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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百五十一話 模擬店?

7445年10月7日

 やっと裁きの日になった。

 バストラルたちはこれを見越して前回迷宮に行く前にソーセージの仕込みに必要な材料の仕入れ交渉を行っていた。お陰で昨日はてんてこ舞いだった。バストラルは王都まで豚の腸を仕入れに朝から一人で出て行ったので居なかったのだが、肉の仕入れ量に対して挽き肉機が一台では足りなくなってしまったのだ。泣き落としに近い形ながら、実質的には皆に懇願(脅迫)された俺は、また鼻血を垂らしながら挽き肉機を作る羽目になってしまった。

 やっと二台目の挽き肉機を作り終わったので鼻血を拭い、満足感に浸ろうとしたら、上の階からきゃっきゃとはしゃぐ楽しそうな声が聞こえてきた。残りの皆は一台目の挽き肉機を使って楽しそうに豚の挽き肉を作り、腸詰めをしている最中らしい。キャサリンの指導でケーシングに挽き肉を詰めて居るのだがコツもあってなかなか上手く出来ないようだった。

「次は俺がやる」
「次は私にやらせて」
「コーロイル様、左手はこうです」
「ああ、破れちゃった……」
「少しくらいは大丈夫ですよ」
「簡単じゃないか!」
「ゼノムさんは器用ですねぇ!」

 など、実に楽しそうに皆の声が聞こえてきた。

 すぐ傍、一階層しか離れていない部屋に居たはずなのに、その間俺はたった一人で自室の壁に向かって真鍮鉱石に手を当てて歯を食いしばって鼻血を流しながら集中していたと思ったら少し寂しい物があったが、こればかりは仕方がない。汗だくになりながら二台目の挽き肉機を持って上がると歓声とともに作ったばかりの挽き肉機はラルファに強奪され、他の皆には食品を作っているから汗は不潔だと言われ、追い出されてしまった。釈然としない。

 それでもケーシングに詰めるだけで夜中までかかったし、その後は夜通し燻製をしながらすぐ隣でソーセージを茹でていたのだ。作業に慣れているキャサリンやジョンとテリーは体力の問題もあって夜は早々に寝かせ、ギベルティの指導の元でほぼ寝ないで作業は夜通し行われた。

 その努力が実り、たった一晩で二千本近い数のソーセージを作ってしまった。

 これで明日売れなかったら目も当てられない。金はどうでもいいけど、苦労が全部ぱぁになるのは精神的に辛い。ゼノムやギベルティ、ズールー、エンゲラといった生粋のオースの人が「絶対に売れる。売れなかったら貯めていたお金で買い取ってもいい」と言うのでそこまで言うなら、という感じで作ったのだ。

 行政府前の広場の屋台の申し込みは告知があってから即済ませていたし、しっかりとしたテーブル類やコンロやフライパンも追加で購入していた。

『学園祭を思い出すな』
『あ、それ、私もそう思った。楽しかったわよね……』

 トリスとベルが設営をしながらこそこそと話しているが、楽しそうだ。

『大学の学園祭って楽しいの?』
『私達は高校の文化祭くらいしか知らないから……』

 ラルファとグィネがミヅチに尋ねている。

『規模が違うからね。楽しいわよ!』

 それを聞いてラルファもグィネも楽しそうに笑いながら売り物のソーセージを宿まで取りに向かった。俺もミヅチの隣に立つと声を掛ける。

『そう言やぁ、防大にも開校記念祭ってのがあって、楽しかったな。外国の軍隊からの留学生も居るからさ、皆自分の故郷の料理の模擬店を出すんだよ。友達と食い倒れるまで回ったもんだ』
『……友だちが居ればね……楽しいんじゃないかな……』
『え?』
『私、大学の学園祭って一年の時しか行かなかったし……一緒に回る友達居なかったからつまんなくて……それからは毎年学園祭の時期はネットゲームでモンスター殺しまくってた……』
『そ、そうか……でも、今は居るだろ? 友達』
『……うん。今日は私、お昼担当だからね! 沢山売るんだ!』

