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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百四十四話 高価な買い物

7445年8月15日

 また、朝から八層へと転移した。

 今朝最初に呼び寄せた八層のモンスターはジャイアントマンティスだった。ラルファの「フレイムアーバレスト」一発で死んだ。虫は火に弱いな。グィネも「フレイムスロウワー」で焼殺していた。羽根に火がつくと面白いように燃え上がり、すぐに動けなくなって死ぬ。周囲にはタンパク質の焼け焦げる臭いが立ち込めるが、ちっとも食欲が湧かないのは虫だからだろう。

 焼き殺す方が魔石を取る際の解体時にも楽になることも解ったので、これからは火魔法を中心に使うようにした方が良いかも知れないな。そう考えるとトリスは火魔法が使えないから八層との相性は悪いのかも知れない。

 そうして今日もお昼近くまで何度も八層へと転移を繰り返し、出てくるモンスターに変わり映えもしないのでいい加減飽きが来ていたところだった。

 時間的に昼食前の最後の呼び寄せになるだろう、という時に四種類目のモンスターが現れた。

 遠目に見えるその体を【鑑定】の視力で見た時に我が目を疑った。

 ありゃあ、スカベンジクロウラーじゃないか!?
 しかも五匹もいやがる!

 鑑定しても一層のモン部屋で何度かお目にかかった奴だ。但し、こちらのスカベンジクロウラーは長く生きているらしく年齢もレベルも少し高い。平均して十五レベルだ。体長三m、胴回りの直径は八十㎝もありそうな奴が大人が走るくらいの速度でこちらに向かってくる。ズロロロロッ!! と、砂袋でも引き摺るような音を立てて。

 今回の通路は約三百m先で右折していたのだが、姿が現れてから鑑定ウィンドウに眼をやる間に五十mも距離を詰められてしまった。

「なんか嫌な音……」
「この音……スカベンジクロウラー?」
「やっぱり他にも居たようで……この臭いはスカベンジクロウラーです!」
「くそっ、遠過ぎてよく見えない……」
「……静かに……一匹じゃない! 沢山居るぞ! アル、頼む!」

 いつかのように電撃がいいだろう。相手も複数のようだし「チェインライトニング」の魔術を使ってやった。残ったのは後ろの方の二匹だけ。しかし、電撃を受けて大分弱っているらしい。そのまま【鑑定】してみたら残りのHPは七十を切っていた。

「ふん、相当弱ってるようだな。バストラル、やっちまえ」

 ヨロヨロと近づいてきたところを俺に命じられて待ち構えていたバストラルの槍に貫かれ、二匹とも絶命した。レベルが高いし、特殊技能もあるので相変わらず経験値は高かったが魔石の価値は心持ち高くなったかな? という程度の一つ七千弱だった。しかし、スカベンジクロウラー五匹かよ……魔力に余裕の無いパーティーなら軽く全滅コースだぞ。七層のオーガもそうだが、八層ともなると気を抜ける隙なんか無いと思った方が良いな。

 あんまりにも臭いので腑分けはエンゲラにやらせたが、彼女もスカベンジクロウラーが放つ臭気には辟易としていたようで涙目だった。真っ青な顔色で俺に五つの魔石を差し出してくる彼女に「お疲れさん」と労ってやり、ゴム引き布で作った袋の口を広げて切り落とした触手も全部回収した。

 七層に戻り、すぐにシャワーを浴びる権利を与えてやると少し嬉しそうだった。



・・・・・・・・・



7445年8月16日

 夕方地上に戻った。今回から七層のオーガメイジの部屋は一日一回は殲滅していたので稼ぎはでかい。オーガの魔石は合計で七十一個。それに加え、八層でもそこそこの価値の魔石を多く得ていたので、六層までの稼ぎを含めると合計で六千五百万Zを大きく超えていた。ついでに五匹分のスカベンジクロウラーの触手も薬屋へ卸した。こっちは全部で十万Zにも満たない。

 しかし、ホクホクだね、こりゃあ。

 殺戮者スローターズのメンバーにボーナスを支払い、トリスとベルから虐殺者ブッチャーズもうすぐ(スーナー)についての報告を受ける。

「すみません……その……」
「あの……申し訳ありません……」

 そりゃ前回があの様子だ。赤字は当分続くだろうさ。恐らく、四層か五層に行くようになるまでは良くてトントンじゃねぇの? でもさ、もうすぐ(スーナー)の方のロリックと彼の所有する戦闘奴隷のカリム、今回レベルアップして九になってたな。

