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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百四十三話 八層を覗く

7445年8月13日

 夕方になって七層の転移水晶の部屋(「転移の水晶棒」と呼んでいたが、冒険者の間では転移水晶と呼ばれていることに遅まきながら気が付いた)に着いた。運んで来た荷を下ろし、やっと一息吐く。

 今回、七層では砂漠の部屋を抜けたのだが、クラグザードという、薄茶色の、体の割には鱗の大きなトカゲのようなモンスターが集団で出てきた。勿論、初めて見るな、と思った瞬間に有無を言わさず氷漬けにして窒息させて殺した。魔石の価値は一個三万くらいであり、オーガよりはだいぶ落ちるものの十四匹もいたので三百万Z弱にはなるだろう。良い稼ぎだった。死体を鑑定したら予想通りMPは殆ど無かったし、魔法の特殊技能も持っていなかったので氷は正解だった。

 小さな食器棚を始めとした細々とした生活雑貨、予備の毛布や石鹸類、洗濯用の桶などを所定の位置に収め、晩飯の支度を始めるギベルティを眺めながらエンゲラに足湯の中に浸けた足を揉ませていた。なお、石鹸だが動植物の油類を加工してちゃんと作った石鹸もあるが、あんまり品質は良くない。最近はセッケンノキという木の実を幾つか網に入れて使っている。先祖帰りのような気もするがこちらのほうが石鹸としてはまだ優れているので最近は専らこちらを使っていた。髪を洗うのも、顔や体を洗うのも、食器や洗濯物を洗うのも全部これで賄っている。

 ゼノムがシャワーから出てきたようだ。俺はエンゲラにねぎらいの言葉を掛けるとシャワーの桶にお湯を継ぎ足してシャワーを浴びた。頭のてっぺんや手の平から直接シャワーを出してもいいが、シャワーを浴びるのに精神集中なんかしたくないから設備さえあればこっちのがいいのだ。

 続いてラルファ、グィネとシャワーを浴び終わった頃に食事が出来上がる。全員で大盛りの葉野菜のサラダを食べ、豚の焼肉で晩飯を済ませるとバストラルや奴隷たちも順にシャワーを浴び、明日について話し合う。いつもと変わることのない注意点を確認すると最後に、

「明日は朝、一度八層を見てみるだけだからな。本格的な探索はまだ先だ。あんまり期待すんなよ」

 特にラルファに向けて言う。素直に頷くのを確認し、早々に就寝した。



・・・・・・・・・



7445年8月14日

 朝五時前にギベルティの朝食の用意の音で目覚めた。毛布から抜け出すとバストラルとエンゲラも既に目を覚ましてベンチに腰掛けて……ってこいつら最後の見張りだったか。ギベルティを起こしてやったのも彼らのどちらかなのだろう。

「シャワー浴びるか?」

「あ、お願いできますか?」

 三時くらいから見張りをしていた筈だから、そろそろ目をシャッキリとさせる意味でも熱いシャワーを浴びたいだろう。すぐに毛布から出た俺はケツをボリボリ掻きながらシャワー室まであくびを噛み殺しながら歩くと、シャワー室裏の土で作った階段を登り、シャワー桶を少し熱めのお湯で満たした。バストラルはとっととシャワー室に入り、服を脱いでいるらしい。

 洗面用の桶に冷水を出すとそれで顔を洗った。顔を洗う音や、シャワーの水音でゼノム、ラルファ、グィネも起き出してきた。ぞろぞろと防具を身につけ始めている。俺も靴下と戦闘靴を履くと最近では小さくなりつつあるゴムプロテクターを鎧下の上に着けて各パーツをバンドで固定し始める。流石にそろそろ限界かねぇ。かなり大き目に作ったがもうそろそろ厳しくなってきた。作り直しの時期だろう。

 背丈だけならミヅチやエンゲラにピッタリだが女性なのでどうしたって体型に問題がある。ああ、胴体部だけ使わずに済ますことは出来ない。手足のパーツも何らかの形で胴体部に繋がりがあるからね。トリスは俺とあまり背丈は変わらないが俺よりも足が長いし、バストラルは種族から言ってかなり痩せ型なので全然合わない。ギベルティなら着れるかも……戦闘させる訳じゃないしあんまり意味ねぇか。欲しがるならやってもいいけど。

 その後、ギベルティの用意してくれた朝食を摂り、装備の確認を行い、転移水晶を握る。

「あくまで八層の様子を見るだけだ。すぐ近くに魔物が居た場合、俺が時間を稼ぐから全員で戻れ。戦おうとはするなよ。下手に動かれると魔術の邪魔になるからな。じゃあ、行くぞ……ミコフリエ!」



