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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百五十三話 姉

7445年10月9日

 虐殺者ブッチャーズが一層の転移水晶の間に辿り着いたのはお昼過ぎ。迷宮に入ったのが八時だったので四時間程で一層を突破した勘定になる。モンスターを氷漬けにせずにこの速度はなかなかのものだ。でもね、そう簡単に認める訳には行かんのよ。怪我も多いし。それに今回は運良く最短に近いコースを辿れるような位置に転移したのもでかい。転移した位置からの総距離はざっくりと五㎞ってところだろう。

「どうだ? 今何時だ? ミース」
「ちょっと待って。十二時……十六分ね」

 ロッコが時計の魔道具を持つミースに尋ねている。皆も興味津々で聞いていた。

「ふむ……八時に入ったから、三時間二十六分か」

 何が「ふむ」だ、一体どういう計算だよ……。意味わかんねぇよ。実力があってもこんな奴、殺戮者スローターズに入れたくねぇ。筆記の計算テストもあるって言っときゃ良かった。

「四時間十六分だよ……。三時間には程遠いわね」

 カームが肩を落として言う。
 少しヒントをやろうか。

「それ、ロリックが買った地図の写しだろう? もっと信頼していいぜ」

 壁に寄りかかり、腕を組んで言った。
 罠の警戒に時間をかけ過ぎだよ。それに、まだモンスターを警戒しすぎだ。あれだけ戦わせてるのにまぁだびびってんのかね? それとも、染み付いた冒険者の習性なのだろうか?

「確かに、完璧とまでは言えない。でも今出回っている中でそいつが一番完璧に近い。二層以降の日光サン・レイの地図も大したものだったが、日光サン・レイの一層の地図とその地図を比べてどうだった? よく考えてくれ」

 俺がそう言うと皆は額を集めて意見を言い合った。

「おい、どういう意味だ?」
「あたいに聞くな。判る訳ないだろ?」
「確かに……この地図の方が罠の書かれている位置は多いし、殆ど全ての通路についても書かれてるように見えるわね」
「……リンドベルさんたちが作っていた地図よりも正確って訳か?」
「外周の形、まるに近いな。日光サン・レイ時代の地図、全部歪だ」
「まるって……円って言うのよ」
「どっちでもいいよ。アルが言うならこの地図の方が数段出来が上なのは確かなんだろう」

 悩め悩め若人よ。それはそうと、お昼だし、腹減ったな。ゆーっくり歩いてただけだけど。

「オコンネル、ファイエルノート。飯の準備をしてくれ。腹減った」

 俺は奴隷二人に食事の用意をするように命じると、誰かが壁際に出したままの土の上に座った。そして片足をもう片方の膝に載せ、ブーツの底の刻み目に詰まった土を千本でこそぎ落とし始めた。

 流石に三年以上履いてるとそろそろ……ソールは一度貼り替えているが、革の表面に塗ったゴムも所々剥げているし、つま先表面を固めているエボナイトもクラックこそ入っていないが、削れている場所がある。何より、最近はキツくなり始めているのが問題だ。つま先に詰めていたボロ布は去年の今頃、完全に取り去ったがまだ俺の体はでかくなりたがっているようだ。どちらかと言うと甲が広くなっている方が問題のようだけど。

「お、お願いします、ご主人様」

 鍋にバルドゥッキーが十本入れられて俺の前に出された。ファイエルノートだ。俺が沸騰するくらいのお湯で鍋を満たしてやると頭を下げて蓋をした。コンロは持ち込んでいないのであのまま四~五分で丁度良く茹で上がる。あとは切込みを入れたパンに葉野菜とマスタードやマヨネーズと一緒に挟めばホットドッグの出来上がりだ。

 食ってる間にもう一回茹でればカロリー消費の高い冒険者でも満足出来る量だし。まして、元日光(サン・レイ)は迷宮内では粗食に耐えていたのだ。文句の出よう筈もない。

 きゅうりを何百と背負って迷宮に入っていた頃に「これがきゅうりじゃなくてソーセージなら」と考えたものだ。いや、きゅうりも好きだよ。マヨネーズつけて食べるのも旨いけど、やっぱ梅きゅうとかもろきゅう食いたいよなぁ。