 お前さん達だってああいう時期もあったし、俺に言わせりゃ今だってある意味でその延長なんだ。……それは俺も含めてだけどな。

『赤字のことは気にするな。彼らを率いることによって学んだり得られる経験が重要なんだからな。変な表現になるが、彼らはリーダーとして送り込むお前等全員の先生だとも言える。それなりの授業料が掛かるのは当然だろう?』

 そう、身を以て教えてくれる可能性がある先生だ。痛い思い、怖い思いもするだろう。大怪我をするかも知れない、場合によっては命を落とすかも知れない。迷宮に入る奴は多かれ少なかれ全員その覚悟は出来ている。極端なことを言えば、強敵なんかが出て被害を受けた場合なんか……。

 皆が将来に繋がる経験を積めるんだからあの程度の端金、ちっとも惜しくない。

 勿論、誰にも死んで欲しくはないけどさ。虐殺者ブッチャーズにしろ、もうすぐ(スーナー)にしろ、全員俺と縁が出来た奴らだ。彼らにも出世するチャンスは可能な限りやりたいし、出世する奴も多く出て来て欲しい。当然、今の殺戮者スローターズのメンバーを優先して経験を積ませたいが、なぁに、追い抜いたって構わないんだ。

「さぁ、皆と飯でも食ってこいよ。だけど今晩は深酒だけは止してくれ。夜、皆が戻ったら八層を含めて当面の話をしておきたいからな」

 そう言うと俺達は出向組を除く七人で食事に向かった。

 二十時過ぎにボイル亭の俺の部屋に集まった殺戮者スローターズに八層の報告をした。モンスターの情報が碌に無いため、当面は安全策を取り八層の通路をうろつくモンスターを相手にその種類や特性の把握に努めると宣言した。これは最低でも虐殺者ブッチャーズには今の殺戮者スローターズから人を出さなくても大丈夫になるまで続ける。

 また、今月の終わりには戦闘奴隷も何人か買えるだろうし、そうなると虐殺者ブッチャーズもうすぐ(スーナー)に二人づつ出向させている人を減らせるだろう。焦っても仕方無い、今は先を急ぐよりもしっかりと経験を積み、戦闘力の強化やどんな相手と対峙しても乱れない強靭な心を養う時だと思っていると伝えた。何しろロンベルト一世でもこの八層で迷宮行を諦めたのだ。とは言うものの、その理由はどうしても倒せないような強敵に阻まれた訳じゃなくて大きな財宝を得たからなんだろうけど。



・・・・・・・・・



7445年8月17日

 この三連休から三連休の一日目の朝晩の食事はもうすぐ(スーナー)、二日目の朝晩の食事は虐殺者ブッチャーズと共に摂ることにした。三日目は殺戮者スローターズだ。俺も出向に行くこともあるからね。俺もきちんと接触を保っておくべきだろう。

 一日目の今日はもうすぐ(スーナー)の皆と一緒だ。今回はベルをリーダーに、補佐をズールーにしていたが、もうすぐ(スーナー)の皆は彼女たちの指揮ぶりをどう感じていただろう。昨日の戻りが遅かったので薬屋へスカベンジクロウラーの触手の卸が出来なかったのでランニングのあと、触手を卸してから飯屋に向かうことをベルに告げ、薬屋へ寄り道をした。

 店に着くとベルがズールーを隣に座らせ、周囲の皆に何か言っている。俺は飯屋には少し遅れて行ったため、そっと端っこに座りながら考えた。補佐をしていたズールーに聞くのもいいし、それも当然しなくてはならない。しかし、他の皆はどう思っているのだろうか? 隣に座っているロリックにでも聞いてみるか。いや、それは止めておくべきだ。俺も本人と補佐役からの報告、それと結果のみで判断すべきだろう。俺の訓練でもある。

「やあおはよう、この店は初めてなんだけど、朝は何が美味いんだ?」

 隣に座っているロリックに小声で尋ねた。

「ああ、グリ……アルさん! お早うございます。一層とは言え、今回部屋の主を十八匹ですよ! 我々もやれば出来るものなんですねぇ」

 いや、結果なんか知ってるよ。それより何が美味いんだ? お前が食ってるベーコンエッグか? 半熟みたいだしそれも美味そうだな。

「そうだな。で、それ美味「ああ、アルさん! 皆さん、良いですか? 我々殺戮者(スローターズ)が迷宮行の度に大きく稼げるのは、もうご存知でしょうが理由があります。我々も以前、今の皆さんのようにアルさんに鍛えて貰えたからです」

