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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百五十二話 最低限の体力

7445年10月7日

「グリ……アルさん。その、昼にバルドゥッキーの屋台にいらしてたのは、へ、陛下ですよね?」

 もうすぐ(スーナー)の連中と晩飯を食い始めた時に、斜向かいに座っていたロリックが恐る恐る、と言った感じで尋ねてきた。

「ん? ああ、そうだよ」

 ぶすっとして答えた。ああ、ロリックには関係ないのに嫌な態度になっちゃったかな……。
 ったく、あのおっさん、ドルレオンまでソーセージを届けさせやがった……なんで俺がソーセージを抱えてドルレオンまで走らにゃならんのよ……。

「みんな見てましたよ! 陛下にバルドゥッキーを食べて貰えるなんて、凄いじゃないですか!」

 ロリックが少し興奮したように大きな声で言った。今更なんで?

「ほら、やっぱそうだろ?」
「ま、まじだったんか……俺、あんときでっかい方に用足しに行ってたから……」

 それを聞いてサンノとルッツの二人も隅でこそこそ話をしている。

「ふふっ、ご主人様の所属するパーティーのリーダーは王族、いや、国王陛下にも繋がっているんだ。これ凄くないか!?」
「おう、流石はご主人様だな。ファルエルガーズ伯爵家の長男だけあるよな!」

 ロリックの戦闘奴隷のデンダーとカリムはお互いに鼻高々のようだ。しかし、キミたちの言ってること、変じゃないか? ロリックは関係ないだろ……。

「あの方がトーマス・ロンベルト三世陛下か……」
「はぁ、おらにはもう何がなんだか……」

 俺の戦闘奴隷のガルハシュとマンゾッキの二人は呆然とした感じだった。

 んなこたどうでもいいんだよ。

 問題はジンジャーだよ。さっきから呷るように焼酎を飲んでいる。それを抑えようとヒスが彼女の隣について何やら声を掛けているが、ジンジャーは何かに取り憑かれたように、次から次へと酒盃を空けていった。

 今日の昼食の前に裁きは終わったが、刑の執行は昼食後、別の裁きをやっている時に広場の別の場所で執行されたのだ。バルドゥッキーの屋台はそのすぐ脇の一等地だったので飛ぶように売れたのだが、店番をキャシーとジョンとテリーに任せ、手伝いに新しい戦闘奴隷の四人を置いて、殺戮者スローターズは俺を含む総勢二十五名で刑の執行を見守っていたのだ。

 猿轡を噛まされ、屈強な騎士団員から二十回以上も鞭で打たれ、斬首されたリンドベル夫妻とゼミュネル。一発で首が落ちたのはメイリアだけで、コーリットもゼミュネルも斧を二回も振り落とされたのだ。彼らの首はまだ行政府前の広場に晒されている。

 ハルクが絞首刑に処されるとき、彼はジンジャーを見つめていたが、ジンジャーは目を逸らしていた。ハルクは一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべたが、すぐにリンドベル夫妻の首を見るとにやっと笑ったのが印象に残っている。

 その時俺はジンジャーが何かするのではないかとの疑心から彼女のすぐ隣に立っていた。ハルクから目を逸らし、横の地面に目を落とした彼女の口からは呟くように「ばか(ゲッシュ)」という言葉が一言発せられたきりだった。

 恐らく、ジンジャーの気持ちはまだハルクの上にもあったのだろう。最期にきちんと顔を見てやることが出来なかったことを悔やんでいるのか、それとも、裏で皆を裏切り、その結果絞首刑になるような相手と付き合っていたことを悔やんでのことか。そこまでは解らない。しかし、何らかの後悔の念が彼女に大きく影を落としていることは確かなんだろう。

 俺には彼女に何かしてやろうなんて気もない。そんなもの彼女も必要としてはいないだろうし、心の整理は自分自身でつけるべきだ。今は放っておくのが一番だと思う。そもそも、ハルクを始めとした旧日光(サン・レイ)の上層部を罠に掛けて陥れたのは俺だしな。事態の表面だけ見ればブチ切れたハルクが三人を道連れに自爆したような形だが、あの時俺が「仄めかし(サゼッション)」を使ったことが直接の原因とも言える。

