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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百四十九話 ニュービー2

7445年9月25日

「毎朝走るように言われています。ゼノムさんやラリーを除いた全員で走っています」

 ん? オコンネルの声だな。一昨日に四人もの戦闘奴隷を購入したために今日と明日、殺戮者スローターズはギベルティも含めて全員で合同訓練を行っている(一昨日に奴隷を購入出来るか解らなかったので昨日までは結構予定の入っているメンバーが多かったのだ。三連休の最終日は元々訓練日なので予定を入れている奴はいない)。休日だけでなく、本来の迷宮行程日に一日食い込むことになってしまうが、トコロテン方式で日程をスライドさせる事にしていた。

 誰か文句を言って来るかとも思ったが、少々意外だったことに誰一人文句を言わなかった。殺戮者スローターズの一員となったからには俺の言うことに対して服従の意を示しているのか、戦闘奴隷という戦力が増え、少しでも早く戦力化することで自己の安全率の向上を図ろうとしているのか、それは不明だが俺にとっては皆に不満さえ無いのであれば問題はない。

 今は昼の休憩でホットドッグ状にしたフランクフルトを木陰で休む全員にギベルティが配っているところだ。転生者たちの助言もあって胡瓜の酢漬け(ピクルス)塩漬けキャベツ(ザワークラウト)に葉野菜なども追加でパンに挟むようにしている。

「おいおいそりゃ本当か? アルに命じられてんのか?」

 あの呆れたような声はロッコか。

「ロッコ、どうもそうじゃないらしいぜ。殺戮者スローターズの奴らはあれで誰一人強制はされていないらしい。ズールーに聞いたから間違いねぇよ」

 こいつはケビンだな。

「え? そうなの? 俺ぁてっきり殺戮者スローターズで上に這い上がるのには必要だと思ってたんだけどな……。んで、休みの日の昼にカームやミース、キムたちとよ、一回走ってみたんだよ」

 え? そうなの? ロッコ、意外……いや、失礼だったか。

「へぇ、あんたでも頭使うんだな。で、どうだった? って、どうせ疲れただけだろ? 骨折り損のくたびれ儲けって奴だと思うがな」
「俺の首の上のものは美しい飾りじゃないぜ。だが、ああ、その通りだ。今日だって外輪山越えるのに歩いただけで疲れたろ? 走りゃもっと疲れるという事が良く解った。外輪山を登ったところで疲れちゃったから全員で歩いて帰ってきちゃったよ。で、思った訳よ」
「何を?」

 ケビンは美しい云々には突っ込まなかった。いつもの事だし。

「こりゃ「根性試しだ」ってよ。確かにアルは凄ぇ。一緒に訓練して改めて良く解った。だけど、他の殺戮者スローターズの奴らってそうでもないと思うだろ?」
「ん……まぁ、ゼノムさんとかミヅチ、ラルあたりは相当なもんだけど、それ以外はな……トリスにしろズールーにしろ正直言って俺達とあんまり変わんねぇとは思う」
「うほ、お前ちょっと前までファイアフリードさんって言ってたのに、ここに来てゼノムさんかよ?」
「もう同じ仲間なんだからいいじゃねぇかよ……いちいちからかうなよ。……俺ぁ、前からあの人は尊敬してたんだ。親しく呼べるならそう呼びたいよ」

 ケビンは同じ山人族ドワーフだからだろうか、ゼノムの事を尊敬してるようなのは知っていた。

「そうか。まぁそれはそれとして、一層で連戦して良く解った。多分俺達じゃトリスにもズールーにも最初のうちに押し切らない限り勝てない。ちょっとでも耐えられたら負けると思う。あいつら、すげえ根性だよ。魔物をぶっ殺して魔石採ったら碌に休みも取らないですぐに移動しようとするんだぜ。で、平気な顔ですぐ次の魔物と戦ってやんの。訓練でも粘り強いしな」
「ああ、言われてみれば……そうかもな。全力で戦闘したら多分俺達よりあいつらのほうが長く動ける」
「だな」

 ふうん……。

「……ほんと、殺戮者スローターズが魔石で稼いでるってのも実感出来るよな」
「んでよ、そこで走ることに戻るんだが、ありゃあさ、根性つけるためにやってんだ。だけど、かったるいしよぉ。俺ぁ、当面は虐殺者ブッチャーズで満足しとこうと思うわ。稼ぎもそれなりだしな」
「ああ、確かに稼ぎは増えた気がする。日光サン・レイの頃は月に二回迷宮に入って少ない時は合計して十五万Zなんて月もあったからな……多けりゃ百行ったけどよ。それが殺戮者スローターズの今は月に三回、しかも日帰り六日で一回二十~三十万だ。月七十~八十万だしな。こりゃデカイぜ。おまけに一層じゃあ怪我はするが流石に死ぬようなことはそうそう無いだろ。治癒魔術の使い手を出してくれてるからな」
「死なねぇけど死ぬ程きついがな」
「そりゃ違いねぇ」

