グィネが視界に収めてから改めて幾つかある転移水晶を選んでいた。しかし、これだと行き止まりなんかもあるし、どうしても通路を逆戻りする時間が発生する。

 これを嫌い、新たな転移水晶を見かけたら即座に転移を繰り返した。そうしているうちに幾つか過去に転移したことのあるエリアに繋がる順路を発見したりもした。完全な地図の作成を考えると最終的にはきちんと歩き直さなくてはならないだろうが、踏破距離はぐんと伸びたことは確かだ。

 そして十二月二十七日(六日目)の今日、最終日になってやっと魔物の部屋らしき場所のすぐ近くに辿り着くことが出来た。全員に緊張が走る。少しづつ、少しづつ摺り足で部屋に忍び寄る。初めてこのバルドゥックの迷宮に足を踏み入れ、スカベンジクロウラーが巣食う一層の部屋に忍び寄ったことを思い出した。いつの間にか浮かんでいた苦笑いを噛み潰し、右手で銃剣のグリップを握り、左手はいつでも攻撃魔術を放てるように脱力したまま入り口に近づいて行った。



・・・・・・・・・



 居やがった。

【 】
【男性/15/11/6924・大妖精トロール族】
【状態:良好】
【年齢:521歳】
【レベル:7】
【HP:722(722) MP:1(1)】
【筋力:52】
【俊敏:23】
【器用:12】
【耐久:37】
【特殊技能:暗視ダークビジョン
【特殊技能:超再生スーパー・リジェネレーションタイプⅢ】

 【暗視ダークビジョン】についてはいい。何となく解る。きっと今も昼間のように見えているとかそんなんだろう。しかし、【超再生スーパー・リジェネレーションタイプⅢ】だと?

【特殊技能:超再生スーパー・リジェネレーションタイプⅢ;火傷以外のいかなるダメージを負っても1HP当たり5秒で回復する。その過程で失われた体組織も補充される。また、ダメージを受けた内臓機能も回復する。手足などの肉体部位を欠損した場合、欠損部があれば5秒程で傷口同士の再接続が可能。欠損した部位を再接続ではなく、再生する場合、体積1リットル分の肉体を再生するのに必要な時間は約一日】

 脂でべとついたようにてかり、ウネウネと畝る頭髪。
 濃い緑色で所々皮膚病にでも罹ったかのようなぶつぶつの出来た皮膚。
 長く尖り、少し垂れ下がった大きな鼻。
 耳に届こうかという程大きく裂けた口。
 深く落ち窪んで大きな二つの穴が空いているかのように見え、眼球があるのかどうかすら定かではない眼窩。
 全体的には意地悪で枯れ木のような老人のような印象を与える皺の走った顔。
 黒光りする厚くて丈夫そうな爪が生え、アンバランスなくらい大きな手のひらのついた長い腕。
 少しばかりひょろりとした、肋骨の浮いている胴。
 背骨は浮いており、まるで退化した背鰭のようにゴツゴツと盛り上がっている。
 皮膚の表面は相変わらず汚いが、引き締まり筋肉量を感じさせる脚。
 身につけているのは腰蓑のような物だけだ。

 前世、俺が幼少のみぎりに夢中になったトーベ・ヤンソンの描くほのぼのとした絵とは全く共通点無し。

 正にオーガ以上に醜悪な魔物モンスターだと言えよう。

 そいつが二匹、向い合ってしゃがみ、ジャイアントマンティスの柔らかい腹にかぶりついていた。

 俺の後ろで息を呑む音がする。
+注意+
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