 とは言え、彼ら四人は決して濡れ衣を着せられて処刑された訳でもないし、今まで行ってきたことやその対象に貴族の一員であるビンノード・ゲクドー(ビンス)が含まれていたことを勘案され、正式に裁かれただけのことだ。ジンジャーとしても解り切った事だろうが、そんなに簡単に心の整理なんて付けられやしない事でもある。

 俺としては明日の合同訓練に影響を及ぼさなければそれでいい。二日酔いのようであれば「毒中和ニュートラライズ・ポイズン」を掛けてやるだけのことだ。

「ご主人様、お聞きしても宜しいですか? 国王陛下とはどのような……?」

 ガルハシュが恐る恐る、という体で質問を投げかけてきた。噛んでいた物を飲み込み、それに答えようと口を開きかけたところで横から口を挟まれた。

「おい、メック。奴隷の分際でそういう事を聞くもんじゃないぜ。とは言え、こいつは俺も気が利かなかったな。その質問は俺がしようじゃないか。で、アルさん、本当のところはどうなんだ? あんた、王族だったのか?」

 ルッツが言った。そりゃ皆、興味はあるだろう。鎧を第一騎士団に卸していることはとっくに知られているが、それだけで国王にソーセージ食って貰えるとか、あり得ないからなぁ。ルッツはよく気の利く優しい奴なんだろう。俺が送ってきた人生は前世の方が長かったからか、余程突っ込んだ質問でもされない限りは戦闘奴隷だろうとそうでなかろうとあまり気にせずに答えられるなら答えてしまう。

 しかし、一般的には所有している奴隷が主人の事を詮索する事自体は良い事とされていない。だって奴隷はさ、奴隷だし。基本的人権も無ければ税も納めていない。髪の毛一本から血の一滴まで、全ては所有者の「物」だ。ルッツは自分の疑問を解消させる風を装って新人の戦闘奴隷のガルハシュを庇うのが目的だったんだろう。

「いや、王族という事はないよ。血も繋がってない、赤の他人だ。ただ、商売の関係で直接王家に納品したりする程度だよ。その過程で何度か顔を合わせてもいるから、陛下だって俺の事は覚えていて下さったのだろうな」

 ロリックはコンドームを俺から買っているし、姉があのマリーネン妃殿下だと言うから繋がりくらい全部知っているかと思っていたんだが、知っていてもいちいちそういう事を誰かに吹聴するような真似はしなかったのか。ロリック以外の皆はふんふんと頷いていた。そうこうしているうちに食事も済んで時間も経った。

「ヒス。済まないが今夜はジンジャーさんの面倒を見てやってくれ。明日の訓練に遅れないで引っ張って来てくれたらそれでいい」

 そう言うと銀貨を二枚、ヒスの手に握らせた。暫くして俺を含む残りの皆は三々五々食事を済ませたあとで散っていった。夕方店に入ってからジンジャーはずっと完全に表情を消したまま焼酎をごくごく飲み、空いたカップをテーブルに叩きつけるようにおかわりを催促している。多分殆ど食べていない。

 翌朝はゾンビのようになってヒスに引き摺られて来たジンジャーに「毒中和ニュートラライズ・ポイズン」を掛けてやり、水を飲ませた上で更に頭からどんぶり一杯くらい掛けてやるとスッキリしたようだ。

「大丈夫。もう大丈夫だよ……」

 げっそりとしながらもそう言うジンジャーに苦笑いしながら温風を吹き掛けると、全員で訓練を開始した。



・・・・・・・・・



7445年10月8日

 今日からの迷宮行は俺が虐殺者ブッチャーズを見ることにした。やはりパーティーとしての総合力ではもうすぐ(スーナー)とは比べ物にならない。ジンジャーだけはこちらに移しても問題は無い(むしろポジションの重なるキムやジェルと交代させた方が虐殺者ブッチャーズの戦力は大きく向上するだろう)が、そうすると流石にもうすぐ(スーナー)の方が心配だから、そこまでは思い切れないだけだ。

 しかし、流石は全員(俺の戦闘奴隷のヘンリー・オコンネル(ヘンリー)とルバーノ・ファイエルノート(ルビー)を除いてだが)トップチームだけあって、一層での戦闘に危なげなところはない。集中力が切れかけたら解んないけどさ。今日はその辺りのところまで苛めるか。

