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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百五十話 採点

7445年9月27日

 さて、行くか……。

 ミヅチと新しい奴隷四人とのランニングの後で朝食を終えた俺たちは入り口広場で待ち合わせをしている虐殺者ブッチャーズもうすぐ(スーナー)の、旧日光(サン・レイ)の連中と合流した。今は先行したミヅチが率いる虐殺者ブッチャーズの後に続いて入場税の十万Z(銀貨十枚)を払ったばかり、地下へ向かう階段へと足を踏み出したところだ。

 一層への転移水晶の部屋は空いていた。俺たちのスタートする時間はランニングなどの都合もあって他の冒険者よりちょっと遅いので当たり前なんだけどさ。それでも自分たちの良く知る転移先へと転移を繰り返す先行の冒険者の組は何組かいる。虐殺者ブッチャーズもその転移待ちの列の最後尾に並び、各々装備の確認をしているところだった。

「ガルハシュ、マンゾッキ。武器に問題は無いな? しっかり確認しておけ」

 俺も新人の戦闘奴隷に声を掛け、左腰にぶち込んである長剣ロングソードを引き抜いて状態を確認した。続いて腿にバンドで留めてあるナイフ、両腕の千本を確認し、並んでいる虐殺者ブッチャーズのすぐ後ろに付く。最後に右腰にぶら下げてある一層の地図の入った物入れを確認して転移の順番を待った。

殺戮者スローターズか……」
「見ろよ、すげえ装備だ」
「ああ、一流冒険者は装備も豪華だな」
「ばっか、あの人はカロスタランさんだよ。金属帯鎧バンデッド・メイルくらい持ってるさ」
「ん? 知らない顔がいるな」
「ああ、新しい戦奴を買ったらしい。またロンスライルだってよ」
「やっぱあの店、良いのか?」
「金属製の鎧なんか買えないが、奴隷なら……俺達も金出しあって買うか?」
「バカ言え、誰が……。俺に所有権くれるなら考えるが」
「へっ、違ぇねぇ。お前みたいなのを持ち主にしてもすぐにおっ死んじまったら大損だろうが」
「おい、次の次だ、全員装備を確認しろ」
「りょ~かい!」

 ぼーっとこんな噂話みたいなのを聞いていても、待っている間の時間が無駄になるので移動中の鋒矢アローヘッドの陣形についてと、戦闘時の逆三角形リバーストライアングルの陣形について簡単に打ち合わせをしておいた。逆三角形リバーストライアングルの陣形については俺が戦闘に参加する場合としない場合の二通りだ。過去、俺以外の殺戮者スローターズのメンバーがリーダーをした時もやっているから俺の奴隷二人を除いて飲み込みは早いはずだ。一層ならほぼこの陣形で充分と言える。

 そろそろか。

「ゴーレダ!」

 ミヅチたち虐殺者ブッチャーズが目の前で一層へと転移した。
 数十秒待って再び転移の呪文が水晶棒の表面に浮かぶのを確認し、みんなで握った。

「ガルハシュ。ちゃんと握りな。中途半端だとあんただけ置いて行っちまうよ!」

 ジンジャーに注意されたガルハシュが緊張した顔つきで水晶棒を握り直し、唇を舐めていた。
 よし、もう中途半端な握りをしている奴はいないな。

「じゃあ、行くぞ。ゼッタフ!」



・・・・・・・・・



 転移してすぐに全員が水晶棒から手を離すと同時に振り向いた。周囲にモンスターは居ないようだ。

 水晶棒の台座の矢印の指し示す方向は壁だ。番号を確認しようと近づくとサンノも近づいていた。壁にはラグダリオス語(コモン・ランゲージ)で「121」と書かれている。俺が地図を広げるとサンノから数字を聞いたロリックも地図を広げていた。ジンジャーやヒス、ルッツもロリックの地図を覗き込んでいた。

 そう言えばロリックはグィネの地図を買っていたんだよな。

 ……見つけた。ここか。一層中心の水晶棒まで部屋は五つか。ま、いいだろう。手早く地図を畳んで丸め、物入れに入れるとロリックたちに声を掛けようとした。彼らはまだ見つけられないようだ。すたすたとロリックの隣へ寄ると、地図上での大体の場所を指さして教えてやった。