・・・・・・・・・・



 転移した先は直径二十m程の出入口のない楕球の長半球のような部屋だった。背の低いワイングラスを伏せたような空間だ。床や壁面、天井に至るまで一層を彷彿とさせるような洞窟の中の一室という感じだ。部屋のど真ん中に水晶棒を握ったまま転移した俺たち六人は即座に得物を構えて散開するが、魔物は疎か地面を這いまわる虫一匹見つけられなかった。

 とりあえず、モンスターのど真ん中に転移するという一番最悪なことは無かったようで、皆、初めて見る八層の様子に辺りをきょろきょろと窺うばかりだ。空気は淀んでおり、少しばかり息苦しくもある。風魔法で空気を作ろうかとも思ったが、気圧が高まりそうなので止めておいた。

「何だか幸先が悪いな……」

 ゼノムがボソリと言う。全くだ。

「戻るか……」

 暫く辺りの様子を窺ったあとにそう呟くと台座の矢印だけ確認し、その先の目立つ石に「ONE」と筆で書いて、七層へと戻った。

 次に転移した先は真っ暗闇だった。瞬間的に【鑑定】の固有技能を使うと同時に目についた石に「ライト」の魔術を使った。また壁に囲まれている! と思ったら単に通路の終端近く、袋小路のような場所にいるだけのようだ。モンスターらしいモンスターも明かりに照らされた範囲には見当たらない。通路の伸びているらしき方向にも【鑑定】の視力には怪しい影は映らなかった。【鑑定】の視力でも見えないほど真っ直ぐに通路は伸びているようだ。「生命感知ディテクト・ライフ」の魔術の射程なんかとっくに超えている。

 床や壁、天井は一層のように洞穴状になっているようだが、空気は適度に乾燥しており、風こそ感じないものの息苦しさなど不快な感じは全くしない。通路の広さは幅二十m程、天井の最高部の高さもそれくらいだろうか? 断面は背の高いかまぼこのような感じだろう。

 モンスターらしき姿は見えなかったものの、小さなヤスデやムカデ、訳のわからんアリのような虫は所々に見つかった。この程度の虫であれば今までにも居たが、心持ち量は多いかな? といった程度で然程気にするようなものでもないだろう。

「暗いな」

「いきなり暗黒地帯に出ちゃったかぁ……と、北はあっちね」

 ラルファが通路が伸びている方を指さして方向を示した。

 二層から六層までの各階層のごく一部分には床や壁が発光しない闇のエリアがあった。と言っても通路の長さにしてせいぜい百mくらいだったので大したことはない。用心しながら進んでも「ライト」数回分の時間で通り抜けられる。ここもそんなエリアの一つなんだろう。俺たちはこういうエリアを“暗黒地帯”と呼んでいた。

 勿論光が無いに等しいがバストラルやズールーの持つ特殊技能の【夜目ナイトビジョン】なら薄ぼんやりとは見えることもあるらしい。それから類推すると暗黒地帯の周囲から微弱な明かりくらいは届いているようなので、真の闇という訳でもないらしい。勿論、かなり距離を置けば【夜目ナイトビジョン】と言えども目には何も映らなくなる。

「どうします? 【地形記憶マッピング】は最初から開始してますのでまだまだ有効ですが」

「いきなり暗黒地帯ってのもな。もう一回入り直そうか」

 水晶棒の台座の矢印を確認し、指し示す方向の壁に「√四」と書く。

 転移して来た水晶棒を見て表面に再び呪文が明滅し始めたことを確認して握り直した。全員が握ったのを確認し、呪文を唱え再び七層へと戻る。僅か数分で再び戻ってきた俺たちを見てもギベルティは朝食の片付けの手を休めることもない。別に珍しくはない光景だし。

 三度目の正直、とばかりに転移した先は通路の真ん中のようだ。床や壁、天井もきちんと発光している。今度こそ普通のエリアのようで、少し安心した。勿論、モンスターに囲まれているなんて事もなかった。

「ふうん、普通だね……あ、北はあっちね」

 ラルファが指差す方向を確認したグィネは前後に伸びる通路の様子を窺っている。微妙な岩の出っ張りなんかを記憶するらしい。俺も台座の矢印を確認し、少し離れた所に転がっていた表面の一部が平らっぽい大きな石を矢印の先まで引き摺ってくると、「参」とだけ書いて通路の前後を眺めてみる。