「あの……」

 最後に戸惑ったようにオコンネルが声を掛けた。

「おう、置いてきぼりで勝手に盛り上がっちまった。悪ぃな……えっと」
「ヘンリーだよ。ヘンリー・オコンネル。相変わらず物覚えが悪いな、ロッコは」
「ああ、そうだった。ヘンリーな。悪ぃ悪ぃ」

 飾りじゃ無いって言ったばっかじゃんか。

「いえ……その、ロッコさんたちが今お話されていた事は本当ですか?」
「あ? 何が? っつーかよ、そんなに鯱張しゃっちょこばる必要なんか無いぜ。俺はお前のご主人様でもなけりゃ奴隷頭でもない。ましてや、お貴族様とも縁がないしな」
「そうそう、ロッコにも俺にもお前さんと同じ戦闘奴隷のズールーやマルソーだって普通に話してるだろ?」
「あ、はい。でもお二人共私より年上ですし、一流の冒険者の方だってお聞きしたもので……」
「ん、まぁ、それはそう、だな」
「そういや、お前、この前の紛争で奴隷になったんだってな」
「……そうです」
「騎士だったんだろ? 身代金は払って貰えなかったのか?」

 ケビン……そういう事言うかね……って奴隷に遠慮しても仕方ないのかな?

「そうですね。実家は裕福ではありませんしね。仕方ありません。生命があっただけで幸運だと思うようにしてます」
「そうそう、前向きに生きようぜ。お前さんが幾らだったのかは知らねぇけど、運が良けりゃ凄えお宝めっけてご褒美くらい貰えるかも知れないからな」
「ケビンの言う通りだ。ン百億Zなんて値がつきゃあよ、アルもどっかで貴族になるだろ。そしたら今の奴隷は皆平民じゃねぇの? お前ら奴隷どころか俺達にだってちゃんとした従士としての道も開けるしな。デーバスじゃどうだか知らねぇけど、俺も平民の三男だ。家督はねぇからこのまま普通に結婚したら自由民だしな。実家に戻ったとしてもそれなりの金をご領主様や親父か姉貴に払わなきゃあ新しい家も作れねぇから、独り身を貫かない限りはいずれ農奴だしな」
「その辺はデーバスも一緒です」
「そっか。で、なんだっけ?」
「あ、あの、走るのが根性試しって話です」
「ああ、あれな……ん? そう言や、ヘンリーよぉ。毎朝走るように言われてるって言ってたな。誰が言ったんだ?」

 そう言えばそうだ。俺はそんなこと言った覚えはないし、今までにも誰一人として強制はしていない。バストラルにもランニングしていることは言ったが命じてはいない。彼にはランニングをしているから走りたければ一緒に走れと言っただけだ。転生者でもあるから有効性に気付いて一緒に走っているだけだ。その証拠にゼノムは未だに走ってはいないし。

「ズールー様です。ご主人様が走るのを日課にしておられるので警護も兼ねて一緒に走れと言われました。でも、走るのが早くて途中から付いて行けなくて……」
「ヘンリーだけ置いてきぼりか?」
「いえ、一緒に買っていただいた四人はすぐに付いて行けなくなりました。ズールー様が我々に合わせて速度を落として走って下さったのですが、それでも本来の半分も走ってはいなかったそうです」
「ふええ、騎士なら根性も有りそうなもんだがな……」

 単純なランニングであれば根性は殆ど関係ない。頑張ったって体力以上のスピードは出ないし、休みなく長距離を走り続けるのは根性とは別の話だ。根性を出した気になっているのはそれまで力を抜いていたからに過ぎない。根性でなんとかなるのであれば根性の必要そうな格闘技の選手は誰よりも速く長距離を走れるだろう。雨だろうと風だろうと遅れて取り残されようと休まないで毎日続けるのが根性だよ。

 根性のない奴は運動も続けられないし、勉強だって続けられない。一流と呼ばれるようなレベルは根性に加えて才能も必要になるだろうが、才能がない奴だって根性さえあれば誰だってどの分野でもコツコツ努力を続けて行けばいずれ一流とは行かずとも二流くらいにはなれるものだ。

 努力出来る事は才能の一つだと言う人がいるが、俺はそうは思わない。努力を継続することは根性さえあれば誰にだって出来る。根性が足りず、努力を継続出来ない奴の負け惜しみだ。辛く、苦しいことから逃げようとする精神の自己正当化に過ぎないと思う。そう言うと根性も一種の才能だと言う奴もいた。この考えには首をかしげるばかりだ。