「今ここだ。あっちに行くぞ。陣形は最初に接敵するまで鋒矢壱番アローヘッド・ワンだ」

 矢印の先頭に俺を置く形で隊列を組むとさっさと歩き出した。最後方はロリックで、矢印の傘の端は彼の戦闘奴隷のデンダーとカリムだ。俺の戦闘奴隷のうち、元騎士のガルハシュが俺の右後ろ、反対側はサンノ。俺のすぐ後ろは元兵士の戦闘奴隷のマンゾッキでその後方にジンジャー、ルッツが続き、最後方のロリックとの間には弓の使えるヒスを配している。

 ……えーっと、一回目左、二回目右、すぐに三回目を左……で、その先百mくらいに落とし穴だったな。十分程で約五百mの行程を歩き、この角の別れ道を曲がって先に落とし穴がある、という場所まで到達した。ここまでモンスターとは出会っていない。

 曲がり角で進行方向の先を慎重に覗きこんだ。一層なんかで「生命感知ディテクト・ライフ」を使うのは精神集中がかったるいのでやりたくない。

 いた。鑑定しなくても見えるギリギリくらいの四十m程先にたむろしている。あれは……ゴブリンか……二十匹弱の集団だ。休憩でもしてやがんのか。かなりの数が座り込んでいるようだ。念のため鑑定の視力でその先を見てみるが、他のモンスターなど警戒を要する特におかしい物は見当たらなかった。

「ゴブリンだ。二十弱だな。丁度良い相手だから俺抜きでやって見せてくれ。距離は四十くらいだな」

 俺が小声でそう言って後方に移動するとサンノとガルハシュ、ロリックの盾持ち三人に、ロリックの戦闘奴隷で戦鎚ウォーハンマー使いのデンダーと戦斧バトルアックス使いのカリムを加えた五人が先頭に立った。彼らの間からジンジャー、ルッツ、マンゾッキが槍で攻撃し、ヒスが弓で援護する布陣だ。

「おら、ま、魔物と戦うのは、は、初めてで……」

 マンゾッキはかなり緊張しているようだ。
 後ろから肩をぽんと軽く叩き耳に口を寄せると「安心しろ。弱い奴だからな。お前は前衛が体勢を崩した相手をその槍で突っつくだけでいい。簡単だ」と囁き「万が一の時は俺が援護してやる」と付け加えて安心させてやろうとした。

 その様子を見ていたジンジャーも「ご主人様の言う通りだよ。あたしは昔、あんなゴブリンとは比べ物にならない程強い魔物を相手に戦うアルの姿を見たことがある。万が一にもやられるようなことにはならないよ」と言って励ましていた。それを聞いたマンゾッキの表情も幾分和らぎ、緊張もほぐれた感じに見える。

 ああ、そう言えば、六層でジンジャーを助けた時にそんなこともあったかな。

 だが、このもうすぐ(スーナー)で最年長のベテラン冒険者の言葉によってマンゾッキもようやく安堵感を覚えたようだ。それは良いが、俺の言葉だけじゃ安心出来なかったのかね? 俺なんかどうせまだガキだからいいけどさ。でも、マンゾッキは俺より一つ下の十六歳だ。大して歳の違わない俺よりアラサー冒険者のジンジャーの方が頼りがいはあるんだろう。亀の甲より年の功ってね。

 それはそうと、誰に戦闘指揮をさせようかなぁ? 報告だとジンジャーが最適で、次点がロリックだと聞いている。最初だし、ジンジャーが無難かな?

「三、二、一で突撃する。ヒスは弓で援護だよ。いいね? 三……二……一……今!」

 ジンジャーが指揮を執り、合図の掛け声を上げた。同時に全員が「うぉぉっ!」と雄叫びを上げてゴブリンの群れに突撃する。不意を突かれたゴブリンたちはそれでももうすぐ(スーナー)が殺到するまでに全員が立ち上がり、その手に棍棒や木槍を構え、迎撃態勢を整えようとしていた。

 しかし、所詮はゴブリンの悲しさよ。慌てて立ち上がりはしたものの、武器を取り落とす奴がいたり、こけて転んでしまう者も混じっていた。

 俺も弓を撃ち放っているヒスの隣くらいまで前進し、後方からもうすぐ(スーナー)たちの戦いを督戦した。

 やはりゴブリン相手ならほぼ問題なく勝てるようだ。激しいが短い戦闘の後で被害を確認したところ、ロリックの奴隷であるデンダーとカリム、それにサンノが怪我を負ったくらいで大きな問題は無かった。怪我自体も動けなくなるようなものではなく、単なる打撲傷だ。なんの治療もせずに放っておいても死ぬようなものでもない。勿論、骨折などの重傷というレベルには程遠い。