 む、微妙にだが空気に流れがあるようだ。この様子だとかなり長く続く通路のようだなぁ。さっきの暗黒地帯は袋小路だから空気の流れを感じられなかったのだろうが、今回の通路はどこかで魔物の部屋くらいには繋がっていそうなくらいの大きな体積を感じさせる。

「微妙に空気に流れもあるようだな。魔物がうろついている証拠だ。マルソー、何か匂いを感じるか?」

 ゼノムがエンゲラに尋ねているが、尋ねられる前からエンゲラは目を閉じて鼻をひくつかせている。

「あちらの方から何か変わった匂いを感じます。多分魔物の糞か何かでしょうけれど」

 通路の一方、空気が流れてくる方向を指差してエンゲラは答えた。そりゃあ、何らかの臭気を感じるとしたらそっちの方しかあり得ないわな。

 新しい階層で緊張しているらしいバストラルの、ゴクリと唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

「せっかくだからモンスターの顔くらい拝んでおこう。じゃあ、そっちに行ってみようか。用心深くな。どんな罠があるか解かんねぇから慎重にな。二列縦隊ダブルトレイルで先頭はエンゲラとラルファな……あ、いや、やっぱこの辺りだけ罠の確認だ。罠が無いことを確認出来たらおびき寄せよう」

 急いでもしょうがないので「罠発見ファインド・トラップ」と「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」は使わない。ラルファとエンゲラが予め用意しておいた木の竿で床を叩きながら、そこら中を叩いて回った。グィネとバストラルも槍でつついて歩き回る。たまにはこういう事もやらせないと腕が鈍るかも知れないしね。

「壁も身長くらいまでは突っついておこう。また妙な罠があっても嫌だしな」

 程なくして転移水晶の前方五十mくらいを完全に精査し、罠がないことを確認した。

「よし、俺達の前方十mくらい、後ろの転移水晶までの四十mくらいは飛ぼうが跳ねようが転がろうが安全だ。ゼノムを中心、俺を頂点とした逆三角形リバース・トライアングルで迎え撃つ。行くぞ」

 前列左側にラルファ、中心をゼノム、右側をエンゲラと、それぞれ五m位の間隔で並ばせる。二列目には前列のメンバーの間くらいにグィネとバストラル、三列目に俺という陣形を組むとおもむろに「オーディブル・グラマー」の魔術を前方五十mくらいの【鑑定】の視力で見えた適当な石を目標に連続して数回使った。

 タイヤの破裂するような大きな音が八層の空間に響く。

 通路の奥を【鑑定】の視力で見つめていたら、遠くの方で米粒みたいな何かが幾つも跳ねながらこちらに近づいて来ているのが見えた。

【 】
【男性/1/12/7444・ジャイアントケイブクリケット】
【状態:良好】
【年齢:0歳】
【レベル:6】
【HP:65 MP:1(1)】
【筋力:10】
【俊敏:35】
【器用:5】
【耐久:5】

 こんなのが十数匹、こちらを目指して通路の中を跳ね飛びながら近づいて来る。

 特殊能力を持っている訳でもなさそうだし、ジャイアントとか言ってるけど所詮は便所コオロギ。大した相手ではなかろう。落ち着いてやれば中列に居るグィネも魔法を使えるんだし彼ら五人でも対処は可能だろう。

 ま、一発「ファイアーボール」でも撃ち込んでやれば半数とは行かずとも数匹は倒せるだろうし、それで明かりも増えるし……。

「何か近づいて来てるな……」

「うん、兎? 地面を跳ねてる感じだね」

「バッタみたいですね」

 バストラルには見えるようだ。

 二百mくらいまで接近してきた所にミサイルを付加した「ファイアーボール」を五倍くらいで撃ち込んでやった。直撃を食らった奴とその周囲に居た数匹が即死したようだ。

 あとは……八匹か。

「適宜援護する。ぶっ殺せ!」



・・・・・・・・・



 巨大便所コオロギは体長が八十㎝近くもあった。しかし、HPは大したこともないので殆ど全ての個体が手斧トマホーク段平ブロード・ソードスピアの攻撃が当たりさえすれば一撃で死んでいた。

 魔石は一つあたり一万くらいの価値だったのでなかなか良い稼ぎになるし、経験値だって四百近いからかなり実入りの良い相手だった。「ファイアーボール」で仕留めた奴の魔石も勿体ないので、他に近づいてくるモンスターが居ないか二十分ほど待って確認したあと、道中に魔術を使って罠を探知して安全を確認して全部回収した。