 そうこうしているうちにホットドッグが出来上がったのでかぶり付いた。旨い。

 皆も旨そうに食っているし、これ、きゅうりを持って迷宮に行く奴らに売れるんじゃね? まぁ、冒険者なんぞ相手にしても仕方ないけど。

「ところで、なんでホットドッグと言うんですか? ドッグは関係ないでしょう?」

 オコンネルが俺の前に座って同じようにホットドッグにかぶり付きながら聞いてきた。

「……知らん。……名付けたのはバストラルだから、あいつに聞いてくれ」

 すまん。突然そんなツッコミが入るとは思わなかった。



・・・・・・・・・



7445年10月13日

 迷宮から出るとまだもうすぐ(スーナー)の方は戻っていないようだった。入り口広場で落ち合うべく今日の反省点などを虐殺者ブッチャーズと話し合って時間を潰していたら程なくしてもうすぐ(スーナー)の方も地上に戻ったので解散した。

 もうすぐ(スーナー)を指揮していたミヅチと二人、並んでボイル亭へ向かった。

 すると、ボイル亭の前に馬車が三台も停まっていた。そのうち二台は見たことがある。やっと来てくれたか。助かった……。迷宮行は明日まであるが、こりゃ明日は休みにさせて貰おう。いい加減に納品しないとリョーグたちもヨトゥーレンも頭を下げっぱなしだから可哀想だ。

「あっ!」

 ミヅチも気がついたようで少し上気したように見える。緊張したのかな? 大丈夫だよ、取って食われたりはしないさ。

 今回のバークッドからの隊商は馬車も一台増えて、それぞれに荷物も山と積まれていた。周囲には懐かしい顔が幾人も見える。おや? あれは……ケリーか? 従士じゃないはずだが……。隣の狼人族ウルフワーの女は知らないな……あんな人居たっけ? 

「やぁ、久しぶりだな」

 馬車の周囲でたむろっていたバークッドの従士たちのリーダーに声を掛ける。元従士長をしていたベックウィズ・アイゼンサイドだ。今の従士長のショーンの姿が見えないから彼が従士たちのリーダーとして来たのだろう。もういい年なんだから無理……御者でもやってたのかな? それとも、五十の峠を超えたし、記念に王城を見せようという計らいか?

「お! アル様。お久しゅうございます! ベックスです」

 うん、知ってるよ。忘れる訳ないさ。親父や兄夫婦だけでなくベックスにも大変に世話になったのだ。剣の修業の主体が模擬戦中心になるまではベックスにしごかれてたんだ。……結構白髪も増えたし、背も……それは俺が高くなっただけか。

「アル様! お久しぶりです。あの、こいつは……」

 ケリーが駆け寄ってきた。隣に例の女を連れてきている。

「初めまして、アレイン様。ミーアイル・ドクシュ、ケリーの妻です。今年の春に結婚したんです。バーデットの出身です」

「へぇ! そりゃおめでとう! アレイン・グリードだ。ケリーにはその、昔大変世話になった。無理を言って狩りに付いて行ったりして散々迷惑も掛けたんだ。これからケリーを助けてやってくれ」

 ミーアイルはケリーより四つ下の十九歳。バーデット村の平民の娘だったらしい。縁あって今年の春にケリーのところに嫁いで来たとの事だった。今回は馬車が一台増え、警備の人員も増加せざるを得ないが、戦争直後と言うこともあって従士に休みをやりたい親父の意向で夫婦揃って急遽雇われたらしい。道理で普段来ないおっさんが多かったわけだ。今回の戦争に行ってない人を中心にしたのだろう。でも、普段狩りをするくらいで村から何日も遠くに行かないケリーたちの新婚旅行には丁度良いかもね。そんな習慣は貴族以外には無いけどさ。

 ……そう言えばミーアイルもゴムプロテクターを着けている。ケリー同様に左手の盾のアタッチメントもないが、装甲厚は胴体部よりも手足の先の方により防御力を置いているカスタム品の造りだ。対人の戦争用じゃない。対獣用の新型のようだ。狩人としても働くのだろう。冒険者にはこっちの方が良いかも……いや、武器を使うモンスターも多いから胴体の防御力は重要だよね。ヘルメットは皆と同じ(俺と同じとも言う)型のようだ。こっちは殆ど進化してないのね。

 ああ、そうだ。今回は誰が来てくれたのかな?