 過去を取り戻せばいいんじゃないかな?
 しっかり商売のことを忘れなきゃ楽しんだって良いさ。何も悪いことはない。



・・・・・・・・・



 俺はこんな時くらいしか使い道のない、公式の場用の上等な服に身を包んで証人用の席にビンノード・ゲクドー(ビンス)と並んで腰を掛けている。ビンスは非常に緊張しているのか、最初から隣で落ち着きなく貧乏揺すりを繰り返している。

「グ、グ、グリード君はよくそんなに落ち着いていられるな……」

 ごくりと唾を飲み込み、ビンスが俺に小さな声で話しかけてきた。

「……慣れてるから……」

 こうやって裁きの日に出席するのは……何回目だっけ? 結構出てるよな。勿論観客席の中で皆と酒を飲んだり何か食いながら鞭打ちだの縛り首だのを眺めている事の方が多いとは思うけど。

 俺たち殺戮者は転生者が中心であったということもあり、ゼノムや俺の奴隷を除いて、大多数の俺を含むガキどもは刑の執行にはあまり興味がなく、単にお花見に近い感覚で料理や酒を飲み食いしていただけだけど。今回は忙しそうだけどね。

「そうか……俺は初めてだし、こ、国王陛下と直接話をすることになるんだろう? と、とても落ち着けないよ……」

 相変わらずビンスはカクカクと膝を踊らせている。

「陛下と直接に話をするかどうかは、コーリット達の反応次第だなぁ……容疑を否定すれば証人として呼ばれるけど、肯定して裁きを受け入れたら呼ばれないよ。まぁ多分呼ばれるとは思うけど。だいたい昨日までにかなり証拠も集まってるし、問題はないでしょ?」

 約二ヶ月前の事件以来、旧日光(サン・レイ)の連中も証拠固めを行っているし、幾つかは騎士団に提出している。ミヅチの伝手からも年明けからずっとリンドベル夫妻が王都で御札の収集活動を行っていない旨の情報を得られている。

 今日はその調査を指揮し、纏めてくれたトゥケリンという王都の高名な治癒師も呼んでいると聞いている。リンドベル夫妻の犯罪はバルドゥックの街でも興味津々で噂されているので、裁きの時間は昼食直前の一番注目を集め易い時間だそうだからトゥケリンはまだこの場には到着はしていない。

 そうこうしているうちに、裁きはどんどんと進み、それに伴って時間も経過していく。
 朝八時からスタートした裁きももう何十件も終わり、あっというまに昼近くなった。

 トゥケリンも既に到着してすました顔で俺の隣に座っている。
 やはり王都で見かけた闇精人族ダークエルフはこのおっさんだったのだろう。
 整った容貌からは若い頃はさぞや美男子だったことが窺われた。

 いよいよリンドベル夫妻やハルケイン・フーミズ(ハルク)、ビーンスコール・ゼミュネル(ビーン)が、お白州のようになっている所へ引き出されてきた。
 ちらりと資料に目を通していた国王はたんたんと容疑を宣言し、罪を認めるか否か尋ねた。その顔つきは最初から非常に厳しい物だった。

 ありゃあ、前日か今朝かは知らないが事件のあらまし自体は耳にしているな。

「……かかる容疑により詐欺行為の罪、及び同罪に加え貴人への詐欺行為の罪によりコーリット・リンドベル容疑者並びにメイリア・リンドベル容疑者を共に主犯と認め、それぞれに鞭打ち二十六回、罰金一億二千五百万Z(金貨百二十五枚)、打首獄門一週間の刑に処す。
 また、ハルケイン・フーミズ容疑者並びにビーンスコール・ゼミュネル容疑者は共に従犯と認め、それぞれに鞭打ち二十一回、罰金一億Z、絞首の刑に処す。容疑者らは罪状を認め、刑に服するや?」

 リンドベル夫妻は罪を否認した。
 ハルクは黙って首を縦に振ることで受け入れ、ビーンは夫妻同様に罪を否認した。

 まぁ予想通りだね。
 俺の「仄めかし(サゼッション)」の魔術はとっくに効果が切れているが、一度影響下に置かれ、魔術の効果時間中に深く思い込んでいるのでその考え自体をひっくり返すには至っていない。

 今頃彼は「あれだけ尽くしてきた自分を見捨てた夫妻に対して復讐をしてやりたい。その為には罪を全部吐き出す必要がある。その過程で当然俺も言い逃れは出来ない」とでも考えているのだろう。