 最初の戦闘を見ながらこんなことを考えていた。暫く進み、部屋を二つ越えた先の十字路でどちらに進むのか俺の顔を見るメンバーに向かって微笑むと言ってやった。

「じゃあ、そろそろ本気を見せて貰う。まずは俺だな」

 怪訝そうな顔つきをする皆の前で、今来た道以外の三方向に向かって「オーディブルグラマー」の魔術を使い、盛大に音を立てた。一瞬にして驚きと怒り、畏れと警戒が綯い交ぜになった表情に変わるメンバーに「大丈夫、即死じゃなけりゃ治してやるよ。この前、元素魔法のレベルも全部上がったからな。「完全治癒キュアーオール」だって使えるようになったぜ」とにやにやして言い放った。

 そして、「全員俺の後ろ三十mくらいまで下がっとけ。手本を見せてやる」と言い放つと同時に腰から愛用の長剣ロングソードを引き抜いて構えた。見やすいように地面の適当な石に「ライト」の魔術も掛ける。何か言いかけるローカスト・ケイネスタン(ロッコ)やケビン・ファイアスターター(ケビン)、ジェルトード・ラミレス(ジェル)をカーマイン・ミシャウス(カーム)やビンノード・ゲクドー(ビンス)が抑えて、十字路の真ん中に俺を残して全員が下がっていった。

 あ、手本なんかにはならないことは解ってる。最近何かと忙しくて休みの日に迷宮に入っていなかったから思う存分に暴れてなかったんだよ。腕はともかく、感覚が鈍っちまう。それ以外に大きな理由はない。

「ああ、ミース。明かりが消えたら矢羽に「ライト」掛けて適当な死体にでも撃ち込んでくれ。あと、通ってきたばっかだからまず大丈夫だとは思うが、後方警戒もきっちりな」

 ミーフェス・ランスーンにそう命じると軽くジャンプしてから屈伸し、右手の剣を振り回して準備運動をした。左右の篭手にはちゃんと千本手裏剣が十本づつ入っており、簡易盾としても大丈夫なことも確認した。

 数分で正面からホブゴブリンが五匹くらい、左からノールが十匹あまり、少し遅れて右からゴブリンが二十匹程襲いかかってきた。

 さぁて、多少の怪我も覚悟の上だ。この数を相手取るからには俺も本腰を入れてやらなきゃ危ない。この十字路の上、だいたい十m四方が戦場だ。

 最初に一発だけ、正面から現れたホブゴブリンの顔面に「フレイムアローミサイル」をぶちかましたあとは魔術無しでやるつもりだ。こうすればホブゴブリンは警戒し、なかなか寄ってこないだろう。

 あとは時間差でノールの一団をある程度の数さっさと片付けられれば多分大丈夫だ。って、そこんとこが最大の問題なんだけど。時間との戦いだな。

 左の洞穴からノールが槍を構えて突進して来る。
 大きく弧を描くように走り、突き出された槍を躱すと気合を込めて突き出された槍を三本纏めて叩き斬った。
 すぐに別のノールからも槍が突き出されてくる。
 それも躱して左手で掴むと同時に右手の剣で叩き斬る。
 即座にしゃがんで転がり、更に別の、まごまごしているノールに近付くと剣で喉を突いて殺し、蹴り飛ばして剣を引き抜く。
 回転しながら更に別の奴の喉を切り裂き、そいつの持っていた槍を左手で奪い取る。
 どうせ金属の穂先なんか付いてないから単なる先の尖った木の棒だ。
 どっち側の先端を使っても大差はないし、そもそも攻撃力も知れているだろう。
 振り回して更に別のノールを牽制しながら走り、連続して三匹のノールを血祭りにあげた。
 これでノールは半数。

 倒れたノールに矢羽から光を発する矢が突き立った。
 この矢が光っているうちに片付けてやる。

 そこにゴブリンの集団がぶぎゃぶぎゃ言いながら襲い掛かって来た。
 だが、ゴブリンは俺とノールの双方に襲い掛かっている。
 流石はゴブリン。
 動くものなら何でも相手にするようだ。
 いや、見越してたけどさ。
 ゴブリンの方が先に到着していたらノールもゴブリンに襲い掛かるだろうし。
 左手に持ったノールの槍はそのままに手近なゴブリンに剣を突き立てすぐに引き抜いた。
 もう混戦だ。
 これでホブゴブリンが来ても統制の取れた行動は出来ない。