「さて、アル。どうする? 少し進んでみるか?」

 ゼノムが俺に問いかけるが進む気は最初から無い。今日は探索ではなく、八層の様子を知りたいだけなのだ。通路のモンスターは便所コオロギだけとは限るまい。

「いや、今日は進まない。八層の様子を確認出来りゃ充分だしな」

 首を左右に振ってコキコキ鳴らしながら答えた。

「またモンスターをおびき寄せるの?」

「それもしない。これだけ待って何にも来なかったんだ。この傍には何にも居ないか、居たとしてもスライムみたいにむっちゃくちゃ足の遅い奴だろう。一度戻ってまた別の所に行こう」

 そう言うと皆を促して七層へと転移した。



・・・・・・・・・



 午前中一杯かけて合計七箇所に転移して、十回の戦闘を行った。そのうち五回は便所コオロギで、三回はジャイアントマンティスという、これまたでかいカマキリだった。二回はジャイアントミリピードという、全長三mにも達するほどのヤスデだった。虫ばっかりだな。得られた魔石の価値はどれもあんまり変わりは無かった。

 正直な話、虫ばっかりなのでラルファやグィネ、エンゲラの女性陣は嫌な顔の一つや、悲鳴くらい上げるかと思っていたが、そんな可愛げのある奴は一人も居なかった。ただ、解体して魔石を取るときにバストラルが嫌そうな顔をしていたくらいだ。

 俺も便所コオロギのデカイ奴を見た時には気持ち悪いなぁ、と思った程度だったが、あまりにでかすぎると虫でもあんまり気持ち悪く無くなるのな。カマキリの鎌とヤスデの毒には充分な注意が必要だが、さして強敵とは言えないことが確認出来れば今回の目的は果たしたと言えるだろう。午後からは再び七層でオーガの相手を繰り返した。

 改めて思うがオーガを相手にする方が余程緊張する。危険も多いし、呼び寄せるなんて流石に怖いからこちらから通路を探索しなきゃいけないのが難点だが、魔石の価値は段違いだし、一匹当たりの経験値もオーガの方が高い。

 やっぱり今年一杯は七層で経験を積み、レベルアップに努めさせるべきだろうか?
 今年一杯くらいやればもうすぐ(スーナー)はともかく、虐殺者ブッチャーズの方は戦闘奴隷を購入すればジンジャーかヒスを移籍させた上でカームがリーダーを勤められるくらいになるかも知れないし……。いや、それは……。

 この日の晩、こんな事を思いながら皆で飯を食っていた時だ。

「あれなら八層の部屋の主とか余裕じゃないの? ロンベルトの初代国王も八層で見つけたお宝で建国したって言うくらいだし、明日はさ、部屋まで行ってみない?」

 髪を金色に染めた考え足らずがそう言い出した。お前なら絶対に言うと思ってたよ。

「様子を見るのも悪くはないかも知れませんね。八層の地図情報も欲しいですし」

 最近髭いじりが趣味となりつつある小柄な女も同調した。確かに今日得られた八層の地図情報なんて有って無きが如しだからな。お前も言うんじゃないかと思ってた。

「そうは言いますが……流石に部屋の主は強さが段違いではないですか? 今日だって三種類の虫を相手にしましたが、まだ他に居るかも知れません。部屋に行くのはもう少し人数が多い時の方が良くはないですか?」

 流石はエンゲラ、しっかりと俺の薫陶が行き届いた良い奴隷だ。まして八層以降は初代国王とその仲間しか足を踏み入れたことは無いんだ。七層までは第一騎士団の調査隊が来たこともあるらしいからな。八層からはいくら慎重になっても足りないということはないだろう。

「エンゲラの言う通りだ。だいたい、ゼノムとバストラルを見ろ。今回の目的をきちんと理解している。その証拠にお前らみたいに無茶をしようだなんて言い出してないだろ? ダメだ。今回は調査だけ。明日も午前中は八層でモンスターを誘き寄せて戦うぞ」

 そもそも七層までは断片的ではあるが各階層の主なモンスターの情報もあったんだ。それをよく考えろ。

 たかが数種類のモンスターを見たくらいで八層でやっていけるだろうとか、よくそんな口が叩けるものだ。まだ全く解らないが、せめてミヅチが居る時じゃないと怖くて奥になんか行けないよ。

 それに、八層の問題はモンスターだけじゃないだろう?

 
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