 デンダーとカリムにはロリックの「キュアー」、サンノには俺の戦闘奴隷のガルハシュによって「キュアーライト」の治癒魔術が掛けられ、ついでに俺が「キュアーシリアス」を怪我した全員に掛けてやって痛みも無くなる程度にはなった。HPは完全には治っていないので面倒だけど「キュアーライト」も追加で掛けてやった。

 その後も一層を歩きまわって何度も戦闘をさせた。俺の手助けは殆ど必要はない。戦闘の度毎に軽傷ではあるが怪我人は出るので俺は救急箱と化していた。これ、全部治療薬で治していたら一人頭百万Zは超えるんじゃね? 金が幾らあっても足りないだろうなぁ。そう考えると得した感じだ。

 今日一日でもうすぐ(スーナー)の実力はほぼ正確に把握出来たと言えるだろう。

 実力ナンバーワンは、やはりヴァージニア・ニューマン(ジンジャー)だ。一人だけレベル十五と飛び抜けているのも大きい。前衛の隙間から槍で的確にモンスターを貫いている。モンスターに対する牽制も非常に上手い。正直言って戦闘員としての槍の技倆は、グィネやバストラルとは比較にするのも失礼なくらいで上だろう。

 指揮ぶりもまず問題無いと言っていい。数多くの危地を含む場数を踏んだ経験から常に落ち着き払っているので冷静に対処出来るんだろうな。六層や七層でもこんな感じだと頼りになるだろうけど……あっちに関してはグィネやバストラルの方がベテランだから、総合的にはなんとも言えない。比較するようなものでもないのかも知れない。

 日光サン・レイは一流パーティーだったのは確かだし、六層偵察の初期メンバーでもカモ要員では無かった。彼女を基準の百点としようか。

 続くナンバーツーはヒスルーラ・ハルレイン(ヒス)とロートリック・ファルエルガーズ(ロリック)だろう。ヒスはやはりこなしてきた戦闘の数が段違いに多いから常に落ち着いて獲物を選別している。

 ロリックも騎士団で仕込まれ、戦争も経験しているからこのレベルの前線ではかなり頼りになると見ていい。騎士団で学んだのであろう剣の技倆もそこらの冒険者程度には備えているように見える。魔法が使えるのも大きい。だが、魔法についてはもう少し修行して欲しいところだ。それに、味方に怪我人が出ると少し慌てるように見える。七十五点と七十点。

 この二人には少し見劣りするが俺の戦闘奴隷のメイスン・ガルハシュ(メック)も負けてはいない。「キュアーライト」の魔術が使えることもあって流石に三千万Zもしただけのことはあると思った。経験した戦争はこの前のもの一つだけだが、それでも充分だ。騎士として訓練されてきた剣技は基礎が出来ているからだろう、モンスターにもしっかりと通用している。

 少々ぎこちなく見えるのは人相手ではなく、間合いに戸惑っていたり、使えない型があったりしたからだろうか? それとも、やっぱり迷宮初陣だからかな? 水魔法も使えるから治癒魔術の効率も良いし、少し贔屓目に見て上記二人と互角と言っても良いかもな。七十点。

 続いてサンノセ・クミール(サンノ)とルーツォグ・サミュエルガー(ルッツ)の二人だ。彼らはロリックたちと行動を共にするまで二人組の一般冒険者だったらしい。息のあったコンビネーションを見せるときも多い。サンノの方は少し突っ込み過ぎなきらいもあるが、ルッツがそれを良く見極めていると言えるかな? 二人共六五点。

 デンドール・スマイス(デンダー)はロリックの戦闘奴隷で戦鎚ウォーハンマーを振り回す豪傑だ。昨年末、迷宮内で半壊したなんとかという二流パーティーに居た戦闘奴隷だ。所有者の遺族が同じ戦闘奴隷であったカリエール・マークス(カリム)と一緒に、彼らの元の主人の遺産とも言うべき財産処分の一環としてロンスライルの店に売ったのだ。