 ぼそぼそと端っこで話をする俺の声は距離の遠いベルには聞こえなかったようだ。

「前回、トリスも言っていたと思いますが、殺戮者スローターズの迷宮攻略法は他のパーティーとは根本から異なります。殺戮者スローターズの名前が表す通り、我々の前に立ち塞がるものは全て蹴散らします。
 結果として戦闘に慣れ、わざわざ遠回りをすることもなく最短距離を移動出来る事になります。三層突破に半日が最初の目安だと思って下さいね。そのためには一層は三時間程度です。途中で出会う敵を全て倒し、いつ、どんな時でも一層を三時間で突破できる。こうなるまで二層に行くことはありません」

 こんな話は皆何回も耳にしているだろうに……いや、結構熱心に聞いているな。ズールーまで頷いてやがる。役者やのう。……ロリックと同じベーコンエッグでいいか。店員を呼びベーコンエッグとパン、それとスープを頼んだ。どの店も朝飯のメニューはあんまり代わり映えしないな。この店には白パンは置いてないみたいだ。

 ベルは食事をしながら如何に戦闘から逃げないことが大切かを説いている。実力の劣るもうすぐ(スーナー)相手であれば意識下に強く焼き付けることは特に大切だろうから仕方無いな。ズールーもベルに促された時には時折口を挟み、自分の意見を述べていた。しかし、その端々に「ご主人様に感謝しなければいけません」と恩着せがましく言うのには嫌になる。まぁ、これは奴隷であれば当たり前だから、多分誰も気にしちゃいないとは思う。

 ……しかし、固いな、ベルは。普段見せる彼女とはまた違う感じがする。言っていることは理解しやすく、平易な言葉も選んでいるようだが、纏う雰囲気が固い。反論を許さないとかそう言う訳でもないんだが……喋り方や表情が硬質なんだろうな。

 若いなぁ。いいなぁ。俺にもこんな時があったな……新米小隊長として配属され、初めて部下を持った時だ。部下の半分くらいは任期制自衛官の年下だったが、中には年上もいたし、曹長なんかは親父くらいの年齢の人もいたんだ。多分、ベルは今必死なんだろうな。規模から言ったら分隊だが、それでもほぼ全員が年上だしね。

 ……俺が口を出す必要は無い。明後日までは彼女にもうすぐ(スーナー)の全てを任せているのだ。俺はもうすぐ(スーナー)の皆と仲良くなればいい。



・・・・・・・・・



7445年8月27日

 殺戮者スローターズの皆とのランニングを終え、ゼノムをリーダー、補佐にベルを配置した虐殺者ブッチャーズと共に朝食を摂ったあと、俺はミヅチとラルファ、グィネを伴って「奴隷の店 ロンスライル」へと足を運んだ。予定では昨日の夜か今日には戦時捕虜からの戦闘奴隷が入荷して来るはずなんだ。少し気が早いかな、と思わんでもないが、まだ入荷前だとしてもちゃんと買う意志を持って楽しみにしていることをアピールしておくことは無駄ではなかろう。

 しかし、やはり早すぎたようだ。マダムは競りから帰っておらず、応対してくれた番頭の言によると今日の昼過ぎに到着するらしい。ついでに、どの程度の躾がされているかの確認もあるし、もしも躾が不十分であれば再度徹底しなければならないので、今日とか明日に引き渡しが出来るとは限らない、と釘を差されてしまった。ああ、そりゃそうだよね。

「いやあ、戦力の拡充になるかと思うと居ても立ってもいられなくて……」

 と頭を掻きながら退出した。

「大丈夫ですよ、グリード様へは最優先ですからね。他へは見せませんので、午後にゆっくりとご検分ください」

 番頭はそう言って丁寧に頭を下げ、店の戸口まで出て俺を見送ってくれた。

 ボイル亭には戻らず、四人で迷宮に入ると魔術の修行をして午後まで時間を潰した。入場税を稼ごうと一度だけモンスターを呼び寄せたらホブゴブリン五匹だったので美味しく狩らせて貰った。

 四人で少しゆっくりと昼食を摂った後、再び「奴隷の店 ロンスライル」へ向かった。途中でキャシーとギベルティを伴ったバストラルが鍋や釜を扱う金物屋で何やら話しているのを見かけたが、熱心に話し込んで忙しそうだったので声は掛けなかった。

「いらっしゃいませ、グリード様」

 マダム・ロンスライルは丁度馬車から降りてくるところだった。

「ロンスライルさん、首尾はどうです? いいの居ましたか?」

 騎士出身の実力者はいたのだろうか?