 素直に罪を認めたハルクは財産もとっくに没収済みで、全部騎士団に提出しているが、そもそも罰金に届く金額なんかじゃない。それに、素直に罪を認めたこともあって絞首刑だけで、おそらく鞭打ちはされないで済むだろう。

 とにかく、ハルクは別として罪を認めない奴がいるので証拠や召喚された証人への質問を行う事になるはずだ。順番から言ってまずは証拠の開陳になる。バルドゥックの騎士団が旧日光(サン・レイ)の連中から提出された証拠を読み上げていく。

 その中には聴取したハルクから聞いた過去の悪行や、今年の春に迷宮内で死亡した魔法使いのサントスの件(代金の返却がなされていない件)も含まれていた。また、被害者の中に貴族が含まれていた(ビンスのことだ)ことも余さず報告している。

 国王はそれらを黙って聞いていた。そして、証人を喚問する段階となった。ビンスと俺、そしてトゥケリンが壇上に立つ国王の脇の証人席に移動させられた。揃って臣下の礼をとるが、裁判であるのですぐに起立させられた。

「証人は法と真実の神に虚偽なく証する事を誓え」

 俺たち三人は順に誓いの言葉を述べようとした。

「そなた……トゥケリンか……久しいな。……そなたがこんな詐欺の証人とはな。ふっふ。ん? ……む」

 バルドゥックの騎士団長と護衛の隊長らしき騎士が二人で国王に耳打ちをしている。あの人は確か……あ、思い出した。国王の長男だ。リチャード・ロンベルト四世公爵。第一騎士団の所属だがまだ小隊長のはずだ。

 国王の護衛隊長は最低でも中隊長以上をもってその任に充てると聞いたことがあるんだけど、次期国王かも知れない王子様は例外なんだろうね。尤も、この人の子供、国王の孫が次期国王になる可能性の方が高いらしい。まだ二歳だか三歳だかのほんの幼児らしいけど。先代も今の国王の爺さんらしいし。

「……なるほど。ああ、そうか……わかった」

 国王が相槌を打ちながら俺を見ていた。改めて俺のことを値踏みするような嫌らしい目つきだった。
 俺は沈黙を保ったまま視線を下げただけだ。

「中断してしまったな……証人ビンノード・ゲクドー准爵。法と真実の神に虚偽なく証する事を誓い、証言せよ」

 国王に命じられてまずはビンスが証言する。

「……という訳で亡くなった妹はともかく、私の支払った金額については取り返しは致しましたものの、その間、死に金となっていたために商機も逃しましたし、別に投資することも不可能でございました」

 うん、昨晩から何度も練習させていた通り喋ったな。緊張してすごい量の汗をかいているが、それは仕方ない。こういう人は珍しくはない。さて、次は俺かな?

「では、バイヅォンス・トゥケリン外商長、法と真実の神に虚偽なく証する事を誓い、証言せよ」

 ステータスだとミヅチと同じ【ライル王国平民(ライラック)】だったんだけどな。まぁ、ステータスに平民なんて付いてるのはダークエルフくらいだ。普通はなんとか家従士とかなんとか家次男とかになるしな……特別なんだろうな。しかし、外商長とはね。商会長とは違うんかね? あとでミヅチにでも聞いとくか。

「私、バイヅォンス・トゥケリンは、真実のみを述べることを法、及び真実の神、そして偉大なる……陛下に誓います」

 リルス陛下って隣にいる俺には小さく聞こえたが……別にいいか。

 トゥケリンは縁あって調査を頼まれ、貧民層を中心に神社のそばの住人たちに細かく聞き取り調査を行ったことを述べた。
 同時に紙(!)に記載し、それを冊子に纏めた資料を提出したようだ。
 騎士団員が受け取り、トゥケリンの証言との一致を認めた。

 また、観客席の一角にトゥケリンが伴ってきた調査先の貧民やその周辺住人、位の低い貴族も二十人(!)程混じっていたようで、調査が行われていたことやきっちりと纏めていたことが彼らによって証言され、トゥケリンの調査資料についての信頼性が担保された。