 二人共力はあるし、獅人族ライオスという、身体能力に恵まれた種族でもあるため、なかなかに優秀な戦闘員と言えるだろう。ただ、二流パーティーの時代も、日光サン・レイに入る前も、日光サン・レイに入ってからも結局はちゃんとした指導を受けていなかったのが原因だろうか、動きに無駄が多いし、力任せの感が強すぎる。二人共五十五点。

 そして、最後に俺の戦闘奴隷のジェスタス・マンゾッキ(ジェス)だ。平民出身らしく、それなりには仕込まれてはいるようだが、所詮それなり。このままじゃ厳しいよね。スピアを使っているがグィネやバストラルと比較したら彼らでも怒りそうだ。

 技はマンゾッキの方が多彩だが、このところオーガ相手にきつい実戦を積み重ねているグィネとバストラルはたった一つ、「払い突き」という型しか知らないが、その鋭さだけならジンジャーをも上回るだろう。二層や三層までならメンバーに支えられて誤魔化しも効くかも知れないけど、四層のアンデッドは急に扉を開けて移動中のパーティーの横腹ど真ん中に奇襲を掛けてくることもある。そうなると……死ぬかも……。四十点。

 こんなところかね? さて、そろそろ夕方だ。今日はこの辺りにして地上に戻るか。明日はロリックに戦闘指揮を執らせてもいいかもな。



・・・・・・・・・



7445年10月4日

 今日でもうすぐ(スーナー)と迷宮に入って八日目。今回の迷宮行は今日で終わりだ。今回稼いだ魔石を売却した代金は〆て四百四十八万Z、一日あたり五十六万Zだ。頭割りプラス一なので俺の戦闘奴隷二人分を除いた分け前は九で割って四十九万八千Z弱となる。一日あたりの稼ぎで考えてももうすぐ(スーナー)としては初の高記録となった。だけど、入場税だけで合計八十万Zも掛かってるし、食料などの経費もある。やっぱり大赤字だよ。

 ミヅチの方の虐殺者ブッチャーズも収支は似たようなものだ。殺戮者スローターズの稼ぎで埋め合わせは充分に効くとは言え、厳しいね、こりゃ。毎日迷宮から出てくるから金が掛かるのは確かだが、そうでもしないと迷宮内での宿泊になってしまうから充分な休息も難しいし、一層とはいえ連戦による消耗から大怪我をする奴が出てしまうかも知れない。

 ま、こればっかりはしょうがない。

 殺戮者スローターズの方も俺もミヅチも居ないから流石にオーガメイジの部屋も壁沿いに通り抜けただけだろうし、稼ぎはいつもより少ないだろう。そう思っていたが、なんと六層の祭壇の間でばかでっかいオパールを見つけていた。鑑定の価値によると八百六十万。市場価格八千六百万Zだ。宝石だし半額くらいの値は付くだろうから大儲けだ。俺が参加してないのにあがりの八割以上を取っているのが申し訳ないくらいだ。すまんねぇ。

 ところで、虐殺者ブッチャーズの方についてもミヅチから毎晩聞いてた内容と過去に日光サン・レイに参加していた時に行動を共にしていた奴が多いので大体の評価は出来たと思う。しかし、一回くらいは俺も虐殺者ブッチャーズと行動を共にしてもう一回ちゃんと見極めたい。奴隷も居るしね。

 とにかく、先日、行政府に裁きの日の告知が出てからもうすぐ(スーナー)でもその話題が頻出している。ジンジャーはハルクに未練はないのだろうか? 皆はそれまで指揮を執ることの多かったゼミュネルにどんな感情を抱いているのか? リーダーであったリンドベル夫妻に対しては? はっきりとした思いを聞きたい気もするが、俺から聞くような話題でもないとは思う。いや、今は俺がリーダーなのだし、聞いても悪かないだろう。

 でも、いいや。明々後日(しあさって)には裁きの日がある。その時のビンスの証言や(やはり彼は証人として召喚されていた。俺もだけど)、皆の様子を見れば自ずと判ることだ。

 
次回木曜日予定の更新は一日ずれて金曜日になってしまう「かも」知れません。
メッセージを結構頂戴しましたが書籍化作業とは関係ありません。
単に遅くまで飲むからってだけです。申し訳ありません。
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