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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第二十三話 メイドの顛末

 帰り道、拘束するそぶりも見せない俺にミュンは不思議そうに尋ねる。

「何故、私を殺さないのでしょう? 私は間者で大切なゴムの情報をデーバス王国に流すところだったのですよ?」

「ん? 殺して欲しいのか?」

 意地悪く言ってみる。
 ミュンは俯きながらもおずおずとした感じで言う。

「勿論、殺されるのは嫌です。でも、私は間者としての教育を受ける過程で言われました。間者が見つかった場合、確実に殺されるだろうと。どの程度の情報を流したのか、情報を流した相手はどこの誰なのか、協力者はいるのか、そう言ったことを吐かされた後は、生かしておく意味もないので殺される。と言われて来ました。だから、普通は間者を見つけたら必要な情報を取って殺すと思います」

 それがオースの常識なんだろうな。魔法があって、魔物がいて、文明、文化レベルは最高で15世紀で停滞しているとなると、それはまぁ理解できる。間者である事が露見した場合、その多くは殺され、処分されるのは当たり前かもしれない。尤も、殺す最大の理由は腹いせの部分が大きいのだろう。生かしておいても特に益は無い。間者なんてこの世界のどの陣営も使っているだろうし、見つけたらどこまで情報が漏れたのか確かめさえすれば、あとは腹立たしい気持ちを慰めるくらいしかすることはないだろう。人道主義や人権教育なんてそもそも存在してないのだから。

「ふーん、そうか。だけど、いいんだ。ミュンを殺す理由はないよ」

「?……。何故でしょうか」

「納得出来ないのであれば、そうだな……。ミュン、お前は今晩俺に殺されたんだと思えばいい。だから、今までの間者をしていたミュンはもう死んでる。だけど、今のミュンは今までのミュンじゃないとでも思っておけばいい」

「!……。どういうことでしょう?」

「そこは自分で考えろよ」

 うーん、家に帰るまでまだ1時間近くはかかるな。今の時刻は恐らく23時くらいだろうか。MPの余力もまだかなりあるし、最後にちょっとだけ疑念を晴らしておこうか。考え込み始めたミュンに、疑問をぶつけてみる。

「なぁ、ミュン、これから聞くことに正直に答えてくれ。それによって今後のことについて、いろいろ考えるから」

 MPが1しかない、精神的に不安定な状態でいろいろ考えていたミュンは眉間に皺を寄せた難しい顔をしていたが、俺の問いに俺の目を見ることで反応した。

「何故お前は俺が地魔法から出してやった時に抵抗しなかった? いくらお前が武器を持っていなかったとしても、俺はまだ子供だ。俺を組み伏せるなり、襲いかかるなりして倒すか、殺さないまでも抵抗して俺が怯んだ隙に逃げることだって出来たはずだろ」

「そのことですか……。最初に地魔法、ですか、私が埋められた時には直ぐに魔法で囚われたことに気がつきました。そして、声を聞いて私を捕えたか、その一味にアル様がいらっしゃることが解った時に、私には抵抗する気力はありませんでした。ああ、武器自体は持っていますよ」

 そう言うとミュンは胸の周りからアイスピックの先のような長さ10cm程度の針金状の物を左右4本づつ引き抜くとそれを纏めて俺に渡してきた。そして、ポケットから何かの小瓶も取り出して、それも渡してくる。危ねぇ、胸のは飾りだと思ってたわ。とすると、この小瓶は、ど、毒か? とにかく、渡された千本のようなものと小瓶を受け取りながら「何故だ?」と返事をする。ちょっと慌てたのが顔に出てないといいな。

「アル様が魔法使いとしてとても優れていることは存じております。私も多少は魔法の心得がありますから、先ほどの魔法がどの程度の魔力を使ったのかくらいは理解出来ないまでも、想像するくらいは出来ます。その様な恐るべき魔法の使い手に多少の抵抗など無意味でしょう。それに……」

「……それに?」

「……なんでもありません」

「確かに俺は魔法が使えるし、まだまだ余力はある。多分ミュンが抵抗して逃げたとしても直ぐに捕まえることは出来るだろうな。だが、俺は正直に答えてくれ、と言ったはずだぞ。それだけが理由だったのか?」