 くるくると回り、踊るように剣を突き込んでいたら、ほら。
 いつの間にか殴りこんで来たホブゴブリンも合わせてももうあと十匹もいない。

 この間に俺はまともな攻撃は喰らっていない。
 槍を振り回されて柄で叩かれはしたけどね。
 多分左の腿の外側と背中、右の二の腕に痣くらいは出来ているだろうけど、大したことはない。
 おい、そこのホブゴブ、背中を見せて逃げるなよ。
 右手の篭手から千本を引き抜いて左手で投げつけた。
 ミュンに仕込まれた千本打ちはミヅチにも褒められた腕前なんだ。
 見事に延髄あたりに突き刺さり、ホブゴブリンは声も立てずにつんのめって倒れ込んだ。

 それを合図にでもしたかのように、まだ立っていたノールとゴブリンが恐怖に濁った叫び声を上げて退却していった。千本で一匹は後ろから倒したが、あとは面倒だったので見逃してやった。

 矢羽に掛かっていた「ライト」の明かりがふっと消えた。しっかりと五分以上も戦っていたようだ。流石に俺の息も荒くなっている。まだこの何倍もの時間、戦えそうではあるけど。水を出して剣を洗い、手拭いで刀身を拭き取ると鞘に落とした。

 ちょっと痛みを感じる太腿や背中に「キュアーオール」を二回づつ、合計六回掛けてHPを完全に回復させると同時に痛みも完全に治した。治癒魔術は自分に掛ける限り触っても触らなくても大丈夫だし、鎧下を着ているから光は漏れないし、叩かれた痣を誰にも判らないように治療することが出来るのは便利だよね。

 振り返って皆を呼び寄せた。

「オコンネル、ファイエルノート、魔石を採れ」

 俺の戦闘力に驚いた表情でいた奴隷二人に魔石の採取を命じると、俺は千本を回収しながら続ける。

「ミシャウスさん、後の戦闘は任せる。俺の奴隷も遠慮なく使ってくれ」

 千本を右手の篭手に突っ込んで、また地図を広げた。左の先の方にも十字路があるはずだ……うん、ちゃんとあるな。次はここにしよう。いや、こっちの方がいいかな? でも、少し遠いからなぁ……。

 魔石の採取は結局俺以外の全員で手分けして行っていた。流石に二人だと時間が掛り過ぎるからだろうけど、何も言われずに魔石の採取をするのは日光サン・レイには戦闘奴隷はいなかったから、あまり気にしていないだけなんだろう。九人で手分けしてやりゃ二十分もかかんないしね。俺? やる訳ねぇじゃん。人は沢山居るんだからさ。

 地図を眺めながら時折周囲を見回して警戒をするのが俺の仕事だよ。そう思って働かない自分に言い訳をしながらノールやホブゴブリン、ゴブリンの死体をちらちらと観察していた。……半数くらいはメスのようだが、やはり妊娠しているような奴はいない。このバルドゥックの迷宮内ではもう飽きるほどモンスターの死体を眺めているが、倒したモンスターの生活感の無さにはいい加減慣れている。妊娠の確認は殆ど習慣になっているだけだ。

 バルドゥックの迷宮内の生き物で生活感を感じさせるのは妖精たちくらいのもので、それだって数年~数十年に一回赤ん坊が生まれる程度らしい。アホみたいに長寿らしいからそのくらいの間隔は仕方ないけど、彼らも木や草の実を食ったり、池の魚を魔法で捕らえて食べたりはしていると言っていた。良く解んないよねぇ。

 魔石を採っている連中からひそひそと話し声がするが、どうせ俺のことだろうし、俺の配下となったからには今更だ。どうでもいい。

 移動したあとはもうすぐ(スーナー)の時のように俺は後方からの督戦に徹した。

 ふむ、なんだかんだ言ってもハルクは流石に一流だったんだな。このメンバーならカーム以外にリーダーは厳しいだろう。カーム自身、メインアームが弓と言うこともあって戦場全体を落ち着いて見ていられることも大きいのだろうが、指示を出すタイミングが良いな。メンバーそれぞれに役割を振り、互いにフォローさせられるように配置に留意している。