「今回は兄貴? それとも……」

 ベックスに向かって尋ねた。

「先代様ですよ。我々もつい今しがた到着したところでして、今宿を取ろうと……」

 ベックスが俺に返事をしている途中、親父の声が聞こえてきた。

「ああ、ちょっと部屋が足りないみたいだ。半分くらいは別の宿に泊まって貰うことになりそう……アル。戻ったか。元気だった……君がチズマグロルさんかい?」

「ああ、父さん。紹介するよ。こちらはミヅチ、ミヅェーリット・チズマグロルです」
「あ、は、初めまして。ミヅェーリット・チズマグロルと申します」

 ミヅチはぴょこんと頭を下げた。横目で見ると少し緊張しているようだ。

「うん。シャーニから聞いている。私はヘグリィヤール・グリードだ。へガードで良い。いつもアルが世話になっているようだね。ありがとう」

「こ、こちらこそ、い、いつも大変おせ、お世話になています!」

 なていますってなんだよ……。緊張にも程があるだろ。ミヅチは自分でも噛んだことに気がついたのか自分で自分の額をぺちんとやっていた。

「とにかく、皆長旅で疲れたろ? 宿に入って一休みしてよ。あと、他の宿も取るよ。何人?」

「ん……六人分取ってくれ。それとお前、明日はどうなってる?」

「ああ、休みにするさ。でも、皆にも紹介したいし、帰りにまたバルドゥックに寄って欲しいかな?」

「ん? そうか。だが、別に急ぐ訳じゃないしな。二~三日ならここで……」

 うは、のんびり言わないでよ。

「いやいやいや。こっちが急ぐよ」

 胸の前で何度も手を振って言葉を継いだ。

「王都の店の方はとっくの昔に在庫もすっからかんで、王室向けの物しか残していないんだよ。お得意様からは矢の催促なんだ。それに、騎士団の方も順番待ちで苛ついてる人も居るみたいだし……明日には納品に行きたいよ」

「……そうか。じゃあ明日は王都で納品して一泊。明後日にはまたこっちに戻ればいいのか?」

「うん。そうしてくれると助かる。あと、奴隷も六人増えた。今夜紹介するよ」

 そう言うと六人分の宿を取らせるためにジョンを走らせ、テリーには虐殺者ブッチャーズもうすぐ(スーナー)に明日の迷宮行は休みで、今夜の食事にも参加出来ないと伝えに走って貰った。ついでに戦闘奴隷も全員引っ張って来いと言っておいた。

 夕食の時に奴隷たちを紹介していると、マンゾッキが「もうすぐ(スーナー)で頑張ってる」みたいなことを言った。親父は「もうすぐ(スーナー)」という名前が気に食わなかったのか、酔っていたのもあるんだろうけど「根絶者エクスターミネーターズ」と勝手に名前を付けていた。俺は語呂もいいし前に言った殺害者スレイヤーズでいいと思うんだけどね。まぁ別にいいけどさ。

 あと、食事の後、寝る前に俺の部屋で少し話をしたんだけど、「種族が違うと言うことがどういうことかきちんと理解しているのなら、俺は何も言わん。お前のことは信頼しているし、お前がそれで良いと言うのなら闇精人族ダークエルフと結婚するのもいいだろう。だが、貴族には貴族の、領主には領主の、王族には王族の責任、いや、義務は付いて回る。それを忘れなければいいだろう」と言われた。やっぱ子供のことは心配されるよな。

 翌日には王都まで行ってまず騎士団へ鎧の納品と採寸に向かった。因みに、今回の鎧の納品は二十二着。昨年末、受注するときにいつもの倍の数を受注していたのだ。しかし、持ってきた鎧は馬車に積まれている箱の数を数えると二十三。一着多い。これは……。

 皆、済まない。体の大きくなった俺のために新しいのを用意してくれていたのか。

 有難いな。

 そう思って次の注文の採寸を眺めながら、一人腕を組んでうんうんと頷いていた。すると、するっと近づいてきた親父に「服を脱げ」と言われた。後ろには巻き尺を手にしたバークッドの古参の従士、ジムが控えていた。

 は?

「お前の背も伸びたし、大きめに作っていたとは言え、昨日見たが今の鎧じゃあ流石に小さいだろう? それに、もう十七だし、幾らなんでもあと少ししか成長はしないだろ。ちょっとだけ大きめに作ってやるからお前も採寸だ。ああ、心配するな俺の奢りだよ」

 え?

 いや、だって、そこにあるじゃん。

 あれ、俺のじゃないの? まさか、箱だけ?