 その人には根性を出して努力を継続する意味を見出せないだけの何かの理由があるに過ぎないだけだろう。他のことをやりたいとか、もっと自分の才能を生かせる分野に力を傾注したいと言うだけの事だと思う。人それぞれ向き不向きがあるのは当たり前だと思う。無理をしたくないのであれば自分に向いているところで頑張ったらいい。

 無理をしてでもある一定のレベルに到達したいのであれば、才能があろうが無かろうが根性が必要になるだけだと思う。根性は才能ではなく、感情の爆発だと思う。誤解を恐れずに言えば欲望と同一だ。何かの技術や技能、知識を得たいという欲望をどれだけ爆発させられるかと言うこと。欲望の多い人は少ない人を理解し難いと言うが、そうかも知れないな。

 でもさ、多かれ少なかれ、欲望は誰だって持っている。だって感情なんだし。それが極端に少ないなんて言うのは才能が無い(欲望イコール根性で、根性イコール才能だとすれば、の話だけど)と言うのではなくて、精神を病んでいるだけだ。治療が必要な病人だろう。

 だから、俺は他人ひとにランニングを強制したりはしない。必要だと思えばやればいいし、必要がないと思うのであればやらなくてもいいだろう。必要だと思い、どうしたら効率的に走れるようになるのかと聞かれたら丁寧に教えてやるし、聞かれなきゃ放っておくさ。

 この様子を見るとヘンリーは走る意味を理解しようと思ってはいるようだ。まだ俺に対して遠慮もあるだろうから直接は聞きづらい、という所だろう。理解したあとどうするか、他の奴らはどうなのか、暫く様子を見るところだな。ロッコにしろケビンにしろ何か掴みかけているように思える。

 教えるのは簡単だ。走るという行為は一見、エネルギーの無駄な発散でロスにしか思えないだろうが、継続することによってだんだんと持久力が鍛えられていくのだ。一流冒険者が大好きな剣の素振りや模擬戦だって継続することで剣の振りや突きは速く、正確に、鋭くなっていく。相手と相対した時の動作のキレやフェイント、攻撃と防御の切り替えのタイミング、それらが洗練され、考えなくても自然に出来るようになる。それらと同じことであると気が付くきっかけになればいい。気が付いて納得するところまでは自分の力で得なければ、それ以降、自発的に根性を出すことには繋がらない。

 言われたからやる、命じられたからやると言う人を増やすのはもっと後、国を作って兵隊を揃える時でいい。今の皆には出来れば単なる兵隊で終わって欲しくはない。



・・・・・・・・・



7445年9月26日

 ガルハシュとオコンネルは一層での前衛として充分な実力があることは全員に納得された。ファイエルノートとマンゾッキの二人もポールアームを使い、戦闘ではそれなりに役に立つだろう。

「んじゃあ、そうだな。取り敢えず次の迷宮は殺戮者スローターズはゼノムがリードしてくれ。メンバーはラルファ、トリス、ベル、グィネ、バストラル、ズールー、エンゲラ、ギベルティだ。虐殺者ブッチャーズはミヅチをリーダーとする。他にオコンネルとファイエルノートを出す。もうすぐ(スーナー)は俺がリーダーをやる。他にガルハシュとマンゾッキだ」

 少しざわついた。日光サン・レイの吸収以降、俺が殺戮者スローターズを離れるのが初めてと言うこともあるが、今回から加わった四人の戦闘奴隷は報酬の頭数に入れなくて良いからだ。皆の分け前は少し増えるだろう。

 しっかし、一緒になってそろそろ二ヶ月近くが経つ。カームにしろミースにしろ、ビンスでも誰でも良いが、リーダーやりたいって言ってくれよ。まぁまだ良いけどさぁ。

 宿に戻る途中、行政府前を通り掛かったら裁きの日の予告があった。十日後の十月五日という日程だった。ボイル亭に帰ったら証人の通知でも来ているだろうか? それとも証人は詐欺の部分ということでビンスだけに来ているかも知れない。

 字の読めない奴のためにトリスが読んでやっていたが、特に旧日光(サン・レイ)の全員の雰囲気が変わったのを感じた。それもそうだろうな。

「……と、言う事だから、次の迷宮は少し長めに八日間行こうか」

 俺がそう宣言すると、皆はちらりと俺に振り返って頷いてくれた。だが、すぐに険しい表情で隣の奴とぶつぶつ喋りだした。それも仕方ないね。じゃあ今日はこの辺で解散ということにするか。飯は纏まって食ってくれ。



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