 一層ということもあってか、弓を使うカームとミース以外の全員を前衛として立たせ、適宜弓でフォローをしている。槍使いだけでなく、魔法が使えるビンスまでもが長剣ロングソードを手に前に立っているため、前線の構築がしっかりと出来ている。高い実力を誇る虐殺者ブッチャーズの面目躍如と言った所だろう。

 俺の戦闘奴隷で言っても騎士出身のオコンネルは問題ないし、ファイエルノートも両脇をロッコとケビンという実力者二人に固められ、危なげなく戦えている。一層のモンスターはあまり強くないし、一定以上の実力があれば下手に陣形を組むよりは、このように前衛を半円形に並べ、後方から弓で援護する方が攻撃力を活かせる。相手の数が減ってきたら両翼を前進させると同時に中央部を下がらせて半包囲から全包囲に移らせることも楽に出来る。

 ちょっと感心していたら、どうやらトリスやベルなど、殺戮者スローターズから出向してきたリーダーたちがこう指揮していたのでその真似だそうだ。

 だが、年下の小僧や小娘の指揮からしっかりと学び取っているという証左でもあるのでなんとなく嬉しくなった。このやり方が通用するのは二層くらいまで。しかもそれなりに治癒魔術が使える殺戮者スローターズのメンバーが居る時だけ。三層からはモンスターの実力も少し上昇するから、流石に厳しい、と言うことも理解しているようだ。

 夕方まで扱き上げた。全員連戦と緊張とでへとへとになっていた。ファイエルノートは怪我こそしなかったものの、疲労からゲロを吐いていた。当然地上に戻ってから晩飯も無理やり食わせた。彼もまだ二十一歳。若いんだし大丈夫だろ。

「明日は一層の転移水晶までどのくらいの時間で行けるかを見たい。俺は一番後ろから付いて行くから。後方の警戒は任せてくれ」

 カームにそう言って微笑むと、彼女は「……そろそろじゃないかと思っていたわ……まぁ頑張るしか無いけどね」と言って、俺を見た。そして、「ねぇ、私をリーダーにするつもりなの?」と聞いてきた。

「ん……そうだなぁ、ハルクさんの推薦もあるから候補の一人ではある。でも、前にも言った通り俺が決めたくはない。嫌がるのを押し付けるつもりもない。あと、チーム間のメンバーの入れ替えだって時間を掛けて見極めるつもりだ。例外を除いて基本的には実力の順でチーム分けをするだろうね。今月中には入れ替えをするつもりだし、今はあんまり深く考えなくてもいいよ」

 俺がそう言うとカームは驚いたような顔をした後、嬉しそうに皆に言った。

「ちょっと、聞いてよ。今月中に新しくチーム分けをするんですって!」

 それを聞いた皆は色めき立った。

「おほ! まじかよ! 俺も殺戮者スローターズに!」
「ばっか、おめぇじゃ無理だ。この前マルソーにやられてたろうがよ」
「あたし、ベルみたいに弓も魔術も上手くない……ダメか……」
「あたい、サージになら勝てると思うんだよね!」

 おいおい、どうやって選定するのか聞かないでいいのか?
 まぁ今言う事じゃねぇけどさ。

「ちょっと! 静かにしてよ。まだ選別の方法を聞いてないわ」

「そうだ。どうやって分けるんだ?」

 仕方ねぇな。

「あー、殺戮者に入りたい人はまず、最低限の体力を見る。具体的には一定の距離を速く走れるかだな。走る順路に監視を置くからズルは出来ないぞ。俺が定めた時間内にそれを走って貰えば挑戦権獲得だ。その後は“例外はある”が誰に挑んでもいい。但し、挑む相手と同じ系統の得物でな。その上で、連携も見たいから一対一ではなくて三対三くらいで模擬戦をして貰う。勿論魔法も使えるなら有りだ。三回戦って勝ち越せたら入れ替えだろうな」

 これなら最低でも半年や一年は引っ張れるかな? 明日もうすぐ(スーナー)を率いているミヅチに全力で走って貰って……いや、次の休みにバストラルを全力で走らせてタイムを測ろう。それより一分位早い時間にすればいんじゃね?

 
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