「……お養父様に迷惑がかかります。旦那様や奥様にはとても良くして下さったご恩もあります。間者として潜り込むという目的はありましたが、それまでの私の暮らしと比べ、バークッドでは夢のように豊かで穏やかな生活をさせて頂きました。戦争で一人になったと見せ掛けて、着の身着のままの、しかも敵国の人間であった私を、お養父様や旦那様方はそれは優しく受け入れて下さいました。あまつさえ、メイドとして雇ってもいただきました。相手がアル様と解って、どうしてアル様に対して手をあげられましょうや。それに、万が一アル様を倒して逃げおおせたとしても……アル様が生きていれば私が間者だったことは白日のもとに晒されますし、アル様を殺すことが出来ても私に嫌疑がかかるようになっているのでしょう。出来るはずがありません」

 ミュンは一気に喋りだした。目には薄らと涙が浮かんでいる。月明かりに照らされながら足を止め、俯きながら喋るミュンの言葉は震えが隠せず、ところどころつっかえている。……俺が殺されることは想定していなかったので何の手も打ってねぇよ。俺を殺したあとに何食わぬ顔で村に戻れば大丈夫だったと思うぞ。

「そうか、重ねて聞くが、それならば何故、父さま達を裏切るような真似をした? 今までバークッドからの出兵は無かったから、軍事的な情報を流していなかったという言葉は信じてもいい。だが、なぜ今、急にゴムの情報を流した? ゴムの情報を流さずにお前のところで握りつぶすこともできたんじゃないのか?」

「……それは、恐れながら申し上げますが、ゴムの情報の価値が直ぐに無くなると思ったからです。旦那様は先日のゴム製品の意見を募った際に仰られていました。ゴムについては製品化する前の意見を聞くために皆に見せるのだと……。ならば、今この瞬間にはゴムの価値は高いですが、いずれ製品化された場合にはその情報の価値は下がります。であれば今私がその情報をデーバス王国に流したとしても王国に報告が行く頃には、バークッドの住民やドーリットの街周辺の人達は皆ゴムについて知るところとなっているはずです」

 ここまで言うとミュンは顔を上げ俺をしっかりと見つめた。

「サグアルの間者は最低でも10年に一度は何らかの情報を流すことが掟となっています。次の出兵にバークッドから旦那様が参加をする、その時同行するのは何人、といった情報であれば情報の質という点で言う事はないのですが、出兵しないのであれば情報は得られようはずはありません。間者が潜り込んだ先で情に囚われないように、そういった情報が得られない場合には領内の情勢や経済的な状況など、何でも良いので報告することになっています。私がバークッドに潜り込んで8年経ちますが、まだ何の情報も送れていません。ここで情報を送っておけばあと10年は安心出来ると考えました」

 その言葉が聞きたかった。と言ったら嘘になるかもしれない。だが、筋は通っている。ゴムの情報価値についての分析もまぁ的確と言って良いだろう。それに、ゴムの情報がすぐにでも無価値に近くなることまで予見していたにも関わらず、その情報を流したという点から考えると、ミュンが嘘をついてこの場を切り抜ける気は無かったと考えることも出来る。やっぱり、ミュンは必要だ。

 俺が「自分の国を作る」という目的(と言うより、目標とか、夢とか言った方が良いのだろうが)を達成するためには、まず強くならなくてはならない。精神的な強さは勿論必要だが、一番最初に必要なのは腕っ節だ。何をするにも腕っ節があれば尊敬を集められるし、部下、と言うか手下も集めやすいだろう。魔法があるので多少は誤魔化せるにしても、この世には『アンチマジックフィールド』だってあるのだし、魔法一辺倒はまずい。剣の修行も始めてはいるが、始めてから1年、所詮はまだ6歳児の力でしかない。いずれ成長はするのだろうが、何もしなければ所詮は人並みの力しか持たないことになってしまう。それをカバーするには個人のレベルアップが必要だ。

 へガードだってレベル15だから相当に強いが、もしレベルが1とかだったら腕力は人並みかちょっとましくらいじゃなかろうか。レベルアップで能力値の上昇があるからこそ強く、領主としての尊敬も集められるのだ。領地の経営能力や、領民への慈悲深い対処など、尊敬すべき点は多いが、何よりまず、強いことが尊敬される第一歩だろう。いくら領地経営が上手く行き、慈悲深く慕われて領地が裕福になってもゴブリンなどの魔物の直接的な脅威が存在する以上、実力でその脅威を跳ね返さなければお話にならないのだ。

 ミュンの話から魔物を殺すと経験値が増えることは確実だろう。ならばレベルアップの近道は魔物を狩りに行き、経験値を稼ぐことだろう。なんだかゲームみたいだが、オースがそうなっている以上、そこは仕方ないし、地道な修行を繰り返すより手っ取り早く強くなることが出来るのならやらないわけには行かないだろう。勿論、地道な修行を否定する気は更々無いし、修行自体は続けることが前提だ。いくら筋力が上がり、俊敏さや耐久力が上がっても武器の扱いが上手くなるわけではない、と思う。馬鹿力で剣を振り回して何とかなるのは相手があまり強くない時だけだろう。

 だから、俺はレベルアップのために魔物を狩らなくてはいけないのだが、その狩り方もわからなかったし、どこで狩るのが安全なのかも知らなかった。こんなことはへガードやシャルに訊いても、早すぎる、の一言で切って捨てられることは明白だ。だから隠れてやらなくてはならないが、今までその機会が無かったし、知識も無かった。だが、ミュンに力を借りることが出来れば、狩りに行けるかもしれないのだ。何しろ隠れての狩りはいままで何度となくやっていたろうしな。ベテランだ。

 ここは少々嫌な感じだが背に腹は変えられないし、脅してでもミュンに協力して貰う方がいいと思う。だいたいの確認とミュンに抱いていた疑問も完全ではないだろうが俺は咀嚼できたと思うしな。

「なるほどな。ミュンの考えは解った。で、さっき考えろと言った件だけどな。間者であったミュンは死んだ。と言うか、今後そう偽装するか、連絡員つなぎを始末し続けて結局はそうなるようにする。その為に俺に出来ることは協力しようと思ってる。だが、間者として潜入していたことは確かだし、場合によってはダングルにその責が及ぶことは否定できないだろう」

「!!……。そう、ですか……」

「まぁ待て、慌てるなよ。まだ話は終わってない。だが、それは俺がミュンのことを父さまに喋ったら、という事を忘れていないか?」

「!?……。どういう、ことでしょうか?」

「どういうもこういうも無いんだが。言葉通りの意味だ。俺が喋らなければバークッド村にはデーバスの間者はいないと言うことだろ」

 未だ疑問が晴れた様子のないミュンに続けて言う。

「ミュンが潜入してきた間者であることは黙っていてやるよ。さっき言った通り、連絡員つなぎも何とかしよう。だけど、それにはいくつか条件があるぞ」

「どんなことでもやります。何でも致します。どうか黙っていてください」

「ああ、わかってる。条件は三つだ。一つは今後夜に隠れて狩りに行くときは俺を同行させてくれ。一緒にやろう。二つ目はデーバス王国やロンベルト王国について知っていることを教えてくれ。俺が既に知っていると思っていることでもいい、どんなことでも教えてくれ。最後に、もう二度とダングルや父さま達を裏切らないと誓ってくれ」

 唖然とした顔をしたあと、恐る恐るといった感じでミュンが言う。

「あの……。そんな事で良いのでしょうか? 私は罰を受けるべきではないのですか?」

「ああ、それでいい。どうだろう? この条件で納得するなら協力しよう」

「願ってもないことです。私は……。私は死ぬのだと半ば諦めていました。見つかった間者は死ぬしか道は残されていないものだと……。ありがとうございます。お養父様へ責を問うこともせず、本当にありがとうございます!! 私は今後アル様のためでしたら何でも致します!! どんなことでもお申し付けください!!」

 いきなり土下座に近いような姿勢でお礼を言われて戸惑ったが、それはミュンの感謝の表れなのだ、と思うことにして、懸念事項を継いでいく。

「よし……なら、早速だけど、コリサルペレットを流しに行くか。ちょっと戻らないといけないけど」

「? 何故でしょうか?」

「だって連絡員つなぎを何とかすると言ったばかりだろう? 誘き出さないとだめだろう」

「わかりました。ですが連絡員つなぎの腕はかなり立つはずです。魔法があるとは言え、どうかご用心を」

「ああ、わかっているさ。連絡員つなぎから接触があったらすぐに教えてくれよ」

 それから、俺達は再度川の合流地点まで戻るとコリサルペレットを投げ込んだ。
 村に帰る道すがら、狩りについてのおおまかな場所や服装、危険なポイントなどの注意すべき点について話を聞き、連絡員つなぎの始末や今後の対策などを話し合いながら、俺はミュンの知っている知識を吸収していった。

 連絡員つなぎの始末は勿論だが、当面のゴム製品についての販売や生産計画の立案もあるし、狩りの件もある。MP消費や修行についても手を抜くわけには行かない。やることは山積みだな。

 
ミュンは主人公の、何番目かの師匠ポジションだったのでした。
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