「今回は戦闘奴隷を六人、一般奴隷を三人仕入れましたの。ですが、全員の躾の確認も終わっていませんし、申し訳ありませんが夕方くらいまでお待ちいただけます?」

 そうは言われたが、取り敢えず見るだけ見せて貰うことになった。馬車の荷台には一般奴隷を載せていたらしいので、馬車の後ろに繋がれた戦闘奴隷を見せて貰うことにした。人数が少ないのは騎士出身者を競り落とすのにかなりの金を必要としたかららしい。すまぬ。しかし、その分儲けさせてやるさ。多分。

 既に王都で奴隷階級への命名は済ませているとの事だった。戦時捕虜の段階ではまだ身代金が払われる可能性があるため奴隷階級への命名の儀式はされない。王都まで引っ張られ、王国最大の奴隷商であるベーニッシュ商会に卸され競りによって落札されるまでは命名の儀式はされないのだそうだ。競りの後、初めて命名の儀式がなされる。その理由は高位の身分を持っていたり、騎士など特殊な身分を得ていることもあるので、競りの最中にステータスを奴隷商に見せて証拠とするためらしい。

 マダムにお薦めだと言われた奴から見てみることにした。

 元騎士だという、身代金を払って貰えなかった奴隷は今回の競りで五人も居たらしいが、競り落としたのは二人らしい。俺が若い奴の方が良いと言ったので二十代後半以上の戦闘奴隷には見向きもしなかったからだそうだ。バルドゥックの冒険者の間では大抵の場合、脂の乗りきった三十代前半くらいの年齢が戦闘奴隷の旬と言われ、好まれる。対して軍隊の方は若い奴が好まれるらしい。

 メイスン・ガルハシュ 男性 二十二歳 獅人族ライオス レベル七 元騎士(経験五年) 士爵家出身 地魔法レベル二 水魔法レベル二 無魔法レベル二  

 うむ。第一候補に相応しいな。高かったと言って胸を張っていただけはある。

 ヘンリー・オコンネル 男性 二十四歳 普人族ヒューム レベル八 元騎士(経験五年) 平民出身

 こいつも素晴らしい。流石はマダム・ロンスライル。この二人は確定で購入しても損は無いだろう。あとは騎士ではなく、兵隊出身か。

 ルバーノ・ファイエルノート 男性 二十一歳 山人族ドワーフ レベル六 平民出身

 エメレンツィア・オスバルト 女性 二十歳 虎人族タイガーマン レベル五 自由民出身

 オッティーリエ・マソロタルン 女性 十八歳 精人族エルフ レベル五 自由民出身

 ジェスタス・マンゾッキ 男性 十六歳 狼人族ウルフワー レベル五 平民出身 

 うむ、女二人はいらん。男四人を買おう。
 ガルハシュは三千万Z。ある程度予想はしてたが、高っけ!
 オコンネルは二千万Z。こいつも騎士出身だけあって流石の高価格だ。
 ファイエルノートは七百五十万Z。普通だ。
 マンゾッキは七百二十万Z。少し平均より安いかな。
 〆て六千四百七十万Zか。個人的にこんな高い買い物するのなんて、前世、マンションを買って以来だ……あ、ローンだったし、払い終わって無かった。
 躾を確認し、その状態によっては明日すぐに引き渡せるがそうでない場合、最大で一月くらいかかるそうだ。それもやむ無しだな。金は神社から下し次第、手付として一人に百万Zづつすぐに支払うことを申し伝えた。あとは実力を見ないとな。

 今は繋がれて王都からここまで引き摺られて来たばかりなので実力を見るのは夕方、食事前に再度手付金を用意して来ることを伝え、店を後にした。

 再度夕方に出向き、実力を確認した。うん。これなら問題ないだろう。元騎士の二人は上手に盾も操るようだし、兵隊出身の二人も盾に加えて弓も多少ではあるが使えるようだ。

 なお、躾はマダム・ロンスライルが満足行くレベルではなかったようで、すぐには引き渡せないと言われてしまった。あらら……。
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