 当然その内容は年明けからこちら、王都内のいかなる場所においても神札の買収活動が行われていなかったことの証明となった。

「……判決を言い渡す。コーリット・リンドベルは鞭打ち三十六回、罰金一億五千万Z、打首獄門十日間の刑に処す。メイリア・リンドベルは鞭打ち三十六回、罰金一億五千万Z、打首獄門十日間の刑に処す。ハルケイン・フーミズは絞首の刑に処す。ビーンスコール・ゼミュネルは鞭打ち三十一回、罰金一億二千万Z、打首獄門三日間の刑とする」

 俺の証言は必要ないらしい。

 刑は即執行され、昼食の休憩となった。
 俺はトゥケリンに礼を述べ、昼食に招待しようと声を掛けようとしたが、すぐにリチャード・ロンベルト四世公爵が駆け寄ってくると、俺とトゥケリンの二人は行政府まで来るようにと伝えられた。

 そう言えば国王とトゥケリンは顔見知りのようだったな。昔、何か依頼でもしたのかね?

 国王はまた、行政府の門の影に隠れるようにして更に植え込みの奥に立っていた。俺とトゥケリンはまた臣下の礼をとり、跪いた。

「トゥケリン。正直に申せ。そなた、そこのグリードとはどういう関係だ?」

 へぇ、そっちか。

「直接は関係はございません。たまたま調査をご依頼頂いただけです」

 ミヅチのことについて触れないほうが良いのかな?

「ちっ、相変わらず食えない奴だな。お前が調査を依頼されたくらいで動くものかよ。しかもあんな詐欺くらいでよ……。まぁ、良い。お前に調査を依頼したのはそこのグリードが直接か?」

「いえ、陛下。彼の部下にいる我が国の同胞から依頼されたためです。そうでなければ……」

 あら、言ってもいいのか。

「ああ、ダークエルフが一人居るらしいな。なるほど、そういうことなら、まぁ……おい。グリード」

「はっ」

「お前はもういいや。呼び立てて……ふん、そういやぁ、聞いたぞ。八層に到達したそうだな」

「はっ」

 耳が早いね。

「……。よい、下がれ。トゥケリン、久しぶりだ。昼飯を食おう。来い」

「はっ、失礼致します」
「お断りします」

 えっ!?

「何でだよ? お前が来るって聞いてたからバルドゥック一のレストランからケータリングさせたんだぞ。子牛のタンシチューとステーキだぞ」

 おおっ! 美味そう! そして高価そう! トゥケリンさんが食わないなら俺に!

「相変わらずですなぁ、陛下は。私がお断りしたのはもっと良い物があるからですよ」

「なに?」

 なに?

「久しぶりですからね。私が陛下に奢って差し上げても良いですよ」

 まさか……いや……まさかな?

「ほう? お前がそこまで言うからには美味いんだろうな?」

「当然です。何でもここバルドゥックで生まれた新しい食べ物だそうです。私も今朝食べましたが……あれは……最高でした」

 いや、止めてよ! あんなもん王様の食うような物じゃないだろ! 今日は味も一種類だけだしさ。牛肉も混ぜてないんだよ。

「すぐにお持ちさせましょう。グリードさん。お願いできますかな?」

「は……その……なにを?」

 ああ、やっぱりか……このおっさん、遅れてきたと思ったらソーセージ食ってやがったのか。そう言えば防腐剤で世話になるとか言ってた……。防腐剤はいろいろ実験中で試しているところだからまだ製品には使ってないけど。

「あなた方ご自慢のものですよ。“バルドゥッキー”と言いましたかな? マスタードをたっぷりと……ああ、止めましょう。陛下、あれは作りたてが一番美味そうです。行きましょうか。すぐそこですよ」

「ふーん。そうか、グリードが関わってるってのがちょっと引っかかるが、まぁ良い。案内せい」

「は、ははっ!」

 国王陛下は並んでいる客を無視して割り込むと、一斉に跪く周囲を他所に五本も食った。

 良い宣伝になったようで、二千本弱のバルドゥッキーは夜には売り切れた。

 夜、ドルレオンからバルドゥッキーの注文が十本入った時にまだ少し残っていたので助かった。お土産もご所望だったが、防腐剤の実験が終わっていないので、流石にそれは断った。

 
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