「あれは彼女ミヅェーリットのだ」

 親父はそう言うとミヅチを呼んで話し始めた。ミヅチも突然のことに驚いているようだ。

「昨年末にシャーニが服を作ってやると言って採寸したと言ってた。ほんの少しだけ大き目に作っているそうだ。いろいろと意見を採り入れたらしく、普通じゃない形になってる。着け方はあとで教えてやれ」

 はぁ?

 いつの間に?

 聞いてねぇぞ……。

 そういうの、言ってくれよ。

 困るじゃん、ガキじゃないんだからさぁ。

 え? 口止めされたって?

 服の採寸って聞いてた?

 だって、意見を採り入れて普通じゃない形になってるって……。

 どんな形の鎧が使い易いか市場調査だと言われた?

 ……そうですか。

「アル様、ご要望はありますか? 表面のエボナイトの硬度も今は少し上昇していますから同じような重さでも防御力を上げられますし、防御力はそのまま程度で宜しければ多少ですが軽く出来ますよ?」

 ジムがそう言いながら俺の体の各所を巻き尺で手早く採寸していった。

「うん……重さは俺の鎧くらいでいい。防御力が上がったほうが良いから……」

「そうですか。村にある三年位前の鎧を参考に作りますね」

「うん。あと、俺の鎧の篭手だけは特別製だ。あとで詳しく話す」

 そうこうしているうちに場が騒がしくなった。姉ちゃんか。

「おう、ミルー! ここだ!」

 親父が姉ちゃんに声を掛けて呼んだ。それに気が付いた姉ちゃんは嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。エンゲラみたいな尻尾があったらぶんぶん振ってるだろう。あんた、三ヶ月か四ヶ月くらい前まで毎日のように側に居たんだろ? 今は俺の父ちゃんだよ! ケリーが早速近寄って結婚の報告と嫁さんを紹介している。そのまま近づけんな。ミヅチも行って足止めして来い!

 そう思ってミヅチにくいっと顎で姉ちゃんを指してやった。

 俺の意図を理解してくれていたのか、俺が顎で指す前からミヅチは姉ちゃんのところに向かっていたようだ。うむ、それでこそ。

「全く。姉ちゃんはさ、この前まで父さんの側に居たんでしょ? 犬みたいに走ってきやがって、みっともねぇ」

 俺が苦い顔をして親父に言うと、「そう言うな。あれも頑張ってたんだ。戦場じゃあんまり褒めてやれなかったからな。今夜くらいはな。……ん? アル、お前……まぁいい。確かにお前とは滅多に会っていないし、長く一緒に居なかったしな」と言って親父は愉快そうに笑った。

「あ、あの、ミルーさん……」

 よし、足止めしろ。

「あら、ミヅっちじゃない? ふふん。やる?」

 おお、流石は脳の容量が少ない我が姉だ。そのままどっか行っちまえ。ミヅチも後を追わなくていいぞ。

「え? それは願ったりですが……その、今日は」

「ああ、来たのね」

 ミヅチの視線の先にある荷馬車に積まれた鎧の箱が目に入ったようだ。

「ええ、それで、もう話しても大丈夫になりましたので……。その、バークッドの服だと聞いていたもので……驚きました。有難うございます! 嬉しいです!」

「いいのよ、気にしないで。シャーニ義姉さんと二人で出したんだし。どうせ私はお金はあんまり使わないしね」

 ミヅチの鎧、代金はシャーニ義姉さんと姉ちゃんが出したのか……ミヅチ、今じゃ金は結構持ってるはずだけど……。今の革鎧も去年新しく作ったものだって言ってたし、手入れもされているからまだ充分に寿命の範囲内だ。服はそれなりに高価だが、流石に鎧とは比較にならない。ミヅチも服だと聞いてあまり頓着しなかったんだろう。姉ちゃんは第一騎士団で高給取りだし、シャーニ義姉さんはゴムで儲けてるバークッドの領主の第一夫人だしな。

 だいたい、バークッドの服ってなんだよ? そんなもんねぇよ。バークッドでは綿花の栽培はしているけど紡績もしてないから布作ってねぇし。ドーリットの街か、せいぜいキールで作るくらいだろう。そもそもあっちの方のデザインは野暮ったい田舎な感じがするから服は王都で作った方が余程良い。

「わかったか、アル」

「うん……」

 ごめん、姉ちゃん。
 今夜は親父とゆっくり話せるように同じ部屋に泊まる権利をやろう。
 あと、バルドゥッキーも食わせてやる。
ご要望の多いメンバー一覧ですが、一話使った方が良いですか? それともこのあとがきでも良